Xantphos 部位が結合したカリックスホスフィン配位子の合成

Xantphos 部位が結合したカリックスホスフィン配位子の合成
日大生産工 (院)
日大生産工
1. 緒言
○高橋 伸夫
清水 正一・白川 誠司
り返し使用することも可能であった。しかし,反応は
遷移金属錯体触媒反応は工業的に有用な化合物の製
円滑に進行するものの生成物の位置選択性は低かった。
造プロセスにも数多く用いられている。中でもヒドロ
したがって,工業的により有用な直鎖アルデヒドを得
ホルミル化反応は,最も大規模に行なわれているプロ
るためには,配位子デザインの見直しが必要である。
セスの一つで,プロペンからブタナールを毎年約 700
近年,van Leeuwen らは高い位置選択性を示す配位子
万 t 以上製造している。しかし,遷移金属触媒は非常に
としてキサンテン骨格を有する二座ホスフィン配位子
高価であるため,その回収・再利用が容易な反応プロ
を報告している 3。中でも Xantphos と呼ばれる二座ホス
セスが必須である。有機相と相溶性を示さない液相に
フィン配位子は,スルホナト基を導入して 1-ヘキセン
遷移金属触媒を固定化した二相系ヒドロホルミル化反
の水相−有機相二相系ヒドロホルミル化反応へ応用し
応では,反応後の生成物と触媒の分離が容易で,回収
ても高い位置選択性を保持することが報告されている 4。
した触媒相をそのまま再使用することができることか
これらの知見をもとに本研究では,従来の優れた逆
ら,この二相系反応が注目されている。これまでに,
相間移動触媒能を保持したまま,高い位置選択性を示
水やイオン液体,フルオラス溶媒に遷移金属錯体を固
す水溶性カリックスホスフィン配位子の開発を目的と
定化した二相系ヒドロホルミル化反応が報告されてい
し,カリックスホスフィンに Xantphos 部位を結合させ
る。中でも水を媒体とした水相−有機相二相系ヒドロホ
た水溶性カリックスホスフィン配位子 1a および 1b を
ルミル化反応がRhône-Poulencプロセスとして実用化さ
デザインした(Figure 1)。今回,この Xantphos を結合さ
れている 。このプロセスでは,水溶性のトリフェニル
せたカリックスホスフィン配位子の新しい経路での合
ホスフィントリスルホナト(TPPTS)を配位子として用
成を試みたのでその結果を報告する。
1
いているため,これを配位子とするロジウム錯体触媒
NaO3S
は水相に固定化される。したがって,反応は水相中で
SO3Na
NaO3S
進行し,反応の進行とともに生成するアルデヒドは有
P
P
SO3Na
NaO3S
機相として二相を形成することになる。また,有機相
への触媒のリーチングがほとんどないため,環境調和
!
型の反応プロセスとしても取り上げられることも多い。
NaO3S
しかし,高級オレフィンは水への溶解性が乏しいため,
n
SO3Na
NaO3S SO3Na
SO3Na
NaO3S
適用できるオレフィンには限界がある。
そこで我々はこの水相−有機相二相系プロセスでの
HO HO OH OH
オレフィンの適用範囲を拡げるため,逆相間移動触媒
1a-SO3Na: n = 1
1b-SO3Na: n = 2
として機能する水溶性カリックス[4]アレーンを配位子
FIGURE 1. Novel Water-Soluble Calixphosphine.
として用いる方法を開発した 2。このカリックス[4]アレ
ーンの wide rim の distal 位にはジフェニルホスフィノ基
SO3Na
O
2. 実験
が導入されているため,これを Rh 錯体の配位子として
FIGURE 1 に示した目的化合物を合成する経路とし
用いると wide rim 側に疎水性空孔が形成されると考え
て,まずカリックス[4]アレーン部位と Xantphos 部位を
られる。この空孔が逆相間移動触媒能に寄与し,その
別々に合成し,その後両者を環状に結合させることに
結果として 1-オクテンの水相-有機相二相系ヒドロホル
した (Scheme 1)。
ミル化反応において,非常に高い活性を示した。さら
カリックス[4]アレーン部位は,
既知化合物22 から1,4-
には触媒の有機相へのリーチングがほぼないため,繰
ジブロモベンゼンとの Suzuki-Miyaura クロスカップリ
Synthesis of Calixphosphine Ligand Bearing Xantphos Moiety
Nobuo TAKAHASHI, Shoichi SHIMIZU and Seiji SHIRAKAWA
Scheme 1a
(c)
O
Br
O
(e)
(d)
Ph P
O
O
Ph P
Br
5
P Ph
OEt
O
OEt
P
Br
6
Br
Br
(f)
P Ph
P
Br
7
Br
Br
CHO
Br
Br
OH
Br
(a)
(b)
BnO BnO OBnOBn
BnO BnO OBnOBn
BnO BnO OBnOBn
4
2
3
8
aReagent and Condition: (a) 1) n-BuLi, B(OMe) , THF, -78 ˚C; 2) 1,4-Dibromobenzene, Pd(PPh ) , 2M Na CO , Benzene; (b) n-BuLi/Pentane, DMF, THF, -78 ˚C; (c) 1)
3
3 4
2
3
sec-BuLi, TMEDA, Et2O, -78 ˚C to rt; 2) Br2/Pentane, -78 ˚C to rt; (d) n-BuLi, PPh(OEt)Cl, THF, -78 ˚C to rt; (e) p-BrPhLi, -95 ˚C to rt; (f) n-BuLi/Pentane, THF, !78 ˚C.
