反応液中の有機性基

JP 2006-333767 A 2006.12.14
(57)【 要 約 】
【課 題】 微生物により水素を製造する方法において、反応液中の有機性基質濃度を制
御することにより、連続生産時の水素生産量を増加させることが可能である水素製造方法
を提供すること。
【解決手段】 蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有する微生物を含む
反応液に、有機性基質を供給することからなる水素製造方法において、反応液中の有機性
基質濃度を250mM以下となるように制御することを特徴とする水素製造方法。
【選択図】 なし
(2)
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有する微生物を含む反応液に、有
機性基質を供給することからなる水素製造方法において、反応液中の有機性基質濃度を2
50mM以下となるように制御することを特徴とする水素製造方法。
【請求項2】
有機性基質が蟻酸および/または蟻酸塩であることを特徴とする請求項1に記載の水素
製造方法。
【請求項3】
蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有する微生物を含む反応液に有機
10
性基質を供給して水素を製造する水素製造装置において、反応液中の有機性基質濃度の制
御を行うための有機性基質供給ポンプが、有機性基質充填原料タンクと反応容器との間に
設置されていることを特徴とする微生物を用いる水素製造装置。
【請求項4】
請求項3に記載の水素製造装置が搭載されていることを特徴とする燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素生産能力を有する微生物および有機性基質を用いた水素製造方法に関す
る。
20
【背景技術】
【0002】
水素は化石燃料と異なり、燃焼しても炭酸ガスや硫黄酸化物等環境問題より懸念される
物質を発生しない究極のクリーンエネルギー源として注目され、単位質量当たりの熱量は
石油の3倍以上であり、燃料電池に供給すれば電気エネルギーおよび熱エネルギーに高い
効率で変換できる。
【0003】
水素の生産は従来より化学的製法として、天然ガスやナフサの熱分解水蒸気改質法等の
技術が提案されている。この方法は高温高圧の反応条件を必要とすること、そして製造さ
れる合成ガスにはCO(一酸化炭素)が含まれるため燃料電池用燃料として使用する場合
30
には燃料電池電極触媒劣化防止のため、技術的課題解決難度の高いCO除去を行うことが
必要となる。
【0004】
一方、微生物による生物的水素生産方法は常温常圧の反応条件で行うことができ、そし
て発生するガスにはCOが含まれないためその除去も不要である。
【0005】
このような観点から、微生物による生物的水素生産は燃料電池用燃料供給方法のより好
ましい方法として、注目されている。
【0006】
生物的水素生産方法には大別して光合成微生物を使用する方法と非光合成微生物(主に
40
嫌気性微生物)を使用する方法に分けられる。
【0007】
前者の方法は水素発生に光エネルギーを用いるため、その低い光エネルギー利用効率に
より広大な集光面積を要し、水素発生装置の価格問題や維持管理の難しさ等、解決しなけ
ればならない課題が多く実用的なレベルではない。
【0008】
後者の非光合成微生物(主に嫌気性微生物)における水素発生に関する代謝経路は色々
な経路が知られている(グルコースのピルビン酸への分解経路での水素を発生する経路、
ピルビン酸からアセチルCoAを経て酢酸が生成する過程での水素を発生する経路、そし
てピルビン酸由来の蟻酸より直接水素を発生する経路等)。
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(3)
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【0009】
これまで非光合成微生物を使用する従来の水素製造方法では、有機性廃棄物を基質とし
て水素を発酵させる方法において、発酵させる前に予め有機性廃棄物の酸化還元電位を遅
滞なく進行する範囲に調整する方法が示されている(特許文献1参照)。
【0010】
また、本発明者らは、蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有する微生
物を用いた水素の製造方法として、反応液のpHを5.0∼9.0に保持し、有機性基質
の供給を行う水素製造方法を提供していた(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平7−31998
