第1章 序論 - 趙研究室

第一章 序論
1.1 は じ め に
1.1 現代社会における電力システムは重要かつ不可欠なものである。わが国においては、
昭和 20 年代から高度成長期を通して、高電圧・大容量化といった要求に応えるために
システムの高度化が進められ、現在では世界的に見ても高い信頼性を持つ電力機器が開
発され現代社会に大きく貢献している。さらに、高度情報化が進んだ社会においては高
電圧・大容量化のみでなく、電力機器の小型化・信頼性の向上が求められてきた。この
ような中、1930 年代に米国で高い絶縁性能を有する六フッ化硫黄(SF 6)ガスが開発
され、1950 年代終わりに電力機器への利用が始まった。現在まで六フッ化硫黄(SF 6)
ガスは、その高い消弧性、無毒性、化学的安定性、不燃性などのさまざまな利点から、
ガス電力機器(ガス絶縁開閉装置「Gas Insulated
線「Gas
Insulated
transmission
Line
:
Swichgear : GIS」、管路気中送電
GIL 」、ガス絶縁変圧器、ガス絶縁遮断器
「Gas circuit breaker : GCB」等)の絶縁媒体として広く用いられ、我が国の電力シス
テムの高密度化、高信頼化に大きく貢献してきた。しかしながら、低成長・情報化社会
到来の下、次世代においては、機器の適正経済性だけでなく地球環境の観点から新技術
が必要になると考えられる。
近年、地球の温暖化現象やオゾン層の破壊といった環境問題が世界的に取り上げられ、
地球温暖化問題においては、さまざまな人間活動により過度の温室効果ガスが排出され、
気候メカニズムの変化による異常気象の頻発や低地の水没など、様々な影響が生じると
懸念されている。この問題に対処するために全世界的な取り組みがなされており、
1992 年の地球サミットで気候変動に関する国連枠組条約(FCCC)に各国が署名し、
規制開始の体制が整った。FCCC に基づき 1995 年にベルリンで第一回締約国会議
(COP1)が、そして 1996 年にジュネーブで COP2 が開催された。引き続き COP3
1
は 1997 年 12 月 に 京 都 で 開 催 さ れ 、 SF 6 ガ ス を 含 む 6 種 類 の 温 室 効 果 ガ ス
(CO2,CH4,N 2O,HFC,PFC,SF 6)について 1990 年を基準として先進国全体で少なく
とも 5 パーセント(日本は 6 パーセント)削減することが採択された。この京都議定
書に従い、各国は具体的な削減策を取りはじめている。近年 SF 6 ガスが温室効果ガス
として注目されてきたのは、潜在的に極めて高い地球温暖化能力を有していることによ
る。 ガス の地 球温 暖化 能力 を表 す具 体 的な 数値 とし て地 球温 暖化 係数 ( Global
Warming Potential GWP)があり、これは単位重量の二酸化炭素の放出による温室効
:
果を1とした場合の、それぞれの気体の単位重量の放出による温室効果の割合いを示す
ものである。SF 6 ガスの GWP は CO2 の 23900 倍であり、地球温暖化に寄与する潜在
能力は極めて高いといえる。このため、京都議定書で SF 6 ガスが規制対象ガスに指定
されるとともに、1998 年 2 月 12 日に「産業界による HFC 等の排出抑制に係る指針」
(通商産業省告示第 59 号)が定められ、産業界自らその実態に応じて具体的対策に係
る行動計画を策定することが必要だとされた。現在、SF 6 ガスの使用状況とリサイクル
技術の検討が開始されているが、近い将来においては SF 6 ガス使用量の全廃、代替ガ
スの開発が要求されている。
1.2 電 力 用 ガ ス 遮 断 器
1.2 我が国における SF 6 ガスの使用は、電力機器メーカーおよび電力会社の電力業界、
半導体メーカーなどの産業に分けられる。SF 6 ガスは電気絶縁媒体としての用途が最も
多く、電力業界における年間排出量は全体の 70 パーセント以上を占めている。つまり、
この分野での SF 6 ガス使用量削減が、社会全体の SF 6 ガス削減に大きな効果をもたら
すと考えられる。SF 6 ガスを用いた電力機器は、ガス絶縁開閉装置 (GIS)、ガス遮断器
(GCB)、ガス絶縁変圧器、管路気中送電線路 (GIL) 等が挙げられる。電力用ガス遮断器
