平成 21 年度 卒業研究概要集 日本大学 生産工学部 建築工学科 一定風速中における 一定風速中における風速急変時 構造物の挙動シミュレーション 挙動シミュレーション における風速急変時の 風速急変時の構造物の - ニューハイブリッド空力振動法 ニューハイブリッド空力振動法の 空力振動法の適用 - 指導 神田 亮 准教授 64081 川嶋 将太 ˤ$ ˲ ˤ˲ ˭ $ -I - ˫˲ ˤˮ ˤˮ 1. はじめに 竜巻やダウンバーストといった風速急変は,構造物に様々な 被害を及ぼす。主な被害例として,外装材の飛散や建物の倒壊 などが挙げられる。日本においては,年間にして約 13 個の竜巻 1) ˘ {Ŷ{ ここで,˭:質量,I:減衰係数,˫:剛性,˲:応答変位,ˮ: 時間,˘:風外力である。 風速急変時の風外力では,流体の加速度運動による力が含ま 及びダウンバーストが発生 しており,いずれも甚大な被害が起 れており 9),これを考慮し振動方程式を誘導する。風速が急激に きている。風速急変の特徴としては,一時的に吹く継続時間の 変化する場合,風外力(右辺項)は,式(3)となる 9)。 短い強風,風速の立ち上がり時間が短いことである。現状,風 2) ˘ ˘ -˘ ŵ ˕ ˢ $ ˔H - ˕ Ŷ ˔˖H ˤˢ ˤˮ {ŷ{ 速急変の現象を考慮した耐風設計はされていない 。しかし,風 ここで,˘ :風速の二乗に比例する成分,˘ :風速の時間勾配に比 速急変時では定常流が作用した場合の風力よりも大きい風力が 例する成分,ˢ:風速, :空気密度, ˕ :揚力係数,˕ :慣 作用する可能性がある 3)ため,これらの現象について明らかにす 性係数である。対象となる構造物は二次元角柱であり,構造物 る必要がある。 の幅,奥行き,長さをそれぞれ˔,˖,Hとする。 既往の研究では,風洞内で風速急変の現象を再現し,風力を 今回のシミュレーションでは振動方向は風直交方向のため, 測定している 3)~5)。しかし,風速急変時の振動実験に関する研究 既往の研究 3)より風速の時間勾配に比例する成分は考慮せずに はほとんどされていない。 シミュレーションを行った。よって,本シミュレーションにお 風外力による振動実験において,ニューハイブリッド空力振 ける振動方程式は式(4)となる。 動法(以下:NHAT)は非常に有用である。NHAT は質量や剛性, 減衰定数などのパラメータを自由自在に設定でき,振動時の外 力測定が可能である。これらの特長に着目し,これまでに質量 ˭ ˤ$ ˲ ˤ˲ -I - ˫˲ ˤˮ $ ˤˮ パラメータとして,式(5)に示す無次元風速がある 8)。 の小さい構造物の応答及び外力の分析 や,POD 解析を用いた ˢ ˦˔ ˢ 7) を活かし今回新たなシミュレーション手法を提案する。 が急変したような場合のシミュレーション方法の提案,またシ ミュレーション結果より風速急変時の構造物の挙動を考察する ことを目的とする。 ここで,ˢ :無次元風速,˦:固有振動数である。 現象を表していると言える。 2.3 シミュレーション方法 シミュレーション方法 NHAT は,風洞実験と数値解析を組み合わせた手法である。 NHAT の特長として,①パラメータの設定を PC 上で行うので容 2. シミュレーション概要 シミュレーション概要 易 ②質量や剛性を時々刻々変化できる ③外力の測定が可能と 2.1 相似則 いったことが挙げられる。この特長を活かし,無次元風速を上 本研究では縮小模型を風洞内に設置し,シミュレーションを 行う。このとき,実現象と模型実験における物理量の比を表わ すものとして風速スケール,幾何学的スケール及び時間スケー {ŵ{ ここで, :風速スケール{ ÈH ˢ Èˢ {, :幾何学的ス {, :時間スケール{ ˠ Èˠ 昇させシミュレーションを行う。シミュレーションの概念図を 図 1 に示す。 (実現象) ˢ:急増 ˦:一定 ルがある。