【特許文献2】WO2004/074495A1
10
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有する微生物を用いた上記水素製
造方法において、これまで水素製造時の蟻酸イオン等の有機性基質濃度に関する記載はな
く、また反応液のpHを特定範囲に保持するだけでは、連続的な水素製造において水素生
産量を増大させることは不充分であることが判ってきた。
【0012】
本発明は上記の問題点を解決するため、連続的な水素製造時において微生物による水素
生産量が格別優れている水素製造方法および水素製造装置を提供することを目的とする。
20
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は上記の水素製造方法を種々の観点より考察し、鋭意検討を行った結果、生
物細胞内の蟻酸より水素が生成する代謝経路を主として利用する系において、蟻酸脱水素
酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有する微生物を含む反応液中の有機性基質濃度
を250mM以下に制御することにより、微生物の水素生産能力を効率的に保持すること
ができ、連続的な水素製造時において微生物による水素生産量を増大させることが可能で
あることを見出し、さらに研究をすすめ本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は
30
(1)蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有する微生物を含む反応液に
、有機性基質を供給することからなる水素製造方法において、反応液中の有機性基質濃度
を250mM以下となるように制御することを特徴とする水素製造方法、
(2)前記有機性基質が蟻酸および/または蟻酸塩であることを特徴とする前記(1)に
記載の水素製造方法、
(3)蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有する微生物を含む反応液に
有機性基質を供給して水素を製造する水素製造装置において、反応液中の有機性基質濃度
の制御を行うための有機性基質供給ポンプが、有機性基質充填原料タンクと反応容器との
間に設置されていることを特徴とする微生物を用いる水素製造装置、および
(4)前記(3)に記載の水素製造装置が搭載されていることを特徴とする燃料電池シス
40
テム、
に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有する微生物の
水素生産能力を効率的に保持することができ、連続的な水素製造時の微生物による水素生
産量を増加させることが可能となる。
従来の技術において、一般的に固体高分子型燃料電池の燃料として水素を用いる場合に
は、一酸化炭素(CO)を除去するシステム(CO変成器、CO除去器等)を用いて、C
Oは10ppm以下に維持する必要があったが、本発明の微生物を用いた水素生産方法で
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は主に水素と二酸化炭素からなるガスを生成し、基本的に一酸化炭素を生成しない。その
ため、本発明の方法では、COを除去する改質器の設置が不要となり低コストで実施でき
、また燃料電池の寿命を延長することができる。
【0016】
また、従来の都市ガスを用いた水素発生装置の改質方法では、600℃以上の改質温度
が必要となり、メタノールを用いた改質方法でも数百℃の改質温度が必要となるのに対し
て、本発明の反応容器の温度は常温で用いることが可能であるので、クリーンでかつ低コ
ストで水素を製造できる。さらに、通常、従来の方法では、改質器の立ち上げ、終了時に
時間がかかるものの、本発明の方法では有機性基質の供給と同時に水素生産可能であるの
で水素の生産までの取り扱いが容易で時間を短縮でき、このような水素製造システムは燃
10
料電池システムの一部としても好ましく用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1に、本発明の水素製造方法に用いる反応液中の有機性基質濃度を制御することが可
能な水素製造装置を含む燃料電池システム構成図を一例として示す。以下、本発明の水素
製造方法を図1に基づき説明する。
【0018】
図1の有機性基質の入った原料タンク2から有機性基質供給ポンプ3により、有機性基
質を反応容器1へ供給する。反応容器1には蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ
遺伝子を有する微生物と培地成分を含む反応液が充填されている。有機性基質を反応容器
20
1へ供給することにより、反応液中の微生物が水素を含むガスを生産する。本発明は、蟻
酸より水素が生成する微生物の代謝経路を主として利用する生物的水素製造方法に関する
発明であり、微生物が水素を生産する場合に、反応液中の有機性基質濃度を制御すること
により、連続的な水素製造時において、微生物による水素生産量を増加させることが可能
となる。
【0019】
本発明において使用される有機性基質とは、蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナー
ゼ遺伝子を有し、かつ水素生産能力を有する微生物が、水素を発生(生産)するために利
用し得る有機性化合物をいう。有機性基質としては、特に限定されないが、例えば、蟻酸
、または蟻酸塩、あるいは微生物内代謝経路において蟻酸に変換される糖類(例えばグル
30
コース、フルクトース、マンノース、ガラクトース等)等の化合物が挙げられる。本発明
で用いる有機性基質としては、蟻酸または蟻酸塩であることが好ましい。さらに蟻酸また
は蟻酸塩の中でも、水に対する溶解度の高い化合物、例えば蟻酸、蟻酸ナトリウム、蟻酸
カリウム、蟻酸カルシウム、または蟻酸アンモニウムが好ましく、さらに、コストの面か
ら蟻酸、蟻酸ナトリウムまたは蟻酸アンモニウムを用いることが好ましい。前記有機性基
質は、1種または2種以上を混合して使用することができる。
蟻酸塩を用いた場合には、反応液中に蓄積する陽イオンを取り除くために、例えばイオ
ン交換樹脂等を用いることも可能である。
【0020】
反応液中の有機性基質濃度、例えば蟻酸または蟻酸塩濃度の検出方法としては、例えば
40
、酵素を利用した電極を用いた有機性基質センサー(例えば、蟻酸センサーまたはグルコ
ースセンサー等)を用いる方法、超音波と導電率により測定する超音波液体濃度計を用い
る方法、反応液から抽出した上清から高速液体クロマトグラフィーを用いて分析する方法
、反応液から抽出した上清を、酵素試薬を用いて分析する方法等が挙げられる。また、キ
ャピラリー電気泳動法により蟻酸等の有機性基質濃度を検出することも可能である。中で
も有機性基質センサー(好ましくは、蟻酸センサーまたはグルコースセンサー等)による
方法が、反応液中の有機性基質(蟻酸または蟻酸塩等)濃度を連続的に検出することが容
易であるために好ましい。
【0021】
反応液中の蟻酸または蟻酸塩等の有機性基質濃度は、250mM以下に保持することが
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好ましい。該濃度以下に保持することにより、連続的な水素製造時において微生物による
水素生産量を増大させ、微生物の水素生産能力を保持し得る。さらに、有機性基質が微生
物に及ぼす水素生産能の低下等の影響を少なくするために、該有機性基質濃度は、100
mM以下に保持することが好ましく、50mM以下に保持することがさらに好ましい。反
応液中の有機性基質濃度が250mMより高濃度の場合には、微生物の連続的な水素生産
能力を低下させるため、好ましくない。連続的な水素製造時において微生物による水素生
産量を考慮した場合、蟻酸または蟻酸塩等の有機性基質濃度が低すぎると、単位時間あた
りの水素生産量が減少するために、反応液中の蟻酸または蟻酸塩等の有機性基質濃度は2
mM以上であることが好ましい。したがって、反応液中の蟻酸または蟻酸塩等の有機性基
質濃度を2∼250mMの範囲に制御することが好ましい。
10
【0022】
連続的、あるいは半連続的な水素製造を行うためには、反応液中の蟻酸または蟻酸塩等
の有機性基質濃度を検出しながら、図1の有機性基質充填原料タンク2から有機性基質供
給ポンプ3により、反応容器1への有機性基質の供給量を制御することが必要である。こ
のため、反応液中の有機性基質濃度の制御を行うための有機性基質供給ポンプは、有機性
基質充填原料タンクと反応容器との間に設置されることが好ましい。該間に設置すること
により、有機性基質の供給量の制御が容易となる。前記制御は、蟻酸または蟻酸塩等の有
機性基質濃度制御装置18等により行われることが好ましい。蟻酸または蟻酸塩等の有機
性基質濃度制御装置18には、発生ガスフローメータ4および図1では簡略化している各
種センサー類17が接続され、反応液内の各種データを検出することが可能である。各種
20
センサー類には、例えば有機性基質センサー(蟻酸センサー等)の他、pH、酸化還元電
位(ORP)、微生物濃度、温度、反応容器内の液量等を検出することが可能なセンサー
