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日消外会誌 26(1):117∼ 120,1993年
1期 的手術を行 い長期生存 した食道静脈瘤併存肝細胞癌 の 1例
榛原町立榛原総合病院外科
吉
田
英
晃
星 ケ丘 厚生年金病院外科
中 辻
直
之
患者 は6 8 歳の女性で吐血 を主訴 に来院. 上 部消化管透祝, 食 道 内視鏡検査 で食道静脈瘤 を認 めた 。
C T 検 査 で肝左葉外側 区域 S 3 に腫瘍 を認 めた。食道静脈瘤併存肝細胞癌 と診断 し, 肝 左葉外側 区域切
除 の上 , 胃 上部血 行郭清 を伴 う消化管 自動 吻合器 ( E E A ) を 用 いた経腹的食道離断術, 陣 摘 出術 を 1
期的 に行 った 。術 中術後 には肝硬 変 の病態 に即 した管理 を行 い特 に合併症 もな く退院 した。 摘 出標本
の病理組織学 的検 査 で腫 瘍 は E d m o n d s o n I I 型に相 当す る肝細胞 癌 で非腫瘍 部 は高 度 の 肝硬 変症 で
あ った。術後 5 年 1 0 か月 日に肝痛 の再発 を認め, 肝 動脈塞栓術 を 1 回 行 ったが 7 年 5 か 月 日に癌死 し
た, 食 道静脈瘤 の再発 は認 めなか った。以上 の結果 か ら肝癌 が外側 区域 に限局 していたため, 根 治切
除 が 出来, さらに腫瘍 が 小型 で厚 い被膜 に被 わ れ, 脈 管 浸潤 もな く, 直 達手術 に よ り静脈瘤 の再発 も
なか ったため, 長 期生存 につ なが った もの と考 える。
Key words: hepatocellular carcinoma, esophagealvarices, hepatectomy
は じ8めに
肝癌 を合併 した 食 道 静脈 瘤 は 肝硬 変 の 終 末 像 で あ
上 部 消 化 管 透 視 に て , I m ∼ E a に か け て 著 明 な食 道
静脈 瘤 を認 め た ( F i g 。1 ) .
り,そ の治療 は 困難 を極 めてい る。 そ の治療方法 は肝
癌 の進 行程 度 や 食 道 静脈 瘤 の進 展 度 が さま ざ まなた
め,そ れぞれの症例 で工夫 が必要 であ る。われわれの
施設 では食道静脈瘤破裂 に よる吐血 を主訴 に来院 し,
Blakemore(S‐B)チ ュー ブで 止血 の上 ,
Sengstaken‐
経腹的食道離 断 と肝切 除 を同時 に行 い, 7年 5か 月生
存 した 食道静脈瘤併存肝癌 の 1例 を経験 したので報 告
す る。
I症
患者 : 6 8 歳, 女 性
主訴 : 吐血
家族歴 , 既 往歴 : 特 記す べ き こ とな し.
現病歴 : 昭 和 5 7 年 8 月 1 日 に突然吐血 し, 内 科 に入
院 した 。 い った ん止血 されたため, 8 月 2 日 に緊急内
視鏡検査 を行 い, 食 道静脈瘤 を認めた。 8 月 4 日 に再
B
吐 血 した た め, 外 科 へ 転 科 と な った 。転 科 後 S ‐
チ ュー プを挿 入 し, 止 血可 能 とな った 。
入院時現症 : 転 科時, 眼険結膜 に軽度貧 血 を認めた。
肝陣 は触知 せ ず, 腹 水 の貯留 も認 め なか った。
<1992年 9月 9日 受理>別 刷請求先 !吉 日 英 晃
〒633-02 奈良県宇陀郡榛原町大字萩原815 榛原町
立榛原総合病院外科
ving
Fig. l A bariu■ l study of the esophagus sho、
evidence of dilated varices.
118(118)
1期
的手術を行 い長期生存 した食道静脈瘤併存肝細砲癌 の l fpl 日 消外会誌 26巻
内祝鏡所見で は L m , L g , C B , R C s i g n ( ■
),F3の
1号
血 球数 が2 , 9 0 0 。血 小板数 が7 . 4 万と減少 してお り, 軽
所見 で あ った ( F i g 。2 ) 1 ) .
C T ス キ ャンにて肝 の著 しい萎 縮 と肝 左葉 外側 区域
度 の貧 血 も認めた. 血 液凝固検査 は正常 で あ り, ヘ パ
プラスチ ンテス トも7 5 % で あ った。 一 般肝機能検査で
に2 . 5 ×2 0 c m 大 の l o w d e n s i t y a r e a認
をめた ( F i g .
