建−5

建−5
寒冷地における免震建物の構造設計に関する一考察
―積層ゴムアイソレータの設置環境温度測定及び解析―
国土交通省
北海道開発局
営繕部
建築課
○
谷口
和久
伊藤
昭浩
1.はじめに
釧 路 合 同 庁 舎 は 官 庁 営 繕 組 織 と し て は 3 例 目 の 免 震 構 造 の 建 物 で あ り 、大 規 模 事 務 庁 舎
と し て は 初 め て の も の で あ る 。 さ ら に 災 害 対 策 基 本 法 に よ る 防 災 拠 点 と し て の 官 署 (釧 路
開 発 建 設 部 、 釧 路 地 方 気 象 台 )が 入 居 す る 庁 舎 で あ る た め 、 地 震 対 策 と し て は 建 物 本 体 の
耐震性能の確保はもちろん、内部諸機能の保全が必要である。
免 震 建 物 に は 上 部 架 構 の 荷 重 を 支 え る 免 震 部 材 と し て 、積 層 ゴ ム ア イ ソ レ ー タ が 多 用 さ
れ て お り 、寒 冷 地 に 建 設 さ れ る 場 合 に は 、積 層 ゴ ム ア イ ソ レ ー タ の 設 置 環 境 温 度 と ゴ ム 材
料の温度依存性の関連が免震性能に影響を及ぼす。しかし
ながら、免震部材の設置環境温度の実測例は現在のところ
皆無であり、免震建物設計時の設置環境温度の設定は,建
設地の気象データに基づくなどの方法で、設計者の経験・
判断で行っているのが実状である。
本研究は、寒冷地の免震建物(釧路合同庁舎、釧路地家
【建物概要(釧路合同庁舎)】
所 在 地:釧路市幸町 10 丁目3番地
建築面積: 4,581 ㎡
延べ面積: 25,063 ㎡
構
造:免震構造( NRB、基礎免震 )
上部構造:鉄骨鉄筋コンクリート造
階
数:地上9階、地下1階、塔屋1階
基
礎:場所打ちコンクリート杭
設
計:北海道開発局営繕部、
(株)北海道日建設計
施
工 :戸 田 建 設 ・住 友 建 設 ・伊 藤 組 JV
裁 庁 舎 )に 関 し て 、建 物 使 用 状 況 下 で の 免 震 部
材 の 設 置 環 境 温 度 を 実 測 し 、今 後 の 免 震 建 物
設計に資するデータの蓄積を主な目的とする。
2.温度調査の概要
2 .1
積 層 ゴムアイソレータの 温 度 測 定 とそ
の分析・検討
免震建物で使用している積層ゴムアイソレ
ータが、建物使用状態でどのような設置環境
温度下にあるかを把握するため、積層ゴムア
図 -1
釧路合同庁舎
外観写真
イソレータ及び同周辺に温度センサを設置し、
その温度測定を実施した。測定は釧路合同庁
舎、釧路地家裁庁舎の2棟で実施している。
現在までに蓄積された温度データの測定期
間を下記に示す。なお、測定は現在も継続中
平面図
である。
耐火被覆
・釧路合同庁舎
: 2000 年 4 月 13 日 ~ 2001 年 12 月 27 日
・ 釧 路 地 家 裁 庁 舎 : 2000 年 12 月 27 日 ~ 2001 年 12 月 27 日
Kazuhisa Taniguchi
,
Akihiro Ito
断面図
図 - 2 温 度 セ ン サ 取 付 け 位置
図 -3 温 度 セ ン サ 取 付 け 状 況
ア.釧路合同庁舎
釧路合同庁舎に採用している免震部材は
天 然 ゴ ム 系 積 層 ゴ ム ア イ ソ レ ー タ ( 800 ~
1000φ )64基 、鉛 ダ ン パ ー ( 180φ )56基 、
鋼 棒 ダ ン パ ー ( 70φ ) 32基 で あ る 。
図 -2 に 温 度 セ ン サ 取 付 け 位 置 、 図 -3 に
温度センサ取付け状況を示す。
温 度 セ ン サ は 、1時 間 毎 に 温 度 を 記 録 す る
図-4
設 定 と し 、温 度 測 定 は 、 計 11点 で 行 っ て い る 。
免震層伏図
免震部材及び躯体温度は、釧路合同庁舎
が 供 用 ( 9/11引 越 し 開 始 ) さ れ る 9 月 ま で
