国 語

国
語
1 小学校国語科の
小学校国語科の教育課程実施上の
教育課程実施上の課題と
課題と指導上の
指導上の留意事項
(1) 教育課程実施上の課題
ア 国語科における言語活動の充実を図る授業づくりを推進する。
イ 系統的・重点的な学習指導を行うための年間指導計画を作成し活用する。
ウ 指導に生きる学習評価の一層の推進を図る。
(2) 指導上の留意事項
ア 年間を見通した上で、本単元で取り上げる指導事項と言語活動を明確にする。
① 国語科は「言語活動を通して指導事項を指導すること」が基本であり、「単元を貫
く言語活動」を位置付けた指導過程を重視する。
② 取り上げる指導事項と言語活動を明示した学習指導案の形式を工夫する。
イ 児童の主体的な思考や判断を重視した授業づくりに取り組む。
① 児童の伝えたい思いや願いを相手や目的を明らかにして表現したり、本や文章を選
んで読み疑問を解決したり、自分の心に響く言葉を見付けて友達と伝え合ったりする
ことなどを重視する。
② 具体的には次のことを大切にする。
・単元を貫く言語活動の具体的な姿(種類や特徴)を明確に把握する。このことで、
相手意識や目的意識を明確にしたり、伝えたい自分の考えを確かにしたりできる。
例えば、「調査報告を書く」等の種類や「提案する」等の特徴が考えられる。
・児童が言語活動の見通しを立てたり、伝えたい思いや願いを膨らませたりできるよ
うな単元の導入を工夫する。
・単元の中盤においても、児童の「教材文の中で心に響いたこの部分を推薦したい」
などの思いが単元末の学習活動と密接につながるように配慮する。
ウ 授業改善のための適切な情報活用と共通理解に基づく校内体制づくりに取り組む。
① 『小学校学習指導要領解説国語編』、「言語活動の充実に関する指導事例集」、「評
価規準の作成のための参考資料」、「評価方法等の工夫改善のための参考資料」等を
授業改善に活用する。例えば、授業研究後に共通の資料を参照しながら、授業におけ
る児童の姿を意味付けたり、授業者の指導の在り方を検討したりする。
2 学習指導要領の
学習指導要領の趣旨を
趣旨を生かした国語科
かした国語科の
国語科の授業づくりにおいて
授業づくりにおいて配慮
づくりにおいて配慮すべき
配慮すべき事項
すべき事項
(1) 児童の実生活に生きて働き各教科等の学習の基本ともなる国語の能力を育成することな
ど、国語科の「改善の基本方針」への共通理解
ア 国語科の「改善の基本方針」や「改善の具体的事項」などを共通理解する。例えば、
「改善の基本方針」としての「実生活で生きて働き、各教科等の学習の基本ともなる国
語の能力を身に付けること、我が国の言語文化を享受し継承・発展させる態度を育てる
ことに重点を置いて内容の改善を図る」等の認識を深める。(中央教育審議会答申「幼
稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」
平成20年1月所収)
(2) 年間を見通し、系統的・重点的な指導を行う基盤となる指導計画の作成と活用
ア 年間指導計画は各単元で付けたい国語の能力の根拠であり、どの指導事項をどの単元
で取り上げるのかを一覧できるような指導計画(マトリックス表)を作成して随時見直
していくことが有効である。
イ 児童が身に付けた国語の能力と更に必要とする国語の能力を見据えながら、年間・単
元・単位時間などの局面でより具体的に付けたい国語の能力を把握する。
(3) 当該単元で取り上げる指導事項を指導するのにふさわしい言語活動を選定する教材研究
ア 単元を貫く言語活動がどのような特徴をもつのか、その特徴のうち、どのような要素
を取り上げて指導することで指導のねらいが実現できるのかを明確にする。
イ 単元で付けたい国語の能力を確実に付けさせるために、関連して提示する本や文章な
どを分析する。
ウ 教材研究として事前に単元を貫く言語活動に取り組み、その妥当性を吟味する。
(4) 児童が自ら学び、課題を解決していくための、単元を貫く言語活動を位置付けた指導過
程の構想
ア 言語活動を軸とした単元の流れを重視する。
① 当該単元で重点的に指導すべき指導事項を確定する。
② その指導事項を指導するために、ふさわしい言語活動を選定する。
③ 言語活動を位置付けることで、付けたい国語の能力の一層の明確化・具体化を図る。
④ それら付けたい国語の能力を身に付けさせるための指導過程を構築する。
イ 指導過程を構想する際に、次の点に留意する。
① 児童が前単元の学習を振り返ったり、課題意識を明確にしたりする導入の学習を位
置付ける。
② 指導のねらいと児童の課題意識とが同じ方向性をもつようにする。
③ 単元内でも読み返したり、繰り返し話したり書いたり、並行して読んだりするなど
の学習を柔軟に取り入れる。
④ 活動手順を記載するだけでなく、押さえるべき要点を具体的に列挙する。
⑤ 指導過程に具体的な評価規準を適切に位置付ける。
(5) 言語活動を通して付けたい国語の能力を指導し評価するための評価規準の設定
ア 年間指導計画を見通して、どの領域を取り上げるのか、一領域に絞るのか、複数領域
を複合させるのかということを確定した上で、単元の評価の観点を設定する。
イ 単元の評価の流れを重視する。
① 当該単元で取り上げる指導事項と言語活動を確認する。
② 単元の目標を設定する。
③ 単元の評価規準を設定する。
④ 指導過程を構想し、具体的な評価規準を設定する。
