前立腺癌における長期生存例の分析

KURENAI : Kyoto University Research Information Repository
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前立腺癌における長期生存例の分析
上田, 公介; 井上, 和彦; 渡辺, 秀輝; 大田黒, 和生; 岡村, 武
彦
泌尿器科紀要 (1986), 32(9): 1259-1265
1986-09
http://hdl.handle.net/2433/118917
Right
Type
Textversion
Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
1259
泌
尿紀 要32巻9号
1986年9月
前立腺癌 に お け る長期生 存例 の分析
名古屋市立大学医学部泌尿器科学教室(主 任:大 田黒和 生教授)
上
田
公
介
井
上
和
彦
渡
辺
秀
輝
大 田 黒
和
生
聖霊病 院(医 長 :岡村武彦)
岡
CLINICAL
村
武
INVESTIGATIONS
PATIENTS
Kousuke
WHO
ON PROSTATIC
SURVIVED
UEDA, Kazuhiko
and
彦
FOR
LONG
INOUE, Hideki
Kazuo
CARCINOMA
PERIODS
WATANABE
OHTAGURO
From the Department of Urology, Nagoya City University Medical School
(Director: Prof. K. Ohtaguro)
Takehiko
OKAMURA
From Holy Spirit Hospital
(Chief: Dr. T. Okamura)
A clinical investigation was conducted on 15 prostatic carcinoma patients who survived
for more than 3 years (as of October, 1984) since the initial examination.
The patient's age at first examination ranged from 56 to 84 years, and survival time was
from 3 to 8 years. There was no correlation between age at first examination and survival
time. No statistically significant relationship was found between the initial examination stage
and survival time. However, the Stage D group showed a wide-ranging survival time from
the shortest to the longest survival time.
In the relationship between stage and grade, as cited above, group D reflected multiple
aspects of prostatic carcinoma in the broad spectrum observed from Grade 1 to Grade 3.
The performance status of the 15 prostatic carcinoma patients was either Grade 0 or 1
at the initial examination. The group classified in Grade 0 at the time of the first examination displayed a more favorable performance status than the Grade 1 group now (P<0.05).
Regarding the stage variation, 1 patient showed improvement, 12 showed none, and 2
reflected advance of the disease.
It is important that radical surgery be indicated in any operable case, and in the inoperable cases long-term control therapy is required.
Key
words:
Prostate
carcinoma,
Long
survival,
Clinical
investigation
1260
泌尿紀要32巻9号1986年
緒
m・re)・)、perf・ ・mancestatus(小
言
山)4),治
療 内 容,
経 過 お よび 合 併 症 な ど に つ い て 検 討 を 行 な っ た.な
近 年,浸 潤 増 殖 型 ホ ル モ ン抵 抗性 の前 立 腺 癌 が 増 加
お,本
年(1985年)1月
に1例
して お り,そ の予 後 も不 良 で あ る1).し か し一 方 では
こ の 症 例 を 呈 示 す る.ま
転 移 巣 を 有 しな が ら3年 以 上 長 期 生存 して い る症 例 も
3月
が 死 亡 し た の で,後
ま で を 基 準 と し て 計 算 した.
み られ る.そ こで,初 診 時 よ り3年 以 上 経 過 し,1984
結
年10月 時 に 生存 中 の前 立腺 癌 症 例 を集 計 し,そ の予 後
因 子 に つ い て 解 析 を試 みた の で報 告 す る.
に
た 生 存 期 間 は 初 診 日 よ り本 年
1.初
果
診 時 年 齢 と生存 期 間(Fig.1).初
診時年齢は
56歳 よ り84歳 まで で あ り,生 存 期 間 は3年 か ら8年,
対 象 と 方 法
平 均4.6年 で あ った.初
対 象:名 古 屋 市 立 大 学病 院 泌尿 器 科 お よび 聖 霊病 院
泌尿 器 科 に おい て 加 療 を行 な った 前 立 腺 癌 症例 で,初
診 よ り3年 以 上 経 過 し,1984年10月
診 時56歳
の 症 例No.5が
本
年1月 死 亡 した.
