野村総合研究所 - Nomura Research Institute

NRI KNOWLEDGE INSIGHT
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次世代電力システムの鍵を握る
デマンドレスポンス
伊藤 剛
Takeshi Itou
2012MAR. VOL.23
インフラ関連業界の
動向
東
日本大震災とそれに伴う原発事故は、我が
国の電力システムに多大な影響を及ぼした。
現在、電力システム変革に向けた様々な議論が行
われているが、そうした変革から新たな事業機会
が生まれる可能性がある。本特集では、まず、需
要側を取り込んだ新たな電力システムである「デマ
ンドレスポンス(DR)
」に注目し、関連する3本の
論文を配した。具体的には、電力システム変革か
ら生じる DR 関連の新たなビジネスを読み解いた
上で、米国における DR アグリゲータの動向を明ら
かにするとともに、日本国内における DR の事業機
会について解説している。また、電力システムの変
革に伴う業界再編に関して4本目の論文では、電
力子会社改革のあり方について提言している。
他方、ICT を活用してエネルギー効率を高め快
適な暮らしを実現する都市づくりとして「スマートコ
ミュニティ(SC)
」の注目が高まっている。5本目の
論文では、中国をはじめとした新興国において拡
大する SC 市場への参入戦略について提言してい
る。また、新興国での不動産開発が活発化する中
で、6本目では、日系の不動産デベロッパーに対し、
中国での不動産開発の課題について考察している。
本誌に掲載されているあらゆる内容の無断転載・
複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権
法および国際条約により保護されています。
Copyright ⓒ 2012 Nomura Research Institute,
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米国におけるデマンドレスポンス
アグリゲータの現状と今後
佐藤仁人/滝雄二朗
Yoshihito Sato / Yujiro Taki
急拡大する国内デマンドレスポンス
の事業機会
加福秀亙
Hidenobu Kafuku
電力子会社改革のあり方
樋詰伸之
Nobuyuki Hizume
スマートコミュニティ
~巨大都市開発市場の攻略に向けて~
小口敦司
Atsushi Koguchi
日系デベロッパーにとっての
中国不動産開発の課題
~商業施設開発への対応~
荒木康行
Yasuyuki Araki
□ Branch Insight
韓国の 5 大グループの
2012 年における経営戦略
張朱希(ジャン・ジュヒ)
Jang,Joo-Hi
NRI K NOWLEDGE INSIGHT
2012 MAR. VOL.23
当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断
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次世代電力システムの鍵を握る
デマンドレスポンス
伊藤 剛
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インフラ産業コンサルティング部 上級コンサルタント
2011年12月27日に経済産業省が発表
するための需要側に対する打ち手”であ
第二に、発電所は、実際に発電してい
地域で、アンシラリーサービスの提供に
(threshold point)
」を毎月算出し、市場
アンシラリーサービスの供給力としてのDR
した「電力システム改革に関するタスク
るのに対して、インセンティブ型DRは“需
るか否かに関わらず、必要な時に発電で
必要となる瞬動予備力や周波数調整力が
の取引価格がこの閾値を上回る限りにお
さらに需要家は、自らの需要を増減す
フォース論点整理」では、
「競争的で開
要側の資源を発電所と同様の供給力とみ
きる容量を持っていること自体で価値を
市場で取引されている。
いて、DRは発電事業者と同様の対価を
ることによって、瞬動予備力や周波数調
かれた電力市場」を構築するための論点
なす供給側の打ち手”として位置付けら
持つ。電力は貯めることができないため、
得ることが可能となった。
整力を提供することも可能である。PJM-
として、第一に「新たな需要抑制策」を
れる。
その時々で需要に応じた供給力が必要に
ISOでは、瞬動予備力市場(Synchronized
とりあげた。具体的には「需給逼迫時に
本稿では、需要側の資源を供給力とみ
なる。特に自由化市場の中では垂直統合
はできないが、CSP(Curtailment Service
Reserve Market)と周波数調整市場(Reg-
おいて、供給サイドからの一律・強制的
なすインセンティブ型DRに焦点を当て、
電力会社が自社の将来予備力を確保する
2
需要家自身は市場に直接参画すること
Provider)と呼ばれるアグリゲータ* を
ulation Market)におけるデマンドレスポ
な停電や使用制限によらず、需要側での
同分野において制度設計や市場形成が先
ような規制スタイルをとりえないため、
電力(エネルギー)としてのDR
介して、自らの負荷抑制の容量を市場で
ンスの取引を制度化している。容量市場
ピークカット、ピークシフト等の取組み
行している北米の事例を紹介しながら、
将来の予備力確保をどうするかが制度設
米国において、電気を使っている需要
販売することが可能となっている。
と同様に、需要家はアグリゲータを介し
が柔軟に行われるようにするための仕組
様々な点で状況が異なるわが国にとって
計の鍵となり、これがうまく行かないと
家は、系統運用機能分離をしている地域
容量(キャパシティ)としてのDR
て、自らの需要調整能力を市場で販売す
みが重要。そのため、スマートメータや
の示唆を考察する。
米国における供給力としての
デマンドレスポンス
1
大規模な停電を引き起こす可能性もある。
であれ、垂直統合維持の地域であれ、一
次に、需要家は、需給が逼迫した緊急
ることが可能となっている。
インターフェースの整備を進め、市場メ
すなわち、自由化・機能分離化の電気
般に電力の消費を抑制することによって、
時に需要を抑制することで、発電所と同
この数年は、アンシラリーサービス市
カニズムを通じた需給調整機能を強化し、
事業の持続性確保のためには電力システ
発電所が電力を発電するのと同じ効果を
様に需給の緩和に貢献することができる。
場においては、瞬動予備力市場がアグリ
ム全体で最大需要を上回る供給力(容
生み出すことができる。つまり、電力消
つまり、需要家による需要抑制は、緊急
ゲータのターゲット市場となっていたが、
量)を将来にわたって確保する必要があ
費(マイナス)の抑制(マイナス)は、
時の発電容量と同様にみなすことができる。
2011年末から周波数調整市場にもアグ
サービスの導入を図ることが必要ではな
1
いか」と述べている。
DRの考察に移る前に、電気事業にお
り、米国北東部の場合、小売事業者が将
プラスの効果(発電)を持つのである。
米国の系統運用機関の最大手である
リゲータが参入し始めている。具体的に
電力需給バランスを維持するために需
ける「供給力」の定義をしたい。電気事
来(3年後等)にわたる一定の発電容量
こうした考え方は実は最近になって浸
PJM-ISOの場合、2007年から容量市場
は水道事業者が保有するポンプの需要調
要家に対して需要抑制を促すインセン
業における供給力の担い手である発電所
を確保することが義務付けられている。
透しつつある。2011年3月、連邦エネル
(Capacity Market)におけるデマンドレ
整能力が周波数制御市場で取引されてい
ティブ制度を欧米ではデマンドレスポン
は、当然電気を作り、需要(系統運用者
そうした発電所の容量(Capacity)は電
ギ ー 規 制 委 員 会(FERC) は オ ー ダ ー
スポンスの取引を制度化している。エネ
るが、
これは、
周波数調整力を供給する可変
ス(Demand Response:以降DRとする)
の運転指令)に応じて送るのが基本的な
力(Energy)と切り離されて市場で取
745に基づき、系統運用機関はエネルギー
ルギー市場と同様に需要家はアグリゲー
速揚水発電のポンプと同様の役割を、水
と 呼 ん で い る。DRは、 時 間 帯 別 料 金
役割であるが、系統運用上の発電所の機
引されているが、この市場は容量市場
市場においてDRの便益が費用を上回る
タを介して市場に参画することができる。
道事業者が保有するインバータ型大型ポ
ンプが果たすことができるためとみられる。
需給状況にきめ細かく対応した料金や
三種類の供給力
(TOU:Time of Use)やクリティカル
能という点からさらに細かく見ると、大
限りにおいて、発電事業者と同様に取り
容量市場におけるDRは、この数年の
ピークプライシング(CPP:Critical Peak
きく電力(Energy)、容量(Capacity)、
第三に、発電所は、電力や容量だけで
扱うことを義務付けた。これは、もとも
アグリゲータの最大の収入源となってい
Pricing)のような電気料金メニューを
アンシラリーサービス
(Ancillary Service)
なく、アンシラリーサービスも提供する
とPJM-ISOをはじめとするいくつかの
た。アグリゲータ最大手のEnerNOCの
通じて需要家のピークシフトを促すタイ
という三つの異なるサービスを供給して
ことができる。アンシラリーサービスと
先進的な取り組みを一般化したもので、
2010年の売上高の半分以上はPJMの容
プ(料金単価型)がある。また、負荷抑
いると見ることができる。
は、「電源・流通設備を一体的に制御す
系統運用機関は、Net Benefit Testを通
量市場における取引からもたらされたも
3
制プログラム(IL:Interruptible Load)
第一に、発電所は「電力(Energy)」
ることにより周波数という電気の品質を
じて、DRの便益が費用を上回る「閾値
のであった。
前述したように、このようなDRを供
や直接負荷制御プログラム(DLC:Direct
を供給する。米国PJM-ISOに代表され
適正な範囲に維持するサービス」であり、
Load Control)のように需要家に負荷抑
るような、垂直統合電力会社が機能分離
日本では各電力会社の中央給電指令所が
制に対するボーナスを支払うことによっ
され、系統運用者が独立している地域に
周波数維持のために様々な発電所を組み
地域においてのみ見られるものではない。
てピークシフトやピークカットを促すタ
お い て は、 概 ね 前 日 市 場(Day Ahead
合わせて24時間行っている作業にあたる。
垂直統合の事業形態を維持している電力
イプ(インセンティブ型)がある。
Market)と当日市場(Real Time Market)
具体的には、定常的に発生する周波数の
会社も前述したエネルギー、キャパシ
需要家に負荷抑制のインセンティブを
という二つの市場で発電所が発電した電
微妙なズレや需給どちらかの予期しない
ティ、インシラリーサービスという三つ
付与して電力需給バランスを維持すると
気が取引される。わが国で言えば、一部
変動(電源の脱落や系統事故、需要の急
の市場にあたる機能を需要家から調達す
いう意味で、料金単価型とインセンティ
の電気が日本卸電力取引所(JEPX)で
増)に対応して供給力不足を補う瞬動予
る仕組みを整え、DRを積極的に供給力
ブ型は同じ効果を持つが、電力会社の需
電力会社やPPS(特定規模電気事業者)
