MCC Technology Report 2014 年 【 上手に使う・長く使う No.36-3 】 良いものは丁寧に使うと長持ちします 長く、また上手に使うことにも MCC の技術を活かし ます CONTENTS 技術紹介 9 :みんなが上手に使う :『小水力発電の有望地点の選定と公表に関する報告』 10:効率よく点検して長く使う :『道路ストックの長寿命化に向けた道路施設点検の実施』 11:効率的な維持で長く使う :『泥上掘削機による湖沼の掘削方法について』 12:長く使うための判断 :『長寿命化を目指した海域における鋼構造物の最適設計 ∼矢板防砂壁を例として∼』 三井共同建設コンサルタント株式会社 MITSUI CONSULTANTS Co.,Ltd. MCC は、MITSUI CONSULTANTS Co.,Ltd.の略称です MCC Technology Report 2014 No.36-3 三井共同建設コンサルタント株式会社 巻 頭 言 ●自然災害と共生 2011 年(平成 23 年)3 月 11 日に発生した東日本大震災による未曾有の 御嶽山:朝日新聞 HP より 災害から 3 年余りがたった 2014 年、今度は 9 月 27 日に御嶽山が噴火し、 戦後最大規模(死者・行方不明者 63 人)の火山災害が発生しました。さらに、 11 月 25 日には阿蘇山において溶岩性噴火が発生し、今後も噴火が長引く と予想されています。 また、同月 22 日には長野県北部で震度 6 弱(M6.7)の地震が発生しまし た。しかしながら、白馬村などでは 40 人以上が負傷し、全半壊を含めて約 阿蘇山:朝日新聞 HP より 500 棟が損傷するものの、死者は一人もでませんでした。 いずれの災害においても「自助・共助・公助」に係る報道が見られますが、 白馬村の例では、災害時に 住民同士の助け合いがいかに大切か を再認 識させられました。 ●社会インフラの適切な維持管理 自然災害に加えて、老朽化した施設の事故による被害も発生しています。2012 年 12 月の中央自動車 道笹子トンネルにおける換気ダクト設置用天井の落下では 9 名もの方々が亡くなったことは、まだ記憶に新 しく、これを契機に国交省等では 道路ストックの総点検 が行われようになりました。 しかし、今年の 9 月に伊勢湾岸道路の高架橋で床版下面吹付コンクリートの剥離・落下事故(幸いに負 傷者は無し)の発生など、社会インフラの適切な維持管理の重要性を痛感しました。 ●自然環境の保全・再生・創出 人々の関心は自然環境の保全等にも向かっています。先日、 ダーウィン が来た(NHK) で「サクラマス」の生態について放送していました。渓流の女 王 と呼ばれる「ヤマメ」と全長 60cm にもなる巨大な魚「サクラマス」は姿も名 前も違いますが、実はまったく同じ種類の魚で、生まれた川で一生を過ごす ものが「ヤマメ」となり、川から海に出て大きくなって、再び川に戻ってくるもの が「サクラマス」になるそうです。 ヤマメとサクラマス NHK・HP より 既報(Technology Report No.36-1)では、「サクラマス等の生息環境再生の効果検証」を紹介してい ます。 弊社では、東日本大震災直後より現地に社員を派遣・転勤させ震災復興に当たっている他、耐震・ 津波対策、橋梁・道路施設・河川・港湾施設等の維持管理・点検、豪雨対策としての洪水予測・洪水ハ ザードマップ作成、前述のような自然環境再生等の業務を手がけています。今後も、技術研鑽や皆様と の協働により、日本国土の「安全」、「安心」、「安らぎ」確保の一翼を担いたいと考えています。 きりゅう (中部支社長 霧生 元道) MCC Technology Report 2014 No.36-3 三井共同建設コンサルタント株式会社 技術紹介 9 小水力発電の有望地点の選定と 公表に関する報告 四位 和彦 SHII Kazuhiko 河川下水道事業部 第 1 グループ 電話 03-3205-5756 FAX 03-3204-6010 栃木県では、県内河川における小水力発電の導入を促進するため、県が民間の発電事業者を積極的に支援する「河川活用 発電サポート事業(以下、サポート事業という) 」を進めている。