電気化学析出による酸化亜鉛薄膜の作製と結晶構造評価 - 高知工科大学

卒
業
研
究
題
報
告
目
電気化学析出による酸化亜鉛薄膜の作製
および結晶構造の評価
指 導 教 員
成沢 忠 教授
報 告 者
学籍番号:1060229
氏 名 :高繁
平成 18 年
高知工科大学
2月
夢二
16 日
電子・光システム工学科
1
目次
第一章
序論
1.1 研究背景 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1.2 目的
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
1.3 酸化亜鉛(ZnO)について ・・・・・・・・・・・・・・・・5
第二章
電気化学析出法の反応原理・装置原理
2.1 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
2.2 反応原理・装置原理
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
2.2.1 電極反応
2.2.2 電極と電位差
2.2.3 作用電極
2.2.4 参照電極
2.2.5 ポテンショスタット
第三章
X 線回折による結晶構造の評価
3.1 はじめに
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
3.2 X 線の発生・原理
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
3.2.1 連続 X 線
3.2.2 特性 X 線
3.3 X 線回折 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
3.3.1 ブラッグの回折則
3.4 結晶構造 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
3.4.1 結晶
3.4.2 ミラー指数
3.4.3 逆格子
2
ZnO 薄膜の作製
第四章
4.1
4.2
4.3
4.4
第五章
はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
作製機器・準備 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
ZnO 薄膜作製 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
作製条件 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
測定結果および考察
5.1 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
5.2 X 線回折測定結果および考察 ・・・・・・・・・・・・30
5.3 SEM による表面観察結果および考察 ・・・・・35
第六章
まとめ
6.1 結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38
6.2 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39
6.3 謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40
3
第一章
序論
本研究は電気化学析出法を用いて酸化亜鉛薄膜を作製し、X 線回折法による結晶構
造評価、SEM による表面観察を行いその結果をまとめたものである。
1.1
研究背景
近年、盛んに研究される薄膜作製技術の進展により、半導体は目覚しく成長を遂げて
きた。化学気相成長法(CVD)や分子線成長法(MBE)、スパッタリングなどが現在の
半導体業界では多く使われている。現在でも様々な研究機関がより良質な半導体作製技
術向上のため、これらの薄膜作製技術の研究は行われ続けている。しかし、その技術の
進歩は逆に複雑で、真空引きに多くの時間を要し、非常に高価な装置を必要とする背景
も持ち合わせてきた。
また材料やデバイス面において、高性能なものを作ることができる反面、そのために
必要な材料コストが高価である。現在の透明導電膜ではスズ含有酸化インジウム(ITO)
の元となっている In(インジウム)のように非常に高価(1Kg あたり 10 万円)な材
料を使わざるを得ない状況となっている。そのため、先に述べた装置、材料のコスト、
生産時間を要するデメリットが半導体結晶、透明導電膜を安価にできない原因となって
いる。また、コスト、生産性という点において工業的に優れている CVD は気相成長で
作製を行うため、危険なガスを使うことが多く、ガス漏れなどの事故も懸念され、安全
策が必要となってくる。
そこで、できる限り装置のコストを下げることが可能で時間短縮でき、且つ、より安
全な方法で半導体作製を行える手法を模索した。
4
1.2
目的
本研究で目指すことは下記の通りである。
1)半導体作製装置は大型ではなく、安価な装置であること。
2)危険なガスを発生せず、より安全で扱いやすく簡素な作製方法であること。
3)CVD などに比べても劣らない生産性があること。
4)作製コスト・時間がかからないこと。
以上の要件を満たす手法で半導体を作製することが本研究の主目的である。これらを
考慮した結果、条件を満たす作製手法として液相成長法の一つである電気化学析出法が
挙げられる。そこでこの電気化学析出法を用い、材料として豊富で安価であり、且つ将
来性がある酸化亜鉛薄膜を作製し、それを X 線回折法、SEM を用いて結晶構造評価お
よび表面観察を行った。
1.3
酸化亜鉛(ZnO)について
