プレート間地震,スラブ内地震,上盤側プレート内地震の関係:宮城県付ةの場合 (月刊地球特集 「2003 年宮城県沖地震」原稿,2004/09/14) 瀬野徹三 せのてつぞう 東京大学地震研究所 2003 年 5 月 26 日の宮城県沖の地震(M7.0),同年 7 月 26 日の宮城県北ശの地震(M6.2)と,最ة二つの 被害地震がつづけて宮城県付ةに֙こった.また宮城県沖では,ةい将来もっと大きなプレート間地震(1978 年宮城沖地震のような M7.5 クラスの地震)の発生が懸念されている.日本列島付ةのような,海洋プレー トが沈み込むところで֙こる地震には,プレート間地震,スラブ内地震,上盤側プレート内地震の三つのタ イプがある(図 1).面白いことに,上の宮城県付ةの地震はそれぞれ違うタイプの地震であり,1978 年宮 城沖地震はプレート間地震,2003 年 5 月 26 日の宮城県沖の地震はスラブ内地震,2003 年 7 月 26 日の宮 城県北ശの地震が上盤側プレート内地震であった(図1).1978 年宮城沖地震のタイプのプレート間地震の 繰り൶し周期は 30-40 年なので(瀬野, 1979),つぎの地震がしだいに迫ってきていることになるが,そのよ うな状況のもとで 2003 年 5 月にスラブ内地震が֙こり,その 2 ヶ月後に上盤側プレート内地震が֙こった ことになる(図 2a).実は,1978 年宮城沖地震の֙こる前にも同じようなことが֙きている.1956 年白石 付ةの地震(M6.0),1962 年宮城県北ശ地震(M6.5),1970 年秋田県南ശの地震(M6.2)などの上盤側プレー ト内地震が֙こり,その後 1978 年 2 月 20 日にスラブ内地震(M6.7)が֙こって,その 4 ヶ月後にプレート 間地震の 1978 年宮城沖地震が֙こっている(図 2b).これらの異なるタイプの地震間の関係はどうなってい るのだろうか. これらの地震間の関係について 25 年前当時,私は力学的な相互作用しか考えていなかった.例えばプレ ート間地震と上盤側プレート内地震の関係であるが,プレート間地震が巨大地震である場合,それが֙こる 前 50 年間,後 10 年間くらいの期間上盤側プレート内地震がプレート間地震の震源領域に接する地域で֙ こりやすい傾向がある(Seno,1979a とその中の引用文献及び HoriandOike,1996 参照).これは海洋プレ ートが,プレート境界断層面の固着(サイスミック・カップリング)を通じて上盤側プレートを引きずり,陸 側に押し込んで上盤側プレートを圧縮するためだと考えられている.1978 年宮城沖地震の֙こる前,上盤 側プレート内地震が宮城県とその周辺に֙こっていた事実にもとづいて当時私は,より沖合にプレート間地 震(M7.7 クラス)の発生を予測した(Seno, 1979b, 図 2b).この領域は当時微小地震の空白域となっていた し,宮城県の海岸から内陸にかけて沈降が水準測量で見られ,それは海洋プレートが上盤側プレートを引き づり込んでいるためと考えられたのである.予測の約半年後 1978 年宮城沖地震(M7.4) が実際に֙こった が,その場所はもっと内陸よりのプレート境界で,マグニチュードも予測より小さかった.期待された沖合 の領域では,1981 年に Mw7.1 の地震とそれにともなう小さな地震が֙こり,すべり不を一ശӂ消した 1 はずだが, GPS データはまだスリップ不が存在していることを示しているように見える(Nishimuraetal., 2000; ॱ訪他,2004). プレート間地震とスラブ内地震との関係についても当時は力学的相互作用しか念頭になかった.図 3 は 1978 年宮城沖地震の前にその震源領域付ةのプレート境界の下でスラブ内地震活動が活発であったことを 示している.これを Seno and Pongsawat (1981)は,プレート間地震断層面のカップリングによってスラ ブ上面ةくに応力が蓄積し,これらのスラブ内地震を引き֙こしたのであるとӂ釈した.その後,地震前の 応力蓄積のみならず,地震が֙こることによって引き֙こされた応力変化(例えばΔCFF を用いた Toda et al., 2000,あるいは摩擦すべり構成則を用いた Kato, 2004)から,地震の後の地震活動を説明することがࠌ みられ,最ةの宮城沖を含めた活動に対しても適用されている. スラブ内地震が変成含水ܽ物の脱水不安定で֙こるという考え(Kirbyetal.,1996;SenoandYamanaka, 1996; Hacker et al., 2003; Yamasaki and Seno, 2003),またプレート間地震の断層面のうちアスペリテ ィを除いたバリア−ശ分は地震前に間隙流体圧がহ岩石圧ةくまで上昇している(バリア−侵ि)という考え (Seno, 2003)が最ة現れたが,これらは従来の力学的相互作用観を大きく変える契機となるものである. スラブ内地震が֙こることに伴ってスラブから脱水してきた水は,プレート間地震断層面に供給され徐々に 間隙流体圧を上げ,プレート間地震発生に必要な環境を提供する.逆に脱水が֙こらないところすなわちス ラブ内地震が֙こらないところではプレート間地震は֙こらないか֙こりにくくなる.SenoandYamasaki (2003)は,南海トラフ-相模トラフから西南日本-関東下に沈み込むフィリピン海スラブにおいて,海洋地 殻からの脱水が֙こっていない場所は,プレート間地震も֙こりにくくなることを示している.