耳鼻咽喉科領域におけるgrepafloxacinの基礎的・臨床的検討

VOL.43
S-1
耳 鼻 咽 喉 科 領 域 に お け るgrepafloxacinの
基 礎 的 ・臨 床 的 検 討
耳 鼻 咽 喉 科 領 域 に お け るgrepafloxacinの
大山
勝 ・古 田
茂 ・松 崎
513
基 礎 的 ・臨 床 的 検 討
勉 ・宮 崎 康博 ・原 口兼 明
鹿児島大学医学部耳阜咽喉科学教室*
坂本邦彦
鹿児島県立大島病院耳鼻咽喉科
馬場 園真 樹 子 ・徳重 栄 一 郎
今給黎総合病院耳鼻咽喉科
深 水浩 三 ・内薗 明裕
鹿児島県立北薩病院耳鼻咽喉科
経 口用 ニ ュ ー キ ノ ロ ン系 抗 菌 薬grepanoxacinの
有 用 性 に つ い て基 礎 的 な らび に 臨床 的 に検 討
し,以 下 の 結 果 を得 た 。
1.
本 剤200mgを
後 約2∼3時
内 服 し,扁 桃 組 織 内 濃 度 お よび 血 清 中 濃 度 をHPLC法
間 で 扁 桃 組 織 内 濃 度 は1.48∼5.37μg/g対
あ っ た。 組 織 内 移 行 率 は251∼590%と
2.
に て 測 定 した 。 投 与
応 す る 血 清 中 濃 度 は0.36∼0.98μg/m1で
優 れた成績 であ った。
耳 鼻咽 喉 科 領 域 感 染 症31例 に対 して 本 剤 を投 与 し た。 臨 床 効 果 は著 効13例,有
や や 有 効1例,無
効3例,判
有 効 率85.2%で
率 は92.3%で
定 不 能4例 で あ っ た 。 著 効+有
あ っ た。 細 菌 学 的検 討 で は,評
あ っ た 。 自他 覚 的 副 作 用 は,下
床 検 査 値 の 異 常 はGPTの
効10例,
効 例 は 判 定 可 能 症 例27例 中23例 で
価 可 能 で あ っ た全26株 中24株 が 消 失 し,消 失
痢1例,服
上 昇 が1例 に認 め られ た が,い
薬 後 の 口 腔 違 和 感1例 が 認 め ら れ,臨
ず れ も重 篤 な もの で は な か っ た 。
以 上 よ り,本 剤 は 耳 鼻 咽 喉 科 領 域 感 染 症 に対 して 有 用 な 薬 剤 と考 え られ た。
Key words:
grepafloxacin,耳 鼻 咽 喉 科 領 域 感 染 症,組
Grepafloxacin (GPFX)は,大
塚 製 薬 株 式 会 社 で 開発 さ
れ た新 しい経 口用 ニ ュ ー キ ノ ロ ン系 合 成 抗 菌 薬 で1位 に
シ ク ロ プ ロ ピ ル 基,5位
に メ チ ル 基,6位
に フ ッ素 お よ
び7位 に3-メ チ ル ピ ペ ラ ジ ニ ル 基 を 有 し,本 剤 は グ ラ ム
陽性 菌,グ
ラ ム 陰性 菌 お よ び嫌 気 性 菌 に対 し て,広 範 囲
織 移 行 性,臨 床 的 検 討
同 時 に採 血 を行 っ た 。 本 剤 の 組 織 内 濃 度 お よ び血 清 中濃
度 の 測 定 はHPLC法
2.
に て検 討 した 。
成績
扁 桃 組 織9検 体 お よ び そ れ ら の 血 清7検 体 に対 し検 討
を行 っ た 。 そ の 成 績 はTable1に
示 す とお りで あ る 。Fig.
な抗 菌 ス ペ ク トラム と強 い 抗 菌 力 を有 し,殺 菌 的 に作 用
1は 投 与 後 の検 体 採 取 時 間 と血 清 中 濃 度 お よ び扁 桃 組 織
す る1司 。
内 濃 度 の 関 係 を示 した もの で あ る 。 扁 桃 組 織 内 濃 度 は,
また 体 内 動 態 で は 血 中 半 減 期 が 約10∼12時
間 と長 い
点 が 特 徴 で あ り,組 織 移 行 性 も 良 好 で,尿
か ら72時 間
まで 未 変 化 体 と して10∼12%排
復投 与 時 の
出 さ れ,反
残留 性 が認 め ら れ ない こ と も確 認 され て い る5.6)。
今 回,わ れ わ れ は 耳 鼻 咽 喉 科 領 域 の 各 種 感 染 症 を対 象
1,48∼5.37μg/g組
590%と
織 内 移 行 率(組 織/血 清)は251∼
優 れ た高 率 を得,良
II.