酸化亜鉛は室温で約 3.4eV のバンドギャップをもつ直接遷移型のⅡ−Ⅵ族半導体で
ある。材料としては非常に豊富で、1.1 で述べたような ITO 膜の元となっている In と
比べても非常に安価であり、紫外領域のバンドギャップを持つため ITO 膜と同じく成
膜すれば透明である。ドーパントすると抵抗が低くなることから、ITO 膜に代わるもの
として研究が行われている。
その他にも太陽電池としてや、透明電極としてなど様々なデバイスに利用が考えられ
る有望な半導体であると言える。
5
第二章 電気化学析出法の反応原理・装置原理
2.1
はじめに
今回酸化亜鉛の作製に用いる電気化学析出法とは、一般的にいう電気めっきのこと
である。電気めっきは現在主に金属性の皮膜を形成する表面技術として、その応用分野
も広く、代表的な表面処理といえる。その目的は、表面の光沢、色調など美的感覚を付
与する装飾めっき、耐食性の付与に重点をおく防錆めっき、さらに工業的に有用な特性
の強化を目的とした工業用めっきをあげることができる。
しかしこの工業などで言う電気めっきと、今回実験で析出する酸化亜鉛との大きな違
いは金属を析出するか化合物半導体を析出するかに違いにある。金属単体では反応原理
が非常に単純であるが、今回作製する ZnO 薄膜は 2 元系の化合物である。そのため反
応原理は非常に複雑で、装置も特殊なものを使わなければならない。通常は金属をめっ
きする際には蓄電池あるいはシリコン整流器による直流電源が多く用いられるが、酸化
亜鉛を析出する際には後述するポテンショスタットと呼ばれる装置を用いて実験を行
う。
そこで本章では ZnO 薄膜作製に用いる化学反応原理、装置原理について述べる。
6
2.2
反応原理・機器機能
2.2.1 電極反応
電気化学析出における水溶液中での薄膜成長の原理は、電解質溶液中で発生する各電
極で起こる酸化反応と還元反応という電気分解に基づいている。図 2・1 に示すような、
電解質溶液に二つの電極を入れ外部から十分な電位を与えると電極で化学反応が生じ
電流が流れる。これを電気分解(electrolysis)または電解と呼ぶが、各電極では次の
ような酸化反応と還元反応が起こる。
R → O + ne
・・・・・・・・・(2‐1)
R:還元体(reduction)
O:酸化体(Oxidation)
n:整数 e:電子(electron)
(2−1)式のような反応を酸化反応と呼ぶ。これは通常酸素の受け渡し指す酸素還元
ではなく本研究で用いる酸化というのはある物質が電子失うことを指し、この酸化を起
こす電極をアノード(陽極、anode)と呼び、電気分解では+極となる。
O + ne
→ R
・・・・・・・・(2−2)
(2−2)式のような反応を還元反応と呼び、先の酸化反応とは逆の、ある物質が電子
を受け取ることを指す。この反応を起こす電極のことをカソード(陰極、cathode)と
呼び、電気分解では−極となる。
e
アノード
(陽極)
(eの出口)
カソード
(陰極)
(eの入口)
Pt
Pt
H2
Cl2
H+
Cl-
図 2・1 HCL の電解
電気分解の代表例として、HCl の電解を図 2・1 に示す。
7
白金のような不溶性の金属をアノード、カソードに用いて HCl の電解を考えた時、
アノード側では、
2Cl → Cl2 + 2e
・・・・・・・・(2−3)
カソード側では、
2H+ + 2e → H2
・・・・・・・・・・・(2−4)
全体としては、
2HCl → H2 + Cl2 ・・・・・・・・・・・・(2−5)
となり、塩酸が分解してアノードで塩素ガス、カソードで水素ガスが発生する。
この電気分解の定量的扱いは 19 世紀前半に Faraday により詳しく研究され、物質1
グラム当量の電気化学変化を起こすのに必要な電気量は一定で1F で示す Faraday の
法則が見出されている。
1F = NAe = 96490C ・・・・・・・・・・(2−6)
NA はアボガドロ数である。
次は具体的に本研究で作製する酸化亜鉛の反応を示す。硝酸亜鉛(Zn(NO3)2)を溶
かした水溶液を使用した場合、カソード側全体では、
2e−+ NO3− + H2O → NO2−+ 2OH− ・・・(2−7)
Zn2++ 2 OH− → Zn (OH)2
Zn(OH)2 → ZnO + H2O
・・・・・・・・・・・・(2−8)
・・・・・・・・・・・・・・・・(2−9)
という反応が起こる。
(2−7)~(2−9)式は、作用極付近で存在する NO3−と H2O が電極から電子を受けて
反応し OH−と NO2−を発生する。その OH−と Zn2+が反応し、Zn(OH)2が発生する。
Zn(OH)2の脱水反応により、ZnO と H2O に分離し作用極に ZnO が析出する。
8
アノード側では、
2OH− → 1/2O2 + H2O + 2e− ・・・・・・・・・・・(2−10)
という反応が起こる。(2−10)式はカソード側で反応せずにアノード側へ引っ張られ
た 2OH−がアノード側で反応し、酸素と水に分解されたことを示す。そのためアノード
側で起こる反応は、目で見ると気泡が発生している。
ZnO が出来る反応はこれだけではなく、アノードで発生した酸素ガスと Zn2+が反応
する、
Zn2++ 1/2O2 + 2e− → ZnO ・・・・・・・・・・・(2−11)
という反応も起こり、堆積に寄与する。
9
2.2.2
電極と電位差
電極を溶液に入れて電位を測定するには、2 つの電極を用いて、2 点の電位差を測定
しなければならない。測定する電極を作用極(working electrode )または試料電極(test
electrode)と呼び、もう一つ電極、対極(counter electrode)を用いて電位差を測定す
る。電位差を測定する時の最も簡略な系を図 2・2(a)に示す。この状態でセル電圧 V