本稿では、サポート事業において実施した、小水力発電有 望地点の選定検討過程や課題を示し、自治体や民間事業者が水力発電事業を広げていくための方向性について紹介する。 キーワード:小水力発電、再生可能エネルギー、地球温暖化防止 1.はじめに め、民間事業者が参画を判断する上で有効かつ分 河川の源である山地や森林を有する栃木県は、豊 かり易い評価指標等を提示する必要がある。 富な水資源を活用できることから水力を重点取組エ ネルギーと位置づけ、農業用水路を活用した小水力 3.解決する技術 発電や、既設ダムに PFI 的手法を用いて管理用水力 (1) 広範囲な地域を対象とした作業の効率化 発電を行う全国初のダム ESCO 事業等の施策を展開 国土数値情報を用いて GIS 上で流域分割を行うと している。また、県内河川における小水力発電の導 ともに、勾配、落差を抽出し、作業の効率化を図っ 入を促進するために、県が民間の発電事業者を積極 た(図-1 参照) 。 的に支援する「河川活用発電サポート事業(以下、 サポート事業という) 」を進めている。 本稿では、サポート事業において実施した、小水 力発電有望地点の選定検討過程や課題を報告し、自 治体や民間事業者が水力発電事業を広げていくため の方向性について提案する。 2.存在した課題 計画地点候補(以下、有望地点という)の発掘に 至る過程において、存在した課題を整理した。 (1) 広範囲な地域を対象とした作業の効率化 栃木県内全域を対象として落差と水量を確 認するため、1/2500 白図を使用すると、収集に 時間がかかり、逆に 1/25000 地形図では、コン ターが粗くなるなど作業が非効率である。 (2) 有望地点の選定漏れの防止 本来選定されるべき地点が有望地点から漏 れることを防ぐ必要がある。 (3) 事業化までの時間的制約 既存資料からの有望地点の選定作業におい て、事業化までに時間的制約があることを鑑み、 極力、調整に時間がかかるものや見込みの薄い 地点は、除外することが必要である。 (4) 分かり易い事業性の評価 サポート事業では、水力発電事業を広げていくた 図 1 GIS を利用した流域界(上)と地形傾斜(下) -1- MCC Technology Report 2014 No.36-3 三井共同建設コンサルタント株式会社 (4) 分かり易い事業性の評価 (2) 有望地点の選定漏れの防止 ① 内部収益率 机上調査の他に、 「既存資料による調査」 、 「ヒ 収入と支出を比較し、20 年間で資金回収が可能 アリング」 、 「現地調査」を実施し、40 箇所程度 かどうかを検討した。この指標として、内部収益 の有望地点を選定する方針とした(図-2 参照) 。 率(IRR;Internal Rate of Return)を算定した。 重複地点も 有得る 既存資料 第 5 次発電 水力調査(鬼 怒・渡良瀬・ 那珂川で未 開発 8.7 万 kw) ② 地点の状況を一覧で示す概要書 資料収集整理 机上調査 想定発電量、現地調査結果(落差・流量・周辺 状況等)、概算事業費、流況、IRR、写真等を一覧 ヒアリング で示す概要書をすべての有望地点を対象に作成し ・落差 関連部署の (地形、構造物、GIS) 県職員にヒ ・水量 アリング (観測所(河川,ダム)、取 水、比流量) た(図-4参照)。 ・法規制区域の確認 ・概略発電量算定 現地調査①(40 箇所以上;立地・水量) 有望地点の選定(40 箇所程度) 図-2 有望地点選定漏れの防止のための手順 (3) 事業化までの時間的制約 過去に水力発電候補地を検討した資料として、 「水 力開発地点計画策定調査報告書 (経済産業省) 」 の他、 図-4 概要書の作成例 図-3 に示す資料が挙げられる。 ここで、 候補地点の 53 地点全てを有望地点対象と ③ 事業性評価 して挙げると、事業化の過程において関係機関との 事業性の評価は、2 段階の判断を経て行った。第 協議・調整に時間を要することが予想されたため、 1 段階は、発電の規模や IRR 等の数値を根拠とした。 ・ダム等他事業に依存するもの 第 2 段階は、第 1 段階で可能性のある箇所(下表 ・国立公園特別地域内のもの の△以上)について、地元自治体と漁協と調整が ・廃止発電所の関係者ヒアリングで著しく可能性 できたものを対象とした。 の低いもの 表-1 事業性の評価基準 について、候補から除外し、候補として 26 地 段階 判定 箇所 ○ 13 第 1 段階 発電出力 100kw 未満,IRR 4%以上 ○ 10 発電出力 100kw 未満,IRR 4%未 満,0%以上 △ 7 IRR 0%未満 × 11 ○ 15 点を選定した(図-3 参照) 。 評価基準 発電出力 100kw 以上 第 1 段階で、△以上の有望地点 20 箇所について、地元自治体および 第 2 段階 関係漁協協同組合と今後、事業の ある箇所として調整できたものを 抽出 4.まとめ サポート事業では資料公表等により 16 事業者・グ ループから延べ 44 件の応募があり、 事業化に向けた 作業が進められている。この方式が、先行事例とし て他自治体で検討する参考になることを期待する。 図-3 既存資料からの有望地点選定までの流れ -2- MCC Technology Report 2014 No.36-3 三井共同建設コンサルタント株式会社 技術紹介 10 道路ストックの長寿命化に向けた 道路施設点検の実施 木下 俊男 KINOSHITA Toshio 道路・橋梁事業部 第三グループ 電話 052-744-1771 FAX 052-735-4663 現在の社会資本は高度経済成長期以降に整備されたものが大部分を占めており、今後急速に老朽化が進展していく。国土 交通省では現在の社会資本の総点検を実施し、今後の維持管理・更新のあり方について重点的に取り組んでいる。 本稿では、道路施設(標識約 900 基、照明柱約 450 基、他)や構造物(擁壁 450 基、横断歩道橋 32 基、他)を点検するこ とにより、損傷及び変状を早期に発見し、安全及び円滑な交通の確保、沿道や第三者への被害の防止を図るとともに、効率 的な維持管理に向けて、詳細点検、補修・補強検討の優先度を提案した事例を紹介する。 キーワード:道路構造物点検、道路施設管理、構造物調査、道路巡回、補修設計 1.はじめに 本業務の内容は、次の 3 つに分類される。 1)定期巡回 目視点検により道路施設の存在の有無 及び損傷程度等の機能的健全度を確認し た(図-1) 。 造物の変状等の異常を把握し、必要に応じ たたき落とし等の応急的な措置を行った。 組立歩道 経年変化に伴う 支柱・床板の腐食 ボルト締直しの 写真-2 構造物簡易点検(組立歩道) 即時処理 さらに第三者被害が想定されるロックシ ェッド・洞門、組立歩道、水管橋等を追加 対象として点検を実施した。 以上、3 つの点検結果をもとに判定区分 を行い、それらを調書として整理するとと もに対策の優先度を明確にし、今後の道路 施設管理に活用できる資料としてとりまと めを行った。 図-1 異常箇所詳細シート 2)道路施設点検 道路付属物の構造全体の損傷を点検し、 その程度を把握し、損傷の進行状態を確 認した(写真-1) 。 写真-1 高所作業車による点検 3)構造物簡易点検 対象構造物について各施設の目視点検 とともに健全度及び損傷の把握を行った (写真-2) 。 また、第三者被害を防止する観点から構 2.存在した課題 道路施設点検においては交通規制を伴うこ ととなり、1月∼2月末までの短期間で点検 を完了することが必要となった。 ここでは限られた工期内で多くの数量・工 種の道路施設・構造物の点検を行うため次の 3点が課題となった。 1)複数の点検員による現場調査及び調書 作成に伴う点検結果のバラツキ 2)複数パーティ導入による直轄国道の交 通規制に伴う作業員の事故防止 -3- MCC Technology Report 2014 No.36-3 三井共同建設コンサルタント株式会社 体験の共有、安全管理の周知徹底 3)供用中の交差点部における緊急点検と 補修設計の実施 毎朝の KY 活動に よる安全管理の 3.解決する技術 1)点検結果の品質管理 複数の調査員が現場調査と調書作成を同 時進行する中でバラツキを防止し、均一な 判定区分を行うための対策を行った。 