スタッフの意識変革と チーム力向上策Ⅱ - 森田務公認会計士事務所

Available Information Report for Corporate Management
経 営 情 報 レ ポ ー ト
歯科医院の経営力を強化する
スタッフの意識変革と
チーム力向上策Ⅱ
1 ビジョン = 目標としての将来像
2 職場の「集団規範」を構築する
3 具体的なEQ能力向上活動
森田 務 公認会計士事務所
第 15 号
歯科医院の経営力を強化する スタッフの意識変革とチーム力向上策Ⅱ
ビジョン = 目標としての将来像
前回の情報レポートにて、チーム力の向上を図るためにはスタッフの意識変革に取り組むべきであり、
「歯科医院における職制」、「スタッフ採用基準と採用方法」、「院内教育システム」などの考え方や
推進方法について説明したが、今回は、意識変革を行うベースが出来上がったあとスタッフがどのよう
に力を出せば良いのか、また、出させるにはどうするのが良いのかを検証していく。
自分自身を動機付ける
スタッフが継続して力を出すためには、それぞれが自分自身を動機付ける方法を身に付け、また、常
に自分自身で動機付けられるよう、スタッフを育成していく仕組みを医院自体で作っていかなければな
らない。
(1)自分の職業としての現状をしっかりと自己分析する
現状分析
「明確で魅力的な到達イメージ」の構築
●歯科衛生士として何ができるのか
●現実としてどんな技術が身に付いているか
●どんな業務が出来るのか
●こんな歯科衛生士だったらどんなに良い
だろう
●5年後想定した目標設定
(2)「現状」と「ビジョン」との大きさの違いを認識することで能力が出る
人は、
「現状」と「明確的で魅力的な到達のイメージ(ビジョン)」の大きさの違い(ギャップ)を認
識することで色々な能力が出てくる。
明確的で魅力的な到達イメージ
発揮する能力
【チャンスを逃さない】
●エネルギー
ギャップの把握
●意欲
●想像力
●情報収集力
現
状
●情報選択力
【出所】「望めば叶う」ルー・タイス 著 /吉田利子訳(日経BP社)より
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歯科経営情報レポート
歯科医院の経営力を強化する スタッフの意識変革とチーム力向上策Ⅱ
この「明確的で魅力的な到達イメージ」があれば、本来、誰もが持っている能力をあらゆる場面で、
その可能性を情報網の中で敏感に察知できる能力として発現する。
【具体例】
●ノートパソコンを欲しいと思った時
①欲しいと思った具体的なイメージを頭の中に描く
(これが「明確的で魅力的な目標設定」となる)
②新聞の中のたくさんのチラシの中から電気屋のチラシが目に入る
③たくさんの電化製品の中からパソコンの写真にだけ焦点がいく
④「いらないものはいらない」、
「この情報はいる」という選別する能力が発現し、良いパソコン
が見つかる
これが、目標設定をすると色々な情報が具体的に入ってくるという能力である。情報が入ってくれば
判断チャンスを逃さないことに直結する。
(3)動機付けを阻害する要因
●「ロックオン・ロックアウト」
心の中
ロックオン
ロックアウト
1つの絵の中で2種類の
見方があるにもかかわら
ず、1種類しか見えない状
態
1種類も見えない状態
非常に強烈な印象で思ってしまうと、心の中では思い込みが激しくて、色々な情報を受けても心の中
に浸透させる事が出来ないという心の仕組み。
このような心理的現象が、ビジョンを設定して向上を図ろうとしても、障害となる心の動きである。
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歯科経営情報レポート
歯科医院の経営力を強化する スタッフの意識変革とチーム力向上策Ⅱ
【ロックオン・ロックアウトの事例】
● 保険診療と自由診療を考えた時に、極端に自由診療を嫌う方がいる。
同様にドクターがそうだと、女性スタッフもロックオン・ロックアウト状態に陥る事がある。
一患者の立場では、色々な治療のバージョンを教えてくれるのが良い歯科医院という事にな
る。自分達があまり良くないと決め付けているもの(ロックオン・ロックアウト状態)を、その
まま患者さんに提供しても良いものか、ここのところの意識改革が必要。
● 人は、自分の決め付けた事柄しか目をやろうとしない。
例えば、「時間にルーズ」だというレッテルを貼ってしまうと、時間にルーズな事柄しか見え
てこない。その人が、時間にルーズではない行動をとった場合でも目に入ってこない事が一人で
見ている場合には起こる。したがって、他の意見も参考にした方が人間関係の改善に繋がる事が
ある。一人だけだと、ロックオン・ロックアウト状態に起こりがちになるからである。
●「自己イメージ」
「自己イメージ」
「他からのイメージ」
= 無意識の世界
