胆道癌の遠隔成績からみた外科治療上の問題点と対策

日消外会誌 21(4):1179∼ 1182,1988年
特集 6
胆道癌 の遠隔成績 か らみた外科治療 上 の問題点 と対策
東京女子医科大学消化器病 センター外科
吉川 達 也
羽 生富 士 夫
大橋 正 樹
鈴
梁
新 井 田違雄
英 樹
木
衛
中 村 光 司
三 浦
延
修
島 茂 人
泉 俊 秀
江 口 礼 紀
今
松
山 秀 樹
EVALUAT10N OF SURGICAL TREATMENT FOR CANCDR
OF THE BILIARY TRACT
Tatsuya YOSHIKAWA,Fttio HANYU,Mitstti NAKAMURA,
Toshihide IMAIZUMI,Masaki OHASHI,Mamoru SUSUKI,
OsaIIlu MIURA,Reki EGUCHI,Hideki RYO,
Tatsuo ARAIDA,Shigeto NOBUSHIMA and Hideki MATSUYAMA
Department of Gastroenterological Surgery,Tokyo WVomen's Medical College
胆道癌切除例2 2 9 例の遠 隔成績 を検討 し, そ の 問題 点 と対策 につ いて考察 した 。乳頭部癌 の遠隔成績
は 5 生 率4 5 % と 胆道癌 の 中 で は比 較的良好 で あ ったが1 4 リンパ 節再発 が1 6 % に み られ, 同 部 の十分 な
郭清 が重要 であ る。胆嚢癌, 胆 管癌 の 5 生 率 は それぞれ3 5 % , 2 2 % と 極 めて不 良 であ った。治癒切除
す ぎず, 非 治癒切 除 とな った因子 の多 くは局所 因子 で, しか も再発様式 が
確認 で きた 症例 の それぞれ8 4 % , 7 4 % に 局所再発 がみ られた。これ らの事実 か ら, 胆 管癌 で は s u r g i c a l
m a r g i n に おけ る癌遺残 をな くす ための よ り広範 な切除, 胆 襲癌 では, こ れ に加 え広範 な リンパ 節郭清
率 は それぞれ5 0 % , 2 3 % に
が必要 で あ る。更 に胆嚢, 胆 管癌 では時 には肝十 二 指腸間膜 一 括切除 も考慮す る必要 が あ る。
索引用語 1 胆道癌, 胆 道癌 の外科治療, 胆 道癌遠隔成績
は じめに
1)で乳頭部癌,胆 管癌,
胆道癌 は,胆 道癌取扱 い規約
胆嚢癌 の 3つ の癌 を含 めた もの と規定 されて い るが,
330例 ,切 除率50%で あ る。切除例 の部位 別内訳 は,乳
これ らの胆道癌 の外科治療成績 は,癌 の部位 に よって
除例 229例 につ いて,乳 頭部癌,胆 管痛,胆 襲癌 の部位
房uに遠 隔成績 を検討 し,外 科治療 上 の問題点 と対策 に
かな りの差果 がみ られ る。 した が って,胆 道癌 の外科
治療成績や問題点 は一 様 に論 じられ ない こ とか ら,本
頭部癌 89例 ,胆 管癌 117例 ,胆 嚢痛 123例 ,原 発 不 明肝
門部癌 1例 であ る.原 発 不 明肝 門部癌 1例 を除 いた 切
つ いて考察 した 。
稿 では乳 頭部癌,胆 管癌,胆 嚢癌 のおのおのにつ いて
当 セ ンタ ーで の 外 科 治療 成 績 と問 題 点 に つ い て 述 べ
1.乳 頭部癌
る。
1)切 除例 の手術術式
対象 な らびに方法
1968年1月 か ら1986年12月までの過去 19年間 に当 セ
ンターで経験 した胆道癌症例 は660例で,う ち切除例 は
※第30回日消外会総会 シンポ 11遠 隔成績 から見た消
化器外科治療 の問題点 と対策
<1987年10月12日受理>別 刷請求先 :吉川 達 也
〒162 新宿区河田町 8-1 東 京女子医科大学消化
器病 センター外科
結
果
切除例 89例 の術式 は膵頭十 二 指腸切 除 (以下 PD)85
例,膵 全摘 1例 ,乳 頭部切除 3例 で あ った。治癒切除