備力(Spinning Reserve)や数秒単位の
として活用している。
給安定策という視点からみた場合、両者
の取引が前日市場と当日時間前市場(実
需要と供給のズレを補正する周波数調整
供給の安定性を担保するために、電力
の間には決定的な違いがある。料金単価
運用4 時間前までの市場)で取引されて
力(Regulation)がこれに当たる。米国
会社は一定の供給予備力を確保する義務
型DRが“望ましい負荷パターンを形成
いるのと仕組み自体は似通っている。
では系統運用機能分離が行われた多くの
を有する。供給予備力とは、不測の事態
02
(Capacity Market)と呼ばれる。
図表1:DRアグリゲータのビジネスモデル
垂直統合型の電力会社
給力として積極的に活用とする姿勢は、
発電・送電・配電・小売が水平分離した
03
NRI K NOWLEDGE INSIGHT
2012 MAR. VOL.23
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が発生した場合でも電力を安定供給する
具体化しており、供給力としてのDRを
一方、電力(小売)会社は、原子力、
料金やクリティカルピークプライシング
も、直接負荷制御プログラムで用いる通
ない。その際、「需要側の資源を取り込
ために最大需要を超えて電力会社が保有
定量化する方法を制度化している。また、
火力、水力、再生可能エネルギーといっ
といった料金単価型のDRを実施するた
信回線は、スマートメータの通信回線と
むことで電力の安定供給が実現される」
する供給力を言う。電力会社は、DRを
米国カリフォルニア州でも、公益事業委
た電源種類に需要側資源を新たに組み込
めのインフラとして位置付けられていた。
は独自に用意することが一般的であり、
というよりも、「電力の安定供給を損な
通じて確保した負荷抑制量を供給予備力
員会が供給力としてのDRが充足すべき
むことになり、需要側資源を組み込んだ
米国では、2005年エネルギー政策法で
両者の統合は中長期的な課題として位置
わない形で需要側の資源を取り込む仕組
に組み込むことが認められている。
要件を明確化している。
新たな電源ポートフォリオを構築するこ
卸電力調達コストを反映した時間帯別料
付けられている。
みを作る」という発想で検討を進めるこ
例えば、米国において垂直統合の事業
また、需要側資源の活用と整合が取れ
とになろう。また、相対取引や市場取引
金の導入とそれを実現するためのスマー
我が国において「DRを促進するため
とが望ましい。
形態を維持している代表的な優良電力
た原価回収の仕組みも必要となる。例え
を通じて需要側資源を購入するだけでな
トメータの設置が推奨された。米国エネ
のスマートメータ」といった場合、
(1)
需要側の資源が秘める大きな可能性を
会社であるFlorida Power & Light Duke
ば、米国のいくつかの州においては、電
く、自社電源を保有するのと同じように、
ルギー情報局の調べによると、2011年6
料金単価型DRのインフラとしてのスマー
十二分に引き出すためにも、我が国の実
Energy North Carolinaは、
それぞれOn Call
力 需 給 を 統 合 資 源 化 計 画(Integrated
自らがアグリゲータとして需要側資源を
月 時 点 で 約13.4%の 需 要 家 に ス マ ー ト
トメータ、
(2)インセンティブ型DRの
態に即した現実的かつ効果的な新たな制
やPower Managerといった家庭需要家向
Resource Planning:IRP)と呼ばれる考
確保する企業も現れよう。つまり、自社
メータが導入されている。
効果測定インフラとしてのスマートメー
度枠組みの構築が期待される。
けの直接負荷制御プログラムを実施して
え方に基づき原価回収を図っている。
電源比率を検討するのと同様に、自社“ネ
こうして料金単価型DRのインフラと
タ、
(3)
インセンティブ型DR(特に直接
いる。これは、夏季の需給逼迫時にエア
IRPに従い、想定される電力需要を満た
ガワット電源”比率を戦略的に検討する
して導入されたスマートメータは、イン
負荷制御プログラム)を実施する際の通
コンの負荷制御を行うことにより数十ド
すために、発電所建設という供給力の整
必要性が出てくる。
センティブ型DRに対しても重要な役割
信インフラとしてのスマートメータ、と
*1 デマンドレスポンス(DR)アグリゲータは、デマ
ルの報酬を受け取ることができるプログ
備と需要側の制御というDRのどちらに
また、系統運用や市場取引という観点
を果たす。
いう三つの異なる役割を明確に区分して
め、電力会社や系統運用機関にデマンドレスポンス(DR)
ラムである。これらプログラムを通じて
投資しても電気料金として回収できる制
からは、発電所に対する系統連係ガイド
まず、スマートメータの導入により、
議論することが求められよう。
得た負荷抑制量は、供給予備力を計算す
度が導入されており、電力会社は、双方
ラインと同様に、需要側資源を供給力と
DRの効果を測定・検証するためのイン
る際に、発電所と同様の供給力として考
の費用対効果を比較して、最適な投資を
してみなすためのガイドラインを用意す
フラが整う。特に個々の効果測定が困難
天然資源を輸入に依存する我が国は、
ビスの運用など、DRに関わる種々の手続きを代行し、そ
慮されている。
行うことが求められている。
ることが求められよう。どのような需要
であった家庭におけるDRがより実効的
需要側の資源を十分に活かした新しい電
酬の一部を得る。
側資源を供給力としてみなすのか、需要
に行われることが期待される。
力システムを構築していかなければなら
抑制の効果をどのようにして測定・検証
またスマー
するのか、といった具体的な仕組み作り
トメータを直
が必要となる。
接負荷制御
これら垂直統合の電力会社は、供給側
への投資(発電施設)と需要側への投資
需要側資源を取り込んだ新たな
電力システムとエコシステム
費用対効果が優れている施策を都度採用
5
している。
さて、このような需要側資源を供給力
さらに、こうした需要側資源を供給力
プログラムの
として電力システムに取り込んでいくと、
として活用するために必要となるシステ
通信インフラ
一般論として最終的に電力システムはど
ムや商品を提供する企業も現れてこよう。
として活用す
のような姿になるのだろうか。
需要側の設備を制御するための端末や
ることも考え
まず、需要側資源を供給力として提供
ネットワーク化するための通信機器、無
ら れ る。 ス
電力システムは、需要と供給のバラン
するアグリゲータは、発電事業者と同様
数の需要側端末を管理・制御するための
マートメータ
スを一度でも欠くと、大停電を引き起こ
の役割を果たすようになるだろう。アグ
シ ス テ ム(DRMS:Demand Response
経由で家庭
す可能性があるため、DRを供給力とし
リゲータは、需要側資源が持つ電力(エ
Management System) な ど 個 々 の 商 品
内にある家電
て活用するためには、DRに発電所と同
ネルギー)、容量(キャパシティ)、アン
を提供する企業やこれら商品を電力会社
製品や住宅
程度の信頼性がなければならない。いざ
シラリーサービスとしての価値を、それ
や系統運用機関に対してシステムとして
設備に制御
という時に、
「やはり需要は抑制できま
ぞれ相対で電力(小売)会社に販売した
インテグレートするシステムインテグレー
信号を送ろう
せんでした」では済まないのである。こ
り、卸取引市場に販売したりするであ
タが現れると思われる。
という試みで
のため、米国ではDRの信頼性を確保す
ろう。発電資産の多様化を進める独立
るための様々な枠組みが具体化されて
系発電事業者(IPP:Independent Power
いる。
Producer)は、新たな“発電資産”として
例えば、前述したPJMでは、CBL(Cus-
需要側資源を取り込むようになるかもし
6
tomer Baseline)という効果測定方法を
れない。
もともとスマートメータは、時間帯別
(デマンドレスポンス)を同等に比較し、
4
04
デマンドレスポンスを供給力として
活用するための制度枠組み
サービスを提供する中間事業者のことである。
DRアグリゲータは、需要家に対してプログラム参加を呼
び掛ける営業活動に始まり、需要家との契約、日々のサー
の対価として、電力会社や系統運用機関から支払われる報
図表2:需要側資源を取り込んだ新たな電力システムとエコシステム
㞺こᐓ
㞹ງ䟺ᑚ኉䟻ఌ♣
༷ᕰሔ
䇵Ⓠ㞹䇶ఌ♣
㞹ງ
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Ⓠ㞹஥ᴏ⩽
䟺᪜Ꮛ㞹″䟻
ᕰሔㄢ㐡
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㢴ງ䝿ኯ㝟ක
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䝑䜰䝳䝇䝌
㞹″
ᐓᗖ
䜦䜴䝮䜶 䝃
䜦䜴䝮䜶䞀䝃
䟺䝑䜰䝳䝇䝌㞹″䟻
ᐖ㔖ᕰሔ
䜦䝷䜻䝭䝮䞀ᕰሔ
ある。ただし、
インフラとしての
スマートメータ
ンドレスポンス(DR)プログラムに参加する需要家を集
㞺こഁ㈠″
㞺こഁ㈠″
スマートメー
タの普及が先
㏳ಘᶭჹ
㏳ಘᅂ⥲
䜻䜽䝊䝤䜨䝷䝊䜴䝰䞀䜻䝫䝷
行している米
❻ᮆᶭჹ
DRMS
䜮䝞䝰䞀䜻䝫䝷௥⾔
国において
05
NRI K NOWLEDGE INSIGHT
2012 MAR. VOL.23
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米国におけるデマンドレスポンス
アグリゲータの現状と今後
佐藤仁人
滝雄二朗
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インフラ産業コンサルティング部 コンサルタント
インフラ産業コンサルティング部 副主任コンサルタント
電力小売会社にDRアグリゲーションサー
マニュアル制御型アグリゲータは、主
収する形でDR市場参入の動きを見せて
要家のリアルタイムのエネルギー使用デー
発・導入が進むことになろう。具体的に
DRアグリゲータとは
ビスを提供している。本稿では、業務・
に大規模事業所を顧客とし、産業用需要
い る。Siemensは、 遠 隔・ 自 動 制 御 型
タをモニタリングし、省エネ・省コスト
は、負荷設備をより精緻に制御するため
産業需要家を対象としたDRアグリゲー
家の生産ライン、大規模施設の空調、照
DRアグリゲータであるSite Controlsを、
に関する提案を行う。このようなDRア
のコントローラや制御ロジックの開発・
デマンドレスポンス(DR)アグリゲー
ション事業に関する現状と今後の動向
明、冷蔵設備などの負荷設備、および
Johnson Controlsは、DRを 実 施 す る た
グリゲータの動きに対して、大手EMS・
導入が想定される。この領域においては、
タは、DRプログラムに参加する需要家
について分析をする。
CHP(Combined Heat and Power)
、自
めのプラットフォームを提供している
電機メーカは、既顧客や販売網を防衛す
EMS・電機メーカの事業機会が増大す
を集め、電力会社や系統運用機関にDR
家発電設備などの供給設備を制御対象と
EnergyConnect Groupを、Honeywellは、
るために、DRアグリゲーション事業へ
ると考えられる。
サービスを提供する中間事業者のこと
する。マニュアル制御では、数秒から数
DRプラットフォームを業務・産業用需
参入している。
分単位の短い時間の需要反応、および需
