関東甲信越ブロック - 新潟大学医学部

エイズ UpDate ジャパン Vol.1,No.2【関東甲信越ブロック版】
AIDS UPDATE JAPAN 【地方版】
関東甲信越ブロック
●長野県の取り組み
… 17
●海外研修報告
… 19
1999/9
関東甲信越ブロック編集責任者:
新潟大学医学部第二内科 五十嵐謙一
E-mail:[email protected]
〒951-8520 新潟市旭町通1−754
TEL 025-227-0726, FAX 025-227-0727
●甲信越カウンセリング講習会 … 24
●編集後記
… 28
HIV感染症に対する長野県の取り組みについて
長野赤十字病院
平 成 11 年 3 月 末 の 長 野 県 エ イ ズ 患 者・H I
V 感 染 者 報 告 累 計 は 187 名 で あ る 。 東 京 都 市
圏周辺を除き関東甲信越ブロックでは患者数
の多い県である。
長野県下の拠点病院は8病院有り、細長い
県内に程よく分布している。長野市のある北
信地区に県立須坂病院と長野赤十字病院、小
諸、上田の東信地区には国立長野病院と佐久
総合病院、松本市のある中信地区には国立松
本病院と信州大学附属病院、諏訪、飯田の南
信地区には諏訪赤十字病院、飯田市立病院が
ある。
こ れ ま で 拠 点 病 院 の 累 積 患 者 数 は 148 名 で 、
県 内 症 例 の 80%に 達 し て い る 。 患 者 を 抱 え 多
くの悩みを持つ拠点病院が症例を持ち寄った
りして、3 カ月に一度の連絡会が行われてい
る。
参加者は医師・看護婦のほかに医療ソーシャ
ルワーカー、薬剤師、助産婦、保健行政関係
者 な ど 様 々 で あ り 、提 示 さ れ る 症 例 も 、診 断 、
治療から針事故の実態と対策、更正医療、家
族・仕事・社会医療的問題と様々である。最
近は拠点病院の周辺医療機関にも参加を呼び
かけ多数の出席となっている。
一方長野県では県医師会が中心になり 6 年
前から県内全医療機関にHIV医療に関する
アンケート調査を行っている。同時に定点参
加医療機関には月ごとに患者情報のアンケー
トも行っている。この目的は県内のHIV医
療の実態調査にある。アンケート結果を基に
5年前から県下にHIVネットワーク医療機
関制度を設けて参加施設を募ってきた。しか
し拠点病院制度発足に伴い、多くの医療機関
が拠点病院に全てお任せという傾向がみられ
てきているのが実態である。今後患者が増え
れば増えるほど拠点病院の役割は重症エイズ
患者の治療にシフトせざるを得ず、患者の発
見 や 、無 症 候 未 治 療 時 期 の 通 院 、在 宅 医 療( タ
ーミナル)を迎える時など、一般病院で担っ
<17>
内科
斉藤
博
てもらう部分は多く、拠点病院以外の医療が
今後更に重要になると思われる。
その時のために一般医療機関に対するHI
V医療の啓蒙は今からしていかなければ間に
合わない。昨年度のアンケート調査時に再度
ネットワーク参加施設を募ったところ、診療
所 196 施 設 、 病 院 83 施 設 、 合 計 279 施 設 が
参加を表明し、自分のところでできる医療を
提 示 し て く れ た 。 こ れ は 長 野 県 下 の 1331 全
医 療 施 設 の 20%程 度 で あ る が 、 関 東 甲 信 越 ブ
ロック内拠点の数より遥かに多い。今後も各
地域で症例発表や勉強会を開き多くの医療施
設の参加をお願いする予定である。
平 成 10 年 度 の ア ン ケ ー ト の 概 略 を 、長 野 県 医
師会雑誌長野医報より抜粋して述べたい。
【全医療施設に対するアンケート】
平均回答率:診療所
41.6%、 病 院
58.6%
1:感染予防対策活動状況
活 動 を し て い る 診 療 所 は 43 施 設 と 多 く は な
いが、活動対象は、一般住民、事業所、学校
等、多岐にわたっており、感染予防対策の最
も重要な部分を担っていただいている。
2:病院における感染防止対策
感染対策委員会の設置、マニュアルの作成、
職 員 教 育 の 実 施 な ど い ず れ も 60%近 い 施 設 が
対策を実行している。
3:患者・感染者の診療経験
診 療 経 験 の あ る 施 設 は 診 療 所 23 施 設 、 病 院
12 施 設 で あ っ た 。
経験のある医療施設は、アンケート回答施設
全 体 に 対 す る 比 率 で 見 る と 、 診 療 所 で 4.8%、
病 院 14.6%、 平 均 す る と 7.8%で あ る 。
感染経路別で見ると、性行為感染が半数以上
を占めている。
エイズ UpDate ジャパン Vol.1,No.2【関東甲信越ブロック版】
1999/9
長野県の取り組み
4:検査
患者経験は無くても、診療の中でHIVの抗
体 検 査 を 行 う 施 設 は 多 く 、 診 療 所 124(25%)、
病 院 51(62%)で あ る 。検 査 に あ た り 、同 意( イ
ンフォームド・コンセント)は診療所
92(76.3%)、 病 院 47(89.0%)で 行 っ て い る 。
5:HIV陽性患者の対応
自 院 対 応 と の 回 答 を 寄 せ た の は 、 診 療 所 10
施 設 (8%)、病 院 8 施 設 (15.4%)で あ っ た 。対 応
内容は、診療所では「発症予防」と「相談、
カウンセリング」が主体であり、病院では併
発症、エイズ治療まで幅広い対応を示してい
る。
【定点病院のアンケート】
1:定点数と回収率
診療所については手挙げ方式、病院は全病院
を定点医療機関としている。
定 点 医 療 機 関 は 389 施 設 で 長 野 県 下 の 全 医 療
機 関 の う ち 29%で あ っ た 。
地区別にみても偏りなく、ほぼ全地域を網羅