BnO BnO OBnOBn
ング反応 (3, 79%),続いてモノリチオ化,次いで DMF
S)の二つのジアステレオマーとして存在していること
によるホルミル化 (4, 57%)を経て合成した。
に起因する。
また,
Xantphos 部位は 9,9-ジメチルキサンテンを出発
8 の 1H NMR スペクトルにおいて,1.63 ppm に
原料に,ジ臭素化 (5, 84%),続いてジリチオ化,そし
Xantphos 部位の 9,9-ジメチル基に帰属されるシグナル,
てクロロエチルフェニルホスフィナイトとの求核置換
2.99 – 2.94 ppm および 4.25 – 4.20 ppm にカリックス[4]
反応,さらに 4-ブロモフェニルリチウムによる求核置
アレーンのメチレン架橋に帰属されるシグナルが確認
換反応 (7, 50%)を経て合成した。
された。加えて,5.87 – 5.78 ppm に Xantphos 部位とカ
このようにして得られた 7 をモノリチオ化し,4 へ
リックス[4]アレーン部位を繋ぐメチン基 CH に帰属さ
の求核付加反応によりカリックス[4]アレーン部位と
れるシグナルが確認できた。また,IR スペクトルにお
Xantphos 部位の片側が結合したカリックスホスフィン
いて,
3401 cm-1 に OH に帰属される吸収が確認できた。
8 (50%)を得た。
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8: H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ5.89–5.83 (m, 1H)
シグナルが確認できた。以上のことから,Xantphos 部
4.99–4.87 (m, 8H) 4.25–4.21 (m, 4H) 2.99–2.94 (m, 4H)
位がカリックス[4]アレーン部位に結合したカリックス
1.66–1.62 (m, 6H); P NMR (CDCl3, 162 MHz)δ −17.4 –
ホスフィン 8 であることが確かめられた。
P NMR スペクトルにおいては,−17.4 ~ −18.3 ppm に
1
31
−18.3; IR (KBr) 3401 cm-1.
3. 結果および考察
これまで,Xantphos 部位を架橋させた環状化合物を
得るため,1 段階での合成を試みていたが,生成物を単
4 の H NMR スペクトルにはメチレン架橋に帰属さ
離するまでには至らなかった。今回 8 の合成と単離に
れるシグナルが 4.24 ppm (d, J = 13.5 Hz, 2H), 4.23 ppm (d,
成功したことにより,これまでの 1 段階での合成より
J = 13.5 Hz, 2H)と 2.98 ppm (d, J = 13.6 Hz, 2H), 2.97 ppm
も容易に環状化合物を得ることができるものと期待さ
(d, J = 13.6 Hz, 2H)にそれぞれ 2 組の二重線で現れてい
れる。
る。これは 2 種類のメチレン架橋があることを示して
4. 参考文献
いる。さらに 9.95 ppm (s, 1H)にホルミル基に帰属され
1) Kuntz, E. G. CHEMITECH 1987, 570–575.
るシグナルが現れていることから 4 と同定された。
2) Shimizu, S.; Shirakawa, S.; Sasaki, Y.; Hirai, C. Angew.
1
一方,7 の 1H NMR スペクトルには 1.62 ppm (s, 6H)
Chem. Int. Ed. 2000, 39, 1256–1259.
に 9,9-ジメチル基に帰属されるシグナルが確認できた。
3) van der Veen, L. A.; Keeven, P. H.; Schoemaker, G. C.;
加えて P NMR スペクトルには-17.7 ppm および-17.9
Reek, J. N. H.; Kamer, P. C. J.; van Leeuven, P. W. N. M.;
ppm に 2 本のシグナルが確認できたことから 7 と同定
Lutz, M.; Spek, A. L. Organometallics 2000, 19, 872–883.
した。これは,7 のリン原子にはキラリティーがあり,
4) van Leeuven, P. W. N. M.; Goedheijt, M. S.; Kamer, P. C.
メソ化合物(R, S)と1 組のエナンチオマー(R, R)および(S,
J. J. Mol. Catal. A: Chem. 1998, 134, 243–249.
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