率 は82.3%で あ った 。
2)切 除例 の stage
乳頭部切除 3例 と膵頭部癌 との重複例 1例 を除 いた
切 除 例 85例 の,胆 道 癌 取 扱 い 規 約 めに よ る進 行 度 は
stage 1 11例 (13%),stage I1 32例
12例 (14%),stage IV 30例
(38%),stage III
(35%)で
あ った。
184(1180)
胆道癌 の遠隔成績 か らみた外 科治療上 の問題点 と対策
図 1 乳 頭部 癌 切 除例 の s t a g e 別生存 率 ( K . M 法 )
'86.12)
(1968.1∼
日
消外会誌 21巻
4号
表 2 胆 管癌 の切除術式
生 存毒 (%)
占 居 都 位
術
症例政
式
1例
4
・
肝 養 切 除
7
肝内部阻 管お
芭死例 (直死率 )
例
5
︲
拡 大肝養 切 除 Ⅲ
肝 門部肝切 除 苺
7
︲
ぴ〕
官
侶
席 向 諄 阻 管切 族
"ヽ It
43例
中上 部胆 管 切 際
際 頭 + 二 指鵬 切 除
小
下部寝苦お
(Di)
2
2
(Bm)
3
計
藤 頭 十 二 指 B8切 除
Ⅲ
29,日
4a(14%)
43例
6例
,17働
針
表 1 乳 頭部癌 の 立age別 再発形式
(14%)
6
中都阻菅結
6例
1 肝 内部 所 切 除
(13%)
16例 (14%)
図 2
胆 管癌切 除例 のs t a g e 別
生存 率 ( K M 法 )
(1968。1∼ 1986. 12)
生■率 (%)
1
il笥
――
>
e9
‘
a 〓
€GL:1. E,+ht. E+:trti+r[oat
3)stage別 生存 Σ
率
切除例 の Kaplan,Meier法 に よる生存 率をみ る と,
全体 で は 5生 率 は45%で あ る。stage別にみ る と stage
Iの 5生 率 は100%と 極 め て 良 好 な 成 績 で あ る が,
表 3 胆 管癌 の再発形式一再発が確認 された31例一東
'86.12)
京女子医大消化器病 センター (1968,1∼
stage H以下 では癌死 がみ られ ,特 に stage IVでは 5
生率 10%と ,極 めて成績不良であ った (図 1).
4)再 発様式
14
0
stage別の再発様 式 につ いて み る と,主 な もの は14
リンパ節再発 と,肺 肝骨 な どの遠 隔転移,特 殊型 とし
て 手 術操 作 に よる術 中散 布 と思わ れ る腹 膜 播 種 な ど
で,いずれ も stageが進 む につ れ て,頻度 が高 くな って
いた 。14リ ンパ節再発例 の多 くは,標準的 PDが 行われ
た Rl症
例 で あ った (表 1).
1)切 除例 の手術術式
切 除例 117例の術 式 は部位 お よび進 行度 に応 じて多
種多様 の術式 が選択 された.血 管合併切 除 は 6例 に行
われた 。組織学的治癒切 除率 は23%に 過 ぎなか った (表
2),
2 ) 切 除p l l のs t a g e
1
1( 08 例
.5%),stage
(8.5%), stage H1 68例 (58%), stage IV 29例 (25%)
で あ った。
2
4
12
3)stage別 生 存率
切 除例全体 の 5生 率 は22%で あ る。stage別にみ て
み る と,stage Iの 5生 率85%に 対 し,stage IIから急
2.胆 管癌
進 行 度 は, s t a g e
4
(23%)
I1
激 に不 良 とな り,stage IVで はわ ず かlo%に す ぎな い
(図 2)。
4)組 織学的非 治癒切除 とな った 因子
切除例 中,肝 側胆管 断端 hw(十 ),十 二 指腸側胆管
断端 dw(十 ),景J離面断端 ew(十 )が それぞれ55.5%,
58%,74%と 高頻 度 にみ られた 。
1 0 5)再
例
発様式
以上 の結果 を反映 して術後再発様式 を検討 して も,
局所再発 が74%と 最 も多 くみ られた (表 3).
