平成 17 年度 システムマネジメント工学科特別研究概要 ホームロボット用不可視マークの開発と食器の画像認識 ロボット・マイクロシステム研究室 シス 02-18 大成 絵美 (ただし C = cos , S = sin であり, f :カメラの焦点距離) 1. 研究背景・目的 知能ロボットの研究は 20 年以上行われている.しかし,実際にユーザが 購入して家庭に入って実用に至っているものは皆無である. 本研究室ではこれまでロボットの認識が必用とされる環境や対象物に,マ ークとして再帰型反射シートを利用し環境改変を行ってきたが,このよう なシートは人間にとって心理的負担が大きいため,マークは人間の目に見 えないことが望ましい.本研究では人間の目には見えずロボットにのみ見 えるマークを付与してマークを抽出し対象物の 3 次元位置姿勢認識システ ムの構築を目的とする. 2. システムの概要 紫外線のみ反応する無色透明な塗料 を用いて食器等にマーキングを行う. これに紫外線を照射させれば,不可視 マークシステムが構築される.(図 1) 昨年までは皿のエッジに 4 点マーク を塗っていたが,4 点マークを画像上 で認識するのは技術的に難しいため, 本研究では皿の縁全体に塗られた塗料で対 図1 システムの概要 象物の位置を把握し,RFタグに格納され た半径などの情報によって 3 次元位置を認識することを考える. 3. 赤外線反射剤による効果 赤外線反射スプレー“PhotoBlocker”を 食器の縁に吹き付けて不可視マークと カメラの画像から得られる ( x, y ) が式(1)を満たすよう に最小二乗法を用いてカメ ラパラメータである l , m, n, C11~C33 をキャリブレ ーションする.(図 8) 5-3.相似を用いた方法 図9はカメラと皿の関係図で ある.この図からわかるよう にカメラと皿の距離Lとい うのは,皿の傾きには関係な く(3) 式のようにして求められる. 図 8 カメラと食器の位置関係 また,角度θは図 9 より(4)式のよ うになる. rf .......... (3) a 1 L2 − r 2 f tan( cos −1 ) = b.....( 4) 2 ( L2 + r 2 ) 2 − 4 L2 r 2 sin θ L= 6. 食器の位置精度実験 前述した2つの手法がどの 程度の誤差を持っているか 調べるためにそれぞれ次の ようなシミュレーションを 行った. 4 点マーク法ではエッジ を 40 分割してCCDチップ 図 9 カメラと食器の位置関係 上の理論点を最小二乗法によって楕 円当てはめを行う.そこで得た角度を元の角度と比較し,それを誤差とす る. 相似を用いた方法ではL,r, aは既知とした上で角度を変化させたとき, その角度を(4)式に代入することにより,b(短軸)の値も当然変化する.こ のとき求められた b の値と既知としてある a(長軸)を用いて,cos-1(b/a)でそ れぞれθを求める.そのθと元の角度を比較しそれを誤差とする.それぞ れの誤差を調べると以下の図のようになった. して利用できないか考えた.図 2,図 図 2 赤外線照射前 図 3 赤外線照射後 3 は実際のナンバープレートに PhotoBlocker を吹き付けたものである. これ に赤外線を照射すると,わずかながら文字 は見えるが反射率は良い.そこで,このス 図 4 赤外線照射前 プレーを食器に適用できるかどうか皿の縁 に吹き付けて確かめたところ,(図 4,図 5) 皿の中央が反射してしまい,不可視マーク としては効果が得られなかった.このこと 図 5 赤外線照射後 より,PhotoBlocker は不可視マークには向いて いないことがわかる. 紫外線照射前も肉眼で見える 4. 紫外線反射塗料による効果 6 5 2.5 4 点マーク 誤差(mm) 3 l=1000,r=80,f=16 相似 1 10 20 30 40 50 60 70 シミュレーション 4 点マーク 2 1.5 1 0.5 相似 l=1000,r=80,f=16 0 0 80 90 角度(°) 10 20 30 40 50 60 70 80 90 角度(°) 図 10 2 つの手法による角度の誤差 図 11 2 つの手法による距離の誤差 4 点マークを用いた方法と相似を用いた方法とでは, それぞれ 3 次元位置 認識に向いている一面とそうでない一面を持っている. 上の結果からもわかるように,この 2 つの方法を 3 次元位置認識に生か すには, 角度は常に相似を用いた方法を適用し, カメラと皿との距離は55° より小さい角度では相似を用いた方法を,55°より大きい角度では 4 点マ ークを用いた方法を適用する.これによって,より誤差の影響を受けなく て済むと考えられる.このことに基づいて,プログラムを新たに作り変え, 2 つの手法を融合させたプログラムを用いた際の食器の位置精度実験を行 った結果を以下に示す. 表 実験結果 実験結果 計測値 角度(°) 約 33.0 33.6(+0.06) カメラと皿の距離(cm) 約 97.0 98.12(+1.12) 7. 結論・今後の課題 食器に付与した紫外線に反応する無色透明なマークを画像処理により抽 出し 2 つの手法を融合させた新たなシステムによって食器の 3 次元位置を 精度良く求めることができた.今後の課題として,エッジの端が多少切れ ても画像処理できるようなシステムの検討や,近紫外線が人間の体に与え る影響などを検討した上,小型で強力な赤外(紫外)線を用いた認識シス テムを実際にホームロボットに搭載することが必要となる. 確実にマークを認識させるために食器の縁に不可視マークを付与するこ とを考える.皿のような円形のものをカメラで撮影すると,そのエッジは 楕円形に写る.この楕円のエッジを抽出し,そのエッジの面積,重心座標, 慣性主軸のモーメント,長軸,短軸を求める.これら 5 つのパラメータを 初期値として用いて,最小二乗法で楕円を推定する. 5-2.4 点マークを用いた方法 4 点マークを用いた方法というのは,画像上での長軸の端 2 点,短軸の端の 2 点,合わせて 4 点の座標を 4 点マークとして扱う方法である.図 6 で示す ように,ある物体の重心座標に関して,カメラ座標系 Σ C に基づいた座標 ( x, y, z ) とワールド座標系 Σ W に基づいた座標 ( X , Y , Z ) との間の変換式は 以下のように表される. (1) C11 C12 C13 Cθ Cφ Cψ − Sθ Sψ − Cθ Cφ Sψ − Sθ Cψ Cθ Sφ C21 C22 C23 = Sθ Cφ Cψ + Cθ Sψ − Sθ Cφ Sψ + Cθ Cψ Sθ Sφ C C C − Sφ Cψ Sφ Sψ Cφ 31 32 33 3 2 5-1.楕円の推定 f (C11 X + C12Y + C13Z + l ) x = C31 X + C32Y + C33Z + n y f (C X + C22Y + C23Z + m) C X + C Y + C Z + n 21 32 33 31 3.5 シミュレーション 4 誤差(°) 不可視マークとして適用できる紫外線反 射塗料としては,図 6 のトクヤマ化学の塗 料よりも図 7 のオー・ジー(株)の塗料のほ 図 6 トクヤマ化学の塗料 うが効果があるということがわかった.ト クヤマ化学の塗料は,紫外線を照射するとはっきり 縁がピンクに発色 とした変色が見られるが,元に戻るのに時 間を要する.一方オー・ジー(株)の塗料は, 紫外線照射前は完全に無色であり,約 2 秒 程度ではっきり変色する. 図 7 オー・ジー(株)の塗料 また使用する光源としては紫外線量が微 量であるキセノンフラッシュランプよりも,ブラックライト(400W)の方 が強力であるため,紫外線光源として適している. 5. 食器の画像認識 a 長軸,b 短軸 (2) -15- 平成 17 年度 システムマネジメント工学科特別研究概要 信号強度を利用したホームロボットへの RF タグの応用 ロボット・マイクロシステム研究室 管 03-3001 黒田 友美 1. はじめに 36mm ロボットによって食器の後片付けを行う 場合,食器を認識・把握することが必要と ボタン電池 なる.食器の縁のみを紫外線照射により浮 28mm かび上がらせ画像処理を容易にする研究が 本研究室で行われている(本年度大成氏特 件の成果) .食器の半径が既知であれば,食 アンテナ 器の位置と姿勢が縁の画像から求められる. 図1 IC タグ 本研究では,この半径の情報を食器に取り アンテナ 付けた RF タグによりロボットが知ること 55mm ができるようなシステムの開発を目的とす る.本研究では電池を内蔵して十数 m の交 39mm 129mm 25mm 信が可能なアクティブ RFID タグを使用す る.これまでの RF タグを使用した研究は, 図2 無線モジュール タグ内に書き込まれた情報を利用するもの が主流であった.本研究ではこの他に,信号強度の情報を利用することによ り,RF タグまでの大まかな距離を得て,画像内における食器とタグとの対応 付けを正確にとることにする. 2. RF システムの概要 使用する RF システム(ワイマチック社製,AYID32305)は,小型 RF タグ(図 1)と無線モジュールから成る.無線モジュール内では PIC によりタグの ID 番 号の識別が行われる.この識別結果は,無線モジュールと PC を RS232C で 接続することで,PC が把握できる.ID 番号と食器の情報(半径,種類,どこ を把持すれば良いか等)を予め対応付けておけば,食器の情報を取得するこ とが可能となる.本研究では無線モジュール内の RF 受信 IC の信号強度端子 (RSSI 端子)から信号を取り出せるように改造を行った.この信号は AD ボ ードを介して PC で読み込むことが可能である. 3. 信号強度による IC タグの遠近の判別 IC タグが信号を送信した際に得られる信号強度は,IC タグと無線モジュー ル間の距離が長くなるにつれて弱くなる傾向が見られる.このときの信号強 度は図 3 と図 4 のようになる.図 3 は 0~180°まで 30°毎のライン上 0.1 ~0.5m までの 0.1m 毎の地点において,タグをある角度に固定して設置し, 信号強度を計測した結果である.ランダムに 100 ラインを採り,タグの角度 もランダムに振った(あるライン上ではその角度は固定した) .図 4 は 90° 600 図 3,図 4 のグ 800 ラフの曲線は, 各ラインごと 700 の信号強度を 500 累乗近似した ものである. 400 500 信号強度(mV) 信号強度(mV) 600 400 のライン(無線モジュールに対して正面)上で 0.1~0.5mまでの 0.1m 毎の 地点において信号強度の計測を行い, この1セットの計測を約 10 分おきに計 100 回行った結果である.これらの実験条件を図5に示す.図3よりあるラ イン上でタグがある角度に固定されていれば,距離の増大に従って信号強度 は減少することがわかる.しかしながらラインの方向により信号強度に差が あることがわかる.図4より,時間による信号強度の変化は,前記方向によ る変化よりも少ないことがわかる. 4. 三角測量 1つの無線モジュールでは同等の 距離にあるタグを識別することがで A B きない.このため図6に示すように 遠 遠 2 つの無線モジュールを使用して, 近 近 粗い三角測量を行うことにより,タ ② ① グがロボットに対して左右どちらに あるのかの判定が可能となる.すな わち画像上の食器とタグの対応付け 図6 無線モジュールを2個使用のとき が可能となる. このような三角測量が可能となる ためには,前記した方向による信号強 度の変化が小さいこと,すなわち信号 強度が無指向性であることが大前提と なる.図3より既存の1本の棒状アン 図 7 ヘリカルホイップアンテナ テナでは無指向性が実現できていない. そこでヘリカルホイップアンテナを採用し,これを作製した(図7) .これに より同じ距離では方向によらずほぼ同じ信号強度が得られた(データ省略) . 5. 信号強度を用いた RF タグと画像処理を併用した食器の認識と把握 5-1. RF タグの情報と信号強度の対応付け タグが信号を発信してから PC がタグの ID を取得するまでには,主に RS232 通信の遅れに起因して時間遅れが生じる.この時間遅れをあらかじめ見積も っておき,得られた ID と AD コンバータにより取得される信号強度(これは 発信と同時刻)との対応付けを行っている. 5-2. 食器と遠近の対応付け IC タグが取り付けられた食器は,それぞれ半径や高さが異なる.例えば高 さが異なる 2 つの食器(湯飲みと皿)が図 8 のように置かれていたなら,カ メラ上で縁だけを見れば同じ距離にあるように見え(図 9),各食器と遠近の 対応付けが難しくなる.そこで既に述べた信号強度を用いた三角測量(図 6 参照)により,画像上の物体と ID との正確な対応付けを行う. 5-3. 食器の位置姿勢の計算と食器の把握 ID と食器の情報との対応付けの例を表 1 に示す.これより食器の半径が把握 できるので,縁の情報から楕円当てはめと4点法(または相似法)により食 器の位置姿勢を計算することが可能となる(本年度大成氏特研の成果) .また 表1よりどのような種類のハンドを用いてどの位置を掴めば良いか(湯飲み なら掴み型ハンドで側面を,皿なら掬い型ハンドで縁を掴むのが良い)がわ かるので,食器の把握が容易に行えるようになる. 6. 結論と今後の課題 信号強度を用いることでRF タグからのID と画像上の物体との正確な対応付 けを行う手法を提案した. 今後実験により本提案手法の有効性を確認したい. 300 300 図 11 図 10 200 画像処理で縁だけをみたとき 食器が配置された状態 200 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0 距離(m) 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 距離(m) 図 3 IC タグの距離と信号強度 ID 1 2 図 4 IC タグの距離と信号強度 0° (一定の方向で測ったとき) 30° (ランダムな場所で測ったとき) 無線モジュール 0.3m 0.1m 表 1 IC タグに持たせる情報 食器 高さ 把持部 ハンド 皿 低い 側面 掬い易いハンド 湯のみ 高い 縁 掴み易いハンド 半径 80mm 45mm 60 ° 0.4m 90° 0.2m IC タグ 0.5m 図 12 ハンドが食器を掴む様子 180° 120° 図 5 計測条件 150° -16- 平成 17 年度 システムマネジメント工学科特別研究概要 力覚センサを用いた双腕ロボットによる物体のハンドリング ロボット・マイクロシステム研究室 シス 02-33 坂本 恵莉 1. はじめに 現在,様々な研究機関でロボットの研究が盛んに行われている.