し て い る 。回 収 率 は 診 療 所 86.9%、病 院 82.5%
と極めて高く、各医療機関のHIV診療に対
する意識の高さが伺いしれる。
2:検査
(1)受付者数及び陽性者数
平 成 10 年 度 の 7 月 か ら 12 月 ま で の 6 カ 月 間
のHIV検査受付患者数は、診療、病院合わ
せ 11881 名 ( 月 平 均 1980.2 名 ) で 、 昨 年 度
迄 の 平 均 数 の 1.35 倍 で あ っ た 。こ の う ち 一 次
検 査 陽 性 者 は 16 名( 陽 性 比 率 0.13%)で あ り 、
昨年度までの平均と一致した値である。報告
は全て病院であった。この数がだいたいの新
患 患 者 数 と 考 え ら れ る が 、 年 間 に す る と 32
名前後となる。
(2)性別
男 女 比 率 は 、 男 性 1 に 対 し 女 性 4.6 名 と 女 性
が多い。これは、後述の検査内容でも明らか
なように、妊婦健診が含まれていることによ
る。
(3)国籍別受付者数
日 本 人 9314 名 。 一 方 外 国 人 は 123 名 で 総
受 付 者 数 の 1%に あ た る 。外 国 人 の 男 女 比 は 男
性 1 に 対 し 女 性 11.3 名 と 女 性 が 圧 倒 的 に 多 か
った。
<18>
外国人内訳:
上位からブラジル、タイ、フィリピン、韓国
の 順 番 で 、今 年 度 も 従 来 と 変 わ ら な か っ た 。4
カ 国 で 全 体 の 75%を 占 め る 。
(4)住居別受付者数
医 療 機 関 と 同 地 区 は 7607 名 (64.0%)、 そ れ 以
外 の 県 内 696 名 (5.6%)、 こ れ に 対 し て 県 外 は
わ ず か に 83 名 (0.7%)で あ っ た 。ほ と ん ど の 患
者が地域の医療機関を訪れている事実は、
HIV 医 療 が 地 域 に 密 着 し た 医 療 と な っ て い る
ことを示すものと思われる。
(5)検査目的別受付者数
最 も 多 い の が 妊 婦 健 診 の 5722 名 (48.2%)、 次
い で 手 術 予 定 者 2966 名 (25.0%)で 、 両 方 合 わ
せ る と 73.2%を 占 め る 。 こ れ ら の 対 象 者 に 対
し 、 HIV 抗 体 検 査 が 一 般 化 し て き て い る 現 状
が 見 て 取 れ る 。 一 方 諸 種 検 診 ・ 健 診 で は 210
名 (1.8%)と わ ず か で あ っ た 。
3:患者報告
報 告 病 院 数 は 8 病 院 で あ っ た 。 総 患 者 数 48
名( 初 診 13 名 再 診 35 名 )。男 性 28 名 、女 性
12 名 、不 明 8 名 と 男 性 は 女 性 の 2.3 倍 で あ っ
た 。 国 籍 で は 日 本 人 32 名 、 外 国 人 15 名 、 不
明 6 名 と 日 本 人 が 全 体 の 75%を 占 め て い る 。
こ れ を 国 別 受 診 者 数 に 対 す る HIV 陽 性 患 者
数 の 比 率 で 見 る と 、 日 本 人 は 0.34%、 外 国 人
は 12.2%と な る 。 感 染 経 路 別 で は 性 交 渉 に よ
る も の が 最 も 多 く 29 名 (60.7%)、 つ い で 凝 固
因 子 製 剤 7 名 (14.6%)で あ っ た 。
報告期間中の死亡は 1 名のみであった。
CDC 分 類 で は 、 無 症 候 性 キ ャ リ ア が 24 名
(50%)、 エ イ ズ 発 症 21 名 (43.8%)、 不 明 3 名
であった。
最後に:
これまで整備されたエイズ拠点病院だけでは、
HIV の感染対策も医療体制も不十分であり、より
地域に密着したネットワーク作りが不可欠である
と切に考える。我々の HIV 医療体制がいかなる方
向に向かうべきなのか、また常に変わる社会情勢
や、医療情勢に則した柔軟な HIV 医療体制はどう
あるべきか。アンケートの結果は、『全ての医療機
関が、自分ができ得る医療をしていくことにある』
と答えているように思う。
以上
エイズ UpDate ジャパン Vol.1,No.2【関東甲信越ブロック版】
1999/9
液・痰・鼻汁・精液・膣分泌液などです。
* 感染経路
ではこれらの感染源からの院内感染を断ち切る
ためには、具体的にどうするかということになり
ます。①患者から医療従事者、②医療従事者から
海外研修報告1
患者、③患者から患者(医療従事者を介して)の
HIV海外研修報告
3つの感染経路があります。この3つの経路を断
新潟大学医学部附属病院
第一内科
ち切るためには、すべての患者の血液や体液に触
鈴木由美子
れるときは、必ず手袋を着用し、処置の前後には
私が参加した研修は、エイズ拠点病院医療従事
手洗いを励行することです。ハワイでは、手洗い
者海外実地研修で、H9年11月2日から11月
は一人の処置が終わるとその病室や診察室にある
16日におこなわれました。場所はハワイ、ホノ
洗面所で手洗いをしていました。そして、そこに
ルルで、ライフファンデーションというNGO(非
は手袋や手洗い用の液体石鹸がありました。
営利団体)が、行っている研修でした。
* 手袋の着用
* ユニバーサルプリコーション
当院では処置時や排泄物の後始末などの時には、
その研修の中で、いろいろ学びましたが、私は
手袋を着用する事は徹底されているようですが、
感染予防対策についてお話し致します。
採血時の手袋着用はまだ少ないと思います。血液
感染予防対策、すなわちユニバーサルプリコーシ
が感染源となることも充分ご存知と思いますが、
ョンの実施ということになります。
なぜ実施されないのか?どうしたらできるのか?
