山林労働者の基礎代謝測定成績 - 労働科学研究所

(
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山林労働者の基礎代謝測定成績
労働科学研究所労働生理学第三研究室
石 井 雄
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1
. まえがき
従来の報告によれば,重筋的安?働に従事するもの
L 基礎代謝は,一般のそれに比較して,高
いとするもの,低いとするもの,差異を認めないとするもの
成績では,例えば高比良1)陣峻ベ藤本 3)
L 三様の成績をみるが,わが国の
白井 4)の諸氏の報告にみられるように, 高いとす
る方の説が有力となっている。戦後鈴木・長嶺 5)氏が漁夫について測定した成績においても一
般人より 15~20 %高いと報告されている。
この報告で取扱う山林労働者は,既に我々の同僚が明らかにしたように,高度の重筋労働に
従事しているのであるが,更にその上に本報告の対象の場合は,寒冷地においてかなり特殊な
生活様式をとっているのであって,彼等の基礎代謝が一般に比較してどの程度の差違を示すか
ということに私は関心をもったので、ある。
即ち昭和 2
6年
2月,北海道の山林労働者について基礎代謝を測定する機会があったので,
基礎代謝に関するー資料を提供する意味で,簡単にその成積を報告しようと思う。たどし極め,
て不便な現地調査であるため,
,
り
その成績は正規な測定条件の場合と幾分相違するところがあ
この点は考慮におく必要がある。
(
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1
1
.
被
検
者
被検者は北海道上川郡温根別村,剣j
淵事業所において,冬季の伐木筏出し作業に従事してい
る山林労働者で,
1
8歳より 5
5歳に到る健康な成年男子 2
9名である。彼等の平均体格は, 身
長 1
61
.24cm,体重 6
1
.5
5kg,体表面積1.66m2 で,山林労働者としても優秀な方に属する。
またその中には山林専業者と季節労働者とがあり,季節労働者の中にも,農業を兼業するも
のと漁業を兼業するもの(北海道出身者〕とがあり,出身地も北海道,青森,秋田にわかれるが,
前年の秋から当事業所の飯場に合宿生活をしていたものである。
1
.
1
1
測定の傑件及び方法
測定のために特に食事や作業について規制することなく平常通りとした。平日は 5時 3
0分
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'
'
6時の間に起床, 7時には飯場を出発して 1
9時頃かえり, 2
1時 3
0分前後に就寝する。ほど
1
2時間労働(休憩を含む) 1日の消費熱量は 4500Cal前後にある過激な労働である。情食事
内容の平均は蛋白 123g
, (そのうち動物性蛋白は 24.3g
,)脂肪 1
8.3g,糖質 1
0
9
5g,総熱量
5100Calの摂取となり,総熱量の 95%は主食に仰いでいる。
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.
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6時の間に, ダグラスパック法によって採気し,呼気の分析には里子研
毎朝 3 5名
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式小型ガス分析器を使用した。各人の採気当日の外気温及び室温は表に示した通りで,室温は
被検者とスト{プとの距離の関係によってかなり芸があった(ストープは起床前から炊事夫が
炊きつけており。また 4例は一組の布団に 2人就寝していた。したがって正規の基礎代謝測
定条件との差違,及び各人 1回の測定にとどまっていることは特に考慮を要する。
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測定成績は表に示す通りで,
成
績
呼吸数の平均は毎分 1
3回となって普通の範囲とみられるが?
0でや L 少ない方にぞくする。呼気量は 6
.
6
7
1,酸素消費量は毎分 2
1
2c
c,で,
脈持数は毎分 5
4%高い。 R
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.
8
9
体表から算出される計算値より 3.
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は日本人としては甚しく高過ぎるほどではなし、。また体表
1m2 当り 1時間熱量は 37.85Calであるが, 尿中窒素を
a
1の算出には金代謝の R,
測定してないので O2 より C
Q. を使用したため,実際はこれより多少低いことになり,
74減 と し て 補 正 し て み る と 3
6
.
7
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44
42
審議会公認〕に一致した成積であるが,戦後同時期に鈴木
40
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6
.
7
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1(食糧
高い。
長嶺氏等ポ公務員について測定した成績よりは 7 %
しかし戦前白井氏の重筋労働者に関する成績よりは 10%
低く,戦後鈴木・長嶺氏が漁夫について測定した成績より
は1
35
'
G
'余り低いことになる。また参考に同一条件のもと
3
8
36
34
に検者等 5人を測定した成績は,表の下欄に示すように
3
7
.
6
3C
a
l となって, 両群聞に差違は認められなかった。
これを年齢別にみると高年となるに従って低少するのは
当然であるが,出身地別にみると,漁業を兼業する者の多
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1
頃である(何れも未柿E値〕。但し例数が少ないので各群の差は統計的に有意ではない。
全体としては当初われわれが予期していた値よりは低い成績であり,
しかも白井氏 61の基礎
代謝の季節的変動値 7%を考慮に入れてみると,北海道最寒地における上記の値は決して高い
ものではなし、。その理由については明かでないが,表の上からわかるように呼気量は少なく
ないが, O2消 費%が低く,すなわち白井氏の 3.95%,鈴木氏の 4.10%に対して(¥,、ずれも呼
) この成績では 3.20%となっていることから,分析操作の相違,
気量と O2消費量より逆算,
特に寒地における試薬の吸牧能等も考慮にのぼってくる。しかしかつて林野庁71が,秋岡の山
林労働者について測定した成績においても,僅か 4例に過ぎないがその平均値は 3
8.20Calで
,
この成績と大差ないところをみると,山林労働者の基礎代謝は,重筋労働の割には高いもので
ないとも考えられる。そして動物性蛋白を比較的多く摂取している北海道出身者が,他より高
い傾向を示している点からみて,食生活の内容がかなり関係しているようにも考えられるが,
それは今後の検討を要するところで,裁では単に上記の条件下に測定したー資料として報告す
るにとどめておく。
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北海道において冬季の伐木筏出しに従事している山林労働者の基礎代謝を測定したところ,
2
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6
.
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体 表 1m
戦後
同時期の一般人に比較しては和主高いが,各種重筋労働者の中では低い方にぞくすると考えら
れる。その理由については宵今後の検索によらねばならぬが,摂取栄養との関係が考患に上る。
(勝木盲目所長の御校関に深謝す)
文 献
1
) 高比良英雄:栄養研究所報告, 1(
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) 白井伊三郎 z 労働科学, 1
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,1
9
3
7
.
5
) 鈴木慣次郎・外:労働科学, 2
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(
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5
1
.
(
2
),1
9
3
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6
) 白井伊三郎:体育研究, 6
7
) 林野庁 z 林業実態調査報告, 1
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4
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(受付:1
9
5
6年
6月 1日)