本研究 では特に双腕ロボットのハンドリングに焦点を当て,実験を行った. ロボットアームを 2 台用いて人間のような作業を行う双腕ロボットのメ リットとしては,主として片手では持ちにくい物体の把持,または重量物 のハンドリングが可能などが挙げられる.さらに,2 台にすることで作業の 分業化を図ることができ,片方のアームが作業側の補助を行うことによっ て作業時間の短縮につながる.本研究では双腕ロボットを用いたペットボ トルの開作業の実現を目的としている. ③把持側を回転 図 4 開作業実験の様子(把持側回転) 2. システムの構成 4. 力覚センサを用いたコンプライアンス制御の研究計画 以下に,全システムの構成をとロボットハンドを示す. 4.1 コンプライアンス制御 全体のシステム構成 としては 2 台の 6 自由 度アーム型ロボット (川崎重工業株式会社 製)を使用している. 双腕協調作業を行う場 合,互いの位置を確認 して衝突回避を行わな ければならない.そこ で, 2 台の制御用コンピ a)把持用 ュータを LAN でつな ぎ,ソケット通信を行 っている (図 1) . 現在, 図 1 全体のシステム構成 ロボットに位置指令を 図 1 全体のシステム構成 与える場合には RS-232C を用いているが,将来的にはリアルタイム軌跡修正を行い,より 高い位置制御の実現を目指している. ツメ ④フタを外す 2 本側:25×20×80[mm] 1 本側:10×20×100[mm] コンプライアンス制御とは,拘束空間においては手先効果器の位置姿勢 だけでなく環境との間に発生する相互作用力を考慮に入れ,望ましい機械 的柔軟性(コンプライアンス)を与えるものである.本研究の現在の機構 (図 5a)とコンプライアンス制御(図 5b)の比較を以下に示す. ロボットフランジ ロボットフランジ フタ a)把持用 b)コンプライアンス制御 図 5 ダンピングの様子 コンプライアンス制御にはいくつかの制御方法があり,スティフネス制 御(位置目標値を外力に比例させる)とダンピング制御(位置目標値を外 力の積分によって補正する)を複合拡張させたものがインピーダンス制御 である.インピーダンス制御は f = 0 のとき,以下のように示される.ま ref た,添字 ref は目標値を, f ext は外力を表す. xref = ( s 2 Mˆ + sDˆ + Kˆ ) −1 f ext …(1) Mˆ , Dˆ , Kˆ ∈ R n×n :指定慣性,粘性,剛性行列 START バネ リアルタイム制御開始 ロボットフランジ ロボットフランジ 制御でバネ とダンパを 与える ペットボトル a)現在の機構 こ の部分 に フタを はめる フレーム フタ ペットボトル オープナ 60×60×40[mm] 電動ハンド 機構でバネ を与える no b) 開作業用 目標座標ある 図 2 ロボットハンド yes 開作業用ハンドはペットボトルオープナー(株式会社ダイイチ製)を使 用し,これに面取りを施したフレームを取り付けバネで支える構造になっ ている.また,把持作業用ハンドは 3 つ指のハンドを使用している. 目標座標を与える サンプ リング タイム 16 [msec] 力の情報を受信 3. 双腕協調作業実験 人間が双腕で作業を行った場合には把持側は固定している時よりも回転 させた方が作業時間は短縮される.そこで本研究では開作業時に,把持側 を固定させた場合と開作業の逆方向に回した場合で作業時間の比較を行う ことにした.なお,作業時間は原点位置姿勢から動作を始め,作業完了後 再び原点位置姿勢に戻るまでの時間を計測した.その結果,作業にかかる 時間はそれぞれ把持側を固定させた場合は平均 85.6[sec],開作業の逆方向 に回した場合は平均 80.3[sec]であった.よって,把持側は単に固定するだ けでなく回転させることにより作業時間の短縮につながることがわかった. したがって,単腕で作業するよりも双腕で作業を行った方が作業を効率的 に行うことができるといえる.以下に,開作業実験の様子を示す(図 4) . コンプライアンス制御の計算 リアルタイム軌跡修正 リアルタイム制御終了 STOP 図 6 コンプライアンス制御の流 コンプライアンス制御を 行うためには,リアルタイ ム軌跡修正ならびに力の 情報が必要不可欠となる. 左図にフローチャートを 示す(図 6) .なお,現在, 使用している OS は Red Hat Linux8.0 であるが,リ アルタイム軌跡修正を以 前行っていた時は MS-DOS を用いていたた め,Linux でリアルタイム 軌跡修正が行えるように 現在準備をしている.リア ルタイム軌跡修正には VME バスアダプタ(株式 会 社 ソ リ ト ン シ ステムズ製)が必要である. 4.2 力覚センサ 力覚センサ(ビー・エ ル・オートテック株式会社 製)においても,以前使用 し て い た 時 の OS は MS-DOS であったため,新たに Linux で使用で きる状態にした.DIO ボード(株式会社インタフ コントローラ ケーブル ェース製)より力覚センサに外部クロック信号を 与え,その周期に合わせて力覚センサより送られ てくる力の情報を読み,その力の情報を用いて計 力覚センサ 算を行うことにより X,Y,Z 方向にかかる力の 大きさとトルクを知ることができる. 図 7 力覚センサ 5. 結論 ①ペットボトルを把持する 本研究では,RS-232C を用いたティーチングによる双腕でのペットボト ルの開作業を行うことができた.また,双腕による作業の有用性について 実証することができた. ②オープナーをはめる -17- 平成 17年度 管理工学科特別研究概要 ART Linux によるスカラ型ロボットの制御システムの構築 管 01-33 北村 宗淑 ロボット・マイクロシステム研究室 4. 研究背景および目的 本研究では,過去 MS-DOS,RT-Linux によりスカラロボッ トの制御を行ってきた.Linux は,Windows とは異なり,ソ ースが公開されている.また,RT-Linux や ART-Linux など, リアルタイム処理に必要なカーネルが無償で入手できるとい う特徴を持っている.図1にリアルタイム処理の概念図を示 す.RT-Linux では実時間タスクがカーネル空間に存在するた めに,プログラムにバグが存在するとシステムがフリーズす る.このような危険性をなくすために実時間タスクがユーザ 空間で行える ART-Linux を使用して,システムを構築するこ とを目的とする. thread1 main thread2 (main) タイムシェアリング DO 処理 A サンプリングタイム スカラ型ロボット サンプリングタイム 処理 A 処理 A 制御用 PC 割り込み開始 a)MS-DOS(タイマ割り込み) 図1 2. DI b)Art-Linux(スレッド) タイマ割り込みとスレッドを用いたリアルタイム処理の概念図 図4 改造したシステム 5. シ ス テ ム 構 スカラロボット パーソナルコンピュータ 成を図 2 に示 C 言語ソフトウェア モータ制御 す.コントロー 指令値計算 原点だし処理 ラ付属の MPU アラーム処理 ボードを取り DA カウンタ D I O 外して,そこに ボード ボード ボード 自作の中継ボ エンコーダ モータ 原点信号 駆動電力 信号 ードを挿入し, スカラロボッ サーボアンプ モータ制御 モータ駆動 トやサーボア 速度制御 指令値 電力計算 ンプなどで使 自作 エンコーダ ボード 信号 用する制御信 回転角計算 アラーム 号を,PC とや 信号 アラーム処理 り取りできる ようにした.PC 図 2 ロボット制御システム 側には DA ボー ド,カウンタボード,DIO ボードを挿入した. 3. ロボットコ ントローラ 図5 ART-Linux によるシステム DA カウンター 自作による中継ボード 原点だし 第 1 軸と,2 軸はマルチ原点方式が採用されている.ホー ムの信号の ON/OFF と z 相の立ち上がりを DIO ボードによっ て検出し,z相を検出した位置での関節角度を求めて,第 1 軸の関節角を 90[deg],第 2 軸の関節角を 0[deg]の位置に移動 させた.第 3 軸はシングル原点方式で求め,z 軸方向に-10[mm] 移動させた. 6. PTP 制御と CP 制御 各軸のエンコーダの値と 順運動学により,スカラロ ボットの先端の位置情報を 求めることができる.ロボ ット先端を目標座標に移動 させたい場合,逆運動学を 用いて各アームの関節角度 θ1,θ2 を計算し,位置決め する.逆運動学の解は 2 通 り存在するが,右手姿勢の み採用する.x座標,y座 標を初期位置(0,550)か ら目標位置(0,400)まで 移動させたときの時間とθ1, θ2 の関係を図 6,7 に示す. また CP 制御により円軌道 をロボットに描かせた結果 を図 8 に示す.サンプリン グタイム 2ms ごとに次の目 標座標を与えることによっ て軌道制御を行っている. PIC を使用した中継ボードの作製 以前研究室で作製した中継ボードでは,標準ロジック IC を 使用していたが,今回は図3に示すように,IC の個数を減ら すために一部 PIC(型式 16F84)を使用した.動作クロック は RC 発振回路により4[MHz]に設定している.PIC に,スカ ラロボットから出力されるアラーム信号がひとつでも入力さ れると Hi(5V)が出力される.この電圧を DIO で検出する ことでエラーを確認している.また,アラーム信号が出力さ れていない状態で,DIO ボードから MPC,DBC,EMBC の信 号 Low(0V)が出力されると主回路電源が ON になり,ダ イナミックブレーキ,メカニカルブレーキが解除される. アラーム信号 アラーム信号 7. 2 1.5 1 0.5 0 0 図6 1000 2000 時間[msec] 3000 時間とθ1 の関節角との関係 2 1.5 1 0.5 0 -0.5 0 1000 2000 3000 時間[msec] 図7 時間とθ2 の関節角との関係 395 385 375 365 355 345 335 325 315 305 y座標[mm] 処理 A θ1軸の間接角[rad] 割り込み開始 システム構成 図4にシステムの外観写真を示す.MPU ボードで行われて いた制御は図5に示す中継ボードを介して PC で行う.各ボ ードは I/O が公開されているので,汎用入出力ドライバを使 用した.I/O ポートからボードの設定や値の入出力を行う. DIO ボードにより,ブレーキ解除,各軸のサーボオンを行う. カウンタボードからエンコーダのパルスを読み取り,各モー タの角度を得る.このデータに基づいて PID 制御則により速 度指令電圧を計算し,DA ボードを介してこれをモータのサ ーボアンプに与えることにより速度制御を行っている.OS として RedHat9.0 を用い Art-Linux によりシステムをリアルタ イム化している. θ2軸の間接角[rad] 1. -45 図8 0 x座標[mm] 45 円を描いたときの座標 結果と今後の課題 ART-Linux によるシステムの構築ができた.マルチ原点方 式の原理を用いて作成した,C 言語によるプログラムを使っ て原点出しを行い,PTP 制御を用いた目標座標までの移動と, CP 制御による円の軌跡をスカラロボットによって実行した. 今後は視覚と力覚の情報を用いて,ピンの挿入を行う.また, 動いている物体に対してもピンの挿入ができるような方法を 考える. PIC PIC b)PIC a)標準ロジック IC 図 3 アラーム信号の検出回路 -18- 平成17年度 システムマネジメント工学科特別研究概要 遺伝的アルゴリズムとニューラルネットを用いたロボットの逆運動学解法 ロボット・マイクロシステム研究室 シス02-81 1.研究の背景および目的 丸山 淳一 中間ユニット20,出力ユニット1の3層NNを使用し,学習アルゴリズ 工場などで使用されているロボットアームに特定の作業を行わせ る場合,ロボットの構造特性や,組み立て誤差などが原因でアームの 正確な内部モデルが未知であるため一機ずつに対してティーチング ムはSuperSAB則を採用した.教師データは図4のように間隔0.1[m]の 格子状に交わった計87点とした.学習経過を表す誤差曲線を図5に示 す.横軸は,繰返し学習回数を,縦軸は各教師データにおける出力値 誤差の平均値を表す.10万回学習後の最終的な関節角θ1,θ2の平均出 力誤差は0.011[rad],0.012[rad]であった. を行わなければならない.アーム制御でいう内部モデルとは,各関節 角に対する手先位置の関係をもつ順モデルと,その逆の関係をもつ逆 モデルとの総称を指す.もしロボットアームのような未知システムの Y 内部モデルを得られれば,それを用いてシステムのフィードフォワー 1[m] 10 平均誤差[rad] ド制御を行うことができるため,作業内容を変更する度にティーチン グなどを行う必要がなくなる. また,内部モデルの獲得は人間が運動学習により新しい技能を獲得 平均誤 差θ1 1 0 20000 40000 60000 80000 100000 平均誤 差θ2 0.1 0.1[m] するまでのプロセスをモデル化することにも繋がる.人間が身体モデ 0.01 ルを学習する方法を理解することで,ロボットの内部モデル獲得にそ 1[m] れを利用できる可能性がある.そのような考えから提案された内部モ 学習回数 X 0.1[m] 図4 教師データ デルの学習手法は多数あるが未だに一般化には至っていない. 図5 誤差曲線 5.3次元立体空間上の3自由度逆運動学学習 そこで本研究では,遺伝的アルゴリズム(GA)とニューラルネット 続いて図6のような立体空間上の3自由度アームの逆運動学の学習 を行った.アームのリンク長はL1,L2共に0.5[m]に設定した.NNは 図7,8のように複数使用し,64分割した動作領域毎に学習を行った. (NN)を組み合わせた新しい逆モデル学習法を提案し,これを用いて2 次元平面上の2自由度アーム,3次元立体空間上の3自由度アームの逆 運動学問題を適用例を示すことで本手法の有効性を検証した. 2.遺伝的アルゴリズムとニューラルネットによるシステムの 逆モデリング NNによりシステムの逆モデリングを行うためのアルゴリズムがい くつか提案されている.代表的な手法として,順逆モデリングとフィ 学習後の検証として,逆モデルNNを用いて楕円軌道描写を行った. 図9,10に作業領域を分割せずに学習を行った場合との軌道誤差とを 比較して表した.図9の濃線は目標軌道を,薄線は出力軌道を示す. 図10の横軸は各目標点を番号付けした時の目標点番号を,縦軸は各目 標点での誤差ノルムを表している. ードバック誤差学習則がある.前者はNNにより学習された順モデル Z から対象とするシステムのヤコビ行列を推定し,システム出力の誤差 Z 指定領域でのみ成り立 つNNを分割した数だ け作成する θ3 を入力誤差に変換してNNの重み学習を行う.後者はフィードバック 制御器で出力誤差を推定することによってNNの重み学習を行う.両 O ることや正確な教師信号が得られず学習ができない場合があること など重要な問題も抱えている. 