ユニバーサルプリコーションとは直訳すると、統
手袋をすると技術的に採血しにくい、いちいち手
一的予防法ということですが、血液や体液はすべ
袋を着けることが面倒、患者さんに失礼ではない
て感染源となる可能性があるので、同じように扱
か、などなど理由はあると思います。それぞれの
うということです。このことは当院の院内感染対
現場で検討されるとよいと思います。
策マニュアルに記載されている通りなのですが、
復習のつもりでお聞きください。
採血時に使用する手袋は、指にフィットした方
がやりやすので、プラスチック製でなく、ラテッ
クス製の方が適しています。最初は片手だけにし
* window's
period
てみるとか、指先を切って使用してみるなどもよ
入院時や検査前・手術前などに感染症を検査さ
いと思います。当院のマニュアルでは「血液汚染
れていることも多いと思いますが、その検査結果
がなければ、連続使用してもよい」となっていま
で(+)・(−)の如何に関わらず、あるいは検査
す。採血時に手袋を着用することは、もう常識的
していなくても、血液・体液は感染源となり得る
な事です。当院でも遅れ馳せながら定着すればと
ので同じ扱いをしなけらばならないことは、ご存
思います。
知の通リです。
* 針刺し事故
HIVに関してみてみますと、感染する機会が
それから大きな問題は針刺し事故です。採血時
あってから、検査結果で(+)と出るまでの期間
を window's
に針刺しをした場合、手袋をしていれば体内に侵
period といいますが、2週から8
週といわれています。その前に検査しても(−)
入する血液の量が減るので、感染の可能性も減り
となりますが、感染源になる可能性はあります。
ます。国内でも針刺し事故で HIV に感染した看護
また、感染する機会があってから1年後にようや
婦がいると聞いています。
く検査で(+)になったというケースもあるそう
もっと危機感を持ち、他人事でなく自分自身の問
です。今後、未知の感染症があらわれるかもしれ
題として考えたいと思います。
針刺しをしないために、リキャップしない、針を
すぐに針入れに捨てる、など何度も聞いているこ
とです。現状ではなかなか実行できていないので
はないでしょうか。日本でも針刺し防止のグッズ
ません。ですから、感染源となり得る血液・体液
の取り扱いには、充分注意する必要があります。
ご存知と思いますが、体液とは、排泄物や消化
<19>
エイズ UpDate ジャパン Vol.1,No.2【関東甲信越ブロック版】
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海外研修報告
がいろいろ紹介されています。抜いた針がケース
に入るアトム針、針と一体化になった真空採血用
ホルダーで使用後ホルダーに針を付けたまま捨て
る物などハワイでも使用されていました。そして
各病室や診察室にはバイオハザードマークの付い
た針入れがあり、すぐに捨てられるようになって
いました。その他の医療ごみも、針以外の感染性
ごみと一般ごみなどに分けてありましたが、病室
に廃棄物がある場合は、ごみ回収の担当者が病室
まで回って回収していました。
2 クイーンメディカルセンター HIV入院専門病棟
−病室−
壁面にバイオハザードマ
ークの針入れ
* 血液暴露後の対応
針刺し事故と対策については、当院のマニュア
−個室−
ルにも記載されていますが、いざ自分が当事者に
ごみ分別
なったらどうしたらよいか、すぐには行動できな
いと思います。ハワイでは担当者が手順を教えて
くれ、職員は職員用のクリニックで検査を受けた
り、ドクターコールが 24 時間可能な所もありま
した。各個人レベルでは何をすべきか自分の事と
して認識しておく事は重要だ思います。また当事
−個室−
者の精神的サポートと守秘義務の徹底も当然のこ
壁 面 にリネン・衛生材料・
とです。
治療材料があり、定期的に
補充されている。
* マネージメント
院内感染予防対策については、採用時にマニュ
病 室 は 全 室 個 室 であり、
アルを各自が一冊づつ与えられる事はもちろんで
洗 面 所・トイレ・シャワー付
すが、ごみの分別など守る事を約束させられます。
き
そして、月何回かの学習会が開かれたり、年 1 回
テストが行われ全問正解者には景品が出る所もあ
洗面所には手
りました。このようにして職員の院内感染予防に
洗い用洗剤や
対する教育を行っていました。
手袋があり、医
次に見学した施設のスライドがありますので、
療 者も 患 者も
それを見ながら説明します。
使用している
私が行った所は4ヶ所です。
1
カイザーファンデーションホスピタル
HIVクリニック
外来診察室
手洗い
シャープスコンテナ
3
ワイキキ ヘルス センター
HIV外来
(プライマリー・ケア、家族計画など)
昔の修道院の建物で大変古く、設備も不充分
診察室の壁に飾
り 古い椅子と机
エアコンはなく、
扇風機
診察室にシャープスコンテナ
<20>
手袋
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海外研修報告
4
ライヒ ホスピタル
治験専門
研究所という感じの古く、暗い建物
病気自体の原因がわからない恐怖にあわせて、
診察室で看護婦(士)が、患者の症状や検査デ
初期に病気にかかった人達の多くがゲイだったこ
ータを見て、必要があれば医師に相談してコース