要家に提供しているAkuacomをそれぞ
要抑制の発生頻度が高いプログラムへの
れ買収した。
②遠隔・自動制御ニーズの高まり
1
対してプログラム参加を呼び掛ける営
2
業活動に始まり、需要家との契約、日々
DRアグリゲータは、系統運用機関や
対応は困難であるため、マニュアル制御
このように大手EMS・機器メーカが
今後は、DRアグリゲーション市場に
上述のような市場の動きに加えて、今
のサービスの運用など、DRに関わる種々
電力小売事業者から要請を受けると、契
型アグリゲータは、主に反応時間が長く、
市場参入を進める背景には、機会と脅威
おいて遠隔制御・自動制御の重要性が高
後は米国以外の地域でもDRアグリゲー
の手続きを代行し、その対価として、
約関係にある需要家の負荷制御を実施す
需要抑制の発生頻度が低い、ピークカッ
の側面がある。まず、機会の側面として
まっていくことが考えられる。まず、今
ション市場が顕在化していくことも想定
電力会社や系統運用機関から支払われ
る。その際、DRアグリゲータが需要家
トへの対応や系統運用機関が整備する容
は、DRをきっかけとした自社製品の販
後DRアグリゲーション市場が拡大して
され、DRアグリゲータを取り巻く事業
る報酬の一部を得る。また、DRアグリ
に電話やメール等で負荷制御依頼を行い
量市場などのプログラムに参画している。
売拡大があげられる。DRは、系統運用
いくことで、対象顧客が、大規模需要家
環境は大きく変化していくことが見込ま
ゲータは、一般家庭と業務・産業需要
需要家が予め定められたマニュアルに従っ
一方、遠隔・自動制御型アグリゲータ
機関や電力会社からサービスの対価を得
中心の現状から、中小規模需要家にまで
れる。エネルギー関連事業において新た
家の双方を対象としている。
て制御行動を実施する場合と、DRアグ
は、大規模需要家に加え多店舗型の中小
て、その一部を需要家に還元するビジネ
拡げられることが予測される。中小規模
な事業展開を検討する企業にとっては、
現在、家庭においてDRの対象となり
リゲータが遠隔からの直接制御や自動制
規模需要家(食品スーパーチェーン店
スである。そのため、ビジネスモデルの
需要家は、多くの場合、エネルギー管理
このような市場の変化を捉えることで、
える設備は、セントラル空調、電気温
御により需要家の負荷設備を制御する場
等)も顧客とし、自家発電設備などの発
組み方によっては、需要家はコストを負
者を置くことができないため、DRアグ
新たな事業展開の切り口が得られる可能
水器、プールポンプなどの負荷設備に
合がある。業務・産業需要家を対象とす
電設備および空調、照明、冷蔵設備など
担することなくDRに必要なエネルギー
リゲータからの要請に従い、マニュアル
性がある。
限られており、DRアグリゲータは、外
るDRアグリゲータには、前者の方式を
の負荷設備を制御対象とする。遠隔・自
監視装置や各種機器制御設備を導入する
制御を実施することは難しい。このため、
新たな事業機会として、まずDRアグ
部から直接制御可能なデバイスやシス
主力とする「マニュアル制御型アグリゲー
動制御では、数秒から数分単位の短い時
ことができる。また、それらの監視装置
今後中小規模需要家がDRアグリゲーショ
リゲーション事業自体の市場拡大を背景
テムを家庭需要家に導入し、電力小売
タ」と、後者の方式を主力とする「遠隔・
間の需要反応、および需要抑制の発生頻
や各種機器制御設備は、現在大手EMS・
ンの主要な対象になることで、遠隔・自
にアグリゲータとしての事業機会の獲得
事業者が需要制御を実施可能なプラッ
自動制御型アグリゲータ」がおり、それ
度の高いプログラムに対応することが可
電機メーカが販売しているシステムと似
動制御のニーズが高まることが予測され
が想定される。また、遠隔・自動制御ニー
トフォームを提供している。一方、業務・
ぞれ得意とする顧客、サービス内容等が
能であるため、マニュアル制御が対応で
た機能を保有しており、関連する幅広い
る。
ズの高まりを受け、遠隔・自動制御を実
産業需要家においてDRの対象となり得
異なる。
きる容量市場に加え、アンシラリー市場
サービスを拡販することが期待できる。
また、政府機関や系統運用機関・電力
施 す る た め の 機 器 設 備 やITプ ラ ッ ト
(周波数制御や予備力対応)のプログラ
一方、脅威の側面としては、先行する
会社による制度変更によってDRアグリ
フォームを提供する機会も顕在化する。
ムにも参加することが可能となる。
DRアグリゲータによるエネルギーサー
ゲータが参入可能な市場が拡大してきて
次に、DRアグリゲーションサービス
現在、米国における業務・産業需要家
ビス事業の拡大があげられる。一部の
いること、DRアグリゲータが容量市場
を切り口とした各種エネルギー関連事業
を対象としたDRアグリゲーション市場
DRアグリゲータは、DRサービスにより
や一部のアンシラリー市場のみでは十分
における事業機会の獲得も考えられる。
の大半は、容量市場によるものであり、
築いた顧客基盤を足掛かりにし、DR以
な収益を上げられなくなってきているこ
具体的には、DRアグリゲーションによっ
多くのDRアグリゲータがマニュアル制
外のエネルギーサービスへの展開を志向
とから、今後はDRアグリゲータが、反
て獲得した顧客接点を活用し、省エネ改
御型である。
している。例えば、EnerNOCは、DRア
応時間が短く、需要抑制の発生頻度が高
修やカーボンマネジメント、エネルギー
グリゲーションサービスを利用している
いアンシラリー市場にも展開していくこ
設備管理、エネルギー調達支援などDR
需要家のうち、エネルギー料金が年間
とが予測される。この流れからも、遠隔・
以外の各種サービスをクロスセリングす
100万USドル以上の需要家を対象に、
自動制御ニーズの高まりが見込まれる。
ることが想定される。
エネルギー管理代行サービスを提供して
以上のように、遠隔・自動制御に対す
このように、各企業は、DRアグリゲー
①大手EMS・電機メーカの市場参入
いる。同サービスでは、DRサービスの
るニーズが高まることで、今後はDRア
ションを新たな事業機会と捉え、新たに
現在、大手EMS(Energy Management
ために導入したシステムを需要家の施設
グリゲーション事業において遠隔・自動
拡大する事業機会の取り込みを検討して
System)・電機メーカが、既存企業を買
管理システムと統合することにより、需
制御を実施するための各種設備機器の開
いく必要がある。
である。DRアグリゲータは、需要家に
DRアグリゲータの分類
る設備は、空調・照明、冷蔵/冷凍設備、
製造プロセスなどの負荷設備から、自
図表1:DR アグリゲータの分類
家発電設備などの供給設備まで多岐に
マニュアル制御型
アグリゲータ
わたる。そのため、DRアグリゲータは、
遠隔・自動制御型
アグリゲータ
個々の業務・産業需要家に対し、制御
代表企業 EnerNoc、Comverge等
対象機器の選定、需要制御容量の算定、
制御対象 空調・照明、冷蔵/冷凍 空調・照明、冷蔵/冷凍設
設備、製造プロセス、
機器
CHP、自家発電設備等 備、自家発電設備等
オペレーションマニュアルの作成、デ
マンド制御装置、遠隔・自動制御装置
の導入などを行い、需要制御可能な容
量を集める。
現在、DRアグリゲーション市場が最
主な顧客 大規模需要家
SiteControls等
大規模需要家、および中小規
模需要家(特に多店舗型需要
家)
ピークカット、容量市場、アン
対応市場 ピークカット、容量市場等 シラリーサービス市場(周波
数制御市場、予備力市場等)
も先行する米国では、DRアグリゲータ
対応可能な 数十分~数時間
反応時間
数秒~数分
は一般家庭と業務産業需要家の双方に
対応可能な
需要抑制の 低
発生頻度
低~高
対してアプローチし、系統運用機関・
06
3
DRアグリゲーション市場
の動向と今後
③DRアグリゲーション市場における事
業機会
07
NRI K NOWLEDGE INSIGHT
2012 MAR. VOL.23
急拡大する国内デマンドレスポンスの
事業機会
加福秀亙
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3
インフラ産業コンサルティング部 主任コンサルタント
含む)の方が今後3年間の需給逼迫緩和
需給逼迫時における需要抑制契約)の料
したポテンシャル市場どおりの規模にな
とであり、その点では現在ESCO*1 事業
注目されるようになり、BEMS/HEMSに
への貢献は大きいと試算している。
金や、「東京電力に関する経営・財務調
らないことに注意が必要である。
などを行うエネルギー管理事業者などが
関わる事業者にとっては大きな事業機会
これまで国内では、電力会社が供給責
査委員会」による報告書から国内の市場
アグリゲータとして適していると考えら
が広がっている。
DRとは(Demand Response:需要反応)
任を負い、長期の供給計画を立てて需給
規模の推定を行った結果である。まず
HEMSは仕様策定にまだ時間を要する
の略称であり、電力需給の逼迫度合いに
安定のための努力を続けていたため、
Case1は2003年に東京電力がすべての原
もう一方の事業機会として挙げられる
と見られ、事業機会が開けるのは少し先
応じて、電力会社側が主に小口需要家の
DR導入に関する議論は活発ではなかっ
発を停止した際に、契約電力500kW以
3
れる。
のは、需要家の電力需要を制御するため
となる可能性が高いが、それに対し、
電力消費をコントロールし、電力の需給
た。しかし、震災と原発事故を契機に電
上の大口の需要家に限って募集した「業
DR市場には1,700~3,400億円規模の
のコントローラに関連したビジネスであ
BEMSは、特に中小事業所向けで大きな
バランスを取る技術である。ピーク需要
力会社の供給力が大幅に下がり、これま
務用緊急時調整契約」の単価をベースに
ポテンシャルが見込まれる。それでは、
る。具体的には、電力の需給逼迫信号や
事業機会を保有している。
を抑制することにより、電力会社がピー
で直面してこなかった需給逼迫の問題が
試算したものであり、緊急時に1kWの
関連する企業等は、どのようにその市場
電力価格の変動を受けて、機械で自動的
大規模事業所では既にBEMSの普及率
ク需要をカバーするための発電設備、送
急浮上してきた。火力発電所建設などの
需要抑制を行うと約2万円/年のインセ
を自らの事業に取り込めばいいのであろ
に電気設備を制御するシステムに関する
が高く、例えば契約電力500kW以上の
電設備の投資負担が下がり、結果的に電
通常の電源開発は10年単位の期間が必
ンティブを需要家が受け取ると試算し
うか? 事業が想定される。このように省エネを
大口需要家では80%程度の建物にBEMS
力系統の最適化が図られるものである。
要なのに対して、需要抑制のためのDR
た。また、Case2は「東京電力に関する
DRにおける事業機会は大きく二つ存
図る設備としては、すでにBEMSやHEMS*
が導入済みと推計できる*3。
我が国では、2011年3月の東日本大震災
導入は短期での対応が可能であることか
経営・財務調査委員会」が試算した、ス
在する。一つは電力会社からの需要逼迫
が存在する。
一方、中小事業所では、BEMSの普及
により多くの発電所が喪失し、原発事故
ら、現在、様々な方面からその必要性が
マートメータ導入によって9%の需要抑
信号を需要家に伝えるという役割を持つ
実際に2011年度の第三次補正予算で
率は低く、300kWを下回る契約電力に
の影響により原発が再稼動できない状況
提言され、議論がなされている。
制が行われた際の投資抑制効果(発電所
プレーヤとなる事業機会である。特に、
