ワーク・ライフ・バランス - KPC 関西生産性本部

2012/11/5
労働組合研究会
公益財団法人関西生産性本部
味の素グループ「ワーク・ライフ・バランス」向上の取組み
味の素労働組合
委員長 坂
⒈
陽 一
「味の素」の会社・労働組合の概要
⑴ 「味の素」
味の素株式会社は、1908(明治41)年、東京帝国大学池田菊苗博士が昆布のうま
味がグルタミン酸ナトリウムであることを発見されたのを受けて、翌1909年、味の素
グループ創業者の2代目鈴木三郎助が世界初のうま味調味料として「味の素」を生産、販
売したのが始まりである。
現在も「味の素」を中核にして食品、アミノ酸、医薬・健康、提携事業などの領域で、
売上高(連結、2012年3月期)1兆1973億円、子会社・関係会社134社、うち
海外法人23か国67社、従業員(連結)約2万8000人(国内約1万1000人、海
外約1万7000人)、単体としては4127人の企業規模で活動している。
海外活動では、当初、東南アジアでスタートし、現在は北南米、欧州、アフリカの全世
界でグローバル展開し、売上高構成は国内69%、アジア14%、米州9%、欧州8%と
なっている。海外出向者も240人(従業員の約6%)うち組合員は70人に及んでいる。
後述のワーク・ライフ・バランスとも関係するが、グループ理念は「私たちは地球的な
視野に立ち、『食』と『健康』そして『いのち』のために働き、明日のよりよい生活に貢
献します」を、グループWayでは「新しい価値の創造、開拓者精神、社会への貢献、人
を大切にする」を掲げている。これらの理念、グループWayを踏まえて労使でワーク・
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ライフ・バランスに取り組むことをポリシーにしている。
国内では少子高齢化が進み、ビジネス的には「食」への需要は今後あまり期待できない
国内市場の「深掘り」と、「サイズを大きくしていく」海外市場の両面で取り組んでおり、
目指すグループ像としては「地球規模で成長し続ける『確かなグローバルカンパニー』」
を描いている。
『確かなグローバルカンパニー』の考えは、①人と地球の「未来の進歩」に貢献する、
②当社だけの「世界一である『コアなし技術領域』」を有する、③「世界レベルの『多様
な人材力』の集団である、④グローバル企業レベルの事業と「利益の規模」を持つ、⑤利
益を生み出す「効率性」が世界水準である、を内容としている。
⑵ 味の素労組
味の素労働組合は、1974(昭和49)年に設立した。設立時期が遅いことを意外に
思われるかもしれないが、それまでは職場ごとに、「○○支部」としてではなく、「○○
工場労働組合」として個別に組織していたのを、同年に統合したからである。2012年
10月現在、組合員2622名で、組織としては本部(東京都中央区)および支部は本社、
営業(品川)、研究(川崎)、川崎、東海(四日市)、九州(佐賀)の6支部、専従者1
3名である。役員体制は、中央執行委員長、副委員長2名(うち1名はグループ労協へ派
遣)、事務局長、中執兼任支部長6名、支部事務局長・副支部長各6名、支部執行委員4
2名、計67名の体制で活動している。
組合費は本給×1.9%+1050円(15か月分徴収)のほか、共済費400円、罷
業基金400円、社会貢献基金100円がある。上部団体は日本食品関連産業労働組合総
連合会(フード連合)に加盟している。
組合員も40人以上が海外に出向しているため、国内の組合員と同様にサポートする必
要があるので数年に1回、出向者の労働環境把握のために現地調査を行っている。出向地
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域も広範囲に及び、中には環境の厳しい地域もあることから、当該国の労働条件・環境に
見合ったハードシップ手当の設定交渉も行っている。最近、海外での労働問題が増え、組
合としてフォローしていく体制づくりが課題になっている。
⒉
ワーク・ライフ・バランスの考え方
会社サイドも「ワーク・ライフ・バランス-会社とあなたの成長ストーリー」と記した
シールを用意し、業務上配布する各種の資料にシールを張り付けてワーク・ライフ・バラ
ンスの浸透を図っている。われわれが考えているワーク・ライフ・バランスは、他社が考
えておられるワーク・ライフ・バランスとはやや異なるところがある。一般的には、「働
き過ぎであるので、仕事をセーブして、プライベートを充実させてもっと趣味などに充て
よう。また、社会との関わりを持とう」との視点からワーク・ライフ・バランスを考えて
いるところが多いのではないだろうか。長時間労働は悪である、あるいはワーク・ライフ・
