新たなイノベーション政策に向けて - 特許庁技術懇話会

寄稿 2
新たなイノベーション政策に向けて
−OECD特許統計タスクフォースの取り組み−
経済協力開発機構 岡崎 輝雄
において特許政策を、科学技術指標専門家会合
(NESTI;
1. はじめに
Working Party of National Experts on Science and
特許統計は研究開発成果やイノベーション活動の
Technology Indicators)において特許指標を、バイオ
動向調査においてよく知られた指標の一つですが、
テクノロジー作業部会(WPB; Working Party on
その測定においては尽きることのない問題を抱えて
Biotechnology)において遺伝子関連特許のライセンス
います。筆者は経済開発協力機構(OECD)科学技術産
に関するガイドラインを、産業イノベーション起業委
業局に出向し、経済統計分析課のDominique Guellec
員会(CIIE; Committee on Industry, Innovation and
氏をはじめ、Colin Webb氏、Hélène Dernis氏、Maria
Entrepreneurship)において模倣品関連やソフトウェ
Pluvia Zuniga Lara氏らと議論を通じて、特許統計の
ア特許のあり方を議論しています。これらいずれの
世界に触れる機会を得ました。
テーマについても、特許統計は議論の裏付けに欠く
OECDは日本国特許庁をはじめ、欧州特許庁、米国
ことのできない要素であり、OECDの政策立案・意思
特許商標庁、世界知的所有権機関、欧州委員会、全
決定のための調査と分析において、その重要性は急
米科学財団からなる特許統計タスクフォースを設置
速に高まっています。
しています。本稿は、一次統計から加工統計に至る
各国政府の経済産業政策立案に資する指標として
まで、産業構造の変化を追跡し、経済産業政策を評
近年、存在感が大きく増している特許統計ですが、
価するために、この特許統計タスクフォースが、取
1930年代には既に複数の経済学者や社会学者によっ
り組んできた特許統計のごく一部を例示的に紹介す
て研究開発の指標として利用されてきました1)。研究
るものです。
開発統計が、旧国民所得統計(現在の国民経済計算)
OECDはフランス共和国、パリ市に本部を有する、
を基礎に1950年代から作成されたのに比べますと、
加盟先進30カ国からなる国際機関です。加盟国代表
特許統計の歴史の方がいくらか古いようです2)。
で構成される科学技術政策委員会(CSTP; Committee
ところで、特許出願数に対して、ある種の経済的な
for Scientific and Technological Policy)では、その下
価値を与え、超過利益を推定することは、技術的、商
部組織であるイノベーション・技術政策作業部会
(TIP;
業的な不確実性から未だ困難であり、その対象とする
Working Party on Innovation and Technology Policy)
産業分野をIPC等の技術情報から先験的に規定すること
1)Benoit Godin, "Measurement and Statistics on Science and Technology 1920 to the Present", p.120-137, Routledge Studies in
the History of Science, Technology and Medicine, Lighting Source UK Ltd. 112951UKS00005B/4-21, The United Kingdom,
London: Routledge, 2005
2)富澤宏之、
「科学技術指標における特許データの活用」、日本知財学会誌、第3巻第3号、p.4-16、日本知財学会、2007年
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104
2008.5.21. no.249
自体も容易ではありません。個々の技術分野の研究成
極特許庁の中で比較すると、アメリカ合衆国やEUから
果や動向調査としてだけでなく、イノベーションに関
の外国出願に比べて内国出願の割合が比較的多いよう
する指標として、特許の生み出す価値についても論ず
です。このことから、米国特許商標庁や欧州特許庁と
るのであれば、特許の実施料といった、経済的対価あ
比べ、日本国特許庁に出願される外国出願は少ないの
るいは機会収益の計測がなされなければならず、その
ではないかというような誤解を生じやすいのですが、
ような背景から経済産業政策立案の基礎資料として特
第1図の縦軸の数値を詳しく見れば、日本国特許庁は、
許統計は長らく補助的な指標として扱われてきました。
米国特許商標庁や欧州特許庁と比較して遜色ない数の
外国出願を受理していることが理解できます。そして、
て膨大な内国出願を受理していることになります。
第1図は三極特許庁別の特許出願数のトレンドを表し
日本国において内国出願数が多いという事実は、日
たものです。日本国特許庁が受理する特許出願は、三
本国から米国特許商標庁や欧州特許庁へ出される特許
Patent applications to the USPTO1
450,000
20%
World total
10%
0%
Annual growth rate
0
1991 1993 1995 1997
150,000
100,000
Japan
European Union
50,000
0
1991
-10%
2003 2005
1999 2001
United States
200,000
300,000
150,000
250,000
1993
1995
1997
1999
2001
2003
2005
Patent applications to the EPO2
150,000
25%
60,000
20%
50,000
100,000
15%
40,000
75,000
10%
30,000
5%
20,000
0%
10,000
World total
125,000
Annual growth rate
50,000
25,000
0
-5%
1991
1993
1995
1997
1999
2001
2003
2005
European Union
United States
Japan
0
1991
1993
1995
1997
1999
2001
2003
2005