「エネルギー管理システム導入促進補助
なると殆どの施設でBEMS導入がなされ
の設備投資6,000億円削減、燃料費700
電力会社が需要家に需要抑制に応じて直
事業」によってBEMS/HEMSへの補助
ていない*4。この原因として、BEMSに
億円/年削減可能)をベースに試算した
接料金を支払うインセンティブ型のDR
がなされており、その中でBEMSへの補
よる省エネ効果だけでは導入費用を回収
ものである。Case3は上述の「業務用緊
が導入された場合は、このタイプのプレ
助要件として需給逼迫情報に基づいて電
できないためである。しかし、今後DR
急時調整契約」の単価を需給逼迫になっ
ーヤが重要になる。インセンティブ型の
気設備の稼動を抑制・制御できることを
によるインセンティブが導入されること
1
日本でDR市場が生まれる
背景
も生じている。このため、今後数年間は
電力供給の問題が生じ、さらに代替の火
国内における
DRポテンシャル市場
DR市場における事業機会
2
入額が増加するという問題も生じてくる。
2
実際に震災以降、国家戦略室に設置さ
国内にDRのポテンシャル市場はどの
ていない2002年以前の単価としたもの
DRの場合、大口需要家だけでなく、小
求 め て お り、DR制 度 の 受 け 皿 と し て
によって経済性が改善すれば、中小事業
れた「エネルギー・環境会議」における
程度存在するのであろうか。
であり、Case1の半分の単価となっている。
口の事業所や一般家庭といった需要家ま
BEMS/HEMSを活用する動きが出てき
所にBEMSが導入される可能性が高まる。
検討でも、原発の停止に伴う需給逼迫の
DRの原資は、電力会社から提供され
これらの単価をベースに、2012年夏
で含めて需要抑制を行うのが効果的とな
て い る。 こ の よ う に、BEMS/HEMSが
さらに、複数の中小事業所を囲い込み、
長期化と、年間3兆円以上の燃料費増加
るインセンティブである。つまり、ピー
に予想される需給ギャップを掛け合わせ
るが、電力会社ではなく第三者がこれら
今後DRを行う上でのキーデバイスとな
効率的にDRサービスを提供することに
の2点の課題が挙げられている。
ク需要の抑制を行うことで、ほとんど稼
たものをDRのポテンシャル市場と定義
需要家を取りまとめる(アグリゲートす
ると見られる。
より、これまで開拓が難しかった中小事
このような課題に対応するための方策
動しないような発電所の建設や、送配電
すると、全国で1,700億円~3,400億円の
る)ようになると考えられるからである
として、DRのうちこれまで日本で取り
網の整備が不要になることによるコスト
市場が創出されることになる。
(図表2)。実際に米国などではこのよう
組まれてこなかった対策を念頭に置いた
を原資として需要抑制に協力した需要家
ただし、実際には需給対策としてDR
な需要家を取りまとめるプレーヤ(DR
提言・活動が多くの関係機関からなされ
に還元するというものである。
以外の様々な施策が行われるため、DR
アグリゲータ)がベンチャー企業などを
4
始めている。例えば、内閣官房に設置さ
現在、制度が整っていないため実際に
市場は立ち上がるが必ずしもここで計算
中心に出始めている。しかし、日本国内
BEMS/HEMSがDR制度導入に際して
れた「東京電力に関する経営・財務調査
はDRに 関 す
委員会」
では、
需要家にインセンティブを
る明確な市
与えることによって電力需要の抑制を実
場は存在しな
家を仲介するア
現すること(DRを導入すること)が今
い。図表1は、
グリゲータは存
後必要だと提言している。また、
「エネ
過去に電力
在してこなかっ
*1 ESCO(Energy Service Company):顧客の省エネル
ルギー・環境会議」においても、様々な
会社が募集
た。DRア グ リ
う事業のこと
取組を検討した結果、発電所増設などの
した緊急時調
ゲータとなるた
*2 BEMS (Building Energy Management System),
電力供給力向上よりも、電気料金メニ
整 契 約(大
めの条件は需要
庭の電気設備などを運転管理・制御することでエネルギー
ュー多様化と見える化の徹底や、需要家に
口電力需要
家へのチャネル
消費削減を行うシステムのこと
よる省エネ促進などの電力需要抑制(DR
家に対する
を持っているこ
*4 ヒアリング調査、各種資料よりNRI推計
力発電の稼動増加によってエネルギー輸
08
ではこのように
図表1:国内DRポテンシャル市場規模の推計
電力会社と需要
業所向けBEMSの一層の普及を図ること
BEMSの
DRに向けたチャンス
ができる。既に何社かのBMES事業者は
クラウドサービスを活用して、中小事業
所に向けた低コストBEMSを開発しつつ
あり、このようなプラットフォームを活
用したBMESビジネスには今後大きな機
図表2:DRアグリゲータの機能
会が得られる可能性が高い。
ギーにかかる費用を顧客の水道光熱費等の削減によって賄
HEMS (Home Energy Management System):ビルや家
*3 ヒアリング調査、各種資料よりNRI推計
09
NRI K NOWLEDGE INSIGHT
2012 MAR. VOL.23
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3
電力子会社改革のあり方
樋詰伸之
インフラ産業コンサルティング部 上級コンサルタント
対して、電力インフラの耐用年数は比較
している。
スマートグリッドなど電力高度化に向け
にならないほど長い。鉄道インフラの耐
一方、電力事業者においては、スマー
た動きへの対応も視野に入れて議論され
用年数も長く、例えば電車は13年である。
トグリッド構築に向けて、送電網の強化
るべきである。
日本のインフラ業界は高コスト構造で
電車に関しては、夜間等は運航せず点検
や配電・変電の高度化を推進していくこ
あるといわれる。土地・人件費が相対的
が可能となるが、同様に耐用年数が長い
とが喫緊の課題である。具体的には、超
に高い国土において、法人や家庭が求め
電力インフラには点検等のための休みが
高圧送電の敷設を通じて、電力供給の広
る高い品質と安定供給を実現しようとす
ない。
域連携を図り、面単位で需給ギャップを
6
れば、投資及び運営コストは高くなる。
原子力、水力、火力発電所ともに電気
解消することや、配電設備や変電設備の
近 年、 業 界 再 編 や ク ロ ス ボ ー ダ ー
国内電力会社の原価低減活動は手ぬる
事業法に基づく定期検査や定期安全検査
自動化・高度化により送配電系統の管理
M&Aが活発化しつつある。電力業界も
いかといえば、必ずしもそうではない。
等に合格し、それを繰返すことにより、
レベルを向上させること等である。
例外ではない。業界再編やM&Aは市場
例えば、「東京電力経営ビジョン2010」
半永久的に運転を継続することができる。
既に国内の電力網は高度な機能を有
競争の中では当然起こりうることであり、
における業務効率改善目標は平成15年
最も身近な電力設備として、電柱や柱
していると言われているものの、これ
合理化に向け規模の経済性発揮は必要で
度比で20%以上である。
上変圧器等の流通設備があげられる。平
らを推進するためには、過去設置され
ある。
他方、電力事業では度々大きな事故が
成22年末時点における電力10社の鉄塔・
た設備機器を入れ替えるとともに、新
ただし、一部の電力流通設備について
発生していることも考慮する必要がある。
電柱数(配電設備支持物)は総計2,139
旧機器が混在する状態で電力を安定供
は、大手企業が採算性の観点から撤退
原子力発電関連では、高速増殖原型炉
万本であり、変圧器は990万台となって
給する制御システムのさらなる高度化
し、電力子会社や中堅企業が支えている
「もんじゅ」事故(平成7年)
、浜岡原子
いる。変圧器には多様な種類があり機種
が必要となる。
という実態もある。また、M&Aを繰り
力発電所事故(平成11年)、美浜発電所
性能によって差異はあるものの、代表的
実際には、スマートグリッド化に伴い
返し成長し続ける企業が多数ある半面、
資料:東京電力に関する経営・財務調査委員会報告書より抜粋
3号機事故(平成14年)などが記憶に
な設備である柱上変圧器をみると、耐用
すべての機器を入れ替える必要性はない
M&Aに失敗し、財務体質を悪化させ事
新しい。また平成18年10月から11月に
年数は税法上で18年、学会推奨では25
が、需要側の様々な需要に対応するため
業撤退を余儀なくされる企業も星の数ほ
電力会社は、これまで実施してきた原価
かけて、複数の電力会社において、過去
年となっている。
には、段階的に送電・変電・配電網に関
どある。短期的な経済合理性だけで判断
わる流通設備を高度化する必要がある。
することは、国益を損じることにもなり
福島原子力発電所問題を契機に、東京
けた「関係会社の取引における発注方法
電力の子会社及び関連会社の合理化・再
の工夫」の必要性が言及された。また委
編が検討されている。
員会報告において「継続」とされた関係
3
電力インフラの耐用年数は長く、安定
会社についても、下表に示すように、合
的なサービス供給を担保するには、設備
理化や事業再編の推進が求められている。
製造・保守サービスを担う企業の事業継
続性や環境変化に耐えうるだけの財務体
力が必要となる。
近視眼的な経済合理性だけでなく、“イ
ンフラ50年”を視座とした改革が展開さ
れることが望まれる。
図表1:東京電力関係会社における存続会社の扱い
①コスト削減による合理化
存続対象とする関係会社において固
定費の圧縮等を図ることにより連結
ベースでのコスト削減を見込む
②再編による合理化
類似又は関連した機能を有する関
1
効率化の波が押し寄せる
電力業界
平成24年1月末に東京電力を除く電
力9社の平成23年4~12月期連結決算
が発表された。
相次ぐ原子力発電所の停止に伴い、火
力発電をはじめとする燃料費負担の大幅
増により7社が赤字へ転落している。
係会社を統合することで重複した
機能・人員配置を見直し、コスト
削減・効率化を図る。
【再編の軸】 発電設備、送配電設備
顧客管理、不動産管理
“インフラ50年”を視座とした
改革シナリオの必要性
現在家庭向け電力料金を定める総原価
低減活動に加え、子会社・関連会社のガバ
における発電所に関する書類の不備や、
電力インフラの耐用年数は非常に長い
方式の見直し作業が進められているなか、
ナンスのあり方についての対応が求めら
データの不適切な取扱い等の問題が明ら
ため、安定供給を実現するには、長期に
また、長期間にわたる電力の安定供給に
かねない。
世論の関心が電力会社のコスト体質に集
れることが予想される。次節以降では、①
かになった。このように、電力会社は、
わたって安定的にインフラを管理できる
向けては、様々な研究・実証研究をもと
東日本大震災の際、首都圏の電力・
まっている。平成24年4月には、東京
電力安定供給と合理化のジレンマ、②イン
歴史的に大事故が発生するリスクと向き
体制が堅持できているか、という点も大
にさらなる高度化が必要になる。
交通・通信網の機能不全が発生し都市
電力再建に向けた総合特別事業計画が発
フラ対応年数と保守・交換、③スマートグ
合いながら、安定供給を実現させなけれ
きなポイントになる。
電力子会社改革に向けては、こうした
パニックとなったことは記憶に新しい。
表される見通しであるが、同社に対して、
リッド化への対応といった側面から、電力
ばならず、安全と合理化のジレンマを抱
大胆な合理化・効率化努力が要請される
子会社の改革や再編について考察する。
えている。
力会社にも及ぶことは必至である。