ウ 設定した評価規準に基づく授業中の児童の実現状況を捉えて指導の妥当性を検証する
取組を繰り返すことで、評価規準設定の精度を高める。
(6) 本時のねらいの実現に必要な、主体的な思考や判断を促す発問や指示の吟味
ア 優れた発問や指示には、次のような特徴がある。
① 授業のねらいに基づき、どのような国語の能力を問うのかが明確である。
② 何のためそうするのかが、児童にとっても明確である。
③ 何を、どうするのか、児童に具体的に示されている。
④ 発問や指示のきめ細かさが、児童の実態に応じて考慮されている。
⑤ 考える手掛かりや表現したり理解したりする際の基盤となる知識が、児童にとって
過不足なく提示されている。
イ 指導目標に照らして児童がどのような言葉を用いたのか、それはどのような思考や判
断に基づいたものであるのかを、児童の発話や記述を基に検証する。
(7) 指導事項に示すねらいを実現するための学校図書館等の利活用など言語環境の整備充実
ア 本の題名や種類などに注目したり、索引を利用して検索したりするなどにより、児童
が課題や目標をもって必要な本や資料を選ぶことができるように指導する。
学習指導要領の趣旨を生かした取組例<国語1>
説明の仕方を評価しながら読む言語活動の工夫
上越市立春日小学校
■取組のポイント■
①論証の特徴に着目し、評価しながら説明的文章を読む言語活動を工夫する。
②自己の学びを振り返り、言葉で表す言語活動を工夫する。
③知識を活用したり、学びを自己評価したりする言語活動を工夫する。
1
単元の構想
(1) 単元名(教材名) 説明の仕方について考えよう (「天気を予想する」光村図書5年)
(2) 単元の目標
文章構成の工夫や非連続型テキスト活用の効果に着目しながら教材文を読み、文章に書かれて
いる内容のだいたいやその要旨をとらえることができる。
(3) 単元について
①学習指導要領における位置付けについて
学習内容の学習指導要領における位置付けを考えて、単元の目標や評価規準を設定する。
・「C読むこと」第5学年及び第6学年 ウ
・「伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項」イ(オ)(キ)
②言語活動の工夫
ア 論証の特徴に着目し、評価しながら説明的文章を読む言語活動
教材の論証の二つの構造に着目し、筆者の意図を想像したり、それらにどのような効果
があるか評価したりしながら読む経験をさせたい。
一つは、問いと答えの連続した流れに読者を巻き込み、読者の関心と理解を深めながら
自己の主張までを導く文章構成である。着目する段落やその順序を工夫する。二つは、多
種の非連続型テキストを活用していることである。それにより自己主張が事実により裏付
けされている。非連続型テキストの有無の比較から考えを深めさせる。
イ 自己の学びを振り返り、言葉で表す言語活動
自己の学習を振り返り、気付きを言葉で具体化することによって、知識の定着を図る。
本単元では、文章構成図に名前を付けたり、その日の学びをノートに記述したりする言語
活動によって、児童は論証の特徴を探った過程や自己の学びを振り返り、それを言葉によ
って具体化する。学びを知識として定着させたい。
ウ 知識を活用したり、学びを自己評価したりする言語活動
アの獲得した知識を、活用させることにより、知識の定着や、新たな知識の獲得を期待
する。児童の興味や必要感を高める課題、解決のために児童同士の交流が生まれる課題を
提示し、互いの知識を共有したり高め合ったりできるような言語活動を発展的活動として
単元の終末に設定する。
2
ア
単元の評価規準
国語への関心・意
欲・態度
イ
読む能力
ウ
言語についての知識・
理解・技能
①題材、筆者の考え、文
①文章構成の工夫や非連続型テキスト
①語と語の関係に気を付ける
章の書かれ方の工夫に興
活用の効果に着目して、文章のだいたい
ことで、文の意味がとらえや
味をもって読もうとして
や要旨を読んでいる。
す く なる こ とに 気付 い てい
②筆者の説明の工夫や主張の内容につ
る。
いる。
いて評価し自分の考えをまとめている。
3
指導と評価の計画
時間
◎ねらい
○学習内容
・学習活動
○
評価規準
・評価方法
第一次
◎話題、筆者の主張についての関心を高め、文章を意欲的に読む。
第1時
○天気予報について話し合い、教材文に興味をもつ。
○教材文を読んだ感想を書いたり、友達と
・天気に関することわざや雲の形などを見ながら、天気
積極的に話し合ったりしている。
【ア】
予報についての知識を発表し合う。
・ノートの記述
・発言の内容
・教材文を読み、初めて知ったことや興味をもったこと
について感想を書いたり、友達と話し合ったりする。
第二次
◎文章の内容を読み取り、筆者の説明の仕方について考えを深める。
第2時
○文章の構成の工夫に気付く。
○
第3時
・問いと答え(理由)の分担読みをする。
係を考えて文章構成図を作り、
「筆者の説
・文章構成図を作り、文章構成の工夫を話し合い、自分
明の工夫」について自分の考えをまとめ
の考えをまとめる。
ている。
【イ-②】
問いと答えの関係や、問いと問いの関
・ノートの記述
第4時
第5時
教材文を正しく読み取り、語と語の関
○要旨をとらえる。
○
・語と語の関係を考えながらまとめの一文を書き、友達
係を考えながら、文章のまとめを端的な
の文と比較して意見を交流する。
一文で書いている。
【イ-①】
【ウ】
・筆者のまとめの一文と比較する。
・ノートの記述