最 長 生存 者 は 初 診 時81歳(症
例No.2)の8年7
時 に 生 存 中 の15例
ヵ月 で あ り,ま た初 診 時 年 齢 が81歳 か ら84歳 まで の高
で あ る.初 診 時 の年 齢 は56歳 か ら84歳 ま で,平 均69歳
齢 者 が5年 以 上 生存 して お り,高 齢 者 が 長 期 生存 の傾
で あ った.
向を 示 した が,統 計 的 に 各 群 間 に 差 を 認 め な か った.
方 法=上 記15例 の組 織 型(TNM)2D,病
2.初
期(Whlt一
Table1.症
症
ぬ
例
診 時 病 期 と生 存 期 間(F;g.2)
の 概
要
初1時
欝 病輪
例
謬
撃
氏名
手
術
現在の治療
合併症
Porformanoo
Statusの
変 動
脳梗塞
なし
術後尿失禁
1→2
な し
0→1
胃癌
なし
なし
1り 死 亡
馨
譲
甕
期
齢
1
2
3
K.T.
K.K.
T州oMo
G2
Gl
G3
T`NlMl
T4NxMx
T3NIMT
Gl
G2
G2
55
44
ToNoMo
ToNoMo
G2
03
69
C
TxNxMe
81
69
D
B
T`NIMI
56
57
80
D
「「,L
41.A.68DT3NxMiG3
5
6
7
S,K.
N.M.
T.M.
なし
なし
前 立腺 全摘
除 こ う術
なし
,19
95
52
C
D
8A.F.67A
gT.K.73A
10T.D.63AToNoMoG2
11Y.K.66CT3NoMoG3
53
12H.S.72DT3NxMlG2
63
13T.T.56DT4NIMIG3
79
14K」.67DT3NxMIG3
40
除 こう術
なし
除凍結
二 う術
術
被 膜下 摘除
前立 腺
の う胞 切除
被 膜下 摘除
凍 結術
なし
膀胱 ろ う術
15K.K.77CT3NxMoG2
Honvan
Honven
な し
Honvan十
〇K432
Henven
Hon》an+
OK432
CMA渠+
OK432
D
o一 ウ1
A
1→4
D
0→1
0→1
D
C
水腎 症
0→0
D
なし
0→0
D
脳梗塞
0→2
D
纈痛
0→0
C
Honvan十
丸四 ワクチ
ン
なし
OMA濠
〇K432
なし
0MAX+
OK432
十
CMA楽;ehlormad■noneaeetate
Survival
(yrs)10
Survlval
(yrs)10
5
5
聞●
騨6061一
Age(Yρ
Fig.1.初
衡66-7071-7576-80団
。)
診 時 年 齢 と 生 存 期 間(年)
一田
Stage
ABCO
Fig.2.初
D
τ
術 後尿 失禁
尋 常牲 乾せ
ん
なし
脳 梗 塞
Estraoyt
D
dtseasd
tree
0→O
十
Honvan
0→1
0→0
Honvan
CMA蝦
〇K432
C
1→1
診 時 病 期 と生 存 期 間(年)
上 田 ・ほ か:前 立 腺 癌 ・長 期 生存
平均 生存 期間 で は,初 診 時stageB群
次 い でstageD群
geDの
症 例No.2が8年7ヵ
が 本 年1月 死 亡 し,
では 生存 期 間 が3年4ヵ
8年7ヵ
Survival
(yrs)10
月 の最 長 生存 期 間 を
示 した.し か しstageDの1例
stageD群
が一 番 長 く,
が長 か った.な お 症 例 別 で はsta-
1261
月(最 短)か
ら
5
月(最 長)ま で非 常に 幅 が 広 か った.
な お統 計的 に 生 存 期 間 と初 診 時 病 期 各 群 間 に は 有意
差 を認 め なか った.