とで、宗教的な面から(同性愛を認めない)マイ
の変更を検討する。そのほか患者の相談にも応
ノリティーということからその人達は、攻撃され、
じる
差別、さげすみ、偏見、嫌悪感の渦巻く中で死を
患者は、日本と違い個人保険であるから、よい保
険に入っていないと医療費の負担は大きいので、
特典のある治験を利用することについて日本人と
は考え方が違うようだ
印象に残った言葉
むかえ、死を看取るという状況であった。まだ歴
史の浅いことのため、その中で実際に体験してき
た人達の生の声を聞き、大変ショックを受けた。
“どのような死であっても、それは尊厳なもので
クイーンメデイカルセン
ターの若い看護婦が、すべての患者に平等に差別
なくケアすること、そして自分の安全と健康を守
る事は、患者の安全を守る事でもあるといってい
た。
ある。そうあらねばならない。”
サ ン フ ラ ン シ ス コ の A I D S 対 策 は そ の様な
中からうまれ15年経過し、築き上げられたAI
DSのケアは、あくまでも個人の決定権を、人権
を尊重することを前提にしており、サポート体制
などとてもよい方向に進んだ包括医療体制やコ
ミュニティー活動をつくりあげている。AIDS
ケアは看護・医療の基本のみなおしが源なってお
海外研修報告2
り、これを期にアメリカの看護・医療がよい方向
患者のかかえる問題
に変わってきている。
新潟大学医学部附属病院産科
渡辺美登里
1998年3月9日から3月20日
エイズ拠点病院医療従事者海外派遣研修
サンフランシスコ研修看護コース
カリフォルニア大学サンフランシスコ校エ
イズ予防研究センター(CAPS)
最初はゲイの間から発生したが、予防教育・指
導・セイファーセックスが徹底し感染者は減って
いる。現在は薬物常用者・低所得者そして性感染
症ということで女性の感染者が増えている。研修
でもHIV陽性の女性のサポー
トグループ“ワールド”の創始
者であるレベッカさんの話を聞
HIV/AIDSは性感染症であり女性の感染
者も増えているということで、産科勤務の私は研
修の参加を勧められた。私のHIV/AIDSの
認識は、どのような病気かそれを取り巻く問題な
どは、ある程度は理解していたつもりであったが、
漠然とした知識の中で感染症の部分をクローズア
ップし、研修参加の目的も、院内の感染対策を主
に考えていた。
サンフランシスコは様々なセクシャリティ・多国
籍人種など色々な人達で成り立っている。ゲイの
人達も多く政治の有権者の25%をしめ、市議会
にも議員を出し、年一回のゲイデイパレードには
市長が挨拶するほど、ゲイパワーが強い所である。
1980年代に不思議な病気としてAIDSが発
生した。ゲイのグループの中から罹患した人が急
激な経過をたどり、特に20才代から40才代の
若壮年層の人達がばたばた死んでいった。
くことができた。
ごく普通の生活をし、自分がAIDSなどと考
えたこともなく結婚生活をおくっていた女性が、
AIDSの心配をしていた友達といっしょに受け
た検査で陽性とわかった。夫への感染のおそれと
自分はもう子供を産むことを望めないという喪失
感の中で、幸い陰性だった夫と共に“子供を産み
たい” “産んではいけない”という気持ちの葛
藤を5年間もくりかえし、治療により母子感染率
が25%から8%になったことで、産む決断をし、
双子を出産したことを、切々と語ってくださった。
ゲイの間ではAIDSの対策など進んでいたが、
HIV陽性の女性に対する対策は遅れていた為、
自業自得、何をやってHIV陽性になったのかと
偏見やさげすみを感じた。
特に子供を産むことへの偏見は強く、大変つらい
思いをした。実際に子供を産むという決断をした
後、何人かの友達をなくした。ということであっ
た。
<21>
エイズ UpDate ジャパン Vol.1,No.2【関東甲信越ブロック版】
1999/9
海外研修報告
レベッカさんの話を実際に聞けたことで、HI
V/AIDSを身近なものとして考えていく必要
性と、感染者のつらい気持ちを十分に感じること
ができた。
海外研修報告3
サンフランシスコにおける
HIV/AIDS 患者のサポートの現状について
新潟大学医学部附属病院
第二内科
<看護の問題>
HIV/AIDS患者のケアの上で、看護する
側の態度の問題がある。
内山正子
私は、平成11年1月24日から2月7日まで
の2週間、サンフランシスコでの「エイズ拠点病
院医療従事者海外実地研修」に参加させていただ
○感染の恐れ
看護者も一般の人々と同様に、自分が感染す
る恐れを持っている。
対策:正しい知識が必要・ユニバーサルプリコ
ーションの徹底・安心できる職場環境/対策
知識レベルをあげることにより、患者に対する
態度が肯定的になるという調査データもある。
きました。
その研修で学んだことの中から、サンフランシス
コにおける HIV/AIDS 患者のサポートの現状につ
いて説明していきたいと思います。
サンフランシスコには、現在、約 25000 人の
HIV 感染者が報告されており、この数は、カリフ
ォルニア州の約4分の1を占めています。そのた
○偏見や差別の問題
看護をしていくうえで、“人を尊重すること”
が大切である。その対象である“人” は買売春・
薬物常用者・外国人・様々なセクシャリティー
など自分とは違う属性を持っている人・均一的
からはずれている人など様々である。又、看護
者は普段避けている事柄に直面することを迫ら