2 1 Y θ1 X 本研究で提案する新しい逆モデル学習法について説明する.まず, 0.25[m] θ2 者のアルゴリズムは有効であると言われているが,学習に時間がかか 図6 Y 1[m] 3自由度ロボット X 図7 作業領域の分割 図1のような方法でNNを用いてシステムの順モデルを学習させる.そ の後,この順モデルを用いて逆モデルを学習する.以下にその処理手 順をフローチャート形式で表す.(図2,3) [1]目標位置の入 力 順モデルの学習 ・ ・ ・ [2-0]遺伝子個体 の生成 誤差信号 [2-1]遺伝子情報 を各関節角度に変 換 図1 [2-2]各関節角度 を順モデルに入力 し手先位置を計算 順モデル [2']目標位置に対 するNNの出力値を 計算 2.5 2-3 2-4 遺伝的アルゴリズム 適合度が十分 高いか? 2-5 2 領域全体 誤差ノルム 1.5 領域分割 誤差ノルム 1 0.5 + 誤差信号 3 0 - 0 1 10 ・ ・・ [3]GAにより求めら れた各関節角度とNN の出力値との差を教 師信号として学習 逆モデル学習フローチャー 図3 20 目標点番号 30 40 図9 各目標点での誤差 2' 逆モデルの学習 図2 楕円軌道描写結果 2-2 評価器 2-1 (b)領域分割学習 図8 順モデル学習システム ・ ・・ [2-3]手先位置と 目標位置との誤差 から適合度を算出 し評価 (a)領域全体学習 システム 誤差ノルム[cm] [2-4]交配,淘汰 処理を経てより適 合度の高い個体を 生成 + 6.結論と今後の課題 逆モデル学習システ この手法はGAにより正確な教師信号を作成しているため,順逆モデ GAとNNを用いた新しい逆モデリング手法を提案し,数値シミュレ リングの教師信号のように局所最小解に陥ってしまい,学習が行えな ーションにより2自由度,3自由度逆運動学問題を学習可能であるこ とを確認した.今後はより誤差が小さくなるよう学習能力の高い NNの開発をしていく.また,解が無数に存在する冗長性を有する くなるという問題を解決している. 4.2次元平面空間上の2自由度逆運動学学習 本提案手法を用いて2自由度逆運動学の学習を行った.2自由度アー ムの各リンク長L1,L2はともに0.5[m]に設定し,関節角の可動範囲の 制限は無視している.逆モデル学習には関節角毎に入力ユニット2, アームの逆運動学問題に本提案手法が適用可能か検証していく. -19- 平成17年度 管理工学科特別研究概要 強誘電体基板とポリマーを用いたマイクロ加速度センサの開発 ロボット・マイクロシステム研究室 管01-37 熊谷 1. 研究背景および目的 本研究室では,構造材にパリレンを用 いた静電容量型加速度センサの研究を行 なっている.開発中のセンサでは,マス 部分の変動により静電容量が変化し,加 速度を検出している.静電容量C[pF]は C = ε S (S:電極面積 d: d パリレン製 プルーフ・マス 8 5 縞状 電界 d αd 3 2 1 l b 特長2 εrの大きさ パリレン→εr=3.15 バルクPZT→εr=2600 C= ε0S 1 i d 1−α + α ε= ε0ε0 誘電体 ε=ε0 Air 図2.計測原理の定性的確認 シミュレーション 結果 4 強誘電体基板 (e.g.バルクPZT) Acceleration L ε=ε0 Air 誘電体 ε=ε0 パリレン加速度センサ 6 フリンジ 電界 電極間距離 e:比誘電率) h 裏側 W Mass より求めることができる. t Beam m=ρWLt このセンサでは現在,加速 Displacement 櫛歯電極 ρ=density 度を検出できるがセンサ として感度があまり良い 特長1 浮動体側(プルーフ・マス)をPZTにすることは とはいえない.センサの マイクロマシニング工程上困難である.従って基 感度を高くする手段の一 板をPZTとし,浮動体の底面に電極を作製するこ つとして,より比誘電率 とを提案. の高い誘電体を用いるこ 図1.基板を強誘電体とした加速度センサ とが挙げられる.開発中 のパリレン加速度センサはパリレンの比誘電率(εr:3.15)を利用して いた.本研究では比誘電率が高いバルクPZT(εr:2600)を利用する. センサの概観を図1に示す.本研究は高感度の加速度センサを作製す ることが目的である. 2. FEMLAB(有限要素法)による静電容量解析 電極 バルクPZTを基板とした加速度センサ 7 電極 将 静電容量[pF] 9 f (α ) = 1−α + α 0 1 2 3 4 5 電極と基板間距離[μm] 図6.電極と基板距離の静電容量変化 3.作製プロセス 加速度センサの作製するための簡易プロセスを図.7に示す. PDMS ① α-Si PZT 断面図 上面図 Parylene Al 1μm ④ Si 5μm <1μm ② ⑤ 0.5μm ③ ⑥ 図7.プロセスフロー (1) ①PDMSをスピンコートしバルクPZTを貼り付け ②犠牲層Siにスロット,バンプをパターニング ③パリレンを蒸着することでパッドの下敷きをXeF2ガスから保護 ④Alをスパッタし,櫛歯電極を作製 ⑤パリレンを蒸着し,プルーフ・マス,ビームをパターニング ⑥犠牲層SiをXeF2ガスでエッチングし,構造体をリリースする 4.バルクPZTの貼り付け εr 1 0 (2) εr ε0:空気の誘電率(=8.85x10-12F/m) εr:誘電体の比誘電率 ε :誘電率(=εr ε0) d :電極間距離 S :電極面積 α :誘電体占有率 Siウェハ 購入したバルクPZTは約1cm角のサイズ であるため,その状態で表面マイクロマシ ニングを行なうことは非常に困難である. バルクPZT そのためバルクPZTをSi基板に貼り付ける 10mm ことを考えた.PDMS(ポリジメチルシロ キサン)をSi基板上にスピンコートし,バ 10mm ルクPZTを貼り付けることで接着剤とし て機能した.実際に貼り付けた様子を図8 に示す.PDMSは硬化させると有機溶媒に PDMSスピンコート条件 侵食されないためウェットエッチングが STEP1: 5s,500rpm STEP2: 30s,3000rpm 可能となる.また ベイク:10min,150℃ 接着と関係の無い 図8.バルクPZTの貼り付け アライメント 箇所に塗布された PDMSを除去する 櫛歯拡大図 ことを考えた.理 由として,設計し 10mm たマスクにはバル クPZT上にアライ 10mm 図9.アライメントイメージ メントマークが設 図10.作製中のセンサ(x20) 計されていないた めである(図9参照).現在プロセスを進めている(図10参照). 5.低温陽極接合実験 感度の向上を目指すためにはセンサのパッケージングが考えられる. そこで本研究室の陽極接合装置で接合の実験を行なった.しかしパリ レンを構造材に使用しているセンサではパリレ Siウェハ ンの融点が280℃であるため低温による接合が必 要とされる.そこで旭テクノガラスのSWシリー ズを接合に用いたところ300℃での接合に成功し Swシリーズ た.(図11参照)従来のパイレックスがNa+イオ ンを利用しているのに対してSWシリーズは低温 でもイオンが活動するLi+イオンを利用している. 図11.接合イメージ 6.結論と今後の課題 FEMシミュレーションによりバルクPZTを基板とした加速度センサ の感度が良いことを証明することができた.また,現在センサを作製 中である.今後の課題は解析により求めた結果と比較し,実際に作製 したデバイスの評価を行なう必要がある.また,より感度を上げるた めにセンサパッケージングによるプロセスの考案が必要である. εr=2600 計測原理を図2に示す.縞 f(α) εr=50 状電界の様子をストレート 50 εr=2600 状の電界に置き換えること εr=50 40 εr=3.15 で計測原理の定性的確認を 30 行なった.静電容量C[pF]は 簡易モデルによる (1)式より求めることができ, 理論計算 20 (2)式は占有率と誘電率の関 10 εr=3.15 係を表している.図3の結果 0 より,誘電体の電解を占め 0 0.2 0.4 α 0.6 0.8 1 る割合が1に近づけばその 図3.占有率と比誘電率の関係 誘電体の比誘電率に近づく. このことから比誘電率が高いほど静電容量が大きくなることがいえ る.実際,加速度により縞状の電界をプルーフ・マスが上下に可動し た静電容量の変化を定性的に確認することはできない.そこで本研究 では実際のモデルを想定で w=g=5 w:電極の幅 きるFEMLAB(有限要素法)を g:電極間距離 用いて解析を行なった.モデ Air εr=1.0 3(g+w) ル図とシミュレーション条 件を図4に示す.図5に電界の パリレン εr=3.15 w/2 g w 4μm 様相を示す.パリレンの比誘 電率を利用した加速度セン 0V 5V 0V h: gap Air サとバルクPZTの比誘電率を バルクPZT εr=2600 利用した加速度センサを比 2(g+w) 較するため結果を図6に示す. メッシュ:6916 nodes :13668 elements 電極と基板の距離が1μm以 下においてパリレン加速度 図4.シミュレーション条件 センサの静電容量変化が緩 やかなのに対し,バルクPZT を基板とした加速度センサ の静電容量は著しく変化し ていることがわかる.このこ とから比誘電率の高いバル Electrical field クPZTを基板にすることで, Electrical potential より感度の良いセンサを作 図5.シミュレーション結果 製できるといえる. -20- 平成17年度 システムマネジメント工学科特別研究概要 PZT薄膜の開発とマイクロ超音波センサへの応用 ロボット・マイクロシステム研究室 シス02-16 内田裕也 1時間攪拌させて,鉛を少し溶かす PVP ポリビニルピロリドン PVPが溶けるまで約2~3時間攪拌させる n Zr(OC3H7 )4+n-C3H7OH TPZR i Ti(OC3H7 )4 チタンテトライソプロポキシド CH3COCH2COCH3 アセチルアセトン アセチルアセトンが溶けるまで攪拌させる モル比 秤量値 Pb 1.1 5.1g Ti 0.47 1.87g 22 24.31ml 2-メトキシ エタノール TPZR 0.53 3.25g 0.5 0.72ml アセチル アセトン PVP 1 1.56 PZT溶液 図1 PZT溶液作成手順 (211) (111) (100) intensity (110) 表2 PZT薄膜製膜条件 3. PZT薄膜の作製 5[s] スピンコート 500[rpm] ゾルゲル法は,PZT溶液をスピン 3000[rpm] 60[s] 120[℃] 10[min] ベーク コーターによってウェハに塗布し, 350[℃] 10[min] ベークを行うことによって成膜 650[℃] 10[min] する方法である.表2にゾルゲル法の条件を示 す.成膜プロセスとしてはSi基板にPt/Tiを スパッタしその上に PZTを成膜した.こ のときのウェハ表面画像を図2に示す.下部 電極スパッタをする前に希フッ酸洗浄とアッ 図2 PZT薄膜表面画像 シングを行なうことでピンホールを防ぐこ 左:ピンホール有り とができる.これより,ウェハ表面にクラ 右:ピンホール無し ックのないPZT薄膜の作成に成功したこと (1回成膜)×50 が分かる.膜厚は,1回のコーディングで クラック・ピンホールが 約0.3[µm]塗布することが出来た. ないことが分かる. 4. PZT薄膜の評価 (1) X線回折による結晶構造評価 図3にX線回折結果 を示す.装置は薄膜X 「去年の木村氏によるデータ」 線装置を使用している PZT ため,Ptのピークは出 Perovskite ない. 測定結果として,ペロブ スカイト相の配向を表 す回折線が観察された. ペロブスカイト相は原 子配列上,特に強誘電 20 30 40 50 60 70 80 性が強い.強誘電体は 2θ/deg(Cu,Kα) 必ず圧電性も示す. 図3 PZT薄膜X線回折結果 (2) 強誘電体特性の評価 強誘電体とは,自発分極をもち,外部から比較的大きくない電解 を加えることでその自発分極の向きを反転できる誘電体である.そ して,外部電解をゼロにしても残っている分極を残留分極といい, この分極をゼロにするのに必要な電界を抗電場という.残留分極が 大きく,抗電場が小さい方が圧電特性が良いと言える.測定方法と [µC/cm2] Pb(NO3)2 硝酸鉛 して,作製したPZTの上面にステンレスで作製したマスクを用い, φ200[µm]の上部電極(Pt)をPtコーターにより堆積させ,印加電圧を 加えて分極率を計測した.今回は下部電極をスパッタする装置を一 元のDCスパッタから三元のDCスパッ タに変更し,ヒステリシス曲線を測定 した.その結果を図4に示す.ターゲ ットを交換する際に真空を切る必要が ないため三元のDCスパッタを用いる ことでTiの酸化を防ぐことができ, 一元 良い膜をスパッタすることができる. 三元 強誘電体特性は理想的なヒステリシ ス曲線を示しており,残留分極Psは15 抗電場[kV/cm] ⇒20[µC/cm2]という高い値に変化し 図4 PZT薄膜強誘電体評価 検出された.しかし,抗電場Ecは,50⇒59[kV/cm]と高い値への変化 を示しており,こちらは良い値とはいえない.しかし,曲線からも 分かるように横軸への変化に比べ縦軸への変化のほうが大きく,曲 線が立っているので問題はないと考えられる.また,誘電率は670 ⇒1080という比較的高い値を示した. 表3 作製溶液と既製溶液の比較 表3に一元のDCスパッタ装置を 残留分極 1. 研究背景および目的 圧電性とは,外力を加えると電荷を発生したり,逆に電圧を加える と変形する性質である.圧電性を持つ圧電材料として,チタン酸ジル コン酸鉛(PZT(Pb(Zr0.53,Ti0.47)O3))が挙げられる.マイクロマシンでは, ダイアフラムやカンチレバの上に数[µm]の比較的厚いPZT膜を堆積 することが望ましい.ゾルゲル法によってPZT薄膜を堆積させるが, PZT薄膜を作製する際,クラックの無い厚い膜を1回のスピンコート で作製するのは非常に困難である.1回のコーティングの際に,堆積 する膜厚は通常0.1[µm]以下と小さく,薄い膜を複数回堆積すると厚 膜のPZT薄膜を作製できるが,多くの労力と時間がかかってしまう. 本研究では,PZT溶液を作成し,その溶液を用いてPZT圧電薄膜をゾ ルゲル法によって成膜する.そして,1回のコーティング膜で膜厚を 厚く成膜し,圧電薄膜の特性評価を行う.またPZT圧電薄膜を応用し, マイクロ超音波センサを作製する. 2. PZT溶液の作成 本研究で用いるPZT溶液は,関西大学先端マテリアル工学科 幸塚 広光 教授により開発されたものを使用する.その特性は1回のコーティング で比較的厚い膜を得られることである. 図1にPZT溶液の作製手順を示す.この中で使われている溶液PVPは 既製品より厚いPZT薄膜が堆積できる.