は、ほぼ外気温に近いが、供用後は室内温
度環境の影響を受けて、外気温との差が顕
著となり、免震部材及び躯体温度は外気温
よりも高くなっている。
耐 火 被 覆 表 面 温 度 は 最 低 :-2.0 ℃ 、 最
高 :+23.3℃ 、 平 均 : + 12.8℃ で あ り 、 他 の
部位に比較して時刻変動が最も大きく現れ
ている。これは周辺温度環境の影響を直接
的 に 受 け て い る と 考 え ら れ る 。最 低 温 度 は 、
図-5
全測定点のうち唯一マイナス温度となって
い る が 、 外 気 温 の 最 低 値 ( - 22.3 ℃ ) よ り も
表-1 免震部材及び免震部材周辺の測定温度の概要
(2000/9/11~ 2001/12/27) ( 合 同 庁 舎 )
20 ℃ 程 度 、 又 、 日 平 均 気 温 の 最 低 値 ( -
13.7℃ )よ り も 12℃ 程 度 高 い 。
積層ゴムアイソレータ表面の温度は、最
低:+ 5 ℃ 前 後 、最 高: + 22 ℃ 前 後 、平 均 :
+ 13.5 ℃ 前 後 と な っ て い る 。 こ の 結 果 か ら
設 置 環 境 温 度 は 平 均 温 度 + 13.5 ℃ 、 そ れ に
対 す る 温 度 変 動 幅 は ±8.5℃ 前 後 と な る と 推
定される。
耐火被覆表面と積層ゴム表面の最低温度
の 温 度 差 は 約 7℃ と な っ て お り 、こ の 温 度 差
に は 耐 火 被 覆 材(セ ラ ミ ッ ク フ ァ イ バ ー ブ
ランケット
厚 さ 12.5mm
2枚重ね仕様)
の断熱効果が現れているものと考える。
軸組図(6通り)
測定位置
最低温度(℃) 最高温度(℃) 平均温度(℃)
積層ゴム上部躯体内部
⑪
+8.2
+21.8
+15.3
積層ゴム上部躯体表面
⑩
+4.5
+21.6
+13.5
積層ゴム
上フランジ表面
①
+6.7
+21.9
+14.7
④
+5.8
+21.3
+14.1
②
+5.9
+21.8
+14.1
積層ゴム表面
⑤
+5.1
+20.9
+13.6
耐火被覆表面
⑦
-2.0
+23.3
+12.8
積層ゴム
下部フランジ表面
③
+4.8
+21.5
+13.7
⑥
+4.1
+20.7
+12.9
積層ゴム下部躯体表面
⑨
+1.7
+20.6
+12.5
積層ゴム下部躯体内部
⑧
+4.1
+20.2
+12.8
表 -2
外 気 温 一 覧 ( 2000/ 9 / 1 1 ~ 2 0 0 1 / 1 2 / 2 7 ) ( 気 象 台 )
気 温
最低気温(℃)
最高気温(℃)
平均気温(℃)
測定期間内気温
日平均気温
-22.3
+26.4
+5.6
-13.7
+20.9
-
表 -3
積 層 ゴムアイソレータの 温 度 変 化 ( 合 同 庁 舎 )
測 定 位 置
イ.釧路地家裁庁舎
釧路地家裁庁舎に採用している免震部材
は、天然ゴム系鉛プラグ入り積層ゴムアイ
温度変化(℃)
平均温度(℃)
上部フランジ表面
①④
+5.8~+21.9
+14.1~+14.7
積層ゴム表面
②⑤
+5.1~+21.8
+13.6~+14.1
耐 火 被 覆 表 面
⑦
-2.0~+23.3
+12.8
下部フランジ表面
③⑥
+4.1~+21.5
+12.9~+13.7
(℃)
25
(℃)
25
上部躯体内部⑪
20
20
積層ゴム表面温度②⑤
積層ゴム表面②
15
15
10
10
設定平均温度
(10℃)
5
5
耐火被覆表面⑦
0
0
-5
設定平均温度
(10℃)
下部躯体内部⑧
-5
日平均気温
日平均気温
-10
-10
供用開始 9/11
-15
4/13
7/11
10/8
供用開始 9/11
1/5
4/4
7/2
9/29
12/27
-15
4/13
7/11
10/8
1/5
4/4
7/2
年月日
図-6
合同庁舎免震温度観測記録 ①
ソ レ ー タ (LRB 750
φ 、 耐 火 被 覆
