公益財団法人がん研究会 がんの治療・研究の公益団体 世界の最先端を開拓し続ける 職員数 1,697 名(2014 年 8月) 事業内容 がんに関する基礎から臨床までの体系的研究 、 先進的 な医療の推進、 検診及び予防の普及啓発など 世界的にも最先端の実績を挙げてきた。現在も、 http : //www.jfcr.or.jp 研究所と病院が一 体となって、がん克服に向け、 戦い続けている。 1908 年 創立 がん専門機関だ。1908 年に創立されて以来、 を開設することができた。開設直後に、 は銀座の病院を買収し、研究所も復興 究を開始。抗がん剤に用いられるタン パク質「インターフェロンβ」や「成 人T細 胞 白 血病ウイルス」 、大 腸 がん の発症に関係する「APC遺伝子」な どのクローン 精 製 や 機 能 解 析 に 成 功 し、 遺伝子研究の先駆けとして、この 分野を切り拓いてきた。 臨床に関しても、長 年、日本唯一の 32 2014 October SMBC マネジメント+ 三井報恩会からラジウムの寄付を受け、 治 療 施 設 となった。 年の 東 京 大 空 附 属 病 院は一 躍 、世 界 的 な ラ ジ ウ ム 公 益 財 団 法 人 が ん 研 究 会( 以 下・ 研 究 所 と病 院 は、 世界的な実績を挙げてきた 日本のがん研究のパイオニア が ん 研 )は、 日 本 の が ん 研 究 の パイ 発 足 は1908 年。が ん 研 究 に お し、活動を再開できた。その後、徐々 襲で焼失する不運もあったが、翌年に け る 国 際 協 力の 必 要 性の 高 ま り を 受 に規模を拡大し、いまに至っている。 オニア的 存 在 だ。 け、 創 立された。 創 立メンバーには、 実 験 動 物 を 用いてが んを 研 究 する 実 が ん 研 は、 発 足 当 時 か ら、 世 界 を がん研は、日本にまだ存在していなかっ 験 病 理 学 だ。 創 立メンバーの 山 極 勝 「日 本 資 本 主義の父」渋 澤 栄一や内 閣 たがん専門の研究施設と病院を建設す 三 郎 氏 は 世 界 で 初 めて 動 物 に が ん を リ ー ド す る 研 究 成 果 を 残 し て き た。 るために、募金活動を始めた。当時の日 発 生 さ せることに 成 功 し た 人 物。 戦 総 理 大 臣・桂 太 郎 な ど、 財 界 や 政 界 本は、結核をはじめとする伝染病に対 後 は、 世 界 で 初 めて 実 験 動 物 にが ん 黎 明 期 か ら 得 意 と し て い た 分 野 が、 する問題意識が高く、がんに対しては 細 胞 を 移 植 す ることに 成 功 した 吉 田 を代表する大物が名を連ねた。 年に天皇 関心が低かった。しかし、 富 三氏 が 研 究 所 長 とな り、 世 界の 実 世 紀 後 半 には、 当 時 は 未 20 知 数 だった 遺 伝 子 組 み 換 え 技 術の 研 ま た、 陛下から1万円の御下賜金を賜ったこ 年、 「研究と医療の相乗効果をがん治療に活 かし、社会の期待に応えたい」 と語る野田 哲生代表理事・がん研究所所長 所在地 東京都江東区有明 3-8-31 代表理事 草刈 隆郎、野田 哲生 営するのは、公益財団法人がん研究会。日本初の 45 験病理学の先端を走ってきた。 けられるようになった。そして、 日本初のがん専門の研究所と附属病院 34 とをきっかけに、各方面から支援を受 29 Corporate Profile 日本有数のがん治療施設「がん研有明病院」 を運 取材・文/カデナクリエイト 写真/富貴塚悠太 がん専 門 治 療 施 設であったことから、 日本一のがん手術実績を誇ってきた。 年代以降、国立がんセンターをは じめとした国のがん専門病院や研究所 哲 生氏は話す。 持。