3.組
織 型 と生 存 期 間(Fig.3)
組 織 型 はTNMの
rade
分 類 に 従 った.す な わ ちgrade
1は 高 分 化型,grade2は
中 分化 型,grade3は
分化 また は未 分 化 型 で あ る.ま
Fig.3.組
低
織 型 と 生 存 期 間(年)
た 混 合例 で はgrade
の高 い方 を取 った.
Grade別
GIG2G3G
の平 均 生存 期 間 ではgradeI群
が長 い 傾
Grade
G3
向を示 した が,統 計 的に 他 の群 と の問 に有 意 差 を認 め
なか った.な
おgrade1の1例
が死 亡 した.長 期 生
G2
ロ
存 例 を み る 限 り,組
織 型(grade)と
生 存 期 間 との間
に は 関 連 が み られ な か っ た.
4.初
初 診 時 の 病 期(stage)と
組 織 型(grade)の
を み る と,stageA,B,Cの3群
型 がgrade2以
関係
で は い ず れ も組 織
上 で あ っ た が,stageD群
grade1か
ら3ま
お け る 統 計 的 有 意 差 は 認 め られ な か っ た が,生
1の1例
をFig・5に
たstageDのgrade
3
2
現 在 えperformancestatus
れ に よ る とgradeは0か
ら4ま
字 が増 す に 従 い一 般 状 態 が
不 良 で あ る こ とを 意 味 す る.な
亡 例 を1例
death(死
含 ん で い る の で,便
亡)を
0
お 今 回 の検 討 で は死
宜 上grade4の
Stage
A
Fig.5.
上に
B
C
D
初 診 時 病 期 と現 在 のP.S.
入 れ た.
現 在 のperformancestatusを
的 に はstageC群
1
分類は
小 山`,に よ り行 な っ た.こ
階 で あ り,数
初診時病期 と組織型
4
示 し た.performancestatusの
で5段
D
C
P.S.
death
診 時 病 期 とperformancestatus(Fig.5)
初 診 時 病 期(stage)と
B
存 期間
が 死 亡 し た,
5.初
A
Fig.4.
群 間に
で は パ ラ ツ キ が 見 られ,一
定 の 傾 向 を 示 さ な か っ た,ま
Stage
で は
で バ ラ ツ キ が み ら れ た.各
と 同 じ よ うにstageD群
十
Gl
診 時 病 期 と組 織 型(Fig.4)
み て み る と,平
が も っ と も 良 く,逆
群 が も っ と も 悪 か っ た.ま
Table2.Performancestatusの
均
初診時
現 在
一
〇
0
-1
0
-2
0
-1
1
-一 レ2
1
-4
1
一death
1
にstageA
た 統 計 的 に は 各 群 間に 差 を
認 め な か っ た が,stageD群
で は 生存 期 間や 組 織 型
と 同 じ よ う に,performancestatusに
お い て もバ ラ
ツ キ が み ら れ,gradeOか
で非 常 に 幅 が
らdeathま
変 動
症例数
5
5
1
1
1
1
1
広 か っ た,
一 方 初 診 時 と現 在 に お け るperformancestatus
の 変 動 を み て み る と(Table2)変
た も の が6例,悪
化 が9例
動 のみ られ な か っ
で あ り,改
の は な か っ た 。 統 計 的 に 初 診 時gradeOの
善 のみ られ た も
方 がgra一
deI群
よ り現 在 のperformancestatusは
っ た(P<0.05).