無 )44基 で あ る 。
積層ゴムアイ
ソレータを設置
図-7
合同庁舎免震温度観測記録 ②
している地下1階床下(免震ピット)は、部分
的にグレーチングを介して外気と直結している
が、建物外周部の地下1階床梁下には防風ゴム
図-8 釧路地家栽庁舎 外観写真
よ う に 配 慮 し て い る 。ま た 、免 震 ピ ッ ト 内 に は 、
庁舎内換気用吹出し口を配置し、通常勤務時間
内は室内の暖まった空気を排気している。
温度測定は、地下1階床下免震ピット内の積
層ゴムアイソレータ及び同周辺に温度センサを
設置して行っている。
温度センサは釧路合同庁舎と同様に、1時間
毎 に 温 度 を 記 録 す る 設 定 と し た 。温 度 測 定 点 は 、
計 10 点 で 行 っ て い る ほ か 、 1 階 床 梁 下 の ピ ッ ト
内気温を4点で測定している。
図-9
免震層伏図
ピット内位置1は、温度測定を行っている積
層ゴムアイソレータ及び同周辺に最も近い測定
点であり、この点における気温変動と上部躯体
内部温度の変動は連動している傾向が読みとれ
る。
積層ゴム表面温度の変動は、外気温の直接的
な影響を示しておらず、下部躯体内部温度に近
い挙動を示している。釧路合同庁舎の場合と異
なり、積層ゴム表面の最低温度が下部躯体内部
の最低温度を下回る。その違いは断熱材(耐火被
覆材)の有無に起因するものであると考える。
12/27
年月日
【 建 物 概 要 ( 釧 路 地 家 裁 庁 舎 )】
所 在 地:釧路市柏木町4番7号
建 築 面 積 : 1,568 ㎡
延 べ 面 積 : 8,170 ㎡
構
造 : 免 震 構 造 ( LRB、 基 礎 免 震 )
上部構造:鉄筋コンクリート造
階
数 : 地 上 5 階 ,地 下 1 階 ,塔 屋 1 階
基
礎:直接基礎(支持地盤 砂岩)
設
計:北海道開発局営繕部、
(株 )日 本 設 計
施
工:竹中・東海・地崎JV
( 厚 さ 8 mm ) を 取 付 け 、 直 接 外 気 が 流 入 し な い
9/29
図-10
軸組図
表-4 免震部材及び免震部材周辺の測定温度の概要
(2000/12/27~2001/12/27)
(地家裁庁舎)
釧路地家裁庁舎にて現在蓄積された冬期
間データのうち、積層ゴム表面の最低温度
に着目するならば、積層ゴムアイソレータ
は釧路合同庁舎に比較してかなり低温にさ
測 定 位 置
+2.9
+18.5
+11.6
積層ゴム上部躯体表面 ⑩
-0.8
+18.4
+10.5
積 層 ゴ ム
上部フランジ表面
①
-0.7
+18.2
+10.5
④
-0.4
+18.3
+10.6
積 層 ゴ ム
表 面
②
-2.4
+18.1
+ 9.8
⑤
-2.1
+17.9
+ 9.8
積 層 ゴ ム
下部フランジ表面
③
-2.0
+17.2
+ 8.9
⑥
-2.2
+17.2
+ 9.0
積層ゴム下部躯体表面 ⑨
-3.9
+17.4
+ 8.6
積層ゴム下部躯体内部 ⑧
らされている結果となっている。しかし、
積層ゴム表面の最低温度は外気温の最低値
( - 22.3 ℃ ) よ り も 20 ℃ 程 度 、 日 平 均 気 温
の 最 低 値 ( - 13.7 ℃ ) よ り も 11 ℃ 程 度 高 い
最低温度(℃) 最高温度(℃) 平均温度(℃)
積層ゴム上部躯体内部 ⑪
-0.4
+16.9
+ 9.3
温度となっている。また、夏季データに着
ピット内位置
1
-0.5
+ 7.9
+ 6.2
目すると、積層ゴム表面温度は外気温の最
ピット内位置
2
+8.2
+10.4
+ 9.2
高 値 ( 25.7 ℃ ) よ り も 7 ℃ 程 度 、 日 平 均 気
温 の 最 高 値 ( 20.9 ℃ ) よ り も 3 ℃ 程 度 低 い
表-5 外気温一覧(2000/12/27~2001/12/27) (気象台)
気 温
-22.3
+25.7
- 5.4
日平均気温
-13.7
+20.9
-