a)着手前に道路施設・構造物ごとの損傷 を事前に想定し、判定区分を共有 周知徹底 写真-4 KY 活動の実施 3)緊急点検と補修設計の実施 a)即時の緊急点検による対応 交差点部の溝橋の床版の損傷が確認された ため、水路機能を確保した応急復旧対策を検 討し、 現場での対策工事を実施した (写真-5) 。 道路施設(標識・照明柱・情報板) 組立歩道 写真-5 床板損傷状況 図-2 判定区分の共有 写真-6 対策工事後 b)復旧対策検討と補修設計 交通量の多い交差点の交通確保を制約条件 として、狭隘な現場での施工性及び経済性に ついての比較検討を行った。また超速硬コン クリートを用いた「コルゲートメタルカルバ ート」を提案し、年度内での工事完了に向け た補修設計を実施した(写真-6) 。 b)先行して点検した箇所をモデルケース とし、損傷レベルと判定区分を社内講習会 により担当者間で共有(写真-3) 均一な判定に向けた 社内講習会による 品質確保 写真-3 社内講習会 a)、b)の結果は、対象施設・構造物ごとに 一覧表としてとりまとめ、その共通認識を踏 まえて、今後の道路施設管理に活用するため 損傷・変状が著しいもの、かつ緊急度の高い ものを指標として優先順位を設定した。 2)交通規制時の安全管理 事故防止対策として、交通規制の際に次の 事項を徹底した。 a)KY(危険予知)活動:対象区間の道路 状況を踏まえた安全対策の実施(写真-4) b)安全大会の実施:現場でのヒヤリハット 4.まとめ 道路施設点検では、多くの施設を短期間で 点検・評価する必要があったが、課題となっ た品質管理・安全管理を解決することにより、 全ての点検結果の適切な判定と今後の方向性 の整理を工期内に完了することができた。 さらに、この結果を踏まえ、今後詳細調査 が必要なもの、補修・補強の検討・設計を行 う必要があるものの優先度の提案を行うこと ができた。 今後、同種・類似業務の実績を重ねること により、ますます重要となる道路ストックの 長寿命化および利活用に向けた提案を行って いきたい。 -4- MCC Technology Report 2014 No.36-3 三井共同建設コンサルタント株式会社 技術紹介 11 泥上掘削機による 湖沼の掘削方法について 桐村 忠 KIRIMURA Tadashi 河川・下水道事業部 第二グループ 電話 03-3205-5795 FAX 03-3205-5794 現況水深1m前後の湖沼に点在する砂州を掘削するため、泥上掘削機と土運船の組合せによる施工計画を立案した。水深 1mは土運船の必要吃水深および泥上掘削機の適用限界水深であるため、施工計画の立案が非常に困難である。本設計にお いては、この現場条件のもとで、土運船が満載時と空載時で吃水深が変わることに着目して、土運船ルートを計画し、砂州 を掘削・運搬する方法を立案した。本稿では、その概要を紹介する。 キーワード:軟弱地盤、浚渫、泥上掘削機、土運船 1.はじめに 湖沼の掘削は、逐次堆積する土砂を搬出す る維持工事として行われる場合と、計画に基 づいて掘削する改修工事として行われる場合 がある。水深が 1m 程度以上ある場合は、吃 水深が確保できる浚渫船や台船を用いて工事 するのが一般的である。 本稿では、砂州が点在する水深 1m 前後の 湖沼において、泥上掘削機を使用して砂州を 掘削・運搬する場合の施工方法を紹介する。 2.存在した課題 (1)現況水深 対象湖沼は砂州が点在し、水深が 1m 前後 であるのに対し、浚渫船や台船の必要吃水深 は小規模な規格のもので 1.0m 程度である。 そのため、浚渫船等を使用する場合、航路 として水深 1.0m 以下のエリアを事前浚渫等 により確保した上で、本作業に着手しなけれ ばならない現場条件にあった(図-1) 。 現況水深(1m 境界) また、掘削対象の湖沼は経年的に土砂の堆 積傾向にあることが確認されているため、数 年前に実施された測量調査結果から判断でき る現況水深も実際には確保できない可能性が 大きかった。 (2)地盤条件 砂州地盤は地層想定縦断図や現地踏査結果 より、表層が腐植土層であることが確認でき た(図-2) 。 