この 3 つのスケールの関係は式(1)である 8)。 H {Ź{ この無次元風速が実現象とシミュレーションで等しければ実 本研究では,NHAT を用いて,風洞内の風速が一定でも風速 ケール{ {Ÿ{ 実現象とシミュレーションにおける風速の関係を結びつける 6) 変動風圧場の分析 などが行われてきた。そこで,NHAT の特長 ŵ ˕ ˢ $ ˔H Ŷ {で 無次元風速への換算 (NHAT) ˢ:一定 ˦:急減 固有振動数の算出 ˢ :急増 図 1 シミュレーションの概念図 シミュレーションの概念図 ある。なお,添字の˭Jˤ˥ˬは実験時のスケール,J˥Iˬは実現象 風速が急変する場合,実現象では風速のみが変化するため,無 のスケールを表す。 次元風速も変化する。本シミュレーションでは風速一定とし, 2.2 振動方程式 振動方程式 固有振動数を変化させる。通常用いられている振動実験では, 構造物に風外力が作用する現象の支配方程式は,式(2)である。 構造物の質量や剛性などをおもりやバネ等を用いて再現してお 1 り 8),振動時に質量や剛性を変化させることは困難である。しか 図3 より, case1 では実時間50sec 付近を境に応答は増加した。 し,NHAT を用いれば前述した②の特長より,固有振動数を変 50~100 sec の間では,大きな応答の増加は無く,定常している。 化させることが可能となる。なお,本シミュレーションでは固 また,図 4 より剛性変化前と変化後ともに外力の卓越振動数で 有振動数を変化させるに際し,質量は一定で剛性を変化させた。 振動している。 今回のシミュレーションでは,風洞風速は一定かつ,モデル 図 5 より,case2 では実時間 90sec 付近から応答が定常してい の振動数が変化するため,式(1)より時間スケールが変化する。 る。また,定常応答値よりも定常前の最大応答値の方が大きい よって,シミュレーションをする際の時間は式(6)となる。 応答を示している。また,図 6 より剛性変化前と変化後ともに ˠ ˠ 外力の卓越振動数で振動している。変化後の外力卓越振動数は {ź{ 3. シミュレーションパラメータ シミュレーションパラメータ 固有振動数(0.5Hz)と一致しているが,これは共振風速近傍であ 表 1 に示す構造物を想定したシミュレーションを行う。 なお, るためと考えられる。 シミュレーションに用いた模型は二次元角柱である。本シミュ 図 7 より,case3 では時間の経過と共に応答が増加している。 レーションでは,想定する風速の変化を図 2 に示す。初期風速 これは,図 8 より剛性変化後の卓越が固有振動数近傍であるた ˢ# から目標風速 ˢ$ まで,立ち上がり時間 ˤˮを要して変化する。 め,ギャロッピングによるものと考えられる。 本シミュレーションのパラメータ一覧を表 2 に示す。初期風 5. まとめ 速は 30m/s に固定し,目標風速は共振風速(60m/s)及びその前後 本シミュレーションにおいて,以下の知見を得た。 となるよう設定した。なお,立ち上がり時間 ˤˮを 1sec とした。 ・相似則に基づき,NHAT を用いて一定風速中で風速急変時の 応答をシミュレーションする手法を示した。 V 表 1 構造物緒元 構造物緒元 実験模型 0.746 15 0.15 ・時々刻々剛性を変化させることで,風速急変時の応答をシミ ˢ$ ュレーションすることができた。 3 175 建物密度[kg/m ] 2 減衰定数[%] 固有周期[s] 2 時間で変化 風速[m/s] 5 時間で変化 ・風速急変後,case2 のように共振風速近傍となる場合,定常応 ˢ# t ˤˮ 答値よりも定常前の最大応答値の方が大きくなる。 