(VZV)DNAを 用いた In Situ Hybridization法 による帯状疱疹 - J-Stage

1367
原
著
ビ オ チ ン化 水 痘 ・帯 状 痕 疹 ウイ ル ス(VZV)DNAを
In Situ Hybridization法
用いた
に よ る帯 状 疱 疹 皮 疹 部
塗 抹 標 本 のVZV
DNAの
検出
慶 大皮 膚 科,北 里 研 皮 膚科
高
橋
慎
一
北 里 大検 査 セ ン ター
和
Key words :
山
行
正
(平 成1年12月28日
受 付)
(平 成2年4月9日
受 理)
in situ hybridization,
VZV DNA, biotinylated
smear cells, Herpes zoster
要
帯 状 疱 疹 皮 疹 部 塗 抹 標 本 の ピ オ チ ン化DNAプ
DNA probe ,
旨
ロ ー ブ を 用 い たin
situ hybridization(ISH)法
の有 用
性 に つ い て 検 討 し た.
ま ず,水
疱 帯 状 疱 疹 ウ イ ル ス(VZV)お
よ る染 色 を 行 っ た.VZV感
よ び そ の 他 の ヘ ル ペ ス の 感 染 培 養 細 胞 を 基 質 と し てISH法
に
染 細 胞 の み に 染 色 が 認 め られ,他 の 感 染 細 胞 で は 全 く染 色 が 認 め られ ず ,特
異 性 の 高 い 検 査 法 で あ る こ と が 確 認 さ れ た.
次 に 北 里 研 究 所 病 院 を 受 診 した 帯 状 疱 疹 患 者19人 の 皮 疹 部 よ り塗 抹 標 本 を 作 製 し,ISH法
を施 行 し
た,19例35検
体 の うち30検 体 で 陽 性 で,特 に 水 庖 期 で は100%の 検 出 率 で あ っ た .ま た,血 疱 ・膿 疱 期,
潰 瘍 ・痂 皮 期 で は,検
体 で は,ウ
出 率 は そ れ ぞ れ75%,77.6%で
イ ル ス 分 離16検 体,ISH法18検
あ っ た.さ
体 陽 性 で,分
患 者 の 塗 抹 標 本 で は 全 検 体 で 陰 性 で あ った.本
ら に 同 時 に ウ イ ル ス分 離 を 行 った19検
離 法 に 比 して 感 度 が 高 か った .ま た,単 純 疱 疹
法 は 全 操 作 時 間1時
間 あ ま りで,簡
便 で,特
異 性,感
度
も高 く,水 疱 帯 状 疱 疹 ウ イ ル ス感 染 症 の 迅 速 診 断 法 と し て 有 用 と考 え られ た .
従 来 の ヘ ル ペ ス ウイ ル ス 感 染 症 の検 査 法 に は ウ
イ ル ス分 離,同
定 や ウイ ル ス抗 体 価 検 査 が 行 わ れ
ウイ ル ス 同 定 法 が 開 発 さ れ て きて お り,単 純 ヘ ル
ペ ス ウイ ル ス(以 下HSVと
て い るが,前 者 は 結 果 が 出 る まで 最 低 数 日か か る
オ チ ン化DNAプ
こ とや,後 者 は,初 感 染 以 外 で は 必 ず し もそ の 診
れ,そ
断 に有 用 で な い場 合 が あ り,ま た ペ ア ー血 清 の 検
略 す)で は,す で に ビ
ロ ー ブ に よ る キ ッ トも 使 用 さ
の有 用 性 も確 認 され て い る1).
また,水
痘 ・帯 状 疱 疹 ウ イ ル ス に つ い て も,最
査 で 判 定 す るた め診 断 確 定 に 時 間 が か か る とい う
近,本 藤 らは ビ オ チ ン化VZV
欠 点 が あ る.
い たISH法
近 年,塗
抹 標 本 の蛍 光 抗 体 法 やin
zation法(以
別 刷請 求 先:
下ISHと
(〒108)港
ロー ブを 用
を 応 用 し,感 染 培 養 細 胞 お よ び剖 検 固
situ hybridi-
定 標 本 を 染 色 し 良 好 な 結 果 を 得 て い る2).今 回
略 す)に よる迅 速 で 簡 便 な
我 々 は,こ れ らの 方 法 を 改 良 し,帯 状 疱 疹 患 者 の
皮 疹 の 塗 抹 標 本 に ビオ チ ン 化 したVZV
区 白金5-9-1
北 里 大 学検 査 セ ン ター
平 成2年11月20日
DNAプ
和山
行正
ロー ブを 用 いたISH法
DNAプ
を 行 な った と こ ろ,迅 速,
高橋
1368
ン100含 有PBSで
簡 便 で か つ 良 好 な 結 果 が 得 ら れ た の で 報 告 す る.