6.病
期 の 変 動(Table3)
良好 であ
1262
泌 尿紀 要32巻9号1986年
Tablc3。Stageのi変
初 診時
現
動
Table5。
在
A→
A
A→
D
B →diseasefree
C→
C
D→
D
治 療 内容
初 回
症例 数
1
現 在
Honvan
2
1
Honvan
4
5
」囮
Honvan"Prostal
(1)
[呂£1罪n
2
7(什)
Honvan
Honvan
[。 山ワクチン1
Table4.手
術 内 容(施
術
名
前 丘 腺 全 摘 除術
除
撃
術
被膜下前立腺摘除術
前 立 腺 嚢胞 摘 除術
前 立 腺 凍 結 術
膀
胱
屡
術
[騨
Honvan
行8!15例)
Honvan
1
2
lEstracyt「
Honvan十
2
雫
〇K432-♪Estracyt-一'♂1.
totaI
つ
a4
醐
日團
区1day
PAP
1
100KAU
1
OK4325KEX79tEmes
/+
OrChlectomy
o
50KAU
1
\
'団
一
ノ
'麗,83.田.85
◎◎
Fig.6.
初 診 時 と現 在 の 病 期(stage)の
り
変 動 をTable3
な っ て い る の が5例,こ
れ に 何 ら か の 免 疫療 法 を 加
え て い る の が7例,初
病 期 の変 動 が み られ なか った のは12例 で あ り,改 善
悪2例
◎ ◎
CaseNo.5,S.K.,56Y.0.,atthefirstexam量nation
に示 した.
とい う結 果 で あ っ た,改 善 の み られ た
1例 は前 立 腺 全 摘 除 術 を 受 け,現
在diseasefrecで
回Honvanつ(diethylstilbest-
roldiphosphate)投
与 で 現 在Estracyt⑫(estramus-
tinesodiumphosphate)を
投 与 中 で あ る の が1例
ま たHonvaneとOK432に
燃 を 来 し,cisplatinum(CDDP)を
geAがstageDと
療 法 を 行 な っ た1例
進 行 して お り,stageAに
対す
る治 療 法 が 問題 とい え る.
9.合
術 内 容(Table4)
中 心 と した化 学
が 死 亡 し た.
併症
前 立 腺 以 外 の 合 併 症 の 主 な も の で は,脳
何 らか の手 術 的 療 法 を 行 な った の は8例 であ る.被
心 不 全(1例)が
膜下 前 立腺 摘 除 術 お よび 前 立腺 嚢 胞 摘 除 術 を 行 な った
し た.こ
3例 で は,術
tal⑫)に
前 に前 立 腺 癌 と の診 断 を つ け 得 な く,
術 後 の病 理 組 織 学 的 所 見 よ り前 立 腺 癌 で あ る こ とが判
,
よ る免 疫 療 法 施 行 中再
あ る.し か し増 悪 した2例 では,い ず れ も初 診時sta・
7手
雪
Honvan-←CDDP+PEP+IFOS
t
Honvan300繭
1例,増
4
症例数
そ れ ぞ れHonvan⑰
梗 塞(3例),
投 与 中に 発 症
の た め い ず れ も 酢 酸 ク ロ ル マ ジ ノ ン(Pros投 与 を 変 更 し た が,変
更 後 は 特ec血
管障害,
心 不 全 の 徴 候 な ど を 認 め て い な い,
明 した,結 局 根 治 的 に 前立 腺 全 摘 除 術 を 施 行 で きた の
症
は1例 のみ で あ った.
8.治
療 内 容(Table5)
手 術 療 法 を 除 い た 治療 内容 をTable5に
小○茂
示 した.
