ウイルス感染防御機能を持つ Lactococcus lactis JCM5805の発見

受賞者講演要旨
《農芸化学技術賞》
15
ウイルス感染防御機能を持つ
Lactococcus lactis JCM5805の発見と
事業応用
①
②
③
④
キリン株式会社
基盤技術研究所
藤 原 大 介 ①
小岩井乳業株式会社
技術開発センター
城 内 健 太 ②
キリン株式会社
酒類技術研究所
杉 村 哲 ③
キリン株式会社
基盤技術研究所
藤 井 敏 雄 ④
分 類 さ れ る も の で あ っ た .こ の う ち 最 も 安 定 な 反 応を示す
【背景】
季節性インフルエンザなどの従来のリスクに加えて,新興感
染症の拡大などウイルスに関連したリスクは飛躍的に増大しつ
つある.また,健常人においても高度情報化社会のもたらす多種
多様なストレスにより,免疫力の低下が問題となっている.
乳酸菌に関しては古くから免疫について多くの研究が行われ
ており,マクロファージやミエロイド樹状細胞(mDC)を介した
自然免疫活性化機能が明らかとなっていた.一方,近年ウイルス
L.lactis JCM5805を選抜し,
その後の解析を行った.
Type I/III IFNs
【JCM5805の作用機構の解明】
まずin vitro pDC培養系を用いて作用機構の解析を行った.
対
क़ॖঝ५
NK
B
CTL
ളଲ༛૩/
ীੰ
಍ཝ
಍ཝ
照乳酸菌としてLactobacillus rhamnosus ATCC53103を用いて
解析を行ったところ,JCM5805はIFN-αに加えてIFN-β,IFN-λと
శ્౮৓ੂ਋ૢ௦
્౮৓৏਋ૢ௦
いったウイルス感染防御に関わるサイトカインを特異的に誘導
௕S'&ણਙ৲໚෷༳भଢ଼஢ਅറ
することが分かった
(図2)
感染防御機能を司る制御細胞としてプラズマサイトイド樹状細
100
0
0
【pDC活性化乳酸菌の探索】
ৌස໚෷༳ઙ
疫細胞である.
*
50
40
30
20
10
0
*
* ; p<0.05
௕ ໚෷༳ઙभS'&षभ๣ਸपेॊ,)1Vਓেා଑୤ૻຎ
上記のようなpDCの重要性から,それを活性化するような乳
酸菌が仮に見つかれば,実効性の高いウイルス感染リスク低減
技術になりうると考えた(図1).
JCM5805
100
い,さらにウイルス抗原特異的な獲得免疫の誘発による感染後
200
ৌස໚෷༳ઙ
量のtype Iインターフェロン産生を介した感染初期応答を担
૮๣ਸ
Pam3CSK4
LPS
CpG-A
JCM5805
200
IFN-O
IFN-λ
(pg/ml)
300
* *
イルス核酸を認識するTLR7/9を細胞内に強発現しており,大
期応答まで制御する,いわばウイルス感染防御の中核を担う免
IFN-E
IFN-β
JCM5805
300
(pg/ml)
૮๣ਸ
Pam3CSK4
LPS
CpG-A
IFN-D
IFN-α
ৌස໚෷༳ઙ
血単核球の1%にも満たないマイナーなサブセットであるが,ウ
(pg/ml)
૮๣ਸ
Pam3CSK4
LPS
CpG-A
胞(pDC)が見つかり,大きな注目を集めている.pDCはヒト末梢
図2 乳酸菌株のpDCへの添加によるIFNs産生誘導量比較
また,
この反応は生菌・死菌いずれの場合でも等しく観察され
た .さ ら に 必 須 シ グ ナ ル の 探 索 の 結 果 ,J C M 5 8 0 5 は
TLR9/MyD88を介したpDC活性化を誘導することが示された.
TLR9はエンドソームに発現する内在性レセプターであり,
pDCにJCM5805が貪食され,菌体中のDNAが溶出することが
Type I/III IFNs
必須と考えられたため,蛍光染色したJCM5805を用いた蛍光顕
微鏡観察を行った.その結果,図3に示すように対照乳酸菌株は
NK
಍ཝ
क़ॖঝ५
ളଲ༛૩/
ীੰ
శ્౮৓ੂ਋ૢ௦
TLR9を介した活性化を起こすことが作用機構であることが示
唆された.
