TIPS とは? 【花坂美咲】TIPS - 儀式回路

TIPS
■ TIPS とは?
今年はひと味違うから、気合い入れていくよ~!!
▽ TIPS00:TIPS とは?
あと、お供えもよろしくね~(笑)
日(月)昼」【自宅】
◎ TIPS03:受信メール②
応援よろ(^^)b
条件:「ウロボロスの蛇(第一周)」■シーン2「3 月 23
対象:特になし
条件:特になし
目的:TIPS に慣れてもらう。PL に渡すのは「演出:」から下
対象:PC ①
演出:
目的:
【花坂美咲】の【解放】へのヒント
【TIPS00:TIPS とは?】
TIPS とは、
文書などで列挙される小技である。
『此花咲哉』
演出:
【TIPS03:受信メール②】
をクリアするために必要な情報は、主に TIPS によっても
受信メール
たらされる。各ヒロインの背景事情、個人的な日記、豆知
3/27 23:48
識などが、TIPS として選ばれている。バラバラの TIPS を
From:美咲
つなぎ合わせて読み解くことで、各ヒロインの事情がだん
[件名]ゴメンね。
だんと明らかになるだろう。今回のように必ずしもクリア
[本文]
に必要ない TIPS も多いが、演出に用いてもらいたい。
待ってるから。
今回はチュートリアルとして、
[エゴ判定]の正否にかか
約束、忘れないでね。
わらず配布した。本来は、各種[絆判定]
[エゴ判定]に成
功することで TIPS を取得する。主に、知識がもたらされる
形で[エゴ判定]を要求される場合が多いだろう。TIPS を得
るためにも、
PL は、
PC の[エゴ]を伸ばしておく必要がある。
◎ TIPS04:とある放課後の一幕
条件:特になし
対象:PC ①
目的:
【花坂美咲】の一人称「ボク」の由来
■【花坂美咲】TIPS
演出:
【TIPS04:とある放課後の一幕】
◎ TIPS01:短冊
「ねー。前々から気になってたんだけどさぁ……」
条件:特になし
「ん~?」
対象:特になし
「……アンタ、なんで “ ボク ” なの?」
目的:
【花坂美咲】の気持ちを明らかにする
「ん~……まぁ、ほら。ボク、昔ッから男の子みたいだっ
演出:
【TIPS01:短冊】
去年のものだろうか。神社の裏手、焼却炉の脇に大きな
笹が横倒しに放置されている。
たしね。そのほうが違和感なかった……っていうか。
」
「……ふ~ん?」
「よく、男の子とクワガタ獲りに行ったりとかしたんだよ。
えへへ~。実はいまでも素手でクワガタつかめるよ?」
茶色く枯れ果てた笹に、色褪せた飾りがまとわりついて
「ふぅ~ん。なるほどねぇ」
いる様はもの悲しい。
「……え? なに?」
ふと、一枚だけ色褪せていない短冊が目に留まった。
「ううん。べつにぃ~? でさぁ。いつから “ ボク ” なわけ?」
「え? ……うーん……いつぐらいだろ? ……小学校に
「いつまでも PC ①君と一緒でいられますように」
上がる前くらいかな……」
「あはは。男の子、女の子になりはじめの頃って感じだね……か
名前がない。これは誰の願いだろう。
わいいなぁ。
すっごく想像できるわ。
ふぅ~ん? そっかそっか」
「にゅ? ……なに? なんなの?」
◎ TIPS02:受信メール①
条件:特になし
対象:PC ①
「いやぁ。べつにぃ~? 懐かしいなぁ~って思ってさ。
あのくらいって、ちょうど男の子女の子が微妙に混ざりに
くかったりするじゃん? 青春だなぁ……って」
目的:
【花坂美咲】の桜祭りへの意気込み
「……ヒロ、今日なんか変なんだよ~?」
演出:
「いやいや、あたしも青春がまぶしく思えるお年頃なわけです
【TIPS02:受信メール①】
受信メール
よ。いやー、
いいね! 青春。甘酸っぱい感じがたまんないね!
よしよし。うい奴じゃ。おねーさんが、
ハグしてあげよう!」
3/23 00:12
「え? ……わっ、わわ!?」
From:美咲
「…………ねぇ」
[件名]桜祭り!!
「……ん~?」
[本文]
「……頑張んなよ? せっかく、同じクラスなんだしさ」
もうすぐ桜祭りだよ!
154
「………………うん」
食事のあとは映画だ。これまたアクション映画を却下さ
◎ TIPS05:クリスマスの思い出①
条件:特になし
れたので、柄にもなくラブロマンスなんかを見る。本当に
《美咲》が見るのか疑問に思っていたが、意外と真剣な顔
対象:PC ①
で見入っていた。
目的:
【花坂美咲】の記憶。
《 》に入るべき本来の名前は
普段からこれだけおしとやかにしてれば、それなりに
《みちる》
……いや、なんでもない。
演出:
【TIPS05:クリスマスの思い出①】
それはいつもと同じように、唐突に始まった。
「あーあ、つまんない。クリスマスって言っても全然つま
んないんだよ」
《美咲》はひとしきり不満をぶちまける。家が神社なの
でクリスマスを祝わず、パーティーともプレゼントとも無
縁なため、この時期彼女はひたすら機嫌が悪い。
◎ TIPS07:クリスマスの思い出③
条件:特になし
対象:PC ①
目的:
【花坂美咲】の記憶。
《 》に入るべき本来の名前は
《みちる》
演出:
【TIPS07:クリスマスの思い出③】
機嫌が悪いとろくなことがない。願わくば彼女の機嫌が
映画が終わってほかのカップルたちと同じように映画館
ただちに良くなりますように。
をあとにすると、そのまま流れに乗せられ、街の中央へと
「あ、そうだ! いーこと思いついた」
どうやら願いは速やかに叶ったようだ。有難い。
「PC ①くんがさー、ボクにプレゼントくれるってゆーの」
前言撤回。
「むぅー、プレゼント買ってないのかー」
そうだ、諦めろ。
「じゃあさ」
運ばれてしまった。
逆方面のほうが家へ帰るのには近いのだけど、人の流れ
がそうさせてくれなかったのだ。
そこでせっかくだから少し街をぶらついてから帰ること
にした。
これまで見ていた映画のせいか、少し気まずい。
周りのカップルたちが腕を組み、肩を寄せ合ってなにか
彼女はいたずらっぽく笑って、上目遣いでこちらを見な
囁きかわしているのも、気まずさに拍車をかける。
がら言った。
腕でもとってエスコートしたほうがいいのか? 柄にも
「PC ①くんのおごりで、遊びに行くんでもいいよ?」
なくどぎまぎとしていると、
「ね、PC ①くん?」
◎ TIPS06:クリスマスの思い出②
条件:特になし
対象:PC ①
目的:
【花坂美咲】の記憶。
《 》に入るべき本来の名前は
《みちる》
演出:
【TIPS06:クリスマスの思い出②】
色々あってクリスマス当日。《美咲》にランチと映画を
唐突に《美咲》が切り出してきた。
しかし、街はまるで花坂のすべての人が出てきたかのよ
うな賑わいで、
「 」
だから、いつもよりはるかに小さい、らしくない囁くよ
うなその言葉を聞き取ってあげることができなかった。
「え? なんだって?」
「な、なんでもない」
おごることになった。
そのときは慌てて首を振る《美咲》を訝しく思っただけ
待ち合わせはいつもの駅前。クリスマスだけあって、周
だったが、いまにしてみればあのとき《美咲》が口にした
囲はカップルばかりだ。
のはやっぱり……。
「お待たせー」
声を掛けられて振り向くと、
そこにはおしゃれをした《美
咲》が立っていて、不覚にも少しどきりとした。制服でも
○ TIPS08:夢~形代~
条件:特になし
袴姿でもない
《美咲》
を見るのは久しぶりだったからだろう。
対象:特になし
とはいえ《美咲》はいつもの《美咲》で、いつもより若
目的:すべてのはじまりとなった【始まりの死者】の示唆
干テンションが高く、食事中からかなり飛ばしている感じ
がした。
「イタリアンなのは感心だけど、ワインがないってどーゆー
こと?」
演出:
【TIPS08:夢~形代~】
桜の花が舞っていた。それはいつかの春。舞い散る花び
らと麗らかな日差しの下、一組の男女がしゃがみ込んでい
「未成年だろ」
る。それはまだ若い夫婦。ふたりは胸の奥に燻る想いを押
「むぅー、ボクはクリスマス気分を味わってみたいのにぃ」
し殺し、口元を引き締めて地べたに屈み込み、一言も話さ
「家のパーティでも飲まないもんだ」
ず一心不乱に手を動かしていた。やがて、夫婦の間には手
「え? そうなの? ……じゃあ、いいか」
桶ほどの小さな穴が口を開く。そこではじめてふたりは顔
クリスマス気分だったらフランチャイズのフライドチキ
を見合わせ……妻が頷き、傍らの袋に手を伸ばす。掴み出
ンのほうが良かったんじゃないかと思うが、前にそれを提
されたのは掌ほどの人形と、小さな種。夫は頷いてそれを
案したとき、ものすごい剣幕で怒鳴られた。色々と希望が
受け取り、そっと穴の底に横たえた。そしてふたりは瞑目
ややこしい。
する。その両の掌を合わせ、まるで自らに降り注ぐ日差し
155
のように、ただただ静かに穏やかに。やがて緩やかに吹き
はじめた風が勢いに乗り、ふたりの髪を踊らせ、そしてま
演出:
【TIPS11:花坂観光ガイド――鎮めの桜――】
たそよ風に戻る頃。夫婦は目を開き……どちらからともな
お祭の主役、花坂神社の桜ですが、この大きな桜の木は
く、微笑んだ。
神社のご神木で、花坂で死んだ多くの死者の魂が眠ってい
穴の底には物言わぬ小さな人形が、麗らかな日差しを受