初 回 治療 よ り現 在 ま で ホ ル モ ン剤 に よる単 独 療 法 を行
例
症 例No.5初
診 時 年 齢56歳
死 亡 例 の 経 過 をFig・6に
を主 訴 と して1981年6月
示す.患 者 は 右 ソ径 部 痛
当科 を 受 診 した.諸 検 査 の結
1263
上 田 。ほ か;前 立 腺 癌 ・長 期生 存
果stageD前
Honvan⑫
検 に よ る病 理 組
型,生 存 期 間 と も非 常 に バ ラ エ テ ィーに富 ん で お り,
ず 初 回 治療 と し て
比 較 的 早 期 に死 亡 す る例 が み られ る もの の長 期 生 存 す
立 腺 癌 と診 断 した.生
織 豫 は 高 分 化 型 腺 癌 で あ っ た.ま
を1日1,000mg連
の 後 除 睾 術 を 行 な い,更
っHonvan⑪
日 で11日
にOK432を
を1目300mg投
間 投 与 し,そ
る例 もあ り,ま た これ らは 組 織 型 と も相 関 な く,前 立
併 用 投 与 しつ
腺 癌 の多 様 性 が 示 唆 さ れた,
前 立 腺 癌 症 例 に お け る一般 状態performancesta-
与 し て い た,約2
よ り
tusで は,今 回 の長 期 生存 例 で は初 診 時 小 山 の 分類 に
前 立 腺 性 酸 フ ォス フ ァ タ ー ゼ(PAP)が
上昇傾向 と
よる0ま たは1で あ り,い ず れ も一 般 状 態 は 良 好 で あ
な っ た た め,同
を投 与 し た
年9ヵ
月 間 は 寛 解 が 得 ら れ て い た が,1984年4月
年9月
よ りEstracyt⑫
が 効 果 が え ら れ な か っ た,そ
った.3年
以 上 経 過 した 現 在 で は死 亡 例 が1例 あ り,
不 変6例,悪
こ でcisplatinum
化9例,改
善 な し とい う結 果 であ り,全
(CDDP)ifosfamide(IFOS)pepleomycin(PEP)
般 的 に 一般 状 態 が悪 化 した が,死 亡 例 とgrade4へ
の3者
の悪 化 例 の2例 を除 くと他 はgradeOか
く.結
た.初
に よ る 化 学 療 法 を 行 な っ た が 効 果 が み られ な
局DICが
原 因 で 本 年(1985年)1月
診 時 か ら の 生 存 期 間 は4年7ヵ
考
死亡 し
り,比 較 的 一般 状態 が良 く保 た れ て い た.ま た 初 診 時
gradeO群
月 間 で あ っ た.
の方 がgradel群
に 比 較 して現 在 の一 般
状 態 が 良 好 で あ った(P<0.G5).こ
察
ら2ま で あ
の こ とか ら長 期 生
存 例 でみ る限 り,前 立 腺 癌 に おい ては長 い経 過 を示 す
日本 人 の 前 立腺 癌 罹 患 率 は 欧 米 諸 国 と比 較 し て きわ
め て低 率 であ るが,本 邦 に お け る罹 患者 数 の伸 び 率 が
最 も高 い男 性 悪 性腫 瘍 で あ る こ とが 注 目 され て い る5)・
また 前立 腺 潜 在 癌 の割 合 は欧 米 諸 国 との 間 に差 が な い
も の の,一 般 状 態 が 良 く保 たれ て お り,殊 に初 診 時に
一 般 状 態 の良 い 症 例 が3年 以上 経 過 した 現 在 で も比較
的良 好 な一 般 状 態 を 示 した.
病 期 の変 動 では,改 善1例,stablel2例,進
に もか かわ らず 近年 の 本邦 に お け る前 立 腺 癌死 亡 率 は
例 とい う内訳 で あ る.stableの12例
増加 傾 向に あ り,社 会 生 活環 境 因 子 な ど を 主 と す る
わ れ るが,進 行 した2例
promotingfactorが
Aで
活 動 性 発 癌 へ 進 展 させ る の で は
な いか と考 え られ て い る5).
行2
は 問 題 な い と思
で は い ず れ も初 診 時stage
あ った に もか かわ らずstageDへ
進 行 した.ま
た この2例 で は術 前 に 前 立 腺 癌 との診 断 を確 定 で きな
しか し,浸 潤 増 殖 型 で 予 後不 良 な前 立 腺 癌 が 増 加 し
く,被 膜 下 前 立 腺 摘 除術 と 前 立 腺 嚢 胞 摘除 術 を 行 な
て い る一方,臨 床 症 状 が 軽 徴 で,長 期 生 存 して い る前
い,術 後 の病 理 組 織 学 的所 見 でgrade3(低
立腺 癌 症例 も存 在 す る.そ こで 今 回 は前 立 腺 癌 で あ り
とgrade2(中
が ら,3年
立 腺 全 摘 除 術 を 行 な った1例
以 上長 期 生 存 が 可 能 で あ っ た15症 例 を 分 析
分 化 型)
分 化 型)の 腺 癌 と判 明 した.更
に前
が 現 在diseasefree
し,そ の予 後 因子 を 探 る こ とを 目的 と し,本 研 究 を 行
で あ る こ とを 考 え合 わ す と,初 回 の手 術 後 に前 立腺 全
な った.