は、発電機や変圧器などとは異なって、電気エネルギーの輸送分配の信頼性を確保する
2
ための機器であり、電力設備の中での相対的な重要性が急速に増加しつつある機器であ
る。絶縁性能のみならず遮断性能も重要視される GCB においては、現在のところ遮断
性能面で SF 6 ガスより優れた代替ガスや混合ガスが見いだされていないため、性能維
持に対する配慮から新たなガス適用への主だった動きはない。
1.2.1 パ ッ フ ァ 形 ガ ス 遮 断 器
1.2.1 遮断器は、電力系統などに生じた地絡、短絡箇所をすみやかに系統から切り離すこと
によって、機器の大電流による破壊や事故を生じた機器のアークによる損傷を防ぐため
に使用される。一般的に機械的接点を有し、系統の事故時にこれを開離して発生したアー
クプラズマの導電率制御を行うことにより電流を遮断するものである。
1930 年代までは油の中で接点を開離する油遮断器が用いられていたが、1970 年前
後からガス遮断器が主流となった。図 1-1
[1]
にパッファ形ガス遮断器の原理図を示す。
この遮断器は図に示すように、遮断指令によりパッファシリンダが矢印の方向に動き、
圧縮室内の SF 6 ガスが急速に圧縮される。圧縮された高圧 SF 6 ガスはノズル部を通し
て電極間に排気され、アークを吹き消す。このパッファ形 GCB は、①構造及び動作原
理が簡単、②遮断器の高電圧、大容量化が可能、③経済的で信頼性が高い、などの理由
により広く採用されている。
可動接点
可動接点
可
動接点
可動接点
可動接点
ガス流 アーク
ガス圧縮室
ガス圧縮室
ガ
ス圧縮室
ガス圧縮室
ガス圧縮室
バッファシリンダ
バッファシリンダ
バ
ッファシリンダ
バッファシリンダ
バッファシリンダ
[1]
図 1-1 パッファ形ガス遮断器
Fig. 1-1 The model of gas circuit breaker
3
1.2.2 電 流 遮 断 現 象
1.2.2 遮断器が大電流を遮断するときは、まず接点が機械的に開離しアークが発生する。し
かし、これだけでは電流は流れ続け、遮断はできない。遮断が完了するには電流がいっ
たん零点を通過した後再び導通状態とならないように、アーク空間のエネルギーを効率
よく除去すること(消弧 : arc extinction)が必要である。
一般に、電流遮断の概念は図 1-2
[1]
のように説明される。電流零点後、電極間のアー
クによって加熱された高温ガスやプラズマが冷却、あるいは再結合して絶縁耐力が回復
してくる。そのため、電極間の絶縁回復特性は図 1-2 の曲線 a のようになる。一方、
電極間に加わる電圧は回路によって決まるが、曲線 b、c のようになる。過渡回復電圧
が a より常に下になっていれば遮断ができるが、c のようになると遮断できないことに
なる。アーク消滅後、電極間に残留する荷電粒子および高温ガスが冷却されて導電性を
失う前に、上昇率の高い過渡回復電圧が加わると電流零点後も引き続き電流が流れ続け
(残留電流)、この結果、通電に伴うジュール熱が発生し、電極間にエネルギーが注入
される。一方、電極間空間は荷電粒子の再結合および高温ガスの拡散によって冷却作用
を受ける。したがって、電極間ではジュール熱による加熱と荷電粒子の再結合等による
冷却の現象が同時に起こっており、冷却速度が加熱速度を上回れば電極間の導電性が失
われ、遮断が達成される。しかし、加熱速度が上回れば再び電極間にアークが発生(再
[1]
発弧)し、遮断失敗に至る(図 1-3) 。このように、遮断器の設計にはアークそのも
のは当然のこと、残留電荷、高温ガスの制御が必要となる。
4
絶縁耐力
aa
cc
V
過渡回復電圧
bb
t
[1]
図 1-2 絶縁回復特性と過渡回復電圧
Fig. 1-2 The insurating capability and transient recovery voltage
極間電圧
極間電圧
極
間電圧
極間電圧
極間電圧
交流電流
交流電流
交
流電流
交流電流
交流電流
ア
アー
ーク
ク電
電圧
圧
t
残留電流
[1]
図 1-3 再発弧
Fig. 1-3 The dielectric reignition
1.2.3 ア ー ク 現 象