非連続型テキストを活用する効果につ
○表・グラフ・図・写真を活用する効果に気付く。
○
・表・グラフ・図・写真と文章との関連を確認する。
いて考えを深め、
「筆者の説明の工夫」に
・表・グラフ・図・写真の有無を比較し、それらを活用
ついて自分の考えをまとめている。
する効果について話し合い、自分の考えをまとめる。
【イ-②】
・ノートの記述
第三次
◎説明の仕方について評価しながら文章を読む。
第6時
○新聞を読み比べる。
○
第7時
・同じ話題を扱った、表現の仕方の異なる新聞記事を読
けたり、それを評価したりしている。
み比べ、友達と気付きを話し合う。
【イ-①】
・ノートの記述 ・発言の内容
既習事項を想起しながら、違いを見付
4
指導の実際
(1) 段落同士の関係に着目しながら文章構成図を作り、名前を付ける
第2次の第2時では、教材文のコピーを配布し、段落ごとに切り分けさせた。
(以下「段落カード」)
最初に、関連が強いと思われる段落カード同士を近付けて机上に置かせた。1・2・3段落、
4・5・6段落、7・8・9段落、10段落と大きく4つに分けた児童が多かった。次に、筆者
の主張が書かれている段落カードを探させた。児童はすぐに10段落を選んだ。10段落カード
に「筆者の主張」と朱書きさせた。さらに、10段落と関連が強い段落を尋ねると、8・9段落
の二つだと答える児童と、7・8・9段落の三つだと答える児童に分かれた。以下、児童の話合
いの内容である。(C=児童、T=教師)
C1:8段落と9段落は、話がつながっているでしょ。(全員がうなずいて納得。)そしてこの二つは、10段
落と同じことを、もっとたくさんの言葉で書いてあるね。
C2:まとめっていうか、8・9段落の内容を、10段落が、もう一回念押してるんだよね。
C3:じゃあ、7段落もつなげていいでしょ。だって、この(8・9段落の)問いなんだもん。
C5:いいよ。(7段落をつなげて)ちょっと離した方がよくない?問いと答えは別だし。
C4:じゃあ、ちょっとだけ離す?
10段落はいっぱい離そうよ。
C2:え?だけど、10段落って8・9と同じだから、10も7の答えじゃない?
C1:え~?10段落の問いって、1段落でしょ?いつもそのパターンじゃない。
C2:1段落じゃないよ。(1段落を見せて)ほらね。
(10段落の)問いはやっぱり7でしょ。
この後、全員で気付きを話し合い、10段落の問いが7段落にあることが確認された。そこで、
7段落からちょっと離して8段落と9段落を置く、それよりも離して10段落を置くとよいこと
を周知した。
第2次の第3時では、筆者の主張である10段落が1段落の問いの答えになっていないという
疑問から発し、グループの話合いを通して文章全体の構成を解き明かすことを目標にした。グル
ープは4~5人で編成した。以下、あるグループの話合いの内容である。
C6:なんかさあ、7・8・9段落と、4・5・6段落と、1・2・3段落って同じじゃない?
C7:7と8・9ってなってるところ?
T
:じゃあ、4と5・6ってなってる?
C6:なってるよ。ほら、4が問いで、5・6が答えじゃない。1と2・3もだよね。
C8:たん・たた・たん・たたって、問いと答えの同じリズムが三つある感じ。
T
:偶然三つの塊が同じリズムなのかな?
C9:(筆者が)わざと読み易く作りたかったのかな。
C6:そうだよ、きっと。じゃあ。三つ縦に並べようよ。でも俺、7と5・6ってつなげたい。
C7:私も。だって、同じ、
「突発的・局地的な天気の変化」について書いてあるし・・・
C8:じゃあ、4―と5・6って並べて、その6の下に、7と8・9って階段みたいに置けば?
T
:階段みたいだね。こういう構成の文章を読んで、どう思う?
C9:落とし穴に落とされる感じ。読んでいくうちに深くなって、最後に筆者の考えに落ちる。
C8:みんな筆者に納得させられるようになってるんだね。やるね~。
グループで話し合って文章構成のだいたいが決まった後、他のグループとの交流を行った。自
分たちが作った文章構成図の説明と、そのようにした理由について話し合った。他グループの意
見を参考に修正を図った後、A3用紙に段落カードを貼り、段落同士の関連を線でつながせた。
(2) 自己の学びを振り返り、言葉で表す
第2次の第4時では、完成した文章構成図に、構成の特徴を表す名前を個々に付けさせた。先
に紹介したグループの C9は、
「尾括型階段型」と名付けていた。このグループと分け方は同じだ
が1-2・3-4-5・6・・・と縦に配列したグループの児童は「尾括型竜巻型」(竜巻のよ
うに問いと答えを回りながら、次第に主張へと落ちていくから)と名付けていた。
授業の最後に、以下の文を穴埋めさせて、ノートに学習のまとめを書かせた。
「天気を予想する」は、「
型」で書かれています。また、・・・・という工夫があり
ます。だから、この文章には説得力があります。
(3) 新聞記事を読み比べ、相違点を見付け、その効果について話し合う
第3次の第6時と第7時の学習の様子である。
新聞の読み比べを、二回を行った。第6時には、エコ家電の広告記事三つ、第7時には、上越
に作られる新幹線の駅名について書かれた記事三つをそれぞれ読み比べた。児童は、教材文を読
むときに学習したことを思い出しながら、最も説得力のある記事を選び、その記事がいかに素晴
らしいかを説明するプレゼンテーションを行った。児童の視点はだいたい次の4つであった。
・筆者の主張が書かれている段落の位置(頭括型・尾括型・双括型)
