原 著 重金属フィルタによる患者被曝線量の低減と 画質 - MT Pro

重金属フィルタによる患者被曝線量の低減と画質
(コントラスト)
の改善
(大石・他)
109
重金属フィルタによる患者被曝線量の低減と
画質
(コントラスト)
の改善
原 著
大石誉奈・佐野裕一・吉田賢一・岩永秀幸・安井謙一郎
藤本和男1)・西村泰子2)・大塚昭義3)・真田泰三
論文受付
2001年 4 月27日
論文受理
2001年 9 月12日
山口大学医学部附属病院放射線部
1)
現 国立岩国病院
2)
現 西村泌尿器科病院
3)
現 新南陽市民病院
Code Nos. 621
732
734
はじめに
スペクトルの長波長成分を取り除くために用いる.通
患者被曝線量の低減は,放射線技術者にとって重要
常,診断に用いるX線スペクトルは広いエネルギー分
な課題の一つである.X線検査では従来から,付加フ
布を有しているが,スペクトルの光子すべてが画像形
ィルタを用いて医療被曝の低減を効果的に行ってき
成に寄与するわけではない.低エネルギー側の光子の
た.フィルタの材質としては,一般にアルミニウムや
大部分は患者に吸収されて,画像形成にはあまり寄与
銅が使用されているが,これらの材質では,被曝線量
せず,結果的に被曝線量の増加をまねく.また,高エ
が低下する利点と同時に,コントラストも低下すると
ネルギー側の光子は,画像のコントラスト低下と検出
いう欠点がある.われわれはこの欠点を補うととも
器に入射する散乱線の増加を引き起こし,画質を低下
に,アルミニウムや銅と同程度の被曝低減の効果が得
させる.これらの低エネルギーおよび高エネルギー側
られる手法について研究した.
の光子を選択的に除去する方法として,高エネルギー
一般に付加フィルタは,X線管から放出される連続
領域にK吸収端をもつ重金属フィルタの使用が考えら
Study of Image Quality(contrast)
and Reduction of Patient Dose
by Using Heavy Metal Filters
YONA OISHI, YUICHI S ANO, KEN-ICHI YOSHIDA, HIDEYUKI IWANAGA, K EN-ICHIRO YASUI,
KAZUO FUJIMOTO,1)HIROKO NISHIMURA,2)AKIYOSHI OTSUKA,3)and TAIZOU SANADA
Department of Radiology, Yamaguchi University Hospital
1)
Pressent address: National Iwakuni Hospital
2)
Pressent address: Nishimura Urology Hospital
3)
Pressent address: Shinnanyou City Hospital
Received Apr. 27 2001; Revision accepted Sept. 12, 2001; Code Nos. 621, 732, 734
Summary
We studied image quality
(contrast)
and patient dose reduction using heavy metal filters in lumbar spine and
abdomen x-ray examination. Heavy metal filters used in this study are gadolinium, holmium and ytterbium and
these combinations. These filters have k-absorption edge in the range from 50 to 70 keV. Image quality and patient
dose in 70-90 kV tube voltage with heavy metal filters were compared with 80 kV tube voltage without filter.
Image quality was improved in four percent and patient dose could be reduced by 30%. However, tube loading
increased from 1.6 to 2.2 times. It was found that the best filter choices gave better image and reduced patient
dose compared to without filter.
Key words: Heavy metal filters, Image quality, Patient exposure, Tube loading
別刷資料請求先:〒755-8505
2002 年 1 月
山口県宇部市南小串1-1-1
山口大学医学部附属病院 放射線部 大石誉奈 宛
日本放射線技術学会雑誌
110
Table 1
The physical properties of metal filters used in
this study.
Filter
element
Atomic
number
K-edge
(keV)
Thickness
(mm)
Cu
29
9
0.11
Gd
64
50
0.1
Ho
67
56
0.09
Gd/Ho
64/67
50/56
0.12
Ho/Yb
67/70
56/61
0.11
Fig. 1 X-ray spectra introduced from reference1,2)
in 80
kV tube voltage with copper, holmium and without
filter.
れる.重金属フィルタを効果的に用いれば,コントラ
2.使用機器および使用フィルタ
ストを従来と同等に保ちながら,被曝線量の低減を行
2-1 使用機器
うことが可能となる.