185(1181)
1988年4月
1∼
表 4 胆 裏癌 の切除術式 ( 1 9 6 8 。
'86.12)
表 5 胆 嚢癌治癒切除例 の再 発様式 - 1 9 例 一 ( 相対的
非治癒切除を含む)
切 除 数 ( 治練切 際数 )
旭お十リンパ節郭活
″+そ
12例 (63%)
の他 の康 器 合併切 際
4例 (21%)
肝床切除
席床切 際+ 胆 書切 榛
=
3例 (16%)
(拡大 )肝右泰切 際
″ 十 胆 誉切 際
肝床切 際+障 頭切 際
19例 (100%)
草
(拡大)肝右豪切除十藤頭切際
では ew因 子 が最 も大 きな非治癒 切 除 の 因子 とな って
いた.
5)再 発様式
剖検 あ るいは臨床的 に確認で きた19例につ いてみ る
胆 嚢癌切 除例 のs t a g e 別
生 存 率 ( K . M 法)
'86.12)
(1968.1∼
図 3
生存率 ( a / c )
と,局 所再発 あ るいは局所再発 を伴 った遠隔転移 が合
わせ て84%に み られ,局 所再発 が再発様式 の主 因を 占
めていた (表 5).
考
察
1.乳 頭部癌
予後不 良 な胆道癌 の 中 にあ って乳 頭部癌 の外科治療
成績 は比較 的 良好 で あ るの。 しか し,自 験 例 をみ て も
44%に 再発 がみ られ決 して満足す べ き成績 ではない。
癌 深達 度 か らみ て,Oddi氏 筋 を破 らな い早 期 症 例 で
は,ま ず 永久治癒 が得 られ てい る半面 ,Oddi氏 筋 を破
る症例 で は術後 2∼ 3年 を経 てか らの14リ ンパ節 を中
3 . 胆 嚢癌
心 とした再 発 で死亡 した ものが少 なか らず み られた。
1 ) 切 除例 の手術術式
通常,乳 頭部癌 は治療成績 が よい ことか ら, えて して
標準的 PDが 行われ る ことに問題 が あ る。乳頭部癌 と
切 除例 1 2 3 例の手術術式 をみ る と, 多様 な進展様式 の
ため に さまざまな術式 が とられ てい る。組織学的治癒
切 除率 は5 0 % で あ った ( 表 4 ) .
2 ) 切 除例 の s t a g e
の行度 は, s t a g e 1 2 6(例
21%),
胆襲癌切除例 1 2 3 a l l 進
stage I1 22例 (18%), stage II1 15例 (12%), stage
IV 60例 (49%)で あ った。
い え ども,14リ ンパ節 の十 分な郭清 が必要 で あ る。
2.胆 嚢癌,胆 管癌
胆管癌 ,中 で も肝 門部,中 部胆管癌 の外科治療成績
は極 めて不 良 で あ る。り。そ の理 由 として癌腫 は局所 に
留 ってい るに もかかわ らず,そ の生物学的特性 か ら,
浸潤傾 向 が強 い ことや ,解 割学 的制約 か ら胆管側 断端
3)stage別 生存率
や剣離面 断端 の局所 因子 のため に非 治癒切 除 に終わ る
切 除例全体 の 5生 率 は35%で あ る。 stage別にみ る
こ とが多 い ことが あげ られ る。 自験例 で も対切除治癒
切除率 はわ ず か23%に す ぎな い。こ の こ とは局所再発
が多 い こ とか らも うなづ け る。 一 方,胆 嚢癌 の外科治
療成績 は,胆 管癌 に比 べ ,早 期例 が 多 くなって い る分
と,stage Iは 5生 率 100%と 良好 な成績 を示 して い る
が,stage IIに な る と 5生 率35%と 歴然 とした差 がみ
られ,stage III,IVに至 っては 5生 率 はな く惨謄た る
成績 を示 してい る (図 3).