・トッピック・センテンスの有無
・非連続型テキストの数と質
・量的検証の有無(調査結果が数値で示されている)
・例の数と質(わかりやすい例を挙げている・二つか三つ重ねて例を挙げている)
頭括型より、双括型や尾括型の方が説得力が増すということ、非連続型テキストは数が多すぎ
ても少なすぎても効果が低くなること、調査結果が表やグラフで示されると信用度が増すことな
どを理由に、自分の選択した記事のよさについて、発表は質疑を繰り返した。最終的には多数決
によって学級新聞に掲載する記事を一つ決定した。
5
考察
(1) 論証の特徴に着目し、評価しながら説明的文章を読む言語活動について
第2次第2時の話合いの前半では、着目する段落を10段落とそれにつながる段落と限定をか
けている。問いと答えの関係があることに気付きやすくした。実際に児童は、10段落と、8・
9段落が同じ内容であること、また8・9段落が7段落の問いの答えになっていることに気付き、
それを共有することができた。この二つの関係をさらに結び付けることに試行錯誤する中、話合
いの後半の C2の発言により、10段落の問いが7段落に当たることに気付く。話合いを通して
児童は、筆者の主張につながる問いが文章の冒頭にはない未習の文章構成の存在に気付くのであ
る。さらに、7段落より前の段落はどんな役割を果たしているのかと、文章の構成全体への関心
を深めて学習を進めていく様子が見られた。
第3時では、C8が、文章中に問いと答えの組合せが三つあることに気付く。また、C8は、三
つの組合せが階段状に並べられることに気付く。それらの気付きに対して、C8や C9は、「読み
易く作っている」、「読んでいるうちに筆者の考えに落ち、みんな納得させられる」と、文章構成
について自分なりの評価を行うことができている。
これらの児童の姿の分析から、着目する文章の範囲に限定をかけたり、着目する順序を示した
りすることによって、5年生であっても文章構成の特徴を捉えることができ、また、そこから筆
者の意図を想像することができた。第4時では、非連続型テキストの有無や種類を比較する活動
を通して、文章の内容に合致した具体的事実を効果的に提示し、読者を説得しようとする筆者の
意図を想像することもできた。このような言語活動が、児童が文章全体をとらえ評価しながら読
んだり、読むことに対する関心を高めたりすることに有効に働いていることが分かる。児童の思
考の行方を想定しながら複数の言語活動の関連を図り単元を構成することが、児童の気付きの連
鎖と深まりを生むのである。
(2) 自己の学びを振り返り、言葉で表す言語活動について
第4時での、児童が文章構成に対して「尾括型階段型」「尾括型竜巻型」と名付ける様子から、
自分が何に着目して文章構成を作ってきたかという学習過程を振り返っていることが分かる。ノ
ートに書いたまとめの一文の内容からも同様のことが言える。このように学びを言葉で具体化す
る言語活動を取り入れることで、学習経験を思い出しやすくなり、知識として定着すると考える。
(3) 知識を活用したり、学びを自己評価したりする言語活動について
第3次の第6時と第7時の児童の様子から、児童は既習の知識を十分に活用しながら、新聞記
事を評価したことが分かる。また、例えば非連続型テキストの有無だけに止まらず、その量や質
についてまで気付きを広げていることが分かる。このことから、児童の興味や必要感を高める課
題、解決のために児童同士の交流が生まれる課題を提示し、既習の知識を活用する言語活動を設
定することは、互いの知識の共有や高め合いに有効であると考える。
6
今後の課題
本単元では、文章の構造に限定をかけて着目させ、評価しながら読ませた。文章の構造につい
ては、国語の授業時間に限らず、様々な種類の説明的文章に出会う機会を設け、その文章の目的
によって構造の特徴が異なることを理解させたい。また今後、内容や表現について評価しながら
読む経験も取り入れたい。
限られた時数でそれらの活動を設定するためには、目の前の児童の実態と学習指導要領の内容
から、1年間で育みたい力、1単元で育みたい力を明確にすることを大切にしたい。また、その
ための方途を模索し、全体を見通して言語活動の関連を図りながら単元を構想することを大切に
したい。
学習指導要領の趣旨を生かした取組例<国語2>
日常生活で必要とされる、事物を説明する文章を書く指導の工夫
燕市立吉田南小学校
■取組のポイント■
①順序を表す言葉に沿って書かせることで、段落の整った文章を書かせる。
②相互評価(「学びの道すじ」の「学び合い」)を組織することで、表現を練り直させる。
1
単元の構想
(1) 単元名
「待っててね!1年生
楽しいおもちゃの作り方を教えるよ」
教材文:「しかけカードの作り方」「おもちゃの作り方」(光村図書
2年)
(2) 単元の目標
紹介したいおもちゃの作り方を1年生に知らせるために、教材文から読み取った文章構成を基
に、絵を用いたり、順序に注意したりして文章を書くことができる。
(3) 単元について
本単元は、「しかけカードの作り方」(読むこと)で学習したことを「おもちゃの作り方」(書
くこと)で活用して、生活科で一緒に遊んだ1年生におもちゃの説明書を書くという活動である。
「しかけカードの作り方」は、〈前書き〉〈材料と道具〉〈作り方〉〈使い方〉の大段落に分け
られている。〈作り方〉では、作業の手順がまとまりごとに順を追って示されているので、実際