Patent applications to the JPO3
500,000
World total
400,000
9%
6%
350,000
300,000
300,000
3%
200,000
200,000
0%
150,000
Annual growth rate
100,000
-3%
0
100,000
50,000
0
1991
-6%
1991
1993
1995
1997
1999
2001
2003
Japan
250,000
2005
United States
European Union
1993
1995
1997
1999
2001
2003
2005
1. Patent applications to the USPTO. Patent counts are based on the first-named inventor's country of residence and the application date.
2. Patent applications to the EPO, including Euro-Direct and Euro-PCT regional phase. Patent counts are based on the priority date, the
inventor's country of residence and fractional counts. Figures for 2004 and 2005 are estimates.
3. Patent applications to the JPO. Patent counts are based on the applicant's country of residence and the application date, fractional counts.
Figures for 2001 to 2005 are estimates based on JPO annual reports.
Sources: USPTO patent statistics reports;
OECD, Patent database, June 2007;
IIP Patent Database, 2005 and JPO annual reports.
第1図 三極特許庁別の特許出願数
(左図:総計、右図:内訳)
2008.5.21. no.249
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新たなイノベーション政策に向けて ─OECD特許統計タスクフォースの取り組み─
日本国特許庁は米国特許商標庁や欧州特許庁と比較し
2. 各国特許統計の特徴
出願数にも反映しており、米国特許商標庁は外国とし
と外国出願の割合は各特許庁によって大きく異なって
ては日本国から最も多くの特許出願を受理しており、
います。第2図に示されるように、同じ先進国でも、カ
欧州特許庁においても、締約国外としてはアメリカ合
ナダ知的財産庁の場合、内国出願数は外国出願数より
衆国に次ぐ件数の特許出願を日本国から受理していま
小さいものとなっていますし、英国知的財産庁は、内
す。第2図は特許庁別の特許出願数のトレンドを表した
国出願数と外国出願数はほぼ同程度で半々となってい
積上グラフですが、英国知的財産庁においても、アメ
ます。発展途上国のいくつかの特許庁においては、内
リカ合衆国に次ぐ件数の特許出願を日本国から受理し
国出願人の特許出願数よりも先進国である外国出願人
ていますし、中華人民共和国国家知識産権局において
からの特許出願数の方が多いことが知られています。
も、外国としては日本国から最も多くの特許出願を受
この点について、第2図で中華人民共和国国家知識産権
理しています。
局の例が示すように、自国の産業が発展し、自前の技
ところで、どの国でも自国の特許出願数が外国から
術水準が向上するにつれて当該国の内国出願数は増加
なされる特許出願数より多いわけではなく、内国出願
していくものと思われます。
CIPO, Canada1
50,000
40,000
30,000
Other countries
3,000
Germany
2,500
Germany
Sweden
1,500
United States
10,000
Other countries
2,000
Japan
20,000
0
PRH, Finland2
3,500
1,000
United States
500
Canada
0
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003
Finland
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003
INPI, France3
15,000
Other countries
12,500
United States
7,500
France
0
1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003
120,000
Other countries
12,500
10,000
7,500
5,000
2,500
80,000
Korea
Japan
60,000
Germany
40,000
United States
20,000
Japan
United Kingdom
2001
2002
Other countries
100,000
Germany
United States
2000
Germany
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004
SIPO, China5
IPO, United Kingdom
1999
Japan
10,000
2,500
1998
United States
20,000
Germany
15,000
Austria
30,000
Japan
5,000
0
Other countries
40,000
10,000
0
DPMA, Germany4
50,000
2003
0
China
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003
Notes: Patent counts are based on the priority date, the inventor's country of residence and fractional counts.