温度となっている。このことより、積層ゴ
ムアイソレータの温度は外気温よりも温度
変化が小さいことがわかる。
最低気温(℃) 最高気温(℃) 平均気温(℃)
測定期間内気温
(℃)
25
積層ゴム表面②⑤
20
2 .2
実 測 された 温 度 条 件 と 設 計 時 の 設 定
条件との比較・検討
15
上部躯体内部⑪
10
下部躯体内部⑧
5
釧路合同庁舎設計時には設置環境温度の
0
設定平均温度(5℃)
設 定 値 を 、 平 均 温 度 : + 10 ℃ 、 温 度 変 化 :
-5
- 15 ℃ ~ + 30 ℃ と し て 免 震 性 能 の 検 討 を 行
-10
っている。
-15
12/27
日平均気温
3/28
外部に距離が最も近く、全積層ゴムアイソ
6/28
9/27
12/27
年月日
現在測定中の積層ゴムアイソレータは、
図-11
表-6
地家裁庁舎免震温度観測記録
設置環境温度の設定値と測定値の比較 (合同庁舎)
レータ中で最も厳しい温度環境にさらされ
測定位置
温度変化(℃)
ていると考える。
設定条件
-15.0~+30.0
+10.0
積層ゴム表面実測値
+ 5.1~+21.8
+13.6~+14.1
耐火被覆表面実測値
- 2.0~+23.3
+12.8
この1年間で測定された積層ゴムアイソ
平均温度(℃)
レータ表面及び耐火被覆表面は、設計時の
温度変化の設定幅内に収まっている。
表-7
温度変化(℃)
平均温度(℃)
設定条件
-10.0~+20.0
+5.0
積層ゴム表面実測値
-2.4~+18.1
+9.8
よって、設計時の設定値の変動幅は、妥
当であることが確認できるとともに、若干
設置環境温度の設定値と測定値の比較 (地家裁庁舎)
測定位置
低温側に余裕を持った設定値になっていると判断できる。
釧 路 地 家 裁 庁 舎 設 計 時 に は 設 置 環 境 温 度 の 設 定 値 を 、平 均 温 度 :+ 5 ℃ 、温 度 変 化: -
10℃ ~ + 20℃ と し て 免 震 性 能 の 検 討 を 行 っ て い る 。
釧 路 合 同 庁 舎 と 同 様 に 、現 在 測 定 中 の 積 層 ゴ ム ア イ ソ レ ー タ は 、外 部 に 距 離 が 最 も 近 く 、
全 積 層 ゴ ム ア イ ソ レ ー タ 中 で 最 も 厳 し い 温 度 環 境 に さ ら さ れ て い る と 考 え る 。測 定 さ れ た
積層ゴム表面は、設計時の温度変化の設定幅内に収まっている。
よ っ て 、設 計 時 の 設 定 値 の 変 動 幅 は 、妥 当 で あ る こ と が 確 認 で き る と と も に 、若 干 低 温
側に余裕を持った設定値になっていると判断できる。
2.3
寒 冷 地での免震 構 造 設 計で 設 定すべ
き温度条件に関する考察
釧路合同庁舎と釧路地家裁庁舎の温度測
(℃)
15
積層ゴム表面温度②⑤
設定平均温度 (10℃)
上部躯体内部
10
5
0
定データから読みとれる免震部材設置環境
耐火被覆表面
下部躯体内部
-5
温度の特徴は次の通りである。
・
-10
積 層 ゴ ム ア イ ソ レ ー タ の 設 置 環 境 温 度 は 、 -15
地家裁庁舎は合同庁舎に比較して低温で
あ る が 、両 者 と も に 周 辺 環 境 温 度 は 外 気 温
-20
日平均温度
外気温
-25
2/1
2/2
よ り も 高 い 。 よ っ て 、 耐 火 被 覆 、防 風 ゴ ム
等 の 対 策 に よ り 、外 気 温 の 影 響 は 直 接 的 で
はなくなっている。
・
積 層 ゴ ム 表 面 温 度 は 、上 下 躯 体 内 部 温 度
の変動に連動している。
2/3 (土)
図 -12
2/4 (日)
2/5 (月)
2/6
2/7
2/8
2/9 (金) 2/10
年月日
免震温度観測記録 (合同庁舎)
(℃)
15
設定平均温度 (5℃)
積層ゴム表面温度②⑤
10
上部躯体内部
5
