論 文 拘束を考慮した時間遅れがあるバイラテラル遠隔操作システム 正 員 河合 康典∗ 非会員 藤田 政之∗∗ Bilateral Teleoperation of Constrained System with Time Delay Yasunori Kawai∗, Member, Masayuki Fujita∗∗, Non-member This paper considers the bilateral teleoperation of the constrained system with time delay. The stability of the bilateral teleoperation of the constrained system is proved by the proposed Lyapunov function. It is shown that the constraints that the stability is compensated, is represented as the error and the velocity of the system. The command governor is formulated by the inequalities for the costraints. The proposed algorithm can decrease the computational cost in comparison with the quadratic programming. In the simulation and the experiment, the performance of the proposed bilateral teleoperation system is verified using a single-degree of freedom master/slave system. キーワード:遠隔操作,時間遅れ,拘束 Keywords: Teleoperation, Time Delay, Constraint ている (3)∼(5) 。これらの方法は,コマンドガバナーと呼ば 1. はじめに れる保証システムを加えることが重要である。操作者はマ 遠隔操作システムは,双対のロボットシステムから構成 スターロボットを操作するが,しばしばスレーブの入力拘 される。人間がマスターロボットを操作することで,遠隔 束を超えた操作命令を出すことがある。この場合でも,ス 地に配置したスレーブロボットがその動作指令に追従する。 レーブは拘束を破らない範囲で制御目的を達成する命令を このとき,遠隔にある環境についての情報は重要であり,そ コマンドガバナーから受け取ることができる。コマンドガ のフィードバックは触覚や視覚などさまざま方法で操作者 バナーを用いることで,操作者からの命令は,作業側のス に伝えられることで性能を改善することができる。このよ レーブが拘束条件を満足するような命令に変換される。こ うに,双方向に制御される遠隔操作システムをバイラテラ れを 2 次計画問題を解くことによって構成している。 ル遠隔操作システムと呼ぶ (1) 本研究では,拘束と時間遅れが存在するバイラテラル遠 。 バイラテラル遠隔操作システムは,マスターとスレーブ 隔操作システムを考える。我々の従来研究では,PD 制御だ がネットワーク上で結合されており,動作指令などのデー けを用いたバイラテラル遠隔操作システムに対して受動性 タを転送するときに時間遅れが生じる。時間遅れは,安定な を用いてリアプノフの安定法から安定性が保証できること 閉ループシステムを不安定にすることが知られており,従 を示している (6) 。それに加えて,文献 (6) で考えたシステ 来研究では,スキャッタリング理論や受動性が用いられて, ムに,コマンドガバナーを用いたバイラテラル遠隔操作シ リアプノフの安定法を用いることで安定性が保証されてい ステムを考え,拘束を破ることなく制御目的を達成できる る (2) 。 ことを示している (7) 。しかしながら,安定性について証明 することができていない。また,2 次計画問題を解くこと 一方,拘束を考慮した遠隔操作システムの研究も行われ ∗ ∗∗ によってコマンドガバナーを構成しているため,制御周期 石川工業高等専門学校 電気工学科 〒 929-0392 石川県河北郡津幡町字北中条タ 1 Department of Electrical Engineering, Ishikawa National College of Technology Ta-1 Kitachujo, Tsubata, Kahoku-gun, Ishikawa 929-0392, JAPAN 東京工業大学 理工学研究科 〒 152-8552 東京都目黒区大岡山 2-12-1 Department of Mechanical and Control Engineering, Tokyo Institute of Technology 2-12-1 O-okayama Meguro-ku, Tokyo 152-8550, JAPAN 電学論 C,128 巻 1 号,2008 年 内で問題を解くことが困難である。