Data derive from the EPO Worldwide Statistical Patent Database(April 2007).
1. The Canadian Intellectual Property Office.
2. The National Board of Patents and Registration of Finland. 1999 figures are underestimated.
3. Institut National de la Propriété Intellectuelle. Inventors' countries of residence are based on data from INPI.
4. Deutsches Patent- und Markenamt.
5. State Intellectual Property Office of the People's Republic of China.
Sources: OECD, Patent database, June 2007.
第2図 特許庁別の特許出願数
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106
2008.5.21. no.249
の 出 願 を1つ の レ コ ー ド と 数 え、「Triadic patent
3. 国際比較(1)
families」3)と定義し、国際的に少なくとも三極特許庁
で流通する対応発明を特許出願の量的指標と捉えて
相応に反映していそうですが、単一特許庁の出願情
います。これは日本国特許庁が定義する「三極コア出
報に基づいて分析がなされる場合、国際比較上、こ
願」4)に類するものです。
の特許統計は「Home advantage bias」と呼ばれる統計
第3図 は 最 先 の 優 先 年 を2005年 と す る、
「Triadic
上の弱点を有するとされます。外国出願は内国出願
patent families」を発明者の住所国または居所国別に按
と比べてコスト面での障壁がありますから、先進国
分カウント(Fractional counts)したパイチャートです。
であれ、発展途上国であれ、内国出願人による特許
三極特許庁にファミリーを有する特許出願の国別シェ
出願数と外国出願人による特許出願数の割合は現実
アは、アメリカ合衆国居住者による発明の特許出願が
の内外の企業、大学等の研究開発活動の割合を必ず
31.0%と最も多く、日本国居住者による発明の特許出
しも反映していない可能性があります。一般に、総
願は28.8%、EU圏内居住者による発明の特許出願は
出願数において内国出願人による特許出願が占める
28.4%と続いています。なお、ここでは発明者の住所
割合は現実の国間の研究開発活動規模における割合
国または居所国ベースで特許出願を按分カウントして
から見ると多めに表れる傾向があるとされます。こ
いますが、出願人の住所国または居所国ベースでのカ
の「Home advantage bias」を排除し、複数の国の出願
ウントも可能です5)。ただし、この場合は多国籍企業
情報を同列に比較できるようにする方法として、締
の扱いについて分析上の注意が必要となります。
約国におけるPCT出願を利用する方法のほかに、ファ
ところで、技術には国籍があり、国際化、グロー
ミリー出願を利用する方法があります。
バル化が進行する一方で、他国が簡単には真似でき
OECDでは、ファミリーとして対応する発明が、三
ない文化、嗜好が存在し、それは各国の内国出願数
極特許庁のいずれにも出願されているとき、それら
にも反映されています。
「Triadic patent families」を用
United States
31.0%
European
Union
28.4%
Germany 11.9%
Other
countries
11.9%
France 4.7%
United Kingdom
3.0%
Korea 6.0%
Canada 1.6%
Netherlands
2.2%
Switzerland 1.5%
China 0.8%
Australia 0.8%
Israel 0.7%
Other countries
0.5%
Japan
28.8%
Italy 1.4%
Sweden 1.2%
Other EU
countries 4.0%
Notes: Patent counts are based on the earliest priority date, the inventor's country of residence and fractional counts.