2
電力子会社ガバナンスの
行方
電力子会社や関連会社のあり方につい
ても見直しの必要性が高まっている。
平成23年10月末に発表された「東京
電力に関する経営・財務調査委員会報告
書」では、資材・役務調達費用削減に向
図表2:東京電力関係会社の分類結果と売却方針
国内事業
海外事業
再編合理化
5
0
存続合理化
29
25
売却(存続)
27
7
非継続(54社) 売却(清算)
12
0
6
2
継続(59社)
清算
資料:東京電力に関する経営・財務調査委員会報告書より抜粋
電力会社にとって、電力の
スマートグリッド化への
対応
図表3:流通設備高度化イメージ
品質維持、安全・安定供給、
合理化を避けることは難しい。しかしな
5
がら、中期的観点で発生する各種リスク
今後10年間において、双方向の通信
関連会社の改革にあたって
を踏まえながら慎重に判断することも不
機能を備えた新しい次世代電力計「ス
は、短期的な合理化だけでは
可欠である。
マートメータ」が導入される見通しであ
なく、対象企業の事業継続性
る。スマートメータ導入に伴いHEMS等
(安定供給)や中長期な環境
新たなビジネス機会が見込まれる。電力
変化を踏まえる必要がある。
需要問題が顕在化するなか、こうした新
イ ン フ ラ50年 を 視 座 と し
たな市場獲得に向けて、電気メーカ、通
た改革に関するグランドデ
パソコンの耐用年数は4年、冷蔵庫は
信メーカ、自動車メーカ等では単独ある
ザインを描くことが必要で
6年、普通自動車は4~6年であるのに
いはアライアンスによる参入戦略を検討
ある。
電力業界の置かれた現状を踏まえれば、
ことが予想される。この影響は、他の電
10
電力安定供給と合理化の
ジレンマ
4
インフラ耐用年数と
保守・交換
高度化への対応は至上命題で
ある。電力設備や機器を扱う
11
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スマートコミュニティ
~巨大都市開発市場の攻略に向けて~
小口敦司
3
インフラ産業コンサルティング部 副主任コンサルタント
SC市場は直近10数年で、
数百兆円へと迫る大市場
に成長
1
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の土地造成といったハード整備の領域から、
市のマスタープランを策定し、必要に応じ
のような案件があっても、各社とも懸命な提
これらのKFSを満たし、適切な提案を適切
まま日本企業がSC事業に参入しても、勝算
ICTを活用した医療サービスといったソフト整備
て土地造成を行い、インフラを導入し、マ
案活動を実施しており、過度な価格競争に陥
なタイミングで実施することで、外資勢は
があるとは言い難い。KFSを満たすとともに、
の領域まで、事業領域は幅広く存在し、付随す
スタープランにあった適切なソリューション
るなど、提案の努力に比して得られる果実も
SC市場で成功を収めているのである。
SC事業への取り組み方を大きく変える必要
るビジネスチャンスも多岐にわたる。また、都市
を導入する、といった大きなプロセスを踏
小さくなるケースが多い。
一方で日本企業の動きはどのように評価
があると考えられる。
近 年、Smart Community(以 下、SC)の
問題を解決するソリューションとして、最先端の
んで行われる。この都市開発プロセスは、
外資勢が、こうしたスペックイン活動を
されているのだろうか。海外諸国からは、日
近年、SC事業をミッションに掲げる専門
重要性が各所で唱えられている。似た言葉として、
技術を複数導入することから、その市場規模は
半年や1年といった短期間ではなく、5年
積極展開する背景には、自社がSC事業に
本企業は、①高価格だが高性能なソリュー
組織が日本企業においても組成され始めて
Smart Cityという概念もあるが、共に明確な定
非常に大きい。その規模を推計すると、2020
から10年、もしくはそれ以上といった長期
おいて「どこで儲けるのか」を明確に定
ションを有していると評価される一方、②意
いる。それだけ、同市場が魅力であること
義付けはされていない。一般的にはICT(情
年には毎年、約700兆円の事業を生み出すほ
間で実施されることが少なくない。新都市
義していることがあげられる。
「対象都市
思決定が遅く、③提案営業ではなく欲しい物
が認知されていることの証である。しかし、
報通信技術)を利用してインフラを制御すること
どに成長すると推計される* 。700兆のうち、
開発のような大規模投資ではなく、既設イ
にとって必要であるが、自社が保有しな
を聞くカタログ営業に終始する傾向がある、
専門組織を組成しただけではSC事業を動か
でエネルギー効率を高め、快適な暮らしを実現
200兆円がハード事業、つまり発電所や道路、
ンフラ等の更新投資だけで済むブラウン
い商材」があったとしても、儲け所が明
という課題も指摘されているようだ* 。
すことはできない。先述したように、計画
する都市開発の概念と考えられている。SCには、
鉄道、港湾といったインフラ開発にあたり、500
フィールド案件であったとしても、数年と
らかになっているため、必要に応じて他
都市開発事業のように計画段階からコン
段階からの提案営業や、自社だけでカバレ
大きく二つの事業モデルがある。ひとつは先進
兆円がソフト事業、つまり行政サービス、インフ
いった時間がかかるものである。このよう
社との提携を通じた機能補完を進めるこ
タクトを始め、事業推進の提案やコーディ
ッジが効かないテーマのハンドリング、出
国を中心とした都市やインフラの更新を主とする
ラ運営等のオペレーション事業にあたる。世界
な事業の性質を踏まえると、SC事業を含む
とができる。つまり、対象都市に対して
ネーションが求められる場合においては迅
資に対する迅速な意思決定など、機動力を
再開発事業、もうひとつは新興国を中心とした
の総固定資本形成が2020年時点で2,700兆円
都市開発事業においては、マスタープラン
他社の商材も含めた魅力的な総合提案を
速な意思決定が求められる。日本企業は、
持った提案とそれに付随する意思決定が求
人口増加を吸収するための新都市開発事業で
規模になると予測されることから、SC市場規模
を実現するためのソリューションはもちろ
しながら、自社の利益を確保できるので
先のSC事業におけるKFSを決して満たして
められる。これに対して、昨今の専門組織
ある。前者はブラウンフィールド、後者はグリー
はその25%を占める規模となり、非常に大きな
んのこと、案件形成、コーディネーション、と
ある。外資の中には、確実にスペックイ
いないわけではないが、スペックイン活動
が何かしらの意思決定権を有するケースは
ンフィールドと呼ばれている。ブラウンフィールド
市場であることが分かる* 。
いった要素も幅広く求められることになる。
ンするため、自社の持ち出しで都市開発
の成功に向けて、こうした意思決定力不足
皆無であるのが実態ではないだろうか。
外資各社は都市開発において、マスタープ
を進める政府にコンタクトすることもある。
がネックになっていることも否めない。
本気でSC事業に取り組むのであれば、最
ラン策定等を終えた、事業の実行段階におい
Siemens等は都市別に営業担当を設置する
て導入するソリューションから利益をあげる
など、積極的に政府にコンタクトするこ
だけでなく、SC事業が都市開発事業である
とで、計画段階からの関与の幅を広げる
ことを認識した上で、マスタープラン策定な
活動を進めている。SC事業においては上
1
2
案件では、先進国において過去に整備され、
老朽化したインフラの更新や、防災対策、環境
対応などの様々な都市問題を解決するためのソ
リューションが求められる。一方、グリーンフィー
2
ルド案件では、BRICsに代表される新興国の爆
対象都市のニーズをくみ
取り、適切な提案を適時
に行う競合外資
発的な人口増加の受け皿となる新都市開発が
拡大するSC市場に対して、各国企業はど
どの計画段階から政府にコンタクトし、ス
流から入り込むことに価値があることを
求められる。特にアジア、アフリカ、南米の新都
のように参画しているのだろうか。
ペックイン活動、つまり自社のソリューショ
認識しているためである。
市開発ニーズの勢いが強まっている。
現在、IBM、Cisco Systems、Siemensなどの
ンが上手く組み込まれるための案系形成活動
SC事業を、都市やコミュニティをICTを使って
企業がSC事業において名をあげている。し
を展開している。そうすることにより、自社
「Smart化」することと解釈すれば、関連する事
かしいずれの企業も、ただ自社商材を対象
が得られる果実を大きくし、かつ排他的競争
業領域は果てしなく広い。具体的には、初期
都市に売りこんでいるわけではない。先に
本企業そのような経験が浅いと言わざるを
るだろう。また、専門組織の条件を揃える
① 計画段階からのコンクタト
得ない。より豊富な経験と、日本企業には
と同時に、カタログ営業の意識も改める必
環境を作り上げているのである。そもそも、
② 落とし所(儲け所)の明確化
ない意思決定力を有する外資勢が競合とし
要がある。従前のような商品ありきのプロ
③ 不足機能を補完した総合提案力
て地位を築いていることを考えると、この
ダクトアウト型ではなく、顧客、すなわち
では、政府や自治体といった公的主体が都
ブラウンフィールド案件だけである。仮にそ
対象都市が何を求めるのかを考える姿勢が
図表3:SC事業参画に求められるスタンスの変革
大事である。加えて、このようなマーケッ
る人材を育成していくことも急務である。
図表2:外資企業のSC 事業におけるパートナーシップ事例
14,000
3
トインの発想を持って提案営業を推進でき
2020
16,000
る全権を専門組織に委任する等の思い切っ
は以下の三点に集約される。
リューションが求められる案件は限られた
2010
社長直轄プロジェクトとしてSC事業に関す
ことで、意思決定を高速化することができ
都市開発事業の一種である。都市開発事業
2000
組織が持つ必要があるだろう。たとえば、
入り込むことが求められるが、現状では日
(十億ドル)
1990
決めるべきことを決める意思決定権を専門
上記の観点から、SC市場におけるKFS*
都市開発の時間軸からすれば、今すぐソ
10%
3
意思決定速度の高速化とカタ
ログ営業ではないソリュー
ション提案営業の必要性
た舵取りも有効だと考えられる。こうする
述べたとおり、SC事業は名前こそ違うものの、
20,000
低限、分野横断的に自社内を取りまとめ、
SC事業においては、より上流から案件に
図表1:地域別の総固定資本形成の推移
(2020年は予測)
18,000
4
12,000
10,000
7%
8,000
6,000
,
13%
4,000
2%
対象都市
提携先
IBM
マルタ島
SAP
SAPシ ス テ ム
EMC、 WSC
スマートメーター
Cisco Systems
(マルタ共和国)
新松島
Gale (韓国)
開発計画策定
(韓国)
POSCO E&C (韓国)
建設機能
12%
5%
2,000
企業名
0
Europe
Asia
Africa
North
America
Central
America
出所:国際連合
注:丸の中は2010~2020 年までの年平均成長率
12
South
America
Siemens
サハラ砂漠
(アフリカ大陸)
DESERTEC
(ドイツコンソ―シアム)
補完する商材
(太陽光関連技術)
*1 世界のSC市場事例を基に、IMF等の各国マクロデー
タよりNRI予測
*2 国際連合データよりNRI予測
*3 Key Factor for Success