そこで本研究では,拘 束と時間遅れが存在するバイラテラル遠隔操作システムの 安定性について示す。また,コマンドガバナーにおいて 2 次計画問題を用いるのではなく,拘束条件を用いるだけで もよい性能が得られることを示す。そして,実験により性 能を検証する。 本稿の構成は次のようである。第 2 節では,コマンドガ バナーを用いたバイラテラル遠隔操作システムの構成につ 1 いて示す。第 3 節では,2 節で与えるバイラテラル遠隔操作 . xm システムの安定性について示す。第 4 節では,シミュレー g(t) xm(t−T) xm CG ションにより,提案手法に対して飽和を用いた手法,2 次 Master 計画問題を用いた手法と比較する。第 5 節では,実験によ Slave Fback Fh xs xs(t−T) り検証する。最後に,結論を述べる。 . xs Ffeed Fe Fig. 1. Bilateral Teleoperation with Command Governor 2. バイラテラル遠隔操作システム 本稿で提案する PD 制御とコマンドガバナーを用いたバ ル遠隔操作システムは,操作者,マスター,スレーブ,環 • x˙ m ,x˙ s は t < 0 においてゼロである。 L2e 空間とは,L2 空間に属している信号を有限時間へ拡張 境,制御器から構成されている。 したものである。マスターとスレーブの位置の偏差を次の イラテラル遠隔操作システムを Fig. 1 に示す。バイラテラ 操作者は,力 Fh でマスターを動かし,マスターは速度 ように定義する。 x˙ m で動く。位置 xm ,速度 x˙ m はスレーブへ伝達される。 es = xm (t − T ) − xs (t) · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (6) スレーブ側のローカルコントローラ Ffeed は,スレーブの 位置 xs ,速度 x˙ s をマスターの位置 xm ,速度 x˙ m に近づ システム (1)-(4) 式に対するエネルギー関数として以下 けるように制御する。もし,スレーブが環境と接触したら, の関数を考える。 力 Fe がスレーブに加えられる。その影響をマスターでは, V = スレーブ側の位置 xs ,速度 x˙ s の変化として捉えることで, 1 Mm x˙ 2m + Ms x˙ 2s + KP (xm − xs )2 2 t マスター側のローカルコントローラ Fback は,マスターの +KD 位置 xm ,速度 x˙ m をスレーブの位置 xs ,速度 x˙ s に近づ t−T t けるように制御する。 + 次のシステムを考える。 x˙ 2s + x˙ 2m dτ (Fe x˙ s − Fh x˙ m ) dτ · · · · · · · · · · · · · · · · (7) 0 Mm x ¨m + Bm x˙ m = Fh + Fback · · · · · · · · · · · · · · (1) 仮定から,操作者と環境は受動的なシステムであることか ¨s + Bs x˙ s = −Fe + Ffeed · · · · · · · · · · · · · · · (2) Ms x ら,次の関係が成立する。 t ここで,Mm ,Ms は慣性モーメント,Bm ,Bs は摩擦係 0 数をそれぞれ表しており,小文字の m,s はそれぞれマス Fe x˙ s ≥ 0, t − Fh x˙ m ≥ 0· · · · · · · · · · · · · · (8) 0 このように,(7) 式で提案した関数 V は,正定関数である ターとスレーブを意味している。制御器の Fback ,Ffeed は ことがわかる。(7) 式の微分をシステムのトラジェクトリ それぞれ次式で与えられるとする。 に沿って微分すると次のように得られる。 Fback = KP (xs (t − T ) − xm ) ¨m x˙ m + Ms x¨s x˙ s + KP (xm − xs ) (x˙ m − x˙ s ) V˙ = Mm x 1 1 + KD (x˙ 2m + x˙ 2s ) − KD (x˙ 2m (t − T ) + x˙ 2s (t − T )) 2 2 +Fe x˙ s − Fh x˙ m · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (9) +KD (x˙ s (t − T ) − x˙ m ) · · · · · · · · · (3) Ffeed = KP (g(t) − xs ) ˙ − x˙ s ) · · · · · · · · · · · · · · · (4) +KD (g(t) ここで,xm (t − T ) は時間遅れがあるマスターの位置を表 (1),(2) 式を用いると次のように展開できる。 