Data mainly derive from EPO Worldwide Statistical Patent Database(April 2007).
1. Patents all applied for at the EPO, USPTO and JPO.
Sources: OECD, Patent database, June 2007.
第3図 三極特許庁にファミリーを有する特許出願の国別シェア
(2005年)
3)Dernis, H. and M. Khan, "Triadic Patent Families Methodology", STI Working Paper 2004/2, OECD, France, Paris, 2004
4)
「産業財産権の現状と課題」、特許行政年次報告書2007年版、p.71-74、特許庁
5)"Using Patent Data as Science and Technology Indicators: Patent Manual 1994", OECD, France, Paris, 1994
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新たなイノベーション政策に向けて ─OECD特許統計タスクフォースの取り組み─
特許統計は、一見、現実の研究開発活動の規模を
いて国際比較をすると、外国出願にはなりえなかっ
庁にファミリーを有する特許出願数を、発明者の住
たその国にしかない独自の技術に属する特許出願、
所国または居所国別に按分カウントし、GDP当たり
例えば、
「納豆の製造方法」、
「味噌の製造方法」といっ
で表示したものです。また、第5図は第4図のGDPに
た日本国固有の技術の発明は、数値として反映され
代えて、人口100万人当たりで表示したものです。人
ません。国際比較を行う場合、特許統計の世界では、
口や一国経済の規模を示すGDP指標との対比のもと
そのような技術の属性といったものを念頭におきな
では、特許出願数の相対的なスケールを理解するこ
がら分析することが求められています。
とができると考えられます。
2005年については、日本国でなされた発明の特許
出願数は、他国のそれと比較してGDP当たりの三極
4. 国際比較
(2)
ファミリー出願ベースでも、人口当たりの三極ファ
第4図は最先の優先年が2005年であって、三極特許
ミリー出願ベースでも、最多となっています。この
1995
5
4
3
2
1
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Sw
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Ja
pa
n
0
Notes: Patent counts are based on the earliest priority date, the inventor's country of residence and fractional counts.
Data mainly derive from EPO Worldwide Statistical Patent Database(April 2007).
1. Patents all applied for at the EPO, USPTO and JPO. Figures for 2005 are estimates.
Only countries/economies with more than 20 families in 2005 are included.
2. Gross domestic product(GDP), billion 2000 USD using purchasing power parities.
Sources: OECD, Patent database, June 2007.
第4図 三極特許庁にファミリーを有する特許出願数:GDP当たり
(2005年)
1995
125
100
75
50
25
0
i
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Un
i
r
a
C
Eu
ssi
Un
Ru
Notes: Patent counts are based on the earliest priority date, the inventor's country of residence and fractional counts.
Data mainly derive from EPO Worldwide Statistical Patent Database(April 2007).
1. Patents all applied for at the EPO, USPTO and JPO. Figures for 2005 are estimates.
Only countries/economies with more than 20 families in 2005 are included.
Sources: OECD, Patent database, June 2007.
