平成 18 年度試験研究成果書 トマト周年養液栽培における培地加温の収量性と暖房コス ト低減の可能性 [要約]ダッチライト型ガラス温室におけるトマト周年養液栽培では、培地加温を18℃ で設定し、夜間を13℃で加温した場合、最低気温を18℃で加温した場合と同等の収量が 得られる。培地加温の併用により最低室温を5℃低下する事ができるため、暖房コストを 低減することが可能である。 キーワード ダッチライト型ガラス温室 トマト周年栽培 暖房コスト 園芸畑作部 南部園芸研究室 区分 研究 題名 1 背景とねらい ダッチライト型ガラス温室によるトマト周年養液栽培は、宮城県において導入事 例があるものの、より寒冷な気象条件下にある本県の導入事例は少なく、その適応 性 、採 算 性 が 明 ら か に な っ て い な い 。特 に 、冬 期 の 暖 房 コ ス ト が 大 き な 課 題 で あ り 、 重油価格の高騰に相まって、暖房コストの削減可能な技術開発が望まれている。 そこで、培地加温と変温管理技術を組み合わせることによる生産性への影響と暖 房コスト低減の可能性を検討する。 2 成果の内容 (1)夜間の最低気温を 13℃で加温し、18℃の培地加温を併用した場合、培地加温を行わ ず最低気温を 18℃で加温した場合と同等の総収量、商品果収量が得られる(表 1)。 (2)18℃ 加 温 区 は 、 夜 間 (20 時 ∼ 5 時 )の 培 地 温 度 が 14∼ 16℃ で 推 移 し 、 地 温 18℃ を 確 保 す る こ と は で き な か っ た 。 一 方 、 13℃ 加 温 ・ 18℃ 加 温 区 で は 、 培 地 温 度 が 約 18℃ で 推 移 し 、 ト マ ト の 根 の 生 育 に 適 正 な 培 地 温 管 理 が で き る (図 1)。 (3)平 成 16 年 11 月 1 日 ∼ 平 成 17 年 4 月 31 日 に 培 地 を 18℃ に 加 温 す る た め に 要 し た 総 電 力 量 は 236,069kWh/1ha で あ り 、 基 本 料 金 を 含 め た 電 気 料 金 の 試 算 額 は 、 約 3,700 千 円 /ha と な る (表 2,図 2)。 (4)暖 房 デ グ リ ア ワ ー の 試 算 よ り 、 本 県 沿 岸 南 部 地 域 の 燃 料 費 (A 重 油 )は 、 最 低 気 温 18℃ 設 定 と し た 場 合 は 13,635 千 円 /ha と な る が 、最 低 温 度 13℃ 設 定 の 場 合 は 8,090 千 円 /ha と な る (表 3、 図 3)。 3 成果活用上の留意事項 (1)大 規 模 施 設 で は 、多 量 の 電 力 が 必 要 と な る た め 、高 圧 電 力 契 約 等 が 必 要 と な る 。 表2の試算では、電熱線やサーモスタット、高圧電力契約や利用に設置を要す る施設・設備などのイニシャルコストは計上していない。 (2)培 地 加 温 方 法 と し て 温 湯 管 を 利 用 す る 技 術 も あ る が 、そ の コ ス ト 比 較 は 未 検 討 である。 (3)暖 房 デ グ リ ア ワ ー は 、平 年 の 日 平 均 気 温 よ り 算 出 し た 試 算 値 で あ る た め 、暖 房 コストを試算する場合には、実測の内外気温データにより算出し、比較検討す ることが望ましい。 4 成果の活用方法等 期待する活用効果 加温栽培における暖房コスト削減のための参考に資する。 