話題レポート 2 写真1 KHouseの南西外観を見る 下川町から始まった「森とイエ」プロジェクト 小倉 寛征 森とイエ・副代表(Sa desi gn offi ce 一級 築士事務所・代表) が「森とイエ」の「しくみ」を説明します。 1 .森とイエの「ねらい」 最初に3つのコース ( サスティナブルな地域の実現には「家づくり」 築家C、工務店C、モデ ルプランC)から施主のニーズにあった方法を選 が重要な役割であるとの認識を出発点とし、①安 択。次に作品見学や面談をもとに3名の 築家から 心して暮らし続けられる社会や経済への貢献、② 設計者を指名、見積り・実績により3社の工務店か 北海道の森林資源を活かした家づくり、③愛着を ら施工者を自由に選べます。設計・施工の基準は 持てる街並みづくり、④快適な暮らしと環境負荷 「性能・材料・デザイン」の3 つから成り、 築家 低減の両立の4つを目指して活動しています。 から詳しい説明を受けることが出来ます。 2 .森とイエの「しくみ」 3 .プロジェクトの経緯 「家づくり」に興味のある施主は、「森とイエ」 下川町では人口減少、高齢化、地域経済の縮小 サポートセンターに連絡。そこでコンシェルジュ が続く中、住宅着工件数も14 件(201 1年)から7 件 図1 森とイエの「しくみ」のイメージ ―22 ― (2 013 年)へと半減しました。同時に旭川や札幌 からのハウスメーカーの進出を受け、地元工務店 の受注は1 件にまで減少しました。そこで、2 01 0年 に工務店4 社と下川町ふるさと開発振興 社は、 築技術とコスト競争力の強化に向けた「下川 ECO な家づくり研究会」を発足。しかし、受注環境に 大きな改善がみられない中、北方 からの提案により 築 合研究所 築家との協働が始まりまし た。 2 011 年夏に 築家3名と工務店3 社、下川町ふる さと開発振興 社の7 者でプロジェクトの準備を 写真2 K-Houseのリビングを見る 開始。「森とイエ」の目標像とそれを実現するため の「しくみ」について半年間の協議を重ねる中、 2 01 1年の冬に「森とイエ」の主旨に賛同する施主 (K-Hous e)が登場し、プロジェクトが本格的に 始動しました。 4 .森とイエの実績 2 012 年に1 件、20 13年に2件の住宅が竣工しまし た。2 014 年には2件が竣工予定です。モデルプラン とあわせて実績の概要を記します。 写真3 S-Houseの南西外観を見る ①K-House (設計:小倉寛征、施工:丸昭高橋工務店+山形 設) 敷地に残るかつての鉄道防風林を手掛かりに地 域の風景になじんだ住宅を目指しました。水平性 のある住宅を防風林に寄り添うように「コ」の字 に配置して緩い囲み型を作り、市街地でも森の中 で暮らすような環境を実現しています。 構造材はカラマツ集成材とした他、軒のある無 落雪屋根としてカラマツ材を外壁に採用、内装に も様々な形で 用し、カラマツ材のデザイン展開 の可能性に取り組みました(写真1、2)。 写真4 S-Houseのリビングを見る ②SHouse (設計:照井康穂、施工:山形 設) 用木材は、床・外壁材等は下川産トドマツ、 町内で生産できない構造用無垢材は道産エゾマツ です。2∼3年後に実現される木質バイオマスによ る地域暖房の温水供給を見越し、床下温水暖房で 基調室温をとり、主暖房の薪ストーブとのハイブ リッド暖房としています。 内壁は下川産粘土による土壁を、道内在住の若 手左官親方の指導の下、地域の人たちが参加する ワークショップにて施工。この 物に愛着をもっ 写真5 N-Houseの南外観を見る ていただく機会としました(写真3、4、9)。 ※写真1 ∼6 撮影:酒井広司(グレイトーンフォトグラフス) ―23 ― ③NHouse ( 設計:小倉寛征、施工:山形 設) 下川町でトマト農家を営むご夫婦が暮らす平屋 の住宅です。春から秋には農作業を効率的にサ ポート出来る住宅、冬期には厳しい寒さと雪景色 を安心して楽しむことができる北国の新しい農家 住宅を目指しました。 農業と日常生活の両面から施主のライフスタイ ルを見つめ直し、作業室や食品庫を備えた、コン パクトで高性能な住宅にたどり着きました。小さ 写真6 NHouseのリビングを見る な家だからこその豊かな暮らし方ができると感じ ています(写真5 、6)。 ④T-House ( 設計:小倉寛征、施工:丸昭高橋工務店) 各種のイベントを通して「森とイエ」の主旨に 賛同いただいた施主による天塩町での計画です。 下川町外で初の住宅が2 01 4年9月に竣工予定です (写真7)。 ⑤NN-House ( 設計:中舘誠治、施工:未定) 高気密高断熱化した住宅において、薪ストーブ で暖めた空気を住宅内部で適切に循環させること 写真7 T-Houseの模型写真 により、1台の薪ストーブだけで温度むらの無い快 適な温熱環境を目指す計画です。 森林資源をエネルギー源として活用した特徴あ る住宅として町内外に強くアピール出来るよう、 北方 築 合研究所の協力のもとで開発と設計を すすめています(図2) 。 ⑥モデルプラン モデルプランコースは、手軽に「森とイエ」の 住宅で暮らしていただくためのコースです。設計 内容(設備、素材、性能など)に加え工事費が明 示されている3つのプランから、 施主の好みにあっ た住宅を選択していただきます。 モデルプランは 図2 NN-Houseの断面イメージ図 築家と工務店の協働設計によ り、コストと技術、デザインのバランスがとれた 住宅となっています(図3 )。 5 .プロジェクトの PR 活動 構造見学会や完成見学会、塗り壁ワークショッ プなど、「森とイエ」の住宅を見ていただく活動を 随時行っています(写真8 、9)。 並行して家づくりに興味をもつ方々に向け、資 金計画や融資、法律や制度、断熱や気密など様々 な情報を提供するため、 築家による「家づくり ―24 ― 図3 モデルプラン A 案のイメージパース 講座」を定期的に開催しています。 また、HP (ht // )では「オーナー t p: mor i t oi e. ne t ズボイス」を掲載。施主の視点から「森とイエ」 をリポートしてもらい、新しい家づくりの方法を 多くの方々に理解していただけるよう取り組んで います。 6 .これからのヴィジョン 写真8 K-Houseで開催された構造見学会の様子 下川町から始まった「森とイエ」プロジェクト ですが、今後は町外でも積極的に活動を行う予定 です。同時に 築家、工務店ともに主旨に賛同す るパートナーを幅広く募ることで、より開かれた 「地域住宅づくり」へと展開したいと えていま す。また、 「森とイエ」の「しくみ」は道内の他の 地域でも運用可能です。多くのエリアで同様なプ ロジェクトが始まり、互いに連携していければと えています。 写真9 SHouseで行われた塗り壁ワークショプの様子 昨年暮れ、 「和食;日本人の伝 の今昔など、滋味あふれる話が 統的な食文化」がユネスコ無形 満載だ。世界の中での日本の食 文化遺産に登録された。和食と 文化について探るには、 『食の文 いえば、まずごはん。加えてみ 化 』 ( 大塚滋著、中 そ汁、おかずの2、3品が頭に浮 おすすめ。1 9 7 5年に出版された かぶ。寿司、天ぷら、麺類、懐 ものだが、今なお評価の高い一 石料理、精進料理と、大きな広 和食の滋味 がりがあるのも和食ならではだ。 政府も登録を含め世界に日本 新書)が 冊。 四季折々の食材4 0 0種の楽し い話を綴った『料理歳時記』 ( 辰 巳浜子著、中 文庫)は、北海 の食文化を紹介し、観光客の誘 道ならではの食材を拾って読ん 致や食材の輸出を促すなど、長 題も家 年力を注いできたのだと思う。 かったことが背景にあると指摘 テレビでも料理を紹介する番 登録を機に、和食に関するい していた。この度の登録が「和 組が多い。STV『どさんこワイ ろいろな記事が新聞に掲載され 食文化」を取り戻すきっかけに ド1 79 』 では、料理研究家の星澤 た。特に印象深かったのが朝日 なればと思う。 幸子さんから手際のよい調理を 新聞に載った「日常から遠ざか 生活 料理が素材から遠ざ 研究家の小泉和子著 でもよいだろう。 学ぶとともに、道産品にまつわ る和食」 (岩村暢子・ 「食と家族」 『和食の力』 (平凡社新書) では、 研究家) 。 失われる和食のシステム、食の 後期高齢のわが夫婦は、自然 かつて和食が大切にしていた 風景、歴 の中の食、台所と道 食、無添加、手作り、薄味をモッ 「旬」、 「素材にこだわる」 、 「素 具など、昭和期のさまざまなこ トーに、地産地消に加担し続け 材を生かす」といった言葉が家 とが述べられており、非常に興 ている。 料理においては死語になり、 味深い。 る話を聞くことができる。 街歩きの昼食は和風定食でも 調理方法が簡 化し、魚や野菜 また、 『料理心得帳』 (辻嘉一 よいが、たまには奮発して懐石 などの調理の煩わしさが嫌遠さ 著、中 文庫)は、日本料理の 料理を堪能したい。こんな話を れ、素材を舌ではなく頭で選ぶ さまざまな種類と調理法、四季 すると、目を輝かせる人が、す 時代になっている。食材偽装問 折々の食し方、食事の礼法、味 ぐそばにいる。 ―25 ― (M)
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