なか はら 氏 名 ・(本 籍 ) 中 原 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 理 第 1 2 4 4号 学位授与年月 日 平成2 2年 9月 8 日 学位授与 の要件 学位規則第 4条第 2項該当 研究科, 専攻 東北大学大学院理学研究科 ( 博士課程)化学専攻 学位論文題 目 分子線 エ ピタキ シ一法 による酸化亜鉛薄膜の高品質化 と価電子制御 による 士 ( 理 学) 論文審査委員 ( 主査) 教 授 川 崎 教 授 宇 田 教 授 寺 前 論 文 雅 司 聡 夫 紫外発光 ダイオー ドの作製 紀 目 次 第 1章 序論 第 2章 実験手法 第 3章 サファイア基板上 アン ドープ zno結晶薄膜成長 第 4章 A面サファイア基板上のアクセプター ドープ zno結晶薄膜成長 第 5章 Ga ドープ ZnO透明導電膜の I nGa NLED への適用 第 6章 zn極性 zno基板の高品質化 第 7章 zn極性 zno基板上の高品質 zno,MgZnO結晶薄膜 第 8章 zno基板上のヘテロ接合発光 ダイオー ド 第 9章 総括 論 第 1章 文 内 容 要 旨 序論 半導体 デバイス技術が 「 光」の分野で大 きな変化を起 こし、 白色発光す る発光 ダイオー ド( LED)が、次 世代省 エネルギー照明機器の最 も有力な候補 とな っている。 ただ し、一般的な白色 LED は 「 青色 LED + LED 光で黄色蛍光体を励起 した黄色光」 で白色を作 っているため、赤み成分が少 な く、人間の 目には不 自然 な白色であるうえ、一部の青色光を黄色蛍光体の中を透過 させ る必要か ら白色 自体が変動 Lやすいと い う欠点 もある。 これ らを解決す る理想的な方法 は、蛍光灯 と同 じく 「 紫外線 LED」で蛍光体 を励起す ることである。紫外線 は不可視であ り、色ば らつ きの原因にな りえないうえ、一般的な蛍光体 は紫外線で 最 も高 い変換効率を持っか らである。 このような紫外線 LED を可能 にする材料 として、人体 に優 しく、 資源的に豊富で、かつ紫外線領域で高効率 の発光 をす る酸化亜鉛 ( zno)を選 び、紫外線 LED の実現を 目 指 した。 -3 0 2- 第 1章で は、半導体材料 と して見 た場合 の ZnO の物性的な特徴 をまとめ るとともに、主 に発光素子材 料 としての ZnO 系材料 の過去の研究例を紹介 しなが ら、紫外線 LED実現のために残 されている課題や欠 けている研究視点 などを明 らかに し、本論文の位置付 けと目指す方向性を明確 に した。 第 3章 サファイア基板上 ア ン ドープ znO結晶薄膜成長 zno系材料で紫外線 LED を作 る場合、zno系材料が n型 にな りやすい性質を もっていることか ら、特 にp型化が最大 の研究課題 となる。 その前提 として、 ア ン ドープ結晶薄膜中の残留電子濃度を極力減 らし てお くことが必要 となる。 これまでの研究 は粉体を焼結 したセラ ミック材料を出発材料 とす ることが多 く、 特 に高純度化の面で大 きな難点があった。 これを解決す るために、高純度化 に優れているという観点か ら MBE) 法 を結晶薄膜成長方法 として選 び、zno結晶薄膜 の高純度化 ・高品質化を研 分子線 エ ピタキ シ-( 究の中心 においた。 第 3章 で はサ フ ァイア基板上 での ア ン ドープ結 晶薄膜 の高 品質化 につ いて議論 した。 サ フ ァイ ア ( 0 0 01 ) C面基板 と znO結晶では全 く面 内格子定数が整合せず ( -1 8 %)、ZnO結晶薄膜 には構造欠陥が多 数入 って しまうが、 サファイア基板 ( 1 1 ラ o ) A面基板上で は、 サ ファイアの C軸方向 ( 今の場合面内の軸 になる) と znO の a軸方向の格子定数が、 1 : 4の割合ではぼ完全 に一致す ることか ら、構造欠陥が大幅 に 減 らせ ることを発見 した。 また、 サ ファイア基板 を高温度 ( ∼6 0 0 o C) に保つ と、zno結晶核形成が行わ れない。 このため、低温バ ッファー層を導入 し、 これを結晶成長核 とす ることで、成長温度を高温化で き ることを見出 した. これ らの発見 によ り研究当時 としては最 も高品質である残留電子濃度 ∼7×1016c m3 、 移動度 ∼1 40c m2v■ S1とい うア ン ドープ znO薄膜を得 た。 第 4章 A面サ ファイア基板上のアクセプター ドープ zno結晶薄膜成長 第4章では、 アクセプター ドー ピングによるp型 znoの成功 を目指 した. しか しなが ら、残留電子濃度 を下 げるために最 も有効であった成長温度の高温化が逆 に窒素 ドープを難 しくし、成長温度 と窒素 ドープ 量の間に著 しい負の相関が存在す るというジレンマの存在が明 らかにな った。 