第5図 三極特許庁にファミリーを有する特許出願数:人口100万人当たり
(2005年)
tokugikon
108
2008.5.21. no.249
おいては、研究開発や企業活動の国際展開といった
あるとの分析、これは言い換えますと、国の規模と比
動きも測定される必要があります。
べて研究開発が盛んな国である ことの示唆となりえま
A国の特許庁に対してA国居住者がした発明をB国
す。国の規模と比較して日本国の特許出願数が多いの
に所在する出願人(譲受人)が特許出願する場合、発
は事実であり、他の先進国と比べて特に製造業に重き
明者ベースでカウントすればA国の内国出願となりえ
をおく技術立国であるからこそ、特許出願数が多いと
ますが、出願人ベースでカウントすればB国からA国
捉えるのが一般的であるかもしれません。他方、日本
特許庁への外国出願となります。このような例は、
国は国の規模と比較して、特許出願を通して技術開示
日本国においては稀なケースと捉えられがちですが、
しすぎであり、もっと営業秘密とすべきであった発明
多国籍企業を中心に研究開発活動の国際化、グロー
が多いのかもしれない、また、付加価値の比較的少な
バル化は急速に進んでいます。
い小発明が多いのではないか、との否定的な意見もあ
第6図は、出願人の所在地と発明者の居住地の情報
りえます。さらに、第4図、第5図で、2005年について
から、欧州特許庁における2001年から2003年までの
は日本国に次ぐ国であり、1995年については日本国よ
特許出願で、当該国の居住者によってなされた発明
りも高い値を示すスイス連邦との共通点は何なのか、
のうち、どの程度、外国の出願人(譲受人)によって
といった別の視点も生まれてきます。ここではその根
出願されているかをグラフ化したものです。横軸は
拠となる特許統計を持ち合わせていません。しかし、
発明がなされた国名を表し、縦軸はその国でなされ
いずれにしても、特許統計はある種の議論のきっかけ
た発明のうち、他国出願人によって出願される割合
を提供し、その分析に対してはその後の理論的な裏付
を見たものです。日本国内でなされた発明のうち、
けを要求されることになります。
日本国外に所在する出願人によって欧州特許庁に出
6)
願されるケースは他国のそれと比較すると最小と
5. 研究開発や企業活動の国際指標
なっています。これに対してロシア連邦、ルクセン
ブルク大公国、ハンガリー共和国、シンガポール共
特許統計における国レベルの横断的な比較議論に
%
60
和国といった国では、それらの国でなされた発明の
63.3 62.2
1991-1993
40
20
0
s
il
y
y es
k
y
a
a
a
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n ei ly
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L
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Cz
E
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Un
Ru
Note: Patent counts are based on the priority date, the inventor's country of residence, using simple counts.
The EU is treated as one country; intra-EU co-operation is excluded.
This graph only covers countries/economies with more than 300 EPO applications over 2001-2003.
1. Share of patent applications to the EPO owned by foreign residents in total patents invented domestically.
Sources: OECD, Patent database, June 2007.
第6図 国内発明が他国出願人(譲受人)
によって特許出願された割合
(欧州特許庁2001−2003年)
6)OECD Observer 2006/Supplement 1, "OECD in Figures 2006-2007", OECD, France, Paris, 2006
http://dx.doi.org/10.1787/343068067421
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109
tokugikon
新たなイノベーション政策に向けて ─OECD特許統計タスクフォースの取り組み─
ことは、日本国は国の規模と比べて発明が盛んな国で
うち、半分以上は外国に所在する出願人によって欧
同様に第7図から、日本国に所在する出願人につい
州特許庁に出願されています。
ては、シェアから見ると、特にシンガポール共和国や、
第7図はより詳細に他国出願人(譲受人)の分布を
ポーランド共和国、台湾、アメリカ合衆国、大韓民
EU、日本国、アメリカ合衆国、その他で表した100%
国でなされた発明を欧州特許庁に出願しているよう
積上グラフです。欧州特許庁への出願ですから、EU
です。また、中華人民共和国でなされた発明につい
に所在する出願人が多くのシェアを占めるのは
ては、EU、アメリカ合衆国、その他の国に所在する
「Home advantage bias」を考慮すると明らかです
出願人のシェアに押されて、日本国に所在する出願
が、アメリカ合衆国に所在する出願人のシェアも比
人のシェアは少ないようです。
較的多いようです。実際、アメリカ合衆国に所在す
ここで紹介した多国籍企業の企業活動を背景とした
る出願人は、ここに挙げた全ての国でなされた発明
国と国との結びつきは、所謂 Cross-border ownership
を相当程度のシェアで欧州特許庁に出願しており、
と呼ばれるもので、欧州特許庁への出願数を基にし
特にルクセンブルク大公国、カナダ、インド、イス
たものだけでなく、米国特許商標庁への出願数を基
ラエル国でなされた発明を欧州特許庁に出願してい
にした特許統計からも同様の傾向が得られています
る傾向にあります。一方、オーストリア共和国でな
7)
された発明については、EUのシェアに押されて、ア
ており、それを示す指標は特許統計に限らず、国際
メリカ合衆国に所在する出願人のシェアは少ないよ
共著論文、技術貿易、ハイテク製品貿易といった様々
うです。
なデータからも検証されています8)。
100%
European Union
Japan
。国境を越える研究開発活動は、ますます盛んになっ
United States
Other countries
80%
60%
40%
20%
0%
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Note: Patent counts are based on the priority date, the inventor's country of residence, using simple counts.
