食品たんぱく質の栄養価としての「アミノ酸スコア」1/4 No.46 Dec . 2005 食品たんぱく質の栄養価としての 「アミノ酸スコア」 はじめに 食 品 た ん ぱ く 質 の 栄 養 価 に は ,「 生 物 価 」 や 「 正 味 た ん ぱ く 利 用 率 」 が 用 い ら れ ま す 。 しかし,これらは食品の利用割合を動物・ヒトで測定する生物学的評価法であるため,時 間 と 経 費 が か か り ま す 。ま た ,食 品 素 材 の 種 類 や 混 合 割 合 が 変 化 し た 場 合 は ,生 物 価 や 正 味 たんぱく利用率を推定することも難しくなります。そのため,アミノ酸組成に基づくたん ぱ く 質 の 栄 養 評 価 法 が 考 案 さ れ ,「 化 学 価 (ケ ミ カ ル ス コ ア )」と 名 付 け ら れ ま し た 。生 物 学 的 評 価 法 に 対 し , こ れ を 化 学 的 評 価 法 と 言 い , 現 在 で は ,「 ア ミ ノ 酸 ス コ ア (Amino Acid Score)」 の 名 称 で 広 く 一 般 的 に 用 い ら れ て い ま す 。 アミノ酸スコアとは 食 品 に 含 ま れ る た ん ぱ く 質 の 各 必 須 ア ミ ノ 酸 含 量 を 一 定 の 基 準 値 (ア ミ ノ 酸 評 点 パ タ ン )と 比 較 し ま す 。 こ の 比 較 割 合 (百 分 率 ) の 最 小 値 を 「 ア ミ ノ 酸 ス コ ア 」 と 呼 び , 最 小 値 が 100 を 上 回 る 場 合 の ア ミ ノ 酸 ス コ ア は 通 例 100 と し て い ま す 。 最 小 値 を 示 す ア ミ ノ 酸 は「第 1 制限アミノ酸」と言います。 食品たんぱく質の栄養価は必須アミノ酸の量と割合に依存し,たんぱく質を多く含む食 品であっても,必須アミノ酸含量のバランスの悪い食品, または, 必須アミノ酸が少ない 食品はたんぱく質としての栄養価が下がります。体内でたんぱく質が合成される際には, そのたんぱく質を構成する全てのアミノ酸の存在することが必要です。どれか 1 つでも不 足していれば,合成がうまく進まず,最も不足するアミノ酸によって合成量が決まってき ます。言い換えれば,たんぱく質の利用率は必要量に対して最も少ない割合で存在する必 須アミノ酸量によって制限を受けることになり,数値が高いほど栄養価が優れていて,最 大 値 は 100 と な り ま す 。 ア ミ ノ 酸 ス コ ア が 低 い 場 合 は ,不 足 を 補 う 食 品 を 組 み 合 わ せ た 食 事 に す る こ と が 勧 め ら れます。 必須アミノ酸とは 体 た ん ぱ く 質 の 合 成 の た め に は 約 20 種 類 全 て の ア ミ ノ 酸 が 必 要 で す が ,一 部 の ア ミ ノ 酸 は体内で他のアミノ酸から合成されたり,アミノ基の供給源があれば糖の代謝物から合成 されたりするため,食物から直接摂取しなくても成長や生理機能に支障をきたさないので 非 必 須 ア ミ ノ 酸 (可 欠 ア ミ ノ 酸 )と 言 わ れ て い ま す 。 一 方 , バ リ ン , ロ イ シ ン , イ ソ ロ イ シ ン,リジン,メチオニン,スレオニン,トリプトファン,フェニルアラニンの 8 種類はヒ Copyright (c) 2005 Japan Food Research Laboratories. All Rights Reserved 食品たんぱく質の栄養価としての「アミノ酸スコア」2/4 ト の 体 内 で 合 成 す る こ と が で き な い の で 食 品 か ら 摂 取 す る 必 要 が あ り ,必 須 ア ミ ノ 酸 ( 不 可欠アミノ酸)と言われています。 ヒスチジンは幼児のみ正常な成長のために必要な半必須アミノ酸と言われていましたが, 比較的近年の研究により成人にとっても必須アミノ酸として取り扱われるようになり,現 在はヒスチジンを加えた 9 種類を必須アミノ酸としています 1) 。また,従来非必須アミノ 酸と言われてきた,シスチンやチロシンは,最近の研究によって必須,非必須を厳密に区 別することが困難なアミノ酸であると言われています 1) 。 アミノ酸評点パタンについて ヒトによる試験結果や数多くの生物試験によって極めて良質のたんぱく質であると判 断 さ れ た 鶏 卵 , 人 乳 , 牛 乳 の ア ミ ノ 酸 組 成 を 用 い て , 1957 年 に FAO( 国 連 食 糧 農 業 機 関 ) によって最初のアミノ酸評点パタンが提案されました。