臨床面でも胃がんや大腸がん、乳 としても国内トップクラスの地位を保 在感はいまも色あせておらず、研究所 と野田 代 表 理 事はいう。 貌 はま だま だ 明 らかになっていない」 が んの 研 究 は 世 界 的 に 進 め ら れて きたものの、 「 病 気 としてのがんの 全 がんのメカニズムを解明する 最先端の研究成果とは がんなど、数多くのがんで症例数日本 『 多 様 性 』と『 可 「 が んの 問 題 は、 塑性』 。一つのが ん 細 胞 を 取 り 出 して が全国各地に誕生したが、がん研の存 一を誇っている。 そ れ が 体 の な かに あ る と、 非 常 に 多 よる「 細 胞 老 化 と発がんの関 係 」だ。 生 物 部 部 長 の 原 英 二氏 の グル ー プ に な かで も、 世 界 的 に 注 目 を 浴 びて いる 研 究 の 一つが、 が ん 研 究 所 が ん 組 んでいる。 防 や 治 療 につな げる 研 究 に 多 数 取 り そ れ を 踏 ま え、 が ん 研 で は、 が ん の メ カニ ズ ム を 突 き 止 め、 が んの 予 せられた使 命です」 (野 田 代 表 理 事 ) が ん を 深 く 知 ること が、 私 た ちに 課 る。 こ う し た メ カ ニ ズ ム を 解 明 し、 如 変 異 して、 効 か な く なること も あ 薬 が 効 く は ず だった が ん 細 胞 が、 突 見ていても、多 様 性はあり ませんが、 ん研の強みは、研究所と病院が一 が 体となっていることだ。2005年か を有する国 様 な 反 応 が 生 ま れ ま す。 ま た、 あ る がん研究所やがん研有明病院の外観 。がん研究会の施設は東京・有明に集約されている らは、全ての施設を東京・有明に集約。 ベッド数700・手術室 内 最 大 級のが ん 専 門 病 院「が ん研 有 明 病 院」 、基礎研 究を行う「がん研 究 所」 、新 薬を研 究する「がん化 学 療 法 センター」 、遺 伝 子 研 究 を行 う「 ゲノ ムセンター」が密接にかかわりあいな がら、臨床・研究を進めている。 「 こ の よ う に 、 研 究 所と 病 院 が一 体 と なっている 機 関 はほ か に あ り ま せ ん。 多 く の 患 者 さ ま を 治 療 す る ことで 蓄 積 し た 症 例 デ ー タ が 研 究 に 活 か さ れ た り、 研 究 所 で 行 わ れ た 基 礎 研 究 が 新 た な 治 療 法 につ な 年の 世 界の 大研 この 研 究 は、ア メ リ カの 科 学 誌『 サ イエンス 』で、 究 成 果に選 ばれた。 細 胞 の 老 化 は、 元 来、 が ん を 防 10 がった り 、といった 好 循 環 に よって 、 臨 床 ・ 研 究 の一層 の レ ベル アッ プ に つな がってい ま す 」 と 、 が ん 研 究 会 13 20 代 表 理 事でがん研 究 所 所 長の野田 2014 October SMBC マネジメント+ 33 60 ぐ もの と さ れて き た。 細 胞 が 増 殖 す 究 によ り、 細 胞 老 化 には、 発 が ん を 二 次 胆 汁 酸 という物 質をつくりだす。 院 さ れている 肝 が ん 患 者 さ んの 大 便 この二次胆汁酸が肝臓に運 ばれること 出 す「 S A S P 」 を調べて、クロストリ ジュームのよう 促 す 働 き が あ ること が 明 ら かに なっ とい う 現 象 を 起 な 細 菌 が 腸 内 に 増 えている か ど う か る 過 程で、 将 来 が ん 化 しそ う な 異 常 こすのだ。 を調べています。共通する菌が分かれ で、肝 臓の細 胞 が細 胞 老 化 を起 こし、 さ ら に、 原 部 長のグループが突 ば、その菌の増殖を抑えることで、肝 た。 