ただいま、ページを読み込み中です。5秒以上、このメッセージが表示されている場 合、Adobe® Reader®(もしくはAcrobat®)のAcrobat® JavaScriptを有効にしてください。 Adobe® Reader®のメニュー:「編集」→「環境設定」→「JavaScript」で設定できます。 「Acrobat JavaScriptを使用」にチェックを入れてください。 実験的黄色腫組織におけるコレステロールのエステル化機序 なお、Adobe® Reader®以外でのPDFビューアで閲覧されている場合もこのメッセージが表 荒 川 謙 三 示されます。Adobe® Reader®で閲覧するようにしてください。 日皮会誌:96 (14), 1661-1668, 1986 (昭61) 要 旨 る病変である.正脂血者に出現する場合もあるが,基 黄色腫病変が成熟するとコレステロールエステルの 本的には高リポ蛋白血症に合併する代表的な皮膚病変 蓄積が顕著となり,特にオレイソ酸コレステロールの である. 占める割合が高くなることが特徴である.そこで,高 高リポ蛋白血症性黄色腫では,組織球が血中のリポ コレステロール血症家兎に高分子デキストラソ硫酸を 蛋白を取り込むことにより泡沫細胞化することが明ら 局注することにより作成した種々の成熟段階にある黄 かになっているが,泡沫細胞内ではさらに脂質の再構 色腫病変を用い,黄色腫組織内におけるコレステロー 成が行われる.すなわち,オレイソ酸コレステロール ル代謝,特にそのエステル化機序について検討し,次 が主として蓄積することにより泡沫細胞が成熟す のような結論を得た. る1)2)同様の所見は動脈粥状硬化症の病変部にも認め 1)黄色腫組織内では,局所で合成された脂肪酸はコ られており3) レステロールのエステル化に利用されるが,遊離脂肪 り,末梢組織におけるコレステロール蓄積性疾患の基 酸の存在下では著明に抑制される. 本的な所見であると考えられる.そこで,黄色腫病変 2)レシチンのβ位の脂肪酸がコレステp−ルのエ 部におけるコレステロール代謝を動的に追求すること ステル化に利用されるのはごくわずかであり,この際 はコレステロール蓄積性疾患における病態解明に重要 遊離脂肪酸の影響を受けない. 5),黄色腫と発生病理に類似する点があ な情報を提供するものと考える.そのためには種々の 3) microsomeに存在するacyl-CoA : cholesterol acyltransferase (ACAT)の活性は,黄色腫が形成さ 進行過程の黄色腫病変を同一個体から得ることより経 時的に検索することが必要である.著者ら6)はコレス れる初期の段階に最も高まっており,基質としてパル テロール添加食にて高コレステi=・−ル血症とした家兎 ミチソ酸よりもオレイソ酸に特異性が高い. 皮内に高分子デキストラソ硫酸を局注すると組織球の 以上より,活発にコレステロールエステルを蓄積し 浸潤が促され,局注回数が増すにつれて組織化学的に ている黄色腫組織ではコレステロールのエステル化が 脂質を豊富に含んだ泡沫細胞が出現することから,こ 促進しており,その際lecithin の方法は黄色腫の動的変化が観察できるすぐれた実験 : cholesterol acyltran- sferaseの作用によるlecithinからの経路よりも, モデルであると考えている. ACATを介して血中の遊離脂肪酸がエステル化に利 著者ら7)は,この方法で作成した実験的黄色腫の成 用される経路が主体である.また,エステル化に利用 熟過程におけるコレステロールエステル(CE)の脂肪 される遊離脂肪酸はオレイソ酸がある程度特異的に利 酸構成を検討し,局注回数が増えるにつれてオレイソ 用される.この基質特異性が,黄色腫組織内にオレイ 酸が増加しパルミチン酸が減少する所見を得,成熟し ソ酸コレステp た黄色腫では血清のCEの脂肪酸構成とは全く異なる ―ルが顕著に蓄積する因子の1つであ ると推測されるが,さらに蓄積したコレステロールエ ステルの分解系を検討する必要がある. ことを示し,黄色腫組織に蓄積するCEは単に血清に 由来するのではなく再構成が行われていることを示し た.その際に利用される脂肪酸は血清由来のものが主 緒 言 に関与しているのであろうと推論した.また,泡沫細 黄色腫は脂質を蓄積した泡沫細胞が浸潤して出現す 胞内でコレステp−ルは合成されうるが,CEが蓄積 するとその合成能は抑制されることも示した8).