The EU is treated as one country; intra-EU co-operation is excluded.
This graph only covers countries/economies with more than 300 EPO applications over 2001-2003.
1. Share of patent applications to the EPO owned by foreign residents in total patents invented domestically.
Sources: OECD, Patent database, June 2007.
第7図 国内発明が他国出願人
(譲受人)
によって特許出願された割合
(欧州特許庁2001−2003年、EU、日本国、アメリカ合衆国、その他の出願人の内訳)
7)Guellec D. and B. van Pottelsberghe, "The internationalisation of technology analysed with patent data", Research Policy, vol.
30, issue 8, p.1253-1266, 2001
8)
「科学技術指標−日本の科学技術の体系的分析−」
、平成16年度版、文部科学省科学技術政策研究所科学技術指標プロジェクト
チーム編、ISBN-4-17-152209-9、2004年4月
http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/rep073j/html/rep073j.html
tokugikon
110
2008.5.21. no.249
らの研究効率が優れているか知ることはできません。
6. 他の指標との比較
生産している商品の種類が異なれば必要な研究開発
費、特許出願数も異なるでしょうし、産業分野が相違
めの基本的なツールであり、OECDにおいても研究開
する場合、研究開発費と特許出願数のみから研究開発
発統計の標準的な体系をFrascati manualとして取り
の効率性を比較することは難しいでしょう。
まとめ、国際的な調和をはかってきました。各国政
上記の観点から同じ産業分類を用いれば国際比較
府もこのマニュアルに準拠してデータを蒐集してい
は可能でしょうか。
ます。冒頭で紹介したように、特許統計は研究開発
同じ産業分類に属する分野であっても、研究開発
統計に比べて歴史自体は古いのですが、世界的に研
の効率性を特許出願数と研究開発費との関係で国際
究開発統計の利用が特許統計の利用よりも先行して
間で比較することは、時として困難を伴います。な
いて、研究開発統計を補完する統計がほしいという
ぜなら、機能性繊維がハイテク産業と位置づけられ
のがOECDにおいて特許統計の開発が始まったきっ
る一方で、生糸といった伝統的な産業がローテク産
かけです。本稿では最後に、産業分類別に研究開発
業として位置づけられているように、同じ産業分類
費と特許出願数を比較した例を紹介します。
に属していても、ハイテク製品、ローテク製品が混
第8図から第10図は、それぞれ、アメリカ合衆国、
在しており、最終製品の質のレベルが国によって異
日本国、ドイツ連邦共和国居住者による発明のPCT
なる場合があるからです。
出願数と研究開発費を産業分類別に比較した散布図
研究開発費当たりの特許出願数の大小のみを比較
です。PCT出願数については、技術分類であるIPC
しても、特許出願数の経済的な効果が評価されなけ
を 国 際 標 準 産 業 分 類(International Standard
れば、その産業分野に対して妥当な研究開発費が投
Industrial Classification, ISIC)に準じた産業分類に
入されているか否かを判断することはできません。
変換しています。IPCと産業分類との関係を記述する
したがって、第8図から第10図はあくまでも出発点
対応表はOECDをはじめ、世界各国で研究がなされて
であり、他の様々な分析を通して底の深い議論が必
いますが
要であると思われます。
、本稿ではそれについての説明を割愛し
9)10)
ます。
第8図から第10図によれば、例えば、薬品分野は研
7. 結びとして
究開発費も多く、特許出願数も比較的多いようです。
研究開発費と特許出願数には相関があり、研究開
OECDは、甘利経済産業大臣をはじめ各国大臣の付
発費が多いほど、その成果とされる特許出願数も多
託を受けて、今後2、3年間かけてイノベーション戦
い、そういった印象から、研究開発費が多いのにそ
略プロジェクトを実施する予定です。こうした中で、
れに見合うだけの特許出願数がない産業分野は、過
特許統計は、特許と企業業績/生産性のミクロ分析、
剰な研究開発費が投入されている、と考えるのは妥
発明者や出願人の住所情報を活用したイノベーショ
当でしょうか。 ン集積/分布に関する空間経済分析、引用文献情報
例えば、文科系と理科系の学問分野で、双方から発
を用いた技術連関分析など、イノベーション分析の
表される論文総数を研究費当たりで比較しても、どち
鍵を握っています。
