金田 隆章 氏 - 大阪大学核物理研究センター

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電子EDM探索の為の
磁気光学トラップ装置の開発
核物理研究センター
金田 隆章
2
なぜEDMを探索するのか?
EDM : Electric Dipole Moment(電気双極子モーメント)の存在
□対称性の破れ
*
時間反転対称性の破れ
CPT変換は恒等変換(CPT定理)
&
CP対称性破れの発見(1964年 K中間子の崩壊)
C変換 : 粒子と反粒子を入れ替える
P変換 : 空間反転
T変換 : 時間反転
T対称性は破れているはず
□EDMの存在はT対称性を破る
EDMの検出 → T対称性破れの直接的検証
s
□素粒子理論が予言するEDMの値
・標準模型
|de| < 10-37 e cm
T 変換
・超対称性模型(標準模型を超える物理)
|de| < 10-27 e cm
これまでの実験での上限値
|de| < 1.5×10-27 e cm
Goal : |de| < 10-28 e cm
detectable
Time: t
Spin: s
EDM: d
s
-t
-s
d
標準模型を超える物理の探索
3
フランシウムを用いてのEDM測定
□EDMの測定方法
印加電場と磁場が平行か
反平行かで才差運動の周期
が 変わる。その差を計測。
1
h 1 1
⋅ ⋅ ⋅
□測定精度: δd =
2e K E
N ⋅τ ⋅ T
K : 増幅因子~α2Z3 (アルカリ原子)
E : 電場
N : 原子数
τ: コヒーレンス時間
T : 総測定時間
Kが大きいFrをトラップして測定すれば、
205Tl実験より優れた測定精度を実現
K
E[kV/cm]
τ[s]
210Fr
1150
100
102
205Tl
585
10
10-3
4
EDM探索のための実験装置
□核融合反応によってFrを生成 @ RCNP
Frをイオン化し、イオン光学によりEDM計測装置へ伝送 → 中性化
□磁気光学トラップ法によりFrを冷却・捕獲
レーザーと磁気コイルを用いてトラップ
高真空中で106個のFrをトラップし、EDM探索を行う
Fr ビーム生成
中性化
表面イオン化器
磁気光学トラップ(MOT)
EDM 探索
Fr+ イオン
イオン化
レーザー
5
磁気光学トラップ
Magnet Optical Trap : MOT
原子を冷却・捕獲する技術
„測定精度を高めるために重要
„本修士論文の研究ではMOT技術の確立をめざし、装置の開発を
行った。
„冷却原子を観測することができた。
„
6
磁気光学トラップ(MOT)の原理1
□MOT
レーザー冷却 + 磁気による復元力
σ+
σ原子
レーザー光
ωL<ωA
I
レーザー光
ωA
ωL>
<ωA
v
σ-
σ+
I
σ+
σ-
□レーザー冷却(ドップラー冷却)
共鳴より低い周波数の光を前、後方から入射。
速度vで運動する原子は、ドップラーシフトにより前方の光と共鳴する。
→ 前方の光から輻射圧を受ける。
→ 減速
・ 到達温度
TD ~ 100μK
数百m/s の速さで飛来した粒子を、1m で数cm/s まで減速
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磁気光学トラップ(MOT)の原理2
□磁気光学トラップ
• アンチヘルムホルツコイルで磁場をつくる。
→ 原子の励起準位の磁気副準位mFがゼーマンシフトする。
• レーザーの入射方向は6本。対向するレーザーの偏光を逆向きの円偏光にする。
さらに、周波数を共鳴周波数より低く調整する。
→偏光の遷移選択則により、原子は常に原点に戻る復元力を受ける。
右回り円偏光σ+ : Δm = + 1
左回り円偏光σ- : Δm = - 1
エネルギー
mF = 1
mF = 0
mF = -1
磁場の形状:原点でゼロ
σ+
σ-
mF = 0
位置
8
Rb原子を用いてのテスト
□Frは放射性元素で不安定なので、まず安定なアルカリ原子Rbを用いて
MOT装置のテストを行う。
•磁気光学トラップ(MOT)
レーザー光源
アンチヘルムホルツコイル
トラップセル
I
真空装置
RbでMOT技術を確立すれば、
FrのMOTはレーザーの波長を
変更するだけで実現できる。
I
9
実験装置の開発
□光源
□アンチヘルムホルツコイル(磁場勾配~10G/cm)
□トラップセル(トラップ光 透過率 > 99%)
10
MOTに必要な光源
85
Rb
(I=5/2)
トラップ領域で飽和強度(1.6mW/cm2)
程度のレーザー光が得られるよう、
1W出力できる光源をめざす。
D2
780nm
120.7MHz
3
2
1
63.4MHz
29.3MHz
リポンプ
5P3/2
4
トラップ
MOTには2本のレーザー光が必要
1. 冷却・捕獲のためのトラップ光
2. 自然放出でトラップ光に反応しない
準位に落ちてしまった原子を
再び上準位へ汲み上げる
リポンプ光。
F′
F
3
5S1/2
3035.6MHz
2
11
レーザー光源の開発
□外部共振器型半導体レーザー(ECLD) と テーパーアンプにより構成
特徴 1. 安価な半導体レーザーにより構成
2. 大出力(1W以上)
3. 波長可変
4. 狭い線幅 (<自然幅 = 6MHz)
λ/2
Prism