3 ) 。以上 の所見 か ら肝癌 を合併 した 食道静脈瘤 と診断
c h o l i n e s t e r a s e ( cEh)‐
値 が0 1 9 z p H と 低値 を示 した
した。
食道静脈瘤破裂 に よる吐血歴が あ る こ と, 肝 癌 が外
側 区域 に局在 していた こ とか ら, 肝 切除 と経腹的 食道
離断 の適応 と考 え られた.
術前 の血 液生化学的検査所見 ! 末 梢血液所見 では 白
‐
Fig。2 Endo並 Opic anding of the esOphagus shoH′
ing evidence Of dilated varices
以外異常値 を認 め なか った。
2‐
f e t O p r o t e i n ( A F P ) 値 は1 l n g / m l と正 常 範 囲 で
あ った 。
肝 の予備能 に関 す る検査 で は, I C G R 1 5 が 3 0 . 5 % と
停滞 し, K I c c は0 0 7 / m i n , I C G R m a x は 0 . 2 3 7 m g / k g /
m i n と 低値 を示 した。5 0 g O G T T ″よp a r a b o l i c p a t t e m
を示 し, l i p i d e m u l s i o n t e s3t6は
分 ( 1 5 分) と 正常範
囲であ った。肝 の機能的予備力 は万全 とは い えな いが,
肝左葉 は著 し く萎縮 してお り, 外 側 区域切 除 な ら可能
と判 断 し, 昭 和5 7 年
10月
2 1 日に 開 腹 手 術 を 行 った
(Table l).
手術所 見 : 上 腹部正 中切開 にて 開腹 した. 腹 腔 内 に
腹水 の貯 留 は な く, 肝 は著 し く萎縮 してお り, 表 面 は
粗 大頼 粒 状 を塁 して いた。外側 区域 の S 3 に2 ×2 . 8 c m
大 の腫瘤 を認めた。肝左葉外側 区域切除 の上 , 胃上部
血 行郭清術, 陣 摘 出術 お よび消化管 自動吻合器 ( E E A )
に よる経腹的食道離断術 を同時 に行 った。手術時間 は
4 時 間, 出 血量 は約 1 , 3 0 0 m l , 輸血量 は1 , o 0 0 m l , 術中
は可及的 に N a を 制 限 した補液 を行 った。
腫瘍 の 肉眼 お よび病 理 学 的 診 断 : 腫 場 の 大 き さは
2 0 × 2 0 × 2 . 8 c m , 多 結節癒合型 で , H S , E g , f c ( 十 ) ,
fc inf(十), Sf(十 ), SO, N (一 ), vp。, vvO, BO,
I M 。, P O , t w ( ― ) , Z 3 の s t a g e I I で
相 対的治癒切除で
Table l
Fig. 3 Computed tomography scan of the liver
showinga 2 .5x2 .lcm low densityarea in the left
lateral segment and severe atrophy of the liver.
Pre‐
Operative labOaratOry studies
B cOd ana ys s
TP
80 g/d″
RBC
309 × 104
A/G
198
Hb
101 g/切
Aじ
665%
WBC
2900
G ob
P
a u e t
7
4
×
1 0 4
,α 2 9 %
cttgu at On tests
a2
66%
BT
4 mn
β
64%
CT
7 5 sec
γ
174 %
HoPaPlatt n Test 75 %
BuN
15 mg/d2
Antth「
o■bin Ⅱ 62%
Creajnine 0 9 mE/d″
Urinatysis i nOrmal
Na
131 mEq/L
FaCeS
K
4 mEq/L
Occu,t BtOOd(― )
CⅢ
TOta!B‖「uttn 03 mg/d2
ZTT
95 U
TTT
19 U
GOT
37 1U
GPT
19 1u
A P
lo2 KA
o19△
LDH
135 1U
LAP
GTP
γ―
51 U
14 U
PH
A A
ヽ ・ P
ch―
E
102 mEq/L
ICG R。 305%
Kic6 o o693/min
ICG Rmax
0 237 mg/kg/mn
50g OGTT t FXarab6Ⅲ
c tttten
L nearty ndex 0 73
36 mn
(―
)
(+)
11 0 ng/mク
119(119)
1993年 1月
Fig。4 GrOss photography of the resected liver
Fig. 6 A barium study of the esophagus 7 years
shoM′ing 2.0× 2.0× 2.8cm hepatoma attociated
a1l of the
ving the ttnooth覇′
after operation sho、
with developed liver cirrhosis.
esophagus.
Fig. 5 Celiac angiogram 5 years and 10 months
after operation showing multiple recurrence of
hepatoma.
