【血液科・小児科】 理事長 / 血液科部長 / 小児科部長 花房秀次 1.はじめに 血液科は我が国最大の血友病センターとして活動しており、約 5000 名の全国の血友病患 者さんのうち 680 名を超える患者さんが今までに登録されています。小児から高齢者まで 全ての年齢層の診療にあたり、毎年 20~30 名ずつ増加しています。その他にも後天性血友 病やフォンヴィレブランド病、第Ⅶ因子欠乏症、第Ⅹ因子欠乏症など多くの出血性疾患の 方々の診療を行っています。血友病の患者さんが抱えている問題は世代によって大きく異 なり、個々の課題に応じた包括的診療を提供する必要があります。成人では薬害エイズが 最も深刻な問題でしたが、エイズ診療の進歩によって生命予後が飛躍的に改善されてきて います。同じ薬害エイズでも海外先進国の死亡率が 2000 年初期までに 60%を超えている のに比較して我が国の死亡率は 2009 年は 45.1%で、当院の血友病 HIV 感染者の死亡率は 2010 年までで 35.3%と大変低く維持されています。一方、血友病の C 型肝炎が大変大きな 問題になってきています。C型肝炎は感染して 20 年たつと約 20%が肝硬変になり、30 年 たつと肝臓がんが増加してきます。非加熱製剤を使用した患者さんの約 40%が HIV に感染 しましたが、C型肝炎ウィルスには 90%以上の方が感染しています。C型肝炎は HIV 感染 症を合併していると免疫の低下により肝炎の進行が急速になることが判明しています。そ のためC型肝炎の進行に伴う、食道静脈瘤、肝臓がんなどの対応を求められており、多く の患者さんが紹介されて相談に来られます。血友病患者の長期生存が期待されると主に高 齢化問題も深刻になりつつありソーシャルワーカーとの相談も増えています。 最近の血友病診療では凝固因子製剤を定期的に投与することにより出血を予防するこが 可能になってきています。血友病の子どもたちは日常生活で出血することも少なくなり、 運動制限なども必要なくなってきています。成人でも出血回数を減らすことが可能になり つつあります。凝固因子製剤の開発も進み、長時間作用型製剤も研究され、今後我が国で も海外とともに臨床試験が実施されています。血友病 B 患者の長時間作用型第Ⅸ因子製剤 は1回の投与で効果が 10 日から 7 日以上続いています。国内外の専門家との交流を深め、 血友病の最先端医療を導入するためにスタッフは国内や海外の研究会にも積極的に参加し ています。 また、HIV 感染者の診療や研究にも積極的に取り組んでいます。HIV 感染者の生殖補助 医療は慶應義塾大学微生物教室や慶應産婦人科、新潟大学産婦人科などと共同研究を行っ ており、日本全国だけでなく海外からも希望者が訪れています。HIV 感染症が死の病でな くなりつつあり、HIV 感染者の長期生存が可能になり、普通に結婚して子どもを持ちたい と願うようになってきました。しかし、一方では HIV に感染して免疫が低下すると薬剤内 服を開始しますが、現段階では HIV を胎内から完全に排除できず一生内服を続ける必要が あります。長期内服に伴う副作用が問題で、脳心血管障害や糖尿病、脂質代謝異常などへ の取り組みも必要です。HIV 感染症は aging の問題を抱えており、アンチエイジングにも 取り組んでいく必要があります。我々は母子感染を可能な限り低く抑えるために安全な生 殖補助医療の研究と臨床実施を提供しています。 また、C型肝炎の先端医療も実施しています。当科ではC型肝炎患者さんへの IFN 治療 を 1992 年から積極的に導入しています。C型肝炎の治療は PEG IFN とリバビリンの併用 療法が主流ですが、1 型 HCV には効果が乏しく、HIV 感染者にも有効性が低く問題となっ ています。C型肝炎にもB型肝炎にもエイズの治療薬を応用した薬剤が取り入れられるよ うになってきました。今後はC型肝炎の治療もプロテアーゼ阻害剤やその他の内服剤が多 く開発され治療成績が向上することが期待されています。エイズ診療を応用して肝炎の治 療研究にも取り組んでいきたいと考えています。 血友病診療において数少ない専門医やスタッフを集約するセンター化構想やネットワー ク構想が議論されています。我が国の医療体制につきましても今後議論を重ねていきたい と思います。 我々は最先端医療に取り組むとともに、最新情報を患者さん全員に提供し、よりよい医 療体制を構築したいと考えています。 2.人員 花房秀次 慶應義塾大学医学部客員教授 厚生労省エイズ対策研究事業 「エイズ治療薬研究班」 班員 「安全な生殖補助医療を行うための精液よりの HIV ウィルス分離法の確立」に 関する研究班 班員 東京 HIV 診療ネットワーク幹事 東京都歯科診療協議会委員 血栓止血学会標準化委員会 委員 「血友病センター化に向けた作業グループ」委員 川崎洋子 日本小児科学会専門医 松田文子 日本小児科学会専門医 長尾 梓 後期研修医 小島賢一 カウンセラー 日本エイズ学会 学会誌編集委員 血栓止血学会「血友病センター化に向けた作業グループ」メンバー 看護師(ナースコーディネーター) 非常勤医師 和田育子 石倉美緒 竹谷英之 (血友病関節外来) 木見谷哲史(小児神経外来) 小児心臓外来 非常勤カウンセラー 植木田潤
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