対 象
peroxidase
瘍 ・痂 皮 期9例)お
疱 ・膿 疱 期
よ び 単 純 疱 疹2例
に
カ ー ボ ナ イ トお よ びH2O2を
結
帯 状 疱 疹11例19検
肺 細 胞(以
∼7日
(1)
ウ イル ス分 離
り綿 棒 で 擦 過,培
体 に つ い て皮 膚 粘 膜 病 巣 部 よ
養 液 中 に て よ く撹 拌 後 ヒ ト胎 児
下HEL細
胞 と略 す)に
接 種 し た.3
以 上 の 継 代 培 養 を 繰 り返 し,細
変 性 効 果 の 有 無 を 確 認 し た.細
buffered
saline(以
心 後,少
下PBSと
胞
法)を
HSV,
CMV感
染HEL細
胞 の蛍 光
抗VZVモ
ノ ク ロー ナ ル 抗 体 に よ る蛍 光 抗 体 法
染 細 胞 で は一 部 の細 胞 で
一 方HSV感
た.サ
染 細 胞 で は 全 く認 め ら れ な か っ
イ ト メ ガ ロ ウ イ ル ス(以
下CMVと
略 す)
量 の
略 す)に
浮 游 さ せ ス ポ ッ ト標 本 を 無 蛍 光 ス ラ イ ドに2枚
成 し 以 下 の ウ イ ル ス 同 定(蛍
VZV,
果
緑 色 の 蛍 光 を 発 し て い た(Fig.1).
胞変性 効果の認 め
ら れ た も の は ト リ プ シ ン 処 理 し,遠
Phosphate
行 な っ
抗 体 法 お よ びISH法
の 染 色 に お い て,VZV感
毎 に 継 代 培 養 を 繰 り返 し ,早 い も の で2代,
遅 い も の で10代
加 え15分 反 応 さ せ,
洗 浄 後 対 比 染 色 と し て ラ イ ト染 色 を1分
方法
(1)
つ く っ た.
セ テ ー トバ ッ フ ァ ー に ア ミ ノ エ チ ル
た.
つ い て 以 下 の 検 索 を 行 な っ た.
2.
complexを
(HRP)のcomplexを
洗 浄 後,ア
北 里 研 究 所 病 院 を 受 診 し た 帯 状 疱 疹 患 老19例
(そ の 臨 床 病 期 の 内 訳 は 水 疱 期14例,血
12例,潰
洗 浄 後,Detection
15分 反 応 さ せ ア ビ チ ン ・ビ オ チ ン ・Horse-radish-
対 象 と方 法
1.
慎一 他
Fig. 1
作
Direct
VZV-infected
immunofluorescent
HEL
cells
staining
using
monoclonal
of
anti-
bodies.
光 抗 体 法 お よ びISH
行 な っ た.
(2) 塗 抹 標 本 の 作 製
全 例 で,水
底 を,潰
疱 ・血 疱 で は 疱 蓋 を 切 開 し そ の 水 疱
瘍 で は 潰 瘍 底 を 綿 棒 で 擦 過 し,ス
グ ラ ス 上 に 塗 抹,風
(3)
ライ ド
乾 し た.
蛍光抗体法
ア セ トン 固 定10分
後,旭
メ デ ィ カ ル の 水 痘 ・帯
状 疱 疹 ウ イ ル ス(以 下VZVと
ル 抗 体 を30分 作 用 さ せ,PBSで
略 す)モ
ノ ク ロー ナ
洗浄後 蛍光顕微鏡
で 観 察 した.
(4)
In situ hybridization法
A.
プ ロ ー ブの 作 成
Fig. 2
In
HEL cells
hyubridization
with biotinylated
of
VZV-infected
VZV DNA probe
東 京 大 学 医 科 学 研 究 所 本 藤 良 博 士 よ り供 与 され
た 水 痘 ・帯 状 疱 疹 ウ イ ル スDNA
EcoRI-B,
H断
片 の ビ オ チ ン 化 プ ロ ー ブ は,ENZO社
の タ ー ミナ
ル ラ ベ リ ン グ シ ス テ ム を 用 い3'-OH末
端 に ビオ チ
ン を 標 識 し た2).
B.