を用いることが好ましい。これらのセンサー類によって検出されるデータにより、反応液
への有機性基質、培地成分または微生物等の供給量を制御することが可能となる。蟻酸ま
たは蟻酸塩等の有機性基質濃度制御装置18は有機性基質供給ポンプ3、培地成分供給ポ
ンプ12、反応溶液排出バルブ14および微生物供給ポンプ15等に接続され、検出され
たデータからフィードバックすることによって、反応液を連続的な水素生産に適した状態
に保持することが可能となる。
【0023】
反応液中の蟻酸または蟻酸塩等の有機性基質濃度を制御するためのフローチャートの一
30
例を図2に示す。反応液中の蟻酸または蟻酸塩等の有機性基質濃度を250mM、あるい
は設定濃度以下に制御するためには、たとえば有機性基質を供給または停止する方法が挙
げられる。その他、微生物による水素発生(生産)の条件を保持するために、反応容器内
の液量の制御、反応液中のPH、温度、酸化還元電位(ORP)、微生物濃度を制御する
ことも好ましい(フローチャート未記載)。
【0024】
常に反応液内のこれらの条件が把握できるようにするため、センサー類17を反応容器
に取り付けることが好ましい。これにより、それぞれのパラメータを一定の範囲内で制御
することが可能となる。
【0025】
40
反応容器1内の反応液中のpHは約5.0∼9.0の範囲で制御されることが好ましい
。特に約5.0∼9.0の範囲内で、ある一定のpH近辺で制御することが好ましい。こ
の場合、ある一定のpHの近辺とは、pH設定値の±約0.5の範囲内、より好ましくは
、±約0.2の範囲内をいい、この範囲内のpHで反応を行うことが水素発生量を安定さ
せることができるために好ましい。
【0026】
上記の有機性基質の供給から、微生物が水素ガスを含むガスを発生(生産)する段階は
、恒温槽7内にて一定温度の雰囲気で行うことが好ましい。水素の発生反応の反応温度は
、用いる微生物種にもよるが、一般的に、常温微生物を用いた場合、約20℃∼45℃の
条件が好ましく、さらに好ましくは約30℃∼40℃の範囲が微生物のライフの面から好
50
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ましい。
【0027】
反応液としては、還元状態下の培養液を用いることが好ましい。嫌気的条件に準じて、
酸化還元電位は約−100mV(ミリボルト)∼−600mVであることが好ましく、さ
らに約−200mV∼−600mVであることがより好ましい。
【0028】
微生物濃度については、約10%(w/w)∼80%(w/w)(湿潤状態菌体質量基
準)の微生物濃度の水素発生用反応液を用いることが好ましい。反応液の粘性が高くなる
という観点から、微生物濃度は約10%(w/w)∼70%(w/w)(湿潤状態菌体質
量基準)が好ましい。さらには、微生物濃度は約20%(w/w)∼70%(w/w)(
10
湿潤状態菌体質量基準)がより好ましい。この微生物濃度範囲で水素を生産することで、
実用化に必要な水素生産量を得ることが可能となる。
【0029】
さらに、反応容器1内では、微生物と有機性基質との反応性を向上させるために、攪拌
装置8を用いて、攪拌することが好ましい。攪拌動力として、通常モーター9等が用いら
れる。有機性基質は有機性基質補給口10から、補給することが可能である。
【0030】
培地成分の入ったタンク11、培地成分供給ポンプ12、培地成分補給口13、反応液
排出口(サンプリング口)14を設置することができる。微生物は、微生物の入ったタン
ク16から微生物供給ポンプ15により供給することが可能である。また、培地成分の入
20
ったタンク11の培地成分は培地成分補給口13から、補給することができる。
【0031】
本発明で使用される微生物は、蟻酸脱水素酵素遺伝子(F.Zinoni,et al
., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, Vol.83, pp465
0−4654, July 1986 Biochemistry)およびヒドロゲナー
ゼ遺伝子(R.Boehm, et al., Molecular Microbio
logy (1990) 4(2), 231−243)を有する微生物であり、主とし
て嫌気性微生物である。本発明に係る微生物細胞内の蟻酸より水素を生成する代謝経路は
、蟻酸ヒドロゲンリアーゼシステム(以下、FHLシステムとする。)であり、多くの微
生物が有している。
30
【0032】
本発明で使用される具体的な嫌気性微生物の例としては、エシェリキア(Escher
ichia)属微生物―例えばエシェリキア コリ(Escherichia coli