している。スレーブ側では,マスターの T [s] 前の位置を V˙ = −Bm x˙ 2m − Bs x˙ 2s + KP (xs (t − T ) − xs ) x˙ m 得ている。コマンドガバナーは,拘束を破らないように命 +KP (xm (t − T ) − xm ) x˙ s 1 − KD (x˙ m − x˙ s (t − T ))2 + (x˙ s − x˙ m (t − T ))2 2 +KP (g(t) − xm (t − T )) x˙ s 令 xm (t − T ) から新しいコマンド g(t) を生成している。 また,拘束条件として,スレーブに入力される Ffeed は次 の拘束があるとする。 +KD (g(t) ˙ − x˙ m (t − T )) x˙ s · · · · · · · · · · · · · · · · (10) −Cmax ≤ Ffeed ≤ Cmax · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (5) ここで,(4), (6) 式から次の関係が成立する。 3. バイラテラル遠隔操作システムの安定性 KP (g(t) − xm (t − T )) x˙ s + KD (g(t) ˙ − x˙ m (t − T )) x˙ s 次の仮定をおく (1) 。 = KP {(g(t) − xs (t)) + (xs (t) − xm (t − T ))} x˙ s • 操作者と環境は,受動的なシステムとしてモデル化さ +KD {(g(t) ˙ − x˙ s (t)) + (x˙ s (t) − x˙ m (t − T ))} x˙ s れる。 = {KP (g(t) − xs (t)) + KD (g(t) ˙ − x˙ s (t))} x˙ s • 操作者と環境の力は,有界である。 • すべての信号は,L2e 空間に属している。 +KP (xs (t) − xm (t − T )) x˙ s 2 IEEJ Trans. EIS, Vol.128, No.1, 2008 拘束を考慮した時間遅れがあるバイラテラル遠隔操作システム +KD (x˙ s (t) − x˙ m (t − T )) x˙ s = (Ffeed − KP es − KD e˙ s ) x˙ s · · · · · · · · · · · · · · · · · · (11) 1 − KD e˙ m 2 −K x˙ s 22 よって,(10) 式は,次のように変形される。 V˙ = −Bm x˙ 2m − Bs x˙ 2s + KP (xs (t − T ) − xs ) x˙ m ≤ +KP (xm (t − T ) − xm ) x˙ s 1 − KD e˙ 2m + e˙ 2s 2 + (Ffeed − KP es − KD e˙ s ) x˙ s · · · · · · · · · · · · · · (12) 1 − KD e˙ m 2 〔定理 1〕 システム (1)-(4) を考える。拘束条件 Cmax に 2 2 ターとスレーブの速度,マスターとスレーブの偏差,追 tf 従位置偏差は有界である。 Cmax dt (13) tf Cmax dt ≤ 0 T xi (t − T ) − xi = − V˙ dt ≤ −Bm x˙ m 2 2 −K x˙ s + KP es + KD e˙ s dt (20) − 追従誤差 em ,es は次式のように表されることから,位 Bs x˙ s 22 tf −KP T x˙ m 置追従誤差は有界であることがわかる。 tf −KP T x˙ s tf dt x˙ m (t − τ )dτ dt es = xm (t) − xs (t) − tf x˙ m dτ. · · · · · · · · · · · (23) ✷ 文献 (1) とリアプノフ関数である正定関数を比較すると, e˙ 2m + e˙ 2s dt 0 時間遅れに関するエネルギー t (Ffeed − KP es − KD e˙s ) x˙ s · · · (15) となる。ここで,記号 KD · t−T 2 は,時間区間 [0, tf ] におけ x˙ 2s + x˙ 2m dτ · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (24) が重要な役割を果たしていることがわかる。また,コマ る信号の L2 ノルムを表している。シュバルツの不等式を ンドガバナーがない場合は,g(t) = xm (t − T ),g(t) ˙ = 用いて,ある α1 > 0, α2 > 0 に対して以下の関係が成立 x˙ m (t − T ) であることから,(10) 式を用いて,安定性を証 する。 明することができる (6) 。 