アトピー性皮膚炎患者における皮膚の光線過敏性について ただいま

ただいま、ページを読み込み中です。5秒以上、このメッセージが表示されている場合、Adobe®
Reader®(もしくはAcrobat®)のAcrobat® JavaScriptを有効にしてください。
Adobe® Reader®のメニュー:「編集」→「環境設定」→「JavaScript」で設定できます。
「Acrobat JavaScriptを使用」にチェックを入れてください。
日皮会誌:102
(12),
1559―1561,
1992
(平4)
アトピー性皮膚炎患者における皮膚の光線過敏性について
なお、Adobe® Reader®以外でのPDFビューアで閲覧されている場合もこのメッセージが表示され
川本 知江 古池 高志
ます。Adobe®
Reader®で閲覧するようにしてください。
小川 秀興
相川 洋介
要 旨
患者は11∼53歳(平均23.4歳)の男24名,女16名.
アトピー性皮膚炎は,しばしば日光によって皮疹が
喘息の既往・合併は18名(45%)に認められた.重症
増悪することが知られているが,その特性を検討する
度1),4∼12(平均9.0).末梢好酸球,2∼22(平均
目的で,日光による皮疹の新生・増悪を訴えたアトピー
9.1)%,血清LDH,
性皮膚炎患者に限って,その40名に対して光線テスト
IgE,
を施行した.その結果,紫外線に対する最少紅斑量は
ンタイプは佐藤らの定めたJapanese
正常であったが,赤外線に対しては4例(10%)に陽
けるI型12名(30%),
性反応が認められた.従って,本症において光線過敏
(2.5%)であった.
が疑われる患者では,日光照射によってもたらされる
対照として13歳∼77歳(平均29.8歳)の男13名,女
267∼966
42∼31,200
(平均5,813)
(平均476)
U/L,血清
IU/mlであった.スキ
skin
II型27名(67.5%),
type6)にお
III型1名
7名の健常人20名を選んだ.
光線以外の他因子の関与も無視できないと考えた.
光線テスト:
緒 言
3種の光線,
従来我々はアトピー性皮膚炎(atopic
dermatitis :
ultraviolet
(UVB),赤外線を,それぞれ,
A
(UVA),
ultraviolet
DermarayM・DMR・100
以下ADと略す)に対して光化学療法の1つである
形(クリェカルサプライ)付属の径5mm多孔板を上腹
PUVA療法を施行し,良好な結果をおさめてき
部皮膚にあて,照射した.照射量はUVAでは9.8J/
たl)
cm^照射率5.0mW/cm2,UVBでは1∼10分,
4).しかしながら,その治療効果と矛盾するかのよ
(72∼720mJ/cm2),照射率1.2mW/cm2,赤外線では20
うに,ADが光線により増悪する疾患であることも一
方では広く信じられている5)6)事実,いくつかのAD
分とした.
患者における光線過敏の合併例も散見されてい
UVBについては最少紅斑量(MED)を,それぞれ48
UVA,赤外線については紅斑反応の有無を,
る7)8)しかしこれらは光接触皮膚炎7),あるいは小児の
時間後に判定,正常人対照群と比較検討した.
蝉疹8)といった特殊なケースである.Bemhard9)らも
UVA
小児例においては,
BLランプ,波長300∼430nm,最大分光エネルギー分
summer
prurigo との鑑別が困難
: DermarayM-DMR
-100形.光源はFL32S・
であると指摘している.また,これらはADにおける
布352nm.照射総量(J/cmりの確認にはDermacon
光線過敏の合併例を報告したに過ぎず,このことを
M-DMR・DCN(クリニアルサプライ)を,照射率は
もってADが光線過敏性疾患であるということは勿
UV-RADIOMETER
: UVR-305/365・D
n口(クリェ
論できない.逆にADにおける光線感受性の低下を指
カルサプライ)を用いて算出した.
摘する向きさえあり10)本症における真の光線(紫外
UVB:Dermary
線)過敏が存在するか否かについては明らかでない.
イ)を用い,光源はFL-20SE-30ランプ,波長280∼370
そこで我々は本症における光線に対する反応を,よ
nm,最大分光エネルギー分布305nmのものを用いた.
赤外線:サソビー赤外線灯400ML型を使用し,光源
り客観的に評価する目的で,光線テストを施行した.
は遠赤外線エレタソト,波長4∼100μm,最大分光エネ
方 法
患者:当科外来を受診してHanifin
M・DMR・100形(クリュカルサプラ
and Rajka
の基
ルギー5μmを用いた.
準に基づき診断したAD患者165名につき問診を行
結 果(表)
い,日光曝露による皮疹の新生・増悪を訴えた者57名
対照健常人における光線テストの結果は,
中,40名を対象とした.