ATCC9637、ATCC11775、ATCC4157等)、クレブシェラ(Kl
ebsiella)属微生物―例えばクレブシェラ ニューモニエ(Klebsiell
a pneumoniae ATCC13883、ATCC8044等)、エンテロバク
ター(Enterobacter)属微生物―例えばエンテロバクター アエロギネス(
Enterobacter aerogenes ATCC13048、ATCC290
07等)そしてクロストリジウム(Clostridium)属微生物―例えばクロスト
リジウム ベイエリンキイ(Clostridium beijerinckii AT
40
CC25752、ATCC17795等)等が挙げられる。
【0033】
さらには、本発明の微生物を用いた水素製造方法において、水素生産能力が向上した組
み換え微生物を用いることが好ましい。このような水素生産能力を向上させる方法として
は、FHLシステムの生成を強化する遺伝子を高発現させる方法、あるいは、FHLシス
テムの生成に関する抑制遺伝子を不活性化させる方法等が挙げられる。ここで、高発現と
は、目的遺伝子(例えば、fhlA遺伝子等)の発現量が増加されていることを意味し、
目的遺伝子をニケ以上有することや、目的遺伝子が一つであってもプロモーターの改変等
により発現量が増加されていることなども含む。
【0034】
50
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このような組み換え微生物の例としては、FHLシステムの転写アクティベーター遺伝
子が高発現された微生物、および、FHLシステムの転写アクティベーター遺伝子が高発
現、かつFHLシステムの生成に関する抑制遺伝子が不活性化されていることを特徴とす
る微生物等が挙げられ、例えばエシェリキア・コリ(ATCC27325)の形質転換体
であり、W3110/ fhlA−pMW118と命名された、独立行政法人 産業技術
総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されている微生物(受託番号:FERM P−
20292)、または、W3110 △hycA / fhlA−pMW118と命名さ
れた、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されている微生
物(受託番号:FERM P−20291)等が、本発明の水素製造方法に好適に使用さ
れ得る。
10
【0035】
本発明で使用される反応容器1内の反応液に用いる成分は、炭素源、窒素源、ミネラル
源等を含む通常の栄養培地をもちいることが出来る。炭素源としては、例えばグルコース
、フルクトース、廃糖蜜等を、窒素源としては、無機態窒素源(例えばアンモニア、アン
モニウム塩、硝酸塩等)または有機態窒素源(例えば尿素、アミノ酸類、タンパク質等)
を用いることができ、それぞれ単独もしくは混合して用いることができる。またミネラル
源として、おもにNa、K、P、Mg、S等を含むもの、例えばリン酸一水素カリウム、
硫酸マグネシウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等を用いることが
できる。この他にも必要に応じて、トリプトン、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コー
ンスティープリカー、カザミノ酸、ビオチン、チアミン等各種ビタミン等の栄養素を反応
20
液に添加することもできる。
【0036】
反応液中には、蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子発現によって誘起さ
れる酵素のユニット機能の発現、維持のためには微量な金属成分を含むことが好ましい。
必要な微量金属成分は微生物種により異なるが、鉄、モリブデン、セレン、ニッケル等が
挙げられる。なお、これらの微量金属成分は酵母エキス等の天然栄養源を用いる場合には
相当程度含まれている。そのため、必ずしも添加を必要とはしない。
【0037】
反応液中には、消泡剤を加えることが好ましい。消泡剤については、公知なものが用い
られる。具体的にはシリコーン系、ポリエーテル系の消泡剤が用いられる。
30
【0038】
本発明に用いる微生物は、好気的条件で培養して微生物を増殖させる第1工程と、増殖
した微生物を嫌気的条件下の培養液中で培養して、微生物に水素発生能力を付与する第2
工程により水素発生(生成)能力を付与しておくことが好ましい。
【0039】
上記第1工程における好気的条件下での微生物の培養は、炭素源、窒素源、ミネラル源