5 当該事項に係る試験研究課題 (H16-13)高規格施設におけるトマト周年養液栽培技術の確立 (H16∼ H18、 県 単 ) 6 参考資料・文献 (1) 各 種 暖 房 デ グ リ ア ワ ー 算 定 値 と 実 測 値 の 比 較 お よ び 暖 房 デ グ リ ア ワ ー 線 図 の 提 案 (農 業 気 象 38(2)1982) (2)平 成 16 年 度 試 験 研 究 成 果 ダ ッ チ ラ イ ト 型 ガ ラ ス 温 室 に お け る ト マ ト 養 液 栽培の地域適応性 ( 研 ) − 10− 1 7 試験成績の概要(具体的なデータ) 表 1 月別および品質別商品果 * 収量の推移(t/10a) 品質 区分 温度管理 10 月 11 月 12 月 1 月 A品 最低気温 13℃設定 B品 培地加温有 障害果 2月 3月 4月 5月 6月 品質 別 収量 構成 比率 (%) 1.3 1.7 1.6 1.4 1.1 4.3 5.3 4.4 5.2 26.3 69 0.1 1.3 1.1 1.1 0.6 1.1 0.7 0.8 0.7 7.5 20 0.0 0.1 0.4 0.4 0.4 0.5 0.7 1.0 0.6 4.1 11 A品 1.3 1.7 1.6 1.8 1.6 4.3 4.7 2.9 5.1 最低気温 18℃設定 B品 0.0 1.8 1.1 2.1 0.5 0.9 0.2 1.3 0.4 培地加温無 障害果 0.0 0.0 0.5 0.4 0.6 0.5 1.2 1.0 0.7 *品種:桃太郎J 商品果規格は岩手県青果物出荷規格必携に準じる。 25.0 66 8.3 22 4.9 13 温度 (℃ ) 30 商品果 総収量 収量 33.8 37.9 33.2 38.2 kWh/ha 70000 25 60000 20 50000 15 40000 10 30000 5 20000 21時 18時 12時 15時 10000 9時 6時 3時 0時 0 0 11月 試 験区・培地温 慣 行 区 ・培 地 温 試 験区・気温 慣 行 区 ・気 温 12月 1月 2月 3月 4月 図 2 消費電力量の月別推移 図 1 培地温、気温の推移 注)測定日:平成 16 年 1 月 22 日 測定部位:各栽培槽中心部 慣行区:培地無加温 試験区:培地 18℃加温 表 2 電気料金の試算(円/ha) 基本料金試算 *1 必要 kW 数 基本料金 (円/1kW・年) (kW) 消費電力料金試算 基本料金(A) (円) *2 単価 (円/1kW) 消費電気量 (kW) 電力量料金(B) (円) 電気料金 *4 (A+B) (円) 14,400 100 *3 1,440,000 9.63 236,069 2,273,344 3,713,344 *1.2) 基本料金、電気量料金は東北電力・高圧電力Sの平成 17 年 9 月現在の契約単価を用いた。 *3)1ha 規模で栽培する場合、電熱線が 12,000m 分(1kW 用×100 本)必要。 *4)高圧電力を使用するために必要なキュービック等のイニシャルコストは含んでいない。 表 3 暖 房 デグリアワーに よ る 暖 房 経 費 の 試 算 値 ( 1ha 当 た り ) 設定温度 暖房デグリアワー(DH) 燃料消費量 燃料費(A重油) 電気料金 総暖房費 単位 ℃・year L/year 千円/年 千円/年 千円/年 設定温度 18℃(A) 13℃(B) 56,159 33,225 309,392 183,044 13,675 8,090 3,713 13,675 11,803 対比 (B/A) 59.2% 86.3% 注:暖房デグリアワー、燃料消費量は以下の数式、係数で試算。 〔暖房デグリアワー(DH)〕=∫(θi-θ0)dt(日射補正) θi:外気温、θ0:設定温度(A,B) 〔燃料消費量〕=A×U×(1-f)×DH/(h×k) A:温室の表面積 12,661m 2 U:暖房負荷係数 5.3kcal・m -2 ・hr -1 ・℃、f:熱節減率 0.5 h:発熱量 8,700kcal/L、k:熱利用効率 0.7、A重油単価:44.2 円/L ( 研 ) − 10− 2 総 費 用 (13℃ ) (千 円/ha) 総 費 用 (18℃ ) 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 0 20 40 60 80 A 重油 単 価(円/L) 図 3 暖房経費の分岐点 ※A 重油単価 29.4 円/L が分 岐点
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