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平成 20 年 2 月 15 日
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
マウスによるポインティング時の視覚フィードバックと運動軌跡に関する研究
築谷 喬之 (ヒューマンインタフェース工学講座)
1
はじめに
2
ピーク速度時の角度のずれ (度)
今日の Graphical User Interface において,マウスによる
ポインティングは最も基本的なインタラクションの一つであ
る.ポインティング一回当たりのユーザへの負荷は大きくは
ないが,頻繁に繰り返す動作であり,大画面高解像度ディス
プレイが普及するにつれ,ユーザへの負荷は増大する傾向に
ある.一方で,人のポインティング動作は,マウスなどの入
力デバイスを使用した運動制御に対して,システムによる介
入が施され,その結果が視覚 FB(フィードバック)として
返ってくるという,視覚-運動制御系をなしている.したがっ
て,ユーザのポインティング時の負荷を軽減するためには,
運動制御と視覚 FB の両面からポインティングを分析するこ
とが重要である.しかし,先行研究の多くは画面上のカーソ
ルの動きのみを議論しており,その動きによる視覚 FB がポ
インティング時の運動計画や負荷に与える影響が明らかにさ
れているとは言えない.
そこで本研究では,視覚 FB の変化に対する運動軌跡の変
化を分析することによって,視覚 FB がポインティング時の
運動計画や負荷に与える影響を明らかにすることを目的とす
る.今回は,代表的な視覚 FB である C-D 比が運動軌跡に
与える影響に関する実験と,軌跡に関する視覚 FB を制限し
た環境での実験を行い分析した.
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
-0.5
-1.0
-1.5
-2.0
-2.5
0
45
90
135
180
225
270
315
ターゲット方向 (度)
図 1: 画面上の距離による運動軌跡の違い
被験者 A
実験
2.1 C-D 比が運動軌跡に与える影響の実験
実験は,50 インチプラズマディスプレイと光学式マウス
を用いる.実験要因は,ターゲット方向を 8 方向,ターゲッ
ト距離を 3 段階,C-D 比を 3 段階とする.被験者は 13 人で,
与えられた開始点からランダムな順番で画面に表示される
ターゲットに向けて,カーソルをできるだけ速く正確に移動
させクリックするタスクを行う.評価指標として,軌跡中の
ピーク速度が現れる地点での接線と,ポインティング開始点
とターゲットを結ぶ直線がなす角度を,ピーク速度時の角度
のずれと定義する.
手元のマウスを動かす距離は等しく約 9 cm とするが,画
面上に表示されるターゲット距離は異なる条件での,ピーク
速度時の角度のずれとターゲット方向の関係を,図 1 に示
す.マウスを動かす距離は変化しないにも関わらず,運動計
画を表す特徴量であるピーク速度やそのときの角度のずれに
画面上のターゲット距離による主効果が見られた.
2.2 視覚フィードバックを制限する実験
実験は,30 インチ液晶ディスプレイと光学式マウスを用い
る.実験要因は,ターゲット方向を 8 方向,ターゲット距離
を 3 段階,カーソルの動きに制限あり/なしとする.カーソ
ルの動きに制限がある場合は,ポインティング開始点とター
ゲットを結ぶ直線上のみにカーソルの動きを制限し,軌跡の
ずれに関する視覚情報をユーザに与えない.この条件では,
視覚 FB の影響を受けない運動前に計画された軌跡が測定さ
れる.一方,軌跡に制限がない条件では,視覚 FB のかかる
通常の軌跡が測定される.被験者は 10 人で,2.1 節と同様
の手順で実験を行うが,制限ありの条件ではターゲットに向
かう運動をしなくてもターゲットまでカーソルを移動できる
ため,常にターゲットを狙うつもりでポインティングを行う
ように教示を与える.
C-D比・画面上のターゲット距離
1倍・300 pixel
2倍・600 pixel
3倍・900 pixel
被験者 B
図 2: 制限による軌跡の違い(赤: あり 青: なし)
実験結果からは,ピーク速度の大きさに関して軌跡の制限
による主効果が見られないことから,軌跡の制限が速度波形
に対して大きな影響は与えておらず,軌跡に対する影響だけ
を測定できていることを確認できた.実験により得られた
カーソル軌跡の例を図 2 に示す.被験者 B のようにカーソ
ル軌跡に制限ありと制限なしでは,大きく異なる軌跡となる
被験者が多く,ターゲット方向への運動が正しく計画できて
いないことが分かった.また,被験者 A のように運動初期
の方向はある程度正確な被験者でも,終盤ではターゲットと
は違う方向に軌跡がずれていた.
3
考察
2.1 節より,間接指示環境では手元の距離だけで運動計画
が決まらず,画面上のターゲット距離も運動計画に影響を与
えることが分かった.したがって,運動軌跡を分析するとき
は C-D 比による影響を考慮しなければならない.
2.2 節で示したように,ユーザは運動計画の段階で正確な
軌跡を計画することができていない.その結果として軌跡の
膨らみが大きくなり,必要以上の負荷がユーザにかかってい
る可能性があるため,軌跡の曲がりを考慮したシステムが必
要である.
4
おわりに
ポインティング実験を行い,ユーザのポインティング中の
視覚 FB が運動軌跡に与える影響について分析した.実験よ
り,運動計画は画面上のターゲット距離に影響を受け,運動
の方向が正しく計画されていないという知見を得た.今後
は,C-D 比の違いによる相対的なターゲットサイズの変化
の影響に関する調査や, 2.2 節で見られた軌跡全体が回転す
る被験者についてのさらなる分析などが課題である.
平成 20 年 2 月 15 日
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
信頼連鎖型レピュテーションシステムにおけるブラックリストを用いた不正評価排除手法
山中 広明 (応用メディア工学講座)
はじめに
2
提案手法
表 1: 想定するピア
提供リソース
他ピアに対する評価
通常ピア
正当リソース
正当評価
攪乱ピア
正当リソース
不正評価
悪意ピア
不正リソース
不正評価
本研究では,攪乱ピアを含め表 1 に示す 3 タイプのピアの
存在を想定し,不正評価を排除する手法を提案する.提案手
法の概要を図 1 に示す.EigenTrust ではピア間評価情報お
よび不正リソースを提供したピアの ID を登録するブラック
リストを利用しているが,提案手法ではさらに,図 1 のよう
に,ブラックリスト内のピアに高評価を与えたピアによる評
価を不正評価と判定して排除することで,リソースを提供し
てもらったことがないピアの中に存在する不正リソース提供
ピアの信頼度値上昇を抑制する.なお,不正評価か否かの判
定は,貢献度と出現率という 2 つの指標を使って行う.
• 貢献度 contkj :ピア k がピア j に対して,ピア k の信
頼度値を加味したとき,どれだけの高評価を与えてい
るかを示す指標.
• 出現率 appeark (Bi ):ピア k が,ピア i が保持してい
るブラックリスト Bi 上のピアのどれだけ多くに評価
を与えているかを示す指標.
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ᥦ౪䛧䛯䝢䜰䜢Ⓩ㘓
図 1: 提案手法の概要
本研究では,contkj ∗ appeark (Bi ) > thdis (thdis はパラメー
タ) を満たすピア j ∈ Bi が一つでも存在するピア k を不正
評価ピアと判定する.
4
性能評価
1
0.8
信頼連鎖型レピュテーションシステム
EigenTrust をはじめとする信頼連鎖型レピュテーション
システムが数多く提案されている.これらのシステムには,
評価を得ているピアほど,そのピアによる評価の影響力が大
きくなるという特徴があり,既知のピアが少ない状況でも信
頼できるピアを効率的に抽出できる.しかし,正当リソース
提供を行い不正評価を行うピア (攪乱ピア) は,他のピアから
評価を得るため,不正評価の影響力が大きくなる.したがっ
て,信頼連鎖型レピュテーションシステムには,攪乱ピアが
行う不正評価によって精度が低下するという問題がある.
3
䝸䝋䞊䝇䜢ᥦ౪䛧䛶
䜒䜙䛳䛯䛣䛸䛜䛒䜛䝢䜰
精度
ネットワーク上のピアがファイル,計算資源,サービスな
どのさまざまなリソースの提供者および利用者となり,共
有を行う P2P リソース共有アプリケーションの研究開発が
盛んである.各ピアが自律的に振る舞うこのようなアプリ
ケーションでは,ウィルス汚染ファイルをはじめとする不
正リソースを提供しようとする悪意ピアが存在する可能性
がある.ピアの識別が不可能な P2P ネットワークでは不正
リソースの拡散を抑制できないため,ID でピアを識別する
P2P ネットワークが増えつつある.ここで,ピアが正当な
リソースを提供するか否かは ID を割り当てるだけでは判別
できず,実際にリソース提供を受けてから判断する必要があ
る.そのため,悪意ピアからのリソース提供を回避するた
めに,各ピアが相互評価を行いピアの信頼度値を算出する
レピュテーションシステムを適用し,信頼度値に基づいてリ
ソース提供ピアを選択する手法が考えられている.しかし,
不正リソースを提供するピアに対する高評価などの不正評価
が行われることによって,不正リソース提供ピアの信頼度値
上昇といった精度低下が発生する問題がある.
本研究では,P2P 環境におけるレピュテーションシステム
として多く提案されている信頼連鎖型レピュテーションシス
テムを対象に,不正評価排除手法を提案し,シミュレーショ
ンによる性能評価によって有効性を確認する.
੠֘
1
✁✂✄
☎✆✝✞✟✠✡☛☞✌
0.6
提案手法
EigenTrust
0.4
0.2
0
0
º*ƬƩ‫ݫ‬ႇ
20
40 60 80
サイクル数
100
図 2: 悪意ピア数の割合に 図 3: 攪乱ピア・悪意ピア
対する精度
の新規参加に対する精度
全ピア数に占める攪乱ピア数の割合と攪乱ピアの急激な
増加に対する提案手法の精度低下耐性をシミュレーションに
よって検証した.各ピアが,信頼度値の計算,リソース提供
ピアの選択と評価,評価値の更新を 1 サイクルとする処理
を行い,計 200 ピアがリソースを共有するシミュレーション
を行う.また,精度を示す値として,通常ピアのうち正当リ
ソースを入手したピア数の割合をサイクルごとに計測する.
図 2 は,悪意ピア数の割合を 10%に固定しておき,残り
の通常ピアと攪乱ピア数の割合を変化させたときの,攪乱ピ
ア数の割合に対する第 50 サイクルにおける精度を示してい
る.提案手法では攪乱ピア数の割合の増加による精度の低下
が抑えられていることが分かる.
図 3 は,140 ピアの通常ピア,40 ピアの攪乱ピア,20 ピ
アの悪意ピアが第 1 サイクルからリソース共有を行っている
ときに,第 50 サイクルでそれぞれ 10 ピア,20 ピアの攪乱
ピアと悪意ピアが新規参加したときの精度の変化を 100 サ
イクルまで示したものである.図より急激に攪乱ピアが増加
した場合でも,速やかに精度が回復していることが分かる.
5
まとめと今後の課題
本研究では,P2P アプリケーションのレピュテーションシ
ステムとして多く提案されている信頼連鎖型レピュテーショ
ンシステムにおいて,ブラックリストによる不正評価排除手
法を提案し,シミュレーションによりその有効性を確認した.
今後は,評価情報の分散管理やピアの振舞いの変化など,
より実環境を考慮した上でのレピュテーションシステムの精
度向上手法に取り組む予定である.
平成 20 年 2 月 15 日
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
ウェアラブルコンピューティングのための消費電力を考慮したコンテキストアウェアシステムの構築
村尾 和哉 (マルチメディアデータ工学講座)
1
はじめに
…
センサ 4-z Step 3 センサ 4-z
センサ 5-x 擬似データ センサ 5-x
センサ 5-y
センサ 5-y
センサ 5-z
センサ 5-z
…
…
j∈working
ここで,correlation は故障センサと距離計算を行う対象の
センサとのピアソンの積率相関係数の絶対値である.抽出し
たデータの異常センサに該当するデータを用いて補完を行う
(Step 3).提案手法を用いることで常に認識システムに渡さ
れるセンシングデータの次元数が一定であるため,センサが
故障した場合でも認識システムは正常に稼動し続ける.評価
結果よりセンサ 5 個のうち 2 個故障時に 50%であった平均
認識精度をフル稼働時と同等の 85%に改善した.
2.2 低消費電力なコンテキストアウェアシステム
擬似データ生成の目的はセンサのハードウェア面でのエ
ラーによる認識精度の低下を防ぐためであった.一方,セン
サ故障時に限らず平常時でも意図的にセンサの電源を制御す
ることで稼動センサ数を自由に変更でき,認識精度と消費電
力のトレードオフを柔軟に制御できる.しかし,低消費電力
を選択すると認識精度も少なからず低下する.そこで,本研
究ではセンサの電源断により低下した認識精度を改善するた
めにコンテキスト粒度とコンテキスト遷移に着目する.コン
テキスト粒度とは,コンテキストの細かさのことであり,利
用アプリケーションなどによって要求されるコンテキスト粒
度は異なる.例えば,医者から激しい運動を禁止されていれ
ば,走るなどの激しい運動,歩くなどの普通の運動,座るな
センサ 4-z
センサ 5-x
センサ 5-y
センサ 5-z
センサ 1-x
センサ 1-y
センサ 1-z
センサ 2-x
図 1: 擬似データ生成手順
90
80
70
][% 60
度 50
精
識
認 40
2種類のコンテキスト
3種類のコンテキスト
9種類のコンテキスト
行動遷移適用後(9種類)
比較手法(9種類)
20
{xj − pij }2 correlation
センサ 1-x
センサ 1-y
センサ 1-z
センサ 2-x
100
30
di =
センサ1~4で比較した
最近傍のペアデータ
コンテキストアウェア
システム
研究内容
本研究では,センサの異常値や欠損値を補完するための擬
似データ生成手法,および意図的に稼動センサ数を削減し擬
似データを用いることで低消費電力なコンテキストアウェア
システムを提案する.
2.1 擬似データ生成
図 1 に擬似データ生成手順を示す.手順ではまず,正常時
のセンシングデータを収集しデータベースを構築しておく
(Step 0).センシングデータ入力時に異常センサのデータを
除くセンシングデータを用いて (Step 1),データベース内の
データ i と距離 di を次式に従い計算し,最も距離の短いデー
タを抽出する (Step 2).
補完ベクトル
センサ 1-x
センサ 1-y
センサ 1-z
センサ 2-x
…
2
4-z
〇センサ
5-x
××センサ
センサ 5-y
×センサ 5-z
Step 0 ペアデータベース
Step 2 k-NN法
…
Step 1 認識ベクトル
1-x
〇センサ
1-y
〇センサ
1-z
〇センサ
〇センサ 2-x
近年,計算機の小型化・軽量化によりコンピュータを装着
するウェアラブルコンピューティングに注目が集まっている.
特にコンテキストアウェアネスの分野では,細かい動作や状
態を認識して高度なサービス提供を行うために加速度センサ
をはじめとする複数の装着型センサを用いた行動認識手法
が多数提案されている.一般的にセンサの故障によって異常
値や欠損値が発生し,その値をそのまま処理するとコンテキ
ストの認識精度の大幅な低下やシステムの停止を招く.しか
し,従来システムの多くはセンサが故障しないことを前提と
していた.さらに,高い精度を追求するために多数のデバイ
スを用いており,消費電力の低減は考慮されていなかった.
そこで本研究では,あらかじめ学習したデータから故障し
たセンサのデータを予測し補完することで,コンテキストの
認識精度の大幅な低下やシステムの停止を防ぐ手法を提案す
る.さらに,補完手法を応用した低消費電力なコンテキスト
アウェアシステムを実現する.
10
左足
左手
腰
右手
右足
0
○
○
○
○
○
○ ○ ○
○
○ ○
○ ○
○
○ ○ ○
○ ○ ○ ○
○ ○ ○ ○
○ ○
○
○ ○
○
○
○
○ ○ ○
○ ○
○
○
○
○
○
○
○
○ ○
○ ○
○ ○
○
○ ○
○
○
○
○
○ ○ ○
○ ○ ○
○ ○ ○
○
○
○ ○ ○ ○ ○ ○
○ ○ ○ ○
○
図 2: 評価結果
どの静止の 3 種類を認識できれば良いが,健康管理システム
で消費カロリーを正確に知りたい場合は細かなコンテキスト
を認識する必要がある.このように,環境に適したコンテキ
スト粒度で認識することで,無駄に細かい認識を行うことに
よる精度低下を防ぐ.コンテキスト遷移とは,自転車に乗っ
ている人は自転車に乗り続けやがてどこかで降りる.突然寝
るということは日常生活では考えにくいように,次に起こる
コンテキストは現在のコンテキストによって制約される.こ
のように,現在のコンテキストを考慮し,次のコンテキスト
の選択肢から遷移し難いコンテキストを除外して誤認識を減
らす.
図 2 に評価結果を示す.評価では 5 個の 3 軸加速度センサ
を用いて「歩く,走る,階段昇り,階段降り,自転車,寝る,
立つ,膝立ち,座る」の 9 種のコンテキストを認識した.横
軸は全てのセンサが壊れた場合を除く 31 通りのセンサの組
合せを示しており, は稼動,空白は非稼動を意味する.縦
軸は認識精度を示す.比較手法として,センサの故障によっ
て出力された一定値をそのまま処理した場合の結果を示す.
比較手法より,提案手法で補完を行わないとセンサの故障に
より認識精度が著しく低下している.また,認識するコンテ
キストの種類が 9 種→ 3 種→ 2 種と簡単になるにつれ認識
精度が改善している.さらに,行動遷移の考慮によっても認
識精度が改善している.
3
おわりに
本研究では,センサ故障時の異常値や欠損値を補完する手
法および電源制御とデータ補完を併用し稼働センサ数を制御
することで低消費電力なコンテキストアウェアシステムを提
案した.今後は,粒度の自動変更手法および多数コンテキス
トでの評価を行う.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 20 年 2 月 15 日
Extraction of Bilingual Terminology from the Link Structure of Wikipedia
Maike Erdmann (マルチメディアデータ工学講座)
Introduction
With the demand of bilingual dictionaries, research in
the field of automatic dictionary extraction has become
popular. However, accuracy and coverage of dictionaries
created based on parallel corpora (bilingual text corpora)
are often not sufficient for domain-specific terms. Therefore, we present an approach to extracting bilingual terminology from the link structure of Wikipedia. In an experiment we proved the advantages of our approach compared
to traditional approach of extracting bilingual terminology
from parallel corpora.