また,薬品調合量を表1に示 CH3OC2H4OH す. 2-メトキシエタノール 表1 PZT溶液調合量 下部電極 残留分極 抗電場 用いた場合と三元のDCスパッタを (kV/cm) (µC/cm2) 用いた場合との下部電極の違いに 15 50 一元のDCスパッタ 20 59 三元のDCスパッタ よるPZT薄膜の特性評価の比較し た. 5.成膜時のガスによる残留分極・抗電場の変化 PZT薄膜成膜時にガスを導入することで残留分極・抗電場がどのよ うに変化するのか測定した.表4からも分かるように最終ベークが窒 素雰囲気中で成膜した薄膜が一番大きな残留分極を示している.抗電 場は普通にベークするとき変わらないので窒素を最終ベークに導入 することが一番膜の性質を向上させることが分かった. 表4 PZT薄膜と成膜時の導入ガス 試料 普通 最終ベーク酸素 最終ベーク窒素 全ベーク窒素 最終ベーク窒素後に酸素 膜厚(µm) 0.33 0.38 0.31 0.34 0.31 残留分極(µC/cm2) 11.3 5.1 15.3 6.6 13.7 6.超音波センサの作製 図5に作製したプロセスを示す. :Pt Pt/Ti :Si :SiO2 5) 1) 2〕 :レジスト 6) 図6 3) 4) 抗電場(kV/cm) 49.4 47.1 51.0 37.2 56.0 :PZT 400[µm] 上部電極のパターン 7) Si SiO2 8) 図5 超音波センサプロセス ×25 1400[µm] 図7 ダイアフラムのパターン 1)ウェハに酸化膜を堆積 2)下部電極(Pt/Ti)をスパッタ後にPZT薄膜を成膜.PZTエッチン グ用パターニング. 3)PZTエッチング 4)上部電極リフトオフ用のレジストをパターニング後,上部電極ス パッタ. 5)上部電極リフトオフ. 6)表裏をレジストでコーティングし,酸化膜をエッチング. 7)STS-ICPを用いダイアフラム作製. 8)レジストを除去し完成. 7.今後の課題 PVPを配合した溶液を用いて,ゾルゲル法により比較的膜厚が厚い良好 な圧電特性を持つPZT薄膜の作製に成功した.また,導通や下部電極の剥 離といった問題点を改善し超音波センサを作製することができた.今後は 超音波センサの感度を向上させるため下部電極や上部電極を共に独立さ せアレイ型でセンサを作製することが課題となる. -21- 平成 17 年度 システムマネジメント工学科特別研究概要 圧電ナノワイヤを用いたマイクロアクチュエータの開発 ロボット・マイクロシステム研究室 管 01-74 戸川 英哉 1. 研究背景および目的 まず,ZnO とグラファイト粉末を混ぜて,ボートの上に乗せ,炉の奥に 近年,人間型ロボットやペットロボットが注目されているが,これらを 入れる.次に Au と Si を成膜した基板を炉の中に入れる.グラファイト粉 実現するためには生物の筋肉に匹敵する優れたアクチュエータが必要とな 末は ZnO の還元剤として使用し,これらで炉内に ZnO 蒸気を作る.炉を っている.情報機器,生命科学,材料科学といった科学技術分野における 850~950℃の高温にして Ar ガスを流すことによって,基板上に Au-Si 合金 マイクロ・ナノ化の進行においても,アクチュエータ技術の必要性は高度 を作製し,その場所に ZnO 蒸気が与えられることによって Au-Si 合金を乗 化かつ多様化している.本研究では圧電性を持つ ZnO ナノワイヤの作製と せたまま ZnO ナノワイヤが VLS 成長する. 5. アクチュエータ作製プロセス それを応用したマイクロアクチュエータの開発を目的とする. 2. VLS成長機構 ① VLS 成長とは,不純物による成長促進 Si 蒸 気 Si n anow ire ⑦ Al Si 機構の一種であり,物質が気相,液相, Si蒸 気 Au- Si 合金液滴 SiO2 ②三元スパッタで Pt/Ti を堆積し,リフトオフする ② ⑧ ③Pe-CVD でα-Si を堆積し,パターンニングする Pt/Ti 固相(Vapor,Liquid,Solid)の順序で変化し て成長するのでこの名称で呼ばれてい ③ Si ④真空蒸着装置で Au を蒸着させ,リフトオフする ⑨ ⑤炉て ZnO ナノワイヤを成長させる る.一般的な VLS 成長は図 1.1 のように S i基 板 不純物(Au-Si)の液滴に Si 蒸気(気相)を 図 1.1 Si ナノワイヤ ④ ⑥SOG を塗布し,パターンニングする ⑩ ⑦三元スパッタで Al を堆積させ,パターンニング 相),不純物と基板との間に析出する(固 ZnO蒸気 ⑤ 相).この原理によって Si ナノワイヤが Au-Si 合金液滴 Au 与えることで,その中を Si が拡散し(液 ZnO蒸気 ZnO nanowire ⑧下部の酸化膜を RIE でエッチングする 成長する.本研究では図 1.2 のようにこ ⑥ ⑩上部の酸化膜を RIE でエッチングする 図7 プロセス図 ナノワイヤを成長させ,圧電アクチュエ ⑪ICP で Si をエッチング する 6. 炉の条件出し ータの作製を行う. 3. 圧電アクチュエータ動作原理と有限要素法による解析 炉を用いて ZnO ナノワイヤを成長させる際に,必要な炉内の温度を均一 圧電材料には,図 2 のように電圧を加 にするための条件出しを行った.以下に設定温度とその時の温度分布を示 えると伸縮する逆圧電効果がある.この す.条件出しは目標温度 850,900,950℃で行い,その時の N2 の流量を 1ℓ 原理を応用し,図 3 のように Si カンチレ /min で行った.また,温度分布は熱電対を用いて測 表 1 設定温度 バーの上に圧電体である ZnO ナノワイヤ 図 2 逆圧電効果 ⑨TMAH で Si をエッチングする SOG ZnO 蒸気をあたえ,圧電性を持つ ZnO Si基板 する ⑪ ZnO nanowires の原理を応用して Si 蒸気の代わりに 図 1.2 ZnO ナノワイ 設定温度[℃] load center source 835 806 829 891 858 877 939 911 927 目標 温度[℃] 850 900 950 を成長させ,圧電体に電圧を印加させる ことで伸縮させ,それに伴いカンチレバ 製する. 温度(℃) 次に,図 3 のようなカンチレバーが ZnO ナノワイヤの伸縮によってどの 程度たわむのかを調べるため,有限要素法解析ソフトウェア(ANSYS)によ るシミュレーションを行った.シミュレーションを行ったモデルは Si カン 図 4 変位図 60 50 40 30 20 10 0 10 20 30 40 50 901 951 950.5 850 900 950 849.5 899.5 949.5 37 52 35 40 45 50 55 949 33 取り出し口からの位置(cm) 38 43 48 取り出し口からの位置(cm) 図 8.2 目標温度 900℃ 図 8.3 目標温度 950℃ る.解析の結果,ZnO ナノワイヤに電圧を である.また,成長に必要な膜厚は 30~100Å と非常に薄く,それらの膜 印加することによって伸縮し,カンチレバ 厚を得るための条件出しを行った.α-Si 堆積には Pe-CVD 装置を使用し, ーの先端が確かにたわむことがわかった. 条件は圧力 0.8Torr,HEATER300℃,堆積時間 1min で実験を行い,パラメ また,カンチレバーの幅,長さ,厚みを固 ーターとして電圧,SiH4 流量を変化させた.電圧を変化させた時の膜厚を 定し,電圧のみを変化させると図 5 のよう 表 2 に示す.結果として,電圧を変化させることによる膜厚の減少は 100 に比例の関係を得ることができた.この結 Å程度であり,得たい膜厚を得ることができなかった.次に,電圧を 10W 果より,このアクチュエータは電圧によっ に固定し,SiH4 流量を変化した時の膜厚を表 3 に示す.流量を変化させる て変位を制御することが可能であると考え ことによる膜厚の減少は大きく,得たい膜厚を得ることができた.よって, ることができる.また,これらの解析の結 本研究では,上記の固定条件の他,電圧 10W,SiH4 流量 25sccm で約 90Å 果で最もたわんだ条件は幅 250µm,長さ の膜厚の α-Si を堆積させる. 表2 電圧を変化させたときの膜厚 電圧[V] 5 10 25 50 膜厚[Å] 268 284 340 380 し,構造体を考え,アクチュエータのプロセスを作製した.また,予備実 ZnO ナノワイヤ center 25 50 100 93 141 284 提案した.そこで,有限要素法による解析でアクチュエータの動作確認を Au-Si 合金 source 流量[sccm] 膜厚[Å] 本研究では,ZnO ナノワイヤを利用した圧電マイクロアクチュエータを ZnO load 表 3 流量を変化させた時の膜厚 また,α-Si 堆積後に Au を真空蒸着装置で蒸着させた.条件は到達真空 度 5×10-3Pa,電流 29A で 30~100Å の成膜を行った.この基板を用いるこ とによって ZnO ナノワイヤを成長させることができると考えられる. 8. 結論と今後の課題 Ar ZnO粉末とグラファイト粉末 の混合物 基板 center 47 7. α-Si堆積とAu蒸着 ZnO ナノワイヤのVLS 成長には不純物になるためのα-Si とAu が必要 った.図 4 は解析を行った結果の一例であ ZnO ナノワイヤの作製には以下の図 6 のように炉を用いて成長させる. source 42 取り出し口からの位置(cm) 図8.1 目標温度850℃ 図 5 電圧を変化させた時の変位 プロセスとフォトマスクの設計を行った. 4. 炉によるZnOナノワイヤの作製 Ar 899 849 わみは約 0.2µm である.この結果を用いて, 電圧[V] 温度(℃) 温度(℃) 900.5 850µm,厚みが 50µm の時で,その際のた 0 以内であり,均一な温度分布が得られている試料取 850.5 もので行った.また ZnO の厚みは 2µm であり,電圧を 5~50V 印加して行 変位[nm] を成長させる時に置く基板の位置は目標温度±0.5℃ 851 チレバーのサイズが幅 100~250µm,長さ 100~850µm,厚み 50~100µm の 圧電d定数(10-12C/N) d31 d33 d15 -12 12 -4.7 定した.以下のグラフより,実際に ZnO ナノワイヤ り出し口から 42~52cm の場所にセットする. ーの先端が上下するアクチュエータを作 図 3 動作原理 ①酸化炉で Si 基板に酸化膜を成膜 験として,α-Si と Au の成膜実験を行った.今後は炉を用いて, ZnO ナノ load ワイヤを成長させる実験を行い,これを使用した圧電マイクロアクチュエ ータを作製し,その特性を評価することが課題である. 図 6 ZnO ナノワイヤ作製 -22- 平成 17 年度 システムマネジメント工学科特別研究概要 ポリマーの熱膨張・収縮を利用した2自由度マイクロアクチュエータの開発 ロボット・マイクロシステム研究室 管 01-73 遠山 薫 変位[μm] 20 1. 研究背景および目的 横方向へ変位 縦方向の変位 変位[μm] 20 横方向へ変位 縦方向の変位 変位[μm] 20 横方向へ変位 縦方向の変位 15 15 15 10 10 10 5 5 5 0 0 日本はこれから高齢化と少子化が急速に進んでいくと考えられ,人間共存 型の知能ロボットの研究開発が不可欠となっている.すなわち,私達が日常 生活を営んでいる普通の空間で多様な作業を補助し代行するロボットの開発 を実現するために,筋肉のような「柔らかさ」や「大きな発生力」をもつ機 0 400 600 800 0 0 1000 幅[μm] チュエータの開発を目指す. 800 1000 0 200 400 600 800 1000 厚み[μm] (e) 幅1000μm,厚み100μm (f) 幅1000μm,長さ100μm 300µm のときに,(d)における横方向の変位は長さ 300µm のときに最も変位 熱アクチュエータとは,発熱体に発生した熱を膨張体へと伝達することに 量が大きくなった. この結果の要因としては,どちらの場合も発熱させた電 より,熱膨張が起こり,それが機械的エネルギーと変換することにより駆動 極ともう一方の電極との距離が近すぎると,温度差が生じず変位が小さくな する装置である.本研究では,発熱体としては抵抗率が高く温度上昇しやす ってしまうためであると考えられる.また,逆にその距離が大きいとそれだ い NiCr を選んだ.膨張体には,人工筋肉に匹敵する性質を得るため,熱膨張 け構造体の剛性が高くなり,変位しにくくなると考えられるからである.な 率が高く,ヤング率が小さい,つまり柔らかい PDMS(ポリジメチルシロキサ 発熱体 お,全条件について解析を行った結果,前述の二つの条件が最適条件となっ ン)を選んだ.発熱する 発熱 た.以下にその条件における変位量をまとめる.この条件を含め,幅や長さ 極板の組み合わせによ 表 1 最適条件 り,縦と横の 2 自由度 変化方向 縦方向 横方向 の変位を獲得できるこ 横方向への変化 幅[µm] 100 300 ①Si ウエハに酸化膜を成膜. 熱アクチュエータのモ ②DC スパッタにより下部極板用 デル,および動作原理 縦方向への変化 NiCr 堆積,リフトオフ. を示す. 図1 動作原理 ③三元スパッタにより,Al 堆積,パ 3. 有限要素法(ANSYS)による解析 ターニング. 作製しようと試みるアクチュエータが極板の発熱によりどの程度の変位を ④PDMS 堆積. 得られるか,変位量がどのような条件により大きく変化するかを知るため, ⑤DC スパッタにより上部極 有限要素法によるシミュレーションを行った.有限要素法ソフトウェアとし 板用 NiCr 堆積,リフトオフ. ては ANSYS を用いた.解析方法としては,極板の温度が 100℃まで上昇し ⑥三元スパッタにより Al 堆積. たときの横,縦方向の変位について,アクチュエータの幅,長さおよび 厚み ⑦ICP による PDMS エッチング. を変化させて伝熱-構造解析を ⑧BHF で酸化膜(裏側)をエッチング. 行った.結果の一例として変位 ⑨TMAH で Si をエッチング. の分布図を図 2,図 3 に示す. 図 5 プロセスフロー これより縦方向,横方向どちら l×b×h =1000µm×200µm×100µm 13.40µm 図 2 横方向の変位分布 も確かに先端ほど変位量が大き NiCr 極板作製において,当初は真空蒸着装置により,NiCr を成膜しようと 考えていたが, 蒸着中に NiCr ワイヤを支えるタングステンボードが溶けてし 解析方法として,変位の変化傾 まった.NiCr の融点約 1400℃に対しタングステンの融点が約 3400℃である 向を知るため幅,長さ,厚みの ので, おそらく NiCr が解け始めたときにタングステンとの合金ができてしま うち 2 つを固定し,残りの 1 つ い,極端に融点が低くなったことが原因であると考えられる.このため Cr を 100µm,200µm,300µm, ターゲット上にNiCr 板(300×110×1mm)を乗せDC スパッタを用いて堆積を 500µm,700µm,1000µm に変化 l×b×h =1000µm×200µm×100µm 行った.