見る/開く

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lBioenvironment Vo.
l9 (
2
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0
7
)7
1~76
7
1
塩添加栽培における
塩生植物シチメンソウの成長と Na+吸収
上 村 静 香 川 ・ 田 中 明 *2 ・ 谷 本 静 史 *1
*1佐賀県佐賀市本庄i
町1
佐賀大学農学部植物工学研究室
佐賀県唐津市松商 I
T
l52-1
*2
佐賀大学海浜台地生物環境研究センター
GrowthandNa+uptakei
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要 約
日本の有明海沿岸の干潟に自生するシチメンソウ (Suaedaj
aponicaM
akino)はアカザ科に属する塩
生植物である.この植物は細胞内に取り込んだ堀 (
N
a
+
) を液胞に隔離するとともに,グリシンベタイン
を合成することによって液胞内外の浸透圧バランスを維持し,それによって高い酎塩性を獲得している.
このシチメンソウを干拓地等の除塩に用いることを最終目的としてう堀 (NaC
I)存在下で栽培を行い,
堀による成長への影響と Na+ 吸収について検討した.シチメンソウは 0.6~ 1
.8% NaCl存在下でも旺
盛に成長し,さらにその成長(捕物体重)は調べた塩濃度の範屈ではう 0.6%NaCl添加の場合に最大
となった
植物体(茎葉)の N
a+合量は添加した塩濃度に対応して増加し
土壌中の濃度よりも高くな
った.この結果は,シチメンソウが干拓地等での除堀に有効であることを示している
Summary
SuaedajaponicaMakino,amembero
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yChenopodiaceae,i
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上村
72
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lJi.谷本節史
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う
ょ 2
003) 以外にもいくつかの遺伝子を単離
緒言言
有明海沿岸や瀬戸内海沿岸では,古来から埋め
し,塩という刺激による発現解析を行っている.
立てや干拓が行われ,広大な農地が開発されてき
を遡
さらに,シチメンソウの種子は満潮時に海川 i
た
干拓地等では,土壌中に含まれる塩分濃度が
って運ばれ,中流域で生育するが,それらの場所
高く,イネなどの栽培には不向きであることから
の塩分濃度やシチメンソウの成長と塩分合震につ
様々な除塩策が取られている.塩分により土壌が
いても調べてきた(野口ら, 2
004).
単粒化し排水不良になることを妨ぐための明渠の
塩生植物による除塩についてはアイスプラント
施工,畦立て栽培,畦溝の整備等である.また,
の利用も考えられている.アイスプラントはサラ
真水による瀧水で土壊中の塩分を溶出させて排水
ダ等の食用として利用できる点でシチメンソウよ
したり,土壌改良剤や塩と結合する薬剤の散布な
りも優れているように思われる.しかし,アイス
ども行われている.しかしながらうそれらの方法
プラントの栽堵時期は夏季であり,干拓地で農耕
はコスト面で問題があるし,またかなりの時閣を
を行う農家としてはうイネを栽培するか,アイス
必要とする.
プラントを栽培するかという二者択一を迫られる
一方で,塩分集積土壌をポジティブに利用する
2月に発芽
ことになる.しかしシチメンソウは 1
ことも考えられ実行させている.例えばトマトで
して成長するため,稲刈り後に播種し,冬季の田
はむしろ積極的に希薄海水を散布することでう糖
園で除塩を行うことができる.この点はシチメン
度の高い果実を得ることができる(世戸・田中,
ソウの利点であろう.
1998,問中ら, 2000,原田ら, 2006).しかしな
本研究では,シチメンソウによる干拓地等の除
がらこのような例は稀であり,イネ等の栽培では
塩を最終目的として,指 (
NaCl)を添加した土耕
除塩は現在でも解決が待たれている課題である.
N
a
す吸収
栽培におけるシチメンソウの成長と塩 (
さらに台風等の強風によって海水中の塩分が飛
について検討を加えたので、報告する.
来して起こる塩害も問題となっている.平成 1
8
年秋の台風によって有明海沿岸ではイネに劇的な
被害がもたらされた.そしてその塩分は現在も田
圏に滞留している.