9)"The OECD Technology Concordance(OTC): Patents by Industry of Manufacture and Sector of use", STI Working Paper
2005/5, Daniel K. N. Johnson, 2002
http://www.wellesley.edu/Economics/johnson/oecd_wp2002-05.pdf
10)"Linking Technology Areas to Industrial Sectors" Final Report to the European Commission, DG Research; Ulrich Scmoch,
Françoise Laville, Pari Patel and Rainer Frietsch; Karlsruhe, Paris, Brighton, November 2003
http://www.isi.fraunhofer.de/p/Projektbeschreibungen/us-development_Concordance_e.htm
2008.5.21. no.249
111
tokugikon
新たなイノベーション政策に向けて ─OECD特許統計タスクフォースの取り組み─
研究開発指標は科学技術に関する統計的理解のた
10,240
OFFICE, ACCOUNTING AND
COMPUTING MACHINERY
ELECTRICAL MACHINERY AND APPARATUS, NEC
2,560
Number of PCT applications
PHARMACEUTICALS
CHEMICALS EXCLUDING PHARMACEUTICALS
5,120
MACHINERY AND EQUIPMENT, N.E.C.
BASIC METALS AND
FABRICATED METAL PRODUCTS
1,280
MOTOR VEHICLES, TRAILERS
AND SEMI-TRAILERS
FOOD PRODUCTS,
BEVERAGES AND TOBACCO
OTHER TRANSPORT
EQUIPMENT
COKE, REFINED PETROLEUM
PRODUCTS AND NUCLEAR FUEL
640
OTHER NON-METALLIC MINERAL PRODUCTS
320
RUBBER AND PLASTICS PRODUCTS
TEXTILES, TEXTILE PRODUCTS, LEATHER
AND FOOTWEAR
160
PRINTING AND PUBLISHING
80
40
20
25
125
625
3,125
15,625
R&D Expenditure
[ Million PPP USD]
第8図 アメリカ合衆国居住者による発明のPCT出願数と同国の研究開発費
(2003年)
10,240
RADIO, TELEVISION AND
COMMUNICATION EQUIPMENT
5,120
Number of PCT applications
OFFICE, ACCOUNTING AND
COMPUTING MACHINERY
CHEMICALS EXCLUDING PHARMACEUTICALS
2,560
PHARMACEUTICALS
1,280
MACHINERY AND EQUIPMENT,N.E.C.
640
OTHER TRANSPORT
EQUIPMENT
COKE, REFINED PETROLEUM
PRODUCTS AND NUCLEAR FUEL
320
MOTOR VEHICLES,
TRAILERS AND SEMI-TRAILERS
BASIC METALS AND FABRICATED METAL PRODUCTS
FOOD PRODUCTS, BEVERAGES AND TOBACCO
160
OTHER NON-METALLIC MINERAL
PRODUCTS
TEXTILES, TEXTILE PRODUCTS,
LEATHER AND FOOTWEAR
80
ELECTRICAL MACHINERY
AND APPARATUS, NEC
40
RUBBER AND PLASTICS PRODUCTS
PRINTING AND PUBLISHING
20
25
125
625
3,125
15,625
[ Million PPP USD]
R&D Expenditure
第9図 日本国居住者による発明のPCT出願数と同国の研究開発費
(2003年)
10,240
5,120
Number of PCT applications
2,560
CHEMICALS EXCLUDING
PHARMACEUTICALS
OFFICE, ACCOUNTING AND
COMPUTING MACHINERY
1,280
PHARMACEUTICALS
ELECTRICAL MACHINERY AND APPARATUS, NEC
640
BASIC METALS AND FABRICATED METAL PRODUCTS
320
80
OTHER NON-METALLIC MINERAL
PRODUCTS
40
MACHINERY AND EQUIPMENT,N.E.C.