2
General Terms
0.6
0.5
Interlanguage Links
0.4
f-measure
1
0.2
Interlanguage Links
+ Redirect Pages
+ Link Texts
0.1
Parallel Corpus
0.3
0
0
2.2 Redirect Page Method
A redirect page in Wikipedia contains no content but a
link to another article (target page) in order to facilitate
the access to Wikipedia content. Redirect pages are usually
strongly related to the concept of the target page, thus we
can enhance the number of translation candidates by the
titles of all redirect pages. Furthermore, we assign a score
to all extracted translation candidates and filter unsuitable
terms through a threshold.
2.3 Link Text Method
A link text is the text part of a link, i.e. the text that is
presented to the user in the browser. Link texts are usually
strongly related to the target page title. Therefore, we can
enhance our baseline dictionary with the link texts of all
backward links of a page. After that, we filter unsuitable
terms by calculating a score and setting a threshold.
2.4 Redirect Page and Link Text Method
At last, we combine the redirect page method with the
link text method. The score of each translation candidate
then becomes the weighted sum of the redirect page method
score and the link text method score.
Evaluation
We conducted an experiment in which, based on the standard criteria precision, recall and f-measure, we compared
the translations of 100 general terms and 100 domain-specific
terms extracted by our methods to the translations extracted from a parallel corpus. For both general terms
0.6
0.8
1
Fig. 1: F-measure for general terms
Domain-Specific Terms
0.6
0.5
Interlanguage Links
0.4
f-measure
2.1 Interlanguage Link Method
An interlanguage link in Wikipedia is a link between two
articles in different languages. We assume that in most
cases, the titles of two articles connected by an interlanguage link are translations of each other. Therefore, we
analyze all interlanguage links in Wikipedia to create a
baseline dictionary.
0.4
threshold
We extracted bilingual terminology by analyzing the link
structure of Wikipedia. Wikipedia contains a lot of links
between articles, not only within the articles of the same
language but also between articles of different languages. In
the following, we briefly introduce our proposed methods.
3
0.2
Bilingual Terminology Extraction
0.2
Interlanguage Links
+ Redirect Pages
+ Link Texts
0.1
Parallel Corpus
0.3
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
threshold
Fig. 2: F-measure for domain-specific terms
and domain-specific terms, as shown in Figures 1 and 2,
the highest f-measure score is achieved by combining interlanguage link, redirect page and link text information.
The f-measure scores for using interlanguages links only
as well as the scores of the parallel corpus approach are
much lower, especially for domain-specific terms. Thus,
the experiment confirmed that Wikipedia is an invaluable
resource for bilingual terminology extraction and that redirect pages and link texts are helpful to enhance a dictionary
constructed from interlanguage links.
4
Future Work
We believe that it is effective to analyze not only the
link structure but also article texts in Wikipedia in order to
extract bilingual terminology. Although Wikipedia articles
in different languages are not exact translations of each
other, we assume that if two articles describe the same
concept, they contain similar words and phrases. We are
planning to calculate the similarity of Wikipedia article
pairs and use that information to improve accuracy and
coverage of our extracted bilingual dictionary.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 20 年 2 月 15 日
リンク共起性解析に基づく Wikipedia からの連想シソーラス構築手法
伊藤 雅弘 (マルチメディアデータ工学講座)
1
研究背景と目的
近年,知識処理の有用なコーパスとして,ユーザ同士が協
調してコンテンツを編集する Web 事典である「Wikipedia」
に多大な注目が集まっている.Wikipedia は,密なリンク構
造,コンテンツの網羅性,質の高いリンクテキスト,URL
による語彙の一意性,多様なリンク構造など,知識抽出のた
めのコーパスとして多くの有用な特徴を持っている.従来の
研究において,Wikipedia に対してリンク構造を解析するこ
とで精度の良いシソーラス辞書が構築できることが示されて
きた.しかし,膨大な記事数を持つ Wikipedia を解析する
ためには,高い精度を保ったままスケーラビリティのさらな
る向上が技術的な課題であった.
そこで,本研究ではリンクの共起性解析に着目し,スケー
ラビリティの高いシソーラス辞書構築手法を提案する.提
案手法では,Wikipedia のすべての記事における近傍範囲
でのリンクの共起性を算出することによって,2 つのリンク
(URL)間,つまり 2 つの記事(概念)間の関連性を求める.
さらに,リンク共起性解析の際にリンクを含むセンテンス
間の距離を考慮することによって,精度を向上させる手法を
提案する.本手法は,出現順として隣り合うリンクであって
も,実際には記事上で何センテンスも離れている場合がある
ことを考慮し,リンクを含むセンテンス間の距離に応じて共
起性に重み付けを行う手法である.なお,本発表では前者の
リンク共起性解析についてのみ発表する.
2
提案手法
2.1 リンク共起性解析
提案手法ではリンク(URL)の共起性を解析することに
よってリンク間(記事間)の関連度を算出する.リンクの共
起とは,単語をリンクとして扱うということ以外,基本的な
概念は単語の共起と同様である.つまり,リンクが共起する
ということは,特定の範囲においてある異なる二つのリンク
が同時に出現するということである.リンク共起性解析で
は,Wikipedia 全体でのあるリンクペアの共起回数をカウン
トし,共起性を導くことによって,二つのリンクの関連度,
つまり Wikipedia の記事が表す二つの語(概念)の関連度
を求める.
共起回数から関連度を求める代表的な手法として,Cosine,
相互情報量,Dice 係数,改良 Dice 係数がある.ここでは実
験によって精度のよかった Cosine における共起性の計算式
を示す.fx , fy はリンク x と y がそれぞれ独立に出現する回
数,fxy は x と y が同時に出現する回数とする.
fxy
Cosine(x, y) = √
fx fy
(1)
実際に関連度を求める際は,各リンクにおいてどのような
リンクと共起するかという,各リンクの共起特性を表すリン
クベクトルを生成し,そのベクトル間のコサイン相関によっ
てリンク(概念)の関連度を求める.リンクベクトルは,ベ
クトル空間モデルに基づく,リンクを次元,各リンクに対す
る重み(共起性)を要素とする多次元ベクトルである.
共起性解析
共起性解析+tfidf
220
500
tfidf
278
pfibf
85,472
0
10,000
20,000
30,000
40,000
50,000
60,000
計算時間 (秒)
70,000
80,000
90,000 100,000
図 1: 連想シソーラスの構築時間
0.7
0.6
0.5
0.4
度
精0.3
0.2
0.1
0
共起性解析 共起性解析+tfidf
tfidf
pfibf
図 2: 連想シソーラスの精度
2.2 tfidf との融合
ここで,リンク共起性解析と tfidf の融合手法を提案する.
共起性解析から得られるような大域的統計情報は,特定の記
事の質に大きく左右されることがない反面,全体的なリンク
の使われ方の傾向を用いているため,記事に書かれている重
要なキーワードを見落としている可能性がある.
そこで,各記事内における記述(リンク)の特性も考慮す
るため,記事内の記述によってその記事の特徴を表す tfidf
によるベクトルを合成することによって,精度向上を図る.
共起性解析と tfidf によるベクトルは,両方ともベクトル空
間モデルによって,リンクを次元,その各リンクに対する重
みを要素とする多次元ベクトルで表わされているため,一般
的なベクトルに対する演算を適用できる.それぞれのベクト
ルは,合成(加算)する前に各要素をすべての要素の合計値
で除算することによって正規化した後,2 つのベクトルを加
算する.
3
研究成果と今後の課題
提案手法の有効性を確かめるために,連想シソーラスの構
築時間と精度に関する評価を行った.連想シソーラスの構築
時間に関しては,図 1 に示すとおり,提案手法は従来手法で
あるリンク構造を n ホップ(実験では n = 2)先まで解析す
る pfibf に比べて,大幅に高速であることを確認した.また,
連想シソーラスの精度に関しては,図 2 に示すとおり,リン
ク共起性解析は従来手法である tfidf よりも精度がよく,さ
らに tfidf と融合することで pfibf に対しても同等の精度を実
現できることを確認した.
今後の課題として,文書構造や記事の信頼を考慮するこ
とによる,連想シソーラスの精度向上がある.また,連想シ
ソーラスの実用性を示すためのアプリケーションへの適用
や,連想シソーラスだけでなく関連シソーラスの構築も課題
である.
平成 20 年 2 月 15 日
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
移動型センサネットワークにおける広範囲センシングのためのノード配置・移動制御手法
TREEPRAPIN Kriengsak(マルチメディアデータ工学講座)
1
2
:データセンタ
研究の背景と目的
近年のロボティックス技術の発展に伴い,移動する機能を
備えたセンサノード(移動型センサ)を導入した移動型セ
ンサネットワークに対する注目が高まっている.発表者はこ
れまでに,対象領域が広大な移動型センサネットワークにお
いて,効率的なセンシングとデータ転送を実現する移動型
センサの制御手法として DATFM 法 (Data Acquisition and
Transmission with Fixed and Mobile node) を提案した.こ
の手法では,役割の異なる固定センサと移動センサの 2 種類
を利用し,各センサがセンシングしたデータを固定センサに
蓄積してから転送する.また,複数の移動センサを用いて固
定センサ間の通信経路を構築することで,蓄積したデータを
効率的にデータセンタまで転送する.ここで,DATFM 法
では,固定センサの配置が性能に大きな影響を与えるものと
考えられる.そのため,固定センサを戦略的に配置すること
で,さらなる性能の向上が期待できる.その一方で,データ
転送が頻繁に発生する領域では,移動センサが経路を構築す
るために長時間拘束され,センシング量が低下する問題があ
る.そこで本研究では,DATFM 法を拡張し,より効率なセ
ンシングやデータ転送を実現することを目的とする.
DATFM
:固定センサ
法
:移動センサ
法
DATFM/DA
図 1: 移動領域の分割と移動センサの調整
センシング量
0
14,000
1,000
1,000
Y[m]
Y[m]
研究内容
本研究では,固定センサの戦略的な配置により,性能を
さらに向上させる DATFM/DF 法(DATFM with deliberate Deployment of Fixed nodes)と,対象領域を均等にセン
シングする DATFM/DA 法(DATFM with area Dividing
and node deployment Adjusting)を提案する.本発表では,
DATFM/DA 法についてのみ説明する.
DATFM 法は移動センサを収集して転送経路を構築するた
め,データ転送が頻繁に行われることによって,移動センサ
が長時間拘束される.そのため,その領域付近のセンシング
量が低下してしまう可能性がある.また,DATFM 法では,
センシングを終えた移動センサの次のセンシング地点を,現
在地付近からランダムに選択するため,対象領域の中心付近
にセンシングが集中する可能性がある.
以上を考慮して,DATFM/DA 法では,以下の 2 つの方
法により,センシング量の均一化を行う.
2.1 移動領域の分割
図 1 に示すように,対象領域を複数の部分領域に分割し,
部分領域ごとに移動センサを配置する.また,移動センサの
移動先(次のセンシング地点)を,自身が存在する部分領域
全体から選択する.これにより,各部分領域内におけるセン
シング地点が分散され,センシング量を均一化できる.
2.2 移動センサ数の調整
DATFM 法では,すべてのデータがデータセンタに向
けて送信されるため,データセンタに近い領域においてデー
タ転送が頻繁に行われる.そこで,データセンタからの距離
に応じて,移動センサの配置数を調整する.具体的には,図
1 に示すように,データセンタに近い部分領域ほど多くの移
動センサを配置することで,データ転送の頻発によるセンシ
ング量の低下を抑制する.
0
1,000
X[m]
全体のセンシング量
センシング量の分散
DATFM
法
6.07x107
4.34x106
0
1,000
X[m]
全体のセンシング量
センシング量の分散
7.23x107
1.25x106
法
DATFM/DA
図 2: シミュレーション結果
3
性能評価
DATFM/DA 法の性能を,シミュレーション実験によって
評価した.実験では,1,000[m]×1,000[m] の 2 次元平面上に,
9 個の固定センサ(うち 1 個はデータセンタ)と 40 個の移
動センサを配置し,領域内のセンシング量を DATFM 法と
比較した.また,各センサの無線通信範囲を 50[m] とし,シ
ミュレーション時間を 50,000[秒] とした.
シミュレーション結果を図 2 に示す.結果より,従来の
DATFM 法と比較して,DATFM/DA のセンシング量が領
域全体で均等になることが分かる.また,DATFM/DA に
おける領域全体のセンシング量が DATFM 法より若干増加
していることが分かる.これにより,DATFM/DA 法によっ
て,高いセンシング量を維持しながら,領域内のセンシング
を均等に行えることが分かる.
4
まとめと今後の課題
本研究では,広大な領域を対象とした移動型センサネット
ワークにおいて,これまでに提案した DATFM 法を拡張し,
より効率的なセンシングとデータ転送を実現する手法を提
案した.今後は,固定センサの経路構築頻度の調整などによ
り,領域全体をより均等にセンシングできる方法について検
討する.さらに,DATFM/DF 法と DATFM/DA 法の組み
合わせにより,領域全体で高いセンシング量を実現する方法
について検討する予定である.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 20 年 2 月 15 日
車両間情報共有のための車車間通信を用いた効率的なデータ配布手法
佐合 弘行 (マルチメディアデータ工学講座)
1
信頼度
研究背景と目的
近年,車両と道路を相互にネットワークで結ぶ高度交通シ
ステム (ITS) のサービスとして,ユーザに交通情報を配信
するシステムが実用化されている.従来のシステムでは,管
理センタが道路上のセンサから収集した情報を一度集約し
てから配信するため,情報の遅延が発生し,ユーザが新鮮な
情報を取得できない.この問題を改善するため,各車両が車
載センサにより周囲の状況をセンシングし,車車間通信によ
り車両間で情報を共有することが有効である.ここで車車間
通信では,無線通信範囲が限られるため,ユーザが要求した
データをもつ車両と接続していない場合,データを取得でき
ない.
そこで本研究では,ユーザのデータ要求に対して,データ
の取得機会を増やしつつ,より新鮮なデータを取得すること
を目的として,車両間のデータ共有のためのデータ配布手
法を提案する.提案手法では,限られた通信時間内に有益な
データを共有するため,各車両は,接続した車両が将来アク
セスする可能性の高いデータを優先的に配布する.また,提
案手法を,接続した車両の近くにいる周辺車両を考慮するよ
うに拡張し,周辺車両のもつデータや,周辺車両に配布した
データの配布を抑制する.
2
研究内容
本研究では,次のような環境を想定する.
• 車両は,ユーザの目的地までの移動経路を把握してい
る.また,車載センサを用いて,作成位置と作成時刻
の情報が付加されたデータ (交通情報) を作成する.
• ユーザは,移動経路上で作成されたデータを要求する.
現在位置付近で作成されたデータほど要求確率が高い.
また,データの信頼度 R を,車両の現在位置付近で作成
された新鮮なデータほど値が高くなるように,以下の式で定
義し,配布データの選択に利用する.
R = Rmax − (α · te + β · d/v)
(α ≥ 0, β ≥ 0)
ここで Rmax はデータの最大信頼度,te はデータの作成経
過時間,d は車両の現在位置からデータの作成位置までの移
動距離,v は車両速度,α と β は定数を表す.
2.1 DR(Data Reliability) 手法
移動経路上ですれ違う車両(対向車両)は,有益なデータ
をもつ可能性が高いため,各車両が対向車両と接続した時,
これらの車両が将来アクセスする可能性の高いデータを優先
的に配布する.具体的には,車両は,対向車両から保持デー
タリストを受信すると,リストに含まれず信頼度の高いデー
タから順に配布する.
図 1 は,車両 A が B, C, D に対してデータ配布を行った
様子を表す.四角は各車両のもつデータを示し,右表は車両
A がもつデータの信頼度を示す.この図では,A は B に D2
と D6 ,C に D2 と D3 ,D に D3 と D6 を配布する.
2.2 拡張手法
DR 手法において,不要なデータの重複を抑制するように,
データの信頼度ではなく,対向車両がデータを需要する度合
いを示す配布需要度 Di を用い手配布データを選択する.
B
30
ー
C
30
D
ー
ー
D1
D4
D1
D1
D2
D7
D3
D2
90
D3
120
ー
D4
70
70
ー
D5
50
50
50
50
D6
80
80
80
80
C D2
D D3
D6
B
D3
D2
D6
A
90
90
120
120
70
図 1: データ配布
1.6E+09
1
DR
DR-DH
DR-NL
NO
0.9
0.8
率 0.7
功 0.6
成 0.5
求
要
ター 0.4
デ 0.3
1.4E+09
1.2E+09
クッ1.0E+09
ィフ8.0E+08
ラト
総6.0E+08
DR
DR-DH
DR-NL
NO
4.0E+08
0.2
2.0E+08
0.1
0.0E+00
0
0
100
200
要求信頼度
300
0
(a) データ要求成功率
100
要求信頼度
200
(b) 総トラヒック
図 2: 信頼度の和 S の影響
DR-DH(DR with Dissemination History) 手法
周辺車両に既に配布したデータを再配布しないように,配
布需要度を配布したデータの履歴に基づいて計算する.
Di = Ri + γ × τi
(γ ≥ 0)
Ri は信頼度,τi はデータ i を最後に配布した時刻からの
経過時間,γ は定数を表す.
DR-NL(DR with Nearby List) 手法
周辺車両がもつデータを配布しないように,配布需要度を
周辺車両のデータ保持状況に基づいて計算する.
Di = Ri × (1 − pi )
pi は,データを周辺車両から取得できる可能性を表す.
3
研究成果と今後の課題
性能評価のために,シミュレーション実験を行った.図
2(a), (b) は,信頼度の和 S を変化させたデータ要求成功率
と総トラヒックを示す.実験では,ユーザが指定した位置付
近で作成されたデータの取得個数が 2 個以上,信頼度の和が
S 以上という条件を満たす場合に成功するものとした.グラ
フ中の “NO” は,データを配布せず,データ要求のみ行う
方法である.図 2(a) から,S が大きくなると,ユーザがよ
り新鮮なデータを要求するため,いずれの方法も成功率が低
くなることがわかる.図 2(b) から,総トラヒックは,デー
タ配布を行う分,提案手法が大きくなる.図 2(a)(b) から提
案手法は,不要なデータ配布を抑制することで,車両間で多
種類のデータを共有でき,新鮮なデータの取得機会が向上す
る.特に,DR-NL 手法では,周辺状況を把握するためにト
ラヒックが大きくなるが,限られた通信帯域を効率よく利用
している.
今後は,通信帯域をより効率的に利用するために,データ
要求発生時にデータ配布を抑えるなど,データ配布手法の改
善を検討していく.