るとされています。だからこの地方の人達はみんな桜の木
けて微睡むように横たわる。
を大切にしています。この地方のご先祖様達はみんな、大
それは、小さな想いの欠片。大水に攫われ、その身すら
きな木に抱かれて、大切にされ、ゆっくりと安らかに眠っ
も遺すことのできなかった娘の身代わり。せめて安らかな
ているんですね。
れと。春の日を受けて、いつまでも安らかに眠り続けるこ
とを願い夫婦が刻んだ少女の形代。いつかその種が芽吹き
花と開くときが来る。その花は生き抜くことができなかっ
○ TIPS12:赤ちゃんの名前のつけ方
条件:特になし
た少女の想い。大人になれなかった少女の夢。喩え人々が
対象:特になし
少女を知らなくても、覚えていなくても。その花は、きっ
目的:
【みちる】の名前のヒント
と人々の心に届く。少女の代わりに。少女の想いを、人々
に語り続ける。
演出:
【TIPS12:赤ちゃんの名前のつけ方】
穴の底、静かに横たわる人形を目を細めて見やると、夫
名前はとても大切なものです。女の子であっても、結婚
婦はそっと、その上に土を掛けていく。むずかる赤子をあ
して姓は変わることもありますが、名前が変わる事はあり
やすように、はいだ布団を掛け直すように。そっと、優しく。
ません。一生ついてまわるもの、それが名前です。
それは夢。ささやかで、儚い想いの姿。そしてどこまで
ですから、優しい子になって欲しいから「優子」
、花の
も永く遠い、呪いのはじまり。
ように奇麗な子になって欲しいから「美花」
、というよう
にきちんと意味のある名前を付けましょう。また、その時
○ TIPS09:花坂観光ガイド――花坂神社――
には他の意味にとれないかも充分に気を付けましょう。美
条件:特になし
しく、賢い子供に育って欲しいから「美智子」というのは
対象:PC ②、PC ③
良い名前ですが、
これが「みちる」のように「散る」イメー
目的:花坂神社の概要を伝える
ジがつきまとう名前では良さも半減ですね。満ち足りた人
演出:
生を送って欲しいと願うのであれば、
「充(みつる)
」のよ
【TIPS09:花坂観光ガイド――花坂神社――】
うにするのがより良いでしょう。
花坂市の中心、小高い丘の上にあるのが花坂神社だ。曲
がりくねった石段をのぼるとこぢんまりとした本殿と大き
な桜の木が迎えてくれる。
○ TIPS13:忌み言葉
条件:特になし
花坂神社はこの地域の信仰を集めてきた古式ゆかしい神
対象:特になし
社で、ご神木は数百年の樹齢を経てなお健在である。伝わっ
目的:似た音は似た意味に通じる、
「髪括り(ポニーテール)
ているのは古木だけではなく、里神楽は戦国期に、祭式は
=神括り」のヒント
室町時代に完成したといわれる。桜の木の枝の間から平安
貴族の雅な歌が聞こえてくるような感じさえする。古き良
き時代の空気が薫る、おすすめの観光スポットだ。
演出:
【TIPS13:忌み言葉】
結婚式などのおめでたい席では「別れる」
「切る」など
の言葉を使用しないのが礼儀ですが、これは日本古来の言
○ TIPS10:花坂観光ガイド――桜祭り――
霊信仰に通じるものがあります。
「別れる」や「切る」と
条件:特になし
いった言葉が新婚の二人の行く末に影響しないようにと配
対象:PC ②、PC ③
慮し、「ケーキにナイフを入れる」と言うとか、逆にお葬
目的:桜祭りの概要を伝える
式の席であれば、不幸が続かないようにと、
「重ねる」
「ま
演出:
た」などの言葉を避けます。
【TIPS10:花坂観光ガイド――桜祭り――】
このような言葉を忌み言葉といいますが、これは一般の
この地方では毎年桜の季節に花坂神社のご神木を祀るお
ものにも広く使われていたもので、スルメをアタリメと呼
祭りが行われます。街の人はみんなこのお祭りを楽しみに
ぶのも「摩る」に通じるのを嫌ったためとされています。
待っていて、春のお花見といえばイコール桜祭りと言って
言葉の「言」も「事」に通じると考えられていたように、
もいいぐらいです。また、お祭り期間は伝統的に春のお彼
音が同じものは相通じ合うと考えていたのでしょうね。
岸とよびならわされています。仏教のお彼岸とは日がずれ
ているのですが、花坂にお寺が無いからか、誰もそんな事
は気にしていません。
○ TIPS11:花坂観光ガイド――鎮めの桜――
条件:特になし
対象:PC ②、PC ③
目的:桜の木の呪いを説明する
156
○ TIPS14:初等儀式魔法
○ TIPS16:鏡占術の要訣 より
対象:特になし
対象:特になし
目的:
【桜の魔法】を終わらせるために必要なものの示唆
目的:
「輪=【花坂美咲】の髪を縛っている道具」という暗喩
条件:特になし
演出:
【TIPS14:初等儀式魔法】
条件:特になし
演出:
【TIPS16:鏡占術の要訣 より】
儀式は召喚に始まるものだが、故に追儺で終えるもので
神事では神主が剣や鏡を持っているが、あれは採物と呼
ある。
ばれ、神の依り代=神坐(かみくら、かぐらの語源)に降
儀式にあたって必要なものを召喚し、儀式を終えるため
りている神の魂とのやりとりのための道具とされている。
にそれを追儺する。
神楽で人長が手に持つ榊と輪も同じもので、輪は鏡を象
儀式のために召喚した天使は、儀式を終えるためにくび
るものだと言う。
きを解き、送り返す。
先に述べたように、鏡は神の姿を映し、その座に留める
儀式のために創造した精霊は、儀式を終えるために破壊
ためのものであるから、神楽においては輪もまた同様の役
し、土くれに返す。
割を果たしていると言える。
昇り始めた月は地平線の下へと沈み、生命の象徴であっ
この故に、神託を得るために行われる神楽の術式は、我
た卵は捧げられ死者となる。
が占術の理論と相違なく、完全な物であると言えるのだ。
杯に満たされた美酒はことごとく飲み乾され、今を栄華
と咲き誇った花は散る。
儀式とはかくあるべきものである。
○ TIPS17:第三十六回 東方文化比較研究
会資料 より
条件:特になし
○ TIPS15:花坂祭りに見る里神楽の特徴
条件:特になし
対象:特になし
目的:二面性というキーワード、桜=巫女→命の女神=【花
対象:特になし
目的:対の女神を出すことで、生死の対比を意識させる
演出:
【TIPS17:第三十六回 東方文化比較研究会資料 より】
坂美咲】
日本には、死の起源を説明する神話が二篇あるが、この
演出:
うちコノハナサクヤ神話はオセアニアに伝わるバナナ型神
【TIPS15:花坂祭りに見る里神楽の特徴】
話の類型であると見做す事ができる。詳細は後述するが、
首記、花坂祭りの神楽だが、その形式は確かに御神楽之
主な類似点として、イワナガヒメが石のような女神であっ
儀と似ている。すなわち、本方、末方二部による声楽を主
た事は、バナナ神話で選ばれないのが石である事と通じる
体とし、打楽器はそれぞれに対応する笏拍子二対のみを用
ものであるし、物語が石と寿命あるものの選択であるとい
いること。他に楽器は和琴、篳篥、神楽笛のみを用いる事
う点でも類似している。
などである。しかしその内容は、全くの独自性を持ったも
確かにコノハナサクヤヒメはバナナのような食物ではな
のである。
いが、より望ましいもの、刹那的に魅力ある選択肢として
これは花坂神社の神楽の主体が、死者の魂を桜に祀り、
の役割は果たしていると言える。
慰める事にあるためと考えられる。
続けて、両者の詳細な類似点について比較してみたい。
神楽に先立って、三年以内に死んだ者の名前を書いた紙
人形を用意し、祀る。また他の死者はまとめてひとつの御
幣に表しているようで、これは神をあらわす御幣とは別に
○ TIPS18:花坂神社の祭神
条件:特になし
用意され、同様に祀られている。この祭りの主体は死者な
対象:特になし
のだ。
目的:花坂神社の歴史によってキャンペーン全体を暗示
神楽のはじめに、神社の巫女が務める人長は死者を招く
祝詞をあげる。この時の人長の装束もまた独特で、まず、
演出:
【TIPS18:花坂神社の祭神】
榊の代わりに桜を用い、巫女がご神木である桜と一体であ
興味深い事に、古代の文献には花坂郷、あるいはその近
る事を強調している。また、おそらくは鬼面であろう恐ろ
辺に、イザナミを祀る神社があったという記述は、いっさ
しい顔をした面を被る点は、神というよりはむしろ死者に
い見つかっていない。花坂神社の名称は、戦国期の史料に
近い印象を受ける。
もその名前を見る事ができるが、その祭神がイザナミとさ
その面は神楽の間つけられ、場に招かれた死者を饗応し、
れているのは、江戸中期の史料が最初である。しかし、花
慰めている間も被っている。しかし最後に人長は面を外し、
坂神社の建物などを見るに由来は古く、ご神木など、少な
装束を改めて、死者の魂がこちらの世界でなくあの世で安
くとも鎌倉期には原形があったものと考えられるのだ。
らぐように祝詞をあげて、神楽を終えるのだ。
一方、先に上げたいくつかの古代の史料では、イワナガ
花坂神社の祭神はイザナミとされているが、この女神の
ヒメを祭神とする神社がこの地方にあった、とする記述が
二面性をよく表した神楽と言えないか?
共通して見られている。現代には残っていないこの謎の神
社こそ、花坂神社の原形ではないだろうか?