染 色
次 に 固 定 標 本 に プ ロ ー ブ を 滴 下 し,カ
ス を の せ,ヒ
熱 後,室
PBS液
バ ーグ ラ
ー テ ィ ン グ ブ ロ ッ ク 上 で92℃3分
温 で10分
静 置 し,フ
加
ォル ム ア ミ ド含 有
を の せ さ ら に10分 静 置 し た.0.1%ト
リ ト
感 染 症 学 雑誌
第64巻
第11号
塗 抹 標 本 に お け るIn
Situ Hybridization法
1369
感 染 細 胞 や ウ イル ス非 感 染 細 胞 に お い て も同 様 に
検 出 感 度 が 高 い と考 え られ た(Table1).ま
染 色 され な か った.ISH法
状 疱 疹19例35検
で は,VZV感
染細 胞 で
は 多 数 の 細 胞 に 赤 褐 色 の顆 粒 状 の 染 色 が 認 め られ
た(Fig.2).し
か しHSV感
染 色 は 全 く認 め られ ず,他
染 細 胞 で は赤 褐 色 の
のCMV感
染細胞 や ウ
イ ル ス 非 感 染 細 胞 も同 様 で あ っ た(Fig.3).
細 胞 内 に 赤 褐 色 の頼 粒 状 の 染 色 が 認 め られ る も
の は 陽 性 と した,し
か し,一 部 の症 例 で は,穎 粒
陽性 であ っ
た.一 方 単 純 疱 疹 患 者 で は 全 検 体 で 陰 性 で あ っ た .
ISH法
お よび ウイル ス 分離 と帯状 疱疹 の臨 床
病 期 と の 関 係 に つ い て,皮
期,血
(2) 帯 状 疱 疹 患 者 の 皮 疹 部 塗 抹 標 本 のISH法
体 中30検 体,85.7%に
た帯
疱 ・膿 疱 期,潰
(Table2).
ISH法
疹 の 性 状 に よ り,水
瘍 ・痂 皮 期 に わ け 集 計 し た
で は 水 疱 期 は100.0%と
出 率 が 高 く,血
疱 ・膿 疱 期 で75.0%,潰
期 で は77.8%と
検 出 率 が 低 下 し た.ま
最 も検
瘍 ・痂 皮
た,表
のよ
状 で な く,び ま ん性 に 淡 く染 色 さ れ て い た(Fig.
4).一
た.こ
方 全 く染 色 の 認 め られ な い も の は 陰 性 と し
れ らの結 果 を ま とめ る と,同 時 に ウ イル ス
Table
1
Comparison
of virus
and in situ hybridization
isolation
of VZV
with DNA probes
分 離 を 行 な った19検 体 で は 分 離 陽 性16検 体 分 離 陰
性3検
Fig. 3
体 で,ISH法18検
体 陽 性 でISH法
In situ hybridization
cells with biotinylated
はよ り
of HSV-infected
VZV DNA
HEL
probe
Table
2
Comparison
isolation
the various
Fig. 4
(1), (2) Detection
(1)
平 成2年11月20日
of VZV DNA in the smear
of the sensitivity
and hybridization
with
stage
cells by in situ hybridization
(2)
疱
VZV
of virus
DNA
in
高橋
1370
慎一 他
うに 水 疱 期 お よ び潰 瘍 ・痂 皮 期 で は ウ イル ス分 離
感 染 で は,塗 抹 標 本 で の比 較 で,有 用 性 が 確 認 さ
に比 し検 出率 が よ り高 か った.
れ て お り1),ウ イ ル ス感 染 の 診 断 に 有 力 な方 法 と
考
案
考 え られ る.今 後 こ の点 に つ い て も検 討 す る予 定
近 年,ウ イル ス感 染 症 の 診 断 や 研 究 にISH法
が
で あ る.
文
取 り入 れ られ て きて い る.当 初 は放 射 性 同 位 元 素
標 識 プ ロ ー ブ を 用 い る方 法 が 主 流 で あ った が3),
ビオ チ ン な どの 非 放 射 性 同 位 元 素 を用 い る方 法 が
開 発 され4)5),単 純 ヘ ル ペ ス ウ イ ル ス な どで は簡 便
な検 査 法 と して 応 用 さ れ て い る6).今 回 我 々 は こ
の 方 法 を 用 い て 帯 状 疱 疹 皮 疹 部 のISH法
を行
Comvirus
som-
の ヘ ル ペ ス ウイ ル
の 比 較 に お い て,今 回 用 い た プ ロー ブ
の フ ィル タ ー上 で の特 異 性 が 高 い こ とが 既 に本 藤
1985.
R., Yogo, Y., Kurata,
tured
cells
RNA
ロー ブ に
色 が 認 め られ,特 異 性 が 高 い こ とが 確 認 さ れ た.