宮城沖から 内陸にかけてスラブ内で地震活動が特に活発であること(Kawakatsu and Seno, 1984; 迫田他, 2004)は, スラブの脱水が盛んであることを意味し,この地域のプレート深ശスラスト帯でプレート間地震が頻繁に֙ こることと調和的である.また地震反射・屈折法探査によって,1978 年宮城沖地震断層面から振幅の大き な反射波が観測されており(伊藤他,2002),この領域で宮城沖地震が将来֙こる前にバリア−侵िが֙きつ つあり,プレート間地震断層面の間隙流体圧が上昇しているという推測と矛盾しない. プレート間地震の発生前にその断層領域がバリア−侵िを受けることは,力学的相互作用に関しても,以 下のように従来の観点によるものとは異なる作用を及ぼす.プレート間地震の発生前にはバリア−侵िを受 けたプレート境界断層面の粘性率が小さくなっているわけで,そのような境界ةくのスラブ内あるいはプレ ート境界で 1978 年 2 月 20 日や 2003 年 5 月 26 日のような地震が֙こると,プレート境界の一ശが応力 的に乱され,その乱れは低粘性の断層面を介してゆっくりとまわりに伝わっていくことになる(Elsasser, 1967).伝わる速さは粘性率が大きいほど大きくなる.例えば 1978 年 2 月 20 日のスラブ内地震が引き֙ こした応力の擾乱がこのように断層面をゆっくり伝わって,1978 年宮城沖地震をトリガーしたのかもしれ ない.もしそうだとすると乱れは 200 km/年の速度で伝わったことになる.この速度から,断層帯の幅を 20m,その上のプレートの厚さを 50km として,断層帯の粘性率は 10**13Pas 程度と求められた(݄橋・ 瀬野, 2003).これは普通のアセノスフェアの粘性率よりはるかに小さい.同じようなメカニズムで,スラ 2 ブ内地震である 2003 年 5 月 26 日の地震によって引き֙こされた乱れが,低粘性のプレート境界断層を介 して上盤側プレートに伝わり,同年 7 月 26 日の上盤側プレート内地震に影؉を与えた可能性もある. スラブから脱水した水は上盤側プレートの下のマントルウエッジに供給され,マントルウエッジの温度の 低いശ分を緑泥石・蛇紋石化する.この含水ܽ物の一ശはスラブ上面にそってより深ശへ引き込まれて温度 上昇によって脱水し,マントルの岩石を溶かして島弧火山活動のもととなるマグマを生成している(例えば 岩森, 2002).溶けていないマントルよりマグマには水が入りやすいので,マグマはスラブから放出された 水を地表付ةのリソスフェアまで運ぶ役割を果たしていることになる.火山地帯の低周波微動や低周波地震 は,このようにして運ばれた水がモホ面付ةで放出されて振動を引き֙こしているのかもしれない(ଥહ川 他, 2004 参照).これはまた,低周波地震のみならず普通の上盤側プレート内地震の発生にも影؉を与えて いるはずで,その具体的メカニズムのӂ明は内陸地震予知にもつながる重要研究ҭ題である. 以上のように,三つの異なるタイプの地震は,単なる力学的な相互作用をଢえて,スラブの脱水を通して 奥深いところで互いに影؉しあって֙こっており,宮城県付ةの地震はその考察のための格好の題材を与え ているとۄえるだろう. 参考文献 [1]Elsasser,W.M.(1967):Convectionandstresspropagationintheuppermantle.TheApplication ofModernPhysicstotheEarthandPlanetaryInteriors,ed.byS.K.Runcorn,JohnWiley,NewYork, 223-246. 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Seno (2003) : Double seismic zones and dehydration reactions in the subductingslab.J.Geophys.Res.,108,doi:10.1029/2002JB001918. 図の説明 図 1 東北日本の沈み込み帯断面図に最ةの地震のタイプを示す.地震には,プレート間地震,スラブ内地 震,上盤側プレート内地震の三つのタイプがある. 図 2 (a)最ة数年間の宮城県付ةの地震活動,(b)1978 年宮城沖地震前数十年間の地震活動 二重☆印:プ レート間地震の震源,☆印:スラブ内地震の震源,★印:上盤側プレート地震の震源. 図 3 1964-1975 年の宮城県付ةの地震活動(Seno and Pongasawat, 1981).C, T, D は down-dip compression,down-dip tension,スラスト型地震を示す.灰色は 1978 年宮城沖地震の断層領域.(a)平 面図,(b)断面図. 5 上盤側プレート内地震 03年7月26日 プレート間地震 78年6月12日 海溝 上盤側プレート 海洋プレート アセノスフェア ブ 60 km ラ ス 100 km アセノスフェア スラブ内地震 78年2月20日 03年5月26日 図1 (a) 39 03/05/26 M7.0 03/07/26 M6.2 ? 38 0 (b) 141 142 143 50 km 144 70/10/16 M6.2 39 62/04/30 78/02/20 M6.7 M6.5 ? 38 56/09/30 M6.0 78/06/12 M7.4 0 141 142 143 50 km 144 図2 (a) (b) 図3
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