第 49 回日本理学療法学術大会 (横浜) 5 月 31 日 (土)16 : 40∼17 : 30 ポスター会場(展示ホール A・B)【ポスター 運動器!骨・関節 32】 1298 術後浮腫と痛みに着目した一症例 足関節術後患者に対する理学療法 木勢 1) 峰之1),山 秀和総合病院 敦2) リハビリテーション科,2)文京学院大学 保健医療技術学部 理学療法学科 key words 浮腫・感覚神経・関節可動域制限 【はじめに】 運動器理学療法において痛みは避けて通れない問題であるが,先行研究は慢性痛に対するものが多いのが現状である。また,外 傷後の複合性局所疼痛症候群に関する治療が数々報告されているが,術後の管理やアプローチを確立させることでそれらの割 合や程度が減少することを示唆した報告も多い。それにも関わらず,実際に感覚機能を客観的数値で示し,具体的な治療法を示 した報告は見当たらない。我々は足関節術後 5 日以内の患者の感覚神経は鈍麻していることを報告し,慢性痛には術後の浮腫が 影響している可能性も確認した。しかしそれらに対する確立された治療法はなく,足関節術後患者に対して背屈可動域獲得に難 渋することも多い。そこで今回は,術後管理と背屈制限予防に焦点を当てた治療プログラムを考案し実施したのでその結果を含 めて報告する。 【方法】 症例は自転車で転倒受傷した 20 歳代男性で,診断名は右足関節内果・後果骨折,腓骨骨折であった。受傷 3 日目に内果に対す る観血的骨接合術を施行し,手術翌日から PT 開始となり,1! 2PWB まで荷重が許可された。術後 2 日目と 42 日目に,足関節 底背屈可動域(ROM) ,周径(舟状骨レベル) ,痛み(VAS) ,電流知覚域値(CPT)を計測した。CPT は Neurometer CPT! C NS3000(PRIMETECH 社製) を使用し,周波数は 2,000Hz,250Hz,5Hz で計測した。電極は浅腓骨神経領域に貼付した。但し, 健側は術後 2 日目のみに計測した。 術後 2 日目より,弾性包帯による圧迫を入浴時以外終日行った。その際に内外果後下面に,パッドの代わりとなるテッシュペー パーを丸めて挿入した。また,足部から下腿全体的に遠位から近位へ向かって,軽度な徒手圧迫を 15 分繰り返し行った。その 後,足関節底背屈運動を自動介助にて痛みのない範囲で繰り返し行った。また,長母趾屈筋と長趾屈筋に対しては,介助下での 反復収縮訓練を痛みのない範囲で行った。さらに背屈制限予防として,術後 5 日目からは伸筋支帯の他動運動と背屈筋群の等尺 性収縮による伸筋支帯の柔軟性維持も行った。術後 7 日目から傾斜台を利用した足関節底屈筋群のストレッチを治療プログラ ムに追加した。 【倫理的配慮,説明と同意】 症例には CPT 計測によるリスクや撤回の自由,学会発表の趣旨などを口頭と文書にて説明を行い,同意書に署名を得てから 行った。 【結果】 術後の評価結果を以下に示す(術後 2 日目→術後 42 日目) 。ROM(術側! 健側)は背屈(−9̊! 14̊)→(14̊! 14̊) ,底屈(42̊! 48̊) →(45̊! 48̊) ,周径(30.6cm!27.6cm)→(27.0cm! 27.6cm) ,痛みは VAS(2.8cm)→(0.5cm)であった。電流知覚域値(以下 CPT)の値(Aβ 線維,Aδ 線維,C 線維)は浅腓骨神経領域にて健側(11,13,11)に対して,術側(25,17,15)→(10,9, 7)であった。術後 42 日目には FWB が許可され,歩行時の痛みは VAS0.5cm であるものの,独歩可能となった。 【考察】 先行研究と同様に,本症例においても周径は術後 2 日目で健側と比較して 3cm 増加しており,浮腫が痛みに大きく影響している と示唆された。そこで,浮腫軽減を目的に弾性包帯による 24 時間管理と徒手圧迫を中心に治療を開始した。浮腫が持続し続け るデメリットとして,各組織への圧迫による運動制限や炎症物質の貯留による痛みの継続がある。本症例では弾性包帯の徹底と 徒手圧迫,自動介助運動によりリンパの流れが促通され,浮腫改善と運動機能改善に繋がったことと考えられる。浮腫がある程 度改善されてきた段階で,伸筋支帯の柔軟性向上を目的に治療を行った。伸筋支帯は背屈時に伸筋腱の必要以上の浮き上がりを 抑えることで伸筋群の収縮効率を良くしており,距腿関節前方関節包のインピンジメントを防止することにも繋がっている。し かし,伸筋支帯の柔軟性が低下により伸筋群の活動低下や関節包のインピンジメントが引き起こされると考えられる。そこで, 早期から伸筋支帯の柔軟性に対してアプローチしたことも背屈 ROM の改善や独歩獲得に大きく繋がったものと考えられる。 術後の浮腫を早期に軽減することで可動域改善や痛みの緩和に繋がり,慢性痛への移行を抑制できることが考えられる。術後に は安静度内で積極的に運動療法を行うよりも,まずは浮腫を軽減させてから運動療法を行うことが重要であることを再認識で きた。 【理学療法学研究としての意義】 術後早期からの理学療法が重要であることは周知されているが,その治療法は医療機関やセラピストにより大きく異なってい るのが現状である。術後理学療法が,より客観的に示されることが重要と思われる。今回の治療経験により,術後浮腫の影響が 予後に大きな影響を与えていることが確認できた。今後も,幅広い症例のデータ収集や生化学検査との検証が必要であると考え ている。
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