れ る 。“ 自 分 の 価 値 観 で ジ ャ ッ ジ し て は い け な
い。”と何度も繰り返された。偏見や差別の問題
に対応する時に大切なことは、偏見をもつこと
はいけないと考える前に、自分の考えや価値観
を明確にすること、自分の気持ちを正直に見つ
めることからはじめ、感情の変容のトレーニン
グが必要であるといわれる。
め、サンフランシスコでは、感染者のサポート体
制・予防活動が充実しており、現在では、新たな
感染者数・死者数が減少しています。
サポートの中心は、ボランティ
ア団体による活動です。そのボ
ランティア活動の内容は、充実
しており、医療面のサービスの
他に、住宅の確保・食事の宅配・
感染した子供の養子縁組など、
生活面でのサービス、ドラッグ
ユーザーやアルコール依存症の
人たちに対するサポートも行わ
れています。
○もえつき症候群
HIV/AIDSの患者のケアは、様々な社
(次ページ表1参照)
会的・心理的問題が複雑に関係し、非常にやり
周知のとおり、アメリカは、日本のように国民
がいのある、むくわれることの多い仕事である
皆保険ではありません。国民の多くは、民営の保
と同時にストレスの多い仕事である。
険会社が提供している健康保険に加入しています。
困難な状況に直面したり、無理解にあったり、
加入している保険によって、病院が指定されてい
患者の悲しみ・痛み・苦しみを強く感じ、自分
たり、受けられる医療サービスも異なります。も
の無力感にとらわれる。自分の気持ちを一人で
ちろん、保険に加入していない人もいます。その
背負い込まず他の人と分かち合うことが有効で
ような社会背景を受けて、ボランティア団体が充
あり、同じ共通項をもっている人達がささえあ
実していったようです。
う、ピアカウンセリングなどの方法が検討され
ている。
<22>
エイズ UpDate ジャパン Vol.1,No.2【関東甲信越ブロック版】
1999/9
海外研修報告
数あるボランティア団体の中から、私が訪問し
次に、病院での外来診療において、チーム医療
が充実している「カイザーパーマネンテ」病院の
た2つの団体を簡単にご紹介します。
システムをご紹介します。
1つ目は、「プロジェクト・オープンハンド」と
HIV 診療チームの構成メンバーは、医師、栄養士、
いう団体です。この団体は、HIV 陽性者で何らか
薬剤師、ソーシャルワーカー、臨床心理士、そし
の症状がでている人に対し、毎日温かな食事の宅
て、日本ではあまり聞き慣れないのですが、患者
配を行ったり、1週間分の食材の提供を行ってい
のセルフケア能力を高めるため健康教育を行う健
ます。
康教育担当者などがいます。それら全体をまとめ、
1992年のピーク時には、約1
患者個々に必要なサービスを判断し、患者とメン
800食を作っていましたが、現
バーの橋渡しをしているのがケースマネージャー
在、感染がコントロールされてき
で、この病院ではナースがその役割を担っていま
たため、毎日1200食が HIV 感
した。
染者用に作られています。HIV 感
診療に訪れた患者は、まず医師の診察を受け、そ
染者の需要が減少した分、老人に
の後ケースマネージャーと面談します。その結果、
対する食事・食材の提供を行って
ケースマネージャーがその患者に必要なサービス
います。
を判断し、他のメンバーとのコンタクトを取って
その他、メンバーに対する栄養面の指導や活動資
いくというシステムになっています。
金を集めるための募金活動・企業に対するコマー
それぞれのメンバ
シャル等を行っています。
ーが、自分の専門
この団体の人員は、従業員約60名、ボランティ
分野でのアプロー
アが約1000名とほとんどボランティアで構成
チを積極的に行っ
されており、運営資金の約80%が個人あるいは
ており、診療終了
企業からの寄付によってまかなわれています。
後のケースカンフ
2つ目の団体は、「ワールド」という HIV に感
ァレンスでも、そ
染している女性をサポートする団体で、 サンフラ
れぞれの角度から患者の問題を提示し、活発な意
ンシスコでは唯一女性のためだけの団体です。
見交換がなされていました。
この団体は、レベッカさんという方が、HIV に
感染しながら、妊娠・出産を経験し、その経験か
以上、サンフランシスコにおける HIV/AIDS 患
ら、女性に対するサポートの必要性を感じ、設立
者のサポートの現状について、研修で学んだ中か
した団体です。妊娠や出産、虐待など HIV に感
ら説明させていただきました。
染している女性がぶつかる諸問題に対してサポ
最後に研修全体を通して感じたことなのですが、
ートを行っています。
サンフランシスコでは、HIV/AIDS を社会問題と
とらえ、患者を医療面だけなく生活全般にわたっ
て社会全体でサポートしていると強く感じました。
表 1
医療ケア
ホスピスケア
歯科のケア
緊急時のケア
カウンセリングサービス
医療以外のサービス
リハビリケア
住宅の獲得
食事の宅配
通訳のサービス
交通面のサービス
感染児の養子縁組
友人・コンパニオンサービス
<23>
訪問ケア
デイケア
ドラッグユーザー・
アルコール依存症のケア
権利の主張
エイズ UpDate ジャパン Vol.1,No.2【関東甲信越ブロック版】
1999/9
カウンセリング講習会
患の方とも、少しは向き合ってお話を聞いてあげ
甲信越 HIV カウンセリング講習会
開催される!