イワナガヒメを祀るその神社は、不老長生を祈願するも
157
のであったが、現在、花坂神社の祭神であるイザナミもま
た、生命の女神としての側面を持っている。また、多くの
神社でイワナガヒメはコノハナサクヤヒメと一緒に祀られ
◎ TIPS21:ある日の言葉
条件:
【花坂美咲】ルート「3 月 24 日(火)
」
ている事から、花坂神社も同様の形態であったのではない
対象:PC ①
かと推測される。神社のご神木とされている木が、桜であ
目的:
【花坂美咲】の記憶
るのもこの説を裏付けるものである。二柱の女神と同様の
機能を一柱で有するイザナミが、時代の流れとともに祭神
として置き換わった、と考えれば、あり得ない話ではない。
演出:
【TIPS21:ある日の言葉】
その頃には君は気付いていたと思う。
この少女が自分と、少なくとも自分の家と浅からぬ縁を
○ TIPS19:第三回発掘品調査の報告
持つ少女だということを。
条件:特になし
彼女は神社の跡取り。そして自分もまた本家の跡取り。
対象:特になし
近しい境遇と近しい家柄。
目的:
【花坂美咲】の名前【みちる】に関するヒント
きっと少女も気付いていたと思う。
演出:
自分たちが、同じ土地で同じ時間を過ごしていくのだと
【TIPS19:第三回発掘品調査の報告】
いうことを。
スサノオと結婚したコノハナチルヒメについては、従来
ふたりでよく笑い、よく泣き、よく喧嘩して。
より、イワナガヒメの別名であるとする説と、その妹神、
そして……よく並んで過ごした。
コノハナサクヤヒメと同じであるとする説とが論じられき
それが、あたり前のことだった。
あたり前のことだと思っ
た。しかし、今回出土した木片の二面女神は、姉妹神が二
ていた。
面性を持った一人の女神としてとらえられていた可能性を
示しており、後者の説を補強する重要な史料と言える。引
き続いての年代測定と、対象の特定が望まれる。
だから、きっと憶えてる。あの日、少女が呟いた言葉。
「ボクたちは、アトトリなんだよね」
その言葉は、ともすれば哀しげで、儚げで。
でも、少女は真っ直ぐに、桜の木を見上げていた。
◎ TIPS20:出会い~穏やかな日差しの下で
だから、君も……。
条件:
【花坂美咲】ルート「3 月 23 日(月)」
きっと君たちは気付いていた。
対象:PC ①
自分たちの世界に。染み込んで染まっていくものに。
目的:
【花坂美咲】の記憶
巡る季節のように変わらない連なりに。
演出:
【TIPS20:出会い~穏やかな日差しの下で】
それは昔々。まだ小学校に上がるよりも前の話。
◎ TIPS22:約束
条件:
【花坂美咲】ルート「3 月 25 日(水)
」
日のあたる縁側が、やたらと綺麗だったのを憶えている。
対象:PC ①
その光のなかで。君は初めて、その少女と出会った。身
目的:
【花坂美咲】の記憶
の丈に合わせた小さな千早と朱袴の出で立ちは一見人形の
ようでもあり、子供心にちょっと神秘的な印象を受けたも
のだった。
もちろん、その第一印象は数分後には脆くも崩れ去った
演出:
【TIPS22:約束】
それは唐突だったのだろうか。
「うん。そうだ」
わけだが。
下校中、制服姿で桜を見上げていた彼女が、突然切り出
少女は、どこまでも呑気で、他愛もないことをよく喋り
した言葉。
……そしてそれ以上に良く笑った。
その名のとおり、人懐こく、溢れんばかりの笑顔。
彼女の気まぐれはいつものこと。でも、
あの日のそれは。
「うんうん。そうだよ! 今年の桜は今年だけ! だよね?」
ちょっと変だが、決して不快ではない。
いつもなら、その奥にいたずらっぽいなにかを秘めてい
それが、その少女との邂逅だった。
るはずのその瞳は、
なぜかそのときだけは輝いて、
透き通っ
それは昔々。まだ小学校に上がるよりも前の話。
まだ、君たちが家とも宿縁とも無縁だった頃の小さな思
い出。
て見えた。
「うん。決めた。ボクは永遠なんて認めない。いままでがどう
であろうとかまわない。ボクはボクの夢を接ぐ。だから……」
言って、彼女は君に小指を差し出す。
「……だから、約束して。決して逃げないって。その答え
がなんであれ、自分自身で選んで進むって」
それは唐突だったのだろうか。
それとも……。
彼女は知っていたのだろうか。
◎ TIPS23:ユメツギ
条件:
【花坂美咲】ルート「3 月 26 日(木)
」
対象:PC ①
158
目的:
【花坂美咲】の記憶
演出:
【TIPS25:調理メモ(里芋の煮っ転がしの作り方)
】
材料
【TIPS23:ユメツギ】
出汁
「そ。忘れないでね」
水:湯呑に二杯
真っ直ぐな長い黒髪を翻し、少女は振り返りざまに言った。
醤油:大さじ二杯
それは、忘れていた最後の欠片。
酒:大さじ二杯
「ユメツギが済んだら、ボクはご神体ってわけ。ふふ~ん」
味醂:大さじ二杯
得意げに胸を逸らすいつものしぐさ。そのなかにあった
甜菜糖:大さじ四杯(水飴なら味見すること)
いつもはないなにか。
里芋:六~八個
「でも、ボクは優し~い神様だからね。いままでどおりに
塩:少々
してあげるから」
いたずらっぽく笑ういつもの笑顔。その向こうに透けて
調理法
見えるなにか。
包丁で里芋の皮をむく。
「そうしたら……ボクはハナサカミサキ……になるわけだ
鍋に塩水で湯を沸かす。沸いたら里芋を沈め中火で五分
から……だから、美咲って呼んでくれてもいいよ」
煮る。
弾むような声。その軽さの底に潜むなにか。
五分したら、笊にあけて一回水洗い。
そう、それは忘れていた最後の欠片。
鍋に出汁を入れて里芋が浸かるように並べ、
煮る。
煮立っ
さらさらと、散らばっていた黒髪がひとつにまとまって
たら落し蓋をしてさらに十五分煮る。焦げないように注意
いく。
しながら芋を転がして満遍なく色づくように出汁が減るま
はじまりのはじまり。
で煮る。塩で味を調整すること。
そして、おわりのはじまり。
▽ TIPS24:鬼
○ TIPS26:注文書(白無垢)
条件:特になし
条件:
【花坂美咲】ルート「3 月 27 日(金)」
対象:PC ①
対象:特になし
目的:
【茅弦】の求めていた幸せ(=結婚)についての情報
目的:
【鬼】の正体を示す
演出:
【TIPS24:鬼】
演出:
【TIPS26:注文書(白無垢)
】
丸亀屋
なんだろう、心のなかがもやもやする。誰かがささやき
かけている。
白 緞子 打掛 壱
「なんで皐月とさよならしなきゃいけないんだ」
白 羽二重 振袖 壱
「なんで茅弦とさよならしなきゃいけないんだ」
白 長襦袢 壱
なんだろう、心のなかがどろどろする。誰かがザワザワ
白絹 綿帽子 壱
騒いでいる。
身丈 伍尺伍寸
「冗談じゃないぞ、冗談じゃないぞ、冗談じゃないぞ」
裄 壱尺八寸
「捕まえろ、手を放すな、まだまだ一緒に居たいだろ?」
誰だ、誰だ、わめいているのは。誰だ、誰だ、聞きわけ
昭和17年3月23日
のないのは。
「誰だって? 誰かって? 決まってるじゃないか、判っ
ているじゃないか」
「あたしはあんただ、オレはキサマだ、お前だ、お前だ、
お前に決まっている」
ああそうか、これは自分自身に決まってる。
こんなに切ない願いは、この心から出てきたものに決
◎ TIPS27:ガリヴァー旅行記目次
条件:特になし
対象:PC ①、PC ②
目的:
【茅弦】の生前の趣味についての情報
演出:
【TIPS27:ガリヴァー旅行記目次】
まってる。
小人の国リリパツト……………………………四頁
■【茅弦】TIPS
巨人の国ブロブデンナグ……………………三七頁
◎ TIPS25:調理メモ(里芋の煮っ転がしの
作り方)
空飛ぶ国ラピウタ……………………………六二頁
条件:特になし
(↑行ってみたい)
まほう使いの国グラブダブドリツブ………九三頁
対象:特になし
目的:
【茅弦】が真面目に花嫁修業にいそしんでいたこと
日本…………………………………………一三〇頁
の情報
(↑いつ頃だろうか)
演出:
賢い馬の国フウイヌム……………………一四七頁
159
◎ TIPS28:源蔵のアイルランド・メモ
○ TIPS30:編集者の日記①
条件:特になし
対象:特になし
条件:特になし
目的:
【源蔵】の人となりを示す
対象:PC ③(いない場合、PC ②)
演出:
目的:
【茅弦】が生きていた時代背景の情報
【TIPS28:源蔵のアイルランド・メモ】
演出:
【TIPS30:編集者の日記①】
愛蘭…英吉利の西側にある島国
美しい土地。欧州では風景が人気
昭和二十年七月二十五日
欧州の西端の島国。比較的辺境。穏やか
本日、午前六時起床、定時に工場労務。工場作業終了後
辺境→昔話が多く残る。→欧州文学に多く影響を与えている。
に出社。交替のフミ君から、私宛に手紙が来ていたと告げ
トリニテー大学→文豪多い
られる。宛名は「児童文学編集部御中」とあったが、フミ
食べ物、馬鈴薯、鮭(←鍋か)
君はこの宛名ならば私宛のものだろうと判断し開封しな
海豹→海豹の妖怪も
かった模様。相変わらず律儀な子である。手紙は十八にな
る少女からのもので
「お話童話集」
の続刊を求める内容だっ
○ TIPS29:お話童話集続刊のお願い(手紙)
た。久しぶりの愛読者からの手紙に奮起するものを感じ、
条件:特になし
フミ君に断って第十巻の原稿を持ち帰ることにする。同じ
対象:特になし
年頃の子からの手紙故か、フミ君も二つ返事で渡してくれ
目的:
【茅弦】の生前の人柄についての情報
た。「社屋がいつまでも無事とは限りませんし」との言葉
演出:
は笑えなかったが、期待してくれるという笑顔に励まされ
【TIPS29:お話童話集続刊のお願い(手紙)】