300
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 20 年 2 月 15 日
複数人物の移動軌跡観測を目的とした低消費電力な無線センサノードの設計と実装
高橋 悟史 (マルチメディアデータ工学講座)
1
はじめに
active時の消費電力量
近年,無線通信技術および半導体技術の発展により,無線
通信機能をもつセンサデバイスによってネットワークを構成
するワイヤレスセンサネットワークに関する研究が盛んに行
われている.筆者らの研究グループではワイヤレスセンサ
ネットワークを医療機関等での業務支援に応用する事例とし
て,部屋の出入り口に設置した赤外線センサによる人物の移
動軌跡観測システムを構築してきたが,これまでに試作した
システムでは以下のような問題があった.
sleep時の消費電力量
ZigBee
モジュール
CPU
(R8C/25)
図 1: センサノード
提案するセンサノードは低消費電力な無線規格である ZigBee を採用しつつ,細やかなスリープ制御機構およびスリー
プを考慮した時刻同期手法をもち,人物の移動を高精度で認
識しながら低消費電力化を実現している.作成したセンサ
ノードを図 1 に示す.
2.2 スリープ制御プロトコル
提案するセンサノードではスリープによる消費電力の低
減を行うが,スリープ中のセンサノードはサーバから送られ
るメッセージを確実に受け取る保証がない.そこで,スリー
プ状態を通知するメッセージを導入し,各センサノードのス
リープ状態をサーバで管理し状況に応じてメッセージ処理を
行うことで,スリープしながらもメッセージを確実に送受信
できるようにしている.また,スリープにより通過データの
処理が阻害されないように,センサ入力によりスリープから
即時に復帰する機構を備える.提案するスリープ制御プロト
コルを用いてセンサノードをスリープさせ,4 人の移動軌跡
を観測する環境で設置実験を行ったところ,二次電池 4 本
(2000[mA]・4.2[V ]) で従来デバイスでは稼働時間が約 1 日
のところ,提案デバイスでは約 20 日間の連続稼動が確認で
きた.
2.3 状況に応じたセンサノードの動作制御
提案するセンサノードでは,設置場所や現在時間,定期
的なメッセージの頻度,接続されたセンサの種類などセン
消費電力量の比較
表 1: 動作記述ルールの例
動作制約
ルール 1
ルール 2
研究内容
2.1 時刻同期精度の保証
提案するセンサノードでは,精度の高い温度補償型水晶発
振器を用いた時刻カウント用回路を CPU と独立して存在さ
せることで,CPU のスリープ時においてカウンタ回路のみ
稼動させ,ミリ秒単位での高い時刻精度を実現している.予
備実験の結果よりセンサノードの時刻精度のずれは 300[ms]
以下である必要があることが明らかになっているが,提案す
る機構を用い,さらに 1 日 1 度の時刻同期処理を行うこと
で,従来デバイスでは 5.8 × 105 [ms] だった 1 日での最大誤
差が,71[ms] の誤差に抑えられた.これは十分な精度で移
動軌跡を観測できる時刻精度である.
動的制御なし 動的制御あり
図 2: 動的制御の有無による そこで本研究ではこれらの問題を解消するために,電池駆
動で低消費電力かつ時刻精度の高いセンサノードの開発を目
的とする.
2
]h
Wm
[
量
力
電
費
消
赤外線受光器
1. 消費電力の高い無線通信規格 IEEE802.11b を用いた
ため AC 電源が必要となり設置場所の制約が大きい.
2. センサノード間の時刻精度のばらつきにより移動の誤
認識が発生する.
1600
1400
1200
1000
800
600
400
200
0
人感センサと赤外線受光器を利用し,赤外線送信機を
装着していない人の通過を検知したときは,監視のた
めカメラを起動
E:人感センサによる割込み
C:赤外線 ID を感知
A:センサデータの処理
E:人感センサによる割込み
C:赤外線 ID は未検知
A:カメラを起動
表 2: 各センサノードの稼動時間
設置場所
一般病室 A
一般病室 B
ナースステーション
動作制御ルールなし
約 24 日 22 時間
約 25 日 07 時間
約 09 日 22 時間
動作制御ルールあり
約 45 日 21 時間
約 49 日 14 時間
約 14 日 15 時間
サノードの状況に応じて,スリープの間隔やセンシングの
頻度を動的に変化させることで効率的に消費電力の低減を
行う.そのため,センサノードに動作記述ルールを用いた動
作制御機構をもたせることで動的にセンサノードの動作を
制御できるようにしている.動作記述ルールは ECA(Event,
Condition, Action) ルールを用いて記述し,表 1 のように表
現される.提案する状況に応じた動的な動作制御を導入する
ことで,図 2 に示すように消費電力量を約 50%低減するこ
とができた.また,過去の実験で得た病院での通過履歴を用
いたシミュレーションでは,表 2 に示すように,動的制御を
行うことで連続稼動時間を 2 倍程度に改善できることが分
かった.このことから,状況に応じた動作制御を行うことで
効率的に消費電力の低減を行うことができることがわかる.
3
おわりに
本論文では,複数人物の移動軌跡観測を目的とした低消費
電力な無線センサノードを提案しその設計と実装を行い,評
価により電池によって十分運用に耐えうる稼働時間と時刻同
期精度を備えていることが分かった.今後の課題としては,
センサノードの動作履歴を用いて最適な動作ルールを自動的
に生成することを考えている.また,通過センサシステムを
実際に病院に設置し実証実験を行うことを予定している.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 20 年 2 月 15 日
複数領域センシングを行う移動型ノードのための経路探索手法
中宮 正樹 (マルチメディアデータ工学講座)
1
近年,センサにアクチュエータを搭載した移動型ノードを
用いたセンサネットワークに関する研究が注目されている.
筆者らはこれまで,従来研究では扱われていなかった実運用
上の問題を解決するため,コストマップを用いた移動型セン
サノードのための経路探索手法を提案し,センサのセンシン
グ範囲やノード移動時の障害物,ノードの移動特性,および
複数ノード同士の衝突を考慮した経路探索を実現した.しか
し,先行研究ではノードは 1 箇所を継続的にセンシングする
と想定しており,複数領域のセンシングを行えなかった.そ
こで本研究では,複数ノードが複数領域のセンシングを行う
際に,総消費電力量の削減または複数ノード間の消費電力の
平均化を実現しつつ巡回経路を決定するアルゴリズムの提案
を目的とする.
2
]J
[n 400
oit
p
300
m
us
no
C200
re
w
oP
100
eg
rae
v 0
A
はじめに
研究内容
本研究では,ノードの移動に影響を及ぼす地形の情報が 2
次元格子状に区切られたフィールドマップとしてあらかじめ
与えられているとする.複数箇所での広範囲に渡るセンシン
グデータの要求があり,多種のノードを複数台使用して協調
的にセンシングを行う.本研究ではノードの消費電力をコス
トと定義する.
2.1 移動経路探索アルゴリズム
先行研究における提案手法ではノードが周辺のセルへの移
動する際に要する実際の消費電力をベースコストとしてあら
かじめ測定し,地形に関する情報と併せて用いることで経路
上の障害物及びノードの移動特性を考慮した最小コスト経路
探索を実現する.また,ノードの移動時間を考慮することで
ノード同士の衝突を検出し,停止または迂回により衝突を回
避する.
2.2 センシング順序決定アルゴリズム
本研究では総移動コストの削減およびノード間での移動コ
ストのばらつき低減を目的とし,最小コスト逐次選択 (LCS:
Least Cost Selection) 法およびセンシング領域入替え (SAE:
Sensing Area Exchange) 法を提案する.センシング領域間
の移動経路探索には前節で説明したアルゴリズムを用いる.
最小コスト逐次選択法
現在地からセンシング領域までの移動コストを計算し,移
動コスト最小の経路をもつノードを該当するセンシング領域
へ逐次的に移動させることで移動コストを削減する.まず,
初期位置からそれぞれのセンシング領域までの移動コストを
求め,移動コスト最小の経路をもつノードを移動させる.未
センシングの領域が残っている場合,直前に移動したノード
の現在地から他のセンシング領域までの移動コストを求め,
同様の手順を繰り返す.全領域がセンシングされれば終了と
する.
センシング領域入替え法
移動コストが最大であるノードが担当するセンシング領域
を他のノードに担当させることで,総移動コストを削減しつ
つ移動コストを平均化する.まず,ノード毎に担当するセン
シング領域をランダムに決定し,移動コストが最小となる巡
表 1: 計算量
最悪計算量
LCS
OC
SAE
OV
LCS
O(m2 )
OC
O(nm )
SAE
O(nm!)
OV
O(nm m!)
図 1: 消費電力量の評価結果
回順序を求める.最大移動コストをもつノードが担当する領
域の中で,担当を最小移動コストをもつノードへ替えた時に
両ノードの合計コストが最も小さくなるセンシング領域の担
当ノードを入れ替える.全ノードの消費電力量の標準偏差が
減少する限り同様の手順を繰り返す.
3
性能評価
提案手法を評価するシミュレーションを行った.壁などの
ノードが通過できない障害物を迷路状に配置した 12m 四方の
環境において,4 種類のセンサデータが 5 箇所ずつ要求され
ており,センサを 2 種類搭載した戦車型および車型ノードを
3 台ずつ利用してセンシングを行う.比較対象として,総当
り計算により求めた最小コスト最適解 (OC: Optimal Cost)
と平均化最適解 (OV: Optimal Variance) を使用した.ただ
し,平均化最適解を総当り計算により求めるには現実的な時
間で計算を終わらせられないため,OV は部分的な総当り計
算により求めた.なお,標準偏差が SAE 法の結果の 38.2J
以下となる経路の中で消費電力量が最小となる結果を採用
した.
シミュレーションにより得られた平均移動コストおよび標
準偏差を図 1 に示す.また,各手法の計算オーダを表 1 に示
す.ここで表 1 において n はセンシングに使用するノード
数を, m はセンシング領域数を表す.LCS 法を用いた場合,
OC からの消費電力増加率を 6.3% に抑えながら計算量を大
幅に削減している.また,SAE 法については,LCS 法と比
較して消費電力量が約 5%増加しているものの,LCS 法では
消費電力量が最大であるノードは最小であるノードの約 7 倍
の電力を消費するのが,SAE 法では約 1.2 倍に収まる.ま
た,SAE 法は平均化最適解と比較して消費電力量が 8%増加
しているが,前述したように平均化の最適解を求めるには膨
大な計算量を要するため実用的ではない.以上の結果より,
LCS 法および SAE 法は現実的な時間内で消費電力量の削減
および平均化というそれぞれの目的を実現できている.
4
おわりに
本研究では移動型センサノードのための複数領域センシン
グに対応する経路探索手法を提案した.シミュレーションに
より最適解との比較を行い,提案手法は消費電力量の削減お
よび平均化を実現することを示した.今後は時間制約のある
センシング要求,データセンタへのノードの移動を含めた定
常的巡回への対応について検討する予定である.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 20 年 2 月 15 日
目的予測型カーナビゲーションシステムのためのマップマッチング手法
宮下 浩一 (マルチメディアデータ工学講座)
1
はじめに
近年のカーエレクトロニクス技術の発展に伴い,カーナビ
ゲーションシステムに対する注目が高まっている.カーナビ
ゲーションシステムの主目的はユーザを指定の目的地まで正
確に案内することであるが,次世代のカーナビゲーションシ
ステムには単なる受動的な道案内だけでなく,車内における
活動全般を支援するための情報サーバとしての役割などの高
度な機能が要求される.そこで筆者らの研究チームでは,次
世代のカーナビゲーションシステムに要求される機能の一つ
である,ユーザの行動を予測しその予測結果を元に情報を提
示するシステムを構築している.このシステムでは,過去に
ユーザが通過した道路の連なりから現走行の目的地を予測す
るため,システムが正確に目的地を予測するためには正しい
道路通過情報が必要となる.しかし,走行履歴は GPS の測
位誤差や,各種センサを利用した自律航法における累積誤差
を原因とするノイズを含んでおり,正しい走行経路を得られ
ないという問題があった.
そこで本研究では,経路の接続関係を考慮しつつリアルタ
イムに車両位置を道路上へマッチングするマップマッチング
手法の実現を目的とする.提案手法では,インクリメンタル
な手法と静的な手法を柔軟に組み合わせることで,高精度な
マップマッチングが可能となる.
2
図 1: 分割点の選択の例
図 2: スコアリングの例
表 1: 平均マッチング精度
89.2%
一定間隔の分割
83.2%
インクリメンタル
71.0%
図 3: 評価結果
研究内容
既存のマップマッチング手法は,インクリメンタルな手法
と静的な手法に分類される.インクリメンタルな手法とは,
測位点と道路との距離,車両の進行方向と道路との偏角より
マッチングする道路を決定する手法で,即時的に処理を行え
るが,接続関係を有していない道路間の遷移が発生し,正し
い走行経路が得られないという欠点がある.一方,静的な手
法は走行終了後のデータに対し,走行軌跡と道路との位置関
係から各道路にスコアを付与し,始点と終点を結ぶ経路の中
でスコアの和が最小となる経路へ走行軌跡をマッチングする
手法であり,接続関係を考慮したマッチングができるが,即
時的な処理には不向きである.
提案手法は,このインクリメンタルな手法と静的な手法を
組み合わせることで,両手法の欠点を補う.手順は,インク
リメンタルな手法でリアルタイムにマッチングし,ある区間
走行すると経路を分割し,静的な手法でこれまでの走行にさ
かのぼり,接続関係を維持した経路へ再マッチングする.次
に,手法の詳細を説明する.
• 即時的な処理
位置情報が更新されると,インクリメンタルな手法を
用いて,現在位置を道路上へマッチングする.併せて,
現在位置を分割点とするかどうかを判定する.図 1 に
示すように,分割点は,区間の始点から測位点までの
直線距離が一点前の測位点の直線距離よりも短くなる
点とした.
• 分割点での再マッチング
分割点で区切った区間毎に,接続関係を考慮した経路
への再マッチングを行う.図 2 のように,区間の始点
終点の周辺の道路リンクを抽出し,それぞれの始点リ
ンク・終点リンクの組合せで,静的な手法を用いてス
提案手法
コアリングを行い,最も良いスコアの経路上に全走行
データをマッチングする.
3
評価
あるユーザの日常生活における車両での移動の記録 12ヶ
月分(総走行回数:約 200 回,総走行時間:約 60h)の走行軌
跡を GARMIN 社の GPS モジュールを使用して取得し,国
土地理院の発行する 1/2500 の数値地図を用いてマップマッ
チング処理を行った.評価対象は,インクリメンタルな手法
と,提案手法の分割点の選択を一定間隔で静的に決定したも
のである.評価指標は下式を用いた.
(ある時刻の)
マッチング精度=
正解経路上にマッチングされた点
全ての測位点
ある走行におけるマッチング精度の時間変化を図 3 に示
す.また,表 1 は全走行の平均マッチング精度である.イン
クリメンタルな手法では誤った道にマッチングされる状況で
も,提案手法では再マッチングにより過去の経路と現在位置
が修正されていることがわかる.また,平均マッチング精度
より,全体を通して,提案手法は高いマッチング精度を実現
できている.
4
おわりに
本研究では,目的予測型カーナビゲーションシステムが適
切な目的地予測を行なうための,正しい経路履歴をリアルタ
イムで取得する手法を提案した.走行軌跡を動的に分割する
ことで,インクリメンタルな手法を適用時に生じる誤マッチ
ングから正しい経路上へ復帰し,また,過去の走行軌跡も併
せて再マッチングすることで精度が向上することが確認でき
た.今後の課題としては,インクリメンタルな手法でのマッ
チング結果を考慮した,分割点の動的な決定が挙げられる.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 20 年 2 月 15 日
ウェアラブルシステム構築を支援するコンテキスト定義ツールの設計と実装
山下 雅史 (マルチメディアデータ工学講座)
1
はじめに
近年の情報機器の技術発展により,ユーザが携帯端末など
を利用し様々な場所でサービスを受けることが可能になりつ
つある.ユーザがサービスを受ける際には,その時の状況に
応じた内容が提供されることで,より便利なサービスが実現
できる.ユーザの状況を認識する研究はこれまでにも行われ
ているが,従来研究において認識される状況はサービス提供
者によりあらかじめ定義されたものであり,ユーザが新たに
状況を定義することは想定されていない.一方ユーザ自身が
状況を定義するためには,センサや特徴量に関する深い知識
が必要となる.そこで本研究では,専門的な知識をもってい
ないユーザでも容易に状況を定義できるように,システムが
簡単な質問を数回行うことで,ユーザの意図に沿ったセンサ
や特徴量を自動で選択するツールを提案する.
2
図 1: コンテキスト定義ツール
表 1: 実験結果
想定環境
本研究では下記に挙げるような日常生活での状況とその際
に提供されるサービスをユーザ自身が定義して,様々なサー
ビスを利用することを想定している.
• 腹筋 1 回分の動きを定義して,腹筋した回数と時間の
記録を残すようにした.
• 買い物を頼まれたので,夕方にスーパーの近くを通っ
た時あらかじめ登録したメモが提示されるようにした.
• いつどこで人と会ったか忘れないように,お辞儀をし
た直後にカメラ画像を保存するようにした.
従来研究におけるユーザの状況を認識するシステムでは,
ユーザの意図を反映して適切なセンサや特徴量を選択するこ
とはできないという問題がある.また,組み合わせられるセ
ンサや特徴量の数は使用するデバイスの数によって爆発的に
増加するため,全ての組合せについて検討するのは非現実的
である.
3
コンテキスト定義ツールの設計
前章で示した問題点を解決するため,図 1 に示すような,
ユーザ自身が状況を定義するためのツールを構築した.この
ツールを用いると,以下の手順で容易に状況を定義できる.
1. 定義したい状況を実際に行う
2. 定義ボタンを押す
3. いくつかの質問に答える
このように,ユーザはセンサや特徴量を意識することなく
状況を定義できる.以降,ユーザへの質問内容や,同時に設
定する特徴量のパラメータについて説明する.
3.1 特徴部分の抽出
加速度や音など連続的なデータでは,動作などを行ってい
る「定義に必要な部分」と,その後別の動作に移る場合など
「定義に不必要な部分」が存在し,状況を定義するには前者
をうまく抽出する必要がある.また,定義後の認識において
も同じことが言え,特徴量の計算に必要な部分を適切に設定
することで,認識時の失敗を防ぐことができる.
具体的な計算は,時刻 t − δ から t までにおける入力値の
分散を var(t, t − δ) とすると,差分 d(t) は次式で計算でき
利用者
認識率
研究者特徴量との合致率
研究者手動
71.9%
-
質問回答 IF
59.6%
79.6%
一般手動
45.1%
64.5%
る.この値の大きい時刻がウィンドウの境界として得られ,
動作に対して適切な特徴量が計算できる.
d(t) = var(t + δ, t) − var(t, t − δ)
3.2 組合せ候補の絞込み
加速度を用いたジェスチャや RFID タグの認識など,ユー
ザがアクションを起こした場合はシステムがその行動を絞り
込みやすい半面,GPS による場所や時刻などの特徴量は常
時取得され,大きな変化も起こらないため,ユーザが状況の
定義に必要としているか推測するのは困難である.