られるような力となったのではないかと思います。
ありがとうございました。(A.Y)
平成 11 年 7 月 17 日(土)、18 日(日)の二日
間にわたり、荻窪病院 血液科カウンセラー 小島
賢一先生を講師に迎え、新潟市において、厚生科
学研究費エイズ対策研究事業・エイズ治療の地方
ブロック拠点病院と拠点病院間の連携に関する研
究班と新潟県の共催で、甲信越 HIV カウンセリン
グ講習会が開催されました。
今回は、厚生省から新潟県は甲信越を対象とす
るよう依頼されたことから、甲信越の拠点病院の
医療関係者を中心として HIV 診療に携わってい
る方々を対象に開催され、医師や看護婦だけでな
く、歯科医師、薬剤師、保健婦、ソーシャルワー
とても楽しい研修でした。
カー、臨床心理士、NGO のメンバーなど、様々
普段は精神科の仕事がほとんどで、HIV に関わる
な立場で HIV 診療に携わっている人達 50 名が参
機会が月1回の院内の委員会のみ、また HIV に関
加しました。
わる医師や看護婦と話す機会もほとんどないので、
カウンセリングというものに初めて触れる人が
県内や県外の HIV 関係の人と話ができ、顔合わせ
ほとんどで、たいへん有意義な研修となりました。
できたことがとてもよかったです。
また、普段接することのない職種の人達と交流が
小島先生のお人柄も気さくで楽しく、お話をきい
でき、HIV 診療の輪を広げるという意味でも、非
ていてとてもよかったです。またリアルな事例を
常に有効な研修会でした。
たくさん聞くことができました。
HIV の情報は非常に早いので、常にリサーチして
以下に、参加者の感想を掲載します。
いないと関わるのが難しいのではないかという不
楽しく一日半をすごすことができました。話を
安はありますが、自分にできることをお手伝いし
きいているだけでも大変大きな問題ですが、少し
ていきたいと思いました。ありがとうございまし
でも力になることができればと思いました。
た。(J.N)
また同じ先生(小島先生)の研修の機会があれば、
ぜひとも参加させていただきたいと思っています。
ロールプレイをとおしてカウンセリングの難
今回はまったくの予習もなく参加してしまったこ
しさを知りました。
とを後悔しています。(M.F)
プライバシーの保護が重要ですが、実態はどうな
のか・・?
とても楽しく講習を受けることができました。
治療を進めて行くうえで、医療者間の情報交換が
まだ HIV の患者さんにかかわったことがないので
必要とされる中、どのようにしなければならない
すが、受け入れた時には今回の講習を参考にさせ
のか、事例などを通して学びたかったです。(Y.I)
て頂きたいと思います。カウンセリングに関して
ロールプレイを通して話すことの難しさ、相手
は他の疾患にも生かしたいと思います。(M.Y)
(患者)の気持ちになることなど、医療者として
の知識・立場だけではいけないと思いました。2
血液関係の疾患の病棟に勤務しています。HIV
のほうは、今まで当病棟へは数名が発病して入院
されていますが、この研修を通して、他の血液疾
日間、楽しい研修でした。(A.I)
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エイズ UpDate ジャパン Vol.1,No.2【関東甲信越ブロック版】
1999/9
カウンセリング講習会
カウンセリングの研修というのは初めてだっ
たため、とても緊張しました。
私は現在、HIV の患者さんがまわりにはいない
のですが、カウンセリングはどんな患者さんにも
行えることですし、たとえ患者さんでなくとも、
人間と接する時に必要なことだと思いました。頭
実際のロールプレイを通しながら、楽しく学べ
ました。
患者役を通して患者の気持ちを体験したり、カウ
ンセラーではうまく対応できなかったりと難しか
ったですが、現場で少しでもこの経験を生かした
いです。(K.N)
の中ではこのように話し、聞けば良いのでは、と
いうことは理解しているつもりでしたが、実際は
むずかしいですね。ありがとうございました。
(M.N)
HIV に限らず、患者とのインフォームドコンセ
ントの時に役立てられると思いました。
自分のほしい情報を収集するのは得意であるが、
相手に共感する、聞き上手になるというのは大変
むずかしいことだと、あらためて感じました。
(M.M)
日常業務を見なおすことができ、面接のヒント
も得ました。お役に立つことがありましたら、お
手伝いさせていただきます。(E.U)
日々、時間的(また、心のゆとりも)に余裕な
くすごす中で、「聴く」ことができず、2∼3言で
判断し決定してしまうスタイルが身についてしま
い、反省の日々を送っておりました。
若いころカウンセリングを学び、基本的な理解は
もっているつもりでしたが、いざ受講しロールプ
レイ等々学ぶなかで、いかに自分本意に過ごして
時間がとても短く感じました。知り合いが増え
いるかをさらに気づき、驚きました。HIV/エイズ
相談等、業務のなかで気づきを生かして行きたい
てとてもよかったです。(T.Y)
と思います。ありがとうございます。(Y.M)
陽性告知のロールプレイが(日常経験がまれな
こともあって)むずかしく、有難かったです。所
小島先生にお会いするのは2回目なのですが、
内での体制を見なおしたいと考えています。
とても楽しく勉強することができました。"With"
保健の現場では(担当も、転勤のため数年でかわ