赤木9) 岡山大学医学部皮膚科学教室(主任 野原 望教授) Kenzo Arakawa : Cholesterol esterification in experimental xanthoma tissues 昭和61年4月21日受付,昭和61年7月8日掲載決定 はこの実験的黄色腫細胞内に血清由来のCEが活発に 取り込まれる早期の病変ではlysosome内の酸性コレ ステロールエステラーゼ活性が高まっていることを示 別刷請求先:(〒700)岡山市鹿田町2−5−1 岡山 した. 大学医学部皮膚科学教室 荒川謙三 今回は,コレステロールのエステル化に利用される 1662 荒川 謙三 脂肪酸の特異性,およびエステル化に関与する酵素に ロールのエステル化および,そのエステル化に対する ついて検討した. 遊離脂肪酸とレシチンによる抑制効果 実験材料と方法 HCR-1, 材料および試薬:高分子デキストラソ硫酸(Sodium Dextran Sulphate 500, Pharmacia, Wt. = 500,000, DS),〔2-14C〕acetic (Amersham, 58mCi/mmol, 切し,各組織材料が約lOOmgとなるようにファルコソ Approx. Av. Mol. acid, sodium salt "C-acetate).β-〔1.14C〕 oleoyl-α'・palmitoyl-L・α-phosphatidyl choline (Amersham, (Amersham, 〔1.14C〕palmitoyl・CoA Eagle's MEM), acid essential bovine serum (和光純薬), palmitic L・α-phosphatidyl silica gel G medium choline (Wakogel (和光純薬), albumin (Sigma, sucrose, oleic dioleoyl- oleoyl-lecithin), cholesterol oleate (0.25M BSA), (和光純薬), B-5, 和光純薬), dithiothreitol (和光純薬),SVE lmM 3ml中で24時間in・ 5 %, air 95%).その際, HCR- EDTA, 0.1% Clairら1o)の方法に準じてBSAと結合させた 同様の方法でBSAと結合させたpalmitic acid 500 ( 日水製薬, (Sigma, acid 20μCiずつ加えたMEM cubateした(37℃,C02 oleic acid 500μEqμをMEMに添加した群,第2群は 52mCi/mmol), medium acetate はSt. 56.7mCi/mmol), (Amersham, minimum シャーレに分割した.それぞれの皮膚材料を14C・ 1およびNLR-1の組織材料を各々4群に分け,第1群 56mCi/ininol,β-"C-oleoyl-lecithin), 〔1.14C〕oleoyl-CoA NLR-1より得られた皮膚材料をメスにて細 eth・ anol). μEqμをMEMに添加した群,第3群はoleoylヽ lecithin 150mg/dl を添加した群,第4群は何も加えな い群とし,それぞれ3検体ずつ作成した. oleoyl-lecith- inはエタノールに溶解してMEMと混合した. cubation終了後PBSにて3回洗浄し, inFolch法11)に 従い脂質を抽出した.得られた脂質をsilica gel G thin-layer chromatography (TLC)にて展開(展開溶 媒;石油エーテル:エチルエーテル:酢酸=82:18: 動物:雄性New 重約1.5kg) Zealand white rabbit (購入時体 5羽を1%コレステロール添加固型飼料 1)し,CEを分離したのち, Newmanら12)の方法に 従い5%K0Hエタノール溶液によ・り加水分解を行 にて約1ヵ月間飼育して高コレステロール血症にした い,脂肪酸分画を得た.この脂肪酸分画について放射 (HCR・1∼HCR・5). 活性を測定した. HCR・1∼HCR-5の実験開始時の 血清総コレステロール値は各々574mg/cll, dl, 441mg/dl, 623mg/dl, l,666mg/ 259mg/dlであった.市販 のエステル化 固型飼料で飼育した正脂血家兎4羽(NLR・1∼NLR・ 4)の血清総コレステロール値は各々38mg/dl, dl, 58mg/dl, HCR-2, 48mg/ 19mg/dlであった. NLR・2より得た皮膚材料を各シャーレに約 lOOmgずつ分け,エタノール0.1mlに溶解したβ.14C・ oleoyl・lecithin 1.25μCiを添加したMEM 黄色腫病変の作成法:HCRの背部皮内にミリポア フィルター(pore 実験2)レシチンのβ位脂肪酸とコレステロール 3ml 中で24 時間incubateした.