ビジネスモデルの転換期に SIerが身に付ける力とは

受注倍増を目指す
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ビジネスモデルの転換期に
SIerが身に付ける力とは
ソリューションプロバイダには厳しい時代が到来している。生き残るにはビジネスモデル
の転換を図り、
「受注力」を高める必要がある。これを推進するためにソリューションプ
ロバイダが装備すべき五つの力を、本連載で解説していく。受注力を強化するには、個人
だけでなく企業として取り組むべきである。
小段 雄二郎 ガートナー ジャパン/ガートナー コンサルティング ディレクター
景気の先行きが不透明ななかで、これからの1年を
いったことで語られることが少なくない。これらが
どんな年にしていくかで企業の将来が左右されると
重要なことに変わりはないが、転換期を迎えている
いっても過言ではないだろう。
ときは新たな視点を加える必要がある。それが
じっと耐えるか、新たな顧客を開拓していくか、
「GFTM:Gartner Five Triangular Model」である。
あるいは積極的に投資するか、ソリューションプロ
まずはソリューションプロバイダが置かれている
バイダにとって転換期になることは間違いない。今
状況を分析することで、どうしてGFTMが必要なの
の状況を見据えたうえで、目指す姿をどう具体的に
かを述べたい。
実現していくかが問われる。
こうした認識に立って、本連載は顧客を獲得する
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海外より収益性も生産性も低い日本のSI企業
力、すなわち「受注力」と呼べる五つの力の強化に
図1は、日本と欧米のソリューションプロバイダ
(売
焦点を絞り、ソリューションプロバイダが今後どの
上高上位20社)の業績を、過去5年間の平均営業利益
ような力を身に付けるべきかを解説していく。景気
率で比較したものだ。
低迷の時代にあって「お客様に選ばれ続ける企業」
日本企業は平均4.1%だが、欧米企業は平均15.9%
の道を歩むには、今まで以上に受注力が求められる
になっており、上位企業だけでも約4倍の差がある。
と考えている。
筆者が2年前に同様に分析したときは約2.5倍の差だ
受注を高めるための方策として、
「どれだけ顧客訪
ったので、差はさらに拡大しつつある。
問したか」
「どこまで顧客の課題を聞き出せたか」と
ソフト開発の生産性とコストを比較しても日本企
NIKKEI SOLUTION BUSINESS 2009.1.15
図1●収益性の国際比較
日本の IT/SI 系企業の収益性
(売上高上位 20 社を示す)
欧米の IT/SI 系企業の収益性
(売上高上位 20 社を示す)
(過去 5 年の平均営業利益率)
(%)
45
(過去 5 年の平均営業利益率)
(%)
45
40
40
35
35
30
30
25
25
20
20
15
15
10
平均 4.1%
5
0
−5
2,000
4,000
6,000
8,000
(SI 関連売上高:100 万ドル)
平均 15.9%
10
5
0
−5
上位 6 社平均 8.4%
2,000
4,000
6,000
8,000
(SI 関連売上高:100 万ドル)
出典:ガートナー
(2008 年)
、
各社の有価証券報告書
注:IT/SI 系企業の売上高は、
以下のサービスに該当する2007 年度売り上げデータをガートナーが集計した結果を表示
・プロフェッショナルサービス
(コンサルティング、
SI、
ビジネス・プロセス・アウトソーシング/ITアウトソーシングITO)
・サポートサービス
(ソフト/ ハード)
業の弱点が見える。次ページの図2は欧州企業と比較
して、米企業、インド企業、日本企業の生産性とコ
ストを示したものだ。
い。そのきっかけが受注力の強化にある。
「答え」を発見しているか、実現しているか
これによると、米企業は「人件費は高いが、生産
まずは「ソリューションプロバイダの営業とは何
性も高い」が、インド企業は「人件費は安く、生産
をすることか」を考えてほしい。顧客にソリューシ
性は高い」ことが分かる。日本企業は「人件費は安
ョンを提供することはもちろんだが、このためには
いが、生産性も低い」となる。
大きく二つのアプローチがあると思っている。
単純に比較すると、顧客は日本企業よりインド企
「ソリューション」を「答え」と置き換えると分か
業に情報システムを発注した方がいいという結論に
りやすいかもしれない。すなわち、
「答えを発見する
なってしまうのだ。
こと」と「答えを実現すること」である。
最近のインド企業はBPO(ビジネス・プロセス・ア
どちらのアプローチに付加価値があり、高い収益
ウトソーシング)にも注力。情報システムの構築だけ
をもたしてくれるのだろうか。答えは「両方」である。
でなく、航空機を設計したり医療用医薬品の研究・
いずれか一方だけで、持続的に収益性を高め続ける
開発を手掛けたりといった業務まで請け負うケース
ことはできない。
があるという。インド企業は、ここまで力を付けて
ソリューションプロバイダの営業担当者は今まで、
きている。
後者の「答えを実現すること」に注力し、
「答えを発
オフショアの脅威は、どんどん迫ってきている。
見すること」をおろそかにすることが多かったので
言語の壁はあるにせよ、今のままでは日本の顧客か
はないか。
「答えをお客様と共に導き出した」と自負
らの案件を少しずつ奪われてしまう可能性が高い。
している営業担当者もいるだろうが、
「答え」は顧客
これは、営業利益率の低下という悪循環につながり
が既に持っていた構想だったりIT業界のトレンドだ
かねない。
ったりする。
日本企業は独自の長所を作り出さなければならな
結果、営業担当者は横並びのソリューションばか
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