その後リフトオフにより極板をパターニ させて解析を行った.変化させ ングし顕微鏡で撮影したものを図 6 に示す.その たパラメータと変位との関係を 1.05µm 8.27µm 図 3 縦方向の変位分布 変位[μm] 20 ときの条件として,電流 0.3A,電圧 600V,到達 図 4 の(a)~(f)に示す. 横方向へ変位 縦方向の変位 15 15 10 10 10 5 5 5 真空度 4×10-5Torr で 30min スパッタを行った.そ の後,膜厚計測を行ったところ約 2600Åであった. 変位[μm] 20 15 ⑩BHF で酸化膜(表側)をエッチング. 5. NiCr 極板作製 くなっていることがわかった. 1.80µm ォトマスクの設計を行った. 図 5 にプロセスフローを示す. た. 図 1 に作製する 膨張体 (Polymer) 製できるよう,プロセス,フ 4. 作製プロセス NiCr極板を4つ配置し 発熱体 の異なるアクチュエータを作 長さ[µm] 厚み[µm] 変位量[µm] 1000 300 17.90 1000 100 18.15 とを期待しているため, 発熱 横方向へ変位 縦方向の変位 600 は単調減少となることがわかる.しかし,(c)における縦方向の変位は厚みが 2. 熱アクチュエータについて 変位[μm] 400 図 4 パラメータと変位の関係 図 4 の(a)~(f)を見ると,ある条件の場合以外は変位が単調増加,あるい ー材料とマイクロマシーニングによる熱エネルギーを利用したマイクロアク 20 200 長さ[μm] (d) 長さ1000μm,厚み100μm 械システムの開拓が望まれている.この 2 つの要素を追求するため,ポリマ 膨張体 (Polymer) 200 横方向へ変位 縦方向の変位 図6 NiCr 極板 これは極板としては妥当な値であると考えられる. 6. 結論および今後の課題 有限要素法解析により,適当なアクチュエータの大きさ,およびそのとき の変位量を知ることができた.また,その結果をもとにフォトマスクのデザ 0 0 0 200 400 600 800 1000 幅[μm] (a) 長さ100μm,厚み1000μm 0 0 200 400 600 800 1000 長さ[μm] (b) 幅100μm,厚み1000μm 0 200 400 600 800 1000 イン,プロセスフローの設計を行った.NiCr 極板作製までプロセスを進めた 厚み[μm] が, 今後は熱アクチュエータを作製しその特性を評価することが課題である. (c) 幅100μm,長さ1000μm -23- 平成 17 年度 管理工学科特別研究概要 蚊の穿刺行動の観察とそのマイクロ穿刺冶具への応用 ロボット・マイクロシステム研究室 管 01-45 1. 研究背景および目的 酒井 雄亮 6. 穿刺冶具作製プロセス 近年医療の現場において,低浸襲的治療が望まれている.そこで本研究 Si ウェハ(厚さ 1mm)をドライエッチングして穿刺冶具の鋳型を作成す 室では,マイクロランセット作製にあたり痛みを与えずに吸血を行う蚊の る.そのプロセスを図 9 に示す.作製した鋳型を図 10 の金型にセットし 吸血機構を参考する.本研究では蚊の穿刺のメカニズムに針をうまく刺す て射出成形で穿刺冶具を作製する.現在フォトマスクの設計が終了した段 要因があるのではないかと考え,それを解明することを目的とする.また 階である. 蚊の穿刺の際,穿刺部に張力を与えるというメカニズムを参考にしたマイ (d) Etching oxidize (a) Oxidize クロランセットの穿刺治具の作製を目的とする. 2. 蚊の穿刺行動の撮影方法 寒天 カメラ (b) Spin cothing (e) Etching silicon 蚊の穿刺行動の撮影を行った撮影装置を図 1 (c) Lothgraphy に示す.砂糖水を混ぜた寒天によって来た蚊を (f) Etching oxidize XY ステージ 撮影する. 図 9 鋳型作製プロセス 7.マクロモデルによる引張実験 図 1 実際の装置 3. 蚊の穿刺行動の撮影結果 図 10 金型の概要 OMRON 社のカメラを用いた撮影結果を図 2 に,KEYENCE 社のカメラ 冶具のマクロモデル(図 4 の 8 倍の寸法)を作製して評価を行った.実験 を用いた撮影結果を図 3 に示す.これより蚊は穿刺の際,振動を与えると 装置の模式図を図 11 に示す.冶具に分銅で荷重を加えて,発生するひずみ 下唇 共に,下唇はアンカーの役 下唇 目をし,皮膚に張力を与え を測定した.実験結果と解析結果を図 12 に示す.実験値は解析値の 1/7 倍 寒天 寒天 となっている.誤差の原因として,解析で与えているマクロモデルの冶具 上唇 上唇+小顎 て上唇と小顎を穿刺しやす の正確な物性値が分からなかったことが考えられる. くしているということを確 500µm 分銅 100µm 図 2 撮影結果(150 倍) 図 3 撮影結果(800 倍) 認することができた. ブリッジボックス 4. 蚊の穿刺行動を参考にした穿刺冶具の作製 マイクロランセットによる穿刺の際に張力を与える穿刺冶具の作製を行 マイクロランセット う.モデルを図 穿刺冶具 8.0 mm 取手部 4 に示す.材質 は PLA を使用し 扱いやすいよう 動ひずみ測定器 に取手部を付け、 冶具の足部と皮 実験値 10 20 30 40 50 60 図 12 ひずみと荷重の関係 与えない場合と与えた場合に必要な荷重を図13の装置を用いて実験的に求 めた.シリコンゴムへの穿刺実験は,ロードセルの表面に張力を与えたシ 図 4 穿刺冶具のモデル リコンゴムを貼り付け,ステージに取り付けたマイクロランセットをそれ 膚との摩擦を大きくするために冶具の足部をギザギザ形状にしている. に押し付ける.張力の大きさはひずみで考えるものとする.シリコンゴム 5. 有限要素法(ANSYS)による解析 に張力を与えた装置を図 14 に示す.シリコンゴムに糸を取り付けその一方 解析モデルと横方向の変位の変化を図5に示す. 張力の大きさは冶具の足部間のひず を固定し,もう一方を XY ステージにより伸ばす事により張力を与えた. みで考えるものとする.結果を図6, 冶具の足部の角度に比例してひ 穿刺実験の結果を図 15,図 16 に示す.これより張力を与えることで穿刺に ε:ひずみ ∆a ε= a 図7,図8に示す.解析結果から 必要な荷重は小さくなることが分かった.またひずみの値を 0.0625 より大 a:足部間の距離 きくしても荷重は下がらないことから,穿刺の際に必要な張力はもっと小 ずみが大きくなる.冶具の足部 さくても良いことが考えられる. の足幅が 0 [mm]のとき,ひずみはとても大きく,また足幅が大きくなるに 電圧 PC つれてひずみは収束していく.冶具の c の距離に比例してひずみが大きく なることが分かった. ロードセル シリコンゴム エンコーダ ロードセル XY ステージ 張力 マイクロランセット 8m 動作命令 解析モデルでは足部を 0.4 0.6 0.8 1.0 足幅 b [mm] ひずみ (x10-3) 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 1.2 間隔 c [mm] 図 7 足幅とひずみの関係 図 8 間隔 c とひずみの関係 -24- 50 50 40 30 20 10 0 穿刺 ひずみ = 0 穿刺荷重:約45gf ひずみ = 0.0625 穿刺荷重:約25gf 荷重 [gf] 図 5 解析モデルと水平方向の変位 荷重 [gf] に固定している. ひずみ (x10-3) ひずみ (x10-3) 2.5 5.0 2.0 4.0 1.5 3.0 1.0 2.0 0.5 1.0 0.0 0.0 0 10 20 30 40 50 60 70 80 0.0 0.2 角度 θ [deg] 糸 図 14 張力を与える装置 図 13 穿刺実験装置 ない.また足部は接触面 16mm ステージコントローラ PC ギザギザ形状にしてい 9m 図 6 角度とひずみの関係 70 荷重 [gf] マイクロランセットがシリコンゴムに刺さる際,シリコンゴムに張力を 足部間a 足幅b 解析値 0 図 11 引張実験装置 8. 張力を与えた状態での穿刺実験 ギザギザ形状 角度θ 200 175 150 125 100 75 50 25 0 PDMS 間隔c 1.5 mm ひずみ (x10-6) 冶具 ひずみゲージ 40 30 20 10 0 0 200 400 600 距離 [µm] 800 1000 図 15 荷重と距離の関係 9. 今後の課題 0 0.03 0.06 0.09 0.12 0.15 0.18 0.21 ひずみ 図 16 荷重とひずみの関係 張力を与えることで穿刺にかかる荷重が小さくなることが確認できた. 今後冶具の作製を行い,解析により求めた結果と比較すると共に,実際に 作製した冶具を用いて穿刺実験を行い評価する. 平成16年度 システムマネジメント工学科特別研究概要 モールディング法によるマイクロニードルの作製とFEM解析 ロボット・マイクロシステム研究室 シス02-22 1 尾関 祐樹 5 FEM解析(ANSYS)による穿刺時の応力分布 穿刺時の痛みとなりうる穿刺抵抗が,マイクロニードルの形状とど のような関係があるのかを知るため,FEMを用いて穿刺時の応力分布 を調べた.応力集中が生じるほど刺さり易いと言える.針の上部から 荷重1[g]を与えた場合のx(横方向に裂く)方向応力分布を図9,10に, ミーゼス応力分布を図11,12に示す.針の先端角度と太さを変化パラ メータとして与えた. 研究背景および目的 現在医療の現場においては,医療デバイスを小型・マイクロ化すると痛みが 低減するため,低侵襲的治療のため医療デバイスのマイクロ化が求められてい る.そこで,本研究室では生体内で分解吸収されるポリ乳酸(PLA)を使用した 医療用マイクロニードルの作製を行なってきている. 穿刺時の痛みとなりうる穿刺抵抗を減らすための最適な形状を有限要素法 (FEM)解析により明らかにし,針を作製することを目的とする. 2 鋳型作製プロセス ウエハにSiの異方性エッチングを利用してマイクロニードルの鋳型 を作製した.作製プロセスを図1に示す. SiO2(1μm) Siウエハ(1mm)を酸化 SiO2エッチング フォトレジスト レジストを塗布 リソグラフィ 150µm 120µm 太さ90µm Siエッチング 230µm 先端角度 -100 SiO 2 エッチング -80 -60 図9 図1 鋳型作製プロセス -40 -20 0 40 20 30度固定 60 80 [kPa] 太さを変化させたx方向応力分布 3 射出成形 実験における成形条件,金型の概要 を図2に示す.鋳型にPLAを射出成形す ることで針を作製している. 昨年度まで,厚さ500µmのウエハで 鋳型を作製し,それを金型にセットし て射出成形を行なってきた.しかし, 図2 金型の概要 射出後取り出したときに鋳型が粉々に 砕けている.本年度からウエハの厚さを1mmに変更したことで,ク ラックが生じる程度で粉々に砕けることは少なくなった. 3.1 射出成形プロセス ①プログラムに成形条件(充填圧力, 射出温度,型締圧力など)を 設定する.②金型に鋳型をセットし,型締めをする.③ポリ乳酸を入 れ,プランジャをセットする.④金型にヒータ,熱電対をセットし, チャンバに入れる.⑤プロセス終了後, 徐冷させ, 金型の型締めを 外し, 針を取り出す. 4 様々な形状のマイクロニードルの作製 ギザギザ形状の 鋳型は, KOHでピ ラミッドの形状に 200µm なるまでエッチン 200µm グを行い, TMAH 図3 ギザギザ形状 図4 ストレート形状 によるエッチング に切り替えること でピラミッド間をつ なげ,正確なギザギザ 200µm 200µm 形状を得るというプ ロセスで作製を行っ 図5 銛形状 図6 ギザギザ形状 た.また,TMAH でエッチングし続 け,ストレート形 状の鋳型も作製し 200µm 200µm た.これらの鋳型 を用いて作製した 図7 先端角度15度 図8 先端角度30度 針を図3,4に示す. 図5~8はKOHのみで約 表1 作製した針のサイズ 8時間エッチングを行なっ た鋳型を用いて作製した No. 形状 先端角度(deg) 太さ(μm) 90 230 1 ストレート 針のSEM写真である. 90 230 2 ギザギザ 表1に作製した針のサイ 90 127 3 ギザギザ ズを示す.先端角度につい 30 200 4 銛型 ては,異方性エッチングの 30 200 5 ギザギザ ため先が90度になってし 15 200 6 ストレート まう.45度を超える先端は 30 200 7 ストレート ほぼ同じような形状とな 45 200 8 ストレート った. 60 200 9 ストレート 75 200 10 ストレート 充 填 圧 力 は 1.5[MPa] に 90 200 11 ストレート 固定し,射出温度は針の形 状により最適な温度を実験から160[℃]前後を選び出し作製した. 30度 20度 角度10度 40度 太さ -100 -80 -60 -40 -20 0 20 40 150µm固定 60 80 [kPa] 図10 先端角度を変化させたx方向応力分布 150µm 120µm 太さ90µm 230µm 先端角度 0 200 100 300 400 500 600 700 30度固定 800 900 [kPa] 図11 太さを変化させたミーゼス応力分布 40度 30度 20度 角度10度 太さ 0 100 200 300 400 500 600 700 150µm固定 800 900 [kPa] 図12 先端角度を変化させたミーゼス応力分布 6 結論と今後の課題 FEM解析を用いた穿刺時の応力分布の図から,針は細く,先端角度 が鋭いほうが応力集中は生じやすいと読み取れる.また,先端角度を 細くするよりも太さを細くしたほうが,より応力が集中し易くなるこ とも分かる.これは,針の接触面積が小さいほうが応力は大きいから であると考えられる.ところで,皮膚の破断応力は約10[MPa]程度(出 典 : YAG レ ー ザ ー 研 究 会 http:// business1.plala.or.jp/forum/forum/ page020.html)である.今回の結果では1[g]の荷重を与えたが,まだ皮 膚を破断する応力には至っていないことが分かる. この結果より今後は,穿刺時に座屈しない程度の強度を持った,細 くて鋭い針を作製する必要があると考えられる. また,鋳型の作製で,ウェットエッチングではSiが異方性にエッチ ングされるため,先端部が必ず90度になってしまう.よって正確な先 端角度は得られない.この事から,今後は正確な先端角度を得るため のSiエッチングプロセスを考える必要があると思われる. 25 平成 17 年度 システムマネジメント工学科特別研究概要 レーザ加工による医療用マイクロストラクチャの作製 ロボット・マイクロシステム研究室 シス 02-9 磯野 裕一 1. はじめに 現在医療の現場においては, 痛みのない治療が求められている.