摘 除 術 を 行 な うぺ き で は な か った か と反 省 し て い
まず 初 診 時 の年 齢 をみ てみ る と,統 計 的に 有 意 差 を
る.横
山 ら6)は 手 術 で 発 見 され た前 立 腺 癌stageA
認 め なか った が,最 長 生 存 者 は 初 診 時81歳 の症 例 であ
症 例 に つ きそ の病 理 標 本 よ り推 定 群 別 し,治 療 方 針 を
り,最 短 生 存 者 は初 診 時73歳 と67歳 の症 例 で あ り,そ
立 て て い る.す なわ ちstageA癌
して また 初 診 時81歳 以上 の3例 が い ず れ も5年 以上 生
も明 らか に異 質 な 限局 性(A1)分
存 して お り,初 診 時年 齢 が 高 い 症 例 で長 期 生存 を示 す
未 分 化癌 の2群 よ りな り立 ち,後 者 に 対 しては 抗 男 性
傾 向 が み られ た.ま
ホ ル モ ン療 法 のみ では 不 十 分 で,さ
C1例,D2例
た この3例 で は初 診 時 の病 期 が
で あ り,進 行 例 に もかか わ らず 長 期 生
存 した.
らに 積 極 的 治 療 を
行 な うべ き と述 べ て い る.わ れわ れ の2例 では いず れ
も限 局 性 で あ った が,病 理 学 的 に は低 分 化型 と中 分 化
初 診時 病 期 別 の 生存 期 間 をみ て み る と,前 述 し た
stageD,初
は 生 存 率 か らみ て
化 型 癌 とび慢 性(A2)
診時81歳 の症 例(No.2)が8年7ヵ
月
型 で あ った.
手 術 内 容 は前 述 した よ うに 前 立腺 全摘 除術 を施 行 し
の最長 生 存 期 間 を示 した もの の,最 短 もstageDの
た のは1例 で,こ れ のみ で結 論 的 な こ と は 言 え な い
死 亡 例(3年4ヵ
が,現 在 前 立腺 癌 に対 す る根 治 療 法 は 手 術療 法 のみ で
月)で あ り,stageD群
で は最 短
か ら最 長 ま で非 常 に 幅広 い生 存 期 間 を 示 した.ま た こ
あ り,他 の治 療 法 で は 限 界 が あ る の で,今 後 はstage
れ を組 織 型 と の関 係 につ い てみ てみ る と,同
Aの
stageD群
3(低
ではgradel(高
分 化 型)か
じよ うに
らgrade
また は 未 分 化 型)ま で幅 が広 く,一 定 の傾 向 を
示 さなか った.こ
の よ うに 初診 時D群 の7例 では 組 織
前 立 腺 癌 症 例 に 対 して も適 応 を 広 げ て ゆ く必 要
が あ ろ う.殊 に 前 立腺 癌 は経 過 が 長 く,そ の 間 に組 織
学 的 に 悪 性 化 す る とい う報 告 が あ り7》,手 術 可 能 な 時
に 迷 わ ず 全 摘 除 術 を行 な った方 が結 局 予 後 を 良 好 な ら
1264
泌 尿 紀 要32巻9号1986年
しめ る と考 え る.
型)か
手 術 療 法 以 外 の治 療 内 容 は ホ ル モ ン療 法 が 主 体 に な
らgrade3(低
また は 未 分 化 型)ま
で幅が 広
く,前 立腺 癌 の多 様 性 が 示 唆 され た.