る。帰宅後、食事を後に回して貰い一時間の校正。夕食後、
拝啓
幸代に頼んでブリキ缶を一つ分けて貰う。
焼け石に水だが、
春暖の候、益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。
火の粉くらいは避けられると期待。午後十時就寝準備。本
さて、このたびお手紙をさせていただきましたのは、去
日空襲なし。
る昭和十二年から文集として貴社より刊行いただいており
ます『お話童話集』についてでございます。私が最初にこ
の童話集に出会いましたのは昭和十三年、まだ私が十一歳
○ TIPS31:編集者の日記②
条件:特になし
になったばかりの頃でした。恥ずかしながら当時から私は
対象:PC ③(いない場合、PC ②)
あまり身体が丈夫ではなく、寝込みがちな生活をしており
目的:
【茅弦】が生きていた時代背景の情報
ましたが、毎夕兄が枕元で読んでくれるこの童話集が楽し
みで、それが強い励みになっていたことを憶えております。
演出:
【TIPS31:編集者の日記②】
以後、自分で起きて本が読めるようになった後でも、続刊
昭和二十年九月一日
を楽しみに毎巻読み進めて参りました。しかし、一昨年、
本日、午前七時起床。定時出社後、午前中は午後からの
毎年発刊されてきたこの童話集が最終巻の刊行を前にして
会議に備えた準備に終始。正午より企画会議。この席で長
発刊が止まっております。この戦時下のことです、ご事情
らく中断していた『お話童話集』の続刊を提言するも編集
がおありなのだろうとは思います。国民が一丸となり、国
長の腰は重い。国難とも言えるこの時期ならば、むしろこ
を護らなければならないこの時期に何を呑気なというお声
れからの国家を論じて人々の希望を示すような図書を発行
もありましょう。しかし、この時期だからこそ、国民に子
するべきであり、子供向けの児童文学を出しても読もうと
供達に励みが必要なのだと、私は思います。私は病に冒さ
する者はいないだろうというのがその主張。自由に図書を
れ今日一日もままならぬ身です。
皆様のお力になることも、
発行できるようになった今こそ、続刊を求めている読者に
お国の役に立つこともできません。誠に恥ずかしい限りで
応えるべきである旨を主張するが、会議は平行線を辿る。
す。けれどもそんな私にさえも、この本は励みをくれまし
午後三時に一時休憩。午後四時から再開と聞き、長丁場に
た。生きようとする気持ちをくれました。ですから、どう
備えて食事を取る。その間、西岡らから肯定的な意見を得
かその気持ちをもう一度、私たちにいただけないでしょう
て大いに力づけられるとともに、午後四時からの会議には
か。この国が頑張らなくてはいけない今だからこそ、『お
社長が出席するという情報を得る。午後四時、編集会議再
話童話集』最終巻の刊行をお願いしたいと思う次第です。
開。機先を制して件の少女からの手紙を読み上げる。西岡
誠に勝手なお願いをいたしまして恐縮ではありますが、こ
らの援護もあり、場の流れを得た。この件は社長預かりと
の童話集を愛するものの一人としてどうしてもこの気持ち
なり午後六時に会議は終了。午後七時帰宅。夕食後、
校正。
をお伝えしたく、筆を執らせていただきました。
本日の会議のためか興がのり、午後十時過ぎまで続けてし
大変な時期ではございますが、何卒よろしくお願いいた
まう。幸代に、管制がなくなったとはいえ、夜更かしする
します。これからも皆様のご活躍と貴社の益々のご発展を
のはいかがなものかと説諭され、本日の校正を終了。午後
お祈りいたしております。
十一時就寝。
敬具
昭和二十年七月十八日
■■ ■■
○○書房児童文庫出版部 御中
160
○ TIPS32:編集者の日記③
条件:特になし
対象:PC ③(いない場合、PC ②)
目的:
【茅弦】が生きていた時代背景の情報
伝統医学やアロマテラピー・音楽療法などの各種療法、民
演出:
間療法などが含まれる。経験的な効果に頼るものが多く、
【TIPS32:編集者の日記③】
科学的な検証が進んでいないことからしばしば非科学的・
昭和二十年十二月二十日
迷信的といわれることが多かったが、漢方薬や鍼灸など一
本日、午前六時起床。定時出社後、午前中から前日に引
部のものは、近年様々な形での効果の実証・裏付けが進み、
き続いて印刷所の打診に回る。いずれの印刷所も稼働状態
医療の一分野としての立場を確立しつつある。
は悪く、充分に稼働している所については大手新聞社を中
心に受注が集中している様子で、難航。馬込周辺まで足を
伸ばすが、結局色よい返事を得ることはできなかった。午
○ TIPS35:輸血治療について
条件:特になし
後二時帰社。西岡から有田先生とは未だ連絡がつかない旨
対象:特になし
聞かされる。ふとフミ君のことが思い出されて、暗鬱たる
目的:
【茅弦】が血を呑むに至った背景の説明
気分になるが、自分に活を入れて引き続き関係者へ連絡を
求める手紙を作成する。午後六時退社。あまりに陰鬱な顔
演出:
【TIPS35:輸血治療について】
をしていたのか、西岡・久保田に誘われ屋台で一杯呑む。
激励を受けて若干気が晴れ、午後八時に帰宅。幸代から小
昭和八年六月一日
病棟各位
言があるも、事情を察してか短い。カストリが効いたかあ
市立花坂病院長 ○○ ○○
まり調子出ず。午後九時過ぎに就寝。
輸血治療ノ件ニツイテ(告示)
本年四月一九日実施ノ院内会議ニテ上申ノアッタ輸血治療
◎ TIPS33:お話童話集 奥付
ノ件ニツイテ、下記ノ如ク定ルモノトシタノデ告示スル。
条件:特になし
記
対象:PC ③(いない場合、PC ②)
一 決定 当院ニ於ケル輸血治療ニツイテハ此ヲ実施シナ
目的:
【茅弦】の願いが生前には叶わなかったことを象徴
イ。
的に示す
二 理由 当該治療ニツイテハ、去ル昭和五年ノ浜口前首
演出:
相狙撃事件ニ於イテ衆人ノ認知スル処トナリ、当院ニ於イ
【TIPS33:お話童話集 奥付】
テモ一部医師ヨリ実施ノ要望ヲ受ケシモノデアルガ、アク
お話童話集 十巻(完)
マデモ先進的・実験的医療ノ域ヲ出ナイ危険ナモノデアル
昭和二十一年十月二十日初版発行
為、患者ノ安全ヲ第一トスル当院トシテハ此ノ実施ハ行ワ
著 者
ナイ。
訳 者 有田 一郎
修訂者 金川 昇
発行者 株式会社 ○○書房
昭和八年六月一日
病棟各位
印刷社 有限会社 ××印刷
市立花坂病院長 ○○ ○○
発行所 株式会社 ○○書房
人事異動ノ件ニツイテ(告示)
東京都千代田区神田神保町○ノ×
本年六月一日付ケヲ以テ下記ノ通リ職員ノ異動ヲ行フモノ
電話 ○○○ - ××××
トシタ為、此ヲ告示スル。
(以下、余白に手書きの文章あり)
記
茅弦賛江
○○ ○○ 内科医師(血液学)
○○県××村△△出張所
ご愛読に感謝を込めて、この本を贈ります。
○○ ○○ 内科医師(血液学)
××県○×村□□療養所
貴方のお手紙から、この本の出版は決まりました。
本当にありがとう。
○ TIPS36:自治会だより 昭和 39 年 第9号
条件:特になし
金川 昇
対象:特になし
目的:花坂町における輸血治療の遅れについての情報
○ TIPS34:代替医療(Alternative Medicine)
演出:
条件:特になし
【TIPS36:自治会だより 昭和 39 年 第9号】
対象:特になし
『黄色い血の追放運動~血液銀行を利用しないようにしま
目的:
【茅弦】の生前の治療に関する予備知識
しょう!~』
演出:
このたび、政府の閣議決定で輸血のための血液は、献血
【TIPS34:代替医療(Alternative Medicine)】
というかたちで善意の個人からの提供を募ることとなりま
だいたい - いりょう【代替医療】(医療)〈名詞〉
した。輸血は大怪我の治療には欠かすことのできない大切
同義→「補完医療」
「相補医療」
な治療法ですが、輸血される血液が安全なものでなければ
通常医療ではない分野の医療或いは医療行為のこと。正
大変な病気に感染してしまうことがあります。血液銀行の
式には「補完代替医療(Complementary and Alternative
預血制度も順次廃止の予定です。きちんとした医療機関で
Medicine:CAM)」と呼ばれる。現代西洋医学の領域で科
安全な献血を心がけましょう。
学的に未検証な分野の医学の総称で、漢方薬や鍼灸などの
また、輸血だけでなく飲血に供するための売血もしない
161
ようにしましょう。飲血で輸血に代わる効果があるという
ことについては科学的な根拠はまったくありません。病気
の時には、正規の病院或いは保健所できちんとした治療を
受けて下さい。
花坂町保健所 地域健康促進係 担当 ○○
○ TIPS39:日記①
条件:特になし
対象:特になし
目的:
【茅弦】の生前の様子と死に至るまでの経過
演出:
○ TIPS37:偽薬効果(Placebo Effect)
【TIPS39:日記①】
条件:特になし
今日は比較的落ち着いているため、
午前中から起き出し、
対象:特になし
家事の手伝いを行う。当初ハツさんは、私に寝ているよう
目的:
【茅弦】が受けた治療の効果についての予備知識
に言っていたが、花嫁修業のためにとお願いしたら諦めて
演出:
くれた。久しぶりに台所に立ち料理。ハツさんがとってお
【TIPS37:偽薬効果(Placebo Effect)】
きと言って出してくれた茄子と豆腐で田楽にする。兄さん
ぎやく - こうか【偽薬効果】
(医療)( 心理 )〈名詞〉
の評判は上々。久しぶりに嬉しい。午後からは読書をしよ