1.2.3 気体あるいは液体に印加した電圧を増加すると、ついには電極間がフラッシオーバ
(火花放電)で短絡される。さらに、電圧を維持しておくと、電極間の導電率が急上昇
し電極間 電圧が急 激に低下 して、大 電流が 流れる。 この状態 をアーク 放電( arc
discharge)といい、極めて明るい光を発生し、陽光柱(positive
column)が電磁力
を受けるため複雑に変形したり、急速に移動したりする。
通常、アーク放電は、陰極からの電子放出と陽光柱内の電離によって維持される。陽
5
光柱での電離作用は、分子相互の衝突による熱電離である。一般的に気体粒子は、高温
になるに従い分子の単原子状態への解離が進行し、さらに高温状態においては電離状態
へと移行する。この時、解離あるいは電離する割合は、熱平衡状態にある電子密度を
N e、中性ガス密度を N n、電離電圧を E [V] とすると、温度 T [K] の関数として、式 (1・
1) に示す Saha の熱電離式が知られている。
3
Ne2
Q 2πme kT  2
E
=2 2
exp −  (1・1)
2
 kT 

Nn
Q1  h
この電離によって生じた電子ならびにイオンの存在は、気体空間に導電性を与える。し
たがって、導電率に関しても密度と温度の関数となることがわかる。式(1・2)に弱
電離プラズマの電気抵抗率(導電率の逆数)式を示す。
πe 2 me
1
ln Λ  
3
η =
2
T
(2 k ) 2 ε 0
3
2
+
me
2 kT  N n 
σ
 
en
e2
me  Ne  (1・2)
ここで、第一項は電子とイオンの衝突による項であり、第二項は電子と中性ガスの衝突
による項である。
図 1-4
[2]
には導電率の温度依存の一例として、SF 6 に関する導電率の温度依存性を示
している。
0.1MPa
[2]
Fig. 1-4
図 1-4 SF6 ガスの温度-導電率特性
The electric conductivity against the gas temperature
6
また、アーク現象の高温ガス状態においてガス種により絶縁耐力回復特性は違いが見
られる。これは高温ガスの冷却度合いがガス種により異なっているためであると考えら
れる。図 1-5
[3]
に熱伝導率の温度依存性を示す。
102
SF6 : 0.1MPa
101
0
10- 1
Thermal conductivity [W/m/K]
Thermal conductivity [W/m/K]
102
CO2 : 0.1MPa
101
0
10- 1
10- 2
10- 2
0
2 104
1 104
Temperature [K]
3 104
1 104
0
Temperature [K]
(a) S F6
(b) CO2
10
Thermal conductivity [W/m/K]
2 104
2
N2 : 0.1MPa
101
0
10- 1
10- 2
0
1 104
2 104
3 104
Temperature [K]
(c) N 2
[3]
図 1-5 熱伝導率-温度特性
Fig. 1-5 The heat conductivity against the gas temperature
7
3 104
これらの図から、高温ガスの温度を制御することにより導電率に大きな変化を与え、
また、ガス種により高温ガスの冷却度合いに違いがあることから、絶縁耐力回復には熱
伝導率が大きく関係していることが考えられる。つまり、ガスの消弧能力は、高温にお
ける化学的変化も含め、温度によって一義的に定まると考えられる。
1.3 研 究 の ア プ ロ ー チ
本研究の目的は、絶縁ガスの高温状態における絶縁能力評価を行うことである。そ
のためには、任意の高温ガス状態に電圧を印加して絶縁耐力を測定することが必要であ
る。高温ガス状態とは、局所熱平衡状態を仮定すると、中性ガス密度、電子密度、温度
の 3 つのパラメータで定義され、このうち 2 つが判れば残りの 1 つは自動的に定まる。
我々は、この任意の高温ガス状態を作り出すためにレーザ生成プラズマを用いている。
これは、現在行われている実機を用いた大規模な実験に比べ、以下のような利点・欠点
が挙げられる。
<利点>
1. レーザ出力変化により任意の温度・電子密度状態の高温ガスを再現性よく作り出
すことができる