この際,培地中にBSAと結合さ せたoleic size : 0.45μm)を通した2%DS溶 acidを500μEq/l添加した群と添加しない 液0.2mlを局注することにより黄色腫病変を作成し 群を作成し,それぞれ3検体ずつ検討した. た.尚黄色腫の動態を検討する実験系では,その局注 終了後総脂質を抽出し,TLCにてCE,トリグリセラ 回数を7日目毎に1∼3回行い,最終局注後10日日の イド(TG),遊離脂肪酸(FFA)を分離採取した. 皮膚材料を採取した.また成熟した黄色腫として検討 はNewmanら12)の方法にて,TGはDaytonら13)の方 する場合には,5日目毎に2回局注後10日目の皮膚材 法にて2%K0Hエタノール溶液により加水分解し, 料を使用した.各皮膚材料の表皮および皮下組織を充 得られた脂肪酸分画の放射活性を測定した.FFAにつ 分に除去した後,実験に供した.コントロールとして, いても放射活性を測定した. NLRの背部皮内に2%DS溶液を2回局注後10日目 実験3) の皮膚材料を同様処理を行い使用した. (ACAT)活性の測定 放射活性の測定:得られた材料にAquasol England Nuclear) spectrometer (Aloka, 5mlを加え, 2 (New liquid scintillation LSC-703)にて測定した. acyl・CoA : cholesterol incubation CE acyltransf erase HCR-3の背部皮内に2%DS溶液を1回局注した後 10日目の皮膚組織,および2回局注後10日目の皮膚組 織を使用した.得た皮膚組織をそれぞれハサミにてで 実験方法 きるだけ小さく細切した後, 実験1)病変部で合成された脂肪酸とのコレステ え,氷水中にてPolytron SVE medium (Kinematika, 8mlを加 PT-10・ST) 黄色腫内コレステロール代謝 1663 dpm/iOmg wet tissue weight 1,000 2,OOO preincubation * ト solution 3 : 0.1 bJ incubation ト 8ni<,chloroform : methanol=2:1 extraction of of total total lipid lip extraction 十 TLC ● CE 第2図 14C・acetateより合成された脂肪酸とのコレ assayfor radioactivity ステロールのエステル化および,その5−ステル化に * solution3 対する遊離脂肪酸とレシチンの抑制効果 40川〔1-"C〕oleoyl・CoA or〔1-"C〕palmitoyi・CoA 2mM dithiothreitol 0.2%BSA 黄色腫病変成熟過程におけるACAT活性の推移: 20mM ATP HCR-4より得た非局注部組織,および各成熟過程の黄 lOmM MgCI, 色腫組織を使用した.コント9−ルとしてNLR-3の 皮膚材料を使用した.各皮膚材料より実験3)と同様に 第1図 ACAT活性の測定方法 microsome分画を採取し,そのACAT活性を測定し で5,000回転,3分,更にSonicater Ultrasonics, Inc., model 6,2分, system・ た.その際,試料を入れたファルコソシャーレに40μM control 〔1-≫C〕oleoyl-CoAだけを加えた群と40μM〔1.14C〕 palmitoyl-CoAだけを加えた群をそれぞれ作成し,20 micro tip にてhomogenizeした.その材料 をl.OOOxg, xg, (Heat W-225R)でpower 4℃にて10分間遠心し,その上清を10,000 2℃にて10分間,更にその上清を104,000xg, 分間incubateした.3検体ずつ施行した. 2℃ にて60分間遠心した.その沈済をmicrosome分画と して採取し, O.IM 部組織,および各成熟過程の黄色腫組織と,コントロー Lowry法14)に従い蛋白量を測定した後, potassium phosphate ACAT活性を測定した. buffer (pH ACAT活性の基質特異性:HCR-5より得た非局注 7.5)中で Brecherら15),ProudloCk ルとしてNLR・4の皮膚材料から各々microsome分画 を採取し,今回は前実験と異なり同一シャーレ内に40 μM〔1.14C〕oleoyl・CoA, 40μM〔1-14C〕palmitoyl- ら16)の方法を参考にした測定法を第1図に示した.