0
下部躯体内部
-5
・
積 層 ゴ ム 表 面 温 度 は 、上 下 躯 体 間 に 熱 流
が 生 じ て い る こ と を 反 映 し て 、大 略 的 に 両
者の内部温度変動の中間的な位置を推移
-10
-15
-20
日平均温度
外気温
する。
・
-25
2/1
耐 火 被 覆 材 は 断 熱 性 能 を 有 し て お り 、そ
2/2
2/3 (土)
図 -13
2/4 (日)
2/5 (月)
2/6
2/7
2/8
2/9 (金) 2/10
年月日
免震温度観測記録 (地家裁庁舎)
れを施している合同庁舎では上下躯体の
熱 容 量 の 影 響 が 顕 著 に 現 れ て い る 。よ っ て 、積 層 ゴ
ムアイソレータ表面温度は周辺温度の変動に対し
て鈍感である。
・
耐火被覆材の断熱効果により、合同庁舎では積
層ゴム表面温度は下部躯体内部温度を下回ること
はない。
今 回 、釧 路 合 同 庁 舎 で 測 定 し た 温 度 を 入 力 し 、図 -
14に 示 す 二 次 元 定 常 熱 流 解 析 を 行 っ た 。そ の 解 析 結 果
は測定値と比較的良く合っていた。
以 上 の 様 な 特 徴 及 び 解 析 結 果 か ら 判 断 し て 、設 計 時
に 設 置 環 境 温 度 を 設 定 す る 際 は 、外 気 温 、室 温 、 下 部 躯
体 温 度 に 影 響 す る 地 盤 温 度 (地 下 水 温 )、断 熱 材 ( 耐 火
図 -14
二次元定常熱流解析
被 覆 材 を 含 む )の 有 無 等 を 考 慮 し た 二 次 元 熱 流 解 析 等 の 手
法 を 用 い る こ と が 有 効 で あ る と 考 え る 。 但 し 、そ の 際 の 留 意 点 は 、 各 温 度 設 定 を 適 切 に 行
う事が重要であると考える。
2.4
免 震 部 材 の 温 度 依 存 性 が 上 部 架 構 応 答 層 せ ん 断 力 係 数 C 0に 及 ぼ す 影 響
釧路合同庁舎設計時に採用した5種の実地震波及び模擬地震波に対するレベル2地震
動( 地 動 最 大 速 度 50cm/sec)時 の 地 震 応 答 解 析 を 行 う こ と に よ り 、免 震 部 材 の 温 度 依 存 性
が応答量に及ぼす影響を検討する。
こ の う ち 、KUSHIRO(N63E)は 釧 路 沖 地 震 (1993年 1月 15日 )で 観
測 さ れ た 釧 路 地 方 気 象 台 で の 記 録 (N63E 成 分 ) と 敷 地 構 成 地 盤
に基づいて作成した模擬地震波である。
地 震 応 答 解 析 で は 免 震 部 材 の 復 元 力( 剛 性・耐 力 )変 動 要 因
採 用 した地 震 波
1.EL CENTRO(NS) 1940/5/18
2.TAFT(EW)
1952/7/21
3.HACHINOHE(NS) 1968/5/16
4 . K U S H I R O ( N 6 3 E ): 模 擬 地 震 波
5.ART. WAVE 474: 模 擬 地 震 波
と し て 、温 度 変 動 、製 品 の ば ら つ き 、経 年 変 化 の 3 種 が あ る が 、設 定 平 均 温 度 時( 製 品 の
ば ら つ き 、経 年 変 化 無 し )を 標 準 状 態 と し て 、そ れ に 対 し て 温 度 変 動 の み を 考 慮 す る 場 合
と3種の変動要因を全て考慮する場合で応答値がどのように変動するかを確認する。
温度変動に関わる温度条件は下記の2ケースについて行う。
CASE1
設 計 時 の 設 定 温 度 条 件 : 平 均 温 度 +10.0℃ 、 温 度 変 動 -15.0~ +30.0℃
CASE2
実 測 さ れ た 温 度 条 件(この条件は、2000年4月13日から2001年3月15日の実測値による):
積 層 ゴ ム ア イ ソ レ ー タ : 平 均 温 度 +12.5℃ 、 温 度 変 動 +5.0~ +21.0℃