皮 疹 部 塗 抹 標 本 のISH法
に お い て は,ウ イ ル ス
分 離 と本 法 を 比 較 す る と,本 法 は よ り感 度 高 く検
出 で きた.ま た,ISH法
お よ び ウ イル ス分 離 と も
tissue
virus
specimens
J.:
in human
265-268,
Detection
sensory
4) Langer,
P.R.,
Enzymatic
probes.
1981.
:
Novel
Proc.
5) Beckmann,
Natl.
A.M.,
A.A.
and
の こ とは,病 期 の 進 行 お よ び
lomavirus
DNA in human
本 法 は全 操 作 時 間1時 間 あ ま りで 簡 便 な方 法 で
染 症 の 迅 速 検 査 法 と して 有 用 で あ る
と考 え られ た.今
回,塗 抹 標 本 の 蛍 光 抗 体 法 と の
M. &
simplex
95 :
N.B., Fenglio,
in
situ
hybridization
probes. J. Med. Virol.,
6) Forghani,
B., Dupuis,
in human
brain
tissue
acid
affinity
D., Daling,
J.R.,
of human
J.K. :
papil-
genital
condylomas
with
bioinylated
16 : 265-273,
1985.
K.W. & Schmidt,
of herpes
J. Clih. Microbiol.,
D.C. :
polynu-
C.M. & McDougall,
localization
detection
& Ward,
Sci., 78: 6633-6637,
Myerson,
Detection
あ り,VZV感
Jpn.
Virology,
nucleic
Acad.
よ び潰 瘍 ・痂
Rapid
of herpes
of biotin-labelled
率 が 高 く,以 後 の血 疱 ・膿 疱 期,お
及 ぼ して い る可 能 性 が あ る もの と考 え られ る.
in sotu
probes.
ganglia.
Waldrop,
synthesis
cleopeptides
by
Y. :
in cul-
1979.
Kiviat,
検 体 中 の 白血 球 あ る い は 赤 血 球 が 何 ら か の影 響 を
by
using biotin-labelled
疱 疹 皮 疹 の 臨 床 病 期 に よ り,初 期 の 水 疱 期 で検 出
皮 期 で 低 下 した.こ
DNA
J. Exp. Med., 57 : 339-346,
1987.
3) Galloway,
D.A., Fenglio, C., Schevchuk,
ウ イ ル ス感 染 培 養 細 胞 のVZVDNAプ
染細胞 のみ に染
and
hybridization
Mcdougall,
行 な った が,VZV感
T. & Aoyama,
of vaicellazoster
らに よ り報 告 され て お り2),さ らに 各 種 ヘ ル ペ ス
よ るISHを
J. & Tilton,
plex virus-specific
DNA probes and monoclonal
antibodies.
J. Clin. Microbiol.,
22: 748-753,
Detection
染 色 の特 異 性 につ い て は,他
スDNAと
R.C. :
parison of the detection of herpes simplex
in direct clinical specimens
with herpes
2) Honfo,
な った.
献
1) Fung, J.C., Shanley,
simplex
virus
N.:
DNA
by in situ hybridization.
22 : 656-658,
1985.
感染 症 学 雑 誌
第64巻
比 較 は行 な っ て い な い が,単 純 ヘ ル ペ ス ウイ ル ス
第11号
塗 抹 標 本 に お け るIn
Situ
Hybridization法
1371
The Detection of VZV DNA in the Smear Cells of the Patients of Herpes Zoster
by In Situ Hybridization Using Biotinylated DNA Probe
Shin-ichi TAKAHASHI
Departmentof Dermatologyof KeioUniversitySchoolof Medicine
Sectionof Dermatologyof KitasatoInstitute Hospital
Yukimasa KAZUYAMA
Research& DevelopmentCenterof hygieneScience,Kitasato University
We performed the in situ hybridization (ISH) study of the smear cells taken from the patients of
herpes zoster. We used the biotinylated EcoRI-B,H fragment of varicella-zoster-virus (VZV)DNA as
the probe. In the control study of ISH VZV-infectedcells showed strong staining, but no staining was
observed in the infected cells by other herpes virus. We examined the smear cells of 19 patients of
herpes zoster and 2 patients of herpes simplex by ISH. 30 of the 35 specimens of herpes zoster was
positive by ISH. We detected VZV DNA in the smear cells of all cases of the bullos stage, but the
sensitivity was about 75%in the laterstage. Smear cells of herpes simplex was not stained by ISH. We
also performed virus isolation of 13 cases of herpes zoster. But the sensitivity of ISH was higher than
that of virus isolation in the other stages of herpes zoster. This method is very simple and can be
completed in about 1 hour. It also has high specificity and sensitivity. So this method is very useful for
the rapid diagnosis of VZV infection.
平成2年11月20日