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近年,植物による環境修復, P
については,いくつかの報告がされている(相
材料と方法
シチメンソウ (SuaedajaponIca M
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)の
種子は,東与貿海岸(佐賀県佐賀郡東与賀町大授
摺)の干潟で 2004
年1
2月に採種し, 4Cで保存
0
していたものを能用した.
1995,B
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1
.,1999,小森らう
土壌としては,最終的に干拓地の田圃で栽培す
2001).我々はシチメンソワを干拓地の除塩に用
ることを考慮して,佐賀大学農学部開場(佐賀県
いることができるのではないかと考えている.シ
住賀市本庄町)の問場土を用い,これをフルイで
チメンソウは日本では高明海沿岸の干潟に自生す
飾った後に 1
:
1の比率でパーミキュライトを混合
るアカザ科の塩生植物である.シチメンソウは,
した.理由はパーミキュライトにより保水性と通
高塩 (
NaCl)濃度下でも発芽し,生青できる.そ
気性をあげるためである.
l
崎・中盟,
れ は 液 胞 膜 に 存 在 す る Naヅf
十 e
xchanger
土壌にう 0,0
.
6, 1
.
2,あるいは 1.8%のNaCl
a
+ を液胞に隔離し,適合溶質
(
N
H
X
) によって N
を添加し,良く撹枠混合後,プラスチック容器
であるグリシンベタインを合成することによって
(産径 14cm,深さ 9
cm) に入れ,数粒ずつシチ
液胞内外の浸透圧バランスを維持するという機構
メンソウの種子を播種した.栽培条件はう 1
6時
をもっているからである (
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時間 i
時期の長日条件下,照度 6
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間明期 /8[
1994).グリシンベタイン合成の鍵酵素である
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edehydrogenase ~吉↑生もよ長濃
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-2 ・s
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-I,温度 25と
ご 2Cとした. 1ヶ月
後に,各容器で最も良く生育している植物体 1本
度を増加させると上昇し,さらにその活性は葉緑
以外を間引し、た.その後 2ヶ月間栽培した.
0
体に局在することも明らかにしてきた (
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計栽培 3ヶ月後,植物体長を測定し,地上部
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1
.,1
9
9
7
) .このシチメンソウの耐塩性維持
(茎葉)を採取して,新鮮重を測り,さらに 80C
遺伝子群については,すでに報告した (Yamada
で1
5時間処理して乾燥重を測定した.その試料
0
邸添加栽培における海生植物シチメンソウの成長と N
a
'
l吸収
73
を乳鉢で摩砕し,乾燥重 O.lgに対して 1
m
lの蒸慢
結果と考察
水を加えホモジナイザーで粉砕した.それを
[成長に及ぼす NaCIの影響]
シチメンソウの種子は播種後 1日で発芽し,
1
100Cで 5分 間 処 理 し て 蛋 白 質 変 成 を 行 い ,
10,
000g
、
で1
0分間遠心してよ清を回収した.沈
ヶ月開は伸長は緩やかであるが,その後急速に伸
澱に再度蒸留水を加えて撹拝後,上記と同様に遠
長した. 3ヶ月後の植物長は 0.6%NaCI 添加区
心し,得られた上清を先の上清と合わせた.
で最も長くなり,無添加区の約 2倍となった(図
0
0Cで乾燥させ,
土壌については,約 2自問 8
1
).それ以上 NaCI 濃度を上昇させると,伸長
.
5
gに 1
m
lの蒸留水を加え
乳鉢で摩砕し,乾燥重 0
は抑えられたが, 1.8% NaCI 添加区でも無添加
00Cで 5分間処理して蛋白質変成を
た.これを 1
区よりもよく伸長した.植物体は荷1く,分枝はほ
0,
000gで 10分間違心して上清を毘収し
行い, 1
とんど見られず,葉は野生の二次葉に類似してい
殿に再度蒸留水を加えて撹持後,上記と同
た.沈i
た(国 2).
0
0
様に遠心し,得られた上清を先の上清と合わせた.
000倍に希釈し,
植物体及び土壌試料は, 4,
ミ
リポアフィルター(0.2μm) を通したものを分
析試料として,イオンクロマトグラフィー
(Di
o
n
e
xD
x
1
2
0
) にかけた.