され て お り,こ れ に 何 らか の免 疫 療 法 を 加 え てい る の
4.前
が現 状 で あ る.前 立 腺 癌に 対 す る免 疫 療 法 の 有 用 性 に
status)で は 今 回 の15症 例 では 初 診 時gradeOま
つ い て は現 在 検 討 中 で あ り,こ こ では 結 論 を 出 せ な か
った.
立腺 癌 症 例 に お け る 一 般 状 態(performance
ユで あ り,3年
悪 化9例,改
前 立 腺 以 外 の合併 症 に っ い ては,脳 梗 塞3例,心
全1例
の4例 がHonvan⑫
不
投 与 中 に 発 症 した こ と よ
り,こ の薬 剤 との 関係 が 強 く示 唆 され た,従 来 よ り欧
gradeO群
以上 経 過 後 で は 死 亡1例,不
変6例,
善 な し の 結 果 で あ った.ま
の 方 がgrade1群
たは
た初診時
に 比 較 して現 在 の一 般
状 態 が良 好 で あ った(P<0.05).
5.病
期(stage)の
変 動 を み る と,改
米 諸 国 と比 較 してわ が 国 では エス トロジ ェ ンに よる副
12例,進 行2例
作 用 が 少 な い と言 わ れ て い た が8》,食 生 活 な ど の欧 米
は 初 診 時 い ず れ もstageAで
化 に 伴 い,今 後 は エ ス ト ロジ ェ ンに よる副 作 用 が 増 加
stagcDへ
す る もの と思わ れ,長 期投 与す る場 合 は 特 に そ の副 作
る 治療 法 が 問題 とな った.
善1例,不
変
とい う結 果 で あ った.進 行 した2例 で
進 行 した.こ
あ った に もか か わ らず.
の こ とか ら初 診 時Aに 対 す
用 に 注意 す る必 要 が あ ろ う.幸 い,今 回 の4例 で は い
6,手
ず れ も酢 酸 ク ロル マ ジ ノ ンに変 更 す る こ とに よ り副作
た の は1例 で あ り,今 後 はstageAに
用 が み られ ず,か つ 制 癌状 態 が え ら れ てい る.
除 術 の適 応 を 広 げ てゆ く方 が 予 後 を良 くす る の では な
死 亡 例 の検 討 で は,初 回 治療 時 エ ス ト ロ ジ ェ ン と
OK432の
併用 療 法 で約3年 間 寛 解 が え ら れ てい た
術 療 法 と して は根 治 的前 立 腺 全 摘 除 術 を行 な っ
対 して も全 摘
いか と考 え た.
7.手
術 療 法 以外 の 治療 法 で は エ ス ト ロジ ェ ンを主 体
が,急 速 に再 燃 し,CDDP,ifosfamide,pep1eomy-
と して 治療 が な さ れ て お り,エ ス トロ ジ ェ ンの長 期 投
cinな どに よる併 用 化 学 療 法 を行 な った が効 果 が み ら
与 に よ る と思 わ れ る 副作 用 が 問 題 とな った.
れ な く,死 亡 し た.多
8.エ
くの 再 燃 前 立腺 癌 は本 症 例 の
よ うな 経 過 を た どる ことが 多 い と思わ れ るが,こ
ス トロ ジ ェ ン投 与 後 再 燃 した1例 が死 亡 した.
のよ
以 上 よ り,浸 潤 増 殖 型 の前 立 腺 癌 が増 加 して い る傾
うな再 燃 前 立腺 癌 に 対 す る有 効 な 治療 法 の確 立 が 早 期
向に あ るが,手 術 可 能 例 に 対 して は積 極 的 な根 治 手 術
に 望 まれ る.し か し有 効 な 治 療法 が 見 当 らない 現 在,
を行 な う一 方,手 術 不 能 例 に 対 しては 制 癌 状 態 を 長 く
いか に 初 診時stageDの
維 持 す る工 夫 が重 要 と考 え られ た.
