財政シミュレーションモデル開 発においては、地方都市の活動 - 土木学会

IV-142
土木学会第58回年次学術講演会(平成15年9月)
地方都市総合開発計画推進と合理的事業推進のための都市マネジメント体制と
財政シミュレーションシステム活用に関する実証的研究
立命館大学理工学部 正会員
滋賀銀行
立命館大学大学院
立命館大学大学院
1.はじめに
本論文では、地方の中核的都市の健全な発展をめざして計
春名 攻
正員
森下 剛志
学生員 ○渡邉 朋彦
学生員
岩坂 孝時
公共セクター
国・県
画されるとともに、事業化され、実施される各種の社会基盤
整備事業や都市開発事業の主要な事業効果を財政という側
依存財源
地方債
住民税(個人)
住民税(法人)
固定資産税
歳入
モノに対する経常経費
モノに対する経常経費
ヒトに対する経常経費
ヒトに対する経常経費
投資的財源
投資的財源
地方債償還費
地方債償還費
その他
その他
面から捉えて分析した研究に関して論じる。ここでは、現在
都市開発・整備が促進され人口も順調に増加している滋賀県
社会基盤整備量
社会基盤整備量
交通基盤整備量
交通基盤整備量
社会基盤ストック
交通基盤ストック
草津市を対象に、先述のように公共事業の実施によってもた
民間2次産業立地
2次産業ストック
らされる地域社会発展・経済振興等の効果とそれに伴う税収
2次産業整備量
2次産業整備量
1次産業ストック
増加を、都市内の財政シミュレーションモデルとして現象合
1次産業整備量
1次産業整備量
商業基盤ストック
商業基盤整備量
商業基盤整備量
民間3次産業立地
サービス産業ストック
理的に捉え、これを活用してこれらへの事業投資が事業目的
サービス産業整備量
サービス産業整備量
生活基盤ストック
に対して効果的で効率的あるかどうかを判断する方法を提
生活基盤整備量
生活基盤整備量
消費支出
娯楽基盤ストック
娯楽基盤整備量
娯楽基盤整備量
文化・学術基盤ストック
案するとともに、この方法を経年的に事業推進をコントロー
文化・学術基盤整備量
文化・学術基盤整備量
全国消費水準
福祉基盤ストック
ルしていくという、都市・地域マネジメント的な観点から方
歳出
歳出
福祉基盤整備量
福祉基盤整備量
防災基盤ストック
防災基盤整備量
防災基盤整備量
全国商品需要
法論を構築し実証する事を論じている。
2.地域活動シミュレーションモデルの基本概念
本研究では、財政シミュレーションモデルは「地方
財政の健全性確保、並びに、都市開発整備事業の効果
把握、効率的な投資のあり方の検討を具体的に行うこ
工業生産額
人口
人口
商業販売額
従業者数
従業者数
農業生産額
所得
所得
地域経済セクター 地域社会セクター 地域社会セクター 図1 地域活動シミュレーションモデルの構造図
とができるツール」という機能を持つべきであると考
えて開発を進めた。財政シミュレーションモデル開
また、基盤ストック整備状態の変化により社会・経
発においては、地方都市の活動現象との関わりで財
済活動も変化して各セクターの状態に影響を与え
政問題を的確に把握するために、まず、全体の財政
る形とした。図1に財政シミュレーションモデルの構
造図を示した構造方程式はこの構造図をもとに定式化
問題を財政、経済、社会という3つの分野に分類し
て捉えていくこととした。次に、これら地方都市財
政を取巻く各種社会経済活動の関連関係を時系列分析
を行った。なお、定式化した構造方程式は紙面の都合
によって求めるとともに、この分析にもとづき財政シ
3.マルチプロジェクトプランニング&スケジューリ
上割愛し、発表時に示すこととする。
ミュレーションモデルを具体的に構築していくことと
ングモデル(MPPS)に関する考察
した。なお、財政、経済、社会の各セクターは、都市
本研究では計画化された都市機能設計計画の実現化
社会基盤整備状態を中心に相互影響関係を持つ関連構
のために構想された複数プロジェクトの事業化、建設
造として定型化・定式化した。ここでの中心的検討対
段階での計画課題やプロジェクト間の関係に関する先
象である財政セクターは、主として税収を歳入、経常
取り的な分析・検討機能を中核に据えたシステムズア
経費や投資的財源を主とした歳出という関係で構成さ
プローチのもとに総合的都市整備計画の各種システム
れている。また、社会セクターにおいては人口動態お
モデルの開発研究を構想している。このうちの大規模
よび労働力の流出入を表したが、経済セクターにおい
都市開発や基盤整備計画とそれら全体の事業化が及ぼ
ては各産業の活動状態を捉えた形で表すこととした。 す影響・効果を、シミュレーション分析を通して客観
キーワード:都市財政、基盤整備、事業効果、MPPS
〒525-0058 滋賀県草津市野路東 1-1-1 イーストウィング 4F 都市・地域計画研究室
-283-
IV-142
土木学会第58回年次学術講演会(平成15年9月)