H.考
察
食道静脈瘤 に対す る外科的治療法 は選択的 シ ャン ト
手術 とともに直達手術 が主要術式 とな って きてお り,
あ った分. 腫瘍 は E d m o n d s o n I I 型に相 当す る肝細胞 癌
近年経腹的食道離断術 な どの 自動 吻合器 を用 いた直達
一
手術 が広 く普及 して きてい る。 方 内視鏡的硬化療法
は手技 の工 夫,硬 化剤 の改良,胃 内視鏡 の発達 に伴 い,
であ り, 併 存肝病変 は乙型肝硬 変 で あ った ( F i g . 4 ) .
術 後 経 過 ! 術 後 6 日 目まで N a を f r e e とし, K は
近年 急速 に普及 して きて い る。 そ の止血 率 は887%ゆ
と保存的療法 として優 れた止血 率 をあげて い る。し か
8 0 ∼1 2 0 m E q を 投与 の上 , カ ン レノ酸 カ リウ ム2 0 0 m g
を 5 日 間投与 し, 腹 水 の貯留 を予防 した 。新鮮凍結 血
し欠点 として,出 血再 発率 も21%と 高率 で あ り慎重 な
follow upと 反復 した治療 が必 要 とされて い る。
漿 は 4 単 位 を1 4 日間投与 した。 さらに潰瘍防止 のため
に H2b10Cker 800mg/日
を投与 した。術後 は特 に合 併
食道静脈瘤 に肝癌 を合併 した場合 ,静 脈瘤 お よび肝
癌 の両方 に対す る有効性 が要求 されその治療法 は肝癌
症 もな く退 院 出来 た。術 後 5 年 経 過 した 時 点 で は 肝
C T に 再発 を認 め なか った 。しか し, 術 後 5 年 1 0 か月 日
の進行度や静脈瘤 の進展度 さらには肝 の機能的予備力
が各症421によって さまざまなため,一 定 の治療 法 が な
の C T に て肝 に l o w d e n s i t y a r e a を
認 め , 同 時期 に
行 った血管撮影 で も再発 を認めた。( F i g . 5 ) 。この 時,
いのが 現状 であ る。
杉 町 らりは 易 出血 性食 道静脈瘤 合併肝癌 に対 し,肝
TAE)を
用 いた 肝動脈塞 栓術 ( L p ‐
同時 に 1 l p 1 0 d o l を
行 った。術後 7 年 目の食道透視 で は, 食 道静脈瘤 の再
切 除可能4/1であれ ば従来 は根治的肝切 除 の選択 的 シ ャ
ン ト手 術 あ る い は 直 達 手 術 を 行 って い た が endOs,
発 を認 めなか った ( F i g . 6 ) .
患 者 は この よ うな広範 な肝癌 の 再 発 に もか かわ ら
copic illieCtiOn sclerotherapy(EIS)の手技 の確立 に
ともな い,胃 上部血 行郭清術 を行 い,術 後 に EISを 追
ず, 全 く無症状 で 7 年 目まで社会生活 を送 る こ とが出
加 して い る。肝 切 除 不能 1/1であれ ば 肝 癌 に 対 して は
lipiodolization,静脈瘤 に対 して は初 回入院 時 に EIS
来 たが, 7 年 5 か 月 目に癌死 した。
120(120)
1期 的手術 を行い長期生存 した食道静脈瘤併存肝細胞癌 の 1例
日 消外会議 26巻
1号
に よ り静脈層 の完全消失 を達成 してい る。 一 方易 出血
併 して お り,肝 の 機 能 的 予備 力 は 万 全 で は な か った が
性 で な い静脈 瘤合併肝癌 に対 して, 肝 切除可能4 / 1 で
は
外 側 区域 とい う小範 囲切 除 で あ った た め 耐 術 が 可 能 で
肝 切 除後 6 か 月 ご とに 静脈 瘤 の 経過 観 察 を 行 って い
あ った .術 後 に は 肝 硬 変 の 病 態 にFPし た術 後 管 理 を行
る。肝切 除不 能例 で は 肝癌 に 対 し L i p l o d o l i z a t i O n を
う こ とに よ り,重 大 な合 併 症 を併 発 す る こ とな く,食
行 い, 静 脈瘤 に対 しては, 3 カ 月 ご とに経 過観察 し,
道 離 断 を 同時 に 行 うこ とが可 能 で あ った 。 また肝 癌 は
易出血 性 となれ ば E I S を 行 ってい る。
杉 浦 ら" は 肝 切 除 可 能 例 で は 肝 切 除 と同時 に H a s ‐
外 側 区域 に 限 局 して いた た め ,根 治 切 除 が 出来 , さ ら
s a b 手 術 を併施 し, 術 後 R C ( 十 ) ま たは F 2 以上 の静脈
静脈 瘤 の 再 発 もな か った た め ,長 期 生存 につ なが った
癌 の残存 す るT p l lは
に2 期 的 に経胸的食道離 断 か, 内 視
の
鏡的硬化療法 を肝 予備能 に応 じて選択 して い る。肝
切除不能例 では肝 動脈 塞栓術 を第 一 選択 とし, 静 脈瘤
に対 しては高度肝障害例 を除 き, 2 期 分割経胸食道離
もの と考 え る。 肝 の機 能 的 予 備 能 が 許 す 限 り,可 及 的
断術や H a s s a b 手 術 を症f / 1 1応
にじて選択 してお り, 高