支持力を検討した結果、泥上掘削機ではト ラフィカビリティを確保できるものの、バッ クホウや超湿地ブルドーザではトラフィカビ リティを確保できない地盤であることが確認 された。このため、陸上で使用可能な土工機 械は泥上掘削機のみであった。 掘削対象 掘削対象 図-2 地層想定縦断図 :水深 1m 以上 :水深 1m 以下 図-1 現況水深 湖沼の掘削方法は、通常であれば浚渫船や 台船を用いて実施する。しかし、本現場は、 水深が水上機械と水陸両用機械の境界付近に あったため、現場状況に柔軟に対応でき、か つ経済性に優れる掘削機械の選定および施工 方法の立案が必要であった。 -5- MCC Technology Report 2014 No.36-3 三井共同建設コンサルタント株式会社 3.解決する技術 (1)掘削工法の比較検討 本現場の掘削工法としては、一次選定で経 済性等からポンプ浚渫船とクラブ浚渫船を棄 却し、二次選定として次の2工法を比較検討 した。 ① バックホウ浚渫船 ② 泥上掘削機 その結果、施工性に大差は無いが、経済性 に優れ、必要以上の掘削が必要とならない泥 上掘削機による掘削工法を採用した(表-1) 。 (3)土運船ルート 土運船ルートの断面を図-4 に示す。時計周 りの一方通行であるため水路幅は 10m、吃水 深 0.9m を確保するため水深 1.5m と設定した。 泥上掘削機 7.6 土運船 10.0 表-1 掘削工法の比較検討表 バックホウ浚渫船 図-4 土運船ルートの断面図 泥上掘削機 姿図 施工性 日当り施工量 また、現場条件より、土運船は比較的急な カーブを通航するため、屈曲部では図-4 の標 準断面幅では座礁することが考えられた。 そこで、土運船は引船ロープが張られた状 態で回転する際、重心を中心に回転しながら 引船方向に引っ張られると考え、図-5 の隅切 り計画を設定した。隅切りは、河川の流れや 風の影響などによる余裕を含み 20m×60m と した。 日当り施工量 150 ㎥/日(土運船サイクル タイムで決定) ○ 150 ㎥/日(土運船サイクル タイムで決定) ○ 仮設備 繋船施設が必要。 経済性 1 ㎥当り直接工事費 1 ㎥当り直接工事費 7,800 円/㎥(掘削,積込,土 7,100 円/㎥(掘削,積込,土 運搬,揚土,敷均しを含む) 運搬,揚土,敷均しを含む) 陸上部待機で特に不要。 △ ○ △ 評価 作業半径 11m ○ 採用 (2)施工計画の概要 泥上掘削機と土運船により、河道掘削と掘 削土の運搬を行う。土工範囲は図-3 の赤で示 す範囲であり、土工量は約 34,000m3 である。 土運船の吃水深は満載時で約 0.9m、空載時 で約 0.4m である。そこで、土運船が時計周 りで周回するルートを設定し、空載時に現況 水深部を通航し、積込から揚土までの満載で 通航する砂州付近を事前掘削することにより 座礁しない航路確保と土工量削減を図った。 土運船ルート 土運船 吊降し 積込箇所 揚土箇所 掘削対象土 泥上掘削機 走行ルート 図-5 カーブ部の隅切り設定 4.まとめ 本現場でのこれまでの掘削工法は、バック ホウ浚渫船やマイクロポンプ浚渫船によるも のであったが、いずれも工事費が高く、年次 計画通りの掘削を消化することが難しかった。 今回の設計では、泥上掘削機での施工の限 界水深が 1m 前後であることに着目し、総合 的に優れる泥上掘削機と土運船の組合せによ る施工を採用した。 また、土運船の満載時と空載時で吃水深が 変わることに着目して、それぞれの状態で通 航可能なルートを設定し、土工量を削減でき た点は、今後の水中運搬工法の設計に活かさ れるものと自負している。 図-3 施工計画の概要図 -6- MCC Technology Report 2014 No.36-3 三井共同建設コンサルタント株式会社 技術紹介 12 長寿命化を目指した 海域における鋼構造物の最適設計 ∼矢板防砂壁を例として∼ 坂本 綾 SAKAMOTO Aya 環境・港湾事業部 港湾・空港第二グループ 電話 03-3205-5838 FAX 03-3205-0161 近年、漁港施設の老朽化とともに、更新の必要な施設が増加していることから、機能保全計画の策定及び保全工事が行わ れている。