が起電力 E に等しくなるためには電流 i≒0 の条件(平衡系)が成立する必要がある。
このとき、もう一つの電極として電位が安定な電極を選んで用いるが、これはセルの電
流が i≒0 となるためで、この電極を参照電極(reference electrode)と呼ぶ。この時、
作用電極と参照電極間の正味の電流はほとんど無視できる平衡状態で電位差を測定す
る。この電位差は電極間の起電力に相当し、この条件下では電極間の内部抵抗成分によ
る電位降下は無視できる。そこで今回使用する実験には電極に与える電位がより安定し
ている図 2・2(b)を用いる。
(b)三電極系
(a)二電極系
対極(参照電極兼用)
(CE)
対極(CE)
セル電圧
起電力E
Es:電源
↓I:電流
参照電極(Ref)
V
V
セル電圧
作用電極 (WE)
作用極(WE)
i≒0の条件下で
E = V(セル電圧)
図 2・2
i > 0の条件下で
Es ≠ V(Es=V+IRcell,IRcell:セル抵抗)
VはRefを基準としたWEの電位を示す
セル電位測定モデル図
10
2.2.3
作用電極
作用電極は電気化学測定および析出する際に絶対不可欠な電極である。電極とは、
ある系の中に電流を流したり、系から電流を取り出したり、あるいは電場を作るなどの
目的で設けられた電子伝導体または半導体のことである。したがって、電極の機能とし
ては、一つの反応物質としての電子を供給あるいは収容することである。例えば、酸化
体 O とその還元体 R の電気化学反応の場合には、2.2.1 で述べたような電極はカソード
極(
(2−1)式の場合)あるいはアノード極((2−2)式の場合)として機能している。
今回は半導体にくらべ電子の供給が容易に出来る Cu を作用極に用いた。
2.2.4
参照電極
ここでは薄膜作成中に液中の電位を測定するために用いる参照電極について触れる。
理想的な参照電極としての条件としては、測定中、温度などの外的な因子によって電位
変動があまり起こらないことである。本研究で使う参照電極は通常の電気化学測定で最
も多く利用される銀・塩化銀電極(Ag/AgCl)を用いて析出を行う。
〇銀・塩化銀電極
銀・塩化銀電極は、電位の再現性が高く取り扱い容易であるため最も多く電気化学測
定で使われる参照電極である。電極の例を図 2・3 に示す。
Ag/AgCl
飽和KCl
Ag/AgCl
KCl結晶
寒天(KCl飽和)
塩橋
目の粗い
ガラスフィルター
飽和KCl
KCl結晶
目の細かい
ガラスフィルター
またはビーズ
目の細かいフィルター
例(a)
例(b)
図 2・3 参照電極の例(Ag/AgCl)
11
2.2.5
ポテンショスタット
2.2.2 でも図示したような三電極系の実験を行ったとき、作用電極の電位を参照電極
に対してある電位に設定しても、電極反応が進行するにしたがって電極表面での反応種
の濃度は減少し、また反応生成物の濃度増加(本実験では作用極上に堆積する酸化亜鉛
薄膜のことを指す)するなどして、電極電位は初めに設定した電位から他の値の電位に
変化してしまうのが普通である。
もしこの設定を一定に保ちたいのならば、作用極と参照電極との間の電位を見ながら
作用極と対極との間に加える電圧を常に調整する必要がある。しかしながら、この操作
を手動で短時間に実施するのはほぼ不可能に近い。これを可能にしたのがポテンショス
タットである。ポテンショスタットとはその名が示すとおり、作用電極に対する電位を、
設定した電位に常に保つようにできる装置のことをいう。図 2・4 にポテンショスタット
の働きを図示する。
次にポテンショスタットの最も簡単な基本構成システムの一例を図 2・5 に示す。基本
は 4 つの部分からなる(図 2・5 の色が付いている部分)
。
①
演算増幅器 A(直流電源を含む)
② 電位設定電源 Es(内蔵ポテンショメータ、外部入力ファンクションジェネレー
タを含む)
③ 電流読取用の電流‐電圧変換機(つまり抵抗)
④ 電解槽(負荷であり、また同時にフィードバックループの一部)
ポテンショスタットとは電位 Es を設定したならば、電流が 10μA 流れても1A 流れ
ても、常にその電位 Es を保つようにできる装置である。図 2・6 は実際に様々な外部要
因を考慮し、推奨されているシステム図である。この回路は作用電極を直接接地でき、
しかも電流増幅器が一箇所でよいため、よく使われる回路である。
12
流れる電流 i
設定された
電位E
WE
ポテンショ
スタット
電解セル
RE
設定電位
可変装置
(ポテンシャル
プログラマー)
CE
WE:作用電極、CE:対極、RE:参照電極
図 2・4 ポテンショスタットによって設定される電位
CE
電解槽
RE
A
WE2
Es
RL
WE1
アース
図 2・5 ポテンショスタットのシステムの一例
13
i
CE
e1
RE
WE
図 2・6 よく使われるポテンショスタット回路図
14
第三章 X 線回折による結晶構造の評価
3.1
はじめに
X 線回折法は、他の分析法例えば ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical
Analysis:別称 XPS)や UPS(Ultraviolet Photoelectron Spectroscopy)のように試料
に含まれている元素の種類や量を求めるための方法とは異なり、粒子や結晶などの原子
配列や構造に関する情報を得る分析法である。
本章では簡単ではあるが、本研究で使った X 線回折法における X 線の発生原理、回
折法、結晶構造の同定について述べる。
3.2
X 線の発生・原理
3.2.1
連続 X 線
十分大きな運動エネルギーを持った荷電粒子が急速に減速されると X 線が発生する。