バランスは子育てや看護をしている人に対する制度ではないかといった見地から取り組む
労使も少なくない。この視点は間違いではないが、この考えから入っていくと狭いワーク・
ライフ・バランスになると思われる。そこで世間一般的に捉えられているワーク・ライフ・
バランスと、われわれが考えているものを比較してまとめると次のようになる。
世
間
味の素グループ
ライフとワークの関係
二者択一
相乗効果
ライフの捉え方
(私)生活
人生
対象者
子育てや看護をしている従業員
すべての従業員
会社内での位置づけ
福利厚生施策の一環
重要な経営戦略
「ライフ」と「ワーク」の関係は、世間では「二者択一」と捉え、現状は「ワーク」が
占める割合が多いから、「ライフ」の割合を増やして「ワーク」をできるだけ減らそうと
する。しかし、われわれはそのような捉え方をするのではなく、「ワーク」を充実させれ
ば、「ライフ」も実りあるものとなり、「ライフ」で得たものは「ワーク」にも反映され
るといった、いわゆる相乗効果の関係にあると考えることによって何かが見えてくるので
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はないかという点が出発点になっている。
「ライフ」の捉え方を間違えると、相乗効果は期待できない。二者択一の考え方をすれ
ば、「天秤」のような考え方になって、私生活を仕事以外のものとして捉えてしまう。そ
れを「ライフ」を会社人生、すなわち「会社にいる間の人生」と捉えてはどうだろうか。
そうすれば二者択一ではなく、むしろ「ライフ」と「ワーク」は相関関係にあるとの考え
に立って、労使でこの中心的な考えの共通化を図ることにした。
対象を子育てや看護をしている人に絞るのではなく、仕事に熱中し、会社勤務が趣味の
ように残業している人こそ意識変革をしなければならないから、全員が対象になる。子育
て、看護をしている人にウエイトを置くと、働きやすい福利厚生施策を作っていこうとい
う方向に向いてしまう。この考えも重要ではあるが、対象をすべての従業員と考えること
によって人事政策として重要な経営戦略に位置付けられると考えている。
現在は労使でこのような枠組みで取り組んでいるが、契機としては2008年春闘まで
遡る。2008年春闘において賃上げ要求とセットで時間外割増率の引き上げを要求した
が、後者の要求に関して労使協議においては我々の主旨がうまく伝わらなかった。現状の
ような働き方をしていると、将来の味の素グループの発展につながるような生産性の高い
仕事は期待できない、むしろ時間外割増率を引き上げることによって所定労働時間内で終
わるようにみんなで努力することによって生産性は上がり、その結果、成果が上がれば時
間外割増率を上げても会社の懐は痛まないではないかと主張した。
会社側は、そのようなことをしないと生産性向上に取り組めないのかと強く反論した。
経営に対するペナルティを課すのではないかと捉えたようである。協議を数回重ねる中、
最終的には、我々の要求主旨を理解し、単なる就労課題だけではなく、会社人生全体を視
野に入れて考え、その時間のあり方を労使で考えていくためにワーク・ライフ・バランス
プロジェクトチームを労使で作ろうと、会社の方から提案してきた。
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⒊
「味の素ワーク・ライフ・バランス・ビジョン」
労使で策定した「味の素ワーク・ライフ・バランス・ビジョン」は、労働協約の前文と
同じ内容で、「一人ひとりの成長と企業の継続的な発展を通して、企業を構成するすべて
の従業員の豊かで実りある人生の実現と社会の繁栄に貢献するためのコンセプト」を中心
に据えた。われわれの考えるワーク・ライフ・バランスは、前述したとおりの「私が頑張
れば、会社への貢献ができ、会社はいろいろな選択肢を提供し、個人が働きやすい環境を
作る」との考え方を進めて行くことによって個人も会社も成長し目的が達成できるとした。
このビジョンは味の素労使間の賃金引上げ交渉の過程から生まれてきたのであるが、味
の素国内グループを構成する各業種の関係会社も含めて、グループ全体のものとして取り
組むことになった。味の素労組の組合員は2600名であるが、グループ会社全体では2
万8000人、国内に限っても1万1000人の従業員が共に働いている。この状況を考
えると、労組として取り組みを始める上での今後の課題は、どのようにグループ会社へ浸
透させていくか、である。まずは味の素(株)内での取り組みを進め、その取り組みをグ
ループに横展開していくことと、それぞれのグループ企業の取り組みを推進していくこと
の両輪で進めていく予定である。
海外のグループ会社に関しては、会社と労働組合との関係は日本とは異なっており、例