そこで本研究では,状況を定義する際にシステムがユーザ
に対し簡単な質問を行う質問回答インタフェースを用い,候
補となる特徴量の絞込みを行った.各質問は「動作を登録し
ますか?」といった専門的な内容を含まないものにし,入力
値の特徴やそれまでの回答に応じて変化する質問を平均 4 回
行うものとした.
4
評価実験
開発ツールを利用し,状況の定義と再現を行う実験を行っ
てもらった.実験では加速度や GPS,RFID タグなど 5 種
類のセンサから 30 種類の特徴量を用意し,
「腕をまわす」
「研
究室付近を歩いている」など 9 種類の状況を定義してもら
い,得られた結果を表 1 に示す.結果より,研究者が手動で
状況を定義した場合に最も認識率が高く,次いで質問回答イ
ンタフェースを用いた場合となった.特に一般ユーザが定義
した場合,研究者が不要と考えた特徴量を選択したことが認
識率の低下に影響したと考えられる.
5
おわりに
本研究ではユーザの状況に依存したサービスを提供するシ
ステムに対して,利用者が容易に状況を定義できるツールを
提案した.今後の課題として,特徴部分の検出に用いる計算
方法や質問内容の変更によってさらに認識率を向上させる方
法ついてさらに検討していきたい.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 20 年 2 月 15 日
定性・定量融合シミュレーションにおける出力目標に対する入力値求解方式
中崎 剛史(ビジネス情報システム講座)
1
はじめに
近年、企業において経営施策の策定を行うために、事業要
因をノードとし、要因同士の因果関係をアークとしたモデル
を用いたシミュレーションを行うことで事業シナリオを評価
する方法が提案されている。要因の定性的と定量的な側面を
含むモデルに対して、定性・定量融合シミュレーションが提
案されている。この方式では、ノード間の影響伝播値の決定
にモンテカルロ法が用いられており、出力ノードの値が確率
分布として表される。
入力
品質レベル
品質管理者数 A テスト頻度
D
出力
F
最小単位
日製造量
H
C
入力
販売数
G
製造時間 B
E 機会
リードタイム 損失率
最小単位
1
確率
[15, 25]
1
1
2
[0, 1600]
[3.0, 5.0]
0.1
モンテカルロ法を利用した値決定
:
目標値 販売数
定性 定量
において矛盾が生じた場合、その分岐からモデルを定義し
たグラフ上で最短の定量・定性ノード間と分岐の間の逆伝播
を破棄し、再度定性ノードから定量ノードへ値をランダム
に決定して逆伝播を行うことでこの矛盾が解消されるまで
繰り返す。その結果、分岐において逆伝播した値がすべて一
定の閾値に収まっている場合はそれらの値の範囲からランダ
ムにノードがとる値を決定し、逆伝播を継続する。一方で、
矛盾が解消されない場合、再度直近の定性・定量ノード間に
戻り、逆伝播を繰り返す。一定回数繰り返しても矛盾が解消
できない場合は、それ以前の合流の逆伝播や他の定量・定性
ノード間の逆伝播値が誤っているものとし、すべてを破棄す
る。このような逆伝播を一定数繰り返すことによって、入力
候補となる値を求める。
逆伝播の繰り返し
:
矛盾
図 1: 定性・定量融合シミュレーション
このシミュレーションモデルに対して、出力ノードに販売
数 500 など出力目標を設定したとき、その値を取る確率が他
の入力と比べて十分高い入力(理想入力)を求めたいという
要求がある。そこで本研究では、定性・定量融合シミュレー
ションにおける出力目標に対する理想入力を求める方式を提
案する。
2
出力目標に対する入力値求解方式
2.1 モデルを用いた入力値求解の課題
定性・定量融合シミュレーションにおいて理想入力を求め
るために、定義された順方向モデルを基に逆に影響をたどる
ことで結果ノードの値から原因ノードの値を推測することを
考える。定性ノード・定量ノード間の伝播は、定性値に対応
する値の範囲がモデル上で設定されており、その範囲内から
ランダムに値が決定される。また、複数のノードから一つの
ノードへ合流する場合、それぞれの原因ノードには結果ノー
ドへの影響の度合いが大小関係として設定されており、それ
ぞれの伝播値にランダムな重みを付加して結果ノードの値を
決定する。したがって、これらの伝播を逆にたどった場合、
それぞれの定義にしたがって値を一意に決定できる。
一方で、図 1 におけるノード B のように、順方向におい
て一つのノードが複数のノードに分岐する場合、原因ノード
の値を結果ノードにそれぞれ伝播させるため、逆に影響をた
どった場合も同一の値である必要がある。しかし、定性・定
量ノード間で値をランダムに決定していることから、逆に影
響をたどった場合に値が同一になることを保証できない。
2.2 モデル上の定性ノードの位置を考慮した逆伝播
定性・定量融合シミュレーションモデルにおいては、定性
ノードから定量ノードへ値を伝播させる際にランダムに値
を決定していることから、モデルにおいて定量ノードから定
性ノードへ値を伝播させている場合、逆に影響をたどると分
岐に関わるノードが対応しない値をとることがある。その結
果、分岐を逆伝播する際に矛盾が生じる。
そこで、モデル上で定性ノードと分岐が存在する位置を考
慮して逆伝播を繰り返すことで、分岐における逆伝播の矛
盾を解消して入力値を求解する手法を提案する。まず、分岐
…
19
直近の定量・定性
ノードの伝播
16
20
15
高
低
図 2: 定性ノードの位置を考慮した逆伝播手法
3
入力値求解方式の有効性評価
提案手法により得られる入力分布から、ユーザは確率が最
大の入力(推奨入力)を選ぶと考えられるため、全数探索に
より求めた全入力における目標値確率が高い入力に推奨入
力が含まれているかを検証する。このため、全数探索により
求めた目標値確率の上位 3 割に、推奨入力とその周辺の値
(x±{0, 1}, y±{0, 0.1}) が含まれる個数(ヒット数)を調べ
た(図 3 右縦軸)。また、入力分布が理想入力の分布と一致
しているかを調べるため、本方式で求めた入力分布の確率が
高い上位 5 割が、全数探索により求めた目標値確率の上位 5
割が含まれているかを適合率と再現率によって検証した(図
3 左縦軸)。さらに、全数探索によって理想入力を求める場
合よりもどの程度効率化できているのかを調べるため、それ
ぞれ解を求めるのに要する時間を比較した。
適合率
再現率
ヒット数
目標値
図 3: 入力候補の適合率と再現率/推奨入力のヒット数
ヒット数の結果より、推奨入力のほとんどは理想入力に該
当しており、また適合率・再現率の結果から、入力候補の分
布も理想入力の分布に近い傾向があることがわかった。ただ
し、目標値が 300 と 1500 の場合のようにそもそも目標値を
とる入力の組み合わせが少ない場合、逆伝播によっても求め
ることが困難なことがある。
さらに、本求解手法による計算時間は平均約 5 分(最大
11 分)であったのに対し、定性・定量融合シミュレーション
において全数探索を行った場合、約 2 時間 10 分かかること
から、大幅な計算時間の削減が可能であるといえる。
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 20 年 2 月 15 日
非文法的アンケート記述データに対する分類結果サンプル辞書の逐次構築を用いた意見分類方式
中島 基晶 (ビジネス情報システム講座)
1
はじめに
携帯電話を用いたクイズゲームコンテンツ配信では、ユー
ザの退会時に自由回答式アンケートを実施している。このア
ンケートに記載された意見データに含まれる斬新で意外性の
ある、有用な意見の割合はわずか 5%程度であり、分析者が
全意見を逐次読む作業は非効率である。そこで、既知の意見
を分析者が設定した意見内容ごとにカテゴリに分類しながら
取り除き、残された未知の意見の中から有用な意見を分析す
るシステムが提案されている。既存の分類方式では、手作業
でカテゴリに分けた既知の意見群から構築した分類結果サン
プル辞書をもとに、分類対象の意見がこのカテゴリを特徴付
ける単語(以下、代表語)とその特徴度(以下、代表度)を
用いた代表語含有度、及び各カテゴリの意見との使用単語の
一致度を用いた判定により、既知の意見群への分類を行って
いる。しかし、分類精度の向上には、分類結果サンプル数を
増加させる必要があるが、手作業で増加させることは分析者
への大きな負担となっている。そこで本研究では、手作業に
よる少数の分類結果サンプルをもとに、分類対象の意見から
プログラムによるサンプルの追加手法とそれを用いた意見分
類方式を提案する。
2
分類結果サンプルの逐次構築を用いた意見分
類方式
2.1 分類結果サンプル辞書の逐次構築
分類精度を向上させるために、プログラムにより分類結果
サンプルの追加をするには、未知意見の混入がないように既
知意見を抽出し、抽出された既知意見を正しいカテゴリへ分
類しなければならない。そのために、代表語含有度、及び各
カテゴリの意見との使用単語の一致度による判定で用いる閾
値を変動させることを考える。代表語含有度は式 (1) で定義
される。
代表語含有度 = 代表度の和 ÷ 分類対象意見の単語数 (1)
図 1 に示すように、意見が全く抽出されない場合は閾値を
緩め、また意見が一定割合以上抽出される場合は閾値を厳し
くすることで抽出を繰り返し、意見の分類結果サンプルへの
追加を逐次的に行う。初期の分類結果サンプルに対して一定
割合の数だけ増加させたあとに、分類結果サンプル辞書の代
表語および代表度を更新する。
具体的な閾値の変動は、意見が抽出されない場合、それぞ
れの閾値を k1 ずつ減らす。また意見が一定割合以上抽出さ
れる場合は、それぞれの閾値を k2 増加する。また閾値の変
動を c 回繰り返しても、意見数が一定割合以下にならない場
合抽出を終了する。
分類対象意見
・
・
・
意見が抽出されない⇒閾値を緩める
意見が一定割合以上抽出される⇒閾値を厳しくする
分類
既知の意見
分類結果サンプル
代表語
代表度
分類結果サンプル辞書
•
•
… …
更新を行う
図 1: 分類結果サンプルの逐次構築
2.2 意見分類方式
図 2 は、提案する分類方式の概要である。分類対象意見に
対して、逐次構築した分類結果サンプル辞書をもとに、分類
対象意見における代表語の割合で定義する代表語含有率を算
出する、代表語含有率が閾値より小さい場合、その意見は、
そのカテゴリの内容を表していないとみなし、代表語含有度
の値を下げる。既知の意見を正しいカテゴリに分類するため
に、各カテゴリの意見との単語一致度は、分類対象意見と分
類結果サンプルの各カテゴリ内の全意見との Jaccard 係数の
上位 n 個の平均値を、単語一致度とする。Jaccard 係数は一
般に意見間の単語の一致率を示す値である。
分類対象意見
代表語 + 代表語含有性
含有率
の判定
代表語含有率<閾値
代表語含有度を下げる
… …
分類結果サンプル
既知の意見
単語一致性
の判定
単語一致度=
カテゴリ内全意見との
係数の
上位n位の平均
Jaccard
図 2: 意見分類方式の概要
3
評価実験
2470 件の意見データを対象に、提案する分類方式を適用
する実験を行った。全てのデータをあらかじめ手作業で 16
カテゴリの既知の意見と未知の意見に分類し、これを正解
データとした。
実験は、手作業で構築した 128 件の分類結果サンプルを
もとに、提案方式によって分類結果サンプルを追加し、366
件の分類結果サンプル得た。次に、このサンプルをもとに未
分類の 1947 件の意見を分類した。
図 3 は、366 件の分類結果サンプルを得るまでの各段階の
正解カテゴリに分類された数、間違ったカテゴリに分類され
た数、適合率を示している。各段階において高い適合率であ
ることから、提案方式を用いることにより、既知意見のみを
正しいカテゴリに追加することが可能であることを示せた。
表 1 は、128 件と 366 件の分類結果サンプルをもとに未分
類の意見を分類した結果を示す。表 1 より、提案方式によっ
て分類結果サンプルを追加し、このサンプルをもとに分類す
ると、既知の意見の F 値が約 10%向上し、提案方式の有効
性を示すことができた。
160
140
1
120
0.8
100
件
数 80
正解カテゴリ数
適
0.6 合
率
適合率
0.4
カテゴリ間違い数
60
40
0.2
20
0
1
2
3
4
5
6
7
8
0
9 10 11 12 13
図 3: 各段階の追加意見数と適合率
表 1: 分類結果
分類結果サンプルの意見数
F 値 (既知)
F 値 (未知)
128 件
0.721
0.435
366 件
0.813
0.443
平成 ¾¼ 年 ¾ 月 ½ 日
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
エージェントの定型的動作パターンを用いたマルチエージェントシミュレーションモデル記述方式
畠山 剛 ´ビジネス情報システム講座µ
½
はじめに
近年、社会現象や経済現象など複雑系といわれる対象に対
して、複数のエージェントの振舞・作用を基にシミュレーショ
ンするマルチエージェントシミュレーション ´以下、Š˵
手法が提案され、 ÖØ ×Ó などの多数の Å Ë ツールが開発
されている。しかし、現状では容易に理解可能なモデル記述
法がなく、シミュレーションソースプログラム作成の負担が
大きいため、Å Ë を行う際のモデル作成、プログラム作成
に多大な時間を要している。
本研究では、従来のグラフ表現を用いた Å Ë モデル記述
法を拡張し、定型的動作パターンを用いた Å Ë モデル記述
方式を提案する。
¾
開発環境概要と課題
図 ½ に従来の開発環境の概要とグラフ表現を用いたモデ
ル記述法を示す。モデルエディタはモデルをノードとアーク
で表現し、それらに基づいて ÅÄ データとして保存し、実
行環境に応じたソースジェネレータによりソースプログラム
が出力され、シミュレーションが実行される。モデルエディ
タでは、エージェントの性質や状態を表す属性を 変数ノー
ド 、振舞・作用を イベントノード 、属性と振舞・作用間
の影響をアークで表現するグラフ表現を用いたモデル記述法
を用いて、対象問題を記述する。
モデル作成 モデルエディタ
XML
ソースジェネレータ
ソース
プログラム
シミュレーション 実行環境
実行
MASツール(artisoc)
分析者
グラフ表現を用いたモデル記述法
接客上限 販売数 店
現在客数 ID
イベント
混雑確認 購買
ノード 巡回
アーク 店選び 店へ行く 店を出る
チケット 客
変数ノード x y
X
Y
図 ½ 開発環境の概要とグラフ表現に基づくモデル記述法
このモデル記述法では、エージェントの状態や性質を表す
変数ノードと振舞・作用を表すイベントとの関係は記述でき
るが、イベントで記述されるべき振舞・作用の内容について
の記述法は定義されておらず、実行環境に対応したソースプ
ログラムを埋め込む仕組みが開発環境で提供されているだけ
であった。プログラム記述にはプログラミングスキルが必要
であり、スキルがない場合はかなりの負担となる。そこで、
プログラム記述の負担軽減のため、モデルエディタ上でイベ
ントをどのように記述するかが本研究の課題となる。
¿
イベント記述方式
本研究では以下で説明する振舞・作用の特徴に基づいたイ
ベント記述方式を提案する。エージェントは自らの判断で
振舞・作用を起こすため、「条件を満たした時 ´Ï Òµ に、
エージェント ´Ï Óµ が、ルールに従って ´ÀÓÛµ、どこかで
´Ï Ö µ、対象を ´Ï ص、何かする」という定型的パター
ンを複数組み合わせた形でイベントの内容を表現することが
可能である。また、一つのイベントが終了すると、イベント
に関わったエージェントがそれぞれ次のイベントへ遷移する
ため、各エージェントはイベントの流れを有し、シミュレー
ション実行時の単位時間 ´ステップµ において同ステップで
実行するグループがある。そこで、図 ¾ に示すように、定型
的動作パターン「 ϽÀ と動詞」を用いた イベント内容設
計 、 イベントフロー 、 イベントグループ の ¿ つの要素
でイベントを記述する。
イベント内容設計 Who
When
イベントフロー <店> <客> 巡回
条件を満たした時、 エージェントが
店に行く(待ち)
混雑確認
購買(待ち)
店を出る(待ち)
イベントグループ
店選び
店に行く
混雑確認(待ち)
購買
店を出る
店に行く
① 巡回
店選び ② 混雑確認
③ 購買 ④ 店を出る
店
客
ポアソン分布
Compare(条件式)
イベントが実行された
イベントを実行されない
How
Where
What
動詞
ルールに従ってどこかで対象を(に)何かする
Create
Random
店
店のX Select One
Probability(確率)
店のY Make Decision
Compare(条件式)
Change
Max(変数)
客
客のX Get
Min(変数)
、客がMin(Distance(客,店))
店選び Always
に従って、店をSelect Oneする
Always
図 ¾ イベント記述概要
イベント内容設計では ϽÀ と動詞を選択肢から選ぶこ
とで振舞・作用の内容を記述する。選択肢は、Ï Ó や Ï Ø
に関してはグラフ表現を用いた Å Ë モデルからエージェン
トの名前や属性などを抽出して作成され、他の部分に関し
ては記述に必要なボキャブラリを提供する。イベント内容
設計やイベントフローで用いられるボキャブラリは ½¼ 個の
シミュレーションから作成した。このような記述法を用いる
ことにより、人間が考える自然文のシナリオに近い形で設計
ができる。イベントフローではエージェントごとのイベント
の遷移が記述される。イベントの遷移やエージェントの属性
の変化が別のエージェントのイベントにゆだねられる場合、
「待ち」の状態を記述して対応関係をとり、イベント間の遷
移の条件はイベント内容設計の Ï Ò のボキャブラリを用
いて記述する。
評価実験
º½ 提案する記述方式の評価
実行環境として ÖØ ×Ó を用いて、被験者 ¾ 人が対象問
題のイベントの記述を ÖØ ×Ó のプログラムと提案する方
式で記述する比較実験を行った。 ÖØ ×Ó での記述は、変数
の宣言や初期値の代入部分のプログラムをあらかじめ準備し
ておき、イベントのみの記述を行った。また、モデルに対す
る理解を考慮して、提案する記述法と ÖØ ×Ó での作成の順
番を入れ替えて被験者 ¾ 人に実験を実施した。表 ½ に結果を
示す。この結果から、時間が削減されたことが分かる。
表 ½ 実験結果
提案するイベント記述方式
時間 コード行数 時間 動作パターン イベントフロー
A(artioscが先) 210分
136行
90分
22個
5つ
B(artisocが後) 210分
99行
100分
21個
5つ
artisoc
º¾ 開発環境の評価
開発環境を評価するため、実行環境の ÖØ ×Ó に関する知
識を持たない被験者がグラフ表現を用いたモデル記述、提案
するモデル記述方式の両方を用いて、対象問題のシミュレー
ションを全て設計する実験を行った。作成時間は ¾ ¼ 分で、
¾ 個のエージェント、それぞれ 個、 個の変数ノード、 個
イベントに対して定型動作パターン ¾ 個、イベントフロー
¿ つのモデルを作成し、シミュレーションを実行できた。こ
のように、実行環境の知識がなくても実行可能なソースプロ
グラムを生成し、実行できることを確認できた。
平成 20 年 2 月 15 日
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
XML スキーマ更新操作に応じた XSLT 文書変換プログラムの自動生成法
吉田 昌起 (セキュリティ工学講座)
1
研究内容
XML スキーマの更新が更新操作列により表されている場
合に,既存の文書を新しいスキーマに従う文書に変換する
ための XSLT プログラムの生成法を提案する.しばしばス
キーマでは可能な子ラベル系列の集合が正規表現で与えられ
ている.そのため,文書変換プログラムには,変換対象とな
る文書の各頂点の子ラベル系列がスキーマ中の正規表現にど
うマッチングするかに依存して,頂点の追加,削除や,兄弟
関係にある部分木の入れ替え,ラベルの変更を行う能力が必
要となる.本研究では,まず,それら必要な能力を持つ非決
定性木変換器のクラスを定義する.その上で,スキーマ更新
操作列から木変換器を生成するアルゴリズムを示し,XML
文書の変換に一般的に用いられている XSLT プログラムへ
の変換アルゴリズムを示す.