4)組 織学的非 治癒切除 とな った因子
切除例全体 で は肝床側 断端 hw(十 ),胆 管側 断端 bw
(十),景J離面断端 ew(十 )がそれぞれ53%,44%,51%
とほぼ均等 にみ られたが,stage別 にみ る と,立 age IV
関 して
だ け,幾 分,治 療成績 も良 いが, こ と進行4/1に
つ
は slow growingな 傾 向 を も 胆 管 癌 よ り不 良 で あ
る。胆嚢癌 の進展様式 は多彩 で あ るが, この うち胆襲
癌 の予後 を不 良 に してい る大 きな進展様式 としては,
肝 十 二 指 腸 間 膜 浸 潤 と リ ン パ 節 転 移 が あ げ られ
186(1182)
胆道癌 の遠隔成績 か らみた外科治療上の問題点 と対策
日
消外会誌 21巻
4号
る' 0 . 対 切除治癒切 除率 は5 0 % で , 非 治癒切 除 とな っ
た 因子 の多 くはや は り局所 因子 で, 特 に進 行癌 で は肝
十 二 指 腸 間膜 剣 離 面 に お け る e w 陽 性 が 主 体 で あ っ
郭清す るため には,PDが
た。再発様式 をみ て も, 局 所再発 が 多 く, これ らの症
例 では肝十 二 指腸間膜 や リンパ 節 か らの再 発 が示唆 さ
以上,乳 頭部癌,胆 管癌,胆 嚢癌 の外科治療成績 に
つ いて検討 し,外 科治療上 の 問題点 と対策 につ いて考
れた。
察 した 。胆道癌 にお いては,外 科治療 以外 に有効 な治
療 法 が ない現状で, しか も,局 所再発 が極 めて多 い事
したが って, これ らの外科治療 上 の問題 点 に対す る
対策 として胆 管癌 の長軸方 向進展 に対 しては, 肝 側 に
は肝切除, 陣頭側 には P D で 対処す るが, 肝膵 同時切 除
も必要 に よって行 う。しか し肝側胆管浸潤 に対 しては,
時 として拡大肝美切 除 を行 って も限界 が あ る。 これ に
で あ る.わ れわれは,13,14,16の
リンパ節 を確実 に
不 可欠 と考 えて いる,
おわ りに
実 を考 える と,外 科医 としては乳頭部癌 では14リンパ
節 の十 分 な郭清 ,胆 管癌 では surgical marginを
陰性
にす る こと,胆 嚢癌 では これ に加 え広範 リンパ節郭清
対 しては, 現 時点 で期 待 で きる補助療法 としては, 放
を行 うな ど,治 癒切除 に向 か って最大 限 の努力 を払 う
べ きで あ り,胆 道癌 の縮小手術 を云 々す る時期 で はな
射線療法 しかないで あろ う. 胆 嚢, 胆 管癌 の肝十 二 指
い ことを強調 した い。
腸間膜 内進展 に対 しては, 浸 潤高度例 では主 要 血 管 を
文 献
1)日 本胆道外科研究会編 i外科 ・病理担道癌取扱 い
規約.第 2版 .金 原出版,東 京,1986
を e n b 1 0 c に切 除す る拡大 肝右葉, 肝 十 二 指腸間膜,
2)羽 生富士夫,今泉俊秀,中村光司ほか t早期乳頭部
膵 頭 十 二 指 腸 切 除 , H e p a t Ol ‐
i g a m e n t o ‐
癌 の概念.胆 と際 5:847-852,1984
pancreatoduodenectomy(HLPD)が 最 も根治的であ
3)中 村光司,羽生富士夫,今泉俊秀ほか :肝門部胆管
る。 われわれ は,担 嚢癌 の 2例 ,肝 門部胆管癌 の 1例
癌 の外科治療 の問題点一 とくに切除例 か ら一.日
に,本 術式 を行 った。し か し,本 術式 は侵襲 が大 きい
消外会誌 17:1694-1697,1984
4)羽 生富士夫,江 口礼紀,中 村光司 ほか :中部胆管
ため,適 応 を厳 し くす る必要 が あ る。し たが って,本
癌.葛 西洋一 編.外 科 Mook,40閉 塞黄疸の処置.
術式 の適応 とな らない症allに
対 しては,剣 離面 に対す
金原出版,東 京,1985,p102-111
る術 中,術 後 の放射線療 法 を付加す る方針 を とってい
5)吉 川達也,羽生富士夫,中村光司ほか :胆妻癌 の治
る。切除 と放射 線 治療 の併用療法 は,ま だ症例数 が 少
療 一胆 褒 癌 拡 大 手 術 の 意 義. 胆 と 解 4 :
な く,そ の有効性 につ いては評価 で きる段階 ではない。
1251--1261, 1983
6)羽
生富士夫,吉川達也,梁 英 樹 :胆妻癌 の進展様
さ らに,胆 嚢癌 で は これ らの surgical marginに
対す
式からみた手術術式.胆 と膵 8:123-131,1987
る対処 に加 え,広 範 リンパ節転移 に対す る対処 が 必要
残 した 郭清 にはや は り限 界 が あ る。理論的 には全間膜