低侵襲的 3. 毛細管現象による液面の上昇 毛細管現象とは,細い管状物体の内側の液体が管の中を上昇,下降する現象 である.表面張力,壁面のぬれやすさ,液体の密度によって液体の上昇する 高さはきまる.上昇する高さは(1)の式で表すことができる. 治療のために,麻酔をかけることや医療デバイスの小型・マイクロ化などを 行う必要がある.本研究室では, 生体内で分解吸収されるポリ乳酸(PLA)を使 h= 用して医療用マイクロ注射針の作製を行ってきた.この注射針に使われてい るポリ乳酸は,CO2 と H2O に分解されるので体内に残っても安全である.そ 2σ cos θ ρgd (1) h:液面の上昇高さ,σ:表面張力,ρ:液体の密度, g:重力加速度,d:管の直径,θ:接触角 こで,本研究では KrF エキシマレーザ(248nm)を用いて,ポリ乳酸で作製 したマイクロ注射針にレーザ加工を行うことを目的とする.エキシマレーザ は,さまざまな用途で使用されており,微細加工においても広く使用されて 4. 溝の場合の液面上昇 作製された針の先を液体(水,血液,レジスト)に付けると.ポンピング いる. 2. エキシマレーザによる加工 機能なしで毛細管現象により液体が溝を上昇するのを確認することができる. レーザ加工を用いてポリ乳酸で作製したマイクロ注射針をギザギザ形状に 図 5 に血液が上昇する様子を示す. 加工した.図 1 のように注射針をギザギザ形状に加工することは蚊の針を似 せるように作製している.ギザギザ形状にすることによって人間の皮膚に刺 すときに抵抗を減らすことができると考えられる. (a) 全体図 (b) 拡大図 60µm 1 回の加工条件 血液 加工径:20mm Energy:20mJ/pulse 9.5 s 4s 図 5 毛細管現象により上昇する血液 人の血液を吸った蚊の腹に溝を作製した注射針を刺すと,透明の液体と赤 パルス数::200 回 い血液の両方が溝を上げるのを確認することができる.図 6 に透明の液体と 0s 周波数:100Hz Pitch:20µm 図1 レーザ加工により作製したギザギザの針 血液が上昇する様子を示す.この結果,人間の皮膚に注射針を刺した場合, また,ポリ乳酸で作製したマイクロ注射針に溝や穴を加工する.この溝や 血液を採取することができ,そして分析する側に血液を運ぶことができると 穴は血液の採取,薬の注入(ドラッグデリバリーシステム)などに応用する 考えられる. ことができると考えられる.ポリ乳酸で作製した針はマイクロマシーニング 技術によって作製されている.しかし,溝つきの針や注射針の中央にアスペ クト比の高い穴を作製することは,この方法では難しい.しかし,レーザ加 工を用いて,注射針の表面に溝を加工することやアスペクト比の高い穴を加 工することは比較的容易である. 溝は,レーザ加工で針の表面を先端から加工する.加工した溝の幅 20µm, 図 6 毛細管現象により蚊の腹から血液が上昇する様子 深さ 62 µm である.加工した注射針を図 2 に示す. (a) 全体図 (b) 作製した溝 5. 穴の場合の液面上昇 穴の場合,レーザ加工後にエタノールに付け,内部の物質を排出してから穴を中空にし 加工条件 ただけでは毛細管現象によって液面が上昇してこない. この原因として水とポリ乳酸との 周波数:100Hz 接触角が大きくなっている.表1にポリ乳酸と水との接触角を示す.表1よりポリ乳酸に Energy:20mJ/pulse 500µm 穴を空けるためにレーザ加工を行うと,ポリ乳酸と水との接触角が大きくなる. 加工速度:0.1mm/s 50µm また,穴内部の物質を出すためにエタノールにポリ乳酸を付けると,さらに 図2 レーザ加工により作製した溝付き注射針のSEM画像 接触角が大きくなる. 式(1)より接触角が大き 直径 10µm の約 1mm あるアスペクト比の大きい穴を加工することができ 20µm くなると液面の上昇する高さに影響するため る. 接触角を下げる必要がある.そこで,ポリ乳 SEM 画像 1.0mm 加工した注射針を図 3 に示す. さくする.過酸化水素水を使用して接触角を 周波数:100Hz φ10µm 貫通 酸を過酸化水素水に付けることで接触角を小 加工条件 ホール 小さくしてやることで,水,血液は中空の穴 Energy:20mJ/pulse を上昇するのを確認することができる(図 7) . パルス数:12000 回 図 7 はポリ乳酸のシートを作製し,シートに 図3 レーザ加工により作製した中空針 20µm の穴を加工したものである. しかし, 空気中で加工直後に顕微鏡で観察していると, 空いた穴が詰まり, 表 1 ポリ乳酸と水との接触角の違い ① PLAの状態 接触角[度] ② ① 50 ② 75 ③ ③ 93 ④ 60 ④ その詰まった箇所が移動する様子が見られる.この現象は,レーザ加工をす ることでポリ乳酸が変化した物質が,加工後に穴内部に残ってしまい,詰ま っていた.加工後に水中にレーザ加工した注射針を入れて観察すると,内部 からガスと固体が出口から排出される様子を観察することができる.その様 子を図 4 に示す.このことを解消するためにレーザ加工後すぐにエタノール に付けることで内部の物質を出すことで穴が完全に中空になりやすいことが 図 7 血液が上昇する様子 PLA のみ PLA にレーザ加工 レーザ加工した PLA をエタノー ルに入れる ③のあとに過酸化水素に入れる 6. 結論と今後の課題 わかる. レーザ加工機を用いてマイクロ注射針をギザギザ形状に加工することや注 射針に溝や穴の加工を行った.そして,溝や穴を加工した注射針を用いて液 固体 体(水,血液)に付けると毛細管現象により液体が溝,穴を上昇することを ガス 確認することができた.今後,人体に針を刺した場合にも毛細管現象によっ て血液が上昇してくるか確認する. 図4 内部から固体とガスが出る様子 -26- 平成 17 年度 システムマネジメント工学科特別研究概要 アレイ型マイクロ触覚センサの FEM による動作原理確認 ロボット・マイクロ研究室 シス 02-99 渡邊 直貴 5. 有限要素法によるによる解析 本研究では,PDMS を用いたマイクロ触覚センサを9 素子アレイ状に配置し, それをさらに2層に重ねた構造のセンサを作製することが目的である. ここでは, センサのモデルを単純化し,センサを正面(側面)から見たときの2 次元モデル により解析を行うものとする.図7 に汎用の有限要素法ソフトANSYS を用いた センサの構造モデルとセンサを単純化した2 次元モデルを示す.ANSYS を用い て,センサに圧力が加わった際のセンサのたわみ解析を 行う.解析は,加える力の大きさを10[gf]とし,以下 の2 つのパラメータを変化させて行うものとする. ①圧力を加える位置(x 方向に0.32[mm]づつ変化させる) ②圧力を加える角度(0°から40°まで変化させる) . X 方向 また圧力を加える範囲は, 単純化 1[mm] 1個のセンサ幅と同じ1.6[mm] 100[µm] とし,それぞれの角度・ 30[µm] センサ1 センサ3 センサ5 位置でのセンサのたわみ 20[µm] 分布を求める.センサの 0.3[mm] センサ2 センサ4 センサ6 たわみ分布の1 例を図8 1.6[mm] に示す.次にたわみ解析 図7.センサの構造 により求めたたわみ量から各センサの静電容量の変化を検出する. 圧力(角度10 度) まず, ANSYS で正確 な静電容量値を出力 するためにいくつか の予備解析を行う. -0.15[µm] 1 つは平行板コンデ -4.31[µm] X 方向 ンサの静電容量を求 図8.有限要素法によるたわみ分布図 め,その値と論理計 算から求めた値との誤差がどの程度であるかの解析を行う.この解析で使用した 平行板コンデンサのモデル図とコンデンサ周辺の電界強度の分布図を図9に示す. 解析結果は,3.05×10−10 [F]であった.これは,論理計算から求めた静電容量 値 2.95×10−10 [F]と近似する.もう1 つの予備解析としては,非平行板コンデン サの静電容量解析である.非平行板コンデンサの静電容量を検出できなければ, 本解析では,正確な結果が得られないからである.非平行板コンデンサのモデル 10[µm] 図とコンデンサ周辺の電界 30[µm] 真空 強度の分布を図10 に示す.平行板コ 69329 89137 5.11×10 電極 ンデンサでは,電界強度は 1[mm] 図9.平行板コンデンサの電界強度分布 均一に分布しているのに対 し,非平行板 86.8[µm] 43.6[µm] コンデンサで 真空 30[µm] 4.12×10 64404 82805 電極 は,極板間隔が狭いとこ 1[mm] ろに電荷が集中している 図10. 非平行板コンデンサの電界強度分布 ことが確認できる.解析結果は,1.74×10−10 [F]であった.これらの予備解析 の結果,たわみ量から静電容量を算出できることが確認できたので,触覚セン サにおける各センサの静電容量を算出した.結果を図 11 に示す. PDMS AZP4903 レジスト名 3000[rpm], 30[sec] スピンコート 90[℃], 10[min] プリベーク 120[℃], 10[min] ポストベーク PDMSのベーク温度 150[℃], 時間10[min] 露光パターン 図3に示すパターン 純水51[ml],AZ400K 現像液 デベロッパー21[ml]の混合液 Y方向 表1. 実験条件 Y方向 1. 研究背景および目的 これまで柔軟で,1mm 以上の分解能を持つ触覚センサは多数開発されたが,人 間の皮膚を模倣して1mm の空間分解能と柔軟性,人間の皮膚組織のような柔ら かさ,拡張性まで備えた触覚センサはあまり開発されていない.本研究では, PDMS を用いて作製したセンサをアレイ状に並べ,フレキシブルで拡張性のある センサを開発するのが目的である.また,人間の皮膚の構造に比較的近い触覚セ ンサにするために,人間の皮膚組織にある受容器を模倣して,触覚センサを2 層 に重ねることを考えている. 2. PDMS の特徴 図1 のように,PDMS の主骨格はSi-O 結 図1.PDMS の分子式 合で無機質的であり, 側鎖はメチル基-CH3 で 典型的な有機質である.無色透明,弾力性に富み,耐熱性及び形状転写性に優れ た性質をもつPDMS 樹脂には,多層化による立体構造の作製や疎水性・親水性 など用途に応じた表面処理,及び自己吸着性を有するための特殊な接合プロセス が不要になるなど,加工処理工程が容易でサブミクロン単位の精度をもつ精密な チップの製作が可能となる. 3. PDMS における予備実験 使用したPDMS は,Dow corning 社のシルポット184 である.このPDMS の作製 方法は,2 種類の液体を10:1 の割合で混ぜ合わせ,自然放置,もしくはベーク での凝固法がある.PDMS とSi の密着性は高いため,膜厚がある程度なければ, Si ウェハからPDMS を剥離することは難しい.そこで,犠牲層としてレジスト を用いる実験を行った.結果は,PDMS を剥離することには成功したが,膜厚が 薄すぎてピンセットで摘むことができなかった.しかし,ピンセットで摘める程 度の膜厚があれば,容易に剥離することができることが確認できた.次にレジス トを利用したPDMS のパターニングの実験条件と方法,実験結果を示す. パターン用 Si 基板 犠牲層用 図2. パターニングのモデル図 1 層目のレジストを犠牲層用,2 層目のレジストをPDMS のパターニング用と して用いる. 2 層目のレジストを露光,現像し,その上に PDMS を塗布し剥離 する. 剥離したPDMS のパターンのCCD 画像を図3 に示す. PDMS のパターニングに成功した ため,Al の上にPDMS を塗布した 場合のAl とPDMS の密着性について 500[µm] の実験を行った.実験方法は,犠牲層 図3.剥離したPDMS のパターン としてレジストを塗布し,その上にAl, PDMS の順で塗布した後,Al ごとPDMS を剥離するというものである.結果を 図4 に示す.結果,PDMS とAl の密着性は良く,レジストを剥離する際, Al が剥離することはなかった.しかし,パターン上のAl が導通していなかった. これは,PDMS をベークする際,下のレジストから蒸発した気泡が,PDMS にし わを寄らせ,Al が断線したと考えられる.そこで1 層目のレジストをベークする 400[µm] 400[µm] 際,蒸発すべき液体を 完全に蒸発させるため Al 120[℃]で20[min]ベー PDMS クを行った.結果, 図4. 導通していないAl 配線 図5.導通しているAl 配線 OFPR800 では,Al は 断線することなく,導通していた.導通が確認できたAl の配線図を図5 に示す. 4. 触覚センサ作製プロセス 実験データをもとに,触覚センサ作製のプロセスフローを図6 に示す. 上部電極作製プロセス ④ ⑧ ④Alをパターニング. ① Si 基板 -12 -12 (a) センサ1 の変化 (e) センサ5 の変化 ⑧PDMS を塗布 ①Si基板上に犠牲層となるレジス ⑤ トを塗布し,Alをパターニング ⑤PDMSの型部分となるレジ⑨ ストを③と同じ厚さで塗布 ② ⑨下部電極のみを Si 基板か ②PDMS を20∼30[µm]塗布 ⑥ ら剥離し,上部電極と合成 下部電極作製プロセス ⑥レジストをパターニング. ③ (c) センサ3 の変化 ⑦ ③Si基板上に犠牲層となるレジス トを塗布し,その上にパターニン ⑦レジストをICP で除去 グ用のレジストを厚めに塗布 ⑩ ⑩Si 基板から下部電極ごと 上部電極を剥離し,完成 図6.触覚センサ作製のプロセスフロー -27- (b) センサ2 の変化 (d) センサ4 の変化 (f) センサ6 の変化 6. 結論と今後の課題 図11.触覚センサの静電容量の変化 有限要素法により求めた静電容量値の変化から,力が加わった位置と方向を予 測できることが確認できた.今後は,解析数を増やし,取得したより詳細なデー タをNN につなぐことにより,圧力が加わった位置と角度を検出することが課題 である. PDMS を用いた触覚センサの作製においては,センサの感度を上げる ためにセンサを積層することが課題である. 平成 17 年度 システムマネジメント工学科特別研究概要 ニューラルネットによる静電容量型 2 次元マイクロ力覚センサの情報処理 管 00-36 ロボット・マイクロシステム研究室 1. 研究背景および目的 力 電気力線 人間の触覚では,力 の大きさを検知するこ とは可能だが,方向を 検知することはできな い.人間の脳は,感覚 受容器(五感)からの 図 1 力覚センサのモデル 神経信号を受け取り, 肌から圧力分布を取得し,最終的に力の方向を検知する.もし,センサに よって力の方向を検知することができるなら,触角センサにおける信号処 理はより簡単で正確になるだろう.