鉛ダンパー
: 平 均 温 度 +12.0℃ 、 温 度 変 動 -2.0~ +22.5℃
こ こ で 、 CASE2の 温 度 条 件 の う ち 積 層 ゴ ム ア イ ソ レ ー タ の 設 置 環 境 温 度 は そ の 表 面 で 実
測 さ れ た 温 度 に 基 づ い て 設 定 し 、鉛 ダ ン パ ー の 設 置 環 境 温 度 は 耐 火 被 覆 表 面 で の 温 度 実 測
値を代用して設定している。
設 計 時 に は 鉛 ダ ン パ ー 、鋼 棒 ダ ン パ ー の 剛 性・耐 力 に 関 す る 温 度 依 存 性 を 考 慮 し て い な
い た め 、CASE1で は 両 者 の 温 度 依 存 性 を 考 慮 し て い な い 。ま た 、CASE2で は 鋼 棒 ダ ン パ ー の
剛 性・耐 力 の 温 度 依 存 性 は 小 さ い と 判 断 し て 、エ ネ ル ギ ー 吸 収 部 材 に つ い て は 鉛 ダ ン パ ー
の 剛 性・耐 力 の 温 度 依 存 性 の み を 考 慮 す る 。な お 、既 往 の 資 料 で は 鉛 ダ ン パ ー の 剛 性 の 温
度 依 存 性 に 関 す る デ ー タ が 不 明 で あ る た め 、こ こ で は 、剛 性 の 温 度 依 存 性 は 耐 力 に 連 繋 す
るものとし、温度変動に伴う剛性と耐力の変動率を同一として検討する。
表 - 8 に 免 震 部 材 の 剛 性・耐 力 の 変 動 率 、表 - 9 に 設 定 し た 解 析 条 件 変 動 率 を 示 す 。な
お、表中の剛性変動率は標準状態の剛性を基準として算定したものである。
表 - 10、 図 - 15、16に 最 大 応 答 層 せ ん 断 力 係 数 の 標 準 ケ ー ス に 対 す る 変 動 率 (X 方 向 )、
(Y 方 向 )を 示 す 。
同図は、免震部材の復元力特性
(剛性・耐力)の変動が上部架構
表 -8
免震部材の剛性・耐力変動率
①温度変化による
変動要因
の最大応答層せん断力係数に及ぼ
免震部材
す効果を示す。また、標準状態の
A 積層ゴム
最大応答層せん断力係数を基準と
B 鉛ダンパー
して、それに対する各ケースの最
C 鋼棒ダンパー
②
比率を示しており、地震波の性状
に起因する応答のばらつきもそこ
に反映されている。
表 -9
CASE
製品のばら
つきによる
経年変化
による
両者を考慮
-5~+15%
-2~+2%
± 5%
0~+20%
- 5~+20%
±10%
な し
-10~+10%
-4~+6%
温度変動
のみ考慮
全ての変動
要因考慮
温度変動のみを考慮した場合、
標準状態
設 計 時 の 設 定 (CASE1)で は 、標 準 状
態に対する上部架構最大応答せん
断力係数の変動のうち、低温側の
CASE2
温度実
測
条件
なし
解析条件変動率
免震部材復元力の
変動要因
標準状態
CASE1
設計時
②③
設計時条件
+30 ~ -15℃
なし
大応答せん断力係数の最大・最小
③
温度実測条件
A +21 ~ +5℃
B,C +22.5~-2℃
温度変動
のみ考慮
全ての要因
考慮
積層ゴムアイソレータ
温度(℃)
剛性変動率
+10.0
-15.0
+30.0
-15.0
+30.0
+12.5
+ 5.0
+21.0
+ 5.0
+21.0
1.00
1.15
0.95
1.35
0.90
1.00
1.02
0.98
1.22
0.93
鉛ダンパー
鋼棒ダンパー
温度(℃)
剛性変動率 剛性変動率
+10.0
-15.0
+30.0
-15.0
+30.0
+12.0
- 2.0
+22.5
- 2.0
+22.5
1.00
1.00
1.00
1.10
0.90
1.00
1.06
0.96
1.16
0.86
1.00
1.00
1.00
1.10
0.90
1.00
1.00
1.00
1.10