X線発生装置:KXO-850
(東芝メディカル株式会社製)
今回われわれは,70∼90kVの撮影管電圧を用いる腰
椎と腹部の撮影を想定した研究を行った.数種類の重
X線管:DRX-2903HD
(東芝メディカル株式会社製)
金属フィルタを用いてX線スペクトルを変え,従来よ
総濾過
(2.3mmAl)
りも被曝線量の低減とコントラストの改善が可能か否
蛍光量計:EY-1001D
(トーレック株式会社製)
かを検討した.また,X線管負荷についても検討を加
検出部蛍光体:Q-120
(東芝メディカル株式会社製:
えた
〔受光系にCRのイメージングプレート
(以下,IP)
バリウム系)
を用いたが, 本論文は,おもに入力段階について述べ
線量計:mdh 1015c型
(ラドカル株式会社製)
たものであり,アナログ系での使用も可能である〕
.
検出部:指頭型電離槽
(6ml)
画像処理装置:FCR9000
(富士フイルムメディカル
1.X線スペクトルのシミュレーション
株式会社製)
当院では,腰椎や腹部正面の撮影に管電圧80kV程
フィルタ:X線フィルタセット
(化成オプトニクス
度の線質を用いている.
株式会社製)
80kVにおけるX線スペクトルの例をFig. 1に示す.
ファントム:タフウォータ
(株式会社京都科学製)
このスペクトルは,光子減弱係数データブックと
Birchらによるspectral dataを用いて計算したシミュレ
1,2)
ーションである
.
2-2 使用フィルタ
使用した重金属フィルタは,ガドリニウム
(Gd)
,
80kV でフィルタなし
〔以下,フィルタ
(−)
〕
と比べ,
ホロニウム
(Ho)
,イッテリビウム
(Yb)
単一とその組
0.05mm厚銅
(Cu)
フィルタを付加したものは,低エネ
み合わせであり,フィルタの厚さは,いずれも0.1mm
ルギー成分が大幅にカットされており,被曝が低減す
程度のものを使用した.2 種類の金属を組み合わせた
ると推測される.一方,56keVにK吸収端をもつ
複合フィルタの場合には,厚さ約0.05mmのものを組
0.05mm厚ホロニウム
(Ho)
フィルタを付加したもの
み合わせた.使用したフィルタの特性の一部をTable 1
は,診断エネルギー領域にK吸収端のない銅
(Cu)
フィ
に示す.
ルタを使用したときのスペクトルに比べ,56keV以上
の高エネルギー成分も減少するため,被曝の低減と同
3.方 法
時にコントラストの向上も期待できる.この結果,画
今回,被曝線量の検討には,入射皮膚面位置での吸
像の形成に有用なエネルギー成分が多くなり,より撮
収線量を用いた.吸収線量を求めるには皮膚面の位置
像に適したスペクトルが得られる.
での照射線量を計測し,次式を用いて算出した.
吸収線量=照射線量×BSF×F
……………… (1)
BSF:後方散乱係数
第 58 卷 第 1 号
重金属フィルタによる患者被曝線量の低減と画質
(コントラスト)
の改善
(大石・他)
111
Fig. 3 Relation of relative skin dose to filters and tube
voltage.
Fig. 2 Schematic representation of experiments used in
this study.
F
:吸収線量変換係数
照射線量を求める実験配置図をFig. 2に示す.照射
2
野はIP面において30×30cm とした.腹部撮影を考慮
Table 2
Relation of relative subject contrast to filters and
tube voltage.
Filter element
Tube
voltage
(kV)
Filter(−)
Cu
Ho
Ho/Yb
Gd
Gd/Ho
70
1.00
0.92
1.03
1.00
1.03
1.04
80
1.00
0.94
1.04
1.00
1.03
1.03
90
1.00
0.93
1.00
0.99
0.97
0.98
して被写体には厚さ15cmのタフウォータファントム
を用い,管電圧は70kV,80kV,90kVを用いた.ま
ず,管電圧とフィルタ材質の組み合わせによる被写体
データ収集を行った.このとき,IPの読み取りには
透過後の写真濃度を一定にする必要がある.ただ,本
FIXモード
(S値=400)
を用い,ラチチュードを固定
実験では画像システムにCRを使用しているため写真
(2.0)
した直線階調を使用した.各撮影条件は画像のS
濃度を指標にはできない.そのため被写体透過後の蛍
値が同一になるようにmAs値を調節して照射した.