RADIO, TELEVISION AND
COMMUNICATION EQUIPMENT
OTHER TRANSPORT EQUIPMENT
FOOD PRODUCTS, BEVERAGES AND TOBACCO
COKE, REFINED PETROLEUM
PRODUCTS AND NUCLEAR FUEL
160
MOTOR VEHICLES, TRAILERS
AND SEMI-TRAILERS
RUBBER AND PLASTICS PRODUCTS
TEXTILES, TEXTILE PRODUCTS,
LEATHER AND FOOTWEAR
PRINTING AND PUBLISHING
20
25
125
625
3,125
R&D Expenditure
15,625
[ Million PPP USD]
第10図 ドイツ連邦共和国居住者による発明のPCT出願数と同国の研究開発費
(2003年)
Sources: OECD, Patent database, June 2007 OECD, ANBERD database, June 2006.
tokugikon
112
2008.5.21. no.249
OECDの特許統計タスクフォースの取り組みに対
profile
して、日本国特許庁は企画調査課を中心に、普及支
援課、国際課の支援のもと、強いリーダーシップを
発揮してきました。この分野のOECDの活動は特許指
標の質の向上に限られるものではなく、測定のため
のメソドロジーや諸概念の構築、さらには体系的な
データベースの構築が挙げられます。
ここで紹介した特許統計データはOECDによって
らは理論的あるいは実証的な課題を残しながらも、
比較的議論が収束しているものです。本稿において
は、法律的、経済的、統計的な正確さ、厳密さより
もわかりやすさを重視し、またOECDや日本国特許庁
としての見解を示したものではありません。記事に
含まれるであろう誤りは私個人の責任であり、何ら
かの有益な情報が含まれているとすれば、それはご
指導いただいた多くの方々によるものであることを
申し添えて結びといたします。
(ご意見・ご質問は下記までお願いいたします)
岡崎 輝雄
電子メール:[email protected]
てるお)
【経歴】
平成9年4月
特許庁入庁
(審査第二部建築)
平成13年4月 審査官
(特許審査第一部ナノ物理)
平成15年8月独立行政法人国際協力機構(JICA)経済開
発部出向
平成17年8月 審査官
(特許審査第一部ナノ物理)
平成18年6月経済協力開発機構(OECD)科学技術産業局
出向
【著書】
CAPTURING NANOTECHNOLOGY'S CURRENT STATE
OF DEVELOPMENT VIA ANALYSIS OF PATENTS
OECD STI WORKING PAPER 2007/4
Statistical Analysis of Science, Technology and Industry
Masatsura Igami and Teruo Okazaki
JT03227650
http://www.OECD.org/dataOECD/6/9/38780655.pdf
OECD Science, Technology and Industry Scoreboard 2007
Economic Analysis and Statistics Division(EAS)of the
OECD Directorate for Science, Technology and Industry
(DSTI)
共著
ISBN 978-92-64-03788-5
http://caliban.sourceOECD.org/vl=12746996/cl=19/nw=1/
rpsv/sti2007/foreword.htm
Compendium of Patent Statistics 2007
Economic Analysis and Statistics Division(EAS)of the
OECD Directorate for Science, Technology and Industry
(DSTI)
共著
http://www.OECD.org/dataOECD/5/19/37569377.pdf
2008.5.21. no.249
113
tokugikon
新たなイノベーション政策に向けて ─OECD特許統計タスクフォースの取り組み─
整備されたフレームワークに則して収集され、これ
岡崎 輝雄(おかざき