度肝障害例 や他 の全身的要 因 のため, 外 科的手術例 に
は 内視鏡 的硬化療法 を第 一選択 としてい る。
食道静脈瘤合併肝癌 は肝硬変 の終末像 で あ り, 肝 の
機能的予備力 が低 下 してお り, そ の治療方針 は あ くま
で肝癌 の根治性 に主 眼を お き, 肝 切除 は系統 的亜 区域
切 除 な どの縮 小 手術, 静 脈 瘤 に対 して は 術 中 に H a s ‐
s a b 手 術 な どの侵襲 の少 な い手術 を行 い, R C ( 十
)ま
たは F 2 以上 の 静脈瘤 で あれ ば, 内 視鏡 的硬化療 法 を行
う方針 を とる施 設 が 多 くな って い る。
しか し, 肝 の予備 力が許す限 り, 肝 切除 と食道離 断
手術 の併施 が最 も長期生存 に結 びつ く療法 であ るの.
に腫 瘍 が 小 型 で 厚 い被 膜 に被 わ れ,脈 管 浸潤 もな く,
に肝 切 除 を行 い ,同 時 に手 軽 に 行 な え る消 化 管 自動 吻
合 器 (EEA)を
用 いた 。 経 腹 的 食 道 離 断術 を行 うこ と
が 最 も望 ま しい 治療 方 針 と考 え る。
文 献
1)日 本門脈圧元進研究会 !食 道 胃静脈瘤内視鏡所見
記載基準.肝 臓 33i277-281,1991
2)日 本肝癌研究会 t原 発性肝癌取扱 い規約.第 3版 ,
金原 出版,東 京,1992
3)小 林迪夫,金 島良一,長峰健二 ほか :食 道静脈瘤 に
対す る集学的治療.消 外 11:329-336,1988
4)杉 町圭蔵,松 股 孝 :食 道静脈瘤合併肝癌.肝 ・
胆 ・際 15:451-457,1987
5)杉 浦光雄,児 島邦 明 t食 道静脈瘤合併肝癌 の外科
治療.癌 と研 64:177-182,1987
6)田 中純次,田村 淳 ,有井滋樹 ほか i肝 癌合併食道
静脈瘤 の対応.外 科治療 60!216-221,1989
報告 の症例 は6 8 歳 と高齢 で しか も高度 の肝硬変 を合
A Long Survival
Case of Primary Operation for Hepatocellular
Complicated with Esophageal Varices
Carcinoma
Hideaki Yoshida and Naoyuki Nakatsuji*
Department of Surgery, Haibara Municipal General Hospital
*Department of Surgery, HoshigaokaKoseinenkin Hospital
A 68-year'old woman was admitted because of hematemesis. An upper gastrointestinal series (UGI) and
esophagealendoscopy revealed a rupture of esophagealvarices. Computed tomography revealed hepatocellular
carcinoma (HCC) in Sr. Primary left lateral segmentectomy,transabdominal esophagealtransection with an EEA
stapler gun with devasculalization and splenectomy were performed for treatment of the HCC and esophageal
varices. The postoperativecourse was uneventful and there were no complicaitons. The histopathological findings
indicated the Edmondson II type of HCC with liver cirhosis. Five years and 10 months after hepatectomy,
recurrence of HCC was detected. Transcatheter arterial embolization was performed but the patient died of
recurrence of HCC 7 years and 5 months after hepatectomy. No recurrence of varices was seen 7 years after the
operation in a UGI. We concludedthat hepatic resection and blocking operation can prolong the survival of patients
with HCC complicated by esophagealvarices.
Reprint requests:
Hideaki Yoshida Department of Surgery, Haibara Municipal General Hospital
815 Hagihara, Haibara, Nara, 633.01JApAN