્౮৓৏਋ૢ௦
IFN-E
IFN-D
IFN-O
vitroで誘導したpDC培養
マウス骨髄細胞からFlt-3Lによりin
(pg/ml)
ৌස໚෷༳ઙ
対照乳酸菌株
JCM5805
JCM5805
図1 pDC活性化乳酸菌の研究戦略
(pg/ml)
公的菌株バンクから収集した31菌種からなる計125株
50
300
300 系を用い,
40
*
* *
の乳酸菌株を添加し,
pDC活性化指標であるIFN-αの定量を
200
200
30
*
行った.その結果,殆どの乳酸菌株添加でIFN-αは検出されな
20
100
100
10
かったが,3株において100pg/mlを上回る量が検出された.
極め
0
0
0
10Pm
10Pm
JCM5805
ৌස໚෷༳ઙ
JCM5805
૮๣ਸ
Pam3CSK4
LPS
CpG-A
* ; p<0.05
60 80 100
༳ઙभS'&षभ๣ਸपेॊ,)1Vਓেා଑୤ૻຎ
ৌස໚෷༳ઙ
૮๣ਸ
Pam3CSK4
LPS
CpG-A
ৌස໚෷༳ઙ
૮๣ਸ
Pam3CSK4
LPS
CpG-A
JCM5805
て興味深いことにこれら3株はLactococcus lactis subsp. lactisに
図3 乳酸菌のpDCによる取り込みの違い
௕໚෷༳भS'&पेॊ਄ॉ੢ाभୀः
૨ (%)
(pg/ml)
のに対して,JCM5805はpDCの内部に取り込まれ,DNAが
pDC
໚෷༳
乳酸菌 pDC
&ણਙ৲໚෷༳भଢ଼஢ਅറ
pDC外部を取り囲むように分布し,細胞内部に取り込まれない
B
಍ཝ
CTL
**
శၭ਄ණ
16
《農芸化学技術賞》
【JCM5805の動物感染モデルにおける効果】
受賞者講演要旨
さらにヒトにおける風邪・インフルエンザ様症状に対する効
果の検証のため,
2013年冬季に試験を行った.
被験者213名を2グ
ルス感染モデルを用いて検討した.マウスをJCM5805摂取・非
ループに分け,
10週間ヨーグルト飲料を飲用させ,
医師による診
ৌස໚෷༳ઙ
摂取の2群に分け,
試験食投与2週間後に致死量のウイルスを感
JCM5805
断及び自覚症状を調査した結果,
風邪・インフルエンザ様症状で
染させた.その結果,感染から10日以内に非摂取群の全個体が
ある咳,熱っぽさの項目がプラセボ群と比してJCM5805群で有
死亡したのに対し,摂取群では約7割が生存するという著効が
HLA-DR
JCM5805
意な低下を示した(図6).
さらにPBMCを不活化ヒトインフルエ
MFI
観察された(図4).このとき非摂取群のマウスの肺では顕著な
উছ७঎
ンザウイルスで刺激した際の抗ウイルス因子
・ISG15の発現量
N.S.
pDC
マウス経口摂取時の効果について,パラインフルエンザウイ
໚෷༳
好中球の浸潤が認められ気道の閉塞が起こっていたが,
JCM5805摂取群では浸潤の大幅な低下が起こっていた.さらな
10Pm
10Pm
る解析の結果,腸管から取り込まれたJCM5805は腸管pDC活性
化を介して全身の抗ウイルス機能を高めていることが示唆さ
௕໚෷༳भS'&पेॊ਄ॉ੢ाभୀः
#
4000
**
さらに,
工業的により広範な加工が可能な死菌粉末について
** ; ৫઩ৎपૻखथp<0.01
3500
も同様なヒトにおける有効性評価を行い,
ポジティブな結果が
3000
得られている.
৫઩ৎ
ીവ৏
శၭ਄ණ
JCM5805
1000
900
800
700
600
0
** ; p<0.01
0
**
1100
উছ७঎
ঽಁඪ૾(熱っぽさ)
(೸ढ़औ)
自覚症状
ྸ஋৅ඪ঻ਯ(人)
(য)
累積発症者数
**
ྸ஋৅ඪ঻ਯ (人)
(য)
累積発症者数
ঽಁඪ૾(咳)
(Ꭼ)
自覚症状
60 80 100
0
5000
# ; ૏ॢঝ‫ش‬উ৑ p<0.05
がJCM5805群でプラセボ群より有意に高くなった.