2. 任意の空間にレーザ光を集光することで、電極とは非接触に高温ガスを作り出す
ことができる
3. 試験費用を安く抑えることができる
<欠点>
レンズを用いてレーザを集光しプラズマを生成することから、電極に対して平行にプ
ラズマが進展し、その結果、実際のガス遮断器での状態と熱および中性ガス密度分布が
異なる。
8
ガス遮断器 (GCB) でアークが発生した際の導電状態から絶縁状態への制御は、高温
アークプラズマから低温絶縁状態への移行により行われるため、本研究では絶縁ガス媒
体の絶縁能力評価を行うために 2 通りの実験を構成し、その比較により検討を行う。
1.3.1 絶 縁 破 壊 電 圧 測 定
1.3.1 レーザによりプラズマを生成した後、任意のタイミングで標準雷インパルス電圧を印
加する。その時のレーザ発振からの時間遅れと破壊電圧を計測する(図 1-6)。
1.3.2 レ ー ザ 生 成 プ ラ ズ マ の ガ ス 状 態 測 定
1.3.2 短ギャップ電極間の抵抗率、また光学干渉計による中性ガス密度の時間変化を求める
ことによりレーザ発振後のプラズマ状態の時間変化を求める(図 1-7)。
以上の2通りの実験結果から時間を基準とした、ガス温度に対する絶縁破壊電圧を求
める(図 1-8)。
V
ff....o
oo
o
VV
Vff
tt
tt
図 1-6 絶縁破壊電圧測定
Fig. 1-6 Flashover voltage against the time-delay from the laser irradiation
9
tt
tt
N
NN
Nnnnn
T
[K]
[K]
[K]
TT
T[K]
図 1-7 レーザ生成プラズマのガス状態測定
Fig. 1-7 Temporal variation of gas condition of the laser-produced plasma
V
ff....o
oo
o
VV
Vff
N
NN
Nnnnn
T
[K]
[K]
[K]
TT
T[K]
図 1-8 プラズマ状態に対する絶縁破壊電圧
Fig. 1-8 Flashover voltage against the plasma condition
10
1.4 研 究 動 向
SF 6 ガスが絶縁媒体として本格的に使用されはじめた過去 30 年ほど前から、SF 6 ガ
スよりも優れた、いわゆる「新ガス(New Gases and Mixtures)」の探索が行われ、
現在では、さらに「地球環境への影響」を新たな評価基準に加えて、より総合的に判断
して最善な絶縁ガスを検討するという観点から、活発に研究開発が行われている。
[4]
代替ガスの選定には、以下のことを満足する必要があると考えられている 。
1. 一次選択基準
・毒性がない
・液化温度が低い
・化学的に安定(不活性)である
2. 環境基準
・オゾン層破壊指数(OPD)がゼロである
・地球温暖化係数(GWP)が小さい
・大気寿命が短い
3. 絶縁性能基準
・臨界電界が高い
・部分放電により導電性分解生成物が発生しない
4. 遮断性能基準
・アーク安定性がよい
・熱的遮断特性がよい
・導電性分解生成物を形成しない
・音速が小さい
5. 経済性評価基準
・安価である
11
・安定した供給が得られる
1.4.1 次 世 代 ガ ス 遮 断 器
1.4.1 絶縁性能のみならず遮断性能も重要視されるガス遮断器(GCB)においては、これ
までの代替ガスあるいは混合ガスの研究では、遮断性能面で SF 6 ガスより優れた消弧
媒体(絶縁ガス)は見出されていない。したがって、代替ガスや混合ガスを用いるだけ
では既存機器に相当する性能を得ることが極めて困難であるため、将来それらのガスを
適用するためには新しい設計概念による遮断器が必要となるであろうとされている。
1.4.2 高 温 ガ ス の 絶 縁 特 性
1.4.2 ガス遮断器 (GCB) でアークが発生した際の導電状態から絶縁状態への制御は、高温
アークプラズマから低温絶縁状態への移行により行われ、絶縁ガスの消弧能力は温度に
より決定されると考えることができる。ここで、温度に対する破壊電圧特性の一例を示
[5]
た、図 1-10
は空気および窒素ガスの常温から 700℃における絶縁破壊電圧であり、ま
[5]
は SF6 ガスの場合である。
Flashover voltage [kV]