〝型 ドーパ ン トであるガ リ ウム( Ga )との同時 ドープによ り、窒素 の固溶限界の引 き上 げが可能であるとの理論か らの提案、 リチウ ム、 リンといった他のアクセプター ドープ等、為 し得 る限 り実験を行 ったが、 いずれ も成長温度を下 げて しまうか、残留電子濃度が逆 に上昇 して しまうか、 という結果を招 き、上手 くい くことはなか った。 これ らの失敗 の原因 は基本的に、 ( 1 )サファイア基板上の ZnO は、化合物半導体 ア ン ドープ結晶の一般 5乗台よりも l桁高 く、 この原因が異種基板使用 にあると思われ ること、 ( 2)サ 的な残留電子濃度である 1 ファイア基板上で は通常 o極性方向[ o o o T] の成長 しかせず、 この面で成長 させ ると不純物の取 り込みが多 くなるなど、化学的な活性が zn極性方向【 o o ol ] と違 っていることが窒化 ガ リウム( Ga N)で も知 られてい ること、以上 2点 に集約 され る。 この考察 によ り、第 6章以下 の ZnO基板 を使 った新 しい研究の指針を 得 ることとな った。 第 5章 Ga ドープ zno透明導電膜の I nGa NLED への適用 znoの伝導帯下端 と Ga N の価電子帯上端 のエネルギー レベルが近 い、 いわゆ る TYPE I Iの接触をす る ことか ら、濃 く ドナー ドープ した縮退 znoが Ga N 系青色 LED の透明なp層側電極 と して使 えるだろう という着想を得 た。第 5章では、 この着想を具現化す る実験を行 った0 -1×1 0 2) c m3 レベルの高濃度 G a ドープ znO透明導電膜がp型 Ga N にオー ミック接触 し、p層側電極 と して実際に機能す ることを実験的に示 した。 これによ り、Ga N 青色 LED の輝度を約 2倍 に向上 させ るこ -3 0 3- とも確認 した。 また、高温高湿試験 を行 い、Z n O透明導電膜が実用的な信頼性 を も持 っていることを証 明 した。 第 6章 z n極性 zn o基板の高品質化 n極性方向の成長では窒素 ドー ピング量 と成長温度が負の相関を持 た 第 4章での失敗原因の考察 と、z ないという新 しい知見 によ り、Z n極性 zn o基板上のデバイス作製を新 たな基本方針 として採用 した。 第 6章では、Z n O基板 のバルクおよびその表面 の高純度化 の研究を行 った。Zn Oバルク基板 は、水熱 合成法 によるものが最適 な構造特性 を持 っているが、鉱化剤である L iが混入す る。 この Liを 1 3 0 0 o C近 傍のアニールで完全 に基板か ら除去す る技術を確立 した。 また、清浄表面化では、 アルカ リ剤での最終処 理 による表面 のパ ーテ ィクル フ リー化が、z n Oで は逆 にゲル状物質 zn( oH) 2 の形成 を招 き、表面 に異質 層 と研磨剤 のコロイダル シリカ残留をまね くことを電気化学的考察か ら発見 した。 ここか ら基板表面処理 を、pH3以下 の酸で行 うとい うプロセスを確立 し、以後第 7,8章で述べ るよ うな高品質膜を得 られる基 盤を構成す ることに成功 した。 第 7章 z n極性 zn o基板上の高品質 z n o,( Mg Zn ) 0結晶薄膜 章では、第 6章で確立 した z n O基板の仕様 を基盤 としてア ン ドープ zn o、 ア ン ドープ( Mg Zn ) 0の 第7 高品質薄膜成長 に取 り組 んだ。 時間分解 フォ トル ミネ ッセ ンス ( TRPL)の P L発光寿命 を基礎評価指標 と し、最終的に T RP Lの P L発光寿命が zn o、( Mg Zn ) 0 とも3n sレベルとい う高品質膜を得た。 また、 ポ リエチル ジオキ シチオフェン ・ポ リスチ レンスルホ ン酸 ( P EDOT: PS S )を用 いた新 しい ショッ トキーダイ オー ド作製技術 を用 いることで、Z n O、( Mg Zn ) 0の残留電子濃度を評価 し、1 ×1015c m3前後の残留不純 物濃度 を達成で きていることを明 らかに した。 これによ り、Z n O系物質が初めて他の化合物半導体 の結 晶品質の レベルに並んだ ことになる。 また、 この高純度化の直接 の帰結 として ( Mg Zn ) 0/ Zn O界面 に自然 K において数万 c m2vI s】 という、 これまでの値を一桁上回 るオー に形成 される 2次元電子ガスの移動度が 2 ダーに達す ることを見出 し、z n o系材料の低温物性物理を研究で きる端緒を作 ることができた。 第 8章 z n o基板上 のヘテロ接合発光 ダイオー ド 第 8章では、第 7章で他の化合物半導体の結晶品質の レベルまで結晶品質が向上 したことを受 け、最 も 難 しいとされて きた、( Mg Zn ) 0をp型層 とす るヘテロ接合 L ED作製 を行 った。