ローマの地下共同墓地(カタコンベ)における 日本人研究者による壁画(4 世紀後半)発見について 【概 要】 発見内容:ローマの地下に広がる巨大なキリスト教地下共同墓地(カタコンベ)において、 日本人研究者によって、今から 1600 年以上前(4 世紀後半)のものと考えられる初 期キリスト教徒のフレスコ画(男性人物像)が発見された。カタコンベにおける壁画 発見は日本人研究者としては史上初めて。 発見者:西南学院大学・国際文化学部 山田 順(Yamada Jun)准教授(46 歳) (専門分野:キリスト教考古学) 研 究 成 果 の 出 版 : キ リ ス ト 教 考 古 学 の 学 問 分 野 で 権 威 あ る 研 究 論 集 ( Rivista di Archeologia Cristiana:教皇庁キリスト教考古学研究所論文紀要)の本年版(10 月出 版予定)に、発見者による論文(伊語)掲載が決定している。 【詳 細】 発見と研究状況 : ・ 発見者は、2002 年、ローマ・アッピア歴史地区の地下に広がるキリスト教地下共 同墓地、ドミティッラのカタコンベ(Domitilla:地下 4 層構造、地下通路のべ全 長 15Km 以上)の内部で壁画調査中に、身長2m余りもある巨大男性人物像のフ レスコ画を発見した。 ・ 発見者は、ただちに、管理者である教皇庁(ヴァチカン)考古学監督局(Pontificia Commissione di Archeologia Sacra)に通報し、新たに同監督局の許可を取得し たうえで、2003 年から 2008 年まで、断続的に詳細な研究調査を行ってきた。今 回、その研究成果がまとめられ、査読を経た後、本年出版の上記論文雑誌に掲載 されることが決定した。 ・ 問題の壁画は、今から 100 年余り前(1897 年)に発掘された墓室内部から発見さ れた。この墓室からは、発掘当時、すでに複数の壁画が発見されていたが、今回 の巨大男性像の壁画は、それらを見下ろすように、墓室天井の傾斜壁(約4∼6 m 高)上に描かれていた。 ・ 壁画が、地下墓室の天井壁という高くて暗い場所に描かれていたこと、また壁画 表層が浸潤する雨水によって洗われ続けていたために、保存状態があまり良くな かったことから、1897 年の発掘時に見落とされ、その後も、墓室を訪れた多くの 研究者たちの誰からもその存在に気づかれることなく放置されていたものと考え られる。 発見された壁画の特徴: ・ 身長2mを超える男性人物像。 ・ 男性像の衣服は、古代末期のローマ帝国における比較的高位の役人(もしくは軍 人)の特徴を示す豪華なものであった(クラミデと呼ばれる赤マント、大きな円 形の刺繍を備えた衣など)。さらに、腰のベルトのバックル、肩で止めたマントの 留め金など細部まで細かく描きこまれている。 ・ 男性像は、この墓室を埋葬所として使用していた一族の家長など、そこに埋葬さ れた重要な故人のひとりである可能性が高い(発見者の見解)。 学問的価値: ・ ローマ市の地下では、この 150 年近くの間に約 50 余りのカタコンベが発掘され てきたが、これら全てのカタコンベの壁画のなかで、2mを超える巨大な人物像 はこれまでに類を見ない。 ・ 今回、男性像が発見された墓室では、今回、新たな壁画の発見によって、それま でに見つかっていた壁画の新たな解釈が可能になった。発見者は、前述の論考の なかで、墓室壁画全体の再解釈を試みている。 ・ コンスタンティヌス帝によるキリスト教寛容令(313 年)、テオドシウス帝のキリ スト教国教化(392 年)という、ローマ帝国のキリスト教政策が大きく転換期し た 4 世紀に位置づけられるこの壁画は、すでに、この時期に、キリスト教がロー マ帝国社会の富裕層にまで広く拡大していたことを裏付けており興味深い。 【補 足】 カタコンベとは何か: ・ 一般に、2 世紀中頃から 5 世紀初め頃まで、主に初期キリスト教徒を中心に使用 された地下共同墓地をカタコンベという。他に、ユダヤ教徒、異教徒によるカタ コンベもいくつか発見されている。5 世紀以降は、埋葬所としては使用されなく なるが、迫害期に英雄的死を遂げた殉教者の墓が存在するカタコンベは、重要な 巡礼聖地となった。ローマのアッピア歴史地区の地下に存在するサン・カリスト のカタコンベ、ドミティッラのカタコンベ、サン・セバスティアーノのカタコン ベがよく知られており、巨大なものは地下 4 階構造、地下通路の全長がのべ 20km にも達する。 発見者の研究経歴: ・ 発見者は、1994 年から 1997 年まで、ヴァチカン市国の教皇庁立キリスト教考古 学研究所大学院に在籍し、初期キリスト教考古学について学んだ。その後、2000 年 3 月まで、主に、「ローマの地下世界」・カタコンベ研究に従事。
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