のビデオも2回見ましたが、また新しい視点でみ
る)自ら求めないと臨床でおきている現状が伝わ
ることができました。(K.T)
りにくいと思います。研修会の継続をよろしくお
願いします。
この度は有難うございました。
初めて参加させていただき、ありがとうござい
ました。色々な場面でカウンセリングがつかえる
(A.S)
んだと知ることができました。また、小島先生の
お話も楽しく聴かせていただきました。(K.M)
とても楽しかったです。
日ごろの業務に生かせそうです。他職種との研修
機会も少ないので、貴重な経験となりました。
カウンセリングというと、なにか話をしなくて
はと考えていましたが、だまって聴く、くりかえ
(K.T)
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1999/9
カウンセリング講習会
す、タイミングをみて話す、というポイントを教
もう少しエイズについての勉強をしなければ、と
えていただき、今後の看護にも役立てることがで
思いました。(R.I)
きると思いました。
また、楽しいロールプレイ(告知したり、患者に
自分がこの仕事に関わる対象はどういう人か、
なったり)を体験することもできました。ありが
どんな状況にあるのか、自分は何をする人か考え
とうございました。(S.M)
た。
この仕事にたずさわる私たちに求められる質・ス
解説がわかりやすくて良かった。
キルも変わりつつある。日々変わる治療の情報の
MSWとして、やれる事、やるべき事が少しずつ
アップデートができるか、具体的なソーシャルソ
分かってきたように思える。私は院内でもっとも
ースの紹介ができるか、予防教育を盛り込んだ相
患者さんと話す時間を許されている者である。そ
談もできるかどうか、再度学びを続けたい。あり
れを喜びとして、もっと勉強したいと思う。
がとうございました。(M.K)
いつも、研修後はもっとがんばらなくては、とい
う気になる。目標が具体化して行くのでうれしい。
視点が偏りがちなので、今回の講習会で少し広
がったかもしれません。(Y.T)
(K.Y)
実際に活用できるカウンセリングのテクニッ
クを聞けて参考になった。ロールプレイングは最
初抵抗があったが、患者の気持ちになることがで
きてよかった。(Y.Y)
定期的にこのような研修会や意見交換の場を
もてたらいいと思いました。(M.U)
大変参考になりました。
是非このような研修を継続していただき、たくさ
んの方に受けていただきたいです。ありがとうご
直接、HIV の患者さんとの関わりはないのでロ
ざいました。(K.S)
ールプレイの場面では大変苦労しました。
日ごろ外来での患者さんとの関わりの中で、訴え
大変ありがとうございました。(M.S)
に傾聴し、聞き返す、という基本的な姿勢は変わ
出席させていただき、いろいろ学べました。あ
らないということを実感しました。(T.M)
りがとうございました。(K.N)
HIV、カウンセリング共にあまり知識のないま
まに参加させていただきましたが、かた苦しい講
義ではなく楽しかったです。
他病院、他職種の人と情報交換できてよかったで
す。
HIV はもちろん、カウンセリングについて、もっ
と勉強したいと思いました。(H.N)
とてもわかりやすく、楽しかった。
実際に患者さんを受け入れている病院の方々と接
することができ、刺激を受けました。
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カウンセリング講習会
楽しい話術で一日半早く過ぎました。
何回か繰り返して講習を受けたいと感じています。
是非お願いいたします。
色々な職種の方と接し、違った視点からの学びも
多かったと思います。お疲れ様でした。
医療従事者(看護婦)であるものの、まだまだ知
この漠然とした恐怖感は、自分をとりまく日常
の小社会に関わるさまざまな不安に基づいたも
のであるように思います。陽性であることを誰
かに打ち明けたいと思いつつも、打ち明ければ
感染に至った自分の行為を非難されるのではな
識不足でこまかな問題がたくさんあることに驚い
いか、これまでどうりに自分のことを受け入れ
ています。(H.W)
てくれるだろうか、拒絶されたらどうしようと
いった、身近な人への告白をどうするかという
問題。パートナーにも検査を勧めるべきだろう
新鮮な経験で良かった。(H.T)
か、パートナーに自分が感染させていたとした
聞き上手になることは、患者さんとのいいコミ
らどうしようという不安。心ない人々に陽性で
あることが知られてしまってたらどうしようと
ュニケーションができると感じました。(M.I)
いうプライバシーの問題、仕事はいつまで続け
られるだろうかという経済的問題と将来的な展
望の喪失感等々の不安。こうした不安が、次々
とと思い巡ったような気がします。こうした問
題については、肉親や配偶者、パートナーなど
に率直に話すことができ、しかもサポートが期
甲信越 HIV カウンセリング講習会に参加して
HIV リサーチレジデント
佐藤
直明
去る 1999 年7月 18 日、19 日の両日、新潟市
において開催された甲信越 HIV カウンセリング
講習会に参加させていただきました。講師の小
島先生には限られた日程のなかで、カウンセリ
ングの基本姿勢、技法についてわかりやすく説
明していただきました。実際にロールプレイを
して疑似体験をすることで、HIV 感染症を取り
巻くさまざまな問題について、より具体的に問