えば、国によっては業種別に横断的に労働組合があり、産別加盟のトップが各事業会社と
交渉するなど、味の素労組本体とは接点がないケースもあって全体で歩調を合わすことは
難しい。そのため労働観がほぼ同じである国内グループ会社に限って取り組むことになっ
た。
⒋
ワーク・ライフ・バランス向上への考え方
ワーク・ライフ・バランス向上への考え方として、「会社は、従業員一人ひとりの多様
な価値観を理解し、働く環境の整備や働き方の改善、ライフプランの実現を支援する」と
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会社の「支援」をうたい、他方、「従業員は、ワークとライフの充実に主体的に取り組み、
持てる能力を存分に発揮し、会社の成長、発展に貢献する」と「貢献」をうたい、この「支
援」と「貢献」によって共に発展するサイクルを回していこうと捉えている。
「働く環境の整備」に関しては、育児、介護をはじめ在宅勤務、裁量労働などの新しい
働き方などの内容である。これらの制度をいかに実現させるかについては、ゆっくりでは
あるが着実に前進している。
「働き方の改善」はやや難しい内容を含んでいる。「総実労働時間を減らそう」、「有
休消化をしよう」といったことはテーマとして掲げやすいが、具体的にどのように取り組
んでいけば労働時間を減らすことができるのか、休日、休暇が取れるためにはどうすれば
よいのかなど、一人ひとりが考える施策が必要となる。制度、仕組みを作っても、「働き
方」の部分に踏み込まなければ実現できない。
環境が整備されていくと、従業員(=組合員)はフルに仕事をし、日々の人生を充実さ
せるとともに、会社の成長・発展に貢献するとの「意識」と「行動」をセットで進めてい
くことになる。「支援」と「貢献」が好循環して回っていけば、会社が厳しい状況に直面
しても踏ん張りの効く組織になっていくであろうと考えている。制度の整備はもとより、
「意識」の強い集団を作っていこうとの考えを労使で確認しながら取り組んでいる。
⒌
具体的な取組み内容
⑴ 働く環境の整備
働く環境の整備に関しては、育児・介護問題を中心に、再雇用制度等は比較的早い時期
から取り組んできた。経営サイドが本腰を入れて取り組むことによって、例えば、育児、
看護のほか、家族の転勤などの家庭の事情で退職しても、再度会社で働きたいといった人
を支援する再雇用制度を利用して、再度活躍しているケースも生まれてきている。事業所
が京浜地区に集中しているために、それ以外の地区でのマッチングが難しいが、会社から
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でき得る限りの努力をするとの確認を得ている。
育児制度に関しては、①育児休暇の一部有給化、②育児短時間勤務の利用期間の拡大、
③子供看護休暇、ストック有給休暇の取得事由の拡大、④ストック有給休暇の積立て上限
日数の拡大、がある。このような制度があることによって育児をしながら会社でしっかり
と働き続けることができる。この制度は2009年から一気に拡大、充実したが、われわ
れが「働き方」に関心を寄せている間に、他社が追いつき、他社に追い越されてしまった
観がある。制度は作ったが、それに安んじることの危うさを痛感している。
「働き方」については、意識啓発からスタートさせた。外部のワーク・ライフ・バラン
スの専門家による講演会(「キックオフ講演会」)を全職場で実施した。講師には特に当
社のワーク・ライフ・バランスの実情を掌握していただいたうえで講演をお願いした。さ
らに職場では、すべての職場で職場懇談会を開催し、ワーク・ライフ・バランをテーマに
各職場ではどのような取り組みをするかを議論した。経営が職制を通じて、或いは組合執
行部から押し付けられたという状況にならないように、職場の労使で主体的に考えること
が重要だと考える。
2013年度末までに、全社で次のような「目指す姿」を労使で確認し合いながら進め
ている。すなわち、
1 自分自身の働き方に満足している。
⑴ 仕事を通じて「働きがい」、「やりがい」を感じている。
⑵ 自分で労働時間や休みをコントロールできている。
⑶ 従業員同士の切磋琢磨や相互支援のある職場で働いている。
2 高い生産性を実現している(効率的に業務を遂行し、成果をしっかりと出している)
3 社会人として自立し、ライフプランの実現に向けて取り組んでいる。
〈例えば〉
・経済面や健康面において自分と家族の将来への備えに取り組んでいる。
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・地域や社会に貢献する活動に取り組んでいる。
・家族のための時間がきちんと確保できている。