光量を一定,すなわちS値を一定とする必要がある.
CR-Stationのモニタ上でアルミニウム階段20mmと0
そこでFig. 2の実験配置を用いて各撮影条件における
mmの部位のディジタル値を読み取り,その差をコン
単位mAs値あたりの蛍光量を測定した.蛍光量計の検
トラストとした.
出体にはIPを用いるべきであるが,IPの発光感度
(瞬
時発光)
が低いため,実験では蛍光体としてQ-120を用
4.結 果
いた
〔Q-120は,IPと同じバリウム蛍光体であり,IPよ
撮影条件およびフィルタの種類を変化させたときの
りも発光感度が高い
(発光量が多い)
〕
.また,X線管出
入射皮膚面での相対吸収線量をFig. 3に示す.このグ
力のモニタにはmdh線量計を用いた.
ラフは各管電圧ごとに画像のS値が同一となるように
次に入射皮膚面での照射線量をFig. 2の配置で求め
入射線量を調整し,フィルタ
(−)
の吸収線量を1.0とし
た.被写体の入射皮膚表面と同じ位置にmdh線量計を
た相対値で表している.いずれの管電圧でも被曝低減
配置し,蛍光量の値が同一となる各撮影条件で空中線
効果が最も大きいのは,Cuフィルタであった.80kV
量を計測した.さらに,各撮影条件における線質を求
での被曝低減効果は,Cu:38%,Ho/Yb:32%,
めるためアルミニウム半価層を測定し,実効エネルギ
Ho:26%,Gd:21%,Gd/Ho:23%となった.
ーを求めた.アルミニウム半価層値から実効エネルギ
管電圧およびフィルタの材質を変化させたときの被
ーへの変換にはHubbellの表を用いて算出した3).また
写体コントラストをTable 2 に示す.各管電圧でフィ
式
(1)
のBSFとF値には前越らの文献4, 5)を用いた.
ルタ
(−)
のときのコントラストを1.0とした相対値で示
次に,コントラストの測定方法をFig. 2に示す.厚
してある.フィルタ
(−)
と比較するとCuフィルタで
さ15cmのタフウォータファントムのなかに20mmのア
は,いずれの管電圧のときにも被写体コントラストが
ルミニウムを入れ,被写体とした.なお20mmのアル
低下している.しかし,他の重金属フィルタでは,い
ミニウムは腰椎を想定しているため,タフウォータフ
ずれもフィルタ
(−)
とほぼ同等もしくはやや高い値を
ァントムの下から 5cmのところに配置した.各撮影条
示した.
件で照射した後の画像データをCR-Stationに転送し,
管電圧80kVにおける各種フィルタの被曝線量と被
2002 年 1 月
112
日本放射線技術学会雑誌
Fig. 4 Relation of relative subject contrast to filters and
relative skin dose.
Fig. 6 Relation of effective x-ray energy to filters and tube
voltage.
Fig. 5 Relation of relative tube loading to filters and tube
voltage.
Fig. 7 Relation of relative subject contrast to filters and
relative skin dose.
写体コントラストの関係をFig. 4に示す.縦軸,横軸
ほぼ同等の値を示し,Ho,Gd/Ho,Gdの順に実効エ
ともフィルタ
(−)
のときを1.0とした相対値で示してい
ネルギーの値が低くなった.
る.図の左上にいくほど,被曝が低減し被写体コント
Fig. 7に80kVフィルタ
(−)
を基準とした各管電圧
ラストは向上することを意味する.Cuフィルタで
(70,80,90kV)
時の被曝線量と被写体コントラスト
は,被曝線量は約40%低減するが,被写体コントラス
の関係を示す.グラフの見方は,Fig. 4と同じであ
トも 6%低下している.Ho,Gd/Ho,Gdの 3 種類の
る.各管電圧ごとに 5 種類のフィルタをグループ化し
重金属フィルタでは,被曝線量は20∼30%の低減とな
て表示した.70kVのグループでは,Cuでも10%被写
るが,被写体コントラストは約 2∼4%上昇した. Ho/
体コントラストの向上がみられ,それ以外のフィルタ
Ybの組み合わせは,被曝線量が33%の低減,被写体
は25%近くコントラストが向上した.そのなかで
コントラストはフィルタ
(−)
よりやや上昇していた.