T2 x˙ s 22 α1 0 0 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (16) x˙ s (t − τ )dτ dt ≤ α1 x˙ m 2 2 + 4. コマンドガバナーの構成について 速度 g(t) ˙ は,g(t) の擬似微分で以下のように与えられ T T2 x˙ s x˙ m (t − τ )dτ dt ≤ α2 x˙ s 22 + x˙ m 22 2 α2 0 0 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (17) るとする。 g(t) ˙ = 次に,次の関係が成立するとする。 0 電学論 C,128 巻 1 号,2008 年 TD N s g(t).· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (25) x˙ feed = Afeed xfeed + Bfeed (g − xs ) K x˙ s dt(18) Ffeed = Cfeed xfeed + Dfeed (g − xs ) · · · · · · · · (26) 不等式 (15) は,次式のように展開できる。 −Bm + KP 1+ 制御器 Ffeed は次のように表現することができる。 0 V˙ dt ≤ s tf Ffeed − KP es − KD e˙s dt ≤ − 0 tf x˙ s dτ · · · · · · · · · · · · (22) t−T 0 tf t−T t 0 0 1 − KD 2 x˙ s (t − τ )dτ t em = xs (t) − xm (t) − 0 0 tf · · · · · (19) 0 0 T 2 2 KP2 T 2 < Bm Bs · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (21) を用いて,(12) 式を区間 [0, tf ] で積分すると x˙ m x˙ s 2 2 ただし,KP は次の条件を満たすとする (1) 。 x˙ i (t − τ )dτ, i = m, s· · · (14) 0 tf 2 2 x˙ m 2 2 を満足するならば,信号 x˙ m , x˙ s , xm − xs は有界である。 (証明)次の関係 2 1 − KD e˙ s 2 x˙ s 18) 式の拘束 −Cmax ≤ Ffeed ≤ Cmax から,もし,拘束 Cmax が次の関係 おいて以下の関係を満たす K > 0 が存在するとき,マス + α1 T2 + 2 2α2 α2 T2 + 2 2α1 −K 以上の結果から次の定理が成立する。 tf −Bm + KP + −Bs + KP ここで,em := xs (t − T ) − xm (t) と定義する。 (−K x˙ s + KP es + KD e˙ s ) dt ≤ α2 T2 + 2 2α1 1 2 2 2 − KD e˙ s 2 2 + −Bs + KP α1 T2 + 2 2α2 x˙ m ここで,xfeed は状態,g −xs は入力であり,Afeed ,Bfeed , 2 2 Cfeed ,Dfeed 定数のシステム行列である。 3 (2),(26) 式を用いて構成されるシステムは,次のように 従来研究では,コマンドガバナーは 2 次計画問題を解い ている。しかし,位置偏差 xm (t − T ) − xs を最小化する 表される。 命令 g(t) を制御周期内で生成する 2 次計画問題を解くこ Ms x¨s + Bs x˙ s = Cfeed xfeed + Dfeed (g − xs ) − Fe (27) とは困難である。計算コストを減らすために,拘束条件の 出力を cc = Ffeed とする。 みを用いている。 提案したアルゴリズムにおいて,もし,g ∗ (t) が |g ∗ (t)| < 状態を xc := [xs , x˙ s , xfeed ] と置くことで,(27),(26) |xm (t − T )| を満足するのであれば,g(t) = xm (t),g(t) ˙ = (7) x˙ m (t) であることから,安定性が保証される 。また, g(t) = g∗ (t) の場合には,拘束 Cmax が不等式 (20) を 式は,次のようにまとめることができる。 x˙ c(t) = Ac xc (t) + Bc g(t) · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (28) cc(t) = Cc xc(t) + Dc g(t). · · · · · · · · · · · · · · · · · · (29) ここで,Ac ,Bc ,Cc ,Dc は次のように得られる。 ⎡ ⎤ 0 ⎡ 0 ⎢ feed Ac = ⎣ − DM s −Bfeed 1 Bs −M s 0 Cc = −Dfeed 0 Cfeed , Dc = Dfeed 満足するのであれば,安定性を保証することができる。 5. シミュレーション ⎤ 0 ⎥ ⎢ Dfeed ⎥ ⎦ , Bc = ⎣ M ⎦ s Afeed Bfeed 本節では,バイラテラル遠隔操作システムの性能を検証 Cfeed Ms する。