す COAの両者を加えて20分間incubationを行うことに なわち, よりACAT活性を測定した. incubation終了後,前実 験と同様にCE分画を得,MO 「gl7)の方法に従い5% solution 1 とsolution 2を合わせ,37℃,20 分間preincubationした後solution 3を加え,更に 37℃にてincubateした.最終濃度は蛋白量40μg/0.2 硝酸銀を加えたTLCにて展開し(展開溶媒,エチル ml, エーテル:ヘキサソ=1:4),脂肪酸分画が飽和脂肪 2mM dithiothreitol, 0.2%BSA, 40μM〔1-≫C〕 oleoyl-CoA又は〔1-“C〕palmitoyl・CoA, ATP, 5mM MgCl2 lOmM 酸よりなるもの,2重結合を1個有するものに分け, となる. incubation時間は10分, それぞれの分画について放射活性を測定した.すなわ 20分,40分,60分で行った. 射性cholesterol incubation終了後,非放 oleate を0.01%の濃度になるように ち,飽和脂肪酸の分画に〔1-"C〕palmitoyl・CoA,不 飽和脂肪酸の分画に〔1-14C〕oleoyl-CoAが取り込まれ 加えたクロロホルム:ノタノール=2:1の溶液8ml ていることになる.同一条件につき4検体ずつ施行し を加えることにより反応を停止し, た. Folch法11)に従い 総脂質を抽出した後,型のごとくTLCにてCE分画 結 果 を採取し,その放射活性を測定した.3検体ずつ検討 1)病変部で合成された脂肪酸とのコレステロール した. のエステル化およびそのエステル化に対する遊離脂肪 実験4)黄色腫病変でのACAT活性 酸とレシチンによる抑制効果:(第2図) 荒川 謙三 1664 dpm/iOmg wet tissue wefght 第3図 レシチソのβ位脂肪酸とコレステロールのエステル化および,そのエステル 化に対する遊離脂肪酸の抑制効果 HCRの皮膚材料ではNLRの皮膚材料より14C・ は(第4図),培養時間に比例して60分まで〔1.14C〕 acetateが明らかに多く取り込まれていた.さらに, oleoyl・CoA,〔1-14C〕palmitoyl-CoAともにその取り HCRでは培地中に何も加えなかった群とoleoyl・ 込みが増加していた.また〔1,14C〕palmitoyl-CoAに lecithinを添加した群ではほとんど差を認めない.し 比べ〔1.14C〕oleoyl・COAの方がその取り込みは急激に かし, oleic acid またはpalmitic 増加しており, acid を培地中に加え incubation時間が長くなるとその差は ることにより"C-acetateの取り込みが約1/8∼1/5と 顕著となった. 抑制されていた. ところが,DS溶液を1回のみ局注した部位での皮 NLRでも同様の傾向がうかがわれ る. 膚材料を使用した場合には(第5図),2回局注部位と このように, FFAはコレステi=・−ルのエステル化を 同量のmicrosomeを使用したにもかかわらず〔1-"C〕 明らかに抑制したが,レシチンにはその効果を認めな oleoyl-CoA,〔1-14C〕palmitoyl・COAともにincuba- かった. tion時間が10分ですでに大量の取り込みが見られ,20 2)レシチンのβ位脂肪酸とコレステロールのエス 分でその取り込みは最大となり,以後60分までほぼ同 テル化 量の取り込みを認めた.また〔1-"C〕oleoyl-CoAが 皮膚組織材料をβ-'■・C-oleoyl-lecithinとincubate 〔1.14C〕palmitoyl・COAに比べて多く取り込まれてい した結果(第3図), CEの脂肪酸分画にはNLRに比べ た. HCRの材料に放射活性が明らかに高かった.しかし 4)黄色腫病変でのACAT活性 その値はTGおよびFFAに比べると低値であった. 黄色腫病変成熟過程におけるACAT活性の推移(第 またoleic acidの存在下においても,その放射活性の 6図):〔1.14C〕oleoyl-CoA,〔1.14C〕palmitoyl・CoA 取り込みは抑制されなかった. を別々のシャーレに加えてincubateした実験系では, TGではHCR, HCRでは非局注部に比べ局注部で〔1-"C〕oleoyl- NLRともにほぼ同量の放射能の取 り込みを示しているが, oleic acid添加群が非添加群 に比べ2.6∼4倍多く放射能を取り込んでいた. FFAでもHCR, NLRともにoleic かった.そして1回だけ局注した部位に比べ黄色腫が acid添加群の方 に放射活性が高かった.