Cu,Ho/Ybは,それぞれ20,10%程度被曝が低減し
各種フィルタにおいて,被写体透過後の蛍光量が同
た.Hoはフィルタ
(−)
とほぼ同じ被曝となった.80kV
一となるmAs値をFig. 5に示す.いずれの管電圧のと
のグループはFig. 4で述べている.90kVのグループで
きもフィルタ
(−)
のときを1.0とした相対値で示す.フ
は,Cuの被写体コントラストが20%低下し,被曝は
ィルタ
(−)
と比較して,Cuフィルタの相対mAs値が1.2
約60%低減した.その他のフィルタは,被写体コント
∼1.4倍と最も低く,Gd/Hoの組み合わせは2.1∼2.2倍
ラストが15%低下,被曝は50%低減した.
と最も高くなった.
Fig. 6に各種フィルタにおける実効エネルギーを示
5.考 察
す.管電圧の値が上がるにつれ,実効エネルギーの値
付加フィルタに関する論文は,数多く見受けられ
もゆるやかに上昇している.最も実効エネルギーの値
る.それらの多くは,X線スペクトルの低エネルギー
が高かったのは,Cuであるが,Ho/Ybの組み合わせも
成分を減少させることによって被曝の低減を目的とす
第 58 卷 第 1 号
重金属フィルタによる患者被曝線量の低減と画質
(コントラスト)
の改善
(大石・他)
113
るものである.
X線管負荷については,Fig. 5 に示すように,フィ
しかし,これらの方法では被曝低減と同時に被写体
ルタなしに対し,Cuフィルタが1.2∼1.4倍,その他の
コントラストも低下するという欠点がある.これに対
重金属フィルタも1.6∼2.2倍となった.この程度の負
し重金属フィルタを用いるとK吸収端が診断領域X線
荷の増加であれば,大容量のX線管や大電流の装置を
の高エネルギー成分上に存在するために,X線スペク
用いなくても,現在のX線装置ならば臨床に応用でき
トルの低エネルギー成分だけでなく高エネルギー成分
るものと考えられる.
も吸収減弱する.その結果,被曝低減だけでなくコン
以上の結果から,Ho,Ho/Yb,Gd/Ho,Gdの 4 種
トラストも同等もしくはやや向上するというメリット
類の組み合わせでは,被曝が20∼30%低減可能で被写
を有している6∼9).本実験の画像システムはCRであ
体コントラストも低下せず,X線管負荷も最大で2.2倍
り,検出器のIPに使われている蛍光体はバリウム
(Ba)
程度におさえられる.そのため,これらのフィルタは
である.バリウムのK吸収端は約37keVであり,重金
管電圧70∼90kV領域における診断用X線のフィルタと
属フィルタと組み合わせると,ここで画像をおもに形
して,高い効果の得られる組み合わせと考えられる.
成する主要なX線エネルギーは, Gd フィルタの場合
このフィルタを臨床に適用すると,若年者の被曝線量
37∼50keV,Ybフィルタの場合37∼61keVとなってエ
を減らしたい腹部領域の撮影
(腰椎,股関節,骨盤な
ネルギースペクトルを従来より狭い範囲に限定でき被
ど)
などで画質を維持しながら,被曝の低減が行える
写体に対してより適正化できる.
ことになる.
フィルタを付加することによって被曝線量,コント
Fig. 6に示した各種フィルタにおける実効エネルギ
ラスト,X線管負荷の三者がどのように変化するのか
ーについて考えてみる.フィルタを付加するといずれ
は重要である.そこでまず被曝の低減について考える
も実効エネルギーは高くなっている.しかし,Table 2
と,Fig. 3に示すように,Cuフィルタが最も高い効果
に示すように重金属フィルタでは,実効エネルギーが
を有している.その他の重金属フィルタの組み合わせ
高くなったからといって,被写体コントラストは必ず
も20∼30%程度の低減が可能なことを示している.こ
しも低下していない.このことは,実効エネルギーと
れは,主としてX線スペクトルの低エネルギー成分が
コントラストは複雑な関係にあり,X線スペクトルの
フィルタ材質によって減少したためと考えられる.