4500
௕-&0அથ୫ષၭ਄भ঄ॺS'&ણਙपउऐॊ஍ટ
20 40
েோ૨(%)
(%)
生存率
れた.
5500
JCM5805
**
400
350
ऱनः (4)
ऊऩॉँॊ (3)
੗૘मँॊ (2)
૘खटऐँॊ (1)
300
250
200
0
** ; p<0.01
উছ७঎
JCM5805
௕ ௯ဪ‫؞‬ॖথইঝग़থ२஘ঽಁඪ૾पৌघॊ-&0அથ୫ષၭ਄भ஍ટ
5
10
15
क़ॖঝ५૎ഉ৏঩ਯ
ウイルス感染後日数
図6 風邪・インフルエンザ様自覚症状に対するJCM5805
含有食品摂取の効果
௕ ঐक़५ঃছॖথইঝग़থ२क़ॖঝ५૎ഉঔॹঝपउऐॊ-&0৽ઠ਺ଖभ஍ટ
図4 マウスパラインフルエンザウイルス感染モデルにおける
【まとめ】
JCM5805経口投与の効果
このように我々は加工特性や安全性・コスト面に優れ,現実的
【JCM5805のヒトにおける効果】
な有用性を持つ乳酸菌を題材に,ヒトの抗ウイルス免疫を司る
動物モデルで著効を認めたため,JCM5805で製造したヨーグ
pDCに着目し,ごく限られた株に活性化作用があることを発見
ルト飲料(1000億cfu/本)を用いてヒトにおける効果の検証を
した.さらにJCM5805を題材にin vitro実験・動物実験・ヒト試験
行った.
を通して,
その効果と作用機構について検証を行った.
2011年夏季に行った試験では被験者38名を無作為に19名ずつ
さらにヨーグルト製品を開発し,加工特性を生かした死菌粉
2グループに分け,一日100mlの試験飲料を4週間飲用させた.試
末の製造ラインを立ち上げ,清涼飲料製品及びサプリメントを
験開始時,終了時にそれぞれ採血を行い,末梢血単核球中のpDC
開発した.
活性化度を評価したところ,試験終了時にJCM5805群のpDC活
現在,JCM5805のpDC活性化における分子生物学的観点から
性がプラセボ群より有意に高くなった(図5).
のメカニズム解明や,
腸管感染性ウイルスに対する効果,寿命や
加齢形質に与える効果など多岐に渡る応用研究を推進してい
プラセボ
উছ७঎
N.S.
5000
4500
#
**
4000
3500
3000
る.
JCM5805
JCM5805
HLA-DR
MFI
5500
開始時
৫઩ৎ
૏ॢঝ‫ش‬উ৑ p<0.05
## ;; 両グループ間
p<0.05
開始時に比して p<0.01
**** ;; ৫઩ৎपૻखथp<0.01
ྸ஋৅ඪ঻ਯ (য)
ྸ஋৅ඪ঻ਯ (য)
900
800
700
600
উছ७঎
**
400
1000
0
ঽಁඪ૾ (೸ढ़औ)
**
JCM5805
350
ऱनः (4)
ऊऩॉँॊ (3)
੗૘मँॊ (2)
૘खटऐँॊ (1)
300
250
200
0
** ; p<0.01
উছ७঎
よるものであり,研究・商品開発・マーケティング・製造・販売に
発研究までご助言・ご指導を賜りました先生方に厚く御礼申し
図5 JCM5805含有食品摂取のヒトpDC活性における効果
ঽಁඪ૾ (Ꭼ)
本研究成果はキリングループ各社の多くの関係者の尽力に
関わった皆様に感謝いたします.また,研究コンセプトから開
終了後
ીവ৏
௕-&0அથ୫ષၭ਄भ঄ॺS'&ણਙपउऐॊ஍ટ
1100
【謝辞】
JCM5805
௕ ௯ဪ‫؞‬ॖথইঝग़থ२஘ঽಁඪ૾पৌघॊ-&0அથ୫ષၭ਄भ஍ટ
上げます.