安藤建設技術研究所報 Vol.11 2005 電磁シールドルームの製作と性能評価 宮川 忠明* 安部 弘康** 木田 寛治* Introduction to the Electromagnetic Shielding Enclosure by Tadaaki MIYAGAWA, Hiroyasu ABE and Kanji KIDA Abstract The electromagnetic shielding enclosure was assembled in the research center; equipment to measure the electromagnetic shielding effectiveness of the building material. As for the features of this room, electroconductive material is used for the wall, ceiling, and floor. Taking account of the development of the electromagnetic shielding material with a shielding effectiveness of 80dB-90dB, the design target value of the electromagnetic shielding effectiveness of this room was set to 100dB. We confirmed that the electromagnetic shielding effectiveness of this room successfully cleared this design target value. 要 旨 当社技術研究所環境棟内に電磁シールドルームを製作した。電磁シールドルームとは,各種 建築材料の電磁シールド性能を把握するために必要となる測定施設で,壁,天井,床を導電性 材料を用いて構成し,換気口やシールド壁を貫通する電源線,信号線にもシールド対策を施し た部屋である。本電磁シールドルームの性能は,80dB~90dB の高性能シールド材の開発を視野 に入れ,設計目標値 100dB(30MHz~3GHz)とした。製作後に行った本電磁シールドルームの 性能評価において,設計目標値であるシールド性能が得られたことを確認した。 キーワード:電磁シールドルーム/電磁シールド性能/挿入損失法 1.はじめに 電磁波による電子機器の誤作動,無線LANの混 信・速度低下,電波盗聴などの問題に対処するため, 供試体を設置するための 800□ の開口部を有する電 磁シールドルームの紹介と,製作した電磁シールド ルームの性能評価結果である。 建築物への電磁シールドの要求が高まってきている。 要求される電磁シールド性能は,医療関係や実験室 2.電磁シールドルーム概要 などの高性能のものから,オフィスなどの簡易的な 2.1 形状・寸法 ものまで様々である。これら電磁シールド室を設計 電磁シールドルームの写真を写真 1 に,平面図を するにあたり,各種建築材料の電磁シールド性能を 図 1 に,立面図を図 2,図 3 に示す。本電磁シール 把握しておくことが重要であり,電磁シールド性能 ドルームは 6 面の箱形をしており,工場で加工され を測定する施設として,電磁シールドルームが必要 た鋼板パネルを組み立てて製作した。なお,800 □ となる。 の開口部を設け,各種建築材料を挿入損失測定法に 本報告は,当社技術研究所環境棟内に製作した, * より測定出来るようにした。 技術研究所環境グループ ** 技術研究所材料施工グループ 1 安藤建設技術研究所報 Vol.11 2005 1,000 800 3,050 供試体取付 開口部 800 3,532 図3 写真 1 2.2 電磁シールドルーム外観 電磁シールドルーム立面図(開口部側) 本体仕様 本体仕様を表 1 に示す。 電磁シールドルームのシールド性能は高性能シー 4,032 ルド材料の開発を視野に入れ,周波数 30MHz ~ 3GHz で電磁シールド性能 100dB を設計目標値とし 800 3,532 供試体取付開口部 W800×H800 FL+1,000 た。壁・天井パネルはガルバリウム鋼板サンドウィ ッチパネル(芯材合板は強度を保つため)とした。 ガルバリウム鋼板とは,アルミニウムと亜鉛合金の シールドルーム メッキを施した鋼板の事で,耐食性,耐熱性,加工 性などに優れている。 1,200 スライド式自動扉 表1 スロープ 図1 本体仕様 名称 規格・形状・寸法 シールド性能 100dB(30MHz-3GHz) 室外寸法 W4,032×D3,532×H3,050 室内寸法 W4,000×D3,500×H3,026 構造 パネル組立,アルミクランプ方式 床パネル 亜鉛メッキ鋼板 3.2t,P タイル仕上げ 壁パネル ガルバリウム鋼板サンドウィッチパネル 16t (芯材合板) 天井パネル 同上 壁補強材 □-50×50×2.3t,亜鉛メッキ 天井補強材 C-50×150×3.2t,亜鉛メッキ 開口部補強材 □-100×100×4.5t,亜鉛メッキ 電磁シールドルーム平面図 3,050 使用中 1,000 自動扉 CP 1,200 4,032 2.3 図2 電磁シールドルーム立面図(扉側) 付帯設備 付帯設備を表 2 に示す。換気口開口部には,シー ルドハニカムパネルを取り付けて電磁波の遮蔽を行 った。換気口シールドハニカムパネルの外観写真を 写真 2-1,詳細写真を写真 2-2 に,室内と室外のア ンテナ線(同軸ケーブル)を接続するコネクタパネ ルの写真を写真 3 に示す。 2 電磁シールドルームの製作と性能評価 表2 付帯設備 に示す。ラインフィルターはシールド貫通部におい 規格・形状・寸法 て,有害・不要な高周波電流を遮断し,絶縁トラン 自動扉 片引き,W1,200×H2,000 スはラインフィルターからの無負荷電流による漏電 換気口 (シールドハニカム) 300×300 供試体取付開口部 800×800 生し測定に影響を及ぼすため,白熱灯を併設し,作 シールド板 1000×1000 業時には蛍光灯を使用し,測定時には白熱灯に切り コネクタパネル N-PA-JJ×5 BNC-PA-JJ×5 名称 ブレーカーの誤作動を防止するために設けた。また, 照明器具は蛍光灯等の放電式のものは,ノイズを発 替えて使用出来るようにした。 表3 写真 2-1 写真 2-2 電気設備 名称 規格・形状・寸法 絶縁トランス 1φ(2P)100V 2kVA(コンセント用) 1φ(2P)100V 2kVA(照明用) ラインフィルター 1φ(2P)100V 20A(コンセント用) 1φ(2P)100V 20A(照明用) 1φ(2P)100V 5A(インターホン用) 照明器具 100W スポットライト 露出型 40W×2 蛍光灯 逆富士型 コンセント 2P+E 100V 15A 2 連 換気扇 30cm 吸排型 表示灯 「使用中」 インターホン 室内外相互通話式 シールドハニカムパネル外観 シールドハニカムパネル詳細 写真 4 天井照明器具 3.性能評価 3.1 測定方法 測定方法は挿入損失測定法とする。 写真 3 コネクタパネル外観 3.2 測定機器 測定機器を表4に示す。シールド性能の測定に使 2.4 電気設備 電気設備を表 3 に,天井照明器具の写真を写真 4 用するアンテナは,測定周波数により形状の異なる アンテナを使用する。送信アンテナには,信号発生 3 安藤建設技術研究所報 Vol.11 2005 器を接続し電磁波を発生させ,受信アンテナには, 3.4 電界強度計,またはスペクトラムアナライザを接続 波数 発信信号とアンテナの偏波および測定対象周 発信信号は正弦波とし,アンテナの偏波は水平偏 して受信レベルを測定する。 波とする。また,測定周波数は 30MHz,50MHz, 表4 周波数 機器 送信機器 30MHz ~ 1GHz 受信機器 送信機器 受信機器 1GHz ~ 3GHz 70MHz , 90MHz , 100MHz , 200MHz , 300MHz , 測定機器 型式 信号発生器 86448C 同軸ケーブル 電力増幅器 同軸ケーブル 送信アンテナ Bilog 受信アンテナ Bilog 同軸ケーブル 測定用受信機 (電界強度計) 5D-2W 604L 5D-2W CBL6111C SCHAFFNER 間距離は 1.85m とし,何も挟まない状態において, CBL6111C SCHAFFNER 送信アンテナから適当な値を出力し,受信アンテナ 5D-2W - ML524B ANRITSU 信号発生器 86448C 同軸ケーブル 5D-2W 送信アンテナ BBHA9210D Double Ridged Guide 受信アンテナ BBHA9210D Double Ridged Guide 同軸ケーブル 5D-2W 前置増幅器 83017A 同軸ケーブル 5D-2W 測定用受信機 MS2661C (Spectrum Analyzer) 3.3 400MHz,500MHz,600MHz,700MHz,800MHz, メーカー Agilent Technologies - ENI - 900MHz,1000MHz,3000MHz とする。 3.5 基準値の測定 アンテナ高さは床から 1.05m とする。アンテナ により測定した値を基準値 L1 とする。 基準値測定の状況写真を写真 5 に示す。 Agilent Technologies - SCHAFFNER SCHAFFNER - Agilent Technologies - ANRITSU 測定対象部位 測定対象部位を図 4 に示す。測定対象部位は扉部, 写真 5 基準値測定状況(周波数 1GHz,3GHz) 供試体設置部,パネル接合部とする。 送信機器 3.6 シールド性能の測定 パネル接合部 送信機器 ンテナより基準値測定時と同値を出力し,受信アン テナにより測定した値を測定値L2とする。このと き同時に暗ノイズレベルL3も測定する。 900 900 測定対象部位を介してアンテナを設置し,送信ア 3.7 900 900 受信機器 シールド性能の算出 シールド性能Lを次式により算出する。 L = L1 - L2 供試体設置部 900 ここで,L:シールド性能 L1:基準値(dBμV) 900 L2:測定値(dBμV) シールド扉部 なお,測定値L2が暗ノイズレベルL3以下の場合 は,測定限界値L’を次式により算出し,その旨表示 送信機器 する。 L’ = L1 - L3 図4 4 測定対象部位 (L’:測定限界値) 電磁シールドルームの製作と性能評価 4.測定結果 4.1 4.2 扉部のシールド性能 供試体設置部のシールド性能 扉部のシールド性能測定結果を表5に,グラフを 供試体設置部のシールド性能測定結果を表6に, 図5に示す。周波数50MHz,500MHz,3000GHzを除 グラフを図6に示す。周波数3000GHzを除く測定値 く測定値は,暗ノイズレベル以下であったため,電 は,暗ノイズレベル以下であったため,電磁シール 磁シールド性能は測定限界値として示した。なお, ド性能は測定限界値として示した。なお,暗ノイズ 暗ノイズレベルの影響を考慮し,10dBの余裕を確 レベルの影響を考慮し,10dBの余裕を確保した場 保した場合においても,全周波数で100dB以上の電 合においても,全周波数で100dB以上の電磁シール 磁シールド性能が得られたことを確認した。 ド性能が得られたことを確認した。 表5 扉部のシールド性能測定結果 表6 供試体設置部のシールド性能測定結果 周波数 (MHz) 基準値 L1(dBμV) 測定値 L2(dBμV) 暗ノイズレベル L3(dBμV) シールド性能 L(dBμV) 周波数 (MHz) 基準値 L1(dBμV) 測定値 L2(dBμV) 暗ノイズレベル L3(dBμV) シールド性能 L(dBμV) 30 100 -11 -11 111* 30 100 -11 -11 111* 50 111 -11 -12 122 50 111 -12 -12 123* 70 111 -12 -12 123* 70 111 -12 -12 123* -14 129 * 90 115 -14 -14 129* * 100 116 -9 -9 125* 90 115 -14 100 116 -8 -8 124 200 119 -10 -10 129* 200 119 -12 -12 131* * 300 113 -9 -9 122* 300 113 -10 -10 123 400 116 -11 -11 127* 400 116 -11 -11 127* 500 112 -10 -12 122 500 112 -10 -10 122* 600 110 -10 -10 120* 600 110 -9 -9 119* 126 * 700 118 -8 -8 126* * 800 115 -11 -11 126* 900 114 -11 -11 125* 1000 129 8 8 121* 3000 123 7 3 116 700 118 -8 -8 800 115 -11 -11 126 900 114 -11 -11 125* 1000 129 9 9 3000 123 9 3 114 は測定限界値を示す。 (*) 140 140 130 130 120 120 110 110 シールド性能(dB) シールド性能(dB) (*) 120 * 100 90 80 70 100 90 80 70 60 60 50 50 40 は測定限界値を示す。 40 10 100 1000 10000 10 100 周波数(MHz) 図5 扉部のシールド性能測定結果 図6 1000 周波数(MHz) 10000 供試体設置部のシールド性能 5 安藤建設技術研究所報 Vol.11 2005 4.3 5.まとめ パネル接続部のシールド性能 パネル接続部のシールド性能測定結果を表7に, 当社技術研究所環境棟内に電磁シールドルームを グラフを図7に示す。周波数3000GHzを除く測定値 製作し,製作後の性能評価において,電磁シールド は,暗ノイズレベル以下であったため,電磁シール 性能100dB以上(30MHz~300GHz)が得られたことを ド性能は測定限界値として示した。なお,暗ノイズ 確認した。今後は,各種建築材料の電磁シールド性 レベルの影響を考慮し,10dBの余裕を確保した場 能の把握をはじめ,電磁シールド性能を有するプレ 合においても,全周波数で100dB以上の電磁シール キャストコンクリートや内装材の開発,また,各種 ド性能が得られたことを確認した。 部材接合方法による電磁シールド性能の把握や新工 法の提案などを行っていく予定である。 表7 パネル接続部のシールド性能測定結果 周波数 (MHz) 基準値 L1(dBμV) 測定値 L2(dBμV) 暗ノイズレベル L3(dBμV) シールド性能 L(dBμV) 30 100 -10 -10 110* 50 111 -11 -11 122* 70 111 -10 -10 121* * [1]日本建築学会:電磁環境と建築設計 [2]建築電磁環境における現状と課題:日本建築学 会環境工学委員会, 電磁環境小委員会, 2004.11 90 115 -12 -12 127 100 116 -12 -12 128* [3]建築電磁環境における標準測定法の提案:日本 * 建築学会環境工学委員会, 電磁環境小委員会, 200 119 -12 -12 131 300 113 -10 -10 123* 400 116 -11 -11 127* 500 112 -10 -10 122* 600 110 -10 -10 120* 700 118 -8 -8 126* 800 115 -12 -12 127* * [6]建築電磁環境における材料・施工法と課題:日 本建築学会環境工学委員会,電磁環境小委員会, 900 114 -12 -12 1000 129 8 8 121* 3000 123 7 0 116 (*) 126 は測定限界値を示す。 [4]1998年度日本建築学会,電磁環境研究発表会資料 集:環境工学委員会,電磁環境小委員会 [5]「最近の電波吸収体・シールド材料の開発事例 と動向」講習会:工業技術会, 1998.12 [7]1997年度日本建築学会,電磁環境研究発表会資料 集:環境工学委員会,電磁環境小委員会 [8]建築電磁環境の計測技術と課題:日本建築学会 130 環境工学委員会,電磁環境運営委員会, 1996.2 120 110 シールド性能(dB) 2000.11 1997.10 140 100 90 80 70 60 50 40 10 100 図7 6 参考文献 1000 周波数(MHz) パネル接続部のシールド性能 10000
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