*4 外国政府、外国の都市開発関連プレイヤーに対する
ヒアリングより
13
NRI K NOWLEDGE INSIGHT
2012 MAR. VOL.23
当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断
転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の
著作権法及び国際条約により保護されています。
日系デベロッパーにとっての
中国不動産開発の課題
~商業施設開発への対応~
荒木康行
3
インフラ産業コンサルティング部 副主任コンサルタント
はじめに けでなく商業施設やオフィス、ホテルなど
事業環境は、日本と大きく異なる点があ
会社やコンサルティング会社はまだ少ない。
①商業施設の所有 ング、マーケティングといった点で、日
この数年間で、デベロッパーや住宅メー
の商業用不動産の併設を求めるようになっ
る。その事業特性ゆえに、日系デベロッパー
限られる売却先
開発した商業施設を、従来のように個
系企業は優れたノウハウを有している。
カ、商社などの日系企業による中国での
た。これまでは用途ごとに別々のデベロッ
にとって課題となる点がいくつかある。
開発した商業施設の所有や売却につい
別分譲することも考えられる。しかし、
しかし、現地で商業施設開発や運営を行
不動産事業が加速してきた。その多くは、
パーに売却していたが、近年では、全区画
広大な開発規模
ても日本と異なる点がある。
個別分譲では、開発規模が大きくなるほど、
うにあたっては、それだけでは十分では
分譲住宅(マンション)の開発・販売で
の開発を単独デベロッパーに要請すること
一つは、開発規模が非常に大きいこと
中国の商業施設の多くは、開発後複数
テナントの構成が雑多になったり、分譲
なく、現地の商習慣や行政対応といった
あった。しかし最近では、商業施設の開
もある。実際、用地取得の際に、開発面積
である。中国では敷地面積が数万㎡の案
の個人・法人投資家に売却される個別分
後テナントが未入居のまま放置されたり
特有の商業ノウハウの補完が必要となる。
発や運営が対応すべき課題となっている。
の2~3割を商業用不動産(多くの場合は
件は一般的で、10万㎡を超えるものも決
譲の形式が一般的である。分譲住宅に併
する状況が生じやすい。特に、分譲住宅
現地商業ノウハウを補完する方法とし
本稿では、中国における商業施設の開
商業施設)とするといった条件が付けられ
して珍しくはない。たとえ商業施設の比
設する商業施設の場合は、住宅購入者の
に併設する商業施設がそのような状態に
て、現地デベロッパーとの合弁会社(JV)
発・運営に関して、日系デベロッパー(同
ている案件が多い。換言すると、デベロッ
率が2~3割としても、実面積としては非
入居完了後に販売されることが最も多い。
陥ってしまうと、住宅の資産価値や商業
の設立や業務提携も考えられる。しかし、
様の機能を持つ住宅メーカや商社を含
パーにとって、すぐに資金回収ができる分
常に広大であり、日本でも開発経験が多
シンガポールや香港等の外資デベロッ
施設のブランドに負の影響をもたらす。
案件単体での提携に終わるリスクもあり、
む)から見た、事業環境や課題、事業展
譲住宅だけの開発はできなくなっていると
くはない規模である。
パーや、中国の現地デベロッパーによる
一方、開発した商業施設を、短期的に一
人員などを含めたノウハウの移転や、継
開方法について取り上げる。
いうことである。
開発に加え、テナントのリーシングも
大規模な商業施設においては、開発後も
棟売却することは、買い手が限られるた
続的な事業展開までを見込むことは難し
小売市場の成長
必要となる。分譲住宅の階下に付設する
デベロッパーが所有することが多い。た
め容易ではない。このため、短中期的には、
い。
中国では小売市場そのものが著しく成
ような、数千㎡程度の低層商業施設であ
だし最近では、住宅市場の成長鈍化によ
商業施設を所有し、一定期間は運営する
商業施設の賃貸事業を本格的に展開す
長している。中国の消費財小売売上高は
れば、さほど難しくないかもしれないが、
る資金難のため、外資や一部の現地大手
ことを視野に入れることが必要となる。
る場合は、より深いレベルで現地商業ノ
毎年15%前後の成長が続いている。人口、
より大規模な商業施設に対して、テナン
デベロッパーを除き、商業施設の所有に
また、中国における事業ポートフォリ
ウハウを獲得することが望ましく、その
住宅市場の成長鈍化
特に中間所得層の増加や、都市化の進展
トのリーシングや、売却または所有を求
消極的な現地デベロッパーが増えている。
オからみると、商業施設の所有は中長期
ためには、提携の度合いが強い出資や買
中国の住宅市場では、リーマンショッ
が大きな要因である。さらに、第12次五
められる。
百貨店など現地小売業の商業施設は、
的にも有効であるといえる。分譲住宅事
収の形態が適している。今般の住宅市場
ク後の刺激策から一転して、2010年以降
カ年計画において、中国政府が個人消費
商業プロパティ・マネジメント(PM)
基本的に自社の所有物件であるが、カル
業は、資金回収期間が短い事業である反
の成長鈍化により、資金を求める現地デ
は住宅市場の抑制策が続けられている。
を中心とした内需拡大政策を表明してい
機能の不足
フールなど外資系によるハイパーマーケッ
面、事業規模の維持・拡大のためには常
ベロッパーが多いことを考えると、現在
2011年に入っても、2軒目の住宅ローン
るため、小売市場は今後も拡大が続くと
現地デベロッパーにおける、テナント
トは、所有ではなく賃貸物件がほとんど
に用地の仕入れと住宅の販売を続けてい
は日系デベロッパーにとって出資や買収
の頭金比率の引き上げや、外部戸籍者の
見られる。このような小売市場の成長に
のリーシングやマーケティング、店舗運営、
である。
かなければならない。中国において、市
の好機ともいえる。
購入制限*1など、特に投資目的の住宅購
対する期待から、商業施設の開発が増え
施設管理などの商業施設に関する運営・
商業施設の開発後の一棟売却について
況の影響を受けやすい分譲住宅事業のみ
入に対する規制が行われてきた。これら
ている。
管理ノウハウは、日系企業から見て十分
は、現時点では買い手が限られる。国内
で、事業を続けることはリスクがある。
おわりに
の規制により、住宅の買い手が絞られ、
上記のような要因から、中国において、
な水準に達していない。これまで中国の
外の機関投資家や不動産私募ファンドが、
商業施設を保有した上で、賃貸事業や
中国は、今年、政権交代の節目にあた
住宅市場の成長が鈍化してきた。そのため、
商業施設開発は、デベロッパーにとって
商業施設は、区画ごとに売却する個別分
商業施設を一棟取得する場合でも、エリ
商業施設の運営・管理などから安定的に
ることから、当面は大きな政策変更は起
デベロッパーにとっては、分譲住宅以外
対応が必要な事業であるとともに、成長
譲が一般的であった。そのため、デベロッ
アや立地等の条件が厳しく、それに合致
収益を得ることも重要である。
こらないと言われている。しかし今後とも、
の事業として、商業施設やオフィスなど
が期待される事業であるとの認識が高まっ
パーにとって、テナント・ミックスやフ
する一部の商業施設に限られている。シ
商業施設を所有する場合、開発規模の
中国の不動産市況や政策動向には注視が
の事業拡大が必要となっている。
ている。住宅開発が中核事業であったデ
ロア・ゾーニング、施設の維持・管理といっ
ンガポールや香港のREIT(不動産投資信
大きさを考慮すると、日系デベロッパー
必要である。それでも、中国の不動産市
市政府からの要請
ベロッパーにとっても同様である。実際、
た点は、あまり意識されてこなかった。
託)が、中国において商業施設を一棟単
にとって自社単独で所有するにはリスク
況が「冬の時代」と言われる現在こそ、
不動産開発用地を供給する市政府側の考
最大手の住宅デベロッパーである万科企
加えて、これまでは分譲価格の上昇が
位で取得するケースもあるが、そのほと
が大きい。そのため、現地デベロッパー
日系デベロッパーにとっては、案件や企
え方にも変化が現れている。土地使用権の
業も、商業施設開発を自社で手掛け始め
続いてきたため、商業施設の開発を手掛
んどは自社開発物件である。
や他の日系デベロッパーと共同で所有す
業に対する投資や仕込みといった、中長
売却は、市政府にとって大きな収入源であ
ている。
けるデベロッパーは存在しても、商業施
ることが望ましい。さらには、現地デベロッ
期的な視点での事業展開を検討する良い
パーをコントロールするためには、日系
機会である。
1
商業施設開発の
外部環境変化
設の運営・管理を専門的に行う企業は
るが、住宅用地として売却した場合は、売
却による収入に限られる。しかし、商業施
設が併せて開発されれば、商業売上に伴う
税収を継続的に見込むことができる。
そのため市政府は、デベロッパーに対し、
土地使用権の取得条件として、分譲住宅だ
14
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2
中国における事業特性と日
系デベロッパーにとっての
課題
中国における商業施設開発を取り巻く
商業施設開発・運営事業の
展開
米系の企業や現地企業に加え、最近では
3
日系企業でもそのようなサービスを展開
上記の事業環境を踏まえると、日系デ
する企業が現れているものの* 、商業施
ベロッパーが中国で商業施設開発を行う
②商業PM機能の獲得
でとする制限が付けられた。
設のプロパティ・マネジメント(PM)
にあたり、次の2点がポイントとなる。
テナント・ミックスやフロア・ゾーニ
企業ではダイエー子会社のOPA やパルコなどである。
育っていないのが現状である。一部の欧
2
企業複数社で、出資比率の過半を握るこ
とも重要である。
*1 住宅購入に関して、当該地に戸籍を有する者は2 戸
まで、それ以外の者で税金等の納入実績がある者は1戸ま
*2 欧米系ではCBRE やJLL、現地企業ではCRIC、日系
15
NRI K NOWLEDGE INSIGHT
Branch Insight
2012 MAR. VOL.23
韓国の 5 大グループの
2012 年における経営戦略
2012년 한국 주요
그룹의 경영전략
張朱希(ジャン・ジュヒ)ソウル支店 コンサルタント
노무라종합연구소 서울지점 컨설턴트 장주희
史上最大の投資に踏み切る 5 大グループ
사상 최대의 투자계획을 발표한 5 대 그룹
2012 年を迎えて、韓国の5大グループ(三星グループ・現代車
2012 년 , 한국 5 대 그룹 ( 삼성그룹 • 현대차그룹 •SK
그룹 •LG 그룹 • 롯데그룹 , 이상 자산총액순 ) 의 신년사
グループ・SKグループ・LGグループ・ロッテグループ、以上資
에 가장 많이 등장한 단어는 ‘위기’이다 . 글로벌 차원에
産総額順)の新年挨拶に最も多く登場していた言葉は「危機」で
서 경제 저성장 기조가 지속되는 가운데 경영 환경의 불확
ある。グローバル経済は低成長基調が続き、経営環境の不確実
실성은 높아지고 있다는 인식이다 . 이러한 위기의식 하에
性が高まっているという認識がその背景にある。そのような危
機意識の下、
5大グループは正面突破を選択し「史上最大の投資」 서 5 대 그룹은 정면돌파를 선택하고 ‘사상 최대 투자’를
발표했다 . 기업 간 경쟁력 격차가 확대되는 시기에 대응
を発表した。企業間競争力の差が拡がる時期に備えて、未来先
하여 , 미래 선도 전략에 초점을 맞춘 공격 경영에 나선다
導戦略にフォーカスを合わせた積極的経営に踏み切る姿勢を鮮
는 것이다 .
