10. 総胆管結紮による急性胆汁うっ滞における - 肝病態生理研究会

 0 . 総胆管結紮による急性胆汁うっ滞における
1
Keap1-Nrf 2 systemの役割
筑波大学大学院 人間総合科学研究科 消化器内科
杉本 浩一、岡田 浩介、兵頭一之介
筑波大学大学院 人間総合科学研究科 スポーツ医学 スポーツ医科学基礎論
正田 純一
東北大学大学院 医学系研究科 医化学分野
田口 恵子、山本 雅之
筑波大学大学院 人間総合研究科 環境分子生物学
蕨 栄治、石井 哲郎
田辺三菱製薬株式会社
後藤 信冶
【目的】胆管結石や悪性腫瘍によって引き起こされる閉塞性胆汁うっ滞
は、肝における toxic bile acid や bilirubin の貯留により肝細胞に強い障害
を与える。障害を受けた肝臓では大量の活性酸素が発生し、その消去の
ために還元型グルタチオンが消費されることが報告されているが、生体
の閉塞性胆汁うっ滞への防御機構についての分子メカニズムの詳細は不
明な点が多い。今回我々は、生体の肝解毒代謝、酸化ストレス応答に密
接 に 関 与 す る 転 写 因 子 Nrf 2 に 着 目 し、Nrf 2 過 剰 発 現 モ デ ル で あ る
Keap1 knock down( KD)マウスにおける総胆管結紮下( CBDL)での生体
応答について検討した。また、Nrf 2 活性化、それによる肝細胞の抗酸化
ストレス応答、解毒代謝、輸送の賦活の観点より検討した。
【方法】ラット肝細胞に胆汁酸を添加して培養し、転写因子 Nrf 2 の発現
レベルについて解析した。また、野生型および Keap 1 KD マウスに対し
てBDLを 2 日間行い、閉塞性胆汁うっ滞病態モデルにおける生体の反応
を解析した。更に、肝臓における Nrf 2 、抗酸化ストレス応答、肝解毒代
謝および肝輸送蛋白の各因子の発現レベルについて解析した。
【成績】胆汁酸は、ラット肝細胞における Nrf 2 の核への集積を促進し、
Nrf2を活性化した。この反応は cholic acid( CA)にて最も強い傾向が見
られた。Keap 1 KD マウスにおいては、野性型マウスと比較して CBDL
による肝壊死および活性酸素量を反映する 4 -HNE の発生が抑制されてお
り、血清ビリルビンの上昇も有意に抑制されていた。また、Keap 1 KD
マウスでは酸化ストレス応答分子γ -GCS、NQO 1 、GSTa 1 などの酸化
ストレス応答分子の基礎発現が顕著に増加していた。また、CBDL によ
って毛細胆管膜に存在する肝輸送蛋白 Mrp 2 の発現には変化が認められ
なかったが、基底膜側に存在する Mrp 3 、Mrp 4 の発現は有意に増加し、
更にその発現亢進も Keap 1 KD マウスでは顕著であった。これらの結果
から転写因子 Nrf 2 は、CBDL による閉塞性胆汁うっ滞病態において活性
酸素消去やビリルビン排泄亢進によって生体の防御機能を果たすものと
考えられた。
【結論】転写因子 Nrf 2 は、総胆管結紮による急性閉塞性胆汁うっ滞病態
において肝細胞の抗酸化ストレス応答、解毒代謝、肝細胞輸送を賦活化
し、生体において防御的機能を果たした。Nrf 2 は胆汁うっ滞症に対する
治療の新しい分子標的として重要であると考えられた。