このような状態は数 10kV の高い電圧が陰極(フィラメント)と金属陽極(ターゲット)
の間にかけられ、陰極から引き出された電子がターゲットに高速で衝突する場合に容易
に達成され、発生した X 線はあらゆる方向に放射される。電子の電荷を e、電極間の電
圧を V とすると、衝突する際の電子の運動エネルギーKE は、衝突直前の電子の速度ν
と電子の質量mを使って次式で与えられる。
KE = eV =
1 2
mv
2
・・・・・・・(3−1)
この電子の運動エネルギーはターゲット衝突時にほとんど熱となり、X 線の発生に変
換されるのはわずか1%以下である。また電子の衝突時に発生する 1%のエネルギーす
べてが放出されるのではなく、電子によっては一度の衝突の完全に運動エネルギーを開
放するものもあれば、一方で一回以上の衝突を繰り返しながら徐々に減速し、その度に
運動エネルギーを少しずつ開放するものもある。そのため電子が高速でターゲットに衝
突する場合に発生する X 線は様々な波長を持っており、X 線スペクトルのだらだらと
した曲線となる部分に相当する X 線を連続 X 線(continuous radiation)と呼ぶ。
15
一回の衝突で完全にその運動エネルギーを失い X 線へ変換される場合、最大エネル
ギーの X 線が発生する。この X 線の波長を短波長端
(short‐wavelength limit)
SWL
λ
と呼ぶ。この波長とX線管球の電極間の加速電圧との間には、次式のような関係が
成り立つ。
eV = hυ max
λSWL = λmin =
λSWL[m] =
c
υmax
・・・・・・・・・・・(3−2)
=
hc
eV
(6.626×10−34)(2.998×108 )
(1.602×10−19)V
λ SWL [Å] =
12.4
V [kV ]
・・・・・・(3−3)
・・・・・・・(3−4)
・・・・・・・・・・・(3−5)
また、1 秒間に放出される全 X 線強度は発生した X 線スペクトルの曲線の下の面積
に相当し、ターゲット物質の原子番号 Z、X線菅球の管電流 i によって決まる。X線の
管電流はターゲットに 1 秒間に当たる電子の数に相当するので、全 X 線強度 Icont は次
のような式となる。
I cont = AiZV m
A は比例定数で、mは約 2 の定数となっている。
16
・・・・・・・・・(3−6)
3.2.2
特性 X 線
X線管球に加える電圧がある一定の値を超えると、連続 X 線スペクトルにターゲッ
トを用いた金属固有の波長を持つ非常に鋭いピークが現れる。これらの鋭いスペクトル
は金属固有の波長を示すことから、特性 X 線(characteristic X−ray)と呼ばれる。こ
の特性 X 線の波長は、ターゲットを構成する原子自体に深く関係する。ターゲットを
構成する原子をミクロな立場から考えると、原子中の電子はその主量子数 n で分類でき
る K、L、M などの殻にあることが知られている。もし、ターゲットに衝突する電子が
十分大きい運動エネルギーを持ったとき、図 3・1 のように K 殻の電子ははね飛ばされ
原子が励起状態になる。すなわち K 殻に空きになったとすると、外殻の L もしくは M
にあるいずれかの電子がエネルギーを放出しながらその K 殻の空いた部分へ納まり、
原子は通常のエネルギー状態へと戻る。
Kβ
Lα
Kα
核
M殻
K殻 L殻
図 3・1 原子中の電子の移動
また図 3・1 にあるような Kα、Kβと呼ばれるのは K 殻の位置を L 殻もしくは M 殻の
電子が占有することを示す。つまり隣の殻の電子が納まる場合をα線、もう一つ隣の電
子が納まる場合をβ線と定義される。ただし L、M 殻とも複数の接近している準位をも
っている。それを図 3・2 に示す。実際 X 線構造解析、X 線回折には特性 X 線が使われ
るが、それは回折に必要な単色または単色に近い X 線を必要とするためで、それはX
線管球の電流 i と、印加電圧 V から特性 X 線の励起電圧 Vk を引いた差の電圧を使って
表される式から知ることができる。
I k = Bi (V − Vk ) n
・・・・・・・・・・・(3−7)
B は比例定数であり、n は定数で約 1.5 である。たとえば、30kVの電圧をかけた銅
17
の Kα線の強度は、同じ波長の連続 X 線に比べ約 90 倍となる。また特性 X 線のピーク
の半値幅は多くの場合 0.001°以下で、X 線回折にはかかせないも特徴となっている。
特性 X 線を X 線回折に用いる場合、単色に近い必要があるためよく Kα線を使用す
るが、この時発生する Kβ線は必要ないため Ni などのフィルターをかけて Kβ線強度
を弱めている。
MⅤ
MⅣ
MⅢ
MⅡ
MⅠ
LⅢ
LⅡ
LⅠ
β4 β3 β1
α2 α1
α1α2β3β1
K
図 3・2 各種特性 X 線とエネルギー準位との関係図
18
3.3
X 線回折
先に X 線の発生原理および特性 X 線を述べたが、この X 線を物質中に入射すると、
物質を構成する原子の周りの電子によって X 線が、結晶中の原子が周期的に規則正し
く配列した結晶に入射すると「回折」と呼ばれる現象を生じる。この X 線を散乱する
因子は原子を取り巻く電子の集まりによって影響されるもので、この散乱した X 線が
互いに干渉しあって特定の方向に強く X 線が現れることを「X 線回折」という。
3.3.1 ブラッグの回折則
図 3・3 のような原子の間隔dが一定であるような単結晶に波長λの X 線を照射した
場合を考える。入射 X 線は結晶格子面で反射し互いに干渉しあうので、波長λの整数
倍の回折線の強度が増大され、これより次式のブラッグの回折則が成り立つ。
nλ = 2d sin θ