に材料と道具を用意し、文章の通りに手を動かしながら読むことによって、書かれていることを
正確に理解していく。また、文章だけでなく、写真を文章と結び付けて丁寧に見ることによって
〈作り方〉を理解できることにも気付かせたい。
「おもちゃの作り方」では、明確な構成を考えて文章を書くようにする。概要、準備、作業の
手順と進む論の進行は、他者に何かを説明する時の典型的な展開だからである。また、自分が作
業したことを的確に表す言葉の選び方や、手順がよく伝わる文の順序などを考えさせて書かせる。
単元全体を貫く言語活動として「1年生への説明書を書く」ことを位置付けている。この言語
活動の位置付けにより、児童が目的や相手を明確に意識して学習を進めることができるようにし
ている。
2
単元の評価規準
ア 国語への関心・意 イ
読む能力
ウ
書く能力
欲・態度
エ
言語についての
知識・理解・技能
①紹介したいおもち ①事柄の順序(手順)
①書こうとするおもちゃ ①文の中における主
ゃ作りの手順を、分 を意識して読んでいる。の作り方について、書く 語と述語との関係に
かりやすく説明しよ ②文と写真を結び付け
事柄を集めている。
うとしている。
て読んでいる。
②おもちゃの手順に沿っ 書いている。
③まねしたい書き方を
て、簡単な構成を考えて
見付けている。
いる。
③語と語や文と文の続き
方に注意しながら、文章
を書いている。
注意して文や文章を
3
指導と評価の計画
時間
◎ねらい
○学習内容
・学習活動
ο評価規準
・評価方法
第一次
◎ねらい:1年生にも分かりやすい「おもちゃの説明書」を作ってプレゼントするため
に「しかけカードの作り方」で説明の仕方や手順を学ぶ。
①
○教材文を読んで、学習の進め方を確かめる。
②
・しかけカードが、どのような物かを知る。
・新出漢字の練習をする。
ο学習への意欲を高めている。
【ア-①】・観察
ο教材文を読み、しかけカードを作
ろうとしている。【ア-①】・観察
③
○教材文を読み、作り方の手順を理解して、しか ο順序を表す言葉や写真を見ながら、
けカードを作る。
・作り方を読みながら、しかけカードを作る。
作り方を理解している。
【イ-①②】
④
・絵や言葉を入れて、しかけカードを完成させる。 ・ワークシート、しかけカード
⑤
○作り方を振り返り、まねしたい書き方を見付け、 οまねしたい書き方を見付けている。
まとめる。
【イ-③】
・〈前書き〉〈ざいりょうと道具〉の文章の中で、 ・ノート、発表
分かりやすく説明するための工夫にサイドライン
を引き、まねしたい書き方をまとめる。
⑥
・〈作り方〉〈つかい方〉の文章の中で、分かりや
すく説明するための工夫にサイドラインを引き、
まねしたい書き方をまとめる。
第二次
◎ねらい:「おもちゃの作り方」で説明書の書き方やより良い書き方の工夫を学び、書
①
○教材文「けん玉の作り方」を読んで、「しかけ ο説明書を読んで、まねしたい書き
く意欲を高める。
カードの作り方」で学んだ、まねしたい書き方が 方の使い方を確かめている。
使われているところにサイドラインを引く。
②
【イ-③】
・教科書
○まねしたい書き方や【モデル文】を使いながら、 οおもちゃの説明書を、分かりやす
分かりやすくなるように〈前書き〉と〈材料と道 く書いている。【ウ-①②③】
具〉を書く。
③
・ワークシート
・まねしたい書き方や【モデル文】を使いながら、 οおもちゃの説明書を、分かりやす
分かりやすくなるように〈作り方〉を書く。
く書いている。【ウ-①②③】
・ワークシート
④
○〈作り方〉の部分について、「様子を表す言葉」 οおもちゃの説明書を、「様子を表
を使って、より分かりやすい文章になるようにす す言葉」を入れて分かりやすく書い
る。
ている。【ウ-①②③】
・ワークシート
⑤
・まねしたい書き方や【モデル文】を使いながら、 οおもちゃの説明書を、分かりやす
分かりやすくなるように〈あそび方〉と1年生へ く書いているか。
のメッセージを書く。
⑥
⑦
・ワークシート
【ウ-①②③】
○書いた説明書を読み合い、読んだ感想を伝え合 οおもちゃの説明書のよさを伝え合
っている。
っている。【ア①】・観察
○おもちゃの説明書を清書する。
ο誤字脱字に注意し、清書している。
【ウ③】・おもちゃの説明書
生活科
あそびランドへようこそ
・
本単元で作ったおもちゃの説明書を、1年生にプレゼントする。
4
指導の実際
第1次の第1時で、児童は生活科のあそびランドの活動を振り返りながら、
「楽しかった。」
「ま
た1年生と遊びたいな。」と話していた。そんな時に、1年生から「ぼくたちも2年生のように
おもちゃが作りたい。」という手紙が届いたことから、「1年生にも分かりやすいおもちゃの説明
書を作ろう。」という単元学習をスタートさせた。
第1次の第3、4時では、「しかけカードの作り方」を読みながら、実際にしかけカードを作
った。児童は、順序を表す言葉や「絵のように」という言葉を頼りにしながら、全員がしかけカ
ードを完成させることができた。
第1次の第5時で教材文を読みながら、しかけカードを作った活動を振り返り、まねしたい書
き方を発表させた。
第2次の第1時では、教材文「しかけカードの作り方」でまとめたまねしたい書き方が、教材
文「けん玉の作り方」のどの部分に生かされているかを考えさせ、見付けさせた。児童は、〈作
り方〉の大段落において、「順序の言葉、つなぎ言葉」「1つの段落に1つの写真」「やり方の文