またCEとは反対にoleic CoA,〔1.14C〕palmitoyl-CoAともに取り込みが多 acid 成熟する2回,3回局注部位では,その取り込みはい ずれも減少した.また,非局注部位,局注部位ともに 添加群,非添加群ともにNLRの方がHCRに比べ放 〔1-14C〕oleoyl・COAの取り込みが〔1-14C〕palmitoyl- 射活性が高かった. COAに比べ多かった. 3) ACAT活性の測定 HCRの背部皮内にDS溶液を7日目毎に2回局注 した後10日目の材料,すなわち成熟した黄色腫病変で NLRの皮膚材料への〔1-14C〕oleoyl・COAおよび 〔1-"C〕palmitoyl-CoAの取り込みは低かった. ACAT活性の基質特異性(第7図):〔1-'*C〕oleoyl- 1665 黄色腫内コレステロール代謝 o一一o〔1--C〕oleoyl-CoA o-O 〔1-"C〕oleoyl-CoA &"6〔1 -"・Ckalmitoyl-CoA 6--4CI−'4C〕palmitoyl-CoA c一9︸0﹄d 3,000 incubation (minutes) time 5,000 10 20 30 40 50 60 incubation 第4図 DS溶液2回局注部位でのACAT活性にお よぼすincubation時間の影響 dpm/10μg μ 10 20 30 40 50 60 10 一喝Eo∽o﹂oiuu Srfoi 0 0 0 卯 0 2 1 u(a︶ojd leiuosojsiuj trio I/^'^P `、 E a '□ 15,000 (minutes) time 第5図 DS溶液I回局注部位でのACAT活性にお よぼすincubation時間の影響 microsomal protein dpm/10μg microsomal protein 3,000 第6図〔1-"'C〕oleoyl-CoAと〔1-"C〕palmitoyl・ 第7図〔1-"C〕oleoyl・COAと〔1-"C〕palmitoyl- COAを別々の培地に加えた場合の黄色腫病変形成 COAを同一培地に加えた場合の黄色腫病変形成過 過程におけるACAT活性の推移:0, 程におけるACAT活性の推移:0, 1, 2, 3は 局注回数を示す. 1, 2, 3は局 注回数を示す. CoA,〔1-14C〕palmitoyl-CoAを同一シャーレに加え し,黄色腫病変部は材料が得やすいにもかかわらず, てincubateした場合も,基本的にはそれぞれ別の その詳細な検討はなされていない. シャーレに加えた実験結果(第6図)と同様であった. Baesら1)はヒト黄色腫において,陳旧になるにつれ すなわちHCRでは,1回だけ局注した部位での〔1.14 て組織内のCEが増加すること,また組織内CEの脂 C〕oleoyl-CoAの取り込みが著明であり,2回,3回 肪酸構成が血清CEに比べてオレイン酸が多くリノー 局注部位での取り込みは減少していた. ル酸が少ないことを示した.さらに,各種ヒト黄色腫 考 察 内でのCEとFFAが負の相関を示すこと,CEの脂肪 末梢組織でのコレステロール蓄積性疾患におけるコ 酸構成のmono/poly-unsaturated acidの比は血清中 レステロールのエステル化機序については,動脈粥状 のCEのものよりも黄色腫内のFFAのものに類似し 硬化症ではかなり研究が進んでいる12)13”8) ているとして,黄色腫内で再エステル化が行われてい 20)しか 1666 荒川 謙三 ることを示唆した. Parkerら2'はコレステロール添加 食にて飼育した家兎の項部皮膚を経過を追って採取 8ヵ月では正常部位に比較し50倍近い取り込みが見ら れることより,ACATが重要であると述べている. し,初期の皮膚組織内CEの脂肪酸構成は血清CEに Hashimotoら20)27)も家兎大動脈の動脈硬化病変部と 類似していることから,黄色腫組織に蓄積するCEは 正常家兎の大動脈を"C-palmitoyl-CoAを加えin- 主として血清に由来するが,若干の相違があることは cubateし,動脈硬化病変部に約40倍の放射活性が見ら 単に血中CEがそのまま沈着したものではないと考え れたことより,やはりACATの作用が優位であると た. した.またACATの大部分はmicrosomeにあると述 コレステロールのエステル化に関与する酵素には, べている. lecithin : cholesterol acyltransferase 部ではmicrosome分画でのACAT活性が著明に完 (LCAT)と Brecherら15)は家兎大動脈の粥状硬化病変 ACATが知られている.LCATは血中でのコレステ 進していることを直接証明した. p−ルのエステル化に関与し,レシチンのβ位の脂肪 今回の実験によれば,①組織内で合成された脂肪酸 酸をコレステロールに転化するものであり,主として のエステル化はFFAによって抑制されるが,レシチ high density lipoproteinに作用してそのコレステ ンによっては抑制されない.