・・・・・・・・・・・(3−8)
X 線回折は回折された X 線の反射角θをもとめ、
(3−8)式よりdを求めることによ
って構造決定を行う。
(3−8)式においてλは照射 X 線の波長で既知であり、n は回折
線の次数であるが、通常は n=1 としてdを求める。このdは構造上特有の値であり、
回折結果より得られる異なる次数に対応する複数のdの値について、それぞれの回折 X
線の強度から構造が決定される。
入射X線
θ
θ
θ
θ
回折X線
nλ
θ
θ
d
d
図 3・3
結晶による X 線の回折
19
3.4
結晶構造
3.4.1 結晶
結晶とは原子から成り、その原子が 3 次元空間において周期的に同じ様式を繰り返す
ような配列を取っている固体と定義されるものであり、気体や液体ではなりえない形を
持っている。しかしながら、どんな固体も常に結晶であるとは限らず、実際にはガラス
のような非晶質(amorphous)な状態で規則ある原子配列していない場合や、多結晶が
それに当てはまる。
そこで図 3・4・1 の単位格子(unit lattice)を使って結晶系を表す。単位格子のある点を
原点として a、b、c 軸をとり、ab,bc,ca 軸がなす角をそれぞれα,β,γとする。
この時の各々の長さ(a,b,c)およびそれらの角(α,β,γ)が単位格子の格子定数(lattice
constant)となる。またこの単位格子の長さ、角度に特定の値を入れると、考えうる結
晶系は立法(cubic)、正方(tetragonal)、斜方(orthorhombic)、斜方面体(rhombohedral)、
六方(hexagonal)、単斜(monoclinic)、三斜(triclinic)の 7 種類となる。
c軸
c
γ
α
b
b軸
β
a
a軸
図 3・4 単位格子
20
3.4.2
ミラー指数
結晶は図 3・4・1 のような単位格子で原子と原子の間に存在する面を考えた時、幾つ
かの面を見ることができ、この面によっては原子間距離が異なる。したがって結晶の面
内の性質は、異なる面間で差があり、これがデバイス特性にも方向依存症が出てくる。
その面を区別する際に用いられるのがミラー指数で、以下のようにして求められる。
1. 結晶の単位胞の適当な軸(通常は 3 軸)を座標軸とし、特定の面とこの座標軸の
交点を、格子定数を単位として求める。
2. その逆数をとり、3 組の数の比を一定にして最小の整数の組み合わせとして求め
る。
3. その組み合わせを h,k,l とすると(hkl)が1つの面に対するミラー指数となる。
図 3・4・2 に立方晶の主要な面のミラー指数を示す。
z
z
z
a
a
a
y
a
a
x
(100)
y
a
a
x
(110)
y
x
図 3・5 立方晶におけるミラー指数
21
a
a
(111)
次にミラー指数を示す際、括弧が違う場合がある。それはミラー指数が示す意味が軸
に対する場合や、面に対する場合などがある。以下にその意味を示す。
1. (h kl ) :X 軸の負側で交差している面。
2. {hkl} :等価な対称性を持つ面、たとえば立方対称では{100}は
(100), (010), (001), ( 1 00), (0 1 0), (00 1 ) すべてを表す。
3. [hkl ] :結晶の方向を示す。たとえば[100]はx軸方向を表す。[100]方向は(100)
面に垂直であり、[111]方向は(111)面に垂直である。
4. < hkl > :等価な方向にすべてを示す。たとえば<100>は
[100], [010], [001], [ 1 00], [0 1 0], [00 1 ] を表す。
また今回作製した酸化亜鉛は代表的な六方晶系であるが、この六方晶系は通常 3 つの
軸で表されるのに対し、さらに 1 つ軸が多いため、ミラー指数を 4 指数で示す場合があ
る。
3 本の軸で表わす方向指数を[UVW]、4 本の軸の指数を[uvtw]とすると、両者の関係
は以下のようになる。
U = u −t
u = ( 2U − V ) / 3
V = v −t
v = ( 2V − U ) / 3
W =w
t = −(u + t ) = −(U + V ) / 3
w =W
22
3.4.3
逆格子
逆格子はその多くの特性が、結晶格子の特性の逆であることからそのように呼ばれる。
結晶格子がベクトル a1 , a 2 , a3 で規定される結晶格子を持っているとしたとき、そこでそ
れに対応した逆格子は、ベクトル b1 , b2 , b3 で規定される。
1
(a2 × a3 )
V
1
b2 = (a3 × a1 )
V
1
b3 = (a1 × a2 )
V
b1 =
・・・・・・・・・・・・・(3−9)
・・・・・・・・・・・・・(3−10)
・・・・・・・・・・・・・(3−11)
V は結晶の単位格子の体積: V = a1 * a 2 × a3
また逆格子は次のような性質を持つ。
1. 逆格子の原点から hkl の座標の点に引いたベクトル Hhkl は、ミラー指数が hkl
であるような結晶格子面に垂直である。このベクトルは座標で、次のように表
される。
H hkl = hb1 + kb2 + lb3
・・・・・・・・・(3−12)
2. ベクトル Hhkl の長さは、(hkl)面の面間隔の逆数に等しい。すなわち、
H hkl =
1
d hkl
・・・・・・・・・(3−13)
これらから分かることは、逆格子の各点は結晶面に関係し、その面の面間隔と方向
を表している。
23
第四章
4 ・1
ZnO 薄膜の作製・準備
はじめに
本章では前章までで説明してきた電気化学析出の反応原理、装置原理を用いて実際
に ZnO 薄膜の作製とそのための手順を説明する。
4 ・2
作製機器・準備
[1].銅基板