とこつの文」が使われていることに気付いた。
続いて、第2次の第3時では、紹介したいおもちゃの説明書の〈作り方〉の大段落を書いた。
まねしたい書き方の一覧だけでは、そのまま書く際のモデルとはなりにくいので、2つの教材文
を基にして、より児童が書きやすいと思えるような型の文章も提示した。(図1)
・C1「順序の言葉が必要だ。ぼくが作ったおもちゃは、いくつの段落で書くといいかな。」
・C2「大きく分けると3つの段落で書けそうなので、紙を貼る作業と穴を開ける作業とまと
を作る作業は分けて書こう。」
このようにして、順序を表す
言葉に沿って書かせることが段
落を考えることにもつながって
いった。
また、事前におもちゃを実際
に作ったことにより、段落も考
えやすくなったようだった。
それでも段落をうまく作れな
い児童には、手順ごとにデジタ
ルカメラで撮影した写真を渡し
図 1
た。児童は、写真と順序を表す言葉を用いながら、段落のある文章を書くことができた。
第2次の第4時では、様子を表す言葉を使って、より分かりやすい文章になるようにするとい
う活動を行った。児童は、これまで様子を表す言葉を使って作文を書くことがあまりできないで
いたので、ぜひ身に付けさせたい表現の力だった。
様子を表す言葉を入れると、文が分かりやすくなることを全体で確認した後、3人グループで
それぞれの説明書を読み合い、相互評価をする活動(対話活動)を行った。
次のような児童の発言があった。
・C3「はずれたら困るから、『ぐるぐる』
ぐるぐる』とか『
とか『ぴったり』
ぴったり』とかいう言葉があるといいね。」
・C4「紙コップの下の部分と書いても分からないかもしれないから、『絵のように』
のように』って書
いて、絵で書いてあげると伝わりやすくなると思うな。」
・C5「糸の長さが分からないから、『30㎝』
」
30㎝』とか、長さを入れると良いと思うよ。
㎝』
このように、各グループとも互いの説明書をさらに良くするために、相互評価(対話活動)を
しながら、表現を練り直す姿が見られた。
5
考察
(1) 順序を表す言葉に沿って書かせることで、段落の整った文章を書かせる。
事柄の順序(手順)に沿って文章を書くことは、児童にとって初めての経験である。児童にど
のように段落を意識させながら説明書を書かせていくかというのが、大きな課題であった。
そこで、「しかけカードの作り方」と「けん玉の作り方」の教材文から、順序を表す言葉を抜
き出してAパターン、Bパターンという形で児童に示したところ、児童は、自分のおもちゃの作
り方の難度に合わせて、どちらかのパターンを選択して〈作り方〉を書くことができた。
(図1)
また、それぞれの段落ごとに絵を書いたり、写真を貼ったりしたことも、段落の整った文章を
書くために非常に有効な手立てであった。実際に作ったおもちゃに触れて、手順を思い出しなが
ら文章を書いている児童もいた。ほとんどの児童は、3段落から6段落の分け方で〈作り方〉を
書いた。そこで、選択した段落数に仕切られている清書用のワークシートを数種類用意したとこ
ろ、児童は意欲的に書くことができた。
(2) 相互評価(学びの道すじの「学び合い」)を組織することで、表現を練り直させる。
当校では、「課題とまとめが明確な授業」を授業改
善の柱として取り組み、1時間ごとの授業を「学びの
道すじ」に沿って行っている。(図2)
学び合い(「聞く」「話す」)では、2人組や3人組
などのグループ対話や交流活動を取り入れている。
本単元では、3人組で相互評価をする活動(対話活
動)を取り入れた。対話活動が活発になるようにメン
バー構成を考え、3人横並びで座らせた。中心の児童
が、説明書を読みながら自分の考えを説明をする。そ
れを両隣の児童は、同じ向きから説明書を読みながら
聞く。そして、質問をしたり、アドバイスをしたり、
よさを伝え合ったりするという方法で行った。
また、児童に話し合わせたいポイントには、事前に
印を付けておき、話合いのポイントがずれることがな
いようにした。
普段から実施しているので、相手の話も最後までよ
く聞き、質問やアドバイスをすることにも慣れてきて
図 2
いる。また、相手のアドバイスにより、さらに作品が良くなったり、変化したりするという経験
があるので、話合いに真剣に取り組む姿が見られた。
友達からの助言を基に文章を見直し、書き直していく過程で、新しい表現の仕方を学び、書く
力を高めることにもつながっていった。
6
今後の課題
本実践では、児童が1年生にいちばん伝えたいおもちゃの作り方を大切にして取り組んだ。児
童の思考力や表現力を高めるには、児童が心から説明したくなるような、他者と対話したくなる
ような題材を児童に選ばせることが重要である。
今後も児童の思いや願いを生かし、主体的な学習が進められるような単元作りに努めていく。
また、対話活動をさらに有効なものにするために、その方法や評価の項目について検討してい
く必要があるので、今後も実践を積み重ねていきたい。
学習指導要領の趣旨を生かした取組例<国語3>
「比べ読み・重ね読み」による「一人読み」の工夫
五泉市立五泉南小学校
■取組のポイント■
①物語文の指導に、「比べ読み・重ね読み」を導入することにより、登場人物の相互関係
や心情について、より深く読み取らせる。
②同一作者の作品をたくさん読ませ、読書活動の活性化を図る。
1
単元の構想
(1) 単元名
「作品の世界を深く味わおう」
第6学年
C読むこと(1)イ,エ,カ
主教材「やまなし」(宮沢賢治