等を含む通常の栄養培地を用いて行うことが出来る。炭素源としては、例えばグルコース
、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ラクト−ス、スクロース、セルロース、廃
糖蜜またはグリセロール等が挙げられる。窒素源としては、上記反応液で使用する窒素源
を同様に用いることができる。またミネラル源としては、主にNa、K、P、Mgまたは
40
S等を含むもの、例えばリン酸一水素カリウム、硫酸マグネシウムまたは塩化ナトリウム
等を用いることができる。この他にも必要に応じて、アンピシリンナトリウムまたはカナ
マイシン等の抗生物質や、トリプトン、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティ
ープリカー、カザミノ酸またはビオチンもしくはチアミン等各種ビタミン等の栄養素を培
地に添加することもできる。
【0040】
好気的条件下での培養の条件として、温度域は、約20℃∼45℃、好ましくは約25
℃∼40℃で培養を行うことが好ましい。pH域は、pH約4.0∼10.0、好ましく
は約5.0∼8.0の範囲で行うことが好ましい。通常、培養開始時の炭素源濃度は約0
.1∼20%(W/V)が好ましく、さらに好ましくは約1∼5%(W/V)である。ま
50
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た、培養期間は、約0.25日∼7日間である。なお、該培養は、通常、通気攪拌、振盪
等の条件下で行う。これら微生物の好気的条件における培養は公知であるので、それらに
従って行ってよい。また、第1工程の培養終了時の微生物培養液中の濃度(w/w%)は
、培養開始時に比較して約2∼1000倍程度とするのがよい。
【0041】
第2工程は、第1工程で得られた微生物を、嫌気的条件下で培養することにより行われ
る。第1工程で培養された微生物は、好ましくは培養液から一旦分離して回収し第2工程
に使用される。すなわち、好気的条件下で増殖させた微生物を、水素発生の阻害になる成
分(例えば、エタノール、酢酸、乳酸等)を含む第1工程の培養液から分離して第2工程
を行うことが好ましい。
10
【0042】
分離の方法としては、遠心分離、膜分離等による公知の方法が用いられる。好気的培養
された微生物を分離回収しないで使用した場合、好気的条件での培養時に生成した細胞内
外に存在する代謝産物が、水素生産能力を有する微生物を培養するのに悪影響を及ぼすた
めに好ましくない。
【0043】
嫌気的条件下での培養液中での微生物濃度は、水素生産能力を発現する微生物を得るた
めに、約0.1∼80質量%(湿潤状態菌体質量基準)が好ましい。さらに好ましくは、
水素生産能力を有する微生物を効率的に得るために約1∼80質量%(湿潤状態菌体質量
基準)であることが好ましい。
20
【0044】
嫌気的条件下とは、培養液中の酸化還元電位が約−100mV∼−500mV、さらに
好ましくは約−200mV∼−500mVであることから確認できる。培地の嫌気状態を
調整する方法としては、加熱処理や減圧処理あるいは窒素ガス等のバブリングにより溶存
ガスを除去する方法が挙げられる。培養液中の溶存ガス、特に溶存酸素の除去を行う方法
としては、約13.33×10
2
Pa以下、好ましくは約6.67×10
2
り好ましくは約4.00×10
2
Pa以下の減圧下で約1∼60分間、好ましくは約5∼
Pa以下、よ
60分間程度、脱気処理する方法が挙げられる。また、必要に応じて還元剤を水溶液に添
加することができる。用いる還元剤としては、チオグリコール酸、アスコルビン酸、シス
ティン塩酸塩、メルカプト酢酸、チオール酢酸、グルタチオンまたは硫化ソーダ等が挙げ
30
られる。これらの1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることも可能である。
【0045】
嫌気的条件下での微生物の培養は、炭素源、窒素源、ミネラル源等を含む通常の栄養培
地を用いて行うことが出来る。炭素源または窒素源としては、好気的条件下での微生物の
培養液と同じものを使用できる。またミネラル源としては、おもにNa、K、P、Mg、
S等を含む、例えばリン酸一水素カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム、塩化ナト
リウム、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸マンガン、塩化カルシウム
、四ホウ酸ナトリウム等を用いることができる。この他にも必要に応じて、アンピシリン