今回 ZnO 薄膜を作製する際の作用極基板には 3cm×1cm の純度の高い銅基板を用い
た。特殊な表面処理加工を施していないため表面粗さがある。そういったことからも表
面自体には機械油などの油膜が付いている可能があり、析出する部分としない部分とが
あるので基板表面をアセトン、蒸留水を使い超音波洗浄機で各5分ずつ洗浄したものを
使用した。
[2].浴槽
実験に用いる電解浴槽は北斗電工株式会社(以下北斗電工)の一般実験用 HX−101
を使用した。これに蒸留水 200ml と、実験で決めた濃度の Zn(NO3)2(硝酸亜鉛[含水])
を 溶 か し 入 れ る 。 浴 温 変 化 さ せ る の に は SANSYO の SA-150H
HOTPLATE
STIRRER を用いて温度を上昇させた。また一定の温度に完全に保つことは非常に困難
であったため、実験で記載する浴温は±2℃の範囲で修正が付いているものとする。
[3].作用極
作用極は溶液中でガスを反応させるために白金板(線)を固定して用いているが、今回
の実験では常に銅基板を交換しなければならないため、北斗電工製 HX-C2 作用極の先
端をワニ口クリップにし、基板の脱着ができるよう工夫を施した。
24
[4].参照電極
析出に用いる参照電極(詳しくは 2.2 参照)は北斗電工製の HX-R2Ag/AgCl(銀/塩化銀)
電極を使用した。この電極は温度特性の良いものではあるが、直接電解浴中に浸すと構
造上参照電極内の KCl(塩化カリウム)が電解浴に溶け出してしまう。そのため北斗電工
製 HX-R2 に付属する受瓶に KCl を飽和させた蒸留水を入れ、その中に参照電極を取り
付ける。
下図が使用した飽和 KCl が入った受瓶と Ag/AgCl 参照電極 HX-R2 である。
図 4・1
Ag/AgCl 参照電極 HX-R2 と飽和 KCl を入れた受瓶(HX-101 付属)
25
[5].塩橋
図 4・1 の受瓶に入った参照電極で電解浴中の電位を正しく与えるために、塩橋とい
うものを用いる。
塩橋の半分に飽和 KCl 入りの蒸留水を、寒天を使って固める。実際に実験ではこの
反対側に電解浴中の溶液を引っ張り中間で接合する。こうすることで電解浴中に KCl
の汚染をほとんどさせないまま正確にポテンショスタットが電位を調整する。
下図が実際に使用した塩橋である。
図 4・2 塩橋(HX-101 付属)
26
[6] ポテンショスタット
ZnO 薄 膜 析 出 時 に 電 位 を 与 え る ポ テ ン シ ョ ス タ ッ ト に は 北 斗 電 工 製 HA-151
POTENTIOSTAT/GALBANOSTAT を使用した。
下図が実験に使用したポテンショスタットである。
図 4・3 ポテンショスタット HA-151
[7].その他
その他の ZnO 薄膜作製に必要な備品として、対極には白金線、水銀温度計を使用し
た。
27
4.3
ZnO 薄膜作製
4.2 で説明した機器と銅基板を使い、作製を行った。図 4・4 はその実験風景である。
図 4・4 電気化学析出法を用いた ZnO 薄膜作製風景(写真中央が電解浴槽)
28
4.4
作製条件
本実験の作製条件として、析出電位、モル濃度、浴温を変えて作製したもの、また同
様の条件で複数のサンプルを作製し、XRD、SEM で評価した。以下にその作製条件を
示す。
[電極電位変化]
サンプル数:7枚
析出時間:5 分
電位:−0.7∼−1.3[V]まで−0.1[V]刻みで変化
浴温:80℃(一定)
モル濃度:Zn(NO3)2
基板:Cu
0.1M(一定)
3cm×1cm
[温度変化]
サンプル数:7枚
析出時間:5 分
電位:−1.0[V](一定)
浴温:21℃∼80℃まで 10℃刻みで変化
モル濃度:Zn(NO3)2
基板:Cu
0.1M(一定)
3cm×1cm
[モル濃度変化]
サンプル数:7枚
析出時間:5 分
電位:−1.0[V](一定)
浴温:70℃(一定)
モル濃度: Zn(NO3)2
基板:Cu
0.01, 0.03, 0.05, 0.1, 0.15, 0.20, 0.50M の条件で析出
3cm×1cm
[再現性確認]
サンプル数:4枚
析出時間:5 分
電位:−1.0[V](一定)
浴温:70℃(一定)
モル濃度: Zn(NO3)2
基板:Cu
0.1M(一定)
3cm×1cm
29
第五章 測定結果および考察
5.1
はじめに
今回測定にあたっては、河東田研究室の XRD 装置、SEM 装置はいずれも日本電子
JDX – 3531
株式会社(JEOL)製
X-RAY DEFFRACTMETER、JSM-5410LV
SCANNING MICROSCOPE を用いた。
5.2
X 線回折測定結果および考察
サンプルの XRD 測定結果を図に示す。
10
20
30
40
50
Cu(220)
ZnO(103)
ZnO(110)
ZnO(102)
ZnO(101)
ZnO(100)
intensity
ZnO(002)
Cu(111)
ZnO(200)
まず、中間発表時に示した電気化学析出 ZnO/Cu 薄膜のピークを示す。
60
70
80
図 5・1 電気化学析出 2θ(deg)
ZnO/Cu 薄膜の特徴的スペクトル例
これは電気化学析出した ZnO 薄膜から得られる XRD スペクトルである。これを踏
まえたうえで、この後様々な条件で変化させたピークを比較する。このとき横軸2θ、
縦軸 intensity とする。
30
intensity
ZnO(004)
Cu(220)
ZnO(112)
ZnO(103)
ZnO(110)
Cu(200)
ZnO(102)
Cu(111)
ZnO(101)
-1.3[v]
ZnO(002)
ZnO(100)
析出電位を変化させて作製した ZnO 薄膜の測定結果を示す。
-1.2[v]
-1.1[v]