新鮮重及び乾燥震は 0.6%NaCI 添加区で最も
大きくう無添加の場合の約 2倍に達した(国 3).
[植物体中及び土壌中の Na+濃度]
茎葉部の Na+含量は,添加した NaCI濃度の上
昇に伴って増加し, 1.8% NaCI 添加区の場合は
実験は 3回繰り返し,平均値及び標準誤差を求
). さらに,い
燕添加援の約 4倍となった(留 4
濃度区で、も土壌中の Na+ 濃度よりも
ずれの NaCI
めた.
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Concentrationo
fNaCI(%)
図 1 各穏j
農農の Na
Cl;,泰加水耕栽培におけるシチメンソウの棺物体長 (3ヶ月栽培)
7
4
上村静香・田中明・谷本静史
臨 2 各種濃度の N
a
C
I添加水耕栽培におけるシチメンソウ
NaCIi農震;0(
A
),0
.
6(
8
),1
.
2(
C
),1
.
8
%(
D
)
.
(
3ヶ月栽培)
7
5
場添加栽培における場生植物シチメンソウの成長と Na+1
吸収
3
A
〆
"
崎
、
c)
、
〆
2
+
.
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〆白
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町
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:
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ー、
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.
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.
8
Concentrationo
fNaCI(%)
国3 各撞濃度の NaCI添加水耕栽培におけるシチメンソウの成長 (3ケ河栽培)
A:新鮮護, B:乾燥童
高濃度であった(国 4
)
ある.
以上の結果から,シチメンソウは土壌中の N
a
+
を吸収・蓄積することが証明されたので,干拓地
引用文献
等の除塩にシチメンソウが有効であることが明ら
l
. 柏崎守弘・中里広幸 (
1
9
9
5
)
: 植物水耕栽培
かとなった.今後は,実際の干拓地と向程度の低
系における根間生物の変化と栄養塩の捻去.
a+吸収や, Na+ をi
吸収させ
濃度塩存在下での N
8,624-627.
水環境学会誌, 1
予定である.最後のシチメンソウの処理について
2
. B
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.K
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.Sharma,P
.
1999):
Dass and R
. M. Nelson (
は,牛等の館料として利用できるのではないかと
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考えている.今後シチメンソウ植物体の栄義価等
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た後のシチメンソウの処理について検討を加える
についても検討し実用化をめざしてし、く予定で
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j二 村 静 香
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J. 谷 本 静 史
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Concentrationo
fNaCI(%)
図 4 各種濃度の N
a
C
I添加水耕栽培
(3ヶ月)後のシチメンソウ茎葉及び水耕液中の N
a
+
濃度
40,163 171
.
2,45-49
海と台地, 1
叩
3
. 原田千春・芹田剛・問中明 (2006):養液土
耕栽培における塩水襟淑がトマトの品質に及
ぼす影響
C
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lBioenvironment,8,
8
. Tanimoto,S
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,
.
l 38,129-
51-62.
4
. 小森正樹・中村嘉利・沢田博志・川 i
村満紀
(
2
0
0
1
)
: ヨシ水路による河北潟の浄化. 環
1,447-454.
境化学, 1
1
3
2
.
9
. Yamada,A
.,K
. Tsutsumi,S
. Tanimoto
l
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tRelA/SpoT
andY
.O
z
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k
i (2003): P
5
. 野口智子・堤功一・田中 i
梶・谷本静史
homolog confers s
a
l
t tolerance i
n
(
2
0
0
4
)
: 異なる生育地におけるシチメンソウ
EscherIchIa c
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I and Saccharomyces
の生育環境
C
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1
0
.Y
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i,T
. and S
. Tanimoto (1994):
41-51
.
6
. 世戸 i
哀明・毘中明(1998):塩水かんがし、が
トマトの品質に及ぼす影響
c
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o.
l44,3
9
.
海と台地
7,
3341
.
四
7
. 田中明・長友さやか・石橋哲也 (
2
0
0
0
)
: 塩水
かんがいがトマトの品質に及ぼす影響(II)•
Seed germination o
fthe halophyte
SuaedajaponIca u
nders
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. J
.
P
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s
. 107,385-388.