老 化 し た 細 胞 が、 が んにつな が き止めたのが、肝 が んの 予 防 がで き る よ う に な る。 増 が 生 じ た 場 合 に 増 殖 を 止 める 現 象 が がんを引き起こす 殖を抑 える食 品 素 材を見つけ出せば、 SAS P を起 こすのである 。 細 胞 老 化の原 因 日 頃 か ら 意 識 して そ の 食 材 を 摂 るこ る よ う な 炎 症 を 引 き 起 こし た り 、 が の一つが 、肥 満 に とで、予防ができます。また、薬剤に 滅 さ せるこ と がで き る。 そ う し た 作 「 細 胞の老 化 」とされていたからだ。 あることだ。肥満 よって二次 胆 汁 酸 を 減 ら すことでも、 用を持つ薬を「分子標的薬」という。 んの 転 移 を 促 したり する 分 泌 因 子 を すると腸 内に「ク 発症リスクを減らせます」 (原部長) ころ が、 原 部 長 の グルー プの 研 ロストリジューム」 が ん 遺 伝 子 は た く さ ん あ る が、こ の プ ロ ジェ ク ト で 目 を つ け た の が、 「以 上はマウスの実 験による成 果で す が、 現 在 は、が ん 研 有 明 病 院 に 入 と という細菌が増え、 一方、 病 理 部 主 任 研 究 員の 竹 内 賢 吾 氏のグルー プによる ヒトゲノムの膨大なデータを精密かつスピーディーに解析できる コンピュータサーバー。がんの研究には欠かせない 止めれ ば、がん 細 胞 を死 このが ん 遺 伝 子の 動 き を 変 わること。逆にいえ ば、 を 促 す「が ん 遺 伝 子 」に が 起こり、 細 胞のが ん 化 がんの原因の一つは、細 胞 内 に ある 遺 伝 子 に 異 常 出し、脚 光 を浴 びている。 た研 究 成 果 を 次々と生み クト」も、世 界に 先 駆 け 「 分 子 標 的 病 理 プ ロ ジェ 「 実 は、 キ ナ ー ゼ 遺 伝 子 の 働 き を 常に高いという。 の 強 いが ん 遺 伝 子 に な る 可 能 性 が 非 細 胞 増 殖 を 司 る もので あ り、 増 殖 力 合 遺 伝 子である。キナー ゼ遺 伝 子は、 遺 伝 子 」で あ る もの が、キ ナ ー ゼ 融 もの。融 合 前の片 割 れが、 「 キナ ー ゼ て し まい、 異 常 な 遺 伝 子 に 変 わった つの 遺 伝 子 が 何 かの 理 由 で くっつい もの だ。 融 合 遺 伝 子 とは、 正 常 な二 「 キ ナ ー ゼ 融 合 遺 伝 子 」と 呼 ばれる 有明病院の1階にある「ホスピタルストリート」 (写真上)と最上 階12 階の特別個室(下) 。病院施設のコンセプトは、利用者 に癒やしの空間を提供することだ 34 2014 October SMBC マネジメント+ 解 明 や 診 断 に 役 立つこ と は も ち ろ の 存 在 さ え 突 き 止 め れ ば、 原 因 の 関 係 している キ ナ ー ゼ 融 合 遺 伝 子 会 社 が 持っている。 だ か ら 、 が ん に 入手。肺がんは1500例、乳がんが 院と連携し、患者のがん細胞の検体を 融合遺伝子を探し出している。併設病 な手法によって、さまざまなキナーゼ 竹 内 主 任 研 究 員らは 、病 理 専 門 医 のキャリアを活かして、病理形態学的 人 材 育 成・ 輩 出 機 関 と し て の 役割も果たしていく こ う し た、 が んの メ カニ ズ ム を 研 究 す る う えで も、 高 いレベルの 治 療 を 施 す う えで も、 重 要 なのが、 人 材 育 成 だ。が ん 研 は、日 本 最 初のが ん 専 門 研 究 所・ 専 門 病 院 で あったこと から、 長 年、 多 くの研 究 者 や 専 門 医 を 育 て 上 げて き た。