0.90
最小値
階
PRF
階
最大値
RF
RF
9F
9F
8F
8F
7F
7F
6F
6F
5F
5F
4F
4F
3F
3F
2F
2F
1F
最大値
1F
B1F
0.80
図 -15
最小値
PRF
1.00
1.20
1.40
変動率
最大応答層せん断力係数の標準ケースに対する変動率
B1F
0.80
図 -16
1.00
1.20
1.40
変動率
最大応答層せん断力係数の標準ケースに対する変動率
(Y 方向)
(X方向)
最 大 応 答 層 せ ん 断 力 係 数 の 変 動 率 は 、標 準
状 態 に 比 較 し て 10% 以 上 増 大 す る 。こ れ に
対 し て 、実 測 デ ー タ に 基 づ く 環 境 温 度 設 定
(CASE2) の 場 合 で は 、 同 3 % ~ 4 % 程 度 増
大 し 、 設 計 時 の 設 定 条 件 (CASE1) に 比 較 し
表 -10 最 大 応 答 層 せん断 力 係 数 Co の標 準 ケースに対 する変 動 率
CASE
免震部材復元力の
変動要因
最大応答層せん断力係数の変動率
X方向
Y方向
温度変動のみ考慮
-4%~ +13%程度
-5%~ +13%程度
全ての変動要因考慮
-11%~ +32%程度
-13%~ +29%程度
温度変動のみ考慮
CASE2
温度実測
条件
全ての変動要因考慮
-3%~ +4%程度
-2%~ +3%程度
-17%~ +22%程度
-18%~ +20%程度
CASE1
設計時
て 約 10% 程 度 小 さ く な っ て い る 。
全 変 動 要 因 を 考 慮 す る 場 合 、設 計 時 に は 鉛 ダ ン パ ー の 温 度 依 存 性 を 考 慮 し て い な い た め 、
両 ケ ー ス の 直 接 的 な 比 較 は で き な い に せ よ 、実 測 デ ー タ に 基 づ い て 設 置 環 境 温 度 を 設 定 し
た 場 合 (CASE2)に は 、設 計 時 の 設 定 条 件 (CASE1)に 比 較 し て 、最 大 応 答 層 せ ん 断 力 の 変 動 率
は 応 答 量 増 大 側 ( 低 温 側 ) で 約 10% 程 度 小 さ く な っ て い る 。
い ず れ に し て も 、設 計 時 に 設 定 し た 温 度 変 動 幅 は 、最 大 応 答 層 せ ん 断 力 係 数 に 関 し て 安
全 側 の 設 定 と な っ て お り 、設 置 環 境 温 度 条 件 を 実 状 に 則 し て 設 定 す る な ら ば 、標 準 状 態 に
対 す る 応 答 量 の 増 大 率 は 、 設 計 時 の 設 定 条 件 の 場 合 よ り も 約 10% 程 度 小 さ く な る 。
2.5
上 部 架 構 設 計 用 層 せ ん 断 力 係 数 C 0の 変 動 と 建 設 費 の 関 係
標 準 建 物 ( C 0 = 0.2) に 対 す る 強 度 割 増 比 率 Rs と 建 設 費 比 率 Rc の 間 に は 近 似 的 に
Rc= 0.9+ 0.1×Rs
の関係3)がある。
図 - 17に 構 造 体 強 度 の 割 増 率 と 建 設 費 増 大 率 の 関 係 を 示 す 。
上 部 架 構 の 設 計 用 層 せ ん 断 力 係 数 C 0に 比 例 し て 上 部 架 構 の 耐 震 強 度 が 変 動 す る と 仮 定
し 、 こ の 関 係 式 を 用 い て C 0の 変 動 と 建 設 費 ( 構 造 体 ) の 関 係 を 考 察 す る 。
前述したように、温度変動のみを考慮した場合、設計時に設定した環境温度(CASE1)では、平均温度
(+10℃)時の応答層せん断力係数C0を基準として、最低温度(-15℃)時にC0が約13%増大する。
この比率と構造体強度の増大率が等しいと仮定し、X方向(免震部材剛性が標準状態の場合、1階