形状がコントラストに大きく影響していることを示し
次にコントラストについて考えてみる.Table 2 に
ている.アルミニウムや銅のように診断領域のエネル
示すように,同一管電圧では付加フィルタ
(−)
のとき
ギー成分上にK吸収端をもたないフィルタでは,厚さ
よりも被写体コントラストが明らかに低下したのは,
が増すにつれ低エネルギー領域だけが低減されるた
Cuフィルタだけである.重金属フィルタでは,フィ
め,実効エネルギーが高くなりコントラストが大きく
ルタ
(−)
と同等あるいは少し向上していた.このこと
低下する.これに対し,重金属フィルタは診断領域に
は,重金属フィルタではCuよりもX線スペクトルの高
K吸収端をもっているため,管電圧と上手に組み合わ
エネルギー成分が低下していることを示している.重
せると,低エネルギー領域と高エネルギー領域の両方
金属をフィルタとして付加してもコントラストが低下
がカットされ,実効エネルギーが高くなってもコント
しないという事実は重要であると考える.
ラストは必ずしも低下せず,被曝線量を低減できると
Fig. 4から,被曝の低減と画質改善の両方の効果に
いえる.
ついて考えてみる.まず,Cuフィルタをみると,被
Fig. 7に示した80kVフィルタ
(−)
を基準としたとき
曝の低減は40%と最も大きいが,被写体コントラスト
における各管電圧時での被曝低減と被写体コントラス
は逆に6%低下し,画質の劣化は避けられない.6%の
トの向上について考えてみる.70kV領域において
被写体コントラストの低下は肉眼でも識別できる
(今
は,Hoを選択した場合,被曝低減は期待できない
回の実験は直線階調で行っている.臨床では,非線形
が,コントラストの向上
(25%)
が可能である.Ho/Yb
のルックアップテーブルを用いて画像を形成する.こ
を選択すれば,10%の被曝低減と20%の被写体コント
の点を考慮すると 6%の被写体コントラストの低下は
ラスト向上を期待できる.Cuを選択すれば,20%被
大きい)
.しかし,Ho,Gd/Ho,Gdの組み合わせで
曝が低減し,10%被写体コントラストが向上する.
は,被曝がそれぞれ約25,25,20%低減し,さらに被
80kV領域においては,Ho/Ybを選択すれば,被写体
写体コントラストは 2∼4%向上した.またHo/Ybの組
コントラストを維持しながら,30%の被曝低減とな
み合わせは,被曝が33%低減,被写体コントラストが
る.Ho,Gd/Ho,Gdの組み合わせを選択すれば被曝
ほぼ同等となった.この結果から,重金属フィルタを
の低減が20∼25%でき,被写体コントラストも2∼4%
用いると,画質を劣化させることなく被曝を低減でき
とやや向上できる.このように,被曝の低減を優先す
ることが分かる.
るか,コントラストの向上を優先するかによってフィ
2002 年 1 月
日本放射線技術学会雑誌
114
ルタ材の選択を行えば,その場の目的に応じた使用法
2)
その結果,コントラストを低下させることなく被
が可能となる.
曝の低減が可能となった.
3)
X線管負荷は,フィルタ
(−)
に対し最大で 2 倍程
6.結 語
度であり,現在のX線装置ならば十分耐えうるも
1)
重金属フィルタを付加することによって,診断領
域のX線スペクトルをより適正化できる.
のと思われる.
4)
フィルタ材に何を用いるかは,その目的
(被曝か
画質)
によって選択すべきである.
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(5)
, 780790,(1998)
.
図表の説明
Fig. 1
80kVのX線スペクトル
(フィルタ
(−)
とCuとHoの比較)
.
Fig. 2
今回の実験配置図.
Fig. 3
管電圧とフィルタに対する表面線量比の関係.
Fig. 4
相対表面線量とフィルタに対する被写体コントラストの関係.
Fig. 5
管電圧とフィルタに対するmAs比
(管電流×時間)
の関係.
Fig. 6
管電圧とフィルタに対する実効エネルギーの関係.
Fig. 7
相対表面線量とフィルタに対する被写体コントラストの関係.
Table 1
使用したフィルタの種類.
Table 2
管電圧とフィルタに対する被写体コントラストの関係.
第 58 卷 第 1 号