外線に対してはそれぞれ紅斑反応は認められず,陰性
であった.またUVBに対するMEDは72∼374.4mJ/
順天堂大学医学部皮膚科学教室(主任 小川秀興教授)
平成4年4月17日受付,平成4年8月12日掲載決定
別刷請求先:(〒113)東京都文京区本郷2
順天堂大学医学部皮膚科学教室 川本 知江
― 1―1
cm2であり,これを正常値の範囲とした(平均値±2
SD).その結果,UVAに対してはAD患者群において
も陽性紅斑反応を示した者はなかった.またUVBに
UVA,赤
B
川本 知江ほか
1560
Table Results of phototestingwith UVA,
light sources
AD
patients Cn=40)
UVA
positive : 0
UVB
IR
MED
lowered
UVB
and IR
normal values(n=20)
no response
72-374.4mJ/c
no response
: 0
positive : 4(10%)
認めなかった.また,ADのような非特異的刺激によっ
ても湿疹化するような疾患において,
sunburnを起こ
したのちに湿疹が生じたとしても,それを光線過敏と
「
いってよいのかどうかには疑問もあろう.そのような
ヶ−スでは単にADに夏季嫁疹が合併している可能
性も否定できない5).ただ光線検査におけるdelayed
erythema
dose の測定あるいは大量反復照射による反
対してもMEDの低値を認めた例はなく,むしろ高値
応は必須の項目でありID今回はMEDに異常なし,と
を示した(230.4∼446.4mT/c
するにとどめ今後検討していきたい.
により4名,
「).しかし赤外線照射
10%に陽性紅斑反応を認めた.また1週
UVAに関しては諸外国の文献による照射テス
間後に光線テストの部位を観察したか,湿疹化したも
ト10)13)14)に比べて照射装置の出力に差があるため,照
のはなかった.今回,光線テストの結果判定を48時間
射量は低目である.従って照射量をもっと上げれば,
後に行ったのは,湿疹反応が遅延型であることを想定
陽性例があった可能性もあるが,我々の光線テストに
したことと,3光源によるテストの時間を一定にする
おいて照射したUVA量(9.8J/C
ためである.しかし,
射によって受けているUVA量よりは多く6)7)検討し
UVBによるMEDは20∼24時間
「)は,通常日光照
後におこなうのが標準である,一部の症例を用いて24
た40例全例が陰性であった.しかもこれは主観的に日
時間後に行なった結果はアトピー性皮膚炎患者(n=
光増悪を訴えたAD患者だけを選んでの結果である.
5):144∼381.6mJ/cm2と対照群(n=10):
しかし我々の行った問診結果からもわかるように,
72∼345.6mT/cm^と比較して有意の差を認めなかっ
AD患者において,主観的に光線過敏を訴えた者が実
た.
に35%にものぼった.これをどのように説明するかを
考 按
考えた時,高温や発汗15)など,日光照射に伴う他のAD
従来よりADは光線により増悪する疾患としてと
に対する増悪因子の存在も無視できないと思われた.
りあげられており7)8)10)実際当科,外来を受診したAD
特に皮膚温上昇やそれによる発汗をもたらす赤外線は
患者165名に対して,日光に関する詳細な問診を行った
太陽照射エネルギーの約42%を占めるといわれ6),そ
ところ,光線過敏を訴えた者は57名,実に35%にもの
の影響は無視できないものであろう.実際我々の施行
ぼった.しかしながら,このような患者に対象を限定
した光線テストにおいて,赤外線照射により陽性紅斑
したにもかかわらず,紫外線(UVA,UVB)に対して
反応を示した者が,日光増悪を訴えたAD患者の10%
異常反応を示した者は1名もいなかった.佐藤ら6)は
に認められた.これは光線過敏を訴えたAD患者にお
光線過敏症の光線検査における異常反応の第1番目と
いては,日光照射に伴う他の増悪因子の影響の存在も
してMEDの低値を挙げているが,我々の行った光線
無視できないものと考える.
テストの結果では,その低値を示した例がなかったの
以上,AD患者では,主観的に光線(紫外線)増悪を
みならず,むしろ増大傾向を示した.これはPigatto
訴える者は多いが,客観的な意味での真の光線過敏を
ら1o)が12名のAD小児に対してUVA十UVBを用い
今回行った方法によっては示すことかできなかった.
た結果を支持するものである.多形日光疹の診断にお
従ってphototherapy,
いて重視されるdelayed
有効であるという事実と,理論的にも実験的にも矛盾
erythema
dose11)の検討は今
回正式には実施しなかった.しかし,2∼lOMED照射
photochemotherapyが本症に
のないところであると考えた.