応答層せん断力係数C0の最大値 0.103:HACHINOHE)に関して、設定温度変動幅に起因する上部架構の
みの建設費増大率を算定すると
C0
0.103
C0 13%増大
:Rc=0.9+0.1×0.103/0.2 =0.952
:Rc=0.9+0.1×0.103/0.2×1.13 =0.958
となり、層せん断力係数C 0 を
0.103として設計する場合に比較して建設費の増大率は、
C0 13%増大:0.958/0.952=1.006(0.6%増)
となる。
この数値はあくまでも設計時の設定平均温度の免震性能を基準として、温度変動に関わる応答層せ
ん断力係数C0の増大率を、建設費の増大率に読み替え
たものである。
実測データに基づく環境温度設定(CASE2)では、平均
温度(+12.5℃)時の応答層せん断力係数C 0 を基準と
して、最低温度(+5℃)時にC0が約4%増大する。
X方向(同0.102)に関して設定温度変動幅に起因す
る上部架構のみの建設費増大率を算定すると
C 0 0.102:Rc=0.951
、C 0 4%増大:Rc=0.953
となり、層せん断力係数C0を0.102として設計する場
図-17 構造体強度の割増率と建設費増大率の関係
合に比較して建設費の増大率は、
C0 4%増大:0.953/0.951=1.002(0.2%増)
となる。
よって、今後免震建物の構造設計を行う際は、免震部材の設置環境を適切に反映した温度環境を設
定することにより、寒冷地における免震建物をより経済的に設計し得る可能性がある。
3.まとめ
今回の調査で得られた結論を下記に示す。
・ 実測された(積層ゴム表面、耐火被覆表面温度) 温度変化は、設計時の設定値内に収まっていた。
よって、設計時に設定した設置環境温度の妥当性が確認できたと考える。
・ 積層ゴム表面温度は、外気温の影響を直接的には受けてはおらず、上下躯体内部温度の変動に連動
する傾向がある。
・ 上下躯体の熱容量を利用し、積層ゴムの温度変動幅を小さくするためには、周囲に断熱材を設置す
ることが有効であると考える。
・ 免震部材の設置環境最低温度は、外気温のそれよりも高く、かつ、積層ゴムの温度には上下躯体温
度が顕著に影響する。
設計時に設置環境温度を設定する際に、各設置条件を考慮した二次元熱流解析等の手法を用いる
ことが有効であると考える。
・ 上部架構の応答層せん断力係数は、積層ゴムの剛性・耐力変動の影響を強く受ける。
免震部材の設置環境を適切に反映した温度変動幅を設定することにより、寒冷地における免震建
物をより経済的に設計し得る可能性がある。
4.問題点
釧路合同庁舎は建物使用状況下の測定期間は1年8ヶ月程度、また、釧路地家裁庁舎の測定期間は
1年程度であり、両者ともに設置環境温度の年間傾向を完全に把握できてはいない。したがって、環
境温度に関するより詳細な検討を行うためには、温度測定を今後も継続して実施する必要がある。
[謝辞]
貴重な気象データを提供いただいた釧路地方気象台に謝意を表します。
[参考文献]
[参考資料]
1) 高山,森田,安藤,宅野:「1/4縮小試験体を用いた鉛ダンパーの低温下動的加振試験」、
1) 「天然ゴム系積層ゴムアイソレータ(低弾性仕様),ゴム材料の温度依存性資料」 昭和電線
日本建築学会大会学術講演梗概集,1997.9.,pp.553-554
電纜㈱, 1995.11.27.
2) 伊藤昭浩、谷口和久:「寒冷地における免震建物の構造設計に関する一考察(-積層ゴムアイ
2)「免震鋼棒ダンパーに使用されるSCM415鋼材の低温時特性について」,新日本製鐵㈱
ソレータの設置環境温度測定及び解析-)」、平成13年度
3) 「釧路合同庁舎免震構造評定委員会資料(BCJ-免184)」,平成8年4月
国土交通省国土技術研究会論文集、
2001.11.,PP.1-4
3) 「最適信頼性に及ぼす経済要因の影響」,(財)日本建築センター平成5年度研究助成報告書,
No.9313
4) 「平成12年度釧路合同庁舎免震性能検討業務報告書」,平成13年3月