2
提案手法の概略
スキーマの更新から木変換器の生成,木変換器から XSLT
プログラムへの変換までの流れを述べる.例として,図 1 の
2 つのスキーマ G1 ,G2 を考える.G1 は,各従業員の名前
と緊急連絡先 (先に書かれたものが優先される) の情報を格
納できる XML 文書の構造を表す.G2 は,全く新しい id と
いう要素や,employee という要素と fixed,mobile という要
素との間に中間的な階層として新たに phone という要素を
格納できるような構造を表す.G1 から G2 への更新は,以
下のようにスキーマ更新操作列を与えることで行うことを想
定している.
1. 要素 id を挿入する.
2. fixed,mobile を要素 phone で括り出す.
提案手法は,この更新操作列に対して,G1 に従う文書を G2
に従う文書に変換する木変換器 T (図 1 で示す) を生成する.
さらに,木変換器 T を XSLT プログラムに変換する.
3
木変換器の要件
木変換器は以下の要件を満たす必要がある.
• 頂点のラベル系列に対する正規表現のマッチングに合
わせて状態を遷移できること
employees
employees
employee
employee
phone
name
name
fixed
id
fixed
mobile
mobile
“yoshida” “a123”
“06-xxxxxx” “090-xxxxxxxx”
“yoshida” “06-xxxxxx” “090-xxxxxxxx”
ᬞᓥ᫹ᧁ
Gᯢᬞᓥ᫹ᧁ
ᱜ‫ᧁۉ‬ᢥᴺG
ᱜ‫ᧁۉ‬ᢥᴺG
ᜒemployees(EMP*)
EMPS
ᜒemployee(NAME ID PHONE)
EMP
EMPS ᜒemployees(EMP*)
id(PCDATA)
ID
EMP
ᜒemployee(NAME (FIXED MOBILE | MOBILE FIXED)) PHONE ᜒ
ᜒphone(FIXED MOBILE | MOBILE FIXED)
NAME ᜒname(PCDATA)
ᜒ
name(PCDATA)
NAME
FIXED ᜒfixed(PCDATA)
ᜒfixed(PCDATA)
FIXED
MOBILE ᜒmobile(PCDATA)
ᜒ
mobile(PCDATA)
MOBILE
PCDATA ᜒpcdata(ᕁ)
PCDATA ᜒpcdata(ᕁ)
ᦝᣂᠲ૞೉
᜝ᬽ಴ᬊ
ᝌ౉
ᄌ឵
XSLT
ᧁᄌ឵ེ
T:TL(G )ᜒTL(G )
(EMPS, employees(employee *))
ᜒemployees(employee *)
(EMP, employee(name [[fixed mobile | mobile fixed]] ))
ᜒemployee(name id [[phone]] )
(ID, id(pcdata ))
ᜒid(pcdata
)
(PHONE, phone(fixed mobile | mobile fixed ))
ᜒphone(fixed mobile
| mobile
fixed
)
(NAME, name(pcdata )
ᜒ
name(pcdata
)
(FIXED, fixed(pcdata ))
ᜒ
fixed(pcdata
)
(MOBILE, mobile(pcdata ))
ᜒmobile(pcdata
)
(PCDATA, pcdata(ᕁ))
ᜒpcdata(ᕁ)
G1
2
1
1
2
1
1
1
2
1
1
1
2
3
4
1
1
1
1
NAME
PCDATA
1
FIXED
1
PCDATA
1
PCDATA
1
PCDATA
EMP
ID
2
MOBILE
2
PHONE
3
MOBILE
図 1: 変換の流れ
次更新する方法をとった.また,適切な文書変換を定義し,
提案手法により生成される木変換器はその適切な文書変換に
従った変換を行うことを証明した.
5
XSLT への変換
基本的には木変換器の各変換規則を XSLT のテンプレー
トに対応させる.そして,木変換器はトップダウンに動作す
るため,入力木の根から葉方向へ順にそれらのテンプレート
が適用されるような XSLT プログラムを生成する.しかし,
解決しなければならない以下のような問題がある.
• 木変換器は非決定性であるのに対し,XSLT プログラ
ムは決定性で動作する問題.
• 意図した通りの文書変換を行っていることの証明が (容
易に) 行えること
検討の結果,3 つ目の要件を満たすには,出力木の型推論が
容易である必要があることが分かった.1 つ目と 2 つ目の要
件を満たしつつ,出力木の型推論が容易であるような既存
の木変換器が無かったため,本研究では独自の木変換器を定
義した.また,通常,正規表現はマッチングの仕方が複数存
在するため,マッチングの仕方により変換先は複数考えられ
る.そのため,木変換器を非決定性で定義した.
• XSLT には正規表現のマッチングのための組み込み関
数がない問題.
一つ目の問題について,本研究では生成する XSLT プログラ
ムは木変換器で出力され得る木のうちの一つを出力できれば
よいとした.非決定性を決定性でシミュレートすることにな
るため,誤った選択をして計算が行き詰まった場合,バック
トラックして別の選択をできるようにした.2 つ目の問題に
ついては,変数やテンプレートの呼び出しを用いて,正規表
現のマッチングをテンプレートの再帰呼び出しで実現した.
正規表現のマッチングでも,マッチングの仕方が複数あり,
ある選択を行った結果マッチングに失敗した場合は,バック
トラックして別の選択を行えるようにした.
4
6
• XSLT プログラムに変換可能であること
木変換器の生成法
スキーマ更新操作列から木変換器を生成する方法の一つ
として,各スキーマ更新操作に対応する木変換器を生成し,
それらの合成をとる方法が考えられる.しかし,本稿で提案
した木変換器が合成について閉じているかどうかは明らかで
なく,また閉じているとしても,合成にかかる処理コストが
非常に大きいと予想している.そこで,本研究では各スキー
マ更新操作に応じて,木変換器を求めるのに必要な情報を逐
まとめと今後の課題
XML スキーマ更新操作に応じた木変換器の生成法と,木
変換器から XSLT プログラムへの変換法を提案した.今後
の課題として,様々なスキーマ更新に対応できるようにする
ために,頂点の削除や,部分木の入れ替え,ラベルの付け替
えのようなスキーマ更新を表現できるスキーマ更新操作群に
対して,木変換器の生成法を提案することが考えられる.
4
FIXED
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 20 年 2 月 15 日
木埋め込み関係に基づく XML スキーマ進化に応じた XPath 問合せ変換
森本 卓爾 (セキュリティ工学講座)
1
研究の概要
XML はデータ交換用フォーマットやデータベースなどの
様々な用途で広く用いられている.通常,XML 文書の構造
は XML スキーマで定義される.しかし,近年の急速に変
化する社会情勢に対応するため,頻繁にスキーマを更新 (ス
キーマ進化) する必要が生じている.スキーマ進化にあたっ
ては,進化前スキーマに妥当な文書や,その文書に対する問
合せを,進化後スキーマの下で使用できるように変換するこ
とが望まれる.
例として,学生名簿を考える (図 1).進化前スキーマでは,
学生は名前と自宅電話と携帯電話の要素を持つ.自宅電話と
携帯電話が電話番号という要素でくくり出されるようなス
キーマ進化が起こったとする.これに応じて,図 1 の左上の
XML 文書は左下の文書に変換される.図中左上の文書に対
して,森本という学生の自宅電話を求める問合せを XPath
で記述すると「/学生 [名前=”森本”]/自宅電話」となる.し
かし,この問合せを図中左下の文書に対して行うと,自宅電
話は学生の子要素ではなくなっているため,自宅電話要素を
求めることができない.この例のように,スキーマ進化に応
じて問合せを変換しない場合,問合せ結果が異なってしまう.
この場合は,問合せを「/学生 [名前=”森本”]/電話番号/自
宅電話」に変換することが望まれる.
そこで,本研究では,スキーマ進化の前後において同じ問
合せ結果を返すように XPath 問合せを変換する手法を提案
し,その正しさを証明する.
2
研究の内容と成果
本研究の内容は,筆者の属する研究チームが提案したス
キーマ更新操作群によるスキーマ進化に応じて XPath 部分
クラスの問合せを変換する手法を提案し,その正しさを提
案することである.スキーマ更新操作群では,スキーマを木
文法,XML 文書を木として捉え,文書変換における情報保
存の関係を木の埋め込み関係として定式化しており,次のよ
うな特長を持っている.この操作群によるスキーマ進化に応
じて XML 文書を変換するとき,変換後 XML 文書は変換前
XML 文書に埋め込み可能である.対象とする XPath の部分
クラスは,軸として子,子孫,親,先祖,兄,弟を含み,述
語では比較演算と論理演算を扱える実用的なクラスである.
本研究の成果は次の通りである.
• スキーマ更新操作群によるスキーマ進化に応じて問合
せを変換する手法を提案し,その正しさを示した.
• 提案する手法によって変換した問合せは冗長な部分式
を含む場合があるため,近似的な問合せ充足可能性判
定を用いた問合せ簡単化手法を提案した.また,その
計算量を考察した.
• 限定された問合せクラスにおいて,高精度の簡単化処
理が要求される場合に特化した変換手法も提案した.
3
問合せ変換手法
スキーマ進化に応じた文書変換では,変換先文書が一意に
決まらない場合がある.そこで,変換先候補の任意の文書に
対して,同じ問合せ結果を返すように問合せを変換する手法
進化前スキーマに従うXML文書
学生
/学生[名前=”森本”]/自宅電話
名前
自宅電話
携帯電話
森本
078
090
-○○○○
-○○○○
-○○○○
-○○○○
自宅電話
078-○○○○-○○○○
問合せ結果が異なる
進化前スキーマに従うXML文書
該当するノードなし
学生
電話番号
名前
森本
自宅電話
携帯電話
078
090
-○○○○
-○○○○
-○○○○
-○○○○
問合せ結果が等しい
自宅電話
078-○○○○-○○○○
/学生[名前=”森本”]/自宅電話
問合せ変換
/学生[名前=”森本”]/電話番号/自宅電話
図 1: スキーマ進化による問題と問合せ変換による解決
を提案する.変換先候補が一意に決まらないために,問合せ
の各ステップに応じた変換先も同様に変換先候補が一意に決
まらない.提案する変換手法は,問合せの変換先候補をすべ
て求め,その和を変換後問合せとすることを基本方針とす
る.この手法によって変換した後の問合せは冗長な部分式を
多く含むが,問合せ結果の要素集合が等しいことを,問合せ
の構造による帰納法で証明する.
4
問合せ簡単化
冗長な部分式は問合せの処理効率を低下させる原因になり
得るので,それを除去し,簡単化することが望まれる.本研
究では,問合せ充足可能性判定を利用した簡単化手法を提案
する.この手法では,問合せの各部分式について充足可能性
を判定する.充足不能な部分式は,問合せ結果に影響を与え
ないので,それを冗長な部分式と見なし,除去する.
しかし,一般に,正確な問合せ充足可能性判定問題は困難
であることが知られている.そこで,スキーマの近似方法を
提案し,その方法で近似したスキーマに対する問合せ充足可
能性判定問題の複雑さを考察する.正確な充足可能性判定は
NP 完全であるが,近似的な判定は P に属するような問合せ
クラスが存在することを示す.
5
一部の場合に特化した変換手法
変換処理に簡単化処理を組み込むことで,冗長な部分式を
生成しないように問合せを変換する手法を提案する.簡単化
が固定されるため,通常の変換手法と異なり,簡単化の計算
量と精度の要求に応じて簡単化処理を選択できないが,通常
の変換手法で同精度の簡単化処理を行う場合に比べて余分な
処理が少ないという特長を持つ.尚,この手法で対象とする
問合せクラスは兄弟軸を含まない.
6
今後の課題
任意の変換先文書に対して同じ答えを返すという現在の
方針では,問合せクラスを今以上に拡張することは困難であ
ると予想される.例えば,要素のポジション情報を用いた問
合せは,変換先文書によって答えが異なる.そこで,今後の
課題として,文書の変換先に応じて異なる問合せ変換を行う
ことで,入力問合せクラスを拡張することが挙げられる.ま
た,変換手法を実装し,考察することも重要な課題である.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 20 年 2 月 15 日
品質保証可能なネットワーク上で契約帯域を有効利用する動的ウィンドウサイズ制御方式
池田 直徒 (応用メディア工学講座)
1 はじめに
近年,グリッド環境における大規模科学技術計算のように,
広域ネットワークで大量のデータを転送するアプリケーショ
ンが利用され始めている.このようなアプリケーションでは,
高機能観測機器やサーバから転送される大規模データ転送速
度が十分でないと計算処理能力が発揮されず,全体の処理性
能に影響を与える.そこで,品質制御可能なネットワークに
おいて,転送速度を意識した大規模データ転送手法が必要で
ある.大規模データ転送に対して品質を制御する有効な技術
として Diffserv における最低帯域保証サービス (AF; Assured
Forwarding) がある.AF サービスでは,契約帯域以内のト
ラフィックとそれ以上のトラフィックで異なる優先度を設定
することにより,契約帯域を保証し,非輻輳時は空き帯域の
有効利用を図ることが可能である.しかしながら,一般的に
ファイル転送に用いられる TCP と AF サービスと共に利用
した場合,TCP の輻輳回避アルゴリズムの特性のため,輻
輳などにより契約帯域を超えるパケットの大部分が廃棄され
る環境では,スループットは契約帯域を大きく下回る.そこ
で本研究では,DiffServ 上で 2 種類の TCP を使用する方式
に対して,変動する RTT に基づいてウィンドウサイズを動
的に制御することにより,ネットワークの負荷状況によらず
スループットを契約帯域に近づける制御方式を提案した.
Diffserv AF ドメイン
ボトルネックリンク :1Gbps
送信側1ms
1ms
4ms
2ms
D1
受信側
1ms
2ms
クロストラヒック
往復伝播遅延 : 20ms, 契約帯域 : 500Mbps
1ms
図 1: シミュレーションモデル
合の提案方式の性能を調べた.クロストラフィックとして,
一定レートの UDP フロー (CBR),バースト的に発生させた
UDP フロー,FTP による TCP フローの 3 種類を用いた.
3.1 クロストラフィックに一定レートの UDP を用いた場合
図 2 にクロストラフィックに一定レートの UDP を使用した
場合の,クロストラフィックの送信レートに伴う基本フロー
の平均スループットを示した.図 2 から,従来方式ではネッ
トワークが輻輳するにつれてスループットが契約帯域を大
きく下回っている.一方,提案方式では輻輳する場合でもス
ループットを維持することが可能である.
3.2 クロストラフィックがバースト的に発生した場合
図 3 にクロストラフィックにバースト的に UDP を発生さ
せた場合の提案方式の基本フローのスループットの時間変動
を示した.図 3 において,UDP フローは 150 秒に突然発生
し,200 秒に停止している.従来方式では,一度スループッ
トが下がると回復するまでに約 20 秒かかるが,提案方式で
は約 1 秒でスループットを回復可能である.
2 提案する動的ウィンドウサイズ制御方式
本研究では,契約帯域に近いスループットを得るため,ネッ
トワークの遅延 (RTT) に基づいて,動的にウィンドウサイズ
を制御する方式を提案する.本方式では,契約帯域内で転送
するよう制御された基本フローと非輻輳時に帯域を有効利用
するベストエフォートの追加フローの 2 種類の TCP を組み
合わせたデータ転送方式を対象に,基本フローのスループッ
トが契約帯域を超えないよう,輻輳ウィンドウサイズを経路
の RTT に応じて制御する.また,帯域遅延積が大きいネッ
トワーク環境にも対応するため,初期のウィンドウサイズ増
加量を増やすことにより,スループットの回復を早める.
本方式ではまず,送信パケットによりネットワークの RTT
を観測する.観測された RTT により,契約帯域を維持する
ために必要なスループットを得るためのウィンドウサイズ
(cwndmax ) を計算する.次に,現在の cwnd と cwndmax を
比較し,cwndmax より cwnd が大きい場合,契約帯域を超過
しパケットロスの可能性があるため,cwnd を cwndmax に
設定する.また,cwndmax より cwnd が小さい場合,スルー
プットが契約帯域を維持できない可能性があるため,cwnd
を cwndmax まで対数的に増加させる.
3.3 クロストラフィックに FTP を用いた場合
図 4 にクロストラフィックに FTP によるファイル転送を想
定した TCP フローを使用した場合の,クロストラフィック
の FTP フローの本数に伴う基本フローの平均スループット
を示した.図 4 から,従来方式では,混在する FTP フロー
が増えるに従ってスループットが契約帯域を大きく下回って
いる.一方,提案方式では,混在する FTP フローが増えて
も,契約帯域に近いスループットを得ることが可能である.
4 まとめ
本研究では,品質管理が可能なネットワークにおいて契約
帯域にスループットを近づけるために,RTT 値に基づいた
動的ウィンドウサイズ制御方式を提案した.評価の結果,提
案方式によりクロストラフィックが変動しても,スループッ
トを契約帯域に近づけることができ,またスループットの早
期回復を実現できることが確認できた.
参考文献
3 性能評価
[1] 野呂正明 他, “Diffserv AF 環境において動的な契約帯域
制御を行う大規模データ転送方式 ,” 情報処理学会論文
誌, vol. 49, no. 2, Feb. 2008.