同義→「プラセボ効果」
「プラシーボ効果」
うと思い兄さんの書斎へ。本棚を見ていてつくづく新刊本
類似→「ノセボ効果」
の少ないことを実感する。兄さんのように英文か独文でも
薬の処方において、本来薬理的な効果をもたない偽薬で
読めるようになれば、だいぶ幅が広がるのだろうけれど、
あっても、患者がその薬効を信じることで擬似的な効果を
残念ながら当分は無理だろう。結局、
『宮本武蔵』を借り
得ること。偽薬効果と訳されるが、薬以外の治療法や医師
てきて再読することに決める。相変わらず、おつうさんに
に対しても発生する。暗示による効果であると言われてい
憧れる。ああいう、健気で優しい人になりたいなと思うけ
るが、現在ところまだはっきりしたことはわかっていない。
ど、私ではなかなか。一巻を読み終えたところで兄さんに
新薬の試験などではこうした効果を踏まえ科学的に効果を
言われて布団に入る。確かに、気がつくとだいぶ躰が冷え
検証するために二重盲験法が使用されている。
ている。夕食は兄さんの指示で粥。
ちょっと大袈裟だと思っ
たが、兄さんが難しい顔をするので黙っておく。
◎ TIPS38:源蔵日記(茅弦の容態について)
条件:特になし
対象:特になし
○ TIPS40:日記②
条件:特になし
目的:
【茅弦】が治療に至るまでの経過の説明
対象:特になし
演出:
目的:
【茅弦】の生前の様子と死に至るまでの経過
【TIPS38:源蔵日記(茅弦の容態について)】
本日、晴天。陽気な気候であるため、茅弦の部屋の窓を
演出:
【TIPS40:日記②】
開けてやる。朝食はめざしと蕪の味噌汁。自分の分を平ら
今日、往診があって○○先生が見えた。先生が言うには、
げた後、茅弦の枕元へと運んでやる。茅弦が倒れてから本
電車がしばしば寸断されて薬が充分に入ってこないとのこ
日で三日目。血色は多少よくなった様子はあるものの相変
と。今後は生薬を使って治療をしていくという話しだった。
わらず立ち上がると眩暈が酷く、三歩と歩けない。本人は
先生は早速生薬というのを出してくれたけど、湯呑みに入
寝ていては病が進む一方としきりと起きようとするが、そ
れて出されたのは赤黒くて独特の臭いのするどろどろした
の度に叱って寝かしつける。どうやら、二度と立てないの
ものだった。先生が色々と成分だとか薬効だとかを説明し
ではないかと不安を抱いている様子。大人しくしている条
てくれたけど、私はとても呑む気にはなれなかった。だっ
件で久しぶりに枕元で本を読んでやる。自分でも読める癖
て、あれはきっと血だ。先生があまりにしつこく言うので、
に幾つになっても本を読んで貰うのを好む。年頃だという
形だけでもと口をつけたけど、あまりの臭いにむせそうに
のに稚気の抜けないことだとやや呆れるが、本を読もうと
なった。結局、先生と兄さんが強く言うので、鼻を摘んで
躰を起こして背中を冷やすことを考えれば、寝たままで
一口呑んだ。泣きそうになった。すぐに何度もうがいをし
じっとしていてくれた方がよい。正午過ぎに医者が回診に
たけれど、口の中に臭いが残って気持ちが悪い。兄さんが、
訪れる。容態を聞くとやはり芳しくないとのこと。花坂で
特別にういろうを出してくれたけど、とても食べる気には
は輸血の技術は遅れており、
輸血による処置はできない旨、
なれなかった。私は一体何なんだろう。病気がちで、みん
説明を受ける。他の街へいって受けることができないかを
なの役にも立てず、あまつさえ生き血まで啜って生き延び
尋ねたが、今の体力では移動は却って危険とのことだっ
ようとしている。今も喉の奥に残っている後味が気持ち悪
た。滋養分と血液の補充のため来週から飲血治療を始める
い。食欲がなく、食べなかったためだろうか、なんだかと
とのこと。南の方では蛇や鼈の血で強壮を図るという話だ
ても、さむい。
が、医薬とはいえ血を呑むということはなんともぞっとし
ない。悩んだが、このことは茅弦には伝えないこととする。
容態の芳しくないときに無理に気の重い話をするべきでは
○ TIPS41:日記③
条件:特になし
ない。夕刻、茅弦昏倒。取り急ぎ往診医を呼ぶ。注射によ
対象:特になし
り安静を取り戻す。取り敢えず命に別状はないとのこと。
目的:
【茅弦】の生前の様子と死に至るまでの経過
そのまま寝かせておく。
演出:
【TIPS41:日記③】
162
今日は、晴。朝から布団を干そうと思って運んだら縁側
さんは、寄り合いで食べたからと自分の分を置いていって
で躓いてしまう。布団のお陰で特に怪我はなかったけれど、
しまった。折角なので、ハツさんのとっておきのお菓子箱
お日様と布団がとても気持ちよかったのでしばらくそうし
にしまっておいて貰う。夕食後、
寒くて早めに布団に入る。
ていたら、ハツさんに叱られてしまった。朝食後、生薬を
眠くなってきたので今日は早めに寝ることにする。
呑む。臭いは相変わらずだけど、だいぶ馴れてきて今日は
全部呑めた。食事後、立ち上がっても立ちくらみもないた
め、そのまま家事を手伝う。兄さんもハツさんも、だいぶ
○ TIPS43:日記⑤
条件:特になし
顔色がよくなったと褒めてくれたので、思いきって散歩に
対象:特になし
行きたいと頼んでみたら意外なことに了承してくれた。と
目的:
【茅弦】の生前の様子と死に至るまでの経過
ても嬉しかった。午後から兄さんについて散歩に出かけ
る。久しぶりの外はすっかりと夏になっていた。駅の方は
演出:
【TIPS43:日記⑤】
闇市ができているということで、兄さんはそっちには連れ
今日は雨。気がつくと布団の中にいた。夢だったのかそ
て行ってはくれなかった。代わりに田んぼの方をぐるりと
れとも本当にそうだったのか、頭の中が呆としてはっきり
回った。日差しが強くてとても暑かったけど、兄さんのく
しない。けれど、起きると兄さんが枕元にいて、すごい勢
れた帽子のお陰か、眩暈を起こすようなことはなかった。
いで怒られた。どうやら、昨日の夕方から闇市の辺りをふ
川では、足を水に入れてちょっとの間涼んだ。魚が泳いで
らふらと歩いていたらしい。確かに、昨日醤油が足りない
いるのを見るのは久しぶり。田んぼには蛙がちょこんと
という話しを聞いて、
花坂さんのところなら、
と一人でこっ
座っていてとても可愛らしかった。何より、遠くから近く
そり取りに出かけたのは憶えているのだけれど。それから
から、周り中に響いている蝉の声。天は永く地は久し。こ
どうしたのだろう。よく思い出せない。ただ、兄さんが本
の空はずっとどこまでも続いているんだな、と思わず納得
気で心配している様子がわかったので、素直に謝っておい
してしまった。一時間ほど外を歩いて、家に帰るとハツさ
た。何だろう、最近調子はよいのだけれど、時々ちょっと
んが西瓜を切ってくれた。お腹が冷えるからといつもは食
ぼんやりすることがある。そんなとき、決まって私の中で
べさせてもらえないけど、今日は特別。甘くて、瑞々しく
は言いようもない不気味な気持ちでいっぱいになる。なん
て美味しかった。夕食後、一時間ほど読書。気分が弾んで
だかわからないのだけれど、何かとても怖い。遅めの朝食
いたので久しぶりに『熊のプーさん』を読む。一人でくす
の後、生薬を呑む。だいぶ馴れてきたと思ったのだけれど、
くす笑っていたら、兄さんに変な顔をされてしまった。久
不意に吐き気がこみ上げて一息には呑めない。休み休み何
しぶりに、とても愉快な一日だった。どうか、こんな日が
度かに分けて、やっと飲み干す。起きて手伝いをしようと
続きますように。
思ったけれど、兄さんとハツさんに止められた。今日は一
日寝ていなさいとのこと。確かにあまり調子はよくないけ
○ TIPS42:日記④
ど、寝ていた頃ほどではない。昨日のことで、そんなに心
条件:特になし
配させてしまったのだろうかと反省する。昼過ぎ、手洗い
対象:特になし
から戻る途中、洗濯籠に入っている着物が目に止まる。そ
目的:
【茅弦】の生前の様子と死に至るまでの経過
の襟元には何か赤いものがべったりとこびりついていて、
演出:
不意に気分が悪くなり、慌てて部屋に逃げ帰った。途端、
【TIPS42:日記④】
何かとても寒くなる。おかしい。この躰はとても寒い。あ
今日は、
しんと冷え込んだ感じがしたので窓を開けたら、
の着物は昨日私が着ていたものだ。
だとすれば、
あれはいっ
雪が積もっていた。また朝が静かな季節がやって来たのだ
たい何なのか。よくわからない。でも怖い。布団の中で震
なと、ちょっと感傷に浸っていたら、兄さんに早く窓を閉
えていたら、ハツさんがお茶を持ってきてくれた。暖かい
めるようにと叱られてしまった。朝食後、生薬を呑む。今
湯呑みをもらった途端、震えが止まる。ハツさんとしばら
日は一息で呑めた。午前中はハツさんの手伝いをし、その
く話しをしていたら、だいぶ落ち着いた。その後は震えは
後新聞の連載小説をまとめて読み進める。昼過ぎに、兄さ
なくなる。ハツさんが去った後、少し横になっていたらい
んが街から戻る。町内会の寄り合いだったらしいが、お土
つの間にかうたた寝をしてしまって、気がついたら夜だっ
産に猪口冷糖を持ってきてくれた。早速ハツさんと一緒に
た。疲れていたのだろうか。兄さんと粥で夕食を取った後、
お茶請けに。見慣れない舶来のものだとは思ったけど、食
そのまま休む。
べてみたら甘さと苦みが一緒になって、けれでもまろやか
で、とても不思議な味がする。兄さんが言うには国産の猪
口冷糖は百合根や大豆で作った代用品で、こういう舶来の
○ TIPS44:日記⑥
条件:特になし
ものが本物の猪口冷糖なのだとか。そういえば昔、お祖母