明に示したわけである。
이들 5 대 그룹의 매출총액이 한국 GDP 에서 차지하는 비
韓国GDPの内、5大グループの売上総額が占める割合は約
70%。2011 年、各グループの代表企業(三星電子、現代自動車、 중은 약 70% 에 이른다 . 2011 년 각 그룹의 대표기업 ( 삼
성전자 , 현대자동차 , SK 이노베이션 , LG 화학 , 롯데쇼핑 )
SKイノベーション、LG化学、ロッテショッピング)は、いずれ
이 일제히 사상 최대 매출실적을 달성한 만큼 , 이러한 성
も過去最大の売上実績を上げており、今後もこの勢いを続ける
장세를 이어가겠다는 의지로도 풀이된다 .
という意志表示であると考えられる。
올해 한국 5 대 그룹의 투자 계획 총액은 104 조원으로 ,
2012 年度における、5大グループの投資計画の総額は 104 兆
전년 실적 대비 18.2% 증가한 목표치를 설정하고 있다 .
ウォンであり、前年度より 18.2%増の目標値を設定している。
「未
‘미래를
위한 투자’에 걸맞게 , 주요 계획이 「신사업 육
来に向けた投資」にふさわしく、
主要計画は「新事業育成」と「新
성」과
「신시장
진출」에 집중되는 모습이다 .
市場進出」に集中させる模様である。
新事業育成
新事業育成の場合、各グループは、先端技術をもとに電子、
化学、自動車分野をグループの核心戦略事業に位置づけている。
47 兆8千億ウォンの投資を決めた三星グループの李健煕(イ・
ゴンヒ)会長は新年祝賀会で、
「三星の未来は新事業・新製品・
新技術に左右される」として‘ 3新戦略’を明らかにした。グルー
プの代表事業である半導体とディスプレーの中で、新規分野と
なるシステムLSIとAMOLEDに大規模な投資が行われる予定で
ある。また、素材分野においてもグローバル競争力を確保する
目的として、次世代情報電子素材研究団地を造成することを明
らかにした。研究団地には三星電子を含めて、三星SDI、第一
毛織、三星精密化学、三星コーニング精密素材など、5社が共
同で進出し、研究開発のシナジーを極大化する計画である。
SKグループも上半期に新規展開する半導体事業にグループ全
体の投資額の半分を集中させる。グループ・ポートフォリオを
革新することで、技術基盤、輸出志向を中心とする「SK 4.0 時代」
へと跳躍する戦略である。代表的企業であるSKイノベーション
は、電気自動車向けバッテリーだけではなく、バッテリー向け
分離膜、偏光板向け光学フィルムなどの素材事業を持続的に育
成し、新事業開発を先導する企業へと体質改革を図っている。
LGグループでは、代表企業のLG化学を中心に経営資源を集中
させることで、基礎成長力を強化する動きが見られる。具本茂
(ク・ボンム)会長は新年挨拶においてLGディスプレーのCEO
をLG化学事業の本部長として任命し、
「新規事業を始める際には、
市場を完全に掌握するという覚悟で、徹底的に、準備しなけれ
ばならない」と強調した。組職改編を通してLG化学は、電池・
情報電子素材・石油化学の3大事業本部体制を確固たるものと
し、電気自動車向けバッテリー及びディスプレー向け硝子基板
事業を本格的に拡大する計画である。
16
신사업 육성
먼저 , 신사업의 경우 첨단기술 기반의 전자 , 화학 , 자
동차 분야가 그룹의 핵심 전략사업으로 대두되고 있다 .
47 조 8 천억원의 투자를 결정한 삼성그룹 이건희 회장은
신년 하례식에서 “삼성의 미래는 신사업 • 신제품 • 신기
술에 좌우된다”는 ‘3 新 전략’을 제창했다 . 삼성그룹의
대표사업인 반도체와 디스플레이 중에서도 신규 분야에 속
하는 시스템 LSI 와 AMOLED 에 대규모 투자가 집행될 예정
이다 . 또한 완제품 ( 세트 ) 및 부품에 이어 소재 분야에서
도 글로벌 경쟁력을 확보할 목적으로 차세대 정보전자소재
연구단지 조성에 착수한다 . 신설되는 연구단지에는 삼성
전자를 비롯하여 삼성 SDI, 제일모직 , 삼성정밀화학 , 삼
성코닝정밀소재 5 개사가 공동 참여하여 연구개발 시너지
를 극대화할 계획이다 .
SK 그룹도 올 상반기 신규 진입하는 반도체 사업에 그룹
전체 투자의 절반 가량을 집중한다 . 그간 주력해왔던 에
너지 및 통신 사업의 성장이 정체됨에 따라 , 그룹 포트폴
리오 혁신을 통해 ‘기술 기반 , 수출 지향’을 골자로 하
는 ‘SK 4.0’ 시대로 도약하겠다는 전략이다 . 현재 대표기
업인 SK 이노베이션의 경우 전기자동차용 배터리뿐만 아니
라 배터리용 분리막 , 편광판용 광학필름 등의 소재 사업
을 지속 육성하며 신사업 개발에 주력하는 기술 선도 기업
으로의 체질 변화를 도모하고 있다 .
LG 그룹은 대표기업인 LG 화학을 중심으로 역량을 집결하
며 기초 성장동력을 강화하는 움직임이 눈에 띈다 . LG 그
룹 구본무 회장은 신년 인사에서 LG 디스플레이 CEO 를 LG
화학 사업본부장으로 중용하는 한편 , “신규 사업을 시작
할 때 시장을 완전히 장악하겠다는 각오로 철저하고 용기
있게 준비해야 한다”고 강조했다 . LG 화학은 조직개편을
통해 전지 • 정보전자소재 • 석유화학의 3 대 사업본부 체
제를 확고히 한 가운데 , 전기자동차용 배터리 및 디스플
레이용 유리기판 사업을 본격 확대한다 .
3
新市場進出
新市場進出については、中国を含めた新興国市場において、
現地コントロールタワー(地域本社)を設置し、そこを拠点と
して市場進出を加速化させる計画を表明する傾向が見られる。
SKグループの中国事業を陣頭指揮しているSKチャイナは事業
を開始して2周年を迎えるが、
「現場中心の経営」という方針の
下で、成都、瀋陽等でも地域本社を設置し、事業を強力に推進
している。年平均 30%以上の成長を持続することにより、2015
年にはグループ全体の売上の 10%以上を占める目標を掲げてい
る。SKグループは中南米市場の攻略に向けてもSKラテンアメリ
カの設立を検討している。
ロッテグループも中国での事業拡大に向けたコントロールタ
ワー開設が間近に迫っている。事業構造が流通及び消費財中心
であるだけに、世界最大規模として浮び上がった中国市場の獲
得の意志が強く見られる。新年挨拶で中国事業総括本部の代表
を発表し、当該組職を早期に組成する予定である。
投資形態~ M&A投資か研究開発投資か~
投資の形態は、三星グループ・SKグループ・ロッテグループ
はM&Aを積極的に活用する一方、現代自動車車グループ・LGグ
ループは投資総額の 30%以上を独自の研究開発に集中投入する予
定である。
三星グループは 2011 年度から資本投資目標を公開しているが、
今年度の計画は前年度より 10%増加した 3 兆 2 千億ウォンである。
グループ内新事業推進グループ下にあるM&A担当組織も 100 人
規模に増員し、グローバル企業の買収を積極的に探索している。
SKグループは半導体事業への進入に向けてハイニックスの買
収に3兆4千億ウォンを投入する。崔泰源(チェ・テウォン)会
長自身がハイニックスの共同代表となり、責任経営を行う予定で
ある。
ロッテグループでは最近3年間に加わった 35 社の系列社のう
ち、21 社がM&Aによる編入である。辛東彬(シン・ドンビン)
会長が「不況期にこそあるチャンスを逃さないよう、現金を充分
確保するなど周到に準備を行った上で経営を推進してほしい」と
指示したことから、今後も積極的なM&Aが続く見込みである。
現代自動車グループは研究開発に投資する 5 兆 1 千億ウォンの
大部分を自動車分野の核心技術の開発に投入する。特に、海外合
弁会社の技術力に依存していた先端電子制御などのコア技術の独
自開発を強化する方針である。
LGグループは研究開発に対する投資を史上最大の4兆9千億
ウォンと見積っている。LG化学、LG電子、LGU+(通信)の主力製
品及びサービスの差別化から、コア技術及び複合技術の開発に至
るまで中長期的な観点で広範囲な投資を断行する計画である。
신시장 진출
다음 , 신시장으로 주목되고 있는 것은 중국을 비롯한 신흥
국 시장으로서 , 현지 컨트롤타워 주도로 시장 진출을 가속화
할 계획이다 .
SK 그룹의 중국 사업을 진두 지휘하고 있는 SK 차이나는 출
범 2 주년을 맞이한다 .‘현장 중심 경영’방침을 세우고 청
두 , 선양 등지로도 지역별 헤드쿼터를 확대하며 사업 추진에
탄력을 받고 있다 . 연평균 30% 이상의 성장을 지속하여 2015
년에는 그룹 전체 매출에서 10% 이상 기여하는 것이 목표이
다 . SK 그룹은 중남미 시장 공략을 위한 SK 라틴아메리카의
설립도 검토 중이다 .
롯데그룹도 중국 사업 확대를 위한 컨트롤타워 설립이 임
박한 상황이다 . 유통 및 소비재 중심의 사업구조를 보유하고
있는 만큼 , 세계 최대 규모로 부상한 중국 시장에 대한 확보
의지가 강하다 . 신년 인사에서 중국 사업 총괄본부 대표를
확정 발표하였으며 , 해당 조직을 연내 신설할 예정이다 .
투자 형태 ~ M&A 또는 R&D 투자 ~
마지막으로 , 투자 형태의 경우는 , 삼성그룹 •SK 그
룹 • 롯데그룹은 M&A 를 적극 활용하는 반면 , 현대차그
룹 •LG 그룹은 투자총액의 30% 이상을 자체 연구개발에 집
중 투입할 예정이다 .
삼성그룹은 2011 년부터 자본투자 목표를 별도로 공개하
고 있는데 , 올해 계획은 전년 실적 대비 10% 증가한 3 조
2 천억원에 달한다 . 그룹 신사업추진단 산하의 M&A 담당조
직 또한 100 명 규모로 증원하며 글로벌 기업 인수를 적극
타진하고 있다 . SK 그룹은 반도체 사업에 진입하기 위한
하이닉스 인수에 3 조 4 천억원을 투입한다 . 최태원 회장이
직접 하이닉스 공동대표로 선임되면서 , 책임경영에 나설
예정이다 . 롯데그룹은 최근 3 년간 신규 편입 계열사 35
개 중 21 개가 M&A 를 통한 편입이었으며 , 올해 초부터 하
이마트 인수전에도 참여하고 있다 . 신동빈 회장이 “불황
기에 찾아오는 기회를 놓치지 않도록 현금을 충분히 확보
하는 등 준비된 경영을 해달라”고 당부한 바 있는 만큼 ,
공격적 M&A 추세를 이어나갈 전망이다 .