ナトリウムまたはカナマイシン等の抗生物質や、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コー
ンスティープリカー、カザミノ酸または、ビオチンもしくはチアミン等の各種ビタミン等
40
の栄養素を培地に添加することもできる。
【0046】
また蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子発現によって誘起される酵素の
ユニット機能の発現のためには微量な金属成分を含むことが好ましい条件である。必要な
微量金属成分としては微生物種により異なるが、鉄、モリブデン、セレン、ニッケル等が
挙げられる。これらの金属を含む化合物としては、例えばモリブデン酸ソーダ無水物、亜
セレン酸ソーダ五水和物、七モリブデン酸(6−)アンモニウム、硫酸ニッケルアンモニ
ウム、亜セレン酸ナトリウム等が挙げられる。なお、これらの微量金属成分は酵母エキス
等の天然栄養源には相当程度含まれている。そのため、必ずしも添加を必要とはしない。
【0047】
50
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嫌気的条件下での培養の条件として、温度域は、約20℃∼45℃、好ましくは約25
℃∼40℃であることが好ましい。pH域は、pH約4.0∼10.0、好ましくは約5
.0∼8.0であることが好ましい。通常、培養開始時の炭素源濃度は約0.1∼20%
(W/V)が好ましく、さらに好ましくは約1∼5%(W/V)である。
【0048】
嫌気的条件下で微生物を培養するための装置は、培養する容器に水素センサーが載置さ
れていることが好ましい。さらに、容器からのガスの排出工程には発生ガスの検出機器、
例えばフローメータが載置されていることが好ましい。これにより、ガスの発生速度が確
認できる。このガス発生速度の増加の割合が小さくなった場合に、第2工程における嫌気
条件下での水素生産能力を有する微生物の培養反応は終点に到達したと確認することが可
10
能となる。
【0049】
微生物が生産したガスはガス分離装置5にて水素リッチなガスに分離され、燃料電池6
の燃料極に供給される。ガス分離装置5は反応容器1で発生した主に水素および二酸化炭
素を主成分とするガスから、水素リッチなガスを分離する。分離する方法としては、膜分
離法、吸着法等、一般的な方法が用いられる。
【0050】
燃料電池6では、燃料極に供給された水素ガスと、空気極に供給された空気中の酸素と
から、発電することが可能となる。
【0051】
20
以下、実施例により具体的に本発明を説明するが、本発明はこれによりなんら制限され
るものではない。
【実施例】
【0052】
〔実施例1〕
組み換え大腸菌 独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター受託番号:
F E R M P − 2 0 2 9 1 、 W 3 1 1 0 △ h y c A /f h l A − P M W 1 1 8 に よ る 水 素
生産。
【0053】
上記に示した組み換え大腸菌を表1で示される組成の培養液にアンピシリンナトリウム
30
を50mg/Lとなるように添加し、好気的条件下、37℃で一晩振盪培養(前培)を行
った。
【0054】
【表1】
【0055】
次に、一晩振盪培養(前培)を行った上記培養液より大腸菌を一部採取し、下表2で示
される組成の培養液に加え、嫌気性条件下37℃で12時間の振盪培養(本培)を行った
。なお、嫌気性条件下での培養時に、培養液のpHは6.0を保つように、適時5M水酸
化ナトリウム溶液の添加を行った。
【0056】
40
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【表2】
10
20
【0057】
ついで、本培養液を遠心分離機にかけ(5000回転、15分)、上澄み液を除去し、
水素生産能力を有する微生物を得た。本微生物を遠心分離により分離後、下表3の組成で
示される還元状態にある反応液300ml(ミリリットル)に懸濁した(微生物濃度約4
0質量% 湿潤状態菌体質量基準)。
【0058】
【表3】
30
【0059】
40
今回の実施例に用いた装置の概略図を図1に示す。
上記で作成した微生物懸濁反応液を反応容器1へ注液し、培地成分の入ったタンク11
には表3で示される反応液を注液した。
ま た 有 機 性 基 質 を 入 れ る 原 料 タ ン ク 2 に は 、 2 6 M ( モ ー ラ ー モ ル /リ ッ ト ル ) の 蟻
酸を注液した。
【0060】
反応液中の蟻酸イオン濃度の測定は、吸光度測定法に従い、反応液排出口(サンプリン
