新陳代謝を図りながら成長するグループ企業の研究 - KPC 関西生産性

新陳代謝を図りながら成長するグループ企業の研究
∼ グループ全体として成長している企業の仕組みと成功要因の研究 ∼
新陳代謝
(株)髙島屋
花
沢
正
雄
東洋紡績(株)
諏
訪
次
郎
(株)村田製作所
中
野
好
美
関西電力(株)
右
城
望
積水化学工業(株)
桶
谷
省
Ⅰ.目的と定義
目的:グループとして成長してゆくために、変化を読み取って、成長戦略の決定と実現につな
げる仕組みを見出し、自社の戦略決定に役立てる。
定義:私達グループでは「新陳代謝」とは、新陳代謝を促すマネージメント力=変化対応力と
定義し、特に事業の変更に着目してその決定過程の仕組みを研究した。
Ⅱ.問題意識(仮説)
私達は経営戦略を研修する中で、戦略決定には企業グループを取り巻く環境の変化をどのよ
うに捉え、どう解釈し、どのように対応してゆくかが重要であるとの認識を得た。
このような問題意識から以下のような素朴な仮説を設定して研究を行った。
(1)「どんな企業も変化を捉え、戦略の決定に至る仕組みは持っている。
しかし、その仕組みが、グループとして有効に働き、全体として変化に対応して成
長している企業グループは少ない。
(2) この仕組みがうまくいっている企業として注目されるのは、ドラスティックに大変革
する海外企業であるが、日本の企業グループの中にも、うまく新陳代謝しながら成長
している企業グループはあるはずである。
⇒
そして、そういった企業グループは、変化を捉え、戦略の決定に至る仕組みが
効果的に働くやり方を持っているはずである。
」
Ⅲ.我々の提案(研究で得たもの)
1.研究の進め方
(1) 企業グループにおける変化対応の仕組みのモデル設定
(2) 変化対応の各段階での仮説(大・中・小)の想定
(3) モデル企業の文献による仮説の検証
(4) モデル企業の訪問インタビューによる仮説の検証
(5) グループ経営における新陳代謝の成功要因のまとめ
2.研究内容
(1) グループにおける変化対応の仕組みのモデル設定
今、最も成功している企業の多くは顧客中心のアプローチをしており、「利益を獲得
できる新しい領域を探すことは、顧客の価値領域における変化を感知し、解釈する能力
により始まる」と言われている。私達は、この環境変化への対応力を重視する新しい組
織(センス&レスポンド組織)の組織学習プロセスを基本として、以下の対応プロセス
モデルを設定した。
<グループとして成長するため>
① 情報収集:どのような情報を、誰がどのような方法で収集しているのか?
② 解
釈:集められた情報を、誰がどのようにグループとして価値あるものに加
工し、どのような基準で解釈しているのか?
③ 対策立案:誰がどのような方法で有効な対策案にしているのか?
④ 決
定:誰が、どのような基準でグループ成長のために最適な決定をしている
のか?
⑤ 実
行:誰が、決定された計画をどのような方法で有効なものにしているのか?
⑥ 評
価:どのような基準で何をどのように評価しているのか?
新陳代謝に成功している企業グループは、この各段階での能力が高く、有機的に有効に
機能しているはずだと考えた。
(2) 変化対応の各段階での仮説(大・中・小)の設定
私達はこのプロセスモデルの各段階において大仮説、中仮説、小仮説を以下のように
想定し、調査研究すべき課題を明確にしていった。(抜粋、小仮説省略)
① 情報収集:グループ成長のための情報が明確になっている
:グループ連結で数値化され、定期的に収集する仕組みがある
② 解
釈:事業目的と範囲に照らして、グループとしての影響を判断している
:グループとしての影響を判断する基準、組織がある
③ 対策立案:実効性のあるプランが策定されている
:グループ全体最適、長期的、多角的視点からの立案となっている
④ 決
定:グループ全員が共有する経営理念があり、全体最適の視点より判断し
ている
:審議メンバーの利害が排除されており、経営理念を共有化する仕組み
がある
⑤ 実
行:決定どおりに実行に移せる仕組みがある
:権限委譲された責任者が明確であり、遂行をモニタイングする仕組み
がある
⑥ 評
価:評価基準が明確で、計画と実績の差異を評価できる
:評価基準に対応したデータ収集がタイムリーにできる
(3) モデル企業の文献による仮説の検証
私達は上記のような各段階での仮説を、以下のモデル企業の文献により検証し、仮
説の精度を高め、仮説の修正を行った。その中で事業の変更を私達グループの着目す
べき新陳代謝と定義し、①情報収集から ④決定までの段階に焦点を絞って研究する
こととした。
①「ABB」
:重電から金融・オートメーション企業へ