Isolator
ECLD
ECLD
20mW
1W
Tapered Amplifier
テーパーアンプ
12
外部共振器型半導体レーザー(ECLD)
The 0th Order Beam
θ
Grating
Lens
The 1st Order Beam
LD
2d sinθ = mλ
□LDの発振線幅から共振器により
好みの波長を選ぶ
Collimation Lens
波長調整
LD
Grating
ピエゾ素子
Grating角度θ (ピエゾ素子)
温度 (サーミスタ & ペルチェ素子)
電流
13
40
35
30
25
20
15
10
5
0
20mW 達成
0
20
40
60
Wavelength[nm]
Power[mW]
開発したECLDの特性
80
100
Current[mA]
LDの電流値
Wavelength[nm]
780.50
780.50
780.45
780.40
30
40
50
60
70
80
90
Current[mA]
LDの電流値
20mWの出力があれば
テーパーアンプにより1Wまで増幅可
780.45
780.40
さらに
780.35
780.30
100 110
19
20
21
22
T[℃]
23
24
25
飽和吸収分光法を用いて
波長をモニター、微調整
テーパーアンプ ~ECLD出力光をアンプ~
14
外部共振器型半導体レーザー (ECLD)
λ/2
Prism
アイソレータ
Lens TA
Peltier
device
Lens
1W
テーパーアンプ(素子の大きさは0.2mm四方と小さい)
15
テーパーアンプの出力
ECLDの電流値
69.99mA
80.01mA
100.06mA
130.10mA
1400
Power[mW]
1200
1W
1000
800
600
400
200
0
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
テーパーアンプの電流値[mA]
3.0
達成
波長のモニター・調整 ~飽和吸収分光~
飽和吸収分光 : Doppler free な分光法
線形分光
Rbの超微細構造をモニター
probe beam
Rb Vapor Cell
周波数[MHz]
飽和吸収分光
透過率
透過率
PhotoDiode
透過率
pump beam
63
121
周波数[MHz]
周波数[MHz]
16
17
実験装置の開発
;光源
□アンチヘルムホルツコイル(磁場勾配~10G/cm)
□トラップセル(トラップ光 透過率 > 99%)
アンチヘルムホルツコイル
z
R
R
導体直径φ=1.9mm
巻数
N=42回
電流
7A
起磁力 294AT
A/R=0.63
A
ρ
40
35
30
MOTを行う領域(半径30mm)
B[Gauss]
25
20
理論値
測定値
15
10
磁場勾配 : 9.51G/cm
5
0
0
1
2
z[cm]
3
4
5
6
18
19
実験装置の開発
;光源
;アンチヘルムホルツコイル(磁場勾配~10G/cm)
□トラップセル(トラップ光 透過率 > 99%)
20
トラップセル
50mm
・ パイレックス製
・ 金属フランジ部 → セル
膨張係数の異なるガラスを段階的に接続
強度UP
780nm
・ 無反射(AR)コーティング
透過率 99.5%
0.5%
製作したセル:波長と反射率の関係
21
磁気光学トラップ実験
開発した装置を用いてMOTを実現
22
MOT実験
トラップセル → 京都大学量子光学研究室のものを使用
・トラップ光: ECLD + テーパーアンプ → 1W
ビーム径 20mm に拡大(ビームエキスパンダー)
・リポンプ光: ECLD のみ
→ 20mW
ビーム径 4mm
リポンプ光
To Cell
λ/2
PBS
Isolator
ECLD
飽和吸収分光系へ
To Cell
トラップ光
λ/2
ECLD
&
TA system
PBS
Isolator
飽和吸収分光系へ
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MOT成功!!
捕獲されたRb原子
半径~3.8mm
持続時間~12分
温度~100μK(推定)
MOTされたRbの発光を
CCDカメラで観測
(セルの窓から撮影。窓は直径20mm)
3.8mm
12分の持続時間 → レーザー光源はよく安定している
飽和吸収分光の信号による波長のロック回路を用いれば、さらに安定させることができる
トラップ光のビーム径を絞っても大きさに変化は見られない → リポンプ光のビーム径に依存
ビーム径の改善
原子個数、温度を定量的に測定する必要がある → 吸収イメージング法
まとめ
□EDM探索
時間反転対称性の破れを検証するため、EDM探索を行う。
そのために磁気光学トラップ技術を導入した。
□磁気光学トラップ実験
・ 12分間のRb原子のMOTに成功。
・ 安価で線幅の狭い、安定したレーザーを作成することができた。
・ 光源の波長を変更すれば、FrのMOTを行うことができる。
□今後の課題
MOTの定量的な評価(温度、トラップ個数)
光源の性能向上(安定化装置の作成)
真空排気系準備
Frを用いたEDM探索(核融合反応、ビームライン、MOT)
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