②β.“C-oleoyl-lecithin ロールをエステル化させる21)そしてLCAT活性が細 のオレイン酸はNLRよりもHCRの組織内CEに明 胞内にも存在するか否かは明らかではないが,細胞内 らかに多く取り込まれるが,その値は低かった.また にもLCAT様酵素が存在する可能性は否定できない. oleic acidの添加によっても抑制されなかった.この ACATはacyl・COAを直接コレステロールに転化す ことはコレステ9−ルがLCATの働きでエステル化 る. されるという経路はあっても無視しうる程度であると A)エステル化酵素について 考えられる.③HCRにおいて活発にエステル化が行 コレステp−ルをエステル化する酵素は種々の臓器 われている局注部皮膚では,非局注部に比べ〔1.14C〕 において報告されており,動脈硬化症病変部において oleoyl・CoA,〔1-"C〕palmitoyl・COAともに多く取り も,酸性で作用し(pH 込まれている. しない酵素と,pH 5.0∼5.2), 酵素があると報告されている"'. およびRhesus 分画にfatty cofacterを必要と 7.5においてcofacterを必要とする Brecherら23)は家兎 monkeyの大動脈内壁のmicrosome acyl・COA合成酵素とACATを証明し, 以上より,活発にCEを蓄積している黄色腫組織に おいてはコレステp−ルのエステル化も促進してお り,この際LCATよりもACATが活発に作用し, FFAが直接コレステロールのエステル化に利用され ACAT活性は正常部に比較して動脈硬化症病変部に る経路が主体であることがわかる. 約4倍高まることを示した. B)エステル化に利用される脂肪酸の由来について Abdullaら24)はヒトおよび家兎大動脈において コレステp−ルのエステル化に利用される脂肪酸の LCAT活性の上昇を見ている. 由来について, Dayら18)25)はコレステ Newmanら12)はコレステロール添加食 ロール食で飼育した家兎の病変部を14C・oleateを加え にて飼育した家兎の大動脈を"C-palmitateどH- てincubateした結果,CEのオレイソ酸分画に比べて cholesterolを加えてincubateし,CEへの14C・pal- PLのオレイン酸分画への取り込みが多いことより, mitateの取り込みが速いことより,血清中の脂肪酸が LCATが作用してエステル化されると推論している. エステル化に利用されることを示唆した. しかしSt. Clair"'はハトおよび家兎の動脈硬化病変部 コレステロール添加食にて飼育した家兎の大動脈から Dayら28)は をβ.14C-01eoyl・lecithinでincubateし,その取り込み 取り出した泡沫細胞を"C-acetateを加えてincubate が少ないことよりLCATはコレステロールのエステ し, CE, ル化に関与しないとしている. まれていることより,局所で合成された脂肪酸がCE, Proudlockら22)も PLともにほぼ同量のアイソトープが取り込 foam cellのhomogenateにおいてβ-fatty acid・ PLとエステル化されるとした. labelled lecithinのCEへの取り込みは見られなかっ 今回の実験において, たと述べている.さらにSt.Clair26)はコレステロール 場合の黄色腫組織内のCEの脂肪酸分画に大量の放射 添加食のハトと正常食のハトの大動脈を経時的に採取 活性が認められたことは,組織内で合成された脂肪酸 し"C-oleateでincubateしたところ,CEへの取り込 とコレステロールのエステル化が行われていることを みは添加食にしだして2週間ですでに増加しており, 示すが,培地中にオレイソ酸あるいはパルミチソ酸を '"'C-acetateとincubateした 1667 黄色腫内コレステロール代謝 添加することによってその取り込みが著明に抑制され にオレイソ酸の取り込みの増加は顕著であった.とこ たことは,血清中のFFAの存在下では組織内で合成 ろが,成熟過程にあると考えられるDS溶液1回局注 された脂肪酸とのエステル化が競合的に抑制されるこ 部位では, とを示す.