そのアミノ酸評点パタンに基づい て 算 出 さ れ た 化 学 価 は 「 た ん ぱ く 価 (プ ロ テ イ ン ス コ ア )」 と 呼 ば れ , 次 い で 1965 年 に FAO/WHO( 世 界 保 健 機 関 )か ら 提 案 さ れ た 新 し い パ タ ン に 基 づ い て 算 出 さ れ た 化 学 価 は「 卵 価 」 ま た は 「 人 乳 価 」 と 呼 ば れ ま し た 。 つ い で 1973 年 に FAO/WHO か ら 提 案 さ れ た 新 し い パ タ ン に 基 づ い て 算 出 さ れ た 化 学 価 は 「 ア ミ ノ 酸 ス コ ア 」 と 呼 ば れ ま し た 。 そ の 後 , 1985 年 に FAO/WHO/UNU(国 連 大 学 )か ら 再 び 提 案 さ れ た 新 し い パ タ ン に 基 づ い て 算 出 さ れ た 化 学 価はそのまま「アミノ酸スコア」と呼ばれています。 1973 年 と 1985 年 の ア ミ ノ 酸 評 点 パ タ ン の 考 え 方 は 共 通 し て い ま す 。 た だ し , 1973 年 の ものは乳児,学齢期,成人の 3 つの年代区分の他に,乳児,学齢期のパタンを参考にした 一 般 的 な 評 点 パ タ ン が 示 さ れ た の に 対 し ,1985 年 の も の は ,乳 児 ,学 齢 期 前 ,学 齢 期 ,成 人の 4 つの年代区分で示されたのみで一般的な評点パタンは示されませんでした。 1989 年 2 月 の 植 物 た ん ぱ く 質 に 関 す る 公 定 書 委 員 会 (CCVP, The Codex Committee on Vegetable Proteins)の 第 5 回 会 合 で , ア ミ ノ 酸 ス コ ア を 算 出 す る た め の 比 較 基 準 と し て 1985 年 に FAO/WHO/UNU が 提 案 し た 2-5 歳 児 童 の ア ミ ノ 酸 評 点 パ タ ン を 使 用 す る こ と が 是 認 されました。その後,たんぱく質の品質を評価するために,必須アミノ酸に対する人体必 要量,アミノ酸測定方法,たんぱく質消化吸収率及びアミノ酸利用率等を総合的にレビュ ー す る た め に , た ん ぱ く 質 の 品 質 評 価 に 関 す る FAO/WHO 合 同 専 門 家 協 議 が , 1989 年 12 月 に 開 催 さ れ ま し た 。そ の 場 で ,1985 年 に FAO/WHO/UNU が 提 案 し た 2-5 歳 児 童 の ア ミ ノ 酸 評 点パタンは,乳児を除く全ての年齢グループに対する食事たんぱく質の品質を評価するた めに使用される最も妥当なパタンであることが確認されました。これに従い弊財団では, 1985 年 2-5 歳 児 童 の ア ミ ノ 酸 評 点 パ タ ン を 使 用 す る こ と に し て い ま す 。 1985 年 学 齢 期 前 2-5 歳 及 び 1973 年 の 一 般 用 評 点 パ タ ン を 表 -1 に 示 し ま し た 。 Copyright (c) 2005 Japan Food Research Laboratories. All Rights Reserved 食品たんぱく質の栄養価としての「アミノ酸スコア」3/4 表 -1 評 点 パ タ ン (mg/gN) 1985 年 学 齢 期 前 2-5 歳 1973 年 一般用 リジン 360 340 ヒスチジン 120 − フ ェ ニ ル ア ラ ニ ン + チ ロ シ ン *1 390 380 ロイシン 410 440 180 250 160 220 バリン 220 310 スレオニン 210 250 トリプトファン 70 60 必須アミノ酸 イソロイシン メチオニン+シスチン *2 *1 芳香族アミノ酸 *2 含硫アミノ酸 アミノ酸スコア算出方法 1985 年 の 学 齢 期 前 2-5 歳 の 評 点 パ タ ン を 用 い て ア ミ ノ 酸 ス コ ア を 算 出 し ま す 。 ① 試料を酸またはアルカリで加水分解後,アミノ酸自動分析計法及び高速液体クロ マ ト グ ラ フ 法 で 試 料 中 の 各 ア ミ ノ 酸 含 量 (g/100 g)を 定 量 す る 。 ② 試 料 中 の 全 窒 素 含 量 (g/100 g)を ケ ル ダ ー ル 法 で 定 量 す る 。 ③ 各 ア ミ ノ 酸 含 量 を 全 窒 素 含 量 で 除 し た 後 1,000 倍 し , 窒 素 1 g 当 た り の mg 数 (mg/gN)を 算 出 す る 。 ④ ③ で 算 出 し た 各 値 を 表 -1 中 の 当 該 ア ミ ノ 酸 含 量 (mg/gN)で 除 し , 100 倍 す る 。 ⑤ 最小値をアミノ酸スコアとする。 アミノ酸スコア= 食 品 た ん ぱ く 質 中 の 第 1 制 限 ア ミ ノ 酸 含 量 (mg/gN) ア ミ ノ 酸 評 点 パ タ ン の 当 該 ア ミ ノ 酸 量 (mg/gN) ×100 ( 日 本 人 の 食 事 摂 取 基 準 2005 年 度 版 の ア ミ ノ 酸 必 要 量 の 項 に は ,「 ア ミ ノ 酸 ス コ ア は 化 学 的 に 分 析 さ れ た 食 品 中 の ア ミ ノ 酸 組 成 を 用 い て 計 算 さ れ た も の で あ る 。し か し ,人 が 摂 取 す る 場 合 は , た ん ぱ く 質 の 消 化 ・吸 収 率 や ア ミ ノ 酸 の 有 効 性 に つ い て も 考 慮 す る 必 要 が あ る 。 そ こ で , 通 常 の ア ミ ノ 酸 評 点 パ タ ー ン に ,た ん ぱ く 質 の 消 化 ・吸 収 率 を 加 味 し た た ん ぱ く 質 消 化 ・吸 収 率 補 正 ア ミ ノ 酸 評 点 パ タ ー ン が よ り 正 確 な 評 価 法 と し て 用 い ら れ る よ う に な っ て き た 。ま た ,加 熱 ,ア ル カ リ 処 理 な ど に よ っ て も ア ミ ノ 酸 の 有 効 性 は 変 化 す る の で 、ア ミ ノ 酸 ス コ ア が そ の ま ま 生 体 に お け Copyright (c) 2005 Japan Food Research Laboratories. All Rights Reserved 食品たんぱく質の栄養価としての「アミノ酸スコア」4/4 る 利 用 率 を 表 し て い る と は 限 ら な い 。」と し て い ま す 。学 問 的 知 見 で 基 準 は 改 訂 さ れ る と し て も , 一 定 の 評 点 パ タ ン を 用 い る 評 価 は 計 算 で 求 め る こ と が で き る 簡 便 さ が あ る 一 方 で ,個 別 の 実 質 的 な 評 価 に は 十 分 対 応 し き れ な い 制 約 も 併 せ 持 っ て い ま す 。) 主な食品のアミノ酸スコア 一 般 的 な 食 品 の ア ミ ノ 酸 ス コ ア 例 (ア ミ ノ 酸 組 成 表 及 び 1985 年 学 齢 期 前 2-5 歳 の 評 点 パ タ ン を 用 い て 算 出 )を 表 -2 に 示 し ま し た 。大 豆 を 除 い て は 1973 年 の 一 般 用 評 点 パ タ ン で 算出した値とほぼ一致します。 表 -2 食品 精白米 アミノ酸スコア例 アミノ酸スコア 第 1 制限アミノ酸 65 リジン * 大豆 100 - 卵 100 - 牛乳 100 - プロセスチーズ 91 メチオニン ジャガイモ 68 ロイシン 里イモ 84 イソロイシン 牛肉・豚肉・鶏肉 100 - 魚類 100 - トマト 48 ロイシン みかん 50 ロイシン * 1973 年 の 評 点 パ タ ン を 用 い る と 86(第 1 制 限 ア ミ ノ 酸 : 含 硫 ア ミ ノ 酸 ) 参考資料 1) 岸 恭 一 監 修 , 日 本 必 須 ア ミ ノ 酸 協 会 編 : ア ミ ノ 酸 セ ミ ナ ー , 工 業 調 査 会 (2003) 2) 科 学 技 術 庁 資 源 調 査 会 ・ 資 源 調 査 所 編 : 改 訂 日 本 食 品 ア ミ ノ 酸 組 成 表 (1986) 3) 国 際 連 合 食 糧 農 業 機 関 編 , 国 際 食 糧 農 業 協 会 訳 :「 た ん ぱ く 質 の 品 質 評 価 , FAO/WHO 合 同 専 門 家 協 議 報 告 , FAO・ ロ ー マ , 1990 年 」 国 際 食 糧 農 業 協 会 (1992) (固 有 名 詞 等 の 英 文 和 訳 は ,引 用 し た 参 考 資 料 の 表 現 を そ の ま ま 用 い ま し た 。 ) (本 稿 は ,JFRL ニ ュ ー ス Vol.1,No.20,1988 年 「 ア ミ ノ 酸 価 」の 内 容 を 改 訂 ・再 編 集 し た も の で す 。) Copyright (c) 2005 Japan Food Research Laboratories. 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