す。図 1-9
℃
Temperature [℃
℃
℃]
[5]
図 1-9 温度に対する絶縁破壊電圧
Fig. 1-9 Flashover voltage against the gas temperature
12
Flashover voltage [kV]
Temperature [℃
℃
℃
[℃
℃]
[5]
図 1-10 絶縁破壊特性
Fig. 1-10 Flashover voltage ( S F6 )
図 1-9 の空気、窒素ガスの常温から 700℃の絶縁破壊電圧から、温度の上昇に伴い
破壊電圧が低下することが分かる。これはガス温度に起因する導電率上昇のためである
と考えられる。また、球-平板電極の場合、空気と窒素ガスの絶縁破壊電圧は互いに等
しい値となるが、針-平行電極の場合は大きく異なり、これは不平等電界下で負性ガス
である O2 のコロナ安定化作用によるものと考えることができる。
図 1-10 は SF 6 ガスの場合であるが、空気および窒素ガスの場合と同様に温度が高く
なるに従い破壊電圧も上昇することが分かる。また、ギャップ長の違いによる破壊電圧
の違いも確認することができる。
これらのことからも分かるように、絶縁ガスの絶縁耐力はガス状態つまり導電率に大
きく影響していると考えられる。したがって、電力機器に用いられる絶縁媒体ガスの絶
縁能力評価はガス状態を知ることが重要である。
13
1.4.3 レ ー ザ 生 成 プ ラ ズ マ の 放 電 誘 導
1.4.3 レーザ絶縁破壊はレーザ光を集光することにより気体が鋭い音と強い光を伴ってプラ
ズマ化する現象である。気体が電圧を印加された電極間にあると、このプラズマを経由
して、あるいはプラズマの近くで放電が観測される。前者を「放電ガイド」後者を「放
電トリガ」、両方を総合して「放電誘導」と呼ぶ。
焦点付近に集光されたレーザエネルギーはまず電子の熱エネルギーに転化され、高温
となった電子は周辺中性気体と衝突して電離を引き起こす。その後、電離によって増加
した電子は、拡散や再結合によって消滅する前にレーザエネルギーをさらに吸収し、衝
突によって新たな電離を引き起こす。このように外部から注入されるレーザエネルギー
によって電子数はなだれ現象を引き起こして増加し、焦点付近には高温・電離領域が生
成される。また、レーザによるプラズマ生成では衝撃波が発生し、中性気体の希薄な領
域が形成される。この希薄化領域において電界が印加されると、E/N が上昇するため
電離が容易に起こりやすく、増加した電子によって放電が誘導される。
現在までに、レーザ生成プラズマの電子密度・温度、中性ガス密度の計測、またプラ
ズマ生成時に発生する衝撃波の測定などの報告
[6]
があり、放電誘導メカニズム解明の
ための研究が進められている。
1.5 研 究 目 的 お よ び 本 報 告 の 構 成
現在まで六フッ化硫黄(SF 6)ガスは、その優れた絶縁特性、無毒性、化学的安定性、
不燃性などのさまざまな利点から、ガス電力機器の絶縁媒体として広く使われてきた。
しかしながら、SF6 は二酸化炭素 (CO2) の約 23900 倍の地球温暖化係数をもち、
COP3(地球温暖化防止京都会議) において規制対象ガスに指定された。このような背景
の下、SF 6 ガスの大気排出量抑制、回収・再利用、そして混合/代替ガスの模索といっ
14
たことが要求されている。
ガス遮断器 (GCB) でアークが発生した際の導電状態から絶縁状態への制御は、高温
アークプラズマから低温絶縁状態への移行により行われる。しかし、高温状態において
は化学組成の変化等が遮断能力の判断を複雑にしている。現在のガス遮断器等の絶縁設
計は実器試験による経験に頼る部分が大きい。これは大きな費用と時間、労力を費やす
ものであり、新絶縁ガス適用への動きはいまだ少ない。
そこで、本研究では絶縁ガスの高温状態における絶縁能力評価を行うことにより、新
絶縁媒体開発へのデータ取得に役立てることを目的としている。これにより電力機器の
設計が高効率的になされるであろう。
本論文は 5 章構成となっている。第2章ではガス状態量の測定・導出原理について
述べ、第3章では実験方法、第 4 章では破壊電圧測定と温度測定の実験結果、検討を
行っている。第 5 章では本論文の総括と今後の展望を述べている。
15