1.
好 な組 織 移 行 性 を示 した 。
臨 床 的 検 討
対象 お よび方法
1991年8月
か ら1994年3月
まで に鹿 児 島 大 学 耳 鼻 咽 喉
に して,本 剤 の 有 用 性 を基 礎 的,臨 床 的 に検 討 す る機 会
科 お よび そ の 関 連 施 設 を受 診 し,治 験 の 同 意 を得 られ た
を得 た の で,そ
外 耳 炎11例,急
の 成 績 を報 告 す る 。
I.
基 礎 的 検 討
鼻 腔 炎9例,慢
性 中 耳 炎1例,慢
性 副 鼻 腔 炎2例,扁
性 中 耳 炎1例,急
1. 対 象 お よ び方 法
囲 炎,顎
治 験 の 同 意 の 得 られ た5名 に 対 し,GPFXを200mg単
て 臨 床 的 検 討 を 行 っ た 。 性 別 の 内 訳 は 男 性14例,女
回経 口 投 与 後,約2∼3時
* 〒890鹿
児 島 市 桜 ヶ丘8-35-1
間 後 に 扁 桃 組 織 を摘 出 す る と
17例,年
下 腺 炎,耳
性副
桃 炎4例 お よ び扁 桃 周
下 腺 炎 各1例 の 総 数31例 を 対 象 と し
性
齢 幅 は12歳 よ り83歳 で あ っ た 。 投 与 方 法 は,
514
日本 化 学 療 法 学 会雑 誌
GPFXを1回200mgま
た は300mgを1日1回
た。 投 与 日 数 は3∼15日
,経 口投 与 し
投 与 量 は0,7∼4.59で
間 で,総
あ っ た。
ま た,各
JULY
1995
症 例 か ら検 出 さ れ た グ ラ ム 陽 性 菌26株,グ
ラ ム 陰 性 菌16株 の 計42株 の 細 菌 学 的 効 果 の 成 績 はTable
4に 示 す とお りで あ る。42株 の う ち評 価 可 能 な もの は26
臨 床 試 験 開 始 前 に ニ ュ ー キ ノ ロ ン系 抗 菌 薬 に ア レル
ギ ー の既 往 の あ る患 者,高
基 礎 疾 患,合
度 な 腎 ・肝 障 害 お よ び重 篤 な
併 症 の あ る患 者,妊
の あ る 患 者,そ
娠 中お よびその可 能性
の他 主 治 医 が 不 適 当 と判 断 した 患 者 は 対
象 か ら除 外 した 。 そ して 原 則 と して他 の 抗 菌 薬,ス
イ ド剤,消
炎 酵 素 剤,消
テロ
炎 鎮 痛 剤 な ど効 果 判 定 に影 響 を
株 で,Corynebacterium
sp,,Pseudomoms
aeruginosa各1株
を除 く全 株 が 消 失 した。
随 伴 症 状 に つ い て は 下 病1例(症 例4)お
よ び服 薬 後 の
口腔 違 和 感1例(症 例9)が 認 め ら れ た が,重
篤 な もので
は な か っ た 。 臨 床 検 査 値 異 常 変 動 に つ い て はGPTの
軽
度 上 昇 が1例 認 め ら れ た 。
与 え る可 能 性 の あ る薬 剤 の 投 与 は避 け た。 臨 床 効 果 判 定
は,自 覚 症 状,他
覚 的 所 見,細
菌 学 的 検 査 な どか ら総 合
的 に勘 案 して 主 治 医 の 判 断 に よ り,著 効,有
効,無
効,判
効,や
や有
定 不 能 の5段 階 で 評 価 し た。 投 与 前 後 に 細
菌 学 的検索 を行 ったが投与 終了時 にすで に主病巣 の炎症
が 消 失 して い る症 例 にお い て は,菌 陰 性 化 と判 断 し検 体
採 取 は 行 わ な か っ た 。 ま た 臨 床 検 査 に 関 して は可 能 な限
り実 施 す る こ と に し た。
2.