현대차그룹은 5 조 1 천억원의 연구개발 투자 중 대부분을
자동차 분야의 핵심 기술 개발에 투입한다 . 특히 , 이전까
지 해외합작사 기술력에 상당 부분 의존해 온 첨단 전자제
어 등의 원천 기술을 독자 개발하는 데 집중한다는 방침이
다 . LG 그룹은 시설 투자를 전년 대비 축소하였음에도 , 연
구개발 투자는 사상 최대인 4 조 9 천억원을 목표하고 있다 .
LG 화학 , LG 전자 , LGU+( 통신 ) 의 주력 제품 및 서비스 차
별화부터 , 원천 기술 및 융복합 기술 개발까지 중장기적
관점에서 광범위한 투자를 단행한다는 계획이다 .
以上のように、韓国の5大グループの 2012 年における経営戦
略目標は「未来の新事業を重点的に育成する一方、戦略的進出市
場の拡大によるグローバル企業としての位相を確固たるものとす
る」と要約される。選択と集中の対象となる各分野は、著しい市
場変化と激しい競争に直面すると見込まれるが、5大グループは、
そこに大規模投資を行うことで攻勢をかけようとしているわけで
ある。関連分野に携わる日米欧の多くの企業は、こうした動きに
注視する必要があろう。
이상 살펴본 바와 같이 , 한국 5 대 그룹의 2012 년 출사
표는‘미래 신수종 사업을 중점 육성하는 한편 , 전략 진출
시장의 확대를 통해 글로벌 기업으로서의 위상을 공고히
해 나간다’는 것으로 요약된다 .‘선택과 집중’의 대상이
된 분야들은 향후 더욱 빠른 시장 변화와 치열한 경쟁에
직면할 전망이다 . 대규모의 투자가 이루어지는 만큼 , 이
들 그룹의 전략은 관련 산업에 종사하는 일본 , 미국 , 유
럽 등의 여러 기업에게도 참고가 될 수 있을 것으로 본다 .
17
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2012 MAR. VOL.23
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Vol.12 2010年夏特別号
「太陽光発電市場の変局点」
Vol.14 2010年11月号
「ビジネスの基層の認識と徹底」
【概説】
太陽光発電業界の展望と日本企業の課題
営業力を底上げする3つの取り組み
~消費財メーカーにみる基本的活動への回帰と継続~
《パネル業界》
急速な低コスト化でアジアの競合に対抗
閉塞する地方流通業の打開策
~雇用調整局面における業務の再検討~
向井 肇
浜本賢一/加福秀亙
《ポリシリコン業界》
需給バランス崩壊後の新たな競争軸の獲得へ
岩間公秀
《フィルム部材業界》
材料技術の優位性で生き残りを目指す
中村圭輔
《モジュール業界》
川下を制す企業が市場を制す
前田佳宏
《インバータ業界》
変換効率だけでは勝ち残れない
加福秀亙
《蓄電池業界》
大量普及の鍵は系統安定化技術が握る
重田幸生
《製造装置業界》
装置単体ビジネスモデルからの脱却へ
加福秀亙
《ファシリティ業界》
外部環境変化は事業機会探索の好機
中島崇文/小林大三
《日本市場》
不具合管理の仕組みを構築し市場を拡大
滝 雄二郎/東海林真之
《中国市場》
政府推進のもとで新エネルギー大国を目指す
何徳白樹
《韓国市場》
FITからRPSへの政策転換で質的成長を図る
黄文泰/徐絢桓
《台湾市場》
中国との連携でバリューチェーンの垂直統合を強化
江英橋/凌瑞
Vol.13 2010年9月号
「変わる日本人」
変わる価値観と購買行動
~「生活者1万人アンケート調査」からみる日本人の変遷~
池野心平
管理不全マンションの予防・健全化に向けて
~「2つの老い」に直面する日本の分譲マンション~
大沼健太郎
スポーツに対する国民の期待の変化と企業のスポーツ支援のあり方
~ノーベル賞より金メダル~
坂口 剛
高速道路料金改定による日本人の旅行の変化
中村 哲
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高橋寛和
平井純一
物流アウトソースにおける協業体制の確立
~ブラックボックス化の回避と自前主義からの脱却~
新谷幸太郎
KKD に依存しすぎない改善活動
~「見える化」と
「第三者視点」の導入~
Vol.17 2011年5月号
「組織活性化がもたらす躍進」
新たな「2012年問題」への対応
~人材リスク管理と本社機能の役割~
若友千穂
組織の持続的成長に向けた価値観定着活動
~踏むべき活動ステップとそのポイント~
篠原祐未
企業理念に基づくマネジメント人材像の定義
~人材像を定義する7つの視点~
横山大輔
Vol.15 2011年1月号
「
『日本型』技術・サービスの国際展開」
情報通信産業におけるインフラ輸出を成功させるために
~認識すべきマーケティングへの投資判断の重要性~
石綿昌平
原子力分野の海外展開における課題
~各国市場特性に対応した体制構築~
門林 渉
日系EV の普及に向けた日本の充電規格の世界標準化
伊藤智久
日系企業によるハラール市場開拓に向けて
茂野綾美
新都市開発で広がる新たなビジネスチャンス
~次世代都市システムの展開~
高橋 睦/松岡未季
Vol.16 2011年3月号
「法制度改正を契機とした改革・発展」
IFRS対応を契機とした経営管理改革
~製造業の共通論点の検討事例をもとに~
猪鼻 聡/服部容次/藤村武史
組織再編や自力再建への取り組みと法改正
~流通・小売業における前払式支払手段に関する法改正の影響~
谷口麻由子
地方自治体が保有する地理空間情報の流通と活用
~ガイドライン策定の意義~
齋藤孝太
肥後盛史
部品メーカにおける開発機能のグローバル化
古賀龍暁
日本流ディーラー・サービスの中国展開
張翼
PHEV台頭を見据えた技術戦略の再構築
柳沢樹里
レアアースクライシスは今後も続く
~資源調達の多様化と中国市場攻略への挑戦~
風間智英/鈴木一範
岩間公秀/張 鼎暉
Vol.18 2011年初夏特別号
「“エッジ産業”への期待2」
イスラム金融の台頭
~グローバル金融市場の新潮流~
野呂瀬和樹
新たな成長ステージを迎える健康食品市場
~通信販売で戦う戦略的意義と克服すべき課題~
笠井 洸
民間企業による保育サービス事業の展望
~待機児童の解消に向けた民間の力への期待~
栗原一馬
美容家電による脅威と新たな事業機会
~化粧品メーカーの新たな成長ドライバー~
川元麻衣子
新社会インフラとしての超小型電動モビリティの可能性
齋藤貴成
Vol.21 2011年11月号
「新たな金融事業モデル構築に向けて」
第一号案件が上場した「プロ向け市場」TOKYO AIMの今後
河野 愛
ダイレクト時代の金融対面チャネルの提供価値
片平希望
東日本大震災を踏まえた地震保険制度の再構築
野崎洋之
冬の時代を耐え忍び、攻めに転じるノンバンク業界
田窪寿吏
ID 連携によるユーザー志向の送金サービス
~「日本型」送金サービスで狙う世界の決済市場~
分散化する世界自動車市場と日系自動車メーカの課題
綿江彰禅
ダイバーシティ・マネジメントの推進に向けて
~従業員の意識変革のために各主体が果たすべき役割~
樋口雄飛
急速に拡大するFTA活用支援サービス
~官民を挙げて活用支援に取り組む韓国の事例より~
Vol.20 2011年9月号
「自動車産業、次の10年のチャレンジ」
中島芳徳
Vol.19 2011年7月号
「官民による都市インフラ事業の海外展開」
《水道(1)
》
三位一体の収益モデルと企業間連携・官民連携
向井 肇
《水道(2)
》
コンセッション方式を活用した展開基盤づくり
福田健一郎
《太陽熱発電》
実証実績の獲得と提案スタイルの転換
神澤太郎
《鉄道》
コンセッション方式による鉄道運行ビジネスへの参入
片桐悠貴
《空港運営》
日本の経験をベースとした海外実績の積み上げ
新谷幸太郎
《サプライチェーン》
貨物動静の「見える化」実現のための仕組みづくり
小林一幸
《都市開発》
都市開発技術の商品化とリスク分担の必要性
北崎朋希
《官による支援策(1)
》
バングラディシュにおけるBOP ビジネスを例として
Vol.22 2012年1月号
「これからのICT・メディア市場で何が起こるのか」
モバイル市場
~スマホ普及の機会と脅威~
北 俊一
ECの新潮流
田中大輔
コンテンツ配信市場の変化と影響
三宅洋一郎
電子書籍市場
前原孝章
ソーシャルメディア市場の隆盛
杉山 誠
ポストアナログ放送時代の映像サービス市場展望
寺田知太
ビッグデータビジネスの興隆と課題
鈴木良介
医療情報化に関する戦略・施策動向と期待領域
八代 拓
工藤憲一
野呂瀬和樹
インド市場への進出
~バイイングパワーの弱いマスマーケットに集中せよ~
《官による支援策(2)
》
中東湾岸諸国への進出支援を例として
金星樹(キム・ソンス)
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コンサルティング事業本部のご紹介
常務執行役員 本部長
此本臣吾
執行役員 副本部長(業務系担当)
中野秀昭
執行役員 副本部長(事業推進担当)
村田佳生
室長
村田佳生
名古屋オフィス代表
奥田 誠
大阪オフィス代表
武井基純
業務管理室
室長
鳥谷部 史
電機・精密・素材産業コンサルティング部
部長
雨宮正和
自動車・ハイテク産業コンサルティング部
部長
近野 泰
インフラ産業コンサルティング部
部長
馬場功一
ICT・メディア産業コンサルティング部
部長
桑津浩太郎
消費財・サービス産業コンサルティング部
部長
西川義昭
金融コンサルティング部
部長
宮本弘之
社会システムコンサルティング部
部長
稲見浩之
公共経営戦略コンサルティング部
部長
立松博史
コーポレートファイナンスコンサルティング部
部長
太田一郎
経営コンサルティング部
部長
中川 理
経営革新コンサルティング部
部長
森沢伊智郎
IT 事業推進部
部長
高野裕康
業務コンサルティング推進室
室長
村上勝利
ソウル支店
支店長
崔 創喜
台北支店
支店長
張 正武
マニラ支店
支店長
水野兼悟
モスクワ支店
支店長
岩田 朗
野村総合研究所(上海)有限公司
副董事長(副会長)
葉華
総経理(社長)
皿田 尚
北京支店 負責人(支店長)
梅 松林
清華大学・野村総研中国研究センター
NRI 代表
松野 豊
ノムラ・リサーチ・インスティテュート・インディア
社長
中嶋久雄
コンサルティング事業本部
事業企画室
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2012 MAR. VOL.23
NRI KNOWLEDGE INSIGHT 2012年3月号 Vol.23
本誌に関してご意見・ご要望がございましたら、
編集事務局宛にご連絡ください。
バックナンバーは弊社ホームページにてご覧い
ただけますので、是非ご活用ください。
(http://www.nri.co.jp/opinion/k_insight/index.html)
編集事務局
株式会社野村総合研究所 コンサルティング事業本部
事業企画室
東京都千代田区丸の内 1-6-5 丸の内北口ビル
TEL:03-5533-2266 FA X:03-5533-2414 E-mail:[email protected]
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