題意識をもつことができ、また言葉ではなかな
か伝わりにくい微妙な問題を非常に感覚的では
ありますが、肌で感じることができたような気
がしました。
待できる状況であれば、精神的な負担はかなり
軽減するのではないかと思われますが、誰にも
告白できずに自分ひとりで対処していかなけれ
ばならない状況では、大変な孤独感に苦しまな
ければならず、その精神的ストレスは多大なも
のとなるでしょう。
カウンセリングは、肉親やパー
トナーといった人たちが与えう
るような安堵感や精神的安定と
いったものと同質のものは与え
ようがありませんが、悩める人が、主体的な力
で社会的・心理的問題を解決し、対処していけ
るよう援助するという意味で非常に重要な役割
を担っているのではないかと感じました。
また一方、HIV 感染者に感染の告知と HIV 治
療の開始を勧めると言う設定で、医者としてロ
ロールプレイで HIV 陽性の検査結果を告知さ
れるという役割を演じ、その心理的状況をシミ
ュレーションした時には、将来的な自分の健康
がどうなるのかといった自分自身の医学的・身
体的な問題に関する不安と同時に、漠然とした
恐怖感のようなものを感じたような気がします。
<27>
ールプレイをした際にも、いくつかの反省すべ
き点がありました。
相談者の話に批判的にならなずにあくまでも中
立的な立場をとり、いわゆる“聞き上手”にな
るのがカウンセリングの基本的姿勢であるとは
理解したつもりでも、ロールプレイの中での相
談者の考え方が私の抱いている道徳的常識と異
なっていたりすると、我慢できずに、それは違
エイズ UpDate ジャパン Vol.1,No.2【関東甲信越ブロック版】
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カウンセリング講習会
うのではないかとつい批評を加えたりしてしま
いました。そうした批評を加えることが、場合
によっては相談者が心を閉ざしてしまったり、
相談者との関係をうまく保てなくなってしまっ
たりする場合があるのだということ改めて認識
しました。
編集後記
■ 何とか No.2 を作成することができ、ホ
ッととしています。関東甲信越ブロックは、
また陽性であることを告知した瞬間、一瞬の
いろいろな意味で大きなブロックで、各地
沈黙が流れましたが、私はその沈黙に耐えられ
域の HIV 診療の状況や抱える問題点は大
ず、相手が必要以上に悲観的にならないよう力
きく異なっています。今回、長野県の取り
づけなければならないとか、治療の必要性を説
組みについて、長野赤十字病院の斉藤先生
明して治療の開始を説得しなければ、とかなり
から原稿を頂きました。診療ネットワーク
一方的に話をしていたような気がします。こう
の構築や全県下の医療機関へのアンケート
した状況では、告知された方はさまざまな不安
調査など、大変参考になりました。今後も
が頭を駆けめぐってパニック状態に陥っていま
各地の取り組みについてお聞きしたいと考
すから、矢継ぎ早に医学的知識を説明されても
えておりますので、ご協力をお願いします。
ほとんど頭に入らないというものでしょう。医
療従事者は特にそうですが、医学的妥当性を強
■ エイズ予防財団がおこなっている海外
調して論理優先に話をする傾向があるように思
研修に参加した方々から、報告を頂きまし
います。まず相手の心理状態に心をくばり、相
た。このような経験を積んだスタッフが、
手に共感して、ある程度の余裕ができたところ
医療現場における HIV 診療の中心的な存
で話を進めるべきものなのでしょう。
在として活躍できるようにすることが大切
HIV 感染症についてのカウンセリングの難し
ですね。
さの一つは、画一的な解答が出せない問題を扱
う場合が少なくないことではないでしょうか。
■ 今日、医療を取り巻く環境は大きく変
小島先生は HIV 感染妊婦の出産を一例にあげて、
化してきており、今後、HIV 診療に限らず、
出産を勧めるかどうかについての問題を提示さ
あらゆる臨床の場でカウンセリングマイン
れました。母子感染を免れ分娩できたとしても、
ドがますます重要になると思われます。今
出産後に母親が AIDS を発症し、十分に育児がで
回の講習は、時間も短くカウンセリングの
きなかったとしたら、などありとあらゆる可能
入り口に立っただけでしたが、参加者には
性を考え始めるとなかなか単純に答えは出せま
カウンセリングについて考えてもらう良い
せん。その人にとって何が最良の選択となるか
機会になったと思います。今後も研修が継
は、個々人の人生観、価値観、社会環境、人間
続できるよう努力します。
関係などによって決定されるべきものなのでし
ょう。そしてそうした決定が、本人と家族、医
療従事者、カウンセラーとの共同作業のなかか
ら、本人の主体性に基づいてなされることがで
■ 関東甲信越ブロックでは、HIV に関す
る情報を E-mail で交換しています。参加
ご希望の方はご連絡下さい。
きれば理想的といえるのではないでしょうか。
以上今回の講習会に参加しての感想を述べさ
せていただきました。今回の貴重な体験をきっ
かけにしてカウンセリングの基本姿勢を習得し、
日々の診療に生かすことができればと思ってお
ります。
以上
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★ 感想、ご意見、ご不満、文句など、
何でもお待ちしております。
宜しくお願いします。