成績
耳 鼻 咽 喉 科 領 域 の 感 染 症31例 に 本 剤 を投 与 し た 治 験
成 績 はTable2-1,2-2に
示 す とお りで あ る。 ま た,各
疾 患 別 の有 効 性 はTable3に
臨 床 効 果 は著 効13例,有
3例,判
示 す とお りで あ る 。
効10例,や
や 有 効1例,無
定 不 能4例 で あ っ た 。 著 効+有
症 例27例
効 率 は,外
効1例,無
中23例 で 有 効 率 は85.2%で
効1例,判
効6例,有
定 不 能4例,急
も に 有 効,急
効3例,慢
あ っ た。 疾 患 別 有
効2例,や
や有
性 な らび に慢 性 中耳
性 副 鼻 腔 炎 で は9例 中 著
性 副 鼻 腔 炎 で は2例 と も著 効 で あ り,
扁 桃 炎 で は4例 中 著 効2例,有
効2例 で,各 疾 患 に お い て
良好 な成 績 を示 した 。 一 方,少
周 囲 炎,顎
効
効例 は判 定 可能
耳 炎 で は11例 中 著 効3例,有
炎 各1例 で は,と
種
な い症 例 で は あ るが 扁 桃
下 腺 炎 お よ び 耳 下 腺 炎 の 各1例 で は,顎 下 腺
炎 の み が 有 効 で,他
の 疾 患 は 無 効 で あ っ た。
Table
1.
Serum
and tissue
concentrations
Fig. 1.
Tissue concentration of grepafloxacin after a single
oral administration (200 mg).
of grepafloxacin
during
treatment
VOL.43
S-1
耳 鼻 咽 喉 科 領 域 に お け るgrepafloxacinの
III. 考
今 回,大
察
グ ラム
気性 菌 まで幅広 い抗菌 スペ
ク トル を有 し,殺 菌 的 に作 用 す る特 徴 を有 して い る 。
また,本 剤 を健 康 成 人 に経 口投 与 した場 合,血
度 は用 量 依 存 的 に 上 昇 し,血
漿 中濃
中 濃 度 半 減 期 は10∼12時
間 と長 く1日1回 投 与 が 可 能 で あ り,良 好 な 組 織 移 行 性
Table
515
を示す 。
塚 製 薬 株 式 会 社 で 開発 され たGPFXは
陽性 菌 か ら グ ラ ム 陰 性 菌,嫌
基 礎 的 ・臨 床 的 検 討
2-1.
Clinical results
今 回 の 組 織 移 行 性 につ い て の 検 討 で は 桶 桃 組 織 内 濃 度
はL48∼5,37μg/g,対1芯
す る 血 清 中 濃 度 は0.36∼0,98
μg/mlで あ り,組 織 移 行 率 は251∼590%と
高 率 を 示 し,
GPFXの 特 徴 で あ る 良 好 な組 織 移 行 性 を反 映 して い る も
の と思 わ れ た。
臨 床 的 検 討 で は,耳
of grepafloxacin
treatment
鼻 咽 喉 科 感 染 症31症 例 に対 し,
516
日本 化 学 療 法 学 会 雑 誌
著 効13例,有
能4例 で,有
効 率 は,外
2/2,急
効10例,や
や 有 効1例,無
効 率 は85.2%で
耳 炎 で は5/7,急
効3例,判
あ っ た 。 一 方,疾
定不
性 お よ び 慢 性 副 鼻 腔 炎11/11(100%),顎
Table
に
下腺
2-2.
Clinical results
Table
3.
1995
炎1例 が 有 効 で あ っ た 。
患 別 の有
性 お よび慢 性 中耳炎 で は
JULY
ま た,細
菌 学 的 効 果 は,検
出 され た グ ラ ム 陽 性 菌26
株 の う ち 不 明9株 を 除 きCorynebacterimsp,1株
株 が 消 失 し,グ
of grepafloxacin
Clinical efficacy
treatment
of grepafloxacin
以 外 の16
ラ ム 陰 性 菌 で は16株 が 検 出 さ れ,う
ち
VOL.
43 S-1
耳 鼻 咽 喉 科 領 域 に お け るgrepafloxacinの
Table
*
4.
Bacteriological
response
517
基 礎 的 ・臨 床 的 検 討
to grepafloxacin
(Eradicated+Exchanged)/(Eradicated+Persisted+Exchanged)
不 明7株 を除 きP。amginosal株
以 外 の8株 が 消 失 し た。
消 失 率 は全 体 で92.3%で
あ っ た 。 こ れ は,GPFXの
囲 な抗 菌 ス ペ ク トル,殺
菌 的 作 用,特
た抗 菌 力,さ
広範
に従 来 ニ ュ ー キ ノ
ロ ンの 弱 点 で あ るStreptococcus pmumonaeに
床 検 査 値 異 常 変 動 で はGPT上
3)
fluoroquinolones.
372-381,
Imada
薬後 の 口腔違
sing
られ た が,い ず れ も重 篤 な もの で は な く,臨 床 上 特 に 問
ia.