図 1 のモデルを用いてシミュレーションを行った.基本性
能として単一データ転送とクロストラフィックが混在する場
1000
Proposal(Binary search increase)
Fixed max cwnd
Conventional
600
大規模データ転送
S1
Proposal(Binary search increase)
Fixed max cwnd
Conventional
900
Proposal(Binary search increase)
Fixed max cwnd
Conventional
600
500
700
Throughput [Mbps]
Throughput [Mbps]
Throughput [Mbps]
800
600
500
400
500
300
200
100
400
400
0
0
100
200
300
400
500
600
700
800
900
1000
Background traffic [Mbps]
図 2: 基本フローのスループット (CBR)
150
160
170
180
190
200
Time [s]
図 3: 基本フローのスループット変動
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
Number of FTP
図 4: 基本フローのスループット (FTP)
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 20 年 2 月 15 日
移動履歴からの滞在箇所抽出によるユーザ間の嗜好類似度計算手法
篠田 裕之 (応用メディア工学講座)
1
研究の背景と目的
ユビキタス技術の発達に伴い,ユーザやその周辺の情報に
基づいて内容を変化させる状況に適したサービスが実現可能
となりつつある.そのようなサービスのうち,ユーザが次に
行うべき行動を推測し,提示する行動ナビゲーションは重要
なアプリケーションとなると考えられる.本研究では,移動
履歴のみからユーザの滞在箇所を抽出し,当該箇所での滞在
時間を用いて協調フィルタリングを行う行動ナビゲーション
システムを提案する.
2
協調フィルタリングに基づく行動ナビゲーシ
ョン
本研究では,ユーザの嗜好や求める情報の違いが滞在箇
所・滞在時間に現れる傾向があることに着目し,ユーザ間の
滞在箇所の履歴の類似度に基づき,類似ユーザを参照した上
で未訪問の箇所の提示や推薦を行う行動ナビゲーションシス
テムを提案する.従来の同様の研究においては,ユーザは自
身のプロファイル情報等をシステムに入力しなければ行動ナ
ビゲーションを得られなかった.本研究では,こうした手間
を省くことを目指し,ユーザによる明示的な入力を用いず,
GPS 等の機器を用いて自動的に取得できるユーザの座標お
よび時刻情報のみから滞在箇所の抽出を行う前提とする.
まず,滞在箇所,滞在時間に基づくユーザ間の類似度を求
めるため,ユーザ K , L の滞在箇所 i における類似度 RK,L
は,ユーザ K , L の滞在箇所ごとの滞在時間のベクトルの
余弦として,以下の式により求める.
RK,L =
K ·L
=
|K| · |L|
i (Ki ·
2
i (Ki ) ·
図 1: 滞在箇所抽出閾値調整前(左)
・自動調整後(右)
4
実験およびシミュレーションによる評価
本手法における実用性を示すため実験を行った.GPS 機
器を持った 10 人のユーザに,京都河原町周辺を散策後,そ
の行程表を作成してもらった.それを用いて,抽出精度,再
現率,行程表で求めたユーザ間の類似度計算との平均類似度
誤差を算出した.図 2 より,ログの補間や自動調整を行うこ
とで,スポット抽出および類似度計算の精度が向上した.ま
たシミュレーションによって時間変化ごとの類似度計算精度
変化を評価した.図 3 より,提案手法によって,より早い段
階で高い分類精度に達することが確認された.
Li )2
2
i (Li )
これにより,滞在箇所における滞在時間をその場所におけ
るユーザの評価値とした協調フィルタリングによる類似ユー
ザが選定される.上記ユーザごとの滞在箇所(スポット)は
自動的に得られる履歴を基に抽出する.このとき,GPS 等
のログは電波状態等により途切れることが多いため,建物等
に入ったときに,スポットの抽出もれが生じることがある.
また,たとえば観光地においては,公園や建物など大小様々
なスポットが存在する.公園などの広いスポットでは,敷地
内をユーザが自由に動くため,単純に座標および時刻情報か
ら一定の滞在時間と移動距離の閾値をもとにスポット抽出を
行なうと,ただしくスポットとみなされない問題が生じる.
そこで本研究では,GPS の取得損失があった場合に前後
の移動速度をもとに座標の補間を行うとともに,移動速度の
相対的な変化に基づき,スポット抽出のための滞在時間と移
動距離の閾値を調整を行う滞在箇所抽出手法を提案する.
3
また,スポットごとに適切な大きさで抽出するため,移動
速度とスポットの広さの相関に着目し,ユーザの移動速度に
基づいて,スポット抽出の際の閾値を自動調整する手法を提
案する.図 1 の右は,スポットが分断されて抽出されていた
ものが,自動調整によって適切な大きさのスポットとして抽
出された様子を示している.
滞在箇所の抽出手法
ユーザ間の滞在箇所の履歴を正確に抽出するため,移動速
度に基づくログの補間を行った.ログの損失が起きた場合,
ユーザの直前の平均移動速度からログ補間間隔を決める.ま
た,ログが損失していた時間から移動時間を差し引いたもの
をログ消失点の滞在時間とする.それにより,ログが補間さ
れ正確に滞在箇所が抽出された様子を図 1 の左に示す(赤円
は抽出スポットを示している).
図 2: 抽出精度・再現率(上)および類似度誤差(下)
図 3: 提案手法における時間経過ごとの平均分類精度の変化
5
まとめ
本研究では, ユーザの移動履歴から滞在箇所・滞在時間を
抽出し,協調フィルタリング手法に適用することで,ユーザ
の移動履歴を他のユーザのものと比較し,類似の行動履歴を
持つ他のユーザの行動履歴を参照するシステムを提案した.
システムの実現にあたって,ユーザの移動速度を考慮するこ
とで,移動履歴の補間および,滞在箇所の抽出閾値の自動調
整を行う手法を提案した.本手法により滞在箇所抽出精度,
ユーザ間の類似度計算精度が向上することが確認された.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 20 年 2 月 15 日
センシングデータの意味的解釈に基づく分散センサ情報管理アーキテクチャの提案
Ly Lam Ngoc Bich (応用メディア工学講座)
研究の背景と目的
䉪䉣䊥䋱
SuitablePlace䋨2,3)?
2
セマンティックセンサアーキテクチャ
本研究では,センサの設置状況を把握できない場合のもと
であっても意味的な状況を得られるよう,P2P で接続され
るセンサ端末から動的にセンシングデータを探索し,それら
をもとに意味的解釈を行なう方法をとる.このとき,意味的
状況把握のために必要とされる位置に必要なセンサが存在し
ない場合,周囲に存在する同種類のセンサをもとに,対象と
なる位置の情報を推測する必要がある.また,必要となる種
類のセンサも存在しない場合においては,意味的な解釈によ
り,異なる種類のセンサの情報を用いて必要な状況に関する
情報を導き出すことができる可能性がある.
そこで本研究では,図 1 に示すようにセンシングデータを
そのまま取り扱うレイヤ (Raw Layer: RL) と,センシング
データをもとに地理的距離をもとにデータを補完した情報を
提供するレイヤ (Abstract Layer: AL) と,演繹により補完
されたデータをもとに意味的解釈を行なうレイヤ (Logical
Layer: LL) を持つセマンティックアーキテクチャを提案す
る.例えば,SuitablePlace(x,y) というクエリが要求された
とき,まず LL で図 1 に示すような木構造のルールにより
SuitablePlace の意味を解釈し,必要とされるセンサ情報を
導出し,AL に要求する.AL では,この要求に対し RL の
ある地理的範囲に含まれるセンシングデータを収集し,指
定位置のセンサ観測値の推定値を計算し応答を返す.また,
LL は AL から取得した情報から状況を判断し,問い合わせ
元に応答する.
Suitable Place
(2,3)䋿
True
AND
GooWeather
Suitable Place (2,3)
True
Rain(2,3)
0ml
NotCrowed
OR
Congestion<50%
NotRain
RainVolume<=0
Ṷ➈
⵬ቢ
Rain䋺0ml
Rain䋺0ml
Suitable Place
䌒䌵䌬䌥
AND
Cool
15<Temperature<25
NotHumid䋨x,y)
Logical Layer
Ṷ➈䈮䉋䉎ᗧ๧⊛
⸃㉼
0<Humidity<50%
Abstract Layer
࿾ℂ⊛〒㔌䉕䉅䈫䈮䉶䊮䉲䊮䉫
䊂䊷䉺⵬ቢ
Raw Layer
䉶䊮䉲䊮䉫䊂䊷䉺(୯䋩
Rain䋺0ml
図 1: セマンティックセンサアーキテクチャ
䉪䉣䊥2
SuitablePlace䋨2,3)?
䉪䉣䊥3
SuitablePlace䋨3,3)?
True
True
True
Logical Layer
SuitablePlace (2,3)
True
઒ᗐ䉶䊮䉰
䈱↢ᚑ
Abstract Layer
Rain (2,3)
0ml
઒ᗐ䉶䊮䉰
䈱↢ᚑ
Rain:0ml
Raw Layer
Nearest Neighbor Peer
Rain䋺0ml
Rain䋺0ml
2
図 2: 仮想センサの設置
3
仮想センサによるトラヒックの削減
セマンティックセンサアーキテクチャを実現する上では,
センサ情報の処理に関する冗長性の問題を考慮する必要が
ある.例えば,ある地域に同じクエリが多く発生したとき,
同じ処理を複数の端末が処理しなければならない.また,対
象となるセンサが各端末に同じ値を返さなければならない
ため冗長な処理が多くなり,トラヒックも増大する.具体的
には,クエリ処理を対象をとなる位置に最も近い位置に存在
するピアが AL と LL に処理した結果をキャッシュとして保
持し,当該位置へのセンサ探索要求に応答する仮想センサを
生成する.各仮想センサは,一定の地理的有効範囲をもつも
のとする.センサに有効範囲を設けることにより正確な値が
返されない場合が生じるが,センサがある一定の密度で存在
し,観測値の変化が急激でない環境であれば,正答できない
範囲はある程度抑えることができる.
4
システム実装と評価
100
30000
25000
઒ᗐ䉶䊮䉰䈭䈚
0m
100m
200m
500m
95
ᱜ╵₸䋨䋦䋩
ユビキタス環境においては,センサを含む様々な端末が
ネットワークに接続されるため,端末間で相互にセンサ観測
値等を探索可能とし,共有可能とすることで,ユーザの状況
に応じて内容を変化させる状況依存型サービス等の高度な
サービスの実現が期待できる.こうしたサービスの実現のた
めには,異なる種類のセンサが多数分散して配置される環境
のもとで得られるセンシングデータから,ユーザやその場の
状況を意味的に把握する必要がある.このとき,計画的にセ
ンサを配置するのではなく草の根的に配置される分散環境を
想定すると,事前にセンサの設置状況を把握できず,必ずし
も指定する種類のセンサが存在するとは限らないため,セン
サ情報の取得要求に応じることができない場合がある.
本研究では,P2P によりセンサ端末が接続された分散環境
を想定し,収集可能なセンシングデータをもとに意味的解釈
を行うことにより,センサ情報の補完を行なうセマンティッ
クセンサアーキテクチャを提案する.また,提案アーキテク
チャの P2P エージェントプラットフォーム PIAX 上での実
装法とおよび評価を示す.
䊜䉾䉶䊷䉳ᢙ
1
20000
15000
10000
90
85
80
5000
75
0
700
䉪䉣䊥ᢙ
(a)
у
0m
઒ᗐ䉶䊮䉰䈭䈚
200m
100m
500m
䉪䉣䊥ᢙ
(b)
図 3: トラヒックの変化と応答の正答率
提案方式を P2P エージェントプラットフォーム PIAX 上
に実装し,シミュレーション評価を行った.シミュレーショ
ン環境として 5km×10km 範囲にランダムに 1000 個のセン
サを配置し,AL がセンサを探索する範囲を半径 500m とし
た.図 3(a) に仮想センサの有効範囲の変化によるトラヒック
の変化を示す.仮想センサの有効範囲が大きいほど発生メッ
セージ数が減少しており,特に 500m の場合はトラヒックは
20%まで減少している.図 3(b) はセンサの有効範囲の変化
による応答クエリの正答率を表している.有効範囲が大きい
ほどクエリの応答結果の正答率は減るが,有効範囲 500m ま
ではクエリに対する応答の正答率は 90%以上に保つことが
できていることがわかる.シミュレーション結果により,上
記条件のもとでは,仮想センサにより,正答率を高く保ちつ
つトラヒックを大きく削減できることがわかった.
5
まとめ
本研究では意味的な状況判断システムのためのセマンティッ
クセンサアーキテクチャおよび仮想センサによる効率的実現
法を提案した.シミュレーション評価により仮想センサによ
るトラヒック削減手法の有効性を確認した.
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 20 年 2 月 15 日
シェーマや 3D モデルを用いた先天性心疾患のための医用コミュニケーションシステム
大森 健太 (ヒューマンインタフェース工学講座)
1
はじめに
心臓や心臓付近の血管などに生まれついての異常をきたす
先天性心疾患には,患者ごとに多様な症例がある.さらに,
心臓は複雑な立体構造をもっているため,医療従事者が疾患
の診断を行い,説明および記録用に正確なシェーマ(2D の
図)を作成するには多くの時間と労力が必要となる.また,
医療従事者が患者に,多くの事前知識を必要とする先天性心
疾患や手術の説明をするのは,非常に困難である.
そこで本研究では,電子カルテなどに用いられるシェーマ
の作成システムと,3D グラフィックスを用いた外科手術説
明用システムを構築した.シェーマ作成システムでは,ユー
ザが心臓の各部分の疾患を選択し,システムが自動的にそれ
らを組み合わせることで,短時間で高品質なシェーマを作成
することができる.一方,手術説明用システムでは,2 つの
3D モデルを同時に閲覧することで,外科手術を容易に理解
することができる.続けて,医師や看護師を対象にしたユー
ザテストにより,手術説明用システムの有効性を検討する.
2
シェーマ作成システム
先天性心疾患は種類が多く,心臓が複雑な立体構造をもっ
ていることから,診断や記録,説明などに用いるシェーマ作
成が医療従事者の大きな負担となっている.先天性心疾患
は,心臓を解剖学的に分類した小さな部位ごとの疾患の組み
合わせから構成されているため,あらかじめ用意された疾患
の部位ごとの図を組み合わせることで全体のシェーマを作成
することができれば,シェーマ作成にかかる時間を短縮し,
医療従事者への負担を軽減することができる.
そこで,ユーザが心臓の各部位ごとの疾患を選択すること
で,システムが自動的にそれらの組み合わせを行い,高品質
なシェーマを作成するシステムを提案する.このシステムで
は複雑な大血管の構造を直感的に編集するため,血管を複数
レイヤに分割して扱う.本システムでは一本の血管は接続構
造を保持しつつ複数のレイヤに渡って表現され,血管の部分
ごとの重ね順を自由に入れ替えることができる.これによ
り,ユーザは入り組んだ構造の血管を容易に編集できる.ま
た,シェーマをベクトル形式で扱い,部位ごとのシェーマの
端点同士の位置と接線の傾きを一致させることで,シェーマ
に継ぎ目や凹凸ができることを防ぐ.さらに,先天性心疾患
において重要な要素である血行動態をシェーマに反映するた
め,各部位の疾患を自動的に判定し,心臓全体の血行動態を
色で表現する.提案システムによる正常な心臓と大血管転位
の心臓のシェーマの生成結果を図 1 に示す.
3
3.1 説明システムの機能検討
Senning 手術とは,左右心房間で血液の入口と出口の関係
を反転させる心房内血流転換術の 1 つである.この手術過程
では心房の形状が大きく変形するために,前もって手術に関
する知識を持っていないと,手術の過程において形状の変化
を把握するのは難しい.
そこで手術過程の 3D モデル各部分での対応をユーザに示
すため,手術過程において変化していく対応部分を同色で表
現した 3D モデルを,ユーザが見比べられるように図 2(左:
手術前,右:手術第一段階)のように 2 つ並べて表示した.
緑色で表示された右房後側が左右で変形している様子が確認
できる.ユーザはこの 2 つの 3D モデルを,任意の手術過程
を表す 3D モデルに切り替えて比較することができる.さら
に手術の各操作で血流路が変化している様子を容易に理解で
きるよう,心房内の血流路に仮想的な矢印を表示した.
3.2 ユーザテスト
Senning 手術に関わる心臓外科医と心臓外科の専門修練医,
および看護師 26 名を対象に,アンケートによるユーザビリ
ティの主観評価を行った.アンケート評価では,提案システ
ムの各機能の評価の他,提案システムと従来の 2D のシェー
マのどちらが理解しやすいと感じたか,自分が説明をすると
すればどちらの方が使用しやすいと思うか,などをアンケー
ト項目とした.その結果,提案システムの機能が手術説明に
対して有効であるという結果が得られた.また,立体形状を
見比べて確認できることや,内部構造まで含めたさまざまな
情報が閲覧できることなどが特に高い評価を得た.一方,従
来のシェーマによる説明と比較した場合にも,3D グラフィッ
クスを用いた説明が効果的であることが確認された.
4
おわりに
本研究では,ユーザが心臓の各部位ごとの疾患を選択す
るだけで高品質なシェーマが得られるシェーマ作成システ
ムと,3D グラフィックスを利用して立体的な外科手術を効
果的に説明できる手術説明システムの構築および評価を行っ
た.今後は,シェーマ作成システムの機能充実および評価,
Senning 手術以外における手術説明システムの適用などが課
題として挙げられる.
3D モデルを用いた手術説明システム
先天性心疾患の外科手術には,執刀医や麻酔医,看護師な
ど多くの人員が関わるため,互いの意思疎通が重要である.
また,近年では事前に患者から治療行為の同意を得るイン
フォームドコンセントについても,説明にかかる時間や,説
明不足による誤解などが問題になっている.前章で述べたよ
うに,医学的な知識や概念の説明にはシェーマをはじめとす
る 2D の媒体が一般的に用いられるが,人体は複雑な立体構
造を持っているため,2D の媒体で構造を把握することが容
易ではない.電子ディスプレイ上で 3D モデルを用いて説明
することで,構造把握を支援できると考えられるが,これま
でそのような試みはなかった.
そこで本研究では,先天性心疾患に関する外科手術の中で
も特に立体的で複雑な施術を必要とする Senning の手術を
テーマとし,その手術過程を説明するシステムを構築した.