そこで本研究では図 1 に示すような, 一つのセンサで静電容量の変化から力の変位を検知できる多軸静電容量型 力覚センサの FEMLAB を用いた静電容量解析,及び力の変位を検知するた めのニューラルネットワークによる非線形近似,さらにセンサ形状の設計 を行うことを目的とする. 川西 賢 って学習を行った.また,学習範囲外のデータ(X=0.5,1.5…10.5,11.5 Y=0.25,0.75…6.25,6.75)で FEMLAB 解析を行い,C1,C2,C3 の静電容量 から学習済みの重みで学習させずに,直接 NN を用いて出力させた.図 7 にFEM 解析の結果を, 図8 に学習結果と学習済み出力結果のまとめを示す. Gap7.0µm C1,C2,C3 入力 C2(pF) C2(pF) Gap7.0µm C1,C2,C3 入力 Y(µm) X(µm) Gap3.0µm C2,C3 入力 Y(µm) X(µm) 図 7 FEM 解析結果 Gap3.0µm C2,C3 入力 図 8 NN による近似 C0 C3(pF) 電圧 電気力線 Y X=12 X=0 7μm Y=3 X=7 Y=0.5 0 5μm 7μm 図 10 NN による近似 図 9 FEM 解析結果 次に C2 と C3 との Gap を 7.0µm から 3.0µm にして,同様に FEMLAB により 電極それぞれの静電容量を算出し,ニューラルネットで変位 X,Y を計算さ せるため,学習を行い,さらに学習結果の重みから,学習範囲外のデータ の検証を行い,NN による近似を行った.なお,C1 については他の電極に 影響が少ないことが判明したので,C2,C3 のみの 2 入力で行った.図 9 に FEMLAB による C3 の静電容量と変位 X,Y の関係,図 10 に NN による C3 の変位 X,Y と静電容量との関係を示す.また表 1 に Gap7.0 での FEM 解 析と NN による変位 X,Y との誤差を,表 2 に Gap3.0 での誤差を示す. X 12 図 3 FEMLAB 解析図 図 2 モデル図 図 1 に示すような,水平方向,垂直方向,斜め方向へ可動できる上部電 極 C0 に,3 つの下部電極 C1,C2,C3 を,有限要素法を用いた FEMLAB によ る静電容量解析を行った.図 2 に解析の一例を示す.下部電極の Gap は 7 μm,上部と下部の極板間隔は 7μm である.まず,上部電極 C0 を 0.5μm ごと C2 へ近づくように動いた時の極板全体の静電容量は,極板間隔が小さ くなるにつれて,静電容量も大きくなっていく.次に,X 方向へ 0.2μm ご とに下部電極に平行に C3 の上部に位置するように動いた時の静電容量は, X=0,X=12 の時が最大で,X=6 の時が最小となった.これは,X=0,X=12 の場合では,下部電極が上部電極に重なると極板間に電荷が貯まりやすく なり静電容量は大きくなる.一方,X=6 の場合,極板間に電荷が貯まらな いため静電容量は小さくなると考えられる.さらに,下部電極 C1,C2,C3 それぞれの電荷を求め, Q(電荷)= C(静電容量)× V(電圧)から C1,C2,C3 それぞれの静電容量を求めた. 静電容量(pF) 100 80 60 40 20 0 1 2 3 4 5 極板間隔(μm) 6 7 8 X=0 X=1 X=2 X=3 X=4 X=5 X=6 X=7 X=8 X=9 X=10 X=11 X=12 図 4 C2 の静電容量の変化 表 2 誤差(Gap3.0µm) 表 1 誤差(Gap7.0µm) ⊿X 最大値 平均 標準偏差 ⊿Y 0.4 0.03 0.05 ⊿X Norm 0.25 0.03 0.04 0.42 0.05 0.06 最大 平均 標準偏差 5. センサの設計 200μm C0 30 20 10 0.56 0.17 0.14 電磁石 1mm Y=1 Y=2 Y=3 Y=4 Y=5 Y=6 Y=7 40 Norm 0.12 0.04 0.02 センサ プレート 50 ⊿Y 0.55 0.16 0.14 Gap7.0μm に比べ,Gap3.0μm では,⊿X の誤差の平均値が大きくなっ ているが,X の範囲 0~7.0μm を考慮すると,誤差は小さいと言える. 60 静電容量(pF) 120 Y(µm) X(µm) Y(µm) X(µm) C3 C2 C1 0 C3(pF) 2. 有限要素法(FEMLAB)による解析 7μm 500μm C2 0 0 2 4 6 8 10 移動距離(μm) 12 14 ばね 図 5 C3 の静電容量の変化 図 4 は,X=0~12 の X をそれぞれ固定した状態で,上部電極 C0 が下部電極 に近づくように移動した時の C2 の静電容量と変位の関係を示しており,図 5 は,Y=1~7 の Y をそれぞれ固定した状態で,X 方向へ動いた時の C3 の 静電容量変位の関係を示す.極板間隔が狭くなるほど,かつ C0 が C2,C3 に接近するほど,静電容量は大きくなるのがわかる. 3. ニューラルネットワーク(NN)を用いた変位の計算 1300μm 600μm 電磁石 センサ 500μm 図13 下部プレート C3 図 12 センサの形状 図11 センサ上面図 図 1 のセンサのモデルをより効率化するため,図 11 のようなバネによっ てプレートが自由に動けるようなセンサを提案する.図 12 に上部,下部の センサ図,図 13 に下部プレートを示す.センサ C2 と C3 を図 12 のように櫛 歯状にすることにより,センサの感度をよくするようにしている.上部と 下部に電磁石が用いてあるのは,プレートを平行に保つためで,下部はセ ンサに近づけ,上部はセンサに遠ざけて 500 X方向 450 配置している. FEM 解析によりX 方向, Y方向 400 350 Y 方向に一定の力を加えてもプレートが 300 250 平行に保っていることがわかった.力と 200 150 変位の関係を図 14 に示す.力と変位の 100 50 関係は線形となり,プレートに加えた力 0 0 5 10 15 が大きいほど,プレートの変位もそれに 圧力(GPa) 伴って大きくなっているのがわかる. 図 14 力と変位の関係 6. 結論・今後の課題 変位(μm) ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・ C1,C2,C3 それぞれの静電容量から,上 入力層 非線 部電極 C0 の変位を計算させるため, C1 中間層 出力層 形近似できるニューラルネットワーク X を用いる.図 6 にニューラルネットワー C2 クのモデル図を示す.図 6 の通り,入力 Y 層に下部電極 C1,C2,C3 の静電容量を, 出力層に変位 X,Y とし,中間層を 10 C3 として学習を行う.学習方法は,一般的 に用いられる BackPropagation 法より計 図 6 NN モデル図 算を早く行うことができるRProp 法によ って行った.学習を行うデータを X=0,1,2,3…12 として X を固定した状態 で Y が 7.0μm から 0.5μm ごとに FEMLAB を用いて, Y を変化していく (よ って,Y=0.5,1.5…6.5,7.0) .得られた C1,C2,C3 の静電容量から NN によ センサを作製する前段階である有限要素法による解析を行うことで,セ ンサの設計ができた.今後はデバイス作製のプロセスを確立し,作製を行 っていく.さらに解析結果と比較してその特性を評価する必要がある. -28- 平成17年度 システムマネジメント工学科特別研究概要 無指向性マイクロセンサのためのドーム形状の作製 ロボット・マイクロシステム研究室 管00-93 藤木 1. 研究背景および目的 本研究ではコンデンサ型無指向マイクロセンサの開発のためのド ーム形状の作製を目的とする.無指向性マイクセンサとは様々な方向 から送信された超音波の受信が可能となる特性を持つマイクロ超音 波センサのことである.無指向性を実現するためにはマイクロ超音波 センサをドーム形状として製作していく.また,現在において開発さ れているドーム形状コンデンサは圧電式のものが多く本研究では静 電式のドーム形状マイクロ超音波センサのためのドーム形状を製作 していく.コンデンサ型センサは空隙層を挟んだ振動膜とバックプレ ートから構成さ 超音波 れている.図1 上部電極 空隙層 にその構造図を (5µm) (Al 0.2μm) 示す.振動膜と 振動板 絶縁体 (パリレン 5µm) して高分子であ る パ リ レ ン バックプレート 下部電極 (5µm)を,電極と (PDMS) (Al 0.2μm) し て Al(0.2µm) をそしてバック 図1 ドーム形状コンデンサ型超音波センサの構造 プレートとして PDMS を用いる.センサとしての働きは 超音波による音圧により空隙 層が変化する,そしてそれによりコンデンサの静電容量が変化するこ とにより超音波を感知する. 2. 有限要素法による共振周波数解析 今回,振動膜の共振周波数が 約 60kHz を実現するようなドー 固定端 ム形状の半径の大きさを,有限 要素法によるシミュレーション により検討し,最適設計を行う. ドーム形状マイクロ超音波セ ンサの振動膜の共振周波数 ω n について有限要素法解析ソフ 半径 1250μm 厚み 20μm トウェア(ANSYS)によるモー ダル解析を行った.図2にモデ ルと,解析結果の一例を示す. 図 2 有限要素法解析 また,振動膜の半径と厚みを変 化させた解析結果 を図3に示す. ドーム形状の半 径が300µm以下で 2500.0 の比較的小さな半 2000.0 径であるとき共振 5μm 周波数には振動膜 1500.0 10μm の厚みが大きなも 拡大図 15μm 1000.0 のほど値も大きく 20μm なり差がみられる 500.0 が,半径が700µm 0.0 以上になると共振 周波数には厚みの 半径(μm) 変化による大きな 差は見られない. 図3 厚さの違いによる共振周波数解析 今回,開発を目的 とする無指向性マ イクロセンサの共振周波数を60KHz以内にするためにはドーム形状 の半径が1200μm以上にする必要がある.半径が1250µm以上となる とき厚みの違いによる共振周波数の差は見られず,それぞれの厚みに おいて60KHz以下であるために振動膜の厚みを5µmにして製作する ことにする. 80.0 共振周波数(kHz) 70.0 60.0 50.0 5μm 10μm 15μm 20μm 40.0 30.0 20.0 10.0 10 00 10 50 11 00 11 50 12 00 12 50 13 00 13 50 14 00 14 50 15 00 半径(μm) 50 150 250 350 450 550 650 750 850 950 1050 1150 1250 1350 1450 共 振 周 波 数 (kHz) 0.0 3.ドーム形状超音波センサ作製プロセス(予定) 超音波センサはバックプレートとしての PDMS(ポリジメチルシロ キサン)に Al を電極として堆積し,さらに蒸着させた高分子膜パリレ ンを振動膜,として作製する.ドーム形状コンデンサ型マイクロセンサ の開発ためのプロセスフローを図 4 に示す.なおこの作製プロセスに は空隙層作製の際にレジスト(有機溶媒)を除去するためにレーザー で穴を開ける場合にはドーム形状のマイクロ超音波センサの電極に も穴が開いてしまうことなど,現在これらの問題点に対して対処を検 討中でありこのプロセスは一時的なものである. レジスト PDMS パリレン 邦明 Al ①エッチングした Si 基 板にレジストを塗布し, 硬球を配置する. ① ⑦ Si ②PDMS の剥離のために パリレンを蒸着し, PDMS パリレン PDMS を塗布する. (剥離) (2μm) PDMS ③PDMS を剥離する. ② ④剥離のためのレジス ⑧ トをスプレーコーティ ングし,Al を堆積,パタ ーニングし上部電極を ⑨ 作製する. ③ ⑤振動膜となるパリレ レジスト (剥離) Al ンを蒸着し,犠牲層作製 (5μm) (上部電極) のためレジストをスプ ⑩ レーコーティングする. ④ ⑥パリレンとレジスト パリレン (振動膜) レジスト をパターニングする. (空隙層) (5μm) (5μm) ⑦Al を堆積,パターニン グし下部電極の作製 ⑪ ⑧PDMS を塗布する. ⑤ Si ⑨レジストを除去する ために(犠牲層の作製) レーザーにより穴を開 ける.ドーム形状に穴が ⑫ ⑥ 開くがこの問題は検討 中である. 図 4 プロセスフロー ⑩レジストを除去し,犠 牲層を作製し,支持部となる Si 基板と貼り合わせる ⑫レジストを除去し,上部の PDMS を剥離する. 4.PDMS型取りによるドーム形状の作製 直径 3mm の PDMS 硬球を用いて PDMS に型取り を行いドーム形 状を作製した. 図5に PDMS 型 取りによるドー 1mm 1mm ム 形 状 の SEM 写真を示す. PDMS を 50℃, 真上からの SEM 写真 45°からの SEM 写真 4時間のベーク 図5 PDMS 型取りによるドーム形状の SEM 写真 を行い作製した PDMS ものである.この条件の下で は PDMSに気泡が生じること なく滑らかなドーム形状を 作製することができる.また 図6はこの条件下により作 製した凹型ドーム形状の 1mm PDMS が内部まで滑らかに作 製されているかを確認する ために,剥離剤を使用せずに 図6 ドーム形状 PDMS の SEM 写真 PDMS を塗布し,さらに 離型 し,凸型のドーム形状を作製したものである.全体的に歪な部分はな く滑らかに作製されている. 5.結論と今後の課題 有限要素法による解析,PDMS による型取りを行い無指向性マイク ロセンサの開発ためのドーム形状の最適設計,作製を行った.また, 現在センサを製作中である.今後は作製したドーム形状を用いてセン サの開発をすることが課題であるが,ドーム形状の PDMS に離型層, 犠牲層の条件だしのためにレジスト(OFPR-800)をスプレーコーティ ングしたものを図7に示す. レジスト レジストがフレーク状にコー がフレー ティングされており均一な膜 ク状であ 厚が形成されていないことが る 分かる.コーティング方法の 1mm 改善,使用するレジストの考 慮などにより均一な膜厚を得 ることが次の課題である. 図7 PDMS 断面の SEM 写真 -29- レジスト 硬球 Al (下部電極) 平成 16 年度 管理工学科特別研究概要 センサアレイ制御用 CMOS シフトレジスタの設計と試作 管 01-22 勝 久美 管 01-42 是澤 信二 ロボット・マイクロシステム研究室 4.CMOS トランジスタ作製プロセス 1.研究背景および目的 CMOS トランジスタは集積回路の小型化,高速化,低コスト化を目指すた めに誕生した.初期の MEMS システムでは,MEMS デバイスと信号処理回 路を別々のチップに設け,完成した2つのチップを組み立て一体化するマル チチップ方式が採用されていた.