副教材「よだかの星」(宮沢賢治
作)
作)「イーハトーヴの夢」(畑山博
著)
(2) 単元の目標
①
たくさんの宮沢賢治の作品を「やまなし」との類似点を探しながら読む。
②
「やまなし」と他の作品を読み比べることにより,宮沢賢治が目指した人間像を、「や
まなし」の登場人物と関連させながら述べることができる。
③
「やまなし」に使われている、水中の様子を効果的に表した比喩表現を見付けることが
できる。
(3) 単元について
児童は5年時に、「大造じいさんとガン」と「片耳の大鹿」で比べ読み・重ね読みの経験をも
っている。しかし作品を自分で選択して読み、比べる経験はしていない。文章から自分の気付き
や似ているところを見付け出すことはできるが,それを解釈して論理的な考えを作ることは、ま
だできない子どもが多い。
本単元の題材「やまなし」には、宮沢賢治の「主想」とも言うべきものが,凝縮されて詰まっ
ている。
実は、宮沢賢治の作品の登場人物は、ほとんど「やまなし」に登場する「クラムボン・やまな
し型」「魚型」「カワセミ型」「かにの親子型」「太陽・月型」に分けることができる。みんなの
幸福を願い、自己犠牲の精神をもちながら、いじめられたり、小さかったり、異形だったりする
「クラムボン・やまなし型」。自分より小さなもの・弱いものは食べたりいじめたりするのに、
自分よりも大きいもの・強いものに対しては、食べられたり、いじめられたりする「魚型」。自
分よりも小さなもの・弱いものを食べたり、いじめたりする「カワセミ型」。弱肉強食の世界を
見て恐懼する無垢な子ども、傍観する大人である「かにの親子型」。すべてを見守る絶対的な存
在の「太陽・月型」。
これらは,他の作品にも数多く登場する。そして多くの場合,「クラムボン・やまなし型」が
中心人物になっている。この「やまなし」の「人物類型」に気付かせ、他の作品に当てはめて読
むことによって、「やまなし」に秘められた賢治の「主想」に迫る「比べ読み」「重ね読み」が
可能になるであろう。
また、光村図書6年教科書では、「イーハトーヴの夢」という畑山博氏の書いた宮沢賢治の伝
記が付随している。そこには賢治がもっていた「主想」が述べられている。「やまなし」以外の
副教材を「比べ読み・重ね読み」することは、この伝記も関連付けながら学習することにつなが
ると考える。
2
単元の評価規準
ア
国語への関心・意欲・
態度
イ
読む能力
ウ
言語についての知識・
理解・技能
①「やまなし」と他の作品や
①賢治が目指した人間像を明
①水中の様子を表した比喩
伝記とを比べて読み、似てい
らかにするために、登場人物
などの表現の工夫に気付い
るところをたくさん見付けよ
の相互関係から、人物の役割
て読んでいる。(イ(ケ))
うとしている。(カ)
をとらえている。(エ)
3
指導と評価の計画(全11時間)
時間
◎ねらい
○学習内容
・学習活動
o評価規準・評価方法
第
一
◎ねらい:「やまなし」の舞台である水中の様子や登場人物の関係を読み取る。
次
○水中だと分かる表現を本文中から抜き出す。
o水中の様子を表す言葉を6つ以上
1
・全文を音読する。
気付いている。【ウ-①】
・オノマトペを含め、水中を表す言葉を本文中か
・ノートの記述を見る。
ら抜き出す。
oかにの視点から見ているから深く
○小川の深さを考える。
感じることを理解している。
・1mより深いかで討論する。
・ノートの考え、発言の観察。
○登場人物の関係を読み取る。
o「やまなし」の「食べる←食べら
2
3
・「クラムボン」とは何かを考える。
れる」の関係を図示している。
4
・魚はどこへ行ったかを考える。
【イ-①】
5
・「食べられるもの」→「食べるもの」という表
・ノートの記述。
し方で、出てくるものの関係を表す。
・発言の観察。
第
二
次
◎ねらい:「やまなし」と他の作品を読み比べることにより、宮沢賢治が目指した人間
像を、「やまなし」の登場人物と関連させながら述べる。
6
○「やまなし」と「よだかの星」の比べ読み・重
7
ね読みをする。
o「よだか」が「やまなし」の「や
・似ているところを抜き出す。
まなし」に似ているところを指摘し
・「よだか」は「やまなし」の何に似ているか。
ている。【イ-②】
8
○「やまなし」と各自が選択した作品の比べ読み
・ノートの記述。発言の観察。
9
・重ね読みをする。
o宮沢賢治の作品を3つ以上読んで
・出てきた人物は「やまなし」の何に似ているか
いる。【ア-①】
を考え、グループごとで話し合う。
・グループ編成時に人数を確認。
○「イーハトーヴの夢」を読んで賢治の主想を考
o宮沢賢治が目指した人間像を,賢
える。
治の作品や「イーハトーヴの夢」と
・賢治は「やまなし」の何のようになりたかった
関連させながら述べている。
10
のかを,批評し合う。
【ウ-①】
4
指導の実際
第5時で、「食べられるもの」→「食べるもの」という表し方で、「やまなし」に出てくるも
のの関係を発表させた。すると子どもたちは、次の関係
はすぐに見付けた。
○五
月) 「クラムボン」→「魚」→「カワセミ」
○十二月) 「やまなし」→「かに」
さらに、「五月と十二月もつながっているんじゃない
かな。」という意見が出され、「「やまなし」は、自然の
中で行われている食物連鎖、そのサイクルを描いてい
る。」として、右のような図が出来上がった。
そこで「よだかの星」を読み聞かせした後、第7時では、
「やまなし」と「よだかの星」の似ているところは?