また,コレステロールとエステル化される みは飽和状態となっており,この時期でのACAT活 組織内で合成された脂肪酸は飽和脂肪酸が主であり, 性がいかに活発であるかが推測され,特にオレイソ酸 オレイソ酸を含む不飽和脂肪酸は少ないこと7)と合わ を基質とするエステル化能が盛んであることがわか incubation 20分においてすでにその取り込 せ推論すると,局所で合成された脂肪酸の関与を全く る. 否定することはできないが,主として血清由来のFFA 以上より,泡沫細胞にオレイソ酸エステルが蓄積す が利用されると考えられる. ることの合目的性は明らかではないが,ACATがオレ C)ACATの基質特異性について イン酸にある程度の基質特異性を示すことは明らかで 黄色腫組織内にCEが大量に蓄積するにつれてオレ ある.しかし,DSの局注回数が増すにつれてオレイソ イソ酸が主たる構成脂肪酸になることは,コレステ 酸エステルの割合が増加し,パルミチソ酸エステルが p−ルの再エステル化がオレイソ酸と特異的に行われ 減少すること7)と,今回の実験におけるように,未熟な ていることを示唆する.しかし,細胞内でのエステル 時期のみにオレイソ酸が多く取り込まれ,その後パル 化を検討するためにin vitro において培地中にオレイ ミチソ酸の取り込みとの差がなくなることを合わせ考 ソ酸を加えた場合にはオレイソ酸エステルが増加する えると,泡沫細胞が成熟するとオレイソ酸エステルが が,もし他のFFA,たとえばステアリン酸を加えた場 著明に増加することをこの基質特異性のみで説明する 合には,細胞内に蓄積したCEの脂肪酸分画はステア ことは困難である.多田3o)は同一実験系において再エ リン酸が主体となる29) ステル化されたコレステロールは細胞質内に蓄積され 今回の実験において,オレイソ酸とパルミチソ酸を ることを経時的に示したが,このCEもさらに代謝を 別々にmicrosomeとincubateした場合には,コレス 受けると考えられる. テロールとパルミチソ酸とのエステル化も見られる ジを用いた実験で,細胞質内で中性コレステロールエ が,オレイソ酸の方がより活発にエステル化に利用さ ステラーゼが作用することを示唆している.本酵素活 れることが判明した.さらに,同時にパルミチソ酸と 性についての検索はまだ不充分であるが,コレステ Brownら39は腹腔マクロファー オレイソ酸を加えてincubateした場合にも,黄色腫病 ロールエステルの合成系のみならず分解系を検索する 変ではコレステロールとのエステル化が活発に行わ 目的で,今後本酵素の基質特異性を検討することによ れ, ACAT活性が最も高いと考えられるDS溶液1回 りオレイソ酸エステルの蓄積機序を解明する必要があ 局注部位において,オレイソ酸が明らかに多く利用さ る. れていた.また,成熟した黄色腫と考えられるDS溶液 稿を終えるにあたり,終始御指導いただきました小玉肇 2回局注部位ではincubation時間に比例してオレイ 助教授,また御校閲を賜わりました野原望教授に深謝いた ソ酸,パルミチン酸の取り込みは増加していたが,特 します. 文 献 1) acid composition sition of various types of xanthoma,I Invest and normal Denwatol, 5\ : 286-293, 1968. 500-507, 1965. 2) 5) B, Krug Baes H, van Gent CM, Pries C : Lipid compo- Parker F, Peterson N, Odland GF : A compari- KUnnert son of cholesterol・esterfatty acid patterns in cholesterol the blood and in evolving xanthoma clerotic oma and ather- during cholesterol・feeding of rabbits, / 3) Katz SS, Shipley GG, Small chemistry of the lipidsof human DM : Physical atherosclerotic aorta fatty streaks &μ/ μ H : The 「 励涜叱 4: composition esters in fatty streaks plaques of the human and 6) 13 : 93-101, Kodama H, Masuda T, Histo・ At加加scler- 1971. 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