対象:特になし
様から猪口冷糖は牛の血を固めたお菓子だと聞いたことが
目的:
【茅弦】の生前の様子と死に至るまでの経過
あったけど、ということはこれが実物ということか。何と
いうか、心憎い味だ。生薬もこういう味だったらよかった
演出:
【TIPS44:日記⑥】
のに。食べ終わって余韻に浸っていたら、兄さんが苦笑し
朝、目を覚ますと鶯の声が聞こえた気がする。だいぶ春
ながら自分の分もすすめてくれた。そんなに物欲しそうな
めいてきたからだろうか。寝起きの頭でそんなことを考え
顔をしていたのだろうか。恥ずかしかったので辞退したら
ていたら、ハツさんが起こしにきた。まだ、すこしぼんや
ハツさんと兄さんに思いっきり笑われてしまった。結局兄
りしていたが起きて家事の手伝いをしているうちにだいぶ
163
目が覚めた。朝食後、いつもの生薬を一杯。今日は一息で
は正気ではない。だから、兄さんもハツさんもきっと私に
飲み干すことに成功。午前中、兄さんが桜祭りの打ち合わ
はもう近寄らない。独りぼっち。ひとしきり笑ったら急に
せということで花坂神社へ出かけるとのことだったので、
寒気がこみ上げて、
震えがくる。寒い。布団にくるまるが、
散歩がてら連れて行ってほしいと頼むと、ハツさんと一緒
まったく暖まらない。それはそうだ、この躰が寒いのだか
なら、という条件で認めてくれた。久しぶりに 3 人で外出。
ら。寒い。不意に思い出す。血を啜ろうと人肌に口をつけ
思えば、神社にいくのも久しぶりだった。神社につくと兄
るときの生々しい暖かさ。泣きたくなる。けれど、寒い。
さんは打ち合わせということで社務所の方にいってしまっ
欲しい。枕に溢れる涙だけが、ほんの少し暖かい。でもす
たので、私はハツさんと一緒に神木に詣でさせてもらった。
ぐに冷えていく。欲しい。せめて、この涙が尽きる前に。
桜は一分咲きといったところで、まだ咲き始めだがとても
綺麗だった。花坂の桜を見るのも何年ぶりだろうか。前に
見たのは桜祭りに来たときだから 7 年前くらいだ。あの
◎ TIPS46:新聞記事(夜叉媛事件)
条件:特になし
頃は、桜を見ることができるというのがこんなにも嬉しい
対象:PC ①以外
ことだとは思わなかった。久しぶりに見る桜は薄桃色に色
目的:
【茅弦】の最期についての情報
づいてとても艶やかに見えた。ものの本によれば「桜の木
演出:
の下には死体が埋まっている」ということだけど、だとす
【TIPS46:新聞記事(夜叉媛事件)
】
ればこの木と私の違いは何なのだろう。私は、どうしたら
『昭和の夜叉姫、身内より討ち取られる』
この木のように、綺麗になれるのだろうか。そんなことを
三月二十七日未明、花坂町社橋駐在所に男が「花坂神社
考えているうちに、
いつの間にか兄さんが帰ってきていて、
境内で妹を打ち殺した」と出頭してきたため。駐在所巡査
こちらの様子を微笑ましそうに見ていたので、不意に気恥
が現場を確認したところ、十七、八と見られる少女が十前
ずかしくなってしまった。どうもかなり熱心に見惚れてい
後の童子を抱いて絶命しているのを発見した。これを承け
たらしい。終わったなら声をかけてくれればいいのに。ハ
て花坂署は三十日早朝この男を殺人の容疑で逮捕した。男
ツさんも。昼過ぎに帰宅。午後は、兄さんの部屋から『ア
は、□□家の長子□□源蔵(二十九)
。打ち殺されたのは
イルランド民話集』
という本を借りてくる。妖精達の話だっ
その妹茅弦(十八)
。抱かれていた童子は軽傷を負ったも
たが、日本の話にも似たような話があるなと不思議に思っ
のの無事だった。取り調べに対し、男は常々妹の病を不憫
た。ところでアイルランドってどこだろう。兄さんに聞い
に思っており、長くないのであればせめて妹が大好きな桜
たら、調べておくとのことだった。兄さんもよく知らない
の下で死なせてやろうと、桜が満開となる二十七日夜に神
らしい。夕食後、兄さんと桜の話をする。もうすぐ桜祭り。
社の神木の下に連れ出し、花に見とれている隙を狙って背
今年はいけるかもしれない。楽しみだ。
後から鉈で打ち殺したと供述。童子についてはその際、男
の凶行に気付き、咄嗟に割って入ろうとしたため、鉈が当
○ TIPS45:日記⑦
たり怪我を負わせたと話している。
条件:特になし
しかし、一方で童子は茅弦嬢との関与を否定し、自分が
対象:特になし
怪我をし気を失ったのは桜の木から転落したためだと述べ
目的:
【茅弦】の生前の様子と死に至るまでの経過
ているほか、医師の見立てによると茅弦嬢は正面から鉈で
演出:
打たれた可能性が高いことが指摘されていることなど、男
【TIPS45:日記⑦】
の供述と食い違うところも多いため、真相については疑惑
布団の中で目を覚ます。けれど、あれは夢じゃない。私
が持たれている。
は確かに昨日、闇市にいて、歩いている人達に血を分けて
□□家の近所の話では、茅弦嬢はその界隈では「夜叉
くれとせがんだのだ。間違いない。私は血を求めている。
媛」と呼ばれていたという。夢遊癖があり夜歩きが見られ
間違いない。私は、おかしい。考えてみれば当然だ。私の
たという話があるほか、夜道で出会った者に血をせがんだ
中には得体の知れない血が流れている。今まで “ 生薬 ” と
り、実際に口元から血を滴らせながら彷徨っていたりする
して飲み続けてきた得体の知れない血。豚なのか牛なのか、
ところを目撃した者もいるとのことで、その病はむしろ狂
それともヒトなのかもわからない、誰のものかも何を食べ
気に近いものであったのではないかと噂されている。□□
たモノかもわからない得体の知れない血が。どんな汚れが
家は、この界隈では古くからの名家であり、兄である源蔵
溶け込んでいるかもわからない血が。でもそれより何より
がこうした妹の行状を気に病んでいたという話もあること
も汚らわしいのは、それを呑まなければ生きていくことも
から、実際には源蔵が妹の凶状を止め、家名を守るために
できない自分。そうまでして、ヒトの生き血を啜ってまで
妹を打ち殺したのではないかという可能性が高い。
警察は、
生きている自分。昨日のあの人達は何て言っていただろう。
そうした背景を鑑みた上で男に対してより詳細な取り調べ
夜叉、そう、夜叉媛だ。前に聞いた話では西洋にもヒトの
を行っているが、男は一貫して当初の供述を続けていると
血を啜る鬼が居るとか。なんでも日の光に当たると灰に
いう。
なってしまうため、夜闇に紛れてこそこそとヒトを襲って
血を啜るのだそうだ。どこにでもいるのだ、そういう化け
物が。私もそうした類の化け物ということか。けど何の違
○ TIPS47:手記
条件:特になし
いがあろう。夜闇に紛れて街を徘徊し、夜鷹同然にヒトの
対象:特になし
血をせがむ。浅ましい。笑ってしまうくらい浅ましい。つ
目的:
【茅弦】を殺めたのちの【源蔵】の様子と悔恨
いつい声をあげて笑う。でも誰も来ない。当たり前だ、私
演出:
164
【TIPS47:手記】
甘味を口にする機会の少ない時代には、牡丹餅は御馳走
病監に移されて三日。咳は相変わらず止まらない。午前
であり、来客のもてなしや田植えのあとの寄り合い、法要
の医師診察の後、看守が来て枕元に花瓶を置いていく。な
などに供されていました。
んでも、病人の部屋には季節の花を置き、励ますことが定
小豆の赤色には災難を退けるまじないの意味があり、邪
められているとのこと。心遣いに感謝しつつも、花瓶に生
気を払う食べ物としての信仰がご先祖様のご供養と結びつ
けられた桜に、自らの因果を強く想う。
いたそうです。春の彼岸は農作業の始期、秋の彼岸は農作
命日まで七日。
物の収穫期にあたりますから、春には収穫をもたらす山の
神を迎えるために牡丹餅を、秋には収穫を感謝してお萩を
◎ TIPS48:死体埋葬許可申請書
作ったのでしょう。仏教の悟りの境地としての彼岸(彼の
条件:特になし
岸)と日本の祖霊崇拝とが合わさり、
牡丹餅やお萩を捧げ、
対象:特になし
先祖を慰め、自分自身の功徳を積むという習俗によるとい
目的:
【源蔵】の最期についての情報
うお話しもあります。
演出:
桜祭りに鎮桜堂の牡丹餅を:
【TIPS48:死体埋葬許可申請書】
ですから、牡丹餅は本来、神さまや死者に捧げる、あり
死亡者
がたい食べ物だったそうです。三月二十五日は、花坂のご
本籍:○○県花坂市花坂本町×丁目××番××号
先祖様をお悔やみする桜祭り。ご先祖様をご供養するため
住所:本籍に同じ
にも、桜祭りには、どうかお供に鎮桜堂の牡丹餅を。鎮桜
氏名:■■ 源蔵
堂では、国産の上質小豆をたっぷりと使い、上品な甘みに
生年月日:大正××年×月××日
押さえた牡丹餅をご用意致しております。ほかにも、きな
性別:男
粉、青海苔、ゴマ、ずんだなど、いかがでしょうか。ご供
死因 一類感染症 ○その他
養のあとは、ご先祖様に感謝をし、ご先祖様とご一緒に、
死亡年月日 昭和24年4月14日 午前4時12分
お召し上がりください。
死亡の場所 △△県△△市○×町○丁目○番 △△刑務所
埋葬年月日 昭和24年5月18日
埋葬の場所 ○○県花坂市花坂本町△丁目○○番 花坂神
社境内
◎ TIPS50:
『園芸小事典』
条件:特になし
対象:特になし
目的:
【郁縞皐月】の名前の由来の説明
上記のとおり申請いたします。
住所 ○○県花坂市花坂本町×丁目××番××号
演出:
【TIPS50:『園芸小事典』
】
申請者 ■■ ■■■
サツキ【皐月】
(学名:Rhododendron indicum)
死亡者との続柄 叔父
[→ツツジ科]の植物。ほかの[→ツツジ]に比べ 1 ヶ