と問うた。子どもたちからは、たくさんの意見が出されたが、その中で、
C 1
「魚」は「クラムボン」を食べ、「たか」も「よだか」を「食いちぎる」と言っている。
C 2
「カワセミ」と「たか」が似ている。どちらも一番強い立場。どちらも恐れられている。
C 3
星や太陽と月と太陽が似ている。ずっと全部を見ていて知っている。見守っている。
のように、人物像に着目した意見も出された。特に「よだか」については、
C 4
「魚」と「よだか」が似ている。どちらも口を開けて食べている。
C 5
「やまなし」と「よだか」が似ている。食べるのをやめてみんなのためになろうとしている。
のように意見が分かれた。そこで「「よだか」は「やまなし」の何型だと言えるでしょう?」
と問うた。「魚に似ている」と考える子どもたちは、
C 6
空気や川の流れに乗って食べている。それを当たり前と思っていて、ありがたがっていない。
C 7
「よだか」は「たか」にいじめられ、「魚」も「カワセミ」に食べられている。
と述べた。それに対して「やまなし、クラムボンに似ている」と考える子どもたちは、
C 8
「よだか」は食べるのを止めて自分の命を捨てて星になろうとしている。
と述べた。すると、子どもたちの中から、「話の途中で変わっているんじゃないか」として、
C 9
自分も他の命を取っていることに気が付き、食べるのを止め「やまなし型」に変化している。
C 10
「よだか」は星になった。「魚型」→「やまなし型」→「絶対的な存在」に変化している。
「このように物語の中で登場人物の型が変化している場合もあります。」として授業を終えた。
第8時では、「いちょうの実」「気のいい火山弾」「猫の事務所」「カイロ団長」「注文の多い料
理店」「虔十公園林」「オツベルと象」「なめとこ山の熊」「ツエねずみ」「銀河鉄道の夜」の中か
ら選択して読んだ。その後第9時で、「自分が選んだ作品と、「やまなし」との似ているところ
は?」と問うて、同じ作品を選んだ者同士のグループで発表し合った。そして、「出てきた登場
人物は、「やまなし」の何型の人物だと言えるか?」に焦点を絞って話し合わせた。その結果、
どの作品にも、「やまなし型」の人物が出てきて、中心人物になっていることが確認された。
第 10 時では、「イーハトーブの夢」を読んで、次のように問うた。
宮沢賢治は、何型になりたかったのだろう?
すべての子どもが「やまなし型になりたかった」と考えた。
C 1
「人々が安心して田畑を耕せるように一生をささげたい」と言っている。
C 2
「生きて帰っては来られない。それを自ら進んでやる。」人のために命をささげている。
C 3
「賢治が追い求めた理想は、みんな人間らしい生き方ができる社会」で、平和に生きること。
C 4
「木にも、痛みとかがある。その木を自分のように思って、物語を書いた。」弱いものの味方。
C 5
「農民のために東北一帯を、毎日毎日飛び回った。」他の人のためにがんばっている。
C 6
見知らぬ人が「肥料のことで教えてもらいたい。」と言うと、呼吸が苦しいのに、教えている。
最後に、「賢治は、「やまなし型」の人間になれたのだろうか?」と問うた。すると、「なれな
かった」と考える子どもが大多数を占め、
C 7
出した本は売れなかった。世の中に賢治の理想は受け入れられなかった。
C 8
羅須地人協会も二年で閉じてしまっている。
C 9
今では名作だとすごく評価されているのに、賢治が生きているうちは本にはならなかった。
などの意見が多数出された。しかし、中には反論として、次のような意見も出された。
C 10
理解されたかどうかは問題じゃない。賢治は最期まであきらめていない。
C 11
今は「すごい」と理解されている。今になって考えればなれたと言ってもいいんじゃないか。
「賢治は自分のことを「修羅」、人間以下の餓鬼、鬼だと言っています。つまり、なりたいけ
れど、なれなかった。いつもそれで苦しんでいた。だからこそ、その苦しみを物語として表した
のだと思います。賢治の物語は、賢治の苦しみの結晶なのです。」と言って授業を終えた。
5
考察
(1) 物語文の指導に、「比べ読み・重ね読み」を導入することにより、登場人物の相互関係
や心情について、より深く読み取らせる。
「やまなし」と他の作品を比べて読むことにより、「やまなし」や「クラムボン」の意味を、
より深く解釈できたように思う。例えば「ツエねずみ」を選んで読んだ子どもは、「ツエねずみ
は、ねずみとりの優しさを利用するようになった。最初はクラムボン型だったのに魚型に変わっ
ている。よだかの逆で悪くなっている。」と、よだかの逆パターンで変化する場合もあることを
見付けた。
また、最後の課題、
「宮沢賢治は、何型になりたかったのだろう?」に対して、子どもたちは、
それまで読んだ教材から得た情報を駆使して、自分の考えを述べることができた。その考えは交
流させていくうちに,宮沢賢治の「主想」につながるものになっていった。これは、出した課題
が、どの作品を選択していても学級全体で交流することが可能なものであったためだと考える。
比べることとは、端的に言えば思考することである。複数の情報を比べるとき、「どこが違う
のか」「どこが同じなのか」「どちらが○○なのか」などと人は思考を始める。そしてその原因
は何なのか、を二次思考として考え始める。これを物語文指導に取り入れると、子どもたちは、
それまで獲得した「読みの観点」を活用して比べるようになる。これを他の作品にも援用するこ
とにより、自力で批評する「一人読み」の力を育てることができるのである。
複数の教材を用いると言うと、発展的な学習、高度な学習ととらえられがちであるが、必ずし
もそうとは言えない。ここで示したように、やり方によっては、子どもの読解を助け、深い解釈
への橋渡しの役割をすることもある。それは、主教材で身に付けた読みの力を「活用」する場を
用意し、主教材で身に付けたい基礎的な力を補完することにもつながると考える。
(2) 同一作者の作品をたくさん読ませ、読書活動の活性化を図る。
また、本単元の学習中に、子どもたちは、一人平均4.5冊の宮沢賢治作品を読んだ。「比べ
読み・重ね読み」を導入することは、読書活動の充実にもつながるものであると考えている。
6
今後の課題
このような、「比べ読み・重ね読み」を繰り返していくうちに、子どもたちは自然に「読みの
観点」を獲得する。それが一つの作品を提示しただけでも批評できる「一人読み」へとつながっ
ていくのだと考えている。今後、できるだけ多くの教材で取り入れていくとともに、何を、いつ、
どう取り入れていくべきか、という系統性を明らかにしていきたい。そのことが、中学校3年生
の言語活動例「物語や小説を読んで批評すること」の実現につながっていくと考えている。