②「GE」
:家電から金融・エネルギーなどあらゆる分野へ
③「IBM」
:コンピュータハードからソフトへ、さらにサービスへ
④「キャノン」
:カメラからコピー、プリンターへ
⑤「ソニー」
:音響から生活IT産業へ
⑥「前川製作所」:冷凍機から熱総合エンジニアリングへ
文献による検証では、モデル企業は・トップの経営方針、統治基準が明確である・多
面的な情報収集の手段が豊富でトップまで伝わる仕組みがある・組織を常に揺り動かす
ためのトップの危機意識や強い経営の意思、インセンティブとしての評価制度があり、
成長のための重要な要因であることが確認された。しかし、経営トップは常にクローズ
アップされているが、実務レベルの推進スタッフである戦略スタッフや現場・事業部の
果たす役割は文献調査では明らかにできなかった。そこで、誰がどのようにしているか
にポイントを絞って生の声を企業訪問によって調査することにした。
(4) モデル企業の訪問インタビューによる仮説の検証
私達は上記の仮説の深化を通して、以下の訪問調査企業を特定しインタビューを行っ
た。
① 大阪ガス:ガス事業から総合生活産業への多角化
[H13.12.21]
② 宝 酒 造:日本酒から焼酎、バイオ事業へ
[H13.12.26]
③ 三洋電機:家電からデバイスさらに OEM へ
[H14.01.10]
④ 三菱商事:大胆なポートフォリオ入れ替えを促進中
[H14.01.22]
<訪問各社で得たもの>
① 大阪ガス
:独占事業であることの危機感があり、経営トップからの明確な多角化方針がある
:多角化を実現する仕組みを作りつつある
:情報収集・人材などの経営資源はガス事業を基盤として活用している
:本社スタッフが新規立ち上げと撤退を推進している
○経営トップの主導
○本社スタッフによる推進
○評価基準と推進システム
② 宝 酒 造
:現場への権限委譲と危機感の共有による事業拡大のインセンティブがある
:事業育成では経営トップの確信と支援が大きな役割を演じている
:事業撤退では本社スタッフが積極的な提言、推進、実施を行っている
:現場・経営トップ・スタッフ間の情報交換の仕組みがある
○現場への権限委譲
○経営トップの評価力
○現場・経営・本社スタッフの連携
③ 三洋電機
:現場への権限委譲と市場情報を収集させる仕組みがある
:2番手メーカーとしての危機感と経営理念を実現する志向がある
:本社スタッフが充実しており、現場との情報交換の仕組みがある
○現場への権限委譲
○本社スタッフの提案力
○危機感と理念志向の風土
④ 三菱商事
:ビジネスユニットにミッションを与え、管理、評価を徹底している
:新規事業では、ビジネスユニットにエンパワメントしている
:将来への大きな事業転換(ドットコママース戦略、R&D戦略)については、コ
ーポレートレベルで育成している
:撤退においては、本社スタッフが策定した撤退ルールを絶対的メジャーとし、撤
退シナリオに従い実施している
○現場への権限委譲と撤退ルールの徹底
○確固たるトップの意志
訪問調査を通して私達は、・経営トップ、戦略スタッフ、現場の情報交換が効果的に
行われていた・情報収集から対策立案のプロセスでは、フィードバックが何回か繰り返さ
れていた・新陳代謝はドメイン変更、ドメイン内の新規事業、事業撤退の各場合によって
主体となる部署が異なっていることが確認された。
(5) グループ経営における新陳代謝の成功要因のまとめ
私達はグループ経営において、環境の変化に上手に対応してゆくための経営の仕組み
として、以下の 4 つの方法が効果的であると考えた。
① 変化への感度を高める基盤を作る
・経営トップは経営方針、統治基準を明確にし、危機意識や強い経営意思により、
常に組織を揺り動かす
・インセンティブとしての評価制度を確立する
② 情報を共有する仕組みを作る
・多面的な情報を入手できるようにし、それを経営トップ、戦略スタッフ、現場
が共有する
③ 仮説検証の意識づけを行う
・情報収集から対策立案のプロセスでは、何回も仮説の練り直しを行う
④ 推進責任者を明確にする
・ドメインの変更は経営トップが主導し、事業育成のために確信を持って長い目
で支援する。
・ドメイン内の新規事業は、権限委譲された現場が主体となって行う
・事業撤退は、経営トップと密接な関係を持った戦略スタッフ主導で行う
この仕組みが有効に機能するためには、経営トップの意思、経営理念が重要な要素で
あることは疑問の余地のないことである。さらに我々ミドルとして戦略スタッフ、現場
を担う者もトップと危機感を共有し、この仕組みを常にまわしていくという意識が必要
であると共に、次の世代にもこういう意識を浸透させることが同様に重要であると実感
した。
以
上