(a) 正常な心臓
(b) 大血管転位
図 1: シェーマ作成システムの表示例
図 2: 手術過程説明システムの表示例
平成 20 年 2 月 15 日
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
ActiveCube ハードウェアにおけるユーザビリティ向上に関する研究
川合 規文 (ヒューマンインタフェース工学講座)
1
はじめに
我々は,実空間と仮想空間との境界を取り払い,相互にイン
タラクションすることができるユーザインタフェースを目指
して,ActiveCube を提案し,検討を進めている.ActiveCube
とは,立方体のブロックを操作対象としたユーザインタフェー
スであり,ブロックを組み立てることによる仮想空間へのリ
アルタイム 3 次元モデリング機能,ブロックを直接操作す
ることによる構築形状とのリアルタイムインタラクション機
能,およびブロックが装備する入出力デバイスを介した双方
向インタラクション機能を持つ.
本研究では,この ActiveCube ハードウェアの各機能の
ユーザビリティを向上させるための手法を検討する.具体的
には,リアルタイム 3 次元モデリング機能に対してはブロッ
ク間接続のロバスト化手法とその評価手法,リアルタイムイ
ンタラクション機能に対してはブロックと PC 間の通信を無
線化する手法,および双方向インタラクション機能に対して
は入出力デバイスのモジュール化手法について検討し,実装
する.これらの手法によってさらに幅広いアプリケーション
への応用が可能なユーザインタフェースの実現を目指す.
2
形状構築機能のユーザビリティ向上とその評価
従来の ActiveCube では,ブロック間接続に衣料用ホック
を用いていたため,接続強度が不十分であり,形状構築中に
ブロック接続が外れてしまうといった問題があった.そこで
我々は,強力な磁石を接続に用いることでブロック間接続を
ロバスト化する手法を提案し,実装したが,ユーザが実際に
この手法を用いて形状構築した際のユーザビリティの定量的
な評価は行っていない.そこで,ActiveCube の形状構築機
能におけるユーザビリティを定量的に評価する手法を提案
し,実際に被験者実験を行うことで,ブロック間接続のロバ
スト化手法の評価を行う.形状構築機能の評価手法として,
図 1 に示すような,ActiveCube を用いてある形状を構築す
るゲーム様のタスクを用いた評価手法を提案する.各タスク
において,ユーザが構築した形状とターゲット形状との,接
続方式ごとの類似度の推移を記録し,形状構築に要した時間
や,類似度の推移グラフの傾きが反転した回数などの測定値
を解析することで,ActiveCube の形状構築機能のユーザビ
リティの定量的な評価が可能であると考えられる.
この評価手法を用いて,大学院生 10 名を対象に被験者実
験を行った.実験は,10 種類の形状構築タスクを,ホック
と磁石の両接続方式の場合について行った.また各タスクで
使用した形状の壊れやすさを定義し,各タスクの難易度を 5
段階で評価した.実験結果から,全ての難易度において,磁
石接続方式の方がより速く,安定してタスクを完了できてい
ることが確認できた.また両方式の差は,難易度が高いタス
クにおいてさらに大きかったため,磁石接続方式は,複雑な
形状の構築作業においてより有効であると考えられる.これ
らにより,磁石接続方式を用いることで ActiveCube の形状
構築機能のユーザビリティが向上していることを定量的に評
価することができた.
3
式は,通信速度や通信の信頼性が低く,安定した動作が困難
であるという問題があった.またブロックの姿勢を検知する
モーションセンサは,リアルタイムにセンサ値をポーリング
し,ホスト PC へ送信する必要があるため,通信速度の遅い
従来の無線方式による無線化は実現できなかった.そのため,
仮想空間とのインタラクションの種類に制限が生じていた.
そこで,無線方式“ Zigbee ”を新たに採用し,無線通信の高
速・安定化を図った.またこれにより,ホスト PC との高速
な無線通信が可能となったため,通信上にモーションセンサ
のデータを付加することが可能になり,ブロックの姿勢情報
の無線化も実現した.これによって,従来の ActiveCube の
全ての機能の無線化を実現した.提案した無線方式によるイ
ンタラクションの様子を図 2 に示す.
また,実装したシステムの応答時間と通信信頼性を評価す
る実験を行い,従来とほぼ同等の応答時間を保持しつつ,信
頼性の高い無線通信を実現できていることを確認した.
4
デバイスのモジュール化による入出力機能の
自由度向上
ActiveCube の入出力デバイスが実装されているブロック
は,ブロックの 1 面をデバイスが占有しているため,形状構
築に使用できるブロック面が制限され,また構築形状の所望
の位置にデバイスを配置することが困難であるといった問題
がある.そこで,これらのブロックから入出力機能のみを取
り出したデバイスモジュールを実装することで,ActiveCube
の入出力機能と形状構築機能とを分離させる手法を提案す
る.実装したデバイスモジュールを接続し,それらの機能や
位置,向きなどを認識した例を図 3 に示す.これによって構
築形状への入出力デバイスの追加や削減を自由に行うことが
でき,ActiveCube の入出力機能の自由度向上を実現した.
5
おわりに
ActiveCube のハードウェアにおけるユーザビリティをさ
らに向上させるために,ブロック間接続のロバスト化手法と
その評価,ブロックと PC 間の通信の無線化手法,および入
出力デバイスのモジュール化手法について検討し,実装した.
今後は,ユーザビリティが向上したことによって可能に
なった,より幅広いアプリケーションへの応用を検討してい
く予定である.
図 1: 形状構築ゲームによるユーザビリティ評価実験の様子
通信の無線化によるインタラクション自由度
の向上
これまで,仮想空間とのインタラクションの自由度を向上
させるために,ホスト PC と無線通信を行うことで,通信線
による操作の制約を解消する無線方式の ActiveCube を検討
してきたが,従来の無線方式で用いられていた 2 値 FSK 方
図 2: 無線を用いたインタ 図 3: デバイスモジュール
ラクションの様子
を接続・認識した例
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 20 年 2 月 15 日
実物体を用いたユーザ指向インタラクション空間の構築
小池 季 (ヒューマンインタフェース工学講座)
1
はじめに
近年,3 次元モデル,映像,音声などを組み合わせたマル
チメディアコンテンツを一般家庭用のコンピュータで扱うこ
とが容易になってきた.その一方で,コンピュータを操作す
る際にはマウスやキーボードを用いて行うのが一般的であ
り,初心者や子供,高齢者にとって使いやすいデバイスであ
るとは言い難く,より直感的に扱うことのできるユーザ指向
インタフェースが求められている.そこで,本研究では実物
体を用いた 2 つのアプローチでこの問題に取り組む.
1 つ目として,障害を持つ子供をサポートするインタフェー
スを提案する.提案システムでは,障害を持つと疑われる
子供に対して,本研究室で検討を進めているブロック型イン
タフェースである ActiveCube を用いて,その障害を診断す
ることを試み,さらにリハビリテーションに関しても検討す
る.また 2 つ目として,一般的なユーザを対象に,ユーザが
自由に実物体を用いたマルチメディアコンテンツ操作のため
のインタフェースを設計・構築できるシステムを提案する.
提案システムでは,接続端子として磁石を用い,基板の上に
ユーザが使いたい入出力デバイスを乗せると,即座に位置と
デバイス ID を検知し,ネットワーク上のデバイスとして使
用することができる.
2
障害診断・リハビリのためのインタフェース
今回対象とする障害は,発達性協調運動障害というもの
で,主な特徴として手先を使うタスクが苦手で,生まれつき
脳に負った障害が原因と考えられている.このような障害を
診断する際に,空間認知能力や形状構築能力を評価する手
法が採られているが,評価に医師の主観が入ってしまい,診
断に一貫性が無くなる恐れがある.そこで,提案システムで
は,診断から主観を排除し,一貫性のある診断を下すための
システムを提案し,その後のリハビリについても検討する.
2.1 診断システム
診断システムでは,ActiveCube を用いて形状構築タスク
を行い,構築にかかった時間などを解析することで診断す
る.対象となる患者は子供であるため,彼らにとって親しみ
やすいインタフェースデザインが必要である.そこで,公園
を模した仮想環境上に,飛行機や滑り台などのブロックモデ
ルを配置し,同じ形状を ActiveCube を用いて組み立てる構
築タスクを実装した.6 歳と 7 歳の被験者 6 人によって行っ
た予備実験では,形状構築の際に何度かブロックを崩してし
まうことがあったが,30 分ほどのタスクの間,被験者は飽き
ることなく形状を構築することができ,全員が全てのタスク
を終えることができた.また,形状構築の結果に関しても,
ペーパーテストによって障害と診断された被験者とそうでな
い被験者との間で有意差が見られ,本システムが診断に有効
であることが分かった.
2.2 リハビリシステム
リハビリは通常,同じようなタスクを繰り返し与えること
によって行われる.そのようなタスクの繰り返しは患者に,
特に子供には飽きを感じさせ,1 回のタスクに対する集中力
を低下させる恐れがある.そこで,提案するリハビリシステ
ムでは,診断システムにおいて被験者が構築した形状で遊ぶ
ことのできる PlayPhase を用意し,ActiveCube の入出力ブ
ロックを利用したインタラクティブなゲームを実装した.こ
れによりリハビリタスクに対する集中力を維持することが可
能であると考えられる.
3
実物体を用いたインタフェース構築システム
実物体を用いてユーザが独自のインタフェースを構築する
システムはこれまでも提案されてきたが,それらはデバイス
が配置された位置を認識不可能で,デバイスの位置を考慮し
たインタラクションを行うことができず,さらにデバイス自
体の接続強度が弱いなどの問題点があった.そこで,これら
の問題点を解決し,ユーザが容易にそのユーザ独自のインタ
フェースを構築できるシステムを提案する.
3.1 ハードウェア構成
今回実装したシステムを図 1 に示す.ハードウェアは位置
検出モジュールとデバイス情報管理モジュールから構成され
る.デバイスを載せる基板の下にはネオジム磁石をマトリッ
クス状に配置し,磁石を接続端子として持つデバイスを基
板の上に載せると,基板の下の磁石が引き寄せられ,電力を
デバイスに供給すると同時にスイッチが入り,そのスイッチ
入力を位置検出モジュールによって検出することで,デバイ
スの接続と同時に位置の検出ができる.デバイス情報管理
モジュールでは,それらのデバイスの接続情報を収集すると
共に,電力が供給されたデバイスと通信して ID 情報を受信
する.そして,集めた位置情報と ID 情報を組み合わせて,
USB によって PC へと送る.これにより,例えば家中の部
屋の壁を全て基板で置き換えることで,様々なセンサやデバ
イスを好きな位置に配置してもその情報を簡単に管理でき,
音楽プレーヤや小型の液晶などを取り付けて家庭内のどこで
もコンテンツを楽しめる環境を構築できる.
3.2 システムの応答性
実装したシステムを用いて位置・デバイス ID の検出・入力
デバイスの応答性に関して実験を行った.その結果,位置の
検出に平均 16.7ms,デバイス ID の検出で平均 90.2ms,入
力デバイスの応答に平均 2.8ms という結果が得られ,十分
なリアルタイム性を確保できた.
4
おわりに
本研究では,実物体を用いたユーザ指向インタフェースと
して,障害の診断・リハビリのためのシステムと,ユーザ独
自のインタフェースを設計・構築するためのシステムを提案
した.今後,診断システムにおいては長期的な実験によって
その有効性の評価を行い,インタフェース構築システムにお
いては基板のモジュール化による面積の拡大や通信方法の検
討,マルチメディアコンテンツを扱えるデバイスなどを実装
する予定である.
図 1: ハードウェアの概念図と実装システム
平成 20 年 2 月 15 日
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
Web による情報発散を用いた映像コンテンツ作成のための発想支援システム
後藤田 広也 (ヒューマンインタフェース工学講座)
1
はじめに
近年,YouTube などの動画共有サイトの登場や,TV の
多チャンネル化などにより,映像コンテンツの量が増加して
いる.しかし,映像コンテンツの作成には多くの手間や時間
が必要であり,中でもシナリオは,コンテンツの質を大きく
左右するにも関わらず,コンテンツの曖昧なテーマやコンセ
プトなどからこのシナリオを作成することは困難な作業であ
る.一般にシナリオ作成のような創造的な活動の支援には,
関連情報の取得,複数人によるアイデアの共有,発想の枠組
みの利用などが考えられる.一方,テキストを用いて Web
検索を行うと,テキストに関連の強いものから弱いものまで
様々な情報を取得できる.本研究ではこれを Web による情
報発散と呼び,発想の種として利用する.
本研究では,ユーザが入力したテキストを Web を用いて
発散させ,得られた情報からシナリオの発想に有効だと思わ
れるキーワードや画像を抽出し,発想法の一つである放射思
考を用いて提示することにより,ユーザの発想を促すシステ
ムを提案し,実装する.提案システムにより提示される発散
された情報を発想の種として用いることにより,発想の行き
詰まりの打破や,斬新なシナリオの発想が行えると考えら
れ,実装システムを用いて評価する.
2
提案システム
提案するシステムでは,テキストの関連情報として,動作
主,場所,時間,下位語,上位語,形容句を Web を用いて
取得し,それらの語句をクエリとして得られた画像を付加し
て放射状に広がる木の形でユーザに提示する.Web から取
得された語句や画像は,入力テキストと多様な形で関連して
いるため,ユーザがこれらを発想の種として用いることによ
り,新たな発想を行うことが期待される.また,得られた画
像にコンテに必要な情報を付加し,スライドショーにして閲
覧することにより,完成した映像コンテンツの印象を掴みや
すくする.図 1 に提案システムの構成を示す.
2.1 関連情報の取得
動作主の取得では,入力テキストから抽出された名詞と,
動詞に主体を示す格助詞「が」を付加した語句を用いて Web
検索し,
「が」に係る名詞を動作主として取得する.
場所の取得では,入力テキストから抽出された名詞や動詞
と,場所を示す「にいる」という語句を用いて Web 検索し,
「にいる」に係る語句を場所として取得する.
時間の取得は,入力テキストから抽出された名詞や動詞と,
範囲の始まりと終わりを表す「から*にかけて」を用いて行
う.ここで「*」は不定の文字列を表す.検索結果の「から」
と「にかけて」の間の文字を抽出し,時間として取得する.
動作主,時間,場所は入力テキストから得られた名詞や動
詞との共起度を Web 検索により求め,入力テキストとの関
連度が強いほど上位に来るようにランク付けする.
下位語,上位語,形容句の取得は,名詞句に対して行う.
下位語は名詞句の直後に「の」を付加して Web 検索し,検
索結果から検索クエリの直後にある名詞を取得する.上位
語は名詞句の直前に一般化の表現の一つの「である」を付加
し,直後に「が」,
「は」,
「の」のいずれかを付加して Web
検索し,検索結果から「である」の直前にある名詞句を抽出
することによって取得する.形容句は名詞句の直前に「い」
及び「な」を付加して Web 検索し,検索結果から名詞句の
直前にある形容詞及び形容動詞を抽出することによって取得
する.下位語,上位語,形容句は,検索結果に出現した回数
を基に,入力テキストとの関連度を表すランク付けを行う.
2.2 情報の提示
得られた語句は,図 2 に示すように,入力テキストを中
心に配置し,放射思考のために放射状に広がる木によって提
示する.木の節点に,語句とそれに関連する画像を付加した
ものを提示する.また,枝には,入力テキストとの関連ごと
に異なった色を用いる.このとき,双曲平面上に木を描画す
ることで,常に木の全体を表示する.また,得られた画像を
貼り合わせてコラージュを作成し,物体の動きやカメラワー
ク,セリフ,時間などの情報の付加及び画像の切り替え方法
の選択を行うことにより,図 3 に示すように,コンテとして
のスライドショーを作成する.これにより,静止画で構成さ
れる一般的な絵コンテとは異なり,作成する映像コンテンツ
のカメラワークなどを直感的に把握できる.
3
実験
4
おわりに
提案システムを評価するために,6 人の被験者に MicrosoftWord,市販のマインドマップ描画ツール,提案システムの
いずれかを一度ずつ用いて「幸せ」,
「葛藤」,
「別離」の 3 つ
のテーマに関する映像コンテンツの絵コンテを作成しても
らった.さらに,3 人の評価者によって完成した作品を「一
貫性」,
「情報量」,
「わかりやすさ」,
「独創性」,
「印象度」,
「お
もしろさ」,
「新規性」の項目で評価したところ,
「わかりさす
さ」以外の項目で提案システムが最も良い評価となった.
本研究では,映像コンテンツ作成のために,Web による
情報の発散を利用して発想の種を取得し,放射思考を促す枠
組みとともに提供することにより,シナリオの発想を促すシ
ステムを提案した.評価実験の結果,既存のツールに比べ高
い評価の作品を作成することができた.
今後は,取得する関連情報の種類の増加や精度の向上,取
得された語句を組み合わせたより具体的なシナリオのヒント
の提示,シナリオ以外の発想支援への応用が考えられる.
図 1: システム構成
図 2: 情報提示例
図 3: コンテ作成例
平成 20 年 2 月 15 日
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
加速度センサによる日常行動の識別手法
田淵 勝宏 (マルチメディアエージェント講座)
1
別性能の評価では,識別に用いるセンサ数を 2∼6 個まで変
はじめに
化させたときの 10 種類の行動全体の識別率 (True Positive
近年,センシングやユビキタスネットワーク技術の発展に
を求めた.その結果,ウインドウ幅に関係なく,ほぼ
Rate)
伴い,生活の高度化を目標として,様々な分野においてコン
テキストアウェア・サービスを実現する試みが行われている. 全ての条件下で提案手法が従来手法を上回ることが示された
一方,このようなサービスを実現するためには,1) 人の行動 (図 3).更に,姿勢毎に見ると,移動を伴う行動において
を妨げないセンシング,2) 信頼性の高いコンテキスト抽出, はセンサ数が 4 個(両手首,腿,左足)の時に最も高い識別
率を示し,それ以上センサ数を増加させても識別率の向上は
3) サービスの性質に応じた速度でのコンテキスト抽出,4)
見られなかった.これより移動に関しては,識別率を維持し
多様なコンテキストの抽出,などの要求条件がある.本研究
ながらセンサ数の削減できるという知見を得た.これは利用
では,上記の要求条件を満たした,人の行動をコンテキスト
者の行動を妨げる要素の削減を意味する.
として抽出するための,日常行動の識別手法を提案する.
識別時間の評価
2 加速度センサによる日常行動の識別手法
センサ 6 個のデータを用い,ウインドウ幅を 1.28 秒とし
従来,加速度センサを用いた行動識別手法においては,し
たときの提案手法と従来手法とでの識別に要する時間を計
ばしば全ての行動が一元的に扱われていた.そのため,同じ
測した.各サンプルあたりの識別所要時間の 1 万回の平均
姿勢をとる行動間の誤識別や,識別クラス数の増加に応じて
値を比較した結果が図 4(a),拡大図が図 4(b) である.図 4
学習モデルの構築や識別時間が増大するという問題がある.