●プラス思考の方が統計的に成功者
●客観的イメージによる評価
●否定的には見ない
●他からの評価が自分のイメージな
る場合がある
●イメージは自分の日常の行動を支
配
イメージの相違
●自己イメージのない行動は起きな
い
●否定的な自己イメージを持たせてし
まうような事柄を、頻繁に強く言い
続けない方がプラスに作用する
●自己イメージが自分の真実とは思わない方が良い
●他が持っている良いイメージを模倣する
自己の広がりの実現
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歯科経営情報レポート
歯科医院の経営力を強化する スタッフの意識変革とチーム力向上策Ⅱ
【マイナスイメージの伝達事例】
プロ である医療者が 素人 である患者に向って、一言でも「こんな状態で放っておきました
ね。」という様な事柄を伝えてしまうと、「口腔内さえも自分で管理出来なかった人間なんだ。
」と
思ってしまい、マイナスイメージを持たせてしまう。
プロの一言は、親が子供にずっと言い続けてきたような一言に匹敵する。患者さんに否定的な自己
イメージを持たせないよう、健康に対して否定的な自己イメージを持たせないようにすることが医
療者の使命である。ちょっとした一言が患者さんに影響するのである。
●「快適ゾーン」 ― 居心地の良い慣れの状態へ戻ろうとする
さらにステップアップした快適ゾーン
成
長
元に戻ろうとする力
ステップアップした快適ゾーン
成
長
成長の
ターニングポイント
元に戻ろうとする力
(居心地が良い方が楽)
現状の快適ゾーン
【釜ゆでの蛙】
水槽の中に水を入れて、蛙が気付かない程度に温度を上げていった。いつ危険を感じて飛び出すか
という動物実験だったが、蛙は最後まで気が付かずに茹で上がって死んでしまう。蛙にとって「快
適ゾーン」がしっかりあり、そこから抜け出せなかった。
●自分が甘んじた状態にいて、世の中の流れに敏感になっていないと、また、そこから1歩踏み出
して情報をキャッチ出来る能力を常に磨いておかないと、 釜ゆでの蛙 になってしまうかもし
れない。
【具体的事例】
①言葉遣いも、きれいな言葉遣いを身に付ける
②今まで「何てひどい言葉遣いをしていたのか。
」と振り返る
③「もっと素晴らしい言葉遣いを習得したい。
」という気持ちになる
④目標(ビジョン)が非常にはっきりとしてくる
⑤そうすると、
「快適ゾーン」がどんどん広がっていく
⑥ヒューマンスキルの向上というのは、テクニカルスキルの向上に影響がある
⑦その結果、医療技術も磨いていこうという作用にも発展していく
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歯科経営情報レポート
歯科医院の経営力を強化する スタッフの意識変革とチーム力向上策Ⅱ
難しいのは歯科医院全体である。9人いれば9人全員が、足並みを揃えて「快適ゾーン」の中に収ま
らずに成長するぞという意識を持っていかないと、1人でも足を引っ張る人間が居たら組織は成長しな
い。そこに、自分が組織の中で「蛙」として存在してしまうかどうか、このような事を伝えながら、目
標設定の重要性というのをスタッフの皆さんに考えて貰う事が大事である。
ステップアップ目標設定
●効果的な自己宣言となる目標の書出し方(1年後の目標)
①第1人称であること
②現在進行形であること
③明るく、ワクワクする感情が湧き起こるような、経験している実感をともなうこと
【作品実例】
①私は、
「美味しく食べられるのは、あなたのおかげです。」と○○さんから言われ、うれしさのあ
まり飛び跳ねている
②私は、○○歯科医院の中で、なくてはならない存在だと思えるので、毎日前向きで、朝、職場に
着くのが楽しみだ
③私は、予防処置やスケーリングを担当する患者さんを1日 10 人みており、患者さんとの会話も
はずみ、歯科衛生士としての仕事を楽しくこなしている
→
この歯科の診療方針が、担当制にするための上記の目標とした
④私は、自分のしたことがこんなに患者さんの心をなごませているんだと実感しており、もっと役
に立つことはなんだろうと、いつも考えている
⑤私は、特にT.B.Iを得意とし、ピクトを使いこなし、先生の手を借りずに、自ら術前・術後を
説明し、患者さんにも喜ばれ、先生にも頼りにされている
【出所】DBM資料
もし、目標設定を具体的にしていない医院があれば、1年後には変わってくるので、必ず具体的な目
標設定をすることが大事である。
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歯科経営情報レポート
歯科医院の経営力を強化する スタッフの意識変革とチーム力向上策Ⅱ
職場の「集団規範」を構築する
規範のイメージ
暗黙の了解事項としてのルール
医院の
特徴を表す。
日常一般の
社会ルール。
個性の集まり
●職場規範の事例