この方式にはチップとチップの間を接合す るためのワイヤ・ボンディング・パッドが多数必要になったり,配線や組み 立てに伴う不良率の上昇といった欠点があった.これに対しワンチップ方式 は同一基板上に信号処理回路と MEMS デバイスを搭載する方法なのでプロ セスは複雑になるが,配線や組み立ての必要がなくなり,小型で高性能なセ ンサが実現可能となる.本研究室ではマイクロプロセスによる n,p チャネル MOS トランジスタが研究されてきた.将来的に MEMS によるアレイ型の超 音波センサや触覚センサの膨大な数の信号を効率よく,容易に取得するため に本研究では CMOS トランジスタを用いて,シフトレジスタを作製する. レジスト ① Vout(V) ② ⑦ B+ p+ p+ ③ ⑧ ③ n+ n+ p+ p+ n+ p+ p+ P+ n+ B+ p+ p++ p++ ⑧ ⑨ 選択酸化膜 P ウエル 140µm ⑩ Al(1 ㎛)を堆積後,配線のパタ ーニングを行い Al のエッチン グ後,アニールを行う. ※ 酸化膜,窒化膜を堆積させた 後,選択酸化までを行った. 100µm 図3‗2.Pウエル作製のためのイオン注入領域 アルミ SiO2 (0.06 ㎛),Si3N4 (0.3 ㎛)を堆 積させ,wet 酸化により選択酸化 (1.2 ㎛)し p ウエル形成 のイオン 注入を行う. SiO2(0.03 ㎛),Si3N4(0.3 ㎛)を堆積 後, チャネルストップのイオン注 入を行う. レジストを除去後,wet 酸化で選 択酸化膜(1.2 ㎛)を堆積させる. Si3N4,SiO2 を除去後,ゲート酸 化膜(目標 0.02 ㎛)を堆積させる. チャネルドープのパターニング 後, しきい値電圧を制御するため の n チャネルドープのイオン注 入を行う. ⑤と同様に p チャネルドープの ためのイオン注入を行う. LP-CVD を用いて poly-Si(0.5 ㎛) を堆積し,RIE を用いてゲートの パターニンを行う. イオン注入領域のパターニング 後,ソース・ドレイン領域形成の イオン注入を行う. コンタクトホールのパターニン グ後,レジストを除去する. 0.0025 0.002 境界面 ドーズ量 V4 V4 2[V] 0.0009 60keV 65keV 70keV ドーズ量 500 1000 1500 2000 0 2500 500 図 2‗3.CMOS シフトレジスタ回路(4bit) 図 2‗3 の回路の trigger に図 5 2‗4 の(3)ような入力電圧 (1)clockA 0 を与えると,clockA と 5 (2)clockB clockB(clockA の反転)に 0 よって図 2‗3 の点 A~Dに 5 (3)trigger,A それぞれ 1[µs]ずつ遅れて 0 5 trigger の電圧が伝達される. (4)B 0 この A~D が high の時に, 5 パラレル入力電圧 V1~V4 (5)C 0 のスイッチとなるトランジ 5 スタが ON となり,順にシ (6)D 0 4 リアル出力電圧として取り 3 V3 V4 (7)シリアル出力 2 出される.このように,パ V2 V1 1 ラレル入力をシリアルで出 0 5 4 2 1 3 力させるしくみがシフトレ Time(μs) ジスタである.このシミュ 図 2‗4.入出力信号 レーションで V1,V2,V3,V4 は電源電圧を与えているが, 実際に MEMS センサの信号処理回路としてシフトレジスタを組み込む場合 には,垂直方向と水平方向にシフトレジスタを 2 次元に配置し,その間に超 音波センサや触覚センサをアレイ状に配置する.このことにより,各センサ の信号をシリアル出力として取り出すことが可能となる. -30- 1000 1500 2000 2500 Depth(Å) Depth(Å) アル出力される. 1.5×1015/㎝ 0 0 れるV1~V4がシリ 4[V] 55keV 境界面 0 膜厚(µm) V3 50keV 0.0003 1.5×1015/㎝ パラレルに与えら 0.0012 0.0006 0.0005 C 25keV 30keV 0.001 D 15keV 20keV 0.0015 シリアル出力電圧Vout Si ゲート酸化膜 10keV Concentration(/cm3) 図2‗2.CMOSインバータの伝達曲線 0.0015 Si ゲート酸化膜 図4‗1.ボロンイオン濃度 図4‗2.リンイオン濃度 図4‗1,4‗2にソース・ドレイン形成時のイオン注入における濃度分布と加速電圧のシ ミュレーション結果を示す.条件は打ち込みイオンをそれぞれB+,P+,ゲート酸化膜 を共に600Åとした.結果より,求める濃度分布がSiO2層:Si層=1:2となるものの うち,ピークがSiO2とSiの境界面に近いものと設定すると,加速電圧の最適値は,図 4‗1より,25keV,図4‗2より65keVとなる. 5.2 酸化条件 図 5‗1,5‗2 に酸化膜の成長特性を示す.条件は wet 酸化,O2 0.5ℓ/min,N2 1.0ℓ/min,バブリング温度 80℃,および dry 酸化,O2 2.0ℓ/min,N2 1.0ℓ/min で 行った. (3 枚同時に酸化させた時の中央のウエハ) 3 0.4 手前のウエハ 2 1050℃ 中央・奥のウエハ 1 0 膜厚(µm) Vin(V) 5 Concentration(/cm3) 2.5 clockB 3[V] n++ n++ 5.MOSトランジスタの作製条件 5.1 ソース・ドレインイオン注入条件 図2‗1.CMOSインバータ回路 V2 ⑥ 図 3.プロセスフロー の特徴を示す. 0 B n++ n++ p++ p++ ⑩ n+ p+ n+ 0 パラレル入力電圧V1 1[V] ⑤ ⑦ ⑤ Vout A ④ n++ n++ ⑨ ④ CMOS インバータ trigger ポリシリコン ① N 型Si ② 3 T-Spice による回路シミュレーション シミュレーションソフト(T-Spice Tanner 社)により実際に作製する回路の 動作を確認した. 5 clockA B 窒化膜 P+ P ウエル 2.CMOS トランジスタの動作原理について 本研究で作製する CMOS トランジスタの動作原理について簡単に説明する.図 1 のように,CMOS では同一シリコン基板上に pMOS と nMOS のトランジスタ を作らなくてはいけない.入力電圧 VIN が OFF,pMOS が ON のときには出 力電圧 VOUT=VDD で出力は ON となる. 逆に入力電圧が ON,pMOS が OFF のと きはVOUT は0 となり出力はOFF となる. nMOS が ON のときには pMOS は必ず OFF となっているので,VDD から電流は 流れず,電力を消費することもない.こ れは CMOS の重要な性質で,消費電力が 小さいことにつながる. 図 1.CMOSの模式図 Vin 酸化膜 ⑥ + 0.3 0.2 1050℃ 1000℃ 手前 中央のウエハの9点 での膜厚のばらつき 0.1 奥 中央 0 0 0 2 4 √t(h)6 2 √t(h) 4 図 5‗1.wet 酸化における酸化膜厚 図 5‗2.dry 酸化における酸化膜厚 Si の熱酸化では膜厚がある程度厚くなった場合, 時間の平方根に比例する. 図 5‗1,5‗2 から理論通り時間の平方根に比例することがわかる.本研究にお いて,wet 酸化,5h,1050℃(約 12000Å) , dry 酸化,10min,1000℃(約 600Å) をそれぞれフィールド酸化,ゲート酸化条件として用いることを決定した. 6.総括と今後の課題 回路シミュレーションにより設計したデバイスが正常に動作することが確認 でき,学内の装置のみを用いて作製するための条件やプロセスを考えた. 平成 17 年度 システムマネジメント工学科特別研究概要 nMOSFET を用いた加・減算回路の設計と試作 管 01-13 伊藤 宏樹 ロボット・マイクロシステム研究室 3.3 加・減算回路 図 6,7 にそれぞれ加算回路,減算回路図を示した.波形を単純にするた め回路内の全ての抵抗(R1,R2,R3,R4)は同じ抵抗値(10kΩ)をもつ 抵抗を配置した.加算回路では反転入力端子のみ減算回路では反転入力端 子と非反転入力端子に振幅の異なる正弦波を 2 種入力する.図 8,9 にそれ ぞれの過渡解析(50ms)の出力結果を示す.両図から加算や減算された出 力波形が得られている.理論上の理想的な波形と比較するとどちらの場合 も-0.2V 程度の差が生じている.この差は演算増幅器のオフセット電圧によ る影響だと考えられる. 1. 研究背景および目的 他のセンサ機能や駆動機能などをもつマイクロマシンと検出回路や制御 回路を集積化することで付加価値的な機能を持つ 1 チップインテリジェン トセンサである高機能デバイスを実現することが求められている.本研究 室では既に n 型,p 型の MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect -transistor:MOS 型電界効果トランジスタ)のインバータ回路を作製するこ とが可能である.本研究では,pMOSFET に比べてキャリアの移動度によ り応答性の優れている nMOSFET を構成要素とするアナログ集積回路を代 表する演算増幅器を用いた加・減算回路の設計および試作を目的とする. 2. 演算増幅器の構成 2.1 nMOSFET の動作原理と I-V 特性 図1 にnMOSFET の動作原理図, 図2 にI-V 特性を示す. 半導体内部に設けたソースとドレイン電極間を移動する キャリアの流量(ドレイン電流)をゲート電極に印加する 電圧により制御する.ゲート直下の半導体表面に電子が誘 図1 原理図 起し反転層が形成されドレイン電流が流れ始める.このと きのゲート-ソース間電圧を閾値電圧 VT とする.トランジ スタを安定したドレイン電流を流す飽和特性領域で動作 させるために VDS(ドレイン電圧)>VGS(ゲート電圧)-VT を 満たさなければならない. 図 2 I-V 特性 2.2 演算増幅器の構造 図 3 に演算増幅器を構成する各段の入出 力の関係を示し,図 4 は 26 個の nMOSFET を用いて内部回路を示す.ソースフォロワ とは増幅回路間の出力端子と入力端子の電 図 3 演算増幅器の各段の構成 位を合わすために必要な回路である. 差動入力段に入力された信号は増幅出力された後に差動シングルエンド 変換器を通してカスコード段に入力される.変換器にカスコード段からソ ースフォロワやコンデンサを通してフィードバックされることで周波数補 償される.カスコード段によってさらに増幅されたもう一方の信号はソー スフォロワを通して出力段に入力され出力される. 各段外の nMOSFET は 各段に使われている nMOSFET に一定の電流を供給し続け飽和状態にする ための定電流源として動作している. 図 6 加算回路図 A 2.0 B A+B 20 30 図 7 減算回路図 Ideal 出力電圧(V) 1.5 出力電圧(V) 1.0 0.5 0.0 -0.5 -1.0 -1.5 -2.0 0 10 経過時間(ms) 40 50 A 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 -0.5 -1.0 -1.5 -2.0 0 10 B A-B 20 30 経過時間(ms) Ideal 40 50 図 8 加算回路の出力結果 図 9 減算回路の出力結果 4. 演算増幅器作製プロセス 4.1 演算増幅器作製フロー ①2.5%HF により洗浄, dry 酸化による酸化膜形成, PE-CVD で窒化膜堆積. ②レジスト塗布, アクティ ブ領域のパターニング. ③BHF で窒化膜除去,チ ャネルストップのため イオン注入をする. ④酸化膜・レジスト除去, RCA 洗浄し wet 酸化に よる Field 酸化膜形成. ⑤リン酸による窒化膜の 除去,酸化膜除去,RCA 洗浄,dry 酸化,レジス ト塗布しコンデンサ部 のイオン注入のパター ニングをしイオン注入. ⑥レジスト・酸化膜を除去. ⑦RCA 洗浄し dry 酸化に よりゲート酸化膜形成, LP-CVD にて Poly-Si を 堆積 ,レジスト塗布し パターニングした後に, 図10 演算増幅器作製プロセスフロー RIE で SF6 ガスを使った Poly-Si のエッチング.その後,レジスト除去. ⑧レジストを塗布,イオン注入領域のパターニング後,ソース・ドレイン 領域形成のためイオン注入をする. ⑨レジストを除去,活性化アニールを行う.レジストを塗布してコンタク トホールのパターニング後,BHF で酸化膜のエッチング,レジスト除去. ⑩三元スパッタを用いて Al を堆積した後,レジストを塗布し電極・配線の パターニング.混酸による Al のエッチング後にレジストを除去し,シン タリングを行う. 4.2 レイアウトについて 回路内で配線の交差が 10 箇所存在する.導通を無くす ために図 11 のように交差する一方の配線間を区切り,そ の配線下をイオン注入領域を利用して繋げる構造にした. 図 11 交差構造 カレント・ミラー回路(等しいドレイン電流の左右対称回路)の nMOSFET は素子の特性のばらつきの影響が小さくなるように近接して配置した. 5.結果と今後の課題 本研究では演算増幅器を用いた加・減算回路シミュレーション,マスク設 計及び作製に要する予備実験を行った.今後の課題として本学の設備を用 いた加・減算回路の作製,各種 MEMS センサへの応用が挙げられる. 出力電圧(out) 図 4 演算増幅器単体回路図 3. 演算増幅器の回路シミュレーション 3.1 回路シミュレータ SPICE 回路シミュレーションソフト SPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)の機能は大きく分けて直流電流や直流電圧を変化させてそ のときの出力の様子を調べる DC 解析,信号源の周波数を変化させて,そ の時の出力の様子を調べる AC 解析,横軸に時間をとり時間の経過ととも に回路の信号が変化するようすを調べる過渡解析の 3 つがある. どのシミ ュレーションでも半導体の基本方程式に基づいて解く事は不可能なので素 子の電気特性を簡略して表現する等価回路が用いられる.素子の等価回路 モデルは回路シミュレーションが静特性を求める直流解析か,過渡特性を 求める過渡解析かで多少変化する.それぞれ I-V 特性のみ必要な電流モデ ル,I-V 特性と電荷蓄積状態を表現する容量素子が必要な容量モデルが用い られる.本研究ではフリーソフトである LT-SPICE を用いる. 3.2 演算増幅器単体 図 5 演算増幅器単体の回路図である.非反転入 力端子に-15~15V まで入力電圧を変化させた場 合の DC 解析のシミュレーション結果を図 5 に示 す.0V を境に電源電圧まで振り切れるという実際 入力電圧 の演算増幅器と非常に類似した出力結果となった. 図 5 出力結果 -31-
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