月程度遅い、旧暦の 5 月(皐月)に一斉に咲き揃うとこ
昭和24年4月19日
ろからその名が付いたと言われる。別名は、サツキツツジ
(皐月躑躅)
。
花坂市長 殿
ツツジ類としては[→葉]が固くて小さく、茎には這う
性質が強い。
■【郁縞皐月】TIPS
本来は渓流沿いの岩肌に生育し、増水時に水を被っても
○ TIPS49:鎮桜堂本店の銘菓
その性質を利用し、山間部の農村では、棚田の段差部の
条件:特になし
石垣に生えることもある。
対象:特になし
繁殖が容易なことから[→園芸]で親しまれている。生
目的:牡丹餅とお萩との違いの説明
け垣や道路の植え込みなど、日本国内では最も多く用いら
演出:
れている庭木だという統計もある。
園芸では通常、
[→原種]
【TIPS49:鎮桜堂本店の銘菓】
引っかからないような低い姿勢で生育していた。
に近い[→高砂]
[→大盃]などの[→品種]が用いられる。
牡丹餅の呼び方:
牡丹餅とお萩、この違いがわかりますか? どちらも、
ツツジ【躑躅】
うるち米ともち米とを混ぜて米粒が残る程度に突いたもの
ツツジ科ツツジ属の植物の総称。
[→常緑]または[→
に餡をまぶした、俵状のお菓子ですね。これは、地方によっ
落葉性]の[→低木]
。山地に自生し、公園や庭園に広く
て呼び方が異なる場合と、季節によって呼び方が異なる場
栽植される。
[→葉]は互生。4、5 月、枝先に先端が 5
合とがあるそうです。鎮桜堂本店が店を構えておりますこ
裂した漏斗形の美しい花を 1 つ以上つける。
[→園芸]
[→
こ花坂では、季節によって呼び方を使い分けております。
品種]が多い。
[→ヤマツツジ]
[→ミヤマキリシマ]
[→
春の彼岸は、牡丹が花咲く季節だから「牡丹餅」。秋の彼
サツキ]など。
岸は、萩が花咲く季節だから「お萩」。ほかにも、夏は「夜
船」、冬は「北窓」という呼び方があるそうです。
ツツジ科【―・か】
小豆のご馳走:
双子葉植物合弁花類の一科。温帯・寒帯、まれに熱帯の
165
山地に生え、世界に約 50 属 1,500 種ある。[→低木]ま
いく。なのに、前にも増して胸が落ち着かない。
たは[→小高木]で、
[→落葉性]のものが多い。[→花]
何か気の利いたことを言おうと思いつつも、そんなこと
は[→両性]で、漏斗状ないし壺状で先端が 4、5 裂する
ができようはずもなく。
花冠がある。[→ツツジ]
[→シャクナゲ]
[→コケモモ]
[→
結局わたくしにできたのは、真摯な眼差しから逃れるよ
アセビ]など。
うに俯き、小さく、ぎこちなく頷くことだけだった。
◎ TIPS51:あいすくりん
◎ TIPS52:桜祭り
対象:PC ①
対象:PC ①
目的:
【郁縞皐月】のアイスクリームへの思い入れ
目的:
【郁縞皐月】の【桜祭り】への想い
条件:特になし
演出:
【TIPS51:あいすくりん】
「いや。あなたに、是非ごちそうしたいものです」
条件:特になし
演出:
【TIPS52:桜祭り】
桜の薫る参道を、肩を並べて歩いている。
宗治様のおっしゃることは、時々難しい。
賑やかな人混みと、参道に並んだ露店のざわめき。
元々、東京で勉学をなさった方なので、そもわたくしと
あの時と変わらない、
祭りの風景。
露店の売り物が変わっ
は中身が違うのだが、それにしても宗治様のおっしゃる、
ても、人の装束が変わっても、祭りの賑わいは変わらない。
文明開化というものはいつもわたくしを惑わせる。
全ては、あの時と同じ。あの時と同じように……わたく
聞いていると、とても夢物語としか思えないことばかり
しは、肩を並べて歩いている。
なのだけれども……よくよく聞くとそれは本当のことのよ
あの日、初めて祭りを訪れたわたくしは、ただただその
うであったり……かといってにわかには信じがたいことで
華やかさに気圧されて。
あったりして、わたくしはいつも、どうしたものかと軽く
自分がなにか、とても場違いなところに来てしまったよ
狼狽してしまうのだ。
うな……そんな居心地の悪さを感じて縮こまっていた。
そんなとき、宗治様は決まっていつも悪戯っぽく、けれ
なのに。あの日がわたくしにとって、最も輝いた一日に
どもどこか暖かな面持ちでわたくしの様子を伺っている。
なったのは。きっとあの方が、隣にいてくれたから。
きっとこの方は、いつもこうして、わたくしのことをから
祭りに途惑うわたくしを、笑顔でそっと導いてくれたか
かっているのだろう。
ら。
そして、そんな宗治様の様子が、ますますわたくしを惑
どことなく頼りなげに見えるくせに、その実、いつも細
わせる。結局、わたくしは恥ずかしさと悔しさと好奇心の
やかな気配りでわたくしを連れ出してくれたあの方。
入り交じった落ち着かない気持ちを胸に抱えて、いつも的
始まりは、祖母の言いつけ。けれども、きっとわたくし
外れな言葉を口にしてしまうのだ。
は……。
このときも、そうだった。
あれから時は流れ……あの方は、もういない。
「……その、それはつまり。ういろうとか、羊羹のような
ものですの?」
「いえいえ。甘いのは確かに甘いのですが、もっと冷たく
冷やしたものなのですよ」
わかっている。本当は。
時は巡り、世は移ろい、人は変わった。同じものなど一
つもない。
今、わたくしの隣を歩くのは……
「ええと……そうすると、瓜のように川の水で冷やす……」
そっと横目で、隣をいく少年の様子を伺ってみる。わた
「いやいや。それがですね。実は氷なんです」
くしが、かつてを想う中、今この方は何を想うのだろうか
「――っ ! ? 氷……ですの? それでは、随分と固いものな
……と。
のですわね……そうすると……落雁のようなものなのかしら」
「ところがですね、これがなんと……柔らかいのですよ。
口の中でとろけて、これがなんとも美味でしてね」
「……???」
途端、目が合った。
そのまま、にこりと微笑まれて、わたくしは言葉を失う。
まったく違う面差しに宿る、あの日の面影。
懐かしいようで新しいその笑顔に、再び感じていた居心
宗治様が、さも可笑しそうに笑っている。
地の悪さが、すうっと溶けていく。
その笑顔が、
無性に悔しくて。わたくしは口を尖らせた。
わかっている。本当は。
「……宗治様、わたくしが田舎娘だと思って、からかわな
いでくださいまし」
「そんな。とんでもない! すみません。決してからかう
気などあったわけでは……」
「そうですの? でも、わたくしそんなもの聞いたことも
時は巡り、世は移ろい、人は変わった。同じものなど一
つもない。
けれど。なのに。
全ては、あの時と同じ。あの時と同じように……わたく
しは、肩を並べて歩いている。
ありませんわ。その……あ、あい……」
「“ あいすくりん ” ですよ。皐月さん。大丈夫、あれはきっ
と流行ります。遠からずこの街でも食べられるようになり
◎ TIPS53:雨
条件:特になし
ますよ。……そうしたら、是非、僕にごちそうさせてくれ
対象:特になし
ませんか? きっと気に入っていただけると思うんです!」
目的:
【郁縞皐月】の照り照り坊主への思い入れ
思いのほか力強く、真摯なその表情に、毒気が払われて
演出:
166
【TIPS53:雨】
雨の日は、ほんの少しだけ心が晴れる。
松虫の囁く、秋も。
深雪に黙り込む、冬も。
障子を開くと、ちょうど、ぽつぽつと降り始めてきたと
ころだった。
右手で柄を握り込む。柄巻の感触が、とてもよく手に馴
大粒ではなく、また、隙間も少ない。匂いは薄く、少し
染んだ。
ずつ速くなっている。
ゆっくりと鞘を引きながら、鯉口を切る。
長引く雨だ。
くすんだ黄金色の吐に続いて、氷を思わせる白銀の刃。
障子を開いたまま、部屋に引き返すと、懐紙を取り出し、
ただ一つのために磨き抜かれた刃は、
滑らかなその身に、
丸めていく。
自分を取り巻く世界を映していた。
二枚の懐紙をこねるように丸めると、もう一枚、取り出
どこまでも冷たく。どこまでも鋭利に。
した懐紙の真ん中に載せ、包み上げる。
そして、その刃に映るわたくしの瞳もまた、冷たくて。
口を少し拗って絞ると、糸できゅっと縛り、形を整えた。
わたくしは黙って、刃を鞘へ戻した。
……照り照り坊主の、できあがり。
今はまだ、そのときではない。今は、まだ。
絞った首にもう一本、糸を繋げると、梁にでた釘に結わ
必ずその時はくる。ただ一度の、役目を果たす時が。
え付けた。
だから。今は、まだ。
真っ白な顔のない人形は、雨の庭を背に、ゆっくりと回
り始める。
そんな姿を、
頬杖をついてしばらく間、ぼんやりと見ていた。
ずっと前、初めて吊したときには祖母から叱られたもの
だったが、
「雨では、庭での稽古ができません。晴れてもらわなけれ
ば困ります」
と言ったら、それ以上は何も言われなかった。
○ TIPS55:修士論文「てるてる坊主を巡る
呪術の変遷」
条件:特になし
対象:特になし
目的:てるてる坊主の由来と意味の説明
演出:
【TIPS55:修士論文「てるてる坊主を巡る呪術の変遷」
】
以来、雨の日には照り照り坊主を吊す。それが、わたく
……(中略)……『帝京景物略』という書物には、
「雨
しの密かな愉しみとなっている。
が永く降らない場合、婦人の首を白紙で作り、紅緑の紙で
照り照り坊主は、
しばしの間くるくる回ると……やがて、
作った衣を着せること。紐で縛って、竿を付けて軒につり
わたくしの方を向いて、とまった。
下げること。これを、掃晴娘(サオチンヤン、雲掃人形)
その様子が愛らしくて、思わず頬が緩む。
と言う」とある。
俳諧師曰く、
「てるてる坊主月に目が明き」
。
雨の日は、ほんの少しだけ心が晴れる。