なかでも、適切な保全工事の実施にあたっては、既設構造物に対する照査手順、照査項目および、照査手法の設 定を行うことが課題である。本稿では、検討対象施設である鋼構造物(自立矢板式構造)の保全工事を行うための適切な補 修工法を選定した方法について紹介する。 キーワード:ストックマネジメント、自立矢板式、補修設計 1.はじめに 漁港施設においては、近年、施設の老朽化 とともに、更新の必要な施設が増加している ことから、機能保全計画の策定及び保全工事 が行われている。 本稿では、機能保全計画書において施設の 長寿命化を図るために保全工事が必要とされ た鋼構造物に対する、適切な補修工法の選定 方法について述べる。 検討対象施設は、防波堤(重力式構造)背 後に航路埋没防止のために設置された自立矢 板式構造の防砂壁である(図-2) 。施設の全長 は 712.7m に及び、 長期にわたり延伸を繰り返 してきた構造物であるため、同一施設であり ながら建設年次や、矢板の型式等が異なって いた。そのため、矢板の型式及び管径により 設計区間分けを実施し、区間毎に補修工法の 検討を行った(表-1、図-1) 。 表-1 検討対象一覧 区間名 1 区間 1 区間 2 区間 3 区間 4 区間 4 区間 5 区間 6 区間 スパン No. 1∼6-1 6-2 6-3∼11 12∼13 14 15∼16 17∼21-1 21-2∼24 築造年 1997∼1999 年 1999 年 1979∼1984 年 1984 年 1988 年 1988 年 1988∼1989 年 1999∼2001 年 施設延長(m) 158.0 10.5 143.1 59.3 9.8 74.6 135.8 121.6 矢板形式 φ800 ×t9 SP-VIL φ700 ×t16 φ900 ×t12 φ1500×t14 φ900 ×t12 φ1000×t12 φ900 ×t12 重防食 有 有 無 無 無 無 無 有 防波堤 図-1 検討対象位置図 対象施設:防砂壁 消波ブロック (三柱 16t 型) 上部コンクリート 消波ブロック (三柱 4t 型) 捨石(1.0t) ロックマット 10t 型 (30∼50kg) コンクリート張 +2.95 +1.95 H.W.L. C.D.L.+1.52m L.W.L. C.D.L.+0.02m 裏込栗石 ロックマット 10t 型 (30∼50kg) 防波堤 -6.05 鋼管矢板 φ1000×t12 L=18.0m 対象施設:防砂壁 図-2 代表断面図 -15.25 2.存在した課題 (1)対策工法の選定手順及び評価項目の設定 鋼構造物に対する保全工事対策は、補強対 策と延命対策に大別できる。 対象施設に対し、 適切な対策工法を選定するための手順及び照 査項目の設定を行うことが課題であった。 (2)既存施設に対する照査手法 漁港基準に記載されている照査手法は、新 規構造物に対するものである。自立矢板式構 造物の場合、 「想定腐食速度」及び矢板に発生 する「最大モーメント」を用いた応力照査を 実施することから、安全側の設計が行われて いる。 一方、既存構造物の場合、腐食量や発生モ ーメントは検討位置により異なっているため、 新規構造物と同様の応力照査手法を用いた場 合、過大な応力評価となる可能性があった。 そのため、本業務において既存施設に対する 照査手法を示す必要があった。 -7- MCC Technology Report 2014 No.36-3 三井共同建設コンサルタント株式会社 3.解決する技術 (1)-1 対策工法の選定手順 漁港施設の鋼構造物は、腐食に対し、予め 鋼材厚さ(腐食代)を見込む設計手法が用い られていた。そのため、第 1 段階で残存腐食 代の照査を行い、延命の可能性を判断した。 残存腐食代>0mm であれば延命対策とし、残 存腐食代≦0mm であれば第 2 段階として実施 する安定性照査により、延命対策か補強対策 かを選定する手順を設定した(図-3) 。 