ベトナム・カンボディアの酒 許 成基 株式会社レアックス 外国へ行くというのは、人それぞれに楽しみ方がある.筆者などは見たこともない風景 や景色或いは地質や構造を見たり探したりすることもさることながら,もっぱら飲む方に 精力を注ぐほうである.同好の士がいれば,多分果てしなく切れ目なく飲んでいる.今回 は K さん O さんの二人がいて,合わせると KO になるという組み合わせ.相手にとって不 足はないと意気込んでメコンデルタとカンボディアはシエムリアップに乗り込んだのはい いが‥.全く期待に反する結果になってしまった.誤解ないように言い換えるとそれは, KO 両氏のせいではなく,全くもってかの国の文化に由来することなのである. ベトナム; ここは一昨年都合一月半ほど滞在したことがある.時は,4 月∼7 月半ばまでの乾季の日 照りの下である.だから,飲むものは必然的に昼も夜もビールということになる. ベトナムではさまざまなビールが作られており(333,Fuda Beer, Saigon Beer 他),且 つハイネケンなどもあって,ビールには事欠かない.難点は,冷やして飲む習慣が希薄な ので,その都度,バケツに氷を入れて持ってきてもらいその中に壜でも缶でも何でも良い からいくつも放り込んで冷えるのを待って飲まなければいけない.不便ではあるが,不自 由はしなかった.ただ,ビールだけでは物足りないので,何か他のモノを‥などと欲目を 出すと突然窮屈になる.西洋のウイスキーやコニャック,ブランデーなど有名ブランドも のはあるが,銘柄が限られていて自分の好みのものにめぐり合うことはまずない.ワイン を‥などとちょっと洒落ようものなら,私の滞在したフエでは一番高級なホテルくらいに しかないのでえらく気分的に面倒なことになる.従って,前回訪問時にはワインというも のにはついにお目にかからなかったし,ウイスキー系は最近飲まないので,不便を囲って いた. ところが,この国にはウオッカと称する,もち米を使ったネップ・モイ(Nep Moi)という 優れものの焼酎がある.アルコール度は 40 から 42 度.これは旨い.泡盛も優れものだが, ネップ・モイも負けてはいない.モチゴメ特有の臭みがエキスとなって液体に混じり,まろ やかな焼酎特有ののど越しとひりひり感が舌に残ってなんともいえない. 前回はこれをお土産にしてノンベー氏らに振舞って好評を得たことであった. ホーチミンでは,旅行業者が引っ張りまわすレストラン 2 個所でワインを口にすること が出来た.最後の夜など,帰国する他のメンバーと小生との別れの杯になんとジンまで出 たのだから大感激した.さすがに“サイゴン”である. ただ,肝心のネップ・モイであるが,今回のベトナム訪問中ついにホーチミン市の連れま わされたレストランにはなく,帰る間際に連れて行かれた観光業者特約土産店で,同行の O 氏が 7 ドルで仕入れた(因みに小生は帰途フエに立ち寄って,これを 1 ドルで買い求め,滞 在中チビチビやってきた). 教訓その 1;観光業者特約土産物屋では買い物を最小限にすること. 人が賢明になるには経験をつまなければいけないようである. ただ,この酒,喉越しが良いものだからついついやりすぎる心配がある. 同行諸氏と別れて一人寂しくフエ市に赴いて数日滞在した.明日は帰るという日の夜, フエ大学の地質教室の先生方が歓迎会兼送別会を開いてくれた. 宴会に出る酒類はご多分に漏れずビールばかり(因みに彼らと彼女らは酒をあまり嗜まな いよう)なので,頂いたお手当てでリキュールを振舞うことにしたのだが,ヘネシーだとか オールドパーのようなものしかない.ネップ・モイが欲しいと言ったらそんなものはないと にべもない.あれほどに旨い酒がこの国にはあるではないかとしつこく騒いだら,教室主 任の先生がとりなしてくれてウエイトレスに何事かささやいたらものの三分もしないで買 ってきてくれた.嬉しくなって(この辺り多分酔いだしたのだろう‥),件の酒をつかんで一 人一人についで廻ったら,たちまちなくなってしまった.何しろ相手は 12 人で,彼らは一 度飲めばいいのだがこちらは 12 杯飲まなければいけない.好い加減のところで計算が出来 なくなって結局何倍飲んだか訳も分からず,気がついたらホテルの部屋にひっくり返って いた. 教訓その 2;旨いからと言って調子にのらないこと. いつもそう思っているけれど,今もって治っていない(何とかとバカにつける薬はない) カンボディア: この国は敬虔な仏教国(タイほどではないが‥)だから,酒には不自由するかもしれないと 心配していたらその通りになった.別に仏教国だからということではなさそうで,単に品 物がないということらしい.それにしても,結局,この国ではビールばかり飲んでいた. それも,アルコール度の低い、どちらかというと発泡酒のような味気ないものであった. 通訳兼ガイド氏の説明によると,屋台では地の酒を飲ませてくれるが,飲まないほうが 好いと警告する.要するに何が入っているのか分からないし,しばしばクスリが入ってい るらしい.何のクスリか聞き漏らしたが,同行のノンベーO 氏の解説によれば,あの類(ど の類か聞かなかったが,ある種の禁じられたクスリ)らしい.それに,流石の O 氏も行こう といわなかったし,ちらと誘ったけれどにべもなく断ったところを見ると口にしないほう が身のためのようなものらしい.筆者個人としては試してみたかったのだが,今となって はそれがなんとも残念である. この国でも,最後の夜,影絵をウリにしているレストランに案内されたが.そこでワイ ンが出たのには感激した(ワインだからではない).要するに酒類はあるのだが,羽を広げて 歩き回らなかったため,目にしなかっただけのようである. ということで,今回の視察旅行はこと酒を飲むという点からはそれ程楽しいものではな かったが,反面,夜遅くまで議論を重ねることが出来,その点からは極めて有意義なもの であったといえる.
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