-1.0[v]
-0.9v]
-0.8[v]
-0.7[v]
10
20
30
40
50
60
70
80
2θ(deg)
図 5・2 電極電位を−0.7∼−1.3[V]まで変化させた時の XRD スペクトル
[考察]
このスペクトルから、析出電位を上昇させることによって ZnO の(002)面が際立って
成長することが分かる。このことから電気化学析出法を使って成膜される ZnO 薄膜は
強いc軸配向をすることがわかった。電極電位が上がるにつれて、同時に膜厚が増え、
銅基板上に堆積するため Cu のピークは次第に弱くなっている。これは電気化学析出で
成長させた ZnO 薄膜の XRD スペクトルの特徴で、諸論文[9]でも言われている。
ただ−1.2、−1.3[V]で析出した薄膜の XRD スペクトルを見ると、ZnO(100)、(101)
が−1.0[V]の時に比べても非常に強くなっていることが見て取れる。またその他
ZnO(103),(110),(112)なども現れ、やや c 軸配向が目立たなくなった。これと似たピー
クに ZnO 粉末のピークがある。薄膜を目視した時の表面の色も、−1.1[V]までは膜の
色はピンクがかった色をしていたが、−1.2、−1.3[V]になると明らかに白色になり、
膜も基板から非常に剥がれやすいものとなった。このことから電位を上昇していくと、
粉末 ZnO の特徴である白色へ変化し、その傾向として ZnO(100)、(101)など、(002)面
以外が成長していくことが分かった。
31
intensity
ZnO(004)
Cu(220)
ZnO(112)
ZnO(103)
ZnO(110)
Cu(200)
ZnO(102)
Cu(111)
ZnO(101)
0.50M
ZnO(002)
ZnO(100)
モル濃度を変化させて作製した ZnO 薄膜の測定結果を示す。
0.20M
0.15M
0.10M
0.05M
0.03M
0.01M
10
20
30
40
50
60
70
80
2θ(deg)
図 5・3 モル濃度を変化させた時の XRD スペクトル
[考察]
このスペクトルを見ると、モル濃度を変化させると 0.10M までは ZnO 薄膜の(002)
面が、濃度上昇とともに強くなり、c 軸配向することが分かる。0.05M では 0.1M とで
はほとんど ZnO (002)面のピーク強度と銅のピーク強度の比も変わらないことから、こ
の間の濃度であれば十分に ZnO 薄膜が作製できると考える。
大きな変化が見られたのは 0.15M を超える濃度の場合である。析出電位を変化させ
た時と同様に、ZnO の(100)、(101)など様々な面が成長を起こし、特徴であったc軸配
向も目立たなくなってしまい、膜表面を目視しても白色に変化をしていた。0.50M にい
たっては Cu のピークが再び上昇し、ZnO 薄膜のピークが弱くなった。
電解浴の温度変化させた作製した ZnO 薄膜の測定結果を示す。
32
ZnO(004)
Cu(220)
ZnO(112)
ZnO(103)
ZnO(110)
ZnO(102)
Cu(200)
Cu(111)
ZnO(101)
ZnO(002)
ZnO(100)
intensity
80℃
70℃
60℃
50℃
40℃
30℃
21℃
10
20
30
40
50
2θ(deg)
60
70
80
図 5・4 電解浴温度を変化させた時の XRD スペクトル
[考察]
このスペクトル見ると、温度上昇とともに ZnO 薄膜がより成長していくことが分か
る。40℃までは多少 ZnO 薄膜のピークと思われるものが現れるが、非常にその強度は
弱い。
しかし 50℃を越えるあたりから ZnO 薄膜の特徴的なピークが見られるようになり、
70℃、80℃では前、前々条件でも見られた ZnO 薄膜の(002)面のピーク強度同様、強い
c軸配向を示すようになり、目視でもはっきり分かるほどの膜が得られた。
33
ZnO(004)
Cu(220)
ZnO(112)
ZnO(103)
ZnO(110)
Cu(200)
ZnO(102)
Cu(111)
Sample d
ZnO(101)
ZnO(100)
intensity
ZnO(002)
最後にすべて同条件で作製した ZnO 薄膜サンプルの測定結果を示す
Sample c
Sample b
Sample a
10
20
30
40
50
60
70
2θ(deg)
図 5・4 析出条件をすべて同じにした時の XRD スペクトル
[考察]
ここで析出電位−1.0[V]、モル濃度 0.1M、浴温 70℃で作製条件を統一し、作製したサ
ンプルの XRD スペクトルを比較する。この比較は電気化学析出で得られる膜に再現性の有
無を確認する目的で行った。
スペクトルを見ると多少の強度に違いがあり、また Sample b においては ZnO(100)、(101)
が多少強く現れている。しかしどれも ZnO(002)面の強度が強いということや、Cu からの
強度なども同じことから、ほぼ同様の膜が得られたと考える。
34
80
5.3
SEM による表面観察結果および考察
下図が SEM による表面観察の結果である。画像については析出電位に変化を与えた
もののサンプル、XRD スペクトルで特にピークに変化があった濃度を変化させたサン
プル(0.15M 以上)の表面観察を行った。
下図の(a)~(g)の SEM 画像は析出電位を変化させたものの観察結果である。
(a)
(b)
50μm
(c)
(d)
35
10μm
(f)
(e)
(g)
図 5・6
析出電位を変化させた時の銅基板上の電気化学析出 ZnO 薄膜の
SEM 画像( (a)のみ倍率 20kv×350、その他 20kv×2000)
(a) −0.7[V]、(b) −0.8[V]、(c) −0.9[V]、(d) −1.0[V]