残存腐食代≦0mm 残存腐食代 残存腐食代>0mm OUT 現時点の安定性照査 OK OUT 50 年後の安定性照査 OK 補強対策 ・鋼板溶接工法 ・鉄筋コンクリート被覆工法 延命対策 ・電気防食法 ・被覆防食法 表-2 対象施設の照査結果(現時点) 区間 2 3 4 4 5 区間 区間 区間 区間 区間 現時点の安定性照査結果 応力(N/mm2) 変位(cm) 98.4 ≦140 ○ 4.23 ≦15 ○ 112.2 ≦140 ○ 4.31 ≦15 ○ 55.8 ≦140 ○ 2.43 ≦10 ○ 123.8 ≦140 ○ 6.23 ≦10 ○ 128.1 ≦140 ○ 6.37 ≦10 ○ 残存肉厚(mm) 9.98 ≧5 ○ 7.65 ≧5 ○ 10.38 ≧5 ○ 6.93 ≧5 ○ 6.98 ≧5 ○ 補強対策 要否 不要 不要 不要 不要 不要 (2)既存施設に対する応力照査手法 自立矢板式構造物の発生モーメントを図-4 に示す。新設設計時の「最大モーメント」に 対して行う応力照査では、既存施設の照査に 対しては、安全すぎる照査となる。そこで、 既存施設の照査時に事前に実施される腐食調 査を活用し、調査位置における発生モーメン トと腐食速度を組合せて照査を行った(表 -3)。また、海底面では応力が過小にならな いよう設定した。この組合せにより新設時照 査より実態に近い結果を得るよう配慮した。 表-3 応力照査位置と検討外力の組合せ (鉄筋コンクリート被覆工法) 新設構造物照査時の組み合わせ 図-3 対策工選定フロー (1)-2 安定性照査時の照査項目 一般に、自立矢板式構造物に対しては「発 生応力」 、 「頭部変位量」の照査が行われる。 本事例では、補修可能性の観点から、鋼材自 体の残存耐力の有無を表す指標である「残存 鋼材肉厚≧5mm」を照査項目として追加した。 この項目は、残存耐力が無いと判断された場 合には補修を行うことができず、対策案は施 設の更新に限られることを示す項目である。 (1)-3 対象施設の照査結果と選定対策工法 照査対象とした 2∼5 区間は、すべて残存腐 食代≦0mm 以下であったことから、図-3 のフ ローに従い安定性照査を行った。その結果、 現時点(表-2) 、50 年後の照査結果ともに補 強対策が不要と判定できたため、延命対策を 検討した。 対策工法は、鋼管矢板に現地施工が可能な 工法、LCC を考慮した経済性、施工性及び耐 久性の観点から、 「被覆防食のみ」と「被覆防 食と電気防食の併用」 を対象として検討した。 その結果、いずれの項目においても優位性が 確認された「電気防食+被覆防食(ペトロラ タム被覆) 」を選定した。 検討位置 曲げモーメント 腐食速度 --- Mmax B --- Mmax C 曲げモーメント 腐食速度 既設構造物照査時の組み合わせ 検討位置 ①平均干潮面位置 M1 A ②L.W.L.位置 M2 B ③海底面位置 ※ ④最大曲げモーメント発生位置 ※ M3 B Mmax C ※③、④については安全側にて評価した H.W.L. ① 平均干潮面. ② L.W.L.. M1 M2 A B L.W.L. 肉厚調査実施位置 A∼B:海中部 C :海底土中部 ※腐食速度 C < A < B ③ 海底面 ④ 最大曲げモーメント発生点 M3 C Mmax 最大曲げモーメント 図-4 自立矢板構造の発生曲げモーメント図 4.まとめ 既設構造物の保全に対し、設計時の考えも 踏まえて照査及び対策工法の選定手順を設定 した。さらに、腐食調査位置における発生応 力と腐食速度を用いた応力照査を行うことで、 実態に即した評価ができたものと考える。 今回の実績を活かし、より効果的な対策の 立案、施設の長寿命化に努めていきたい。 -8- MCC 2014 年 Technology Report No.36-3 2014年12月 1 日発行 三井共同建設コンサルタント株式会社 〒 169-0075 東京都新宿区高田馬場一丁目4番15号 TEL 03-3207-0231( 代 ) ホームページ MCC研究所 FAX 03-3205-5734 http://www.mccnet.co.jp
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