題 は な い と思 わ れ た 。
of
1) Neu H C, Fang W, Gu J and Chin N: In vitro activity of OPC-17116. Antimicrob Agents Chemother
36: 1310-1315, 1992
2) Sader H S, Erwin M E and Jones R N: In vitro
activity of OPC-17116 compared to other broad-
Akiyama
M,
vivo
Microbiol
Yamaguchi
quinolone
against
K
antibacterial
actiAntimic-
573-579,
S:
Agents
1992
Comparative
in
vivo
OPC-17116,
posses-
Gram-positive
bacter-
Chemother
Nagashima
M:
study.
H,
36:
2185•`
quinolone;
antibacterial
ICAAC,
abstract
Takiguchi
OPC-17116,
a
ICAAC,
Y
new
and
quinolone;
abstract
no.
1481,
and
Odomi
1991
Koike
OPC-17116,
and
S,
31st
October,
new
1991
new
T,
I
Chicago,
M:
Clin
1992
Phase
献
J
OPC-17116.
36:
activity
Uematsu
Nakashima
文
in
Mitsuhashi
Antimicrob
ル と強 い抗 菌 力 を有 す る 上 に,良 好 な 組 織 移 行 と安 全 性
6)
and
quinolone,
and
potent
本領 域 で検 出 さ れ る 細 菌 を広 く カバ ー す る抗 菌 ス ペ ク ト
を兼 ね備 え る 有 用 性 の 高 い 薬 剤 で あ る と考 え ら れ る。
Nishida
Chemother
H
2191,
5)
S,
vitro
new
Agents
Wakebe
In
a
activities
昇1例 が 認 め
以上 よ り,耳 鼻 咽 喉 科 感 染 症 の 治 療 にお い てGPFXは,
S:
of
rob
4)
Miyazaki
Goto
bities
Eur
1992
T,
and
in-
flnenzaeな ど に対 す る 抗 菌 活 性 が 優 れ て い る特 徴 を 反 映
した もの と考 え られ た 。
和 感1例,臨
11:
対 す る優 れ
ら にStapyylococcus aureus, Haemopmlus
安全 性 に お い て,副 作 用 は下 痢1例,服
spectrum
M,
an
Nii
S,
Ohguro
excellently
tissue-penetrative
Pharmacokinetic
profiles
activities
no.
K
of
1477,
metabolites.
Chicago,
in
animal
31st
October,
日本 化 学 療 法 学 会 雑 誌
518
Basic
and
clinical
Masaru
studies
Ohyama,
on
Shigeru
grepafloxacin
Furuta,
Tsutomu
and Kaneaki
Department
of Otolaryngology,
Department
The
usefulness
basicallly
and
1.
of
Tonsillar
and
excellent
GPFX
The
drug
was
Imakiire General Hospital
drug
GPFX
Uchizono
Kagoshima Prefectural
as
At
level
administered
in
was
The
its
patient,
was
serum
effective
4.
evaluable.
was
of
chromatography.
the
was
markedly
and
levels
were
Tokushige
and Akihiro
antimicrobial
results
Oshima Hospital
for
oral
Hokusatsu
use,
Hospital
grepafloxacin
(GPFX),
was
studied
following:
administered
2-3
hours
0.36-0.98
orally
after
pg/ml.
at
200
administration,
The
tissue
transfer
mg
were
the
tonsillar
rate
determined
by
level
was
was
high1.48•`
251-590%,
showing
results.
2.
in
serum
liquid
peg
quinolone
Miyazaki
Sakamoto
and Eiichiro
Fukami
of Otolaryngology,
The
and
performance
5.37
a new
clinically.
Yasuhiro
Kagoshima 890, Japan
of Otolaryngology,
Kouzou
Matsuzaki,
Kagoshima Prefectural
Babazono
Department
otorhinolaryngology
Haraguchi
Kunihiko
of Otolaryngology,
Makiko
in
1995
Faculty of Medicine Kagoshima University
8-35-1 Sakuragaoka,
Department
JULY
efficacy
rate
as
an
in
the
abnormal
patients
in
effective
was
was
31
effective
markedly
rate
discomfort
observed
patients,
thus
eradication
and
13
to
85.2%.
92.3%.
oral
or
10,
otorhinolaryngological
slightly
effective
cavity
after
on
clinical
23
24
was
infections.
effective
in
Bacteriologically,
Diarrhea
change
with
in
of
of
observed
administration
laboratory
the
the
as
was
tests
1,
27
26
an
ineffective
patients
strains
one
3,
results
suggest
that
the
drug
is
useful
for
infectious
diseases
in
patient.
in
the
another.
None
otorhinolaryngology.
drug
effects
reaction
Elevation
of
these
was
unevaluable
were
adverse
serious.
These
and
whom
isolated
objective
observed
in
in
in
The
were
eradicated,
in
of
reactions
one
GPT