グ口)14から採取し、遠心分離した反応液の上清を蟻酸測定キットを用いて行った。測
定キットとして、F−キット蟻酸(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を用いた。
【0061】
50
(11)
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水素生産は、蟻酸を供給することにより開始した。水素生産量は、発生ガスフローメー
タ4(コフロック製 MODEL3810)により、ガス流量を検出し、水素発生量に換
算し、水素発生速度を得た。なお、発生したガス組成は、ガスクロマトグラフィー(島津
製作所製 GC14B)により、50容積%の水素と残余のガスを含んでいることが確認
出来た。
蟻酸の供給を開始後、反応液中の蟻酸濃度の測定を10分間隔で行った。
その測定結果により、反応液中の蟻酸濃度を得た。
【0062】
また、蟻酸の供給量(mol/min)と発生ガスフローメータ4の値から得られる水
素ガスの発生量(mol/min)のそれぞれの値、およびそれらの差分からも、補助的
10
に反応液中の蟻酸濃度の変動を観測した。
液中の蟻酸濃度から、有機性基質供給ポンプ3で蟻酸濃度の供給量を制御しながら、反
応液中の蟻酸濃度が250mMになるように制御を行い、6時間での積算水素生産量の測
定を行った。
【0063】
〔実施例2∼7〕
反応液中の蟻酸濃度を、200mM(実施例2)、100mM(実施例3)、50mM
(実施例4)、10mM(実施例5)、5mM(実施例6)、2mM(実施例7)、30
0mM(比較例1)、1mM(比較例2)で制御する以外は、実施例1と同様の方法で、
培養、水素生産の評価を行った。
20
【0064】
図3は、実施例1∼7、比較例1、2の結果から、反応液中の一定濃度以下に制御を行
った蟻酸濃度と水素生産量の関係を示している。
【0065】
この結果より、反応液中の蟻酸濃度を250mM以下に制御することで、水素生産量が
大きく増加することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有する微生物の
水素生産能力を効率的に保持することができ、連続的な水素生産時の微生物による水素生
30
産量を増加させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、本発明の水素製造装置を用いた燃料電池システムの概略構成図である。
【図2】図2は、本発明の有機性基質濃度制御装置のフローチャートである。
【図3】図3は、本発明の水素製造装置を用いた反応液中の蟻酸濃度と水素生産量(6h
rの積算量)の関係を示した図である。
【符号の説明】
【0068】
1:反応容器
40
2:有機性基質充填原料タンク
3:有機性基質供給ポンプ
4:発生ガスフローメータ
5:ガス分離装置
6:燃料電池
7:恒温槽
8:攪拌装置
9:モーター
10: 有 機 性 基 質 補 給 口
11: 培 地 成 分 の 入 っ た タ ン ク
50
(12)
12: 培 地 成 分 供 給 ポ ン プ
13: 培 地 成 分 補 給 口
14: 反 応 液 排 出 口 ( サ ン プ リ ン グ 口 )
15: 微 生 物 供 給 ポ ン プ
16: 微 生 物 の 入 っ た タ ン ク
17: 各 種 セ ン サ ー 類
18: 有 機 性 基 質 濃 度 制 御 装 置
【図1】
【図2】
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(13)
【図3】
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(14)
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(72)発明者 横山 益造
京都府相楽郡木津町木津川台9丁目2番地 財団法人地球環境産業技術研究機構内
(72)発明者 虎太 直人
大阪府大阪市阿倍野区長池町22番22号 シャープ株式会社内
(72)発明者 吉田 章人
大阪府大阪市阿倍野区長池町22番22号 シャープ株式会社内
(72)発明者 後藤 泰芳
大阪府大阪市阿倍野区長池町22番22号 シャープ株式会社内
Fターム(参考) 4B029 AA02 BB01 BB02 CC01 DA03 DB19 DF01 DF02 DF03 DF04
DG08
4B064 AA03 CA01 CA02 CA19 CB13 CC03 CC06 CC07 CC09 CC12
CD05 CD07 DA16
5H027 AA02 DD05 KK31