比較対象として,飽和を用いた場合,2 次計画問題 を用いた場合について考える。Fig. 2 に示すように,1 自 由度の回転運動をするマニピュレータを 2 台考える。また, 環境はバネと仮定する。 連続システム (28),(29) は,離散化して次のように定義 する。 y xd (k + 1) = Ad xd (k) + Bd g(k) · · · · · · · · · · · · · (30) y Environment cd (k) = Cd xd (k) + Dd g(k) · · · · · · · · · · · · · (31) 問題は,スレーブの拘束を満足するように命令 g(k) を作 xm ることである。 xs x x −Cmax ≤ cd (k) ≤ Cmax , t = 1, . . . , m.· · · · · (32) Fig. 2. master/slave robot model 上記の不等式は,g(k) を用いて次の不等式に変換すること ができる。 モデルパラメータは次にように与えられる。Mm = Aineq Bineq g(k) ≤ · · · · · · · · · · · · · · · · (33) −Aineq −Bineq 0.0190 kgm2 ,Ms = 0.0646 kgm2 ,Bm = 0.3176 Nms, Bs = 0.7696 Nms。コントローラ Ffeed ,Fback の設計パラ メータを KP = 4,KD = 5,TD = 0.1,N = 10 とし,予 測ホライズンを m = 3 とする。定数の時間遅れ T = 0.1 s が発生し,スレーブの拘束条件が Cmax = 0.5 Nm で与え ここで,Aineq ,Bineq は次のようになる。 ⎤ 0 ⎢ .. ⎥ ⎢ C G . . ⎥ ⎥ ⎢ d =⎢ ⎥ .. .. ⎥ ⎢ . . 0 ⎦ ⎣ G · · · Cd G Dd Cd Am−1 d ⎡ ⎤ ⎡ ⎤ Cmax Cd ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ ⎢Cmax ⎥ ⎢ Cd Ad ⎥ ⎢ ⎥ ⎢ = ⎢ . ⎥−⎢ . ⎥ ⎥ xd (0) ⎣ .. ⎦ ⎣ .. ⎦ Cmax Cd Am d ⎡ Aineq Bineq Dd 0 .. ··· .. . .. . られると仮定する。 シミュレーション結果を Fig. 4-6 に示す。上から本稿で 提案したアルゴリズム,Fig. 3 に示す飽和を用いた場合, 文献 (7) の 2 次計画問題を用いた場合を表している。また, Fig. 7 は,提案したアルゴリズムを用いて (13),(18) 式の 関係を表している。シミュレーションは,MATLAB を用 いた行った。 ここで,m はどこまでの区間に対して拘束を課すのかを表 . xm す予測ホライズンである。以上より,次のアルゴリズムを Master 提案する。 Fh ( 1 ) 拘束の方程式 Aineq ·g ∗ (t) = Bineq から,g ∗ (t) を解く。 Ffeed xm(t−T) xm Ffeed’ Ffeed Fback xs(t−T) Saturation . xs Slave xs Fe Fig. 3. Bilateral Teleoperation with Saturation ( 2 ) もし,g ∗ (t) が |g ∗ (t)| < |xm (t − T )| を満足す るならば,g(t) = xm (t − T ) とする,さもなけ れば,g(t) = g ∗ (t) とする。 操作者が Fh = 2 Nm(t = 1 s − 3 s) を与え,スレーブ 4 IEEJ Trans. EIS, Vol.128, No.1, 2008 拘束を考慮した時間遅れがあるバイラテラル遠隔操作システム は xs ≥ 0.1 rad で環境に接触している。Fig. 4 から,位 0 −1 −2 −3 −4 −5 0 置偏差 xm − xs は有界であることがわかる。Fig. 5 は,速 度 x˙ m ,x˙ s が有界であることを示している。Fig. 6 は,ス レーブへの入力 Ffeed が拘束条件である 0.5 Nm を破って いないことを示している。Fig. 7 は,(13),(18) 式の関係 を満足していることを示している。特に,Fig. 4 から提案 10 8 6 4 2 0 0 手法と 2 次計画問題を用いた手法は,xs の目標値 g(t) が コマンドガバナーによって速度を抑えられていることによ り,拘束条件を満足していることがわかる。しかし,速応 性が劣化したところが欠点である。 よって,提案しているバイラテラル遠隔操作システムは, xm (t), xs (t) [rad] 拘束を破ることなく制御目的を達成していることがわかる。 