そ う し た 人 材 育 成・ 輩 出 機 関 としての 役 割 をいま も 果 た して お り 、 毎 年 、 全 国 の 大 学 や 研 究 機 関 か ら 若 手の 研 究 者 が 多 数 派 遣 されてきている。しかし、近 年 は、 子 標 的 薬 」 は、 そ の が ん 遺 伝 子 が が ん 遺 伝 子 の 働 き を お さ え る「 分 年 6 月 に 厚 労 省 に 承 認 さ れ た。 診 断 薬 を 製 薬 会 社 と 共 同 開 発 し、 システ ム を 構 築 し、 新 た な キ ナ ー ディーにが ん 遺 伝 子 を 探 索 で きる う わ け で す 。最 近 で は 、よ り ス ピ ー 的 薬 が 効 く 患 者 さ ん を 選 べる と い ン 診 断 薬 に よって 、 確 実 に 分 子 標 「 が ん 克 服 を もって 人 類 の 福 祉 に 貢 献 する」 ―― 。 創 立 当 初 に 掲 げ た い合 わせてみるとよいだろう。 の あ る 方 は ホ ー ムペー ジ を 見 て、 問 活 動 が 成 り 立っている。 支 援 に 関 心 や 法 人 の 募 金 な ど の 支 援 に よって、 14 抑 制 す る 薬 は、 す で に 多 く の 製 薬 ん、 治 療 法 を 開 発 で き る 可 能 性 が 400例、大腸がんでも1400例を スクリーニングにかけた。 「これだけの 検 体 を 集 めるの は 難 しいこ と。 併 設 の専 門 病 院のあるがん研 だからこそ、 できる研 究です」 (竹 内 主 任 研 究 員) 。 以 上の キ ナ ー ゼ 融 合 遺 伝 子 の 結 果 、 現 在 まで に、 肺 が ん そ や 腎 が ん、リン パ 腫 な どの 原 因 と なる 資 金 面の 問 題 も あ り 、 人 員 増 を 抑 え ていたという。 「 し か し、コス ト を か け な け れ ば、 優 秀 な 人 材 は 育 た な い。 今 後 は 再 び 人 材 育 成 を 強 化 していき ま す 」 (野 田 代 表 理 事) 原 因 と なっている が ん で ない と、 全 ゼ 融 合 遺 伝子を 見つけ 出 そ う、 と 理 念 を 実 現 さ せる まで、が ん 研 は 歩 が ん 研 は 公 立では ないた め、 政 府 か らの 補 助 金 を 受 け て お ら ず 、 個 人 く 効 き 目 が ない。コン パニオ ン 診 断 日 夜 取 り 組 ん で い ま す 」( 竹 内 主 みを止めることはない。 薬 と は 、 そ の 遺 伝 子 が 原 因 なの か ど 増殖力の高い「RET融合がん遺伝子」を発見した竹内賢吾病理部主任研究員(写真左) 。 研究グループの取り組みは、がん治療薬の開発に大きく貢献している(右) 任 研 究 員 )。 ま た、 A L K 遺 伝 子 と 呼 ば れ る キ ナ ー ゼ 融 合 遺 伝 子 のコン パニオン 床 試 験 が 行 わ れ ている 。 て、RETの 働 き を 抑 え る 薬 の 臨 は 、国 立 が ん セ ン タ ー が 中 心 と なっ ET 融 合 が ん 遺 伝 子 」 だ。 現 在 で で も 、世 界 的に注目されたの が 、 「R を 世 界 に 先 駆 けて 発 見 し た。 な か 20 う か を 確 か め る 薬 だ。 「 コン パニ オ 2014 October SMBC マネジメント+ 35 高いので す 」 (竹 内 主任 研 究 員) 。 「細胞老化と発がんの関係」を明らかにした原英二がん生物部部長(写真左) 。 研究グループでは 、 がんを引き起こす細菌を調べる機器でその特性をさらに突き止めようとしている(右)
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