時々、風に揺れる、顔のない人形と見つめ合いながら、
つまり、晴天になったあとは、瞳を書き入れる。これらは、
『嬉遊笑覧』からの抜粋である。
祖母に呼ばれるまで、わたくしは一人静かに、久しぶり
元々中国から入ってきた風俗のようだが、……(中略)
のお友達とのひとときを愉しむのだった。
……日本の習俗の一種であり、晴れを願う呪術の一種である。
……(中略)……だからてるてる坊主は、
顔のない人形である。
◎ TIPS54:銘なし
現在では、名称をてるてる坊主に統一されているが、か
条件:特になし
つては様々な名称を持っていた。全国を行脚する修行僧に
対象:特になし
よって広められたため、
その多くは、
「法師」
「坊主」といっ
目的:
【郁縞皐月】の目的と運命を暗示
た名前を冠する。例えば、
……(中略)……山陰地方では、
演出:
……(中略)……。
【TIPS54:銘なし】
……(中略)……明治期の主要な辞書では「照り照り坊
つくばい膝と息を整えると、そっと左手に置かれた打物
主」が優勢であった。……(中略)……。これが「てるて
を拾いあげる。
る坊主」に統一されたのは、1921 年(大正 10 年)に発
銘は知らない。つくりもわからない。
表された童謡「てるてる坊主」の影響が大きいと思われる。
十の時から共にあるこの打物の由来も、目利きも、祖母
は教えてはくれなかった。
そんなものは、必要ない。刀は斬れればそれでよい。
○ TIPS56:小柄
条件:特になし
とてもわかりやすい、祖母の言葉。
対象:特になし
その言葉に従い、わたくしもこの打物について敢えて調
目的:小柄の説明
べようとはしなかった。
そんなものは、必要なかったから。斬れればそれでよかっ
演出:
【TIPS56:小柄】
たから。
こづか【小▽柄】
ただ、これでものを斬れるようになれれば、それでよかっ
小柄とは、刀の鞘の差裏 ( さしうら )(佩用(はいよう)
たから。
する時、体につく側)に差し添え、雑用に用いる小刀。抜
以来、わたくしはこのものと共にあった。
き身のまま、鍔越しに鞘に差し込むことが多い。
鳥たちの囀る、春も。
その大きさのため、携帯性、隠匿性に極めて優れる。形
蝉の啼きすさぶ、夏も。
態によっては、投擲にも適する。
167
自今大禮服著用竝ニ軍人及ヒ警察官吏等制規アル服著用
○ TIPS57:戦打ちの心得
条件:特になし
ノ節ヲ除クノ外帶刀被禁候條此旨布告候事
但達犯ノ者ハ其刀可取上事
対象:PC ②、PC ③
目的:
【郁縞皐月】の用いる手裏剣術の情報
現代語訳:
演出:
大礼服並に軍人警察官吏等制服着用のほか帯刀禁止
【TIPS57:戦打ちの心得】
最高礼装の着用、ならびに、軍服や警官服など着用規制が
戦打ちにおいては、手裏剣は必ず複数を左脇腹前に挿し
ある服を着用する場合を除き、いかなる理由有りと雖も帯刀
おくこと。また、それとは別に右側後腰に複数本挿しおく
を禁じる。本太政官布告は、発布ののち、直ちに施行とする。
のがよい。手裏剣の使用にあたっては、相手にその持ち数
上記違反者からは、当該刀を没収する。
を悟られることは不利にあたるため、相手の目に触れぬこ
とを基本とする。
袖口などに忍ばせるのも一つの手段であるが、これを行
う場合には衣類を傷つけぬよう鞘を用い、また引き抜くと
○ TIPS60:北の志士達 ~北国幕末志士列伝
~
条件:特になし
きに刺さらぬよう先端を自身の方へ向けて忍ばせる。鞘お
対象:特になし
よび抜き方については口伝がある。袖口にに忍ばせるとき
目的:郁縞の本来の家である貴島家と PC ①家との対立を描く
には車剣ではなく棒状を用いること。
必然そのままの持ち手で打てば、直打法となるが、距離
演出:
【TIPS60:北の志士達 ~北国幕末志士列伝~】
に応じて廻転法で放てるよう、素早く掌の内にて持ち替え
もう一人、同藩で忘れてはいけない志士に貴島清十郎、
る鍛錬を積んでおくことが必要となる。
通称、貴島半月がいる。貴島家は藩の礼法師範を代々務め
る家柄で、清十郎も幼い頃から小笠原流礼法を収めるため、
戦打ち 一本目
京へと修業に出されていた。そこで京都の志士数名と交流
を持ち、しだいに尊王倒幕の思想をもっていったと考えら
敵と相対し、
れる。ちなみに半月の名は、
この頃から名乗っているようだ。
一歩後退しながら、右手を腰にやり抜刀すると見せ、
帰省した後、礼法の講義とともにその思想を広めようと
やおら、左脇側前に隠し持った手裏剣をとり、
したと見られ、『貴島礼法心得』という史料にその断片が
右手打ち構えに構え、
読み取れる。
手裏剣を打ち、
しかし、東北の諸藩同様、藩内は佐幕の空気が強く、半
打った手で、直ちに刀の柄を取り、
月もしだいに孤立していく。
抜刀し、
半月は、元治元年(1864 年)に倒幕を藩主に上奏し、
振りかぶって、
多くの重臣の反対にあって取り下げさせられている。上奏
斬る。
を取り下げた後、花坂郷の郷士と御前試合を行い、三本を
争って三本を取られ、切腹したとされているが、これが事
○ TIPS58:納品書(帯留)
条件:特になし
実上の制裁措置であったことは想像に難くない。貴島家は
これにより断絶したという。
対象:特になし
目的:
【郁縞皐月】のたたずまいとその心情
演出:
【TIPS58:納品書(帯留)】
御註文の帯留「二色牡丹に蝶」一ヶ
問屋より届きましたので納品いたします
○ TIPS61:東北戦争の遺恨
条件:特になし
対象:特になし
目的:
【郁縞皐月】の出自に関する情報
演出:
【TIPS61:東北戦争の遺恨】
京の品評会でも高く評価された逸品です
東北諸藩が治めていた地方は、東北戦争後も政治経済の
御婦人もきつと喜ばれる事でしやう
要職からは遠ざけられ、行政の中心は意図的に当時の交通
の要衝から外され、都市整備・近代化・工業化など全てに
丸亀屋
おいて遅れる事となった。
このため東北地方は長く農業を中心とした経済を続け、
○ TIPS59:明治 9 年太政官布告第 38 号~
いわゆる廃刀令
社会も開国以降の恩恵に預かることなく停滞する事になっ
条件:特になし
入水自殺や、子供の人身売買などがしばしば行われ、貧し
対象:特になし
い農村などでは定期的に子供の口減らし――無作為な選別
目的:剣の時代が終わりつつあった時代背景の説明
による子供の殺害を行った、とも伝えられている。
演出:
このような仕打ちを受けた東北の薩長への怨嗟は深く、
【TIPS59:明治 9 年太政官布告第 38 号~いわゆる廃刀令】
大禮服竝ニ軍人警察官吏等制服著用ノ外帶刀禁止
168
た。昭和に至るまで、飢饉ともなると口減らしと称された
戦後 140 年が過ぎた今でもまだわだかまりが残っている
と言われている。
○ TIPS62:日課表
○ TIPS64:奥羽日報 切り抜き
条件:特になし
条件:特になし
対象:特になし
対象:特になし
目的:
【郁縞皐月】が決闘を申し込んだ時代が、すでに剣
目的:
【郁縞皐月】の教育に関する情報
の時代が終わって久しいことを説明する
演出:
【TIPS62:日課表】
「怨敵必殺」
演出:
【TIPS64:奥羽日報 切り抜き】
明治三七年二月一〇日 號外
五時 起床
剣術・暗器術ノ修練
宣戦詔書
朝食
天佑ヲ保有シ万世一系ノ皇祚ヲ践メル大日本帝国皇帝ハ
尋常小学校
忠実勇武ナル汝有衆ニ示ス
帰宅後 夕食ノ支度
朕茲ニ露国ニ対シテ戦ヲ宣ス朕カ陸海軍ハ宜ク全力ヲ極
書・茶・華イヅレカヲ教エル
メテ露国ト交戦ノ事ニ従フヘク朕カ百僚有司ハ宜ク各々其
夕食
ノ職務ニ率ヒ其ノ権能ニ応シテ国家ノ目的ヲ達スルニ努力
夕食後 勉学
スヘシ 凡ソ国際条規ノ範囲ニ於テ一切ノ手段ヲ尽シ遺算
九時 就寝
ナカラムコトヲ期セヨ
惟フニ文明ヲ平和ニ求メ列国ト友誼ヲ篤クシテ以テ東洋
○ TIPS63:人を毒となす法~浦賀流蠱術 真伝~
ノ治安ヲ永遠ニ維持シ各国ノ権利利益ヲ損傷セスシテ永ク
条件:特になし
テ国交ノ要義ト為シ旦暮敢テ違ハサラムコトヲ期ス 朕カ
対象:特になし
有司モ亦能ク朕カ 意ヲ体シテ事ニ従ヒ列国トノ関係年ヲ
目的:
【郁縞皐月】の作られ方を語る
逐フテ益々親厚ニ赴クヲ見ル
演出:
今不幸ニシテ露国ト釁端ヲ開クニ至ル豈朕カ志ナラムヤ
【TIPS63:人を毒となす法~浦賀流蠱術 真伝~】
帝国ノ安全ヲ将来ニ保障スヘキ事態ヲ確立スルハ朕夙ニ以
帝国ノ重ヲ韓国ノ保全ニ置クヤ一日ノ故ニ非ス 是レ両
このように蜂や蜘蛛、百足を蟲毒とするよりも、蛙や蛇
国累世ノ関係ニ因ルノミナラス韓国ノ存亡ハ実ニ帝国安危
を蠱毒とする方がより強く相手を呪う事ができる。毒とす
ノ繋ル所タレハナリ
る生き物は大きく、強ければ、呪いもまた、大きく強くな
然ルニ露国ハ其ノ清国トノ明約及列国ニ対スル累次ノ宣
るのだ。これが鶏や犬猫となると、これを呪詛を刷り込み
言ニ拘ハラス依然満洲ニ占拠シ益々其ノ地歩ヲ鞏固ニシテ
ながら殺すのは難しく、通常、ただ殺して使役するに留ま
終ニ之ヲ併呑セムトス 若シ満洲ニシテ露国ノ領有ニ帰セ
る。しかし、蠱毒の業の深奥は殺して毒とすることにあら
ン乎 韓国ノ保全ハ支持スルニ由ナク極東ノ平和亦素ヨリ
ず、ただ生命を毒と化すことにあり、そのため、大型の生
望ムヘカラス
き物、ひいては人間をも生きながらにして呪詛を刷り込み、
故ニ朕ハ此ノ機ニ際シ切ニ妥協ニ由テ時局ヲ解決シ以テ
毒とする法が我が流派には伝えられている。
平和ヲ恒久ニ維持セムコトヲ期シ有司ヲシテ露国ニ提議シ
第一の要訣は語りにある。日に一度はつのる恨みを語っ
半歳ノ久シキニ亙リテ屡次折衝ヲ重ネシメタルモ露国ハ一
て聞かせ、怨敵に対する