的に捉えることとした。さらに、効果的な都市財政や
ここで、本研究で開発した財政シミュレーションモ
これら多くのプロジェクト群(代替案)の合理的な実
デルを用いて対象地である滋賀県草津市が抱えている
施計画に関する先取り的検討を行うことを目的として、 草津川廃川跡地プロジェクトをはじめとする大規模な
神戸大学教授竹林氏の理論であるMPPSを用いることに
プロジェクトについて、従来までの草津市が行ってき
より、地方都市開発事業がより効率的で効果的な提案ができ
た投資を続けた場合(トレンド投資)とこれらのプロ
るよう、財政シミュレーションシステムの開発を行っていく。 ジェクトを実施した場合、及び本システムを用いた合
なお、MPPS の詳しい内容と定式化した構造方程式につい
理化的案を実証的に比較することとした。
結果の一部を示すと、財政面歳入に関しては合理化
ては紙面の都合上割愛し、発表時に説明することとする。
4.財政シミュレーションモデルの基本概念
案とトレンド投資の間に計画全体を通じて942億の
財政シミュレーションシステムは、大規模な土地開発計画
差額が生まれ、また人口に関しても20年後では16
の個々の事業が計画全体に与える影響を、貨幣タームをはじ
万7千人と12万2千人という差が認められた。
なお、
めとする地域の社会経済指標を用いて計測できるシミュレ
プロジェクトの詳しい内容と分析結果のグラフについ
ーションシステム(地域活動シミュレーションモデル)と、 ては紙面の都合上割愛し、発表時に示すこととする。
設定された目的に応じて最適なプロジェクト実行スケジュ
本研究では、開発したシステムを用い、トレンド投
ールを与えることのできるマルチプロジェクトプランニン
資や合理化しない比較代替案と合理的案を比較検討し
グ&スケジューリングモデル(MPPS)によって構成され
た結果、財政面で合理的なスケジューリングをした複
るシステムを意味する。すなわち、特定のプロジェクトスケ
合プロジェクトは、地域社会・経済面においても大き
ジュールが地域に与える影響を計測するシステムが地域活
な効果のあるプロジェクトを提示する事ができたと思
動シミュレーションモデルであり、−方、その社会経済シス
われる。特に、トレンド投資と合理的投資を比較した
テムで計測・評価された値をもとにスケジュールを最適化す
とき、短期的にはあまり効果のない合理的投資が、長
期的にはトレンド投資をはるかに上回る計画であると
開発の背景
開発ニーズ
上位計画
③
いう結果から、プロジェクトの効果を長期的視野で評
事業化環境
①
都市・地域開発政策
(Master Planning)
価するといった課題をある程度クリアできたと思われ
情報収集
②
開発の基本方針
都市・地域開発
プロジェクト構想計画群
る。そして、プロジェクトを合理化しない比較代替案
⑧
NO
計画目標を
満足するか
④
⑥プロジェクトの変更
YES
開発計画の決定
⑦
との比較から、個々に計画されていたプロジェクトを
実施
複合化することにより、工期の縮小を実現し、その工
⑤
期が縮小する事ができたことによって、
計画が早まり、
ハイブリッド型 財政シミュレーションシステム
効果を通常より早く生みだす事ができた。
これにより、
地域活動 シミュレーションモデル
後に行われるであろう、その他の大規模プロジェクト
シミュレーション MPPS
結果(投資的財源)
・計画最適化の規範となるモデル
や基盤整備がより一層スムーズ且つ多く行うことが出
・プロジェクトネットワークの策定
・財政の現象をつかむためのモデル
・プロジェクトネットワークの変更
・MPPSによる実蚕順序の評価、
・地域活動シミュレーションモデル
効果の計測
の結果を受けての最適スケジュ
・戦略的シナリオの多元評価
来、草津市の発展につながると思われる。
6.おわりに
今後の課題として、本研究で用いた地域活動シミュ
ールの決定
プロジェクト内容 ・プロジェクト実施成立条件の確認
(基盤整備量 他)
レーションモデルについてであるが、社会基盤を8分
割し分析を行っている。しかし、防災基盤や情報基盤
といった数字では表現しにくい項目を生活基盤に組み
図2 財政シミュレーションモデルの構造図
込んだ形となっている。つまり、個々の基盤整備につ
るシステムがMPPSである。財政シミュレーションシス
テムはこの両者をハイブリッド化することで、実施段階で現
出する効果、あるいは個々の事業が独立して想定している効
果の現出を、基本計画立案段階から検討することを可能とす
るモデルである。モデルの概念図は以下に示した。(図2)
5.財政シミュレーションモデルを用いた実証分析
いて投資効果の詳細な影響関係を完全に突き詰めてい
るとは言えない。今後この点や、社会や経済セクター
についても更に詳細な影響関係を把握することが投資
効果把握のため、そしてより正確な地域の現象を捉え
るために必要ではないかと思われる。
-284-