部を1週間後に観察したかぎりでは,湿疹変化などを
文
1)
Yoshiike T, Sindhvananda
jima
S, Ogawa
chemotherapy
J,Aikawa
Y, Naka-
H : Topical psoralen photo・
for atopic dermatitis, /
Der-
献
3)水口聡子,吉池高志,相川洋介,中島澄乃,
hvananda
Sind-
J,小川秀興:アトピー性皮膚炎重症例
に対するPUVA療法(第1報),日皮会誌.
100 :
matol, 18 : 201-205, 1991.
1251-1255,
2)吉池高志,川合博子,永井久美子,川本知江,相川
4)梶山理嘉,吉池高志,
洋介,小川秀興:アトピー性皮膚炎,PUVA,皮膚
相川洋介,小川秀興:アトピー性皮膚炎重症例に
臨床,33 : 1003-1007, 1991.
対するPUVA療法(第2報),日皮会誌,
1990.
Sindhvananda
J,水口聡子,
101 :
1561
アトピー性皮膚炎の光過敏性
43-46,
5)
1991.
Kochevar
K,
IE,
physics,
Pathak
MA,
Parrish
photochemistry,
and
JA
; Photo-
photobiology,
New
Eisen
Dermatology in Geれeral Medi-
oni S,
Ed,
photosensitivity
3rd
McGraw-Hill,
New
10) Pigatto
York,
1441-1451.
303,
6)佐藤吉昭:光線過敏症に対する紫外線防御と指導
Suppl
1990,12
C-H,
Y,
Ohshiro
tact
8)
Derma筋紅25
9)
Bernhard
JA
due
W,
85
C, Keong
Scatchard
:
JD,
In
:
13)
in
the
Rover・
DM,
Hurley
phototherapy
Dび・matol, \25
: 569-572,
Falk
ES : UV-Iight
IE,
Parrish
15)
Hanifin
JM
dermatitis,
TB,
Eisen
AZ,
vers
dermatitis.
us
召r i
1991.
therapies in atopic derma2:241-246,
1985.
: Pharmacophysiology
of
CH・11 RetヌAilersy,4: 43-65,
atopic
1986.
Wolff
Photosensitivity
Kawamoto,
1975.
solarium
of atopic
14)
SL,
Dermatolosy,WB
O : UVA
child,
BrJ
In : Moschella
HJ:
C0,
324-349, Philadelphia,
J, Larko
titis, Phoたjdermatol,
Kochevar
Cutaneous
Jekler
4a,
1981, 97-106.
association
1971.
MA,
Fitzpatrick
Tomoe
MM,
; Atopy and
in children, Fkotodermatol, 3'
Willis l : Photosensitivity,
Saunders
Cθル
: Abnormal reactions to ultraviolet
radiaton,
G,Polenghi
Docchio F
1986.
UVB
: The
atopy
105-110,
Pathak
suprofen,
1991.
M
and
Altomare
Menni S,
Pillsbury
: Allergic
to
: 218-223,
photosensitivity
Dermatol,
Miyamoto
Nishioka K
dermatitis
Frain-Bell
of
Y,
Katoh T,
photocontact
PD,
中山書店,東京,
12)
Kurumaji
McGraw-Hill,
久木田淳,山村雄一編:現代皮膚科学大系,
1,講談社,東京,
-13.
7)
K¥,Dermatolo留i箆
11)堀尾 武:光線過敏性試験,清寺 真,佐野栄春,
の要点,福代良一,西山茂夫,森岡貞雄編:皮膚
科診断治療大系,
Austen
1987, 1481-1507.
TB,
1,
Freedberg
York,
KF:
1987,
K,
ln:
IM,
cine.Vo]
Wolff
IM,
Fitzpatrick
Austen
AZ,
Freedberg
General Medicne,
Vol 1, 3rd Ed,
in Patients
with
Atopic
Dermatitis
Takashi Yoshiike, Yosuke Aikawa and Hideoki Ogawa
Department ofEtermatology,
Juntendo UniversitySchoolofMedicine
(Director:Prof.HideokiOgawa)
(Received
;acceptedforpublication)
Atopic
dermatitis
therapeutic
effects of ultraviolet (UV)
In
is regarded
order to clarify whether
phototesting.
The
light, but infrared
exacerbated
(lpn
Key
(AD)
AD
ray induced
J Dermatol
words: atopic
patients (n=40)
or- provocated
skin
diseases, irrespective
exists in AD, light effects on the patients were
supported
positive skin responses
it, since no abnormal
in 10%
partially due to the secondary
of patients. These
responses
were
results suggested
studied
brought
photosensitivity,
phototesting,
ultraviolet light. UVA,
UVB,
by
by uv
that the sun-
effects to sun-exposure.
102: 1559∼1561,1992)
dermatitis.
of
lesions・
the true photosensitivity
results of AD
patients were
as one of photo-exacerbated
light on AD
infrared ray