・自分自身の成長や、やりたいことにお金と時間がかけられている。
このうち、2の「高い生産性の実現」が伴わないワーク・ライフ・バランスの取組みを
行えば、前述した労使で確認し合った部分ができなくなることから、生産性にこだわった
取り組みをしようと労使で取り決めた。
⑵ 労使で取り組む「4つのテーマ」
この「目指す姿」を実現するために、労使で「4つのテーマ」を掲げて取り組んでいる。
上記の「目指す姿」を実現するために、4つのテーマとして、①「労働時間への感度を高
める(Productive On)」、②「休暇取得の促進(Positive Off)」、③「全員参画による
職場運営改善(Strong Team)」、④「会社支援施策を活用した自立、ライフプラン実現
(Lifeplan Fruition)」に労使で取り組むとしている。
「労働時間への感度を高める」ことを最初に掲げている。「働き方目標」の管理に関し
ては、自分の労働時間を正確に把握するために「働き方計画表」を職場で作成する。最終
的には個人に落とし込むこととし、例えば、「私はどれだけ『働き』、『休み』、『どの
ような仕事をします』」といった計画を作る。それをみんなで確認し合うことによって、
Aさんはどれほどの仕事量があり、休みに対してどのような考え方を持っているのかを確
認し合う。これによって、例えば、Aさんは子供を保育所に預けてから出社しているから、
出勤がこの時間になるのだなと、職場単位で家族事情を理解することによって、Aさんの
働き方が理解できるようになる。
休暇取得を促進するためにポジティブ・オフ運動を進めている。いずれの職場でも休暇
を取る人と、取らない人とに二分されている。休暇が取れていない人に対して如何に休暇
を取らすかは、1の労働時間への感度を高めることとセットで取り組んでいる。休んでい
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るときに何をしているのかといったことまで話し合うことにしており、自己研鑽、ボラン
ティア活動以外にも地域活動への参加、家族団欒のための充実化が休暇取得の促進につな
がると考えている。以前に男性の育児休暇の有給化を導入したところ、休暇を取る従業員
が増えてきている。制度が先行することによって意識が追いつき出した好例である。
職場運営改善は、「全員参画」で取り組み、前述の「働き方計画表」に基づいて「組織
文化診断」、各人の総実労働時間、各人の休暇実績をスコアで表すことによって、ワーク・
ライフ・バランスの実現度を定量的に計ることにした。これらを参考にして働き方はどう
あるべきか等を職場単位で話し合う。職場単位で話し合った内容を積み上げ、その中で構
造的な問題があれば、中央執行部の専門委員会で検討することにしている。
このような枠組みでもって「目指す姿」の実現に取り組んでいる。味の素労組は、「全
員参画」とともに「職場軸足」を重視している。各支部に2名の専従者を置いているので
できるだけ各職場の状況を把握し、全員で解決を図る体制を取っている。
会社支援施策としては、グループ福利厚生ネットワーク、育児・介護支援、ボランティ
ア斡旋、グループ教育施策への取組みがある。この4つのテーマを回転させ、定点観測と
定量性を持ったチェックと次へのアクションプランを策定している。
⒍
現場への浸透
当初、職場でこのワーク・ライフ・バランスの話を持ち出すと、現場のライン長は納得
がいかないと言う、また、事業所の総務部門担当者は人事部から「やれ」と言われたから
仕方がなくやっているといったように、「やらされ仕事」のような取り組み姿勢であった。
われわれも中央の労使協議の場で取り決めても、その活動が必ずしも支部事業所の労使で
スムーズに展開されているとは限らないことを経験で知っている。
このような状況が続いていけば、もう一度労組の出番だと捉え、事業所での労使協議に
入り込み、中央での労使で決めたことを徹底する必要があると考えている。内容によって
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は生産部門、研究部門、営業部門等の部門ごとに方法を変えて取り組む必要があり、中央
執行部と支部執行委員会がキャッチボールを繰り返しながら問題解決を図る必要があろう。
いくら議論を繰り返していてもきりがない側面もあり、各職場においてまず「やってみ
る」ことも重要である。その結果よくなったかどうかをレビューし、前述したようなワー
ク・ライフ・バランスビジョンが実現できるように労使で粘り強く取り組んでいきたい。
(文責 事務局)
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