前 立 腺 癌 を長 く寛 解 させ て
お くか も重要 で あ る と考 え る.一
方 ホ ル モ ン剤 と
5-fluoroura¢il併 用長 期継 続 投 与 の研 究9》や再 燃 前 立
腺 癌 に対 す る放 射 線 療 法 が 検 討 され て お り10),今 後 は
本論文 の要旨は,第73回 日本泌尿 器科学会総会 において発
表 した.
当 科 で も従 来 の エ ス トロ ジ ェ ンー 辺 倒 に よ る治療 法 を
文
見直 した い と考 え て い る.
ま
と
1)黒
め
献
田 昌 男 ・三 木 恒 治 ・清 原 久 和
・宇 佐 美 道 之 ・
中 村 隆 幸 ・古 武 敏 彦 ・石 黒 信 吾:前
初 診 よ り3年 以上 経 過 し,1984年10月
時に生存中 の
腺癌の治療 成績
15例 の前 立腺 癌 症例 を対 象 と し,臨 床 的 検 討 を 行 な
い,以 下 の結 果 を得 た.
1.初
1981
2)HarmerMH:TNM.Classificationofmal三g・
診 時年 齢 は56歳 か ら84歳 ま で で あ り,生 存 期 間
は3年 か ら8年 で あ った.初
診 時56歳 の症 例 が 死 亡
し,初 診 時81歳 の症 例 が8年7ヵ
nanttumors.ThirdEdition,Geneva1978
3)WhitmoreWFJr:Hormonetherapyin
月 間長 期 生 存 した,
prostaticcancer.AmJMed21=697∼713,
しか し初 診 時 年 齢 と生 存 期 間 との 間に は相 関 関 係 を 認
め なか った.
診 時stage
月)か ら最 長(8年7ヵ
上 記 と同 じよ うにstageD群
5)町
田 豊 平 ・三 木
の 関係 で は
ではgradel(高
分化
本 臨床
誠:前
立 腺 が ん .総
合 臨 床33:
119∼123,1984
6)横
組 織 型(grade)と
癌 剤 の 臨 床 効 果 判 定 基 準 .日
33;1974∼1803
月)
ま で幅 広 い生存 期 間 を示 した.
3・ 病 期(stage)と
山 善 之:抗
生 存 期 間 と の関 係 で は 両
者 に統 計 的 有 意 差 を 認 め な か った が,初
で は最 短(3年4ヵ
1956
4)小
2・ 初 診 時 病 期(stage)と
D群
立 腺 低 分 化
泌 尿 紀 要27:1317∼1321,
山 正 夫 ・河 村
木
毅 ・福 谷 恵 子 ・東 海 林 文 夫
徹 ・金 村 三 樹 郎:手
,鈴
術 標 本 の病 理 学 的 検 索 で
発 見 され た 前立 腺 癌 の治 療 法 とそ の成 績
1265
上 田 ・ほ か:前 立 腺 癌 ・長 期 生 存
与 の 効果 に 関す る 臨 床 的 研 究.泌
日 泌 尿 会 誌73:1269∼1276,1982
7)安
藤
検 討.日
8)小
研 ・ほ か:前
立 腺 癌 剖 検 例 の病 理 組 織 学 的
10)森 岡 政 明 ・吉 本
泌 尿 会 誌74;989∼993,1983
磯 謙 吉=前
立 腺 癌.ホ
ル モ ソ と臨 床30:39∼
44,1982
9)竹
内 弘 幸=前
輝 久 ・荒 木
の ホ ル モ ン剤 と5-Fluorouracil併
用長 期継 続 投
純 ・光 畑 直 喜 ・朝 日俊 彦 ・大 橋
徹 ・松 村 陽 右 ・大森 弘之=前 立 腺 癌
の放 射線 療 法.西
立 腺 癌 治療 に お け る基 調 療 法 と して
尿 紀 要30:
1703∼1709,1975
日泌 尿43=731∼739,1976
(1985年10月18日 受 付)