残留電子濃度が理想的な レベルまで下が っていることにより、世界で初めてヘテロ接合での発光を確認 した。ただ し、窒素供給源 i 不純物が、S I MSでは確認で きない ものの、S I MSでは S iのバ ック に使用 しているラジカル源か ら来 る S グラン ドレベルが良 い状態であ って も 1 0 1 6c m・ 3半ばであるため、 まだ残留 していることが強 く疑われ、 こ れが明 るさを向上 させない原因になっていることが考え られた。 そ こで、新規窒素源 として ラジカル、す なわちプラズマを使わな くて も済むア ンモニアを導入 し、 ラジカル源使用 による不純物を排除す ることで 発光量が一桁改善す ることを見出 した。最終的に 7 0L I W とい う出力を得、蛍光体の励起 にも成功 した0 第 9章 総括 本研究では、高品質結晶薄膜の成長技術を様々な視点か ら研究 し、最終的な目標であった、世界で初め ての Z n O系材料 によるヘテロ接合LED作製 に成功 した. ただ し、 その発光強度 は最大で 7 0p W であ り、 産業化 の道 の りはまだ遠 い。窒素 ドープ源を、基本的に汚染源 に もな りうるラジカル源か らNH 3 に変え たことで、発光量が一桁上が った事実を重視す ると、酸素の ラジカル源 も当然排除すべ きである。今後の -3 0 41 研究 としては酸素 ラジカルのように化学活性の高い酸素源、たとえばオゾンなどを導入 し、 さらに徹底 し た不純物管理を行えば、LED だけでな く、二次元電子移動度などにも画期的な改善が生 まれ る可能性が あり、将来の研究のテーマとして も、デバイスの発展 として も興味深い。 -3 0 5- 論文審査の結果の要 旨 本学位論文 は、「 分子線 エ ピタキ シー法 による酸化亜鉛薄膜 の高品質化 と価電子制御 による紫外発光 ダ イオー ドの作製」 と題 し、全 9章か ら構成 されている.第 1章では、省 エネルギーに資す る技術 として発 光 ダイオー ド( LED)の有効性 を説明 し、既存の青色 LED と黄色蛍光体を用 いた疑似 白色 よ りは、紫外線 LED による多種の蛍光体励起が望 ま しいことを説明 し、酸化亜鉛 ( zno)系材料 を用 いた LEDの有効性 を 概説 している。 その上で、本研究で取 り組んだ、LED作製の基盤 となる結晶薄膜 の品質向上 の指針 と、 実用 LEDの基本構造であるヘテロ接合型紫外 LEDの実現を目指す研究方針を述べている。 第 2章では、本研究で用 いた実験手法 につ いてまとめている。第 3章 と第 4章では、0極性 zno結晶 薄膜では、 アクセプターである窒素 ( N)ド- ビングが有効 に作用 しない起源を明 らかに し、薄膜の極性 を zn極性 に制御す ることが、N ドー ピングと結晶薄膜の高品質化を同時に達成す る有効 な手段であること を結論 している.第 5章では、p型窒化 ガ リウム( Ga N)への低抵抗オー ミック電極 として Gaドープ znO 透明導電膜を使用 し、窒化 イ ンジウムガ リウム(( I nGa ) N)系青色 LEDの発光輝度 を向上 させた ことを述 べている。第 6章では、zn極性へ と薄膜成長方位 を制御す るために必要不可欠 な、zn極性 zno基板 の 高品質化が確立 される過程が記述 されている。電気化学的視点か ら発想 した酸 による表面処理、適切 な基 板の ミスカ ッ ト角度の設定、基板内不純物の除去法が確立 され、結晶薄膜成長の基板 として十分な品質の 表面 を実現する手法が述べ られている。第 7章では、第 6章で確立 された高品質 zno基板上 に成長 した、 酸化 マグネシウム( Mg O)を混晶化 した( Mg Zn)0の結晶薄膜の高品質化 について述べている。発光特性 ・ 電気的特性 ともに従来手法では到達 しえなか った高品質薄膜が得 られてお り、本研究方針の妥当性が検証 されている。第 8章では、znOよ りワイ ドバ ン ドギ ャップの( Mg Zn) 0のp型化、およびそれを用 いた p- ( Mg Zn ) 0/ 〟 Zn Oヘテロ接合紫外線 LEDの作製 とその特性 を述べてお り、緑色蛍光体の励起 に成功 して設 定 した研究テーマの目的を達成 している。本研究では一貫 して、化学の観点か ら結晶表面の調整 と結晶成 長のダイナ ミクスに関 して考察が重ね られている。以上の研究成果 は、論文提出者 自身の課題設定の下 に 行われたものであ り、本人が自立 して研究活動 を行 うに必要 な高度の研究能力 と学識を有す ることを示 し ている。 したが って、中原健提出の博士論文 は、博士 ( 理学)の学位論文 として合格 と認 める。 ー3 0 6-
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