より,全てのサンプルにおいて,提案手法が従来手法より短
そこで本研究は,識別行動を姿勢に着目して階層的に分割す
時間で識別していることが示された.また,提案手法におい
る,多段階識別手法(図 1)を提案する.提案手法では,1
て座位に関する識別時間が他の姿勢よりも長いという結果
段階目に人の姿勢を識別し,2 段階目として姿勢毎に構築し
(図 4(b))は,4 クラスの分類での比較回数が,3 クラスの
た学習モデルを切り替え,行動を識別する.このように多ク
分類の場合よりも多いという事実と整合が取れている.よっ
ラスの分類問題を簡単化することで,1) 姿勢に特化した学
て階層的な識別には,行動クラスの出現頻度を考慮した平均
習モデルによる識別性能の向上,2) 比較するクラス数の削
識別時間や,最大識別時間の最小化など,目的に応じたクラ
減による識別時間の短縮,3) 学習モデルの構築時間の短縮
ス数の設定が重要であると示唆される.
による拡張性の向上,などの利点を享受できる.
4
おわりに
本研究では,図 2(a) に示す無線の 3 軸の加速度センサを
本研究では,コンテキストアウェア・サービスの要求条件
用いる.100 Hz でサンプリングした加速度データを固定長
を満たす,日常行動の識別手法を提案し,実験により識別性
のスライディングウインドウに分割し,ウインドウ毎に,
「平
能の向上と識別に要する時間の短縮を示した.提案手法の応
均」「標準偏差」「エネルギー」「周波数領域エントロピー」
用として,膨大な種類の行動の効率的識別や,処理能力の低
「相関係数」
「傾き」の 6 種類の特徴量を求める.クラス分類
い計算機を用いた行動識別の実現などが期待される.
器はサポートベクターマシンのペアワイズ手法を用いる.
Y
実験と評価
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図 1: 多段階識別手法の概略図
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図 3: 提案手法と従来手法との行動全体の識別率の比較
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(a) 加速度センサの外観 (b) センサの装着位置
図 2: 加速度センサの外観とセンサの装着位置
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データ収集
識別対象の日常行動は,座位の姿勢をとる行動として「座
る」「PC作業」「読書」「紙に文字を書く」,立位の姿勢を
とる行動として「ホワイトボードに板書」「手を洗う」,移
動を伴う行動として「歩く」「階段を上る」「階段を下る」,
の計 10 種類である.これらの日常行動に関して,20 代の
男女 5 名(右手・右足が利き手・足)の被験者について,あ
らかじめ指定したシナリオに沿ってデータを収集した.加速
度センサは図 2(b) に示す身体の 6 箇所(両手首,腰,右腿,
両足首)に装着し,加速度データを収集した.
識別性能の評価
1 段階目の姿勢識別の性能評価を行った.腰,あるいは腿の
センサを用いた場合の識別率 (True Positive Rate) を求めた.
その結果,腿のセンサを用いた場合,ウインドウ幅に依存せ
ず 99.9∼100 %という高い精度で姿勢の識別が可能であるこ
とが示された.これより,姿勢の識別には腿にセンサを配置
するのが適当であるという知見を得た.2 段階目の行動の識
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(a) 識別時間の散布図 㪉㪇 㵗
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(b) 拡大した様子 図 4: 提案手法と従来手法との識別時間の比較
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大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 20 年 2 月 15 日
モーショングラフの上・下半身の結合による全身アニメーションの生成
野村 克裕 (ヒューマンインタフェース工学講座)
1
はじめに
近年,映画やゲームなどのエンタテイメント分野におい
て,モーションキャプチャ装置を用いて取得したデータを利
用することで,人体アニメーションを生成する機会が増え
ている.しかし,モーションキャプチャ装置では精度の高い
モーションデータを取得できるが,取得した範囲内の有限長
の動作しか扱えないといった制限がある.そのため,様々な
目的に合致するアニメーションを生成することが求められる
ゲームなどの仮想環境に適用する際には,非常に多くのモー
ションデータの取得と,それらの加工・編集が必要になる.
これまでに,取得したモーションデータに対してデータ数の
削減を図る編集手法や,目的に合致するアニメーションを生
成する編集手法など,様々な手法が提案されている.しかし,
それらの手法は,いずれもデータ数の削減と目的に合致する
アニメーションの生成を同時に行うことができない.
そこで本研究では,上半身を表すアクション用のモーショ
ングラフと下半身を表す移動用のモーショングラフをそれぞ
れ独立に構築し,それらをユーザの描いたパスに従って結合
(スプライシング)することで,制御可能な全身のアニメー
ションを自動的に生成する手法を提案する.
2
モーショングラフのスプライシングによる
アニメーション生成
定し,モーショングラフの際に用いた姿勢距離を算出する.
そして,算出した姿勢距離からコスト最小経路を計算し,そ
の経路に従ってアニメーションを再生することで行う.本研
究ではコスト最小経路の探索に最適経路探索アルゴリズムの
解法である動的計画法を用いる.
パスに従うアニメーションは,ルートノードの位置とユー
ザが描いたパスの 3 次元位置の差を算出し,その値が閾値以
下で,最もパスに近い軌跡を抽出することで生成する.本研
究では,分枝限定法を用いた深さ優先探索で,モーショング
ラフから動作を抽出する.
3
結果
ユーザが描いたパスに従うように下半身動作を生成し,そ
の時の上半身として,ユーザが指定した上半身の類似部分
を結合することで,アクションを合成した.本研究ではカー
ネギーメロン大学のモーションキャプチャデータベースに含
まれるデータを用いた.実装環境はデスクトップ PC (CPU:
Intel Core 2 Duo E6400 (2.13GHz),RAM: 2GB) を使用
した.
図 1 は,歩行・走行動作のモーショングラフとボクシング
動作のモーショングラフをスプライシングした結果である.
パスとキャラクタ共に黄色が走行動作,赤色が歩行動作を表
している.また,青色の点がスプライシング点を表しており,
青色の点以降でスプライシング後のアニメーションを行って
いる.この結果から,ユーザが描いたパスに従って下半身動
作の生成と上半身のアクションが合成されていることが確認
できる.また,オリジナル(青色)と提案手法(水色-赤色)
を用いて生成したアニメーションの上半身の脊椎を比較した
結果,図 2 のように類似していることが確認できた.
提案手法では,まず初めに,前処理として,モーション
データを骨盤関節を中心として上半身と下半身に分割するよ
うにデータの定義を変更する.続いて,取得したモーション
データが地面に接地していない場合や足が滑っている場合に,
Inverse Kinematics(IK)の一手法である Cyclic-Coordinate
Descent(CCD)法を用いてこれらを修正する.
4 おわりに
次に,オフライン処理として,上の前処理を経たモーショ
本研究では,データ数の削減と目的に合致するアニメー
ンデータを用いて,上半身を表すアクション用のモーション
ションの生成の両方を達成することを目的として,モーショ
グラフと下半身を表す移動用のモーショングラフをそれぞれ
ングラフのスプライシングを行う手法を提案し,実装および
独立に構築する.ここで,アクションとはボクシング動作や
荷物を運ぶ動作などを指し,移動とは歩行動作や走行動作, 検討を行った.
今後は,よりパスに忠実に従う最適なアニメーションを生
昇降動作などを指す.モーショングラフは,モーションデー
成するために,動作補間法を組み込む予定である.また,今
タ間に様々な推移を生成することで構築される.まずモー
回提案した手法では,パスに従うアニメーションを生成した
ションデータを関節位置を表す点群に変換し,点群間の姿勢
のみで,厳密には環境を考慮していない.そのため,障害物
距離を算出する.次に算出した姿勢距離から閾値を用いて
などが存在するより現実的な環境下でのアニメーション生成
推移点を選定し,推移点間を繋ぐ推移を生成する.最後に
について検討する予定である.最後に,インタラクティブな
Tarjan のアルゴリズムを用いて袋小路(Dead End)へ繋が
アニメーションの制御を行えるように検討したいと考えて
るノードを取り除くことで,どのノードからでも,有効エッ
いる.
ジに沿って互いに到達可能なグラフを構築する.
そして実行時に,それらのモーショングラフをスプライシ
ングする.スプライシングは,スプライシング点の探索,ス
プライシング点における補正,スプライシング後のアニメー
ションの同期の 3 つの要素技術から成る.スプライシング点
は,脊椎のセグメント重心位置などの特定の上半身と下半身
の位置の姿勢距離が類似しているフレームを探索することで
求める.また上半身の補正値は,各フレームごとに上半身を
関節位置などを表す点群に変換した後,あるウィンドウ幅内
で点群間のユークリッド距離の二乗和を最小化するような回
転量をガウス関数で加重平均することで算出する.上半身と 図 1: 歩行・走行動作とボクシング動作を 図 2: オリジナル
下半身の同期化は,支持脚を基に同期化を実現する範囲を設 結合した結果
と提案手法の比較
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
平成 20 年 2 月 15 日
タッチインタフェースによるビデオエージェントシステムの実現
平野 嘉堂 (ヒューマンインタフェース工学講座)
1
7. 分割された行動から一連の行動を生成
はじめに
近年,撮影機器の普及やネットワーク上での共有サービス
などにより,映像データを入手することが容易になり,映像
の再利用に関する研究が盛んになってきた.我々も,実写映
像から切り出したエージェントに自律的な行動をさせるビデ
オエージェントシステムの研究を行ってきた.
最近では,ディスプレイ上の対象を直接指示・操作できる
タッチインタフェースが盛んに用いられるようになって来て
いる.そこで実現される手書き入力はアイデアを表現するた
めの自然で効率的な方法であるため,スケッチベースインタ
フェースとして研究が盛んになりつつある.
本研究では,ビデオエージェントにさせたい行動の軌跡を
直接入力するスケッチインタフェースについて検討する.そ
の目的を実現するため,タッチパネルを用いたインタフェー
スを試作したので,その結果について報告する.
2
ビデオエージェントシステム
ビデオエージェントシステムの構成を図 1 に示す.映像
データベース生成部では,ビデオ映像から切り出したエー
ジェントの映像に適当なタグ情報を付加して映像データベー
スを生成する.自律的行動決定部では,エージェントの行動
が決められるが,そのプロセスには 2 種類ある.1 つは自ら
が内部に持つ感情モデルに基づく行動決定である.感情のパ
ラメータはエージェントが環境内で遭遇する様々なイベント
によって変化し,それにより行動が決定される.もう 1 つは
反射的行動であり,外部から得られた刺激強度が大きい場合,
感情モデルを通らずに即座に行動を生成する.クエリ生成部
では,決定された行動を表現するシーンを映像データベース
から取り出すために,行動の具体的内容を示すタグや,移動
方向などから成るクエリを生成する.
インタラクティブな仮想環境であるサイバースペースで
は,ビデオエージェントは仮想環境内で遭遇する様々なイベ
ントに応じて,自律的な行動を無限に続けるように映像が再
生される.
3
また,軌跡を 2 次元から 3 次元へマッピングすることで,3
次元サイバースペース内でのビデオエージェントの動きを決
定する.図 2(右)にこのようにして生成された行動の例を
示す.
5
ユーザ評価
6
おわりに
SIGGRAPH 2007 Emerging Technologies などのデモ展
示会で,タッチパネルで実装したサイバースペースを多くの
方々に体験してもらう機会を得た.図 2(左)のように,大
人でも子供でも,操作についての説明をあまりせずとも,ビ
デオエージェントとインタラクションを楽しんでいた.
また図 3 は,タッチパネルとマウスで 5 日間の展示会で体
験者が入力した計 3504 回の軌跡を,始点を中心として表示
したものである.軌跡の量からタッチパネルの方がトレース
のインタラクションが多くされたことが分かる.また,軌跡
の形状からマウスの場合には滑らかでない変化が多く見られ
るが,タッチパネルでは自然な軌跡が描かれていることが分
かる.
タッチインタフェースを用いて,実写映像から切り出した
エージェントに自律的な行動をさせるビデオエージェントシ
ステムを実現した.さらに,直接指示の利点である手書き入
力を生かしたスケッチベースのインタラクションを提案し,
実装した.今後は,得られた知見をもとに画像処理の改良
や,トレースアルゴリズムの評価をする予定である.
タッチパネルによるインタフェース
タッチパネルを利用して人を題材にしたビデオエージェン
トを用いたサイバースペースを構築した(図 2(左)).体
験者はタッチパネルにより直感的に,そしてインタラクティ
ブにサイバースペースを操作することができる.ユーザイン
タラクションの中で,トレースは,直接指示の利点である手
書き入力をサポートしたインタラクションである.マウス操
作と異なりタッチパネルでは,画面が手で隠れることやタッ
チの有無に対する明確な触覚フィードバックがないという問
題があるため,ボタンの配置や画像の表示位置を考慮した.
また,今回用いた抵抗膜方式のタッチパネルにおける指接触
検出の不安定要因を改善するため,タッチの認識の時間軸方
向の補間を行っている.
4
スケッチ入力による動作生成
図 1: ビデオエージェントシステムの構成
図 2: タッチインタフェースによるデモの様子(左)
とスケッチ入力による動作生成の例(右)
スケッチベースのインタラクションであるトレースでは,
体験者の入力した軌跡(スケッチ)に沿ってジャンプなどの
ビデオエージェントの動作が生成される.トレースアルゴリ
ズムの概要を以下に示す.
1.
2.
3.
4.
5.
6.
体験者の入力した軌跡を取得
軌跡の平滑化
軌跡の補間
コーナー検出
軌跡の分割とノイズの消去
分割されたそれぞれの軌跡の形状を識別し,行動を決定
図 3: タッチパネル(上)とマウス(下)の軌跡の比較
平成 20 年 2 月 15 日
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
複数人で直接指示可能な立体映像を用いた協調作業に関する検討
藤原 正貴 (ヒューマンインタフェース工学講座)
立体映像を用いた協調作業
2.1 実験環境
2 人の被験者が 1 台の IllusionHole を用いた対面型環境
(collocated) と,ネットワークで接続した 2 台の IllusionHole
を 1 人 1 台用いた分散型環境 (remote) の 2 種類の環境を
用意する.また,立体映像を直接指示するデバイスとして,
StickDevice を用いる.被験者は,それぞれの StickDevice の
先端位置に IllusionHole が描画する色分けされたカーソルに
よって,remote 環境においても直接指示情報を共有するこ
とができる.
(図 1).
2.2 タスク
3 次元仮想空間上に配置された仮想物体のリングを,2 人
の被験者が同時に軌道の一端から他端までできるだけ早く正
確に移動させるタスクを設定する.リングの両端には,それ
ぞれの被験者に対応する球形の把持領域が1つずつ存在して
おり,StickDevice によって直接指示することでリングを把
持し,移動させる.リングは軌道と衝突すると,それ以上移
動させることができず,また,StickDevice の先端が把持領
域から外れてしまった場合には,再び把持し直さなければな
らない.
2.3 実験計画と手順
アウェアネス情報と会話の有無の組み合わせとして,collocated-会話あり,remote-会話あり,remote-会話なしの 3
種類の実験条件とリング半径および把持領域半径を実験要
因とする.また,タスク完了時間とエラー率を測定する.こ
こでエラー率は,リングが軌道と衝突したエラー (Collision)
とリングを把持し直したエラー (Grip) のそれぞれが生じた
試行の全試行中の割合とする.各実験条件について,リング
半径 (24, 32, 40 mm) と把持領域半径 (12, 16, 20 mm) を 3
回反復する.順序の影響を抑えるため,被験者ペアごとに 3
つの実験条件の実施順序を変更した.合計 486 タスクを 12
3
実験結果と考察
タスク完了時間とエラー率に関して,3 つの実験要因を用
いて分散分析を行った.実験条件に対するタスク完了時間の
グラフを図 2 に示し,実験条件に対するエラー率のグラフ
を図 3 に示す.双方とも実験条件間に有意差は見られなかっ
たことから,アウェアネス情報と会話の有無は,タスク完了
時間とエラー率に影響を与えないことが分かる.また,被験
者の会話分析の結果から,collocated と remote の間で発話
内容に差は見られなかった.一方,行動分析の結果からは,
remote-会話ありにおいてリングの位置を修正する際に,被
験者が自分のカーソルの動きが相手に伝わることを利用し
て,カーソルの移動と発話を組み合わせて意思を伝達する様
子が観察された.
これらの結果から,カーソルによる直接指示情報の共有に
よって,被験者はアウェアネス情報や会話の欠如を補ってい
たと考えられ,分散型環境において対面型環境と同等のタス
クパフォーマンスを得られた.これにより,立体映像を用い
た分散型の協調作業を支援する際には,アウェアネス情報は
必ずしも必要不可欠なものではないことが考えられる.しか
し,本実験では会話する必要性があまり高くないタスク設定
であったため,会話の有無による影響のより詳細な調査は今
後の課題である.
4
おわりに
本研究では,直接指示可能な立体映像を用いた協調作業に
アウェアネス情報と会話の有無が与える影響を調査するた
め,複数台の IllusionHole を用いた対面型と分散型の環境に
おいて,2 人で協調しながら仮想物体を操作する比較実験を
行った.その結果,分散型環境においても直接指示情報の共
有により,対面型環境と同等のパフォーマンスを得られるこ
とが分かった.今後は,利用者の立ち位置の違いによる影響
の調査や,会話をより必要とするタスクによる比較実験を予
定している.
図 1: 入力デバイスとタスクの様子
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Error rate (%)
2
人 6 組の被験者で実施する.さらに,実験の様子をビデオ撮
影して,被験者の会話と行動を分析する.
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はじめに
テーブル型ディスプレイの開発や,それを用いた協調作
業の研究が盛んである.本研究室で提案・検討されている
IllusionHole は,複数の利用者で直接指示可能な立体映像を
共有できる対面型環境を提供するテーブル型ディスプレイで
あり,医療や工業デザインなどの分野での応用が期待されて
いる.このような立体映像を用いた協調作業では,ある利用
者が立体映像を直接指示した位置が他の利用者から見た立体
映像上での位置と一致する直接指示情報の共有が必須であ
り,IllusionHole はその要件を満たしている.
最近では複数の医師による遠隔手術など,立体映像を共有
する分散型の協調作業も試みられるようになってきている.
そのような状況では,直接指示情報の共有だけでなく,視線
や手の動きなどのアウェアネス情報や会話などの要素が重要
になると考えられるが,これらがどの程度作業に影響を与え
るのかについては検討されていない.
そこで本研究では,アウェアネス情報と会話の有無が立体
映像を用いた協調作業に与える影響を調査するために,同一
場所にいる利用者による対面型と,複数台の IllusionHole を
ネットワークで結んだ分散型の環境において,2 人で協調し
ながら仮想物体を操作する比較実験を行う.
Task completion time (sec)
1
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図 2: 実験条件 vs.
図 3: 実験条件 vs.
タスク完了時間
エラー率