(e) −1.1[V]、(f) −1.2[V]、(g) −1.3[V]
[考察]
この表面観察結果を見ると、−0.7[V]から−1.0[V]まで変化をさせたときに表面の粗
さが少なくなっていき、それ以上の電位を与えると再び粗い表面になることが分かる。
析出の電位の違いで膜厚が違うため、−0.7[V]では表面にはっきり確認できる膜がつい
ていなかったが、それ以上の電位ではそれぞれ特徴がある膜になることがわかった。
36
下図の(a)~(d)の SEM 画像はモル濃度を変化させた時の観察結果である。
(a)
(b)
10μm
(d)
(c)
図 5・7 モル濃度を変化させた時の銅基板上の電気化学析出 ZnO 薄膜の
SEM 画像(倍率 20kv×2000)
(a)0.10M、(b)0.15M、(c)0.20M、(d)0.50M
[考察]
モル濃度を変化させた場合の SEM 画像を見てみると、先ほどの電位を変化させた場
合とは明らかに違った膜が得られたことが分かる。(a)は比較のために 0.10M を示した
が、電位を変化させた時と同じような膜質であったが、XRD でも大きな違いが見られ
た 0.15M 以上では表面の模様が電位を変化させたときのどれにも当てはまらないこと
が見て分かる。このことからモル濃度を硝酸亜鉛 0.1M 以上の溶液で析出を行うと著し
37
く膜表面の形状が変化することがわかった。
第六章 まとめ
6.1
結論
XRD、SEM の測定結果から分かったことをまとめる。
温度:
ZnO 薄膜を電気化学析出法で作製する際には最も重要であることが XRD スペク
トルから分かった。銅基板に確実に析出するには 50℃以上の温度が必要である。
また温度上昇と共に ZnO(002)面の成長が著しくなり、ZnO 薄膜の特徴である強
いc軸配向がより顕著になることがわかった。
析出電位:
どの電位でも ZnO 薄膜は析出されることが XRD スペクトルから見て分かる。
ただピークについてはかなりの違いがあり、作用極にかかる電位が低ければ同じ時
間析出しても同じだけの膜厚が得られないことが銅のピークと比較して分かった。
XRD スペクトルでは大きな違いが分からなかったが、SEM 画像から膜表面の形
状は電位を変化させると違ってくることが確認できた。特に−1.0[V]では膜表面に
はほとんど粗さがなかったが、その前後の電位で膜表面は粗くなることが分かる。
モル濃度:
大きな変化があったのは、0.15M 以上の濃度で析出したときであった。XRD ス
ペクトルから 0.10M までは ZnO(002)面の成長に変化があっただけであったが、
0.15M 以上となると電位を変化させた場合と明らかに異なることが XRD、SEM 画
像からわかる。濃度を濃くしすぎた場合、XRD では ZnO(002)面の成長が顕著に弱
い。目視でも白色に変化し、SEM で表面観察したとき、電位が高い場合と比べた
ときと明らかに違う膜質になっていた。
再現性:
今回は XRD スペクトルで再現性の有無を示した。条件を変化させた時には大き
い変化が見られたが、すべて同条件で行えばスペクトルから同じように成長した膜
が得られることが示され、再現性がある実験であることが分かった。
38
6.2
[1]
参考文典
逢坂哲彌・小山昇・大坂武男
著『電気化学法
基礎測定マニュアル』
講談社 [1995]
[2]
逢坂哲彌・小山昇・大坂武男
著『電気化学法
応用測定マニュアル』
講談社 [1995]
[3]
藤嶋昭・相澤益男・井上徹
[4]
早稲田嘉夫・松原英一郎
[5]
櫻井敏夫
[6]
松村源太郎
[7]
S・M・ジィー
著『X 線構造解析』
著『X 線結晶解析』
訳『新版
著
裳華房
X線回折要論』
技報出版
内田老鶴圃
[1994]
[1999]
[1992]
アグネ承風社 [2004]
南日康夫・川辺光央・長谷川文夫 訳
『半導体デバイス
[8]
著『電気化学測定法』
−基礎理論とプロセス技術−』
産業図書 [2004]
R.E.Marotti etc. 『Bandgap energy tuning of electrochemically grown ZnO thin
films by thickness and electrodeposition potential』
Solar Energy Materials & Solar Cells 82 (2004) 85-103
[9]
Masanobu Izaki etc. 『 Tranceparent zinc oxide films prepared by
electrochemical reaction』
Appllied Physics Letters 68 (17), 22 April 1996
39
6.3
謝辞
本研究は高知工科大学
電子・光システム工学科
成沢忠教授の指導の下で行われ
てきたものであります。成沢教授には本研究の遂行および本論文に関しての適切な助言
を頂きました。また本実験で研究のために様々なサポートを頂きました根引拓也助手、
成沢教授両名には深い感謝の意を表します。
本実験で最も重要な評価に必要だった XRD 装置、SEM 装置は同じく高知工科大学
電子・光システム工学科
河東田教授および、その研究室所属
吉田真悟くんには同じ
く卒業研究を行っている身でありながら装置の使用方法等をこと細かく教えていただ
き深く感謝いたします。
また電気化学析出の手法について岐阜大学
大学院工学研究科
箕浦秀樹教授には
ZnO 薄膜作製の際に必要な機材、材料、析出条件などのアドバイスを頂き深く感謝い
たします。
その他、私の学生生活を非常に有意義なものとしてくれた方々へ、ここで感謝の言葉
を述べたいと思います。本当に楽しい 4 年間をありがとうございました。
40