図 2 設定風速概念図 [参考文献] 参考文献] 表 2 実験パラメータ 実験パラメータ 1)気象庁ホームページ:http://www.jma.go.jp/jma/index.html 2)日本建築学会:建築物荷重指針・同解説(2004),pp.321-434 3)白石成人,松本勝,北川雅章:第 7 回風工学シンポジウム論文集, 1982,pp.107-113 4)Takashi Nomura,Yoji Suzuki,Mutsumi Uemura,Nobuyuki Kobayashi: 日本風工学研究会誌,2001,pp.481-484 5)竹内崇,川下寛正,早田友彦,中村論史,鶴則生,前田潤滋:日本建築 学会九州支部研究報告集,2008,pp.209-220 6)田中秀和,西将志,神田亮:日本風工学研究会誌, 2009, pp.169-172 7)永塚康宏,磯野由佳,神田亮,丸田榮藏:日本風工学研究会誌, 2007,pp.201-202 8)日本建築センター:実務者のための建築物風洞実験ガイドブック 9)Robet D. Blevins:Flow-Induced Vibration,1990,pp.20-26 初期風速V 1 目標風速V 2 時間 実風速[m/s] 無次元風速 実風速[m/s] 無次元風速 スケール case1 40 5.34 0.06 ⇒ 0.08 30 4.00 case2 60 7.94 0.06 ⇒ 0.12 case3 150 20.00 0.06 ⇒ 0.30 4. 実験結果及 実験結果及び考察 図 3~8 に,実時間(実験時間から実現象の時間に換算した時 間)に対する実応答変位(実験の応答から実現象の応答に換算し た変位)と,実振動数(実時間より算出した振動数)に対する振幅 スペクトルを示す。 <case2 実風速 30~60m/s> 0.2 2 0.15 1.5 0 -0.05 -0.1 -2 20 40 60 実時間(sec) 実時間 80 100 3 変化前 変化後 0.8 0.6 0.4 0.2 0.5 1 実振動数(Hz) 振幅スペクトル(N・s) 振幅スペクトル(m・s) x 10 1.5 変化前 変化後 2.5 2 1.5 1 0.5 0 0 0.5 1 実振動数(Hz) (a) 応答 (b) 外力 図 4 周波数解析 周波数解析(case1) (case1) 1.5 1.2 ×10-2 0 -0.5 -1 20 40 60 実時間(sec) 実時間 80 100 0 図 5 実応答変位(case2) 応答変位(case2) 変化前 変化後 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 0.5 -1.5 0 振幅スペクトル(m・s) -3 2 -1 -0.2 1 0 0 0 -0.5 -1.5 図 3 実応答変位(case1) 応答変位(case1) 1.2 0.5 -0.15 0 1 1 実応答変位 実応答変位(m) 実応答変位 実応答変位(m) 実応答変位 実応答変位(m) 0.1 0.05 <case3 実風速 30~150m/s> 1.5 0.5 1 実振動数(Hz) 1.5 変化前 変化後 2.5 2 1.5 1 0.5 0 0 20 40 60 実時間(sec) 実時間 0.5 1 実振動数(Hz) (a) 応答 (b) 外力 図 6 周波数解析 周波数解析(case2) (case2) 80 100 図 7 実応答変位(case3) 応答変位(case3) -3 3 振幅スペクトル(N・s) <case1 実風速 30~40m/s> 1.5 5 x 10 3 変化前 変化後 4 3 2 1 0 0 0.5 1 1.5 実振動数(Hz) 振幅スペクトル(N・s) 想定構造物 - 振幅スペクトル(m・s) 長さ H[m] 幅,奥行 B,D[m] 2 変化前 変化後 2.5 2 1.5 1 0.5 0 0 0.5 1 1.5 実振動数(Hz) (a) 応答 (b) 外力 図 8 周波数解析 周波数解析(case3) (case3) 2
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