xm x˙ m (t), x˙ s (t) [rad/s] 2 K x˙ s dt Ffeed − KP es − KD e˙ s dt 4 R 10 0 6 10 Cmax dt R 10 0 2 8 4 t [s] −K x˙ s + KP es + KD e˙ s dt 6 8 10 2 xs 実験装置は,2 台の 1 自由度アクチュエータとディジタル 4 6 8 シグナルプロセッサーから構成される (Fig. 8)。スレーブ側 10 にある環境は弾性のある物質である。制御器は,dSPACE 社のディジタルシグナルプロセッサー DS1104 を用いて, 2 4 6 8 周期を 10 ms で実装している。マスターの力と位置情報 10 は,AD ポートとカウンタポートを通して DSP に送られ る。スレーブ側では,コマンドガバナーが時間遅れ 0.1 [s] 前のマスターの情報から新しい目標値を生成する。新しい 2 4 6 8 10 目標値に追従するための制御入力が DA ポートを通してス レーブ側に入力される。マスター側と同様に,スレーブ側 の力と位置情報は,AD ポートとカウンターポートを通し x˙ m て DSP に送られる。スレーブの位置に追従するために,マ スターの制御入力は,DA ポートを通して入力される。 x˙ s 2 4 6 8 10 DS1104 Environment Strain Gauge delay 2 2 4 4 6 6 8 8 10 10 Master t [s] Fig. 5. Simulation results (solid: xm (t − T ), dashed: g(t)) Ffeed Ffeed (t), Fback (t) [Nm] 0 0 Fig. 7. Simulation results t [s] Fig. 4. Simulation results (solid: xm (t), dashed: xs (t)) 0.5 0 −1 −2 −3 0 0.5 0 −1 −2 −3 0 0.5 0 −1 −2 −3 0 R 10 R 10 6. 制御実験 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 1 0.5 0 −0.5 −1 0 1 0.5 0 −0.5 −1 0 1 0.5 0 −0.5 −1 0 − Fback Ffeed DA AD counter DA AD counter Slave Fig. 8. Experimetal Setup Fback 2 4 6 8 10 2 4 6 8 10 2 4 6 8 10 制御器 Ffeed ,Fback の設計パラメータは,KP = 4, KD = 5, TD = 0.1, N = 10 と設計した。また,予測 ホライズンは m = 3 とし,拘束は,Cmax = 0.5 Nm, 時 間遅れは T = 0.1 s とする。 操作者からの力 Fh ,環境から受ける力 Fe を Fig. 13 に 示す。スレーブは,約 2 s のときに環境に接触しているこ とがわかる。Fig. 9 はマスターとスレーブの位置を表して おり,位置偏差 xm − xs は有界であることがわかる。Fig. 11 は,速度 x˙ m ,x˙ s が有界であることを示している。Fig. 12 は,Ffeed は拘束条件 0.5 Nm を破っていないことを t [s] Fig. 6. Simulation results (solid: Ffeed (t), dashed: Fback (t)) 電学論 C,128 巻 1 号,2008 年 5 示している。これは,Fig. 10 から,xm (t − T ) は,拘束 7. おわりに を破らないように g(t) に変換されていることによるもので ある。 よって,提案したバイラテラル遠隔操作システムは,拘 本稿では,拘束を考慮したバイラテラル遠隔操作システ 束条件を破ることなく,制御周期内で実装できることを示 ムを考えた。拘束を考慮する方法として,コマンドガバナー している。 を用いたバイラテラル遠隔操作システムを考え,リアプノ xm , xs [rad] フの安定法を用いて安定性を証明した。シミュレーション 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 0 により,提案したアルゴリズムが 2 次計画問題を解く従来 xm (t) 手法と同様の結果を得ることを示した。また,飽和を用い た場合と比較して,速応性は劣る結果となった。最後に,実 験により提案手法は制御周期内で実装できていることを示 xs (t) 2 4 6 8 した。 10 xm (t − T ), g(t) [rad] t [s] Fig. 9. Experimental results (solid: xm (t), dashed: xs (t)) 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 0 文 xm (t − T ) ( 1 ) N. Chopra, M. W. Spong, R. Ortega and N. Barbanov: “On Tracking Performance in Bilateral Teleoperation”, IEEE Transactions on Robotics, Vol. 22, No. 4, pp. 861–866, (2006) ( 2 ) P. F. Hokayem and M. W. Spong: “Bilateral teleoperation: An Historical Survey”, Automatica, Vol. 42, No. 12, pp. 2035–2057, (2006) ( 3 ) A. Bemporad, A. Casavola and E. Mosca: “Nonlinear Control of Constrained Linear Systems via Predictive Reference Management”, IEEE Transactions on Automatic Control, Vol. 42, No. 3, pp. 340-349, (1997) ( 4 ) A. Bemporad: “Predictive Control of Teleoperated Constrained Systems with Unbounded Communication Delays”, Proc. IEEE Conference on Decision and Control, pp. 21332138, (1998) ( 5 ) A. Casavola, E. Mosca and M. Papini: “Predictive Teleoperation of Constrained Dynamic Systems via Internet-Link Channels”, IEEE Transactions on Control Systems Technology, Vol. 14, No. 4, pp. 681-694, (2006) ( 6 ) Y. Kawai and M. Fujita: “A Study on Stability Analysis in Bilateral Teleoperation with Time Delay”, Proc. 2007 Annual Meeting Record I.E.E.JAPAN, Vol. 3, pp. 48-49, (2007) ( 7 ) Y. Kawai and M. Fujita: “A Study of Bilateral Teleoperation with Time Delay using Command Governor”, Proc. SICE Annual Conference 2007, pp. 2990-2994, (2007) g(t) 2 4 6 8 10 x˙ m (t), x˙ s (t) [rad/s] Fig. 10. Experimental results (solid: xm (t), dashed: xs (t)) 0.1 0.08 0.06 0.04 0.02 0 0 x˙ m (t) x˙ s (t) 2 4 6 8 10 Ffeed (t), Fback (t) [Nm] Fig. 11. Experimental results (solid: xm (t), dashed: xs (t)) Ffeed (t) 1 0.5 0 −1 −2 0 Fback (t) 2 4 6 8 河 10 合 康 1 典 (正員) 2000 年金沢大学電気・情報工学科卒業。 2002 年金沢大学大学院博士前期課程修了,2005 Fig. 12. Experimental results (solid: xm (t), dashed: xs (t)) Fh (t), Fe (t) [Nm] 献 年金沢大学大学院博士後期課程修了。同年,石川 工業高等専門学校電気工学科助手。モデル予測制 御に関する研究に従事。博士(工学)。計測自動 Fh (t) 制御学会,IEEE の会員。 0.5 0 −0.5 0 Fe (t) 2 4 6 8 10 藤 Fig. 13. Experimental results (solid: xm (t), dashed: xs (t)) 田 政 之 (非会員) 1984 年早稲田大学大学院理工学研究 科博士前期課程修了 (電気工学専攻),1985 年同 博士後期課程中退。同年金沢大学工学部電気・情 報工学科助手。同講師,助教授を経て,1992 年 北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科助教 授。1999 年金沢大学工学部教授。2005 年東京工 業大学理工学研究科教授。ロバスト制御とその応 用に関する研究に従事。工学博士。計測自動制御 学会,システム制御情報学会,IEEE などの会員。 6 IEEJ Trans. EIS, Vol.128, No.1, 2008
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