【身だしなみ】
●社会人1年生の時はきちんとしていたものが、なあなあになってしまってもいいんだという集団
規範か、ビシッとしていなければいけないんだという集団規範か
●髪の毛が少し垂れていても患者さんに文句を言われなければ平気という歯科医院か、髪の毛はき
ちっとセットされているのが当たり前と思える組織なのかが見極めのポイント
●2時から研修をやりますと言った場合、2時になっても誰も集まっていない歯科医院か、2時2
分前には全員が揃って、準備されている歯科医院か
このレベルの違いを見極めて、レベルは高いままで継続することが大事である。
●自分たちの集団規範は何だろうか
紙に書き出す事も必要である。その中で、悪い集団規範があれば、みんなで共通認識をもって話し合
って変えようという、同じ気持ちにならなければ、集団規範は変わらない。
●朱に交われば赤くなる
●高いレベルを要求
⇒ それなりのレベルになっていく
●低いレベルに甘んじていると
⇒ 能力の高い人も朱に交われば赤くなってしまう
集団の力
とは、すごいものなのである。
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歯科経営情報レポート
歯科医院の経営力を強化する スタッフの意識変革とチーム力向上策Ⅱ
EQ ∼対人関係能力向上のカギ
集団規範を変えていくにあたって、大事な事は、医院全体で EQ能力(Emotional Quotient 感情
知能) を向上させることである。これは、対人関係能力向上のカギとなるものである。
ゲームをやってみよう!
【具体的な指示伝達ゲーム進行の手順】
①B5版の紙を1枚用意する
②指示を出す1名と受ける数名は背中合わせになる
③指示者の指示する通りに紙を折ったり、破ったりさせるルール
④指示者は、次のように指示をする
●紙を両手で持ってください
●まず、紙を半分に折ってください
●半分に折ったら右の上の角を切り取ってください
●もう一度半分に折ってください
●今度は左の下の角を切り取ってください
●もう一度半分に折ってください
●折りましたか、と背中越しに聞く
●また右の上の角を切り取ってください
これで終了。
【ゲームの結果】
指示者が作ったものと、同じものができたか?
●指示者が 指示伝達の仕方の基本的な事(お互いに確認しながら進む)をやらないで進める
と、成果を得られない
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歯科経営情報レポート
歯科医院の経営力を強化する スタッフの意識変革とチーム力向上策Ⅱ
【正しい指示、伝達の仕方】
●指示する方は、自分が指示した事が伝わっているか確認する
●指示される方も、ここまで分かりましたと意思表示する事が大事である
そもそも、EQ能力(感情知能)とは何か?
必要最小限のIQを備え、その中で卓越した業績を上げ、キャリアで成功をおさめるためには『高い
EQ(感情知能)
』を備えていることが不可欠な要件である。
【EQ能力(感情知能)の定義】
●自己認識能力
自分の本当の気持ちを自覚し、心から納得できる決断を下せる能力
●自己コントロール
衝動を自制し、不安や怒りのようなストレスのもとになる感情を抑制する能力
●モチベーション
目標の追及に挫折したときでも、楽観を捨てず自分自身を励ます能力
●社会的スキル
他人の気持ちを感じ取る能力
●共感性
集団の中で調和を保ち、協力し合う社会的能力
【出所】ビジネスEQ(ダニエル・ゴールマン著)
前述したゲームを繰り返し行うことが、EQ能力向上の一手段。
●このEQ能力の高い人達が集まった集団は、ものすごく強い集団である
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歯科経営情報レポート
歯科医院の経営力を強化する スタッフの意識変革とチーム力向上策Ⅱ
EQ能力を高めるその他の方法
人間関係の原点、
「その人を承認します。」ということを表現する動作。
人間関係の原点「承認」
①視
線
②うなずく
③あいづち
承認を表現する聴くスキル
⑥共感的
④繰り返し
⑤質
問
感想
【承認の手順】
①視線を向けないと、その人を承認することにならない
何か言われたら相手に目を向けるのが第1歩
②話をしてくれたら、うなずきながら聴いてあげる
③たまに声に出してあいづちをうってあげる
④相手が言っている事を自分なりに少し繰り返す
繰り返すことで理解力が高まっていく
⑤質問していく
⑥質問していくと会話になるので、共感的な感想が出来上がってくる
上記①∼⑥の項目を順番に伝えていくことで聴く態度(承認してます)になる。
【注意点】問診の時に⑤の「質問」だけを行っている歯科医院が多い。
患者さんから見ても、この歯科医院は自分の言っている事をわかろうとしてくれているとい
うポイントになるので、とても重要である。
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歯科経営情報レポート
歯科医院の経営力を強化する スタッフの意識変革とチーム力向上策Ⅱ
社会生活向上の基本的欲求
患者さんの立場から
社会生活を営む上での基本的欲求
重要感
有能感
好
感
この3つが感じられれば、この歯科医院からは離れない
●患者さんに対しても、この重要感や有能感、好感を得てもらえるような接し方をする
●1人の患者として大切に扱ってもらっている(重要感)
●私の言っている事がしっかりと伝わっている(有能感)
(=自分は良い歯科医院を選んだと思う。)
●歯科医院全体が、自分の事を好感を持って迎え入れてくれているみたいだと感じる(好感)
スタッフの立場から
対人関係 鏡の論理
自己重要感
自己有能感
自己好感
【歯科スタッフの場合】
●重要感とは、組織の中で本人が自分も重要なスタッフの1人だと思える事
●自己有能感とは、自分も皆と同じように仕事ができて有能になってきているのではないかと
思える事
●自己好感とは、自分も皆から好感を持たれていると思う事
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歯科経営情報レポート
歯科医院の経営力を強化する スタッフの意識変革とチーム力向上策Ⅱ
具体的なEQ能力向上活動
具体的にEQ能力を高めていく活動は、「必ず朝礼を行う」ということ。
●朝礼による顧客情報の収集と活用
【効果的な朝礼の仕方】
①ポジション別で別れずに、必ず全員で朝礼するのが基本。
②朝礼をする時は、伝達事項を項目に分けて書いておく。
③患者さん以外の来院を全員が把握しておく。
(院長宛の来客など)
④1日の流れに関する了解事項の確認。(アポスケジュール確認)
⑤アポイントが入っている患者さんの顔を思い浮かべる。(思い入れを持つ)
(一日の流れを確認し留意点を確認する)
スタッフも自分も参加している気持になれること。
● 100 − 1 = 0
安全対策を怠るなかれ
医療の現場は、1歩間違えると築き上げたものがゼロになる事がある。せっかく院長が築きあげた歯
科医院を、1つの事柄(ミス)で壊してしまう事があるので、安全対策は徹底的に皆で共有していくこ
とが大事である。
●インシデントレポート
■アクシデント
■インシデント
(思いもかけないこと)
↓
↓
防ぐことができる
防ぐことができない
↓
↓
起こらない為の対策
起こった場合の対応策
↓
↓
インシデントレポート改善実施
マニュアル訓練
(練習しておくことが重要)
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歯科経営情報レポート
歯科医院の経営力を強化する スタッフの意識変革とチーム力向上策Ⅱ
アクシデントレポートが医療事故となったことの報告書であるのに対して、インシデントレポートは
事故にはなっていないが、事故に繋がり患者さんに被害を与える可能性のある事例の報告書のことであ
る。
アクシデントは防ぐことが出来ないが、インシデントは防ぐことができる。したがって、起こらない
為の対策を取り、改善実施していくことが重要である。
レポートをしっかりと取っておき、定期的に研修やミーティングを行っていくことが大切である。
●当事者は気付くが、他の人は気付かないことが多いため、レポートはオープンにし、組織として
事例を把握できる体制を作り上げていくことが大切である
誇り高い仕事
自分の仕事に対して、誇りを持てるアプローチをトップがしてあげているか。歯科医療の現場に携わ
るのがどういうことなのか。今、自分の携わっている仕事がどういうことなのかを、情熱を持ってスタ
ッフに伝えられるか。そして、スタッフもそれを感じながら仕事が出来ているかが大切である。
最上級のサービス業
人の寿命や健康にかかわる歯科医療サービスは、他のどのようなサービスと比較しても、最も繊細で
きめ細やかなサービス精神が求められる第1級のサービス業である。
そして、生活の楽しみや人生の豊かさといった「歓び」に至る明るい医療でもある。人は苦しみや痛
みが、歓びには共感することができるし、また共鳴したいものだ。
歯科医院の仕事は、このような喜びを創り出し、その歓びに共感できる「最上級のサービス業」なの
である。
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歯科経営情報レポート
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医業経営情報レポート
歯科医院の経営力を強化する スタッフの意識変革とチーム力向上策Ⅱ
【著 者】日本ビズアップ株式会社
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