日本版マスタートラストに向けたシステム機能 NRI(野村総合研究所)の研究部門では、数年来、米国のマスタートラスト (Master Trust)の事例、成長過程などの研究を行ってきた。本稿では、あえて「日 本版マスタートラスト」と称し、米国のマスタートラストとの相違点を明らかにした うえで、必要となるであろうシステム機能の例を紹介し、今後の展望を述べる。 米国のマスタートラストの発展 米国では1970年代後半に、企業の財務部門 の管理を支援する機能として、マスタートラ 資産の簿価残高と損益管理)、⑨顧客への資 産運用結果(収益、要因分解)の開示、⑩年 金給付サービス――である。 ストが登場した。80年代に、年金の受託者責 ①∼⑧の機能が有機的かつリアルタイムに 任が明確化されるにともない、企業の年金財 連携して一元的に管理されることにより、⑨ 務部門および投資資産の現状の速やかな把握 顧客への資産運用結果(収益、要因分解)の とリスク管理業務の重要性が認識され、一元 開示が可能となる。 的な資産状況を把握するサービス競争が加速 した。同時に資産運用会社と資産管理会社の 責任範囲が明確化され、それぞれの役割分担 に沿ったシステムが発展する下地が整った。 日本版マスタートラストの目的と課題 日本版マスタートラストの目的は、①管理 機能の統合によるコスト削減、②年金スポン これらの状況から、サービスの競争=シス サーに対する情報提供および報告機能の充実 テム機能の充実競争となり、マスタートラス (一元化)、③信託銀行の機能分割(資産運用 トとしてのシステムが、整備されていった。 機能と資産管理機能の分割)――である。 現状の資産管理形態は、信託銀行、生保と 米国のマスタートラストのシステム機能 米国のマスタートラスト機能とは、大まか には以下の10の機能を装備している。 もに自社での有価証券の現物管理が標準であ る。また、信託銀行、生保ともに合同運用を 行っている場合が多いため、米国のようにマ すなわち、①取引(証券・資金)決済と現 スタートラストが一元管理することは、当初 物残高管理、②利金配当金受取、③権利配当 からは難しいといえよう。さらに、米国と違 情報管理、④キャッシュマネジメント(決済 って、年金基金の財務担当者、資産運用者、 資金の適正配置と流動性管理)、⑤為替取引 資産管理者まで含めた受託者責任が明確化さ サービス、⑥保護預かりと常任代理人サービ れていない現状では、有価証券資産の一元管 ス、⑦セキュリティレンディング(有価証券 理は逆に危険であるともいえる。 の貸付業務)、⑧ポートフォリオ経理(運用 8 一方で、海外資産の管理では、信託銀行、 システム・マンスリー 2000年3月 生保ともに全世界を網羅する有価証券決済・ 年金基金 保管業者をほぼ全面的に利用しているのが実 態である。米国のマスタートラストにおける サービスのレベルまで対応するためには、さま ざまなシステム構築が必要となると思われる。 信 託 銀 行 日本版マスタートラストの第1段階として る一元的な情報提供と報告に特化した形態と 思われる。これは、米国のマスタートラスト 生 保 ︵ 一 般 勘 定 ︶ 生 保 ︵ 第 一 特 約 ︶ 生 保 ︵ 第 二 特 約 ︶ 【拡張SYNTAX】 日本版マスタートラストのシステム機能 は、年金スポンサー(年金基金など)に対す 投 資 顧 問 会 社 日本版マスタートラスト 【PLEIADES/GAMMA】+付加価値機能 【TriMaster/SL】 (セキュリティレンディング) 図1 NRIの提供するシステム(第1段階) における資産運用結果の開示に相当する部分 ム)などのパッケージソフトウェアおよびサ だけを行うものである。これが「日本版マス ービスを、日本版マスタートラスト向けに提 タートラスト」と称した意味である。 供している(図1参照)。 日本版マスタートラストの最低限必要な基 本的機能に、①財務担当者向けレポート作成 今後の展望 代行、②コンプライアンス(法的準拠性)チ 2002年度に決済時限短縮(T+1)が本格化 ェック、③投資ガイドラインのチェック、④ した場合、各社で現物管理を実施し、ポート パフォーマンス評価基礎データおよび資料作 フォリオ経理まで行い、情報を集約させるこ 成――がある。また、付加価値機能として、 とになる。同時に、マスタートラストのミッ ⑤セキュリティレンディング、⑥通貨別の余 ションである「的確な情報をタイムリーかつ 資運用、⑦リスク管理に基づいた全資産の適 速やかに委託者および基金担当者などへ報告 正運用――などがあげられる。 する」ことを実現しなければならない。 NRIは、各資産管理機関からの情報集約に 日本版マスタートラストの第2段階では、 ついてはネットワークサービス(拡張 現行システムとはまったく異なる有価証券現 SYNTAX:信託銀行データディスクローズシ 物、決済、キャッシュマネジメント管理シス ステムネットワーク)を、また、基本機能と テム、ネットワークの構築、システム連携が 付加価値機能についてはPLEIADES/GAMMA 必要となると同時に、業務オペレーションの (運用資産評価分析システムサービス)や TriMaster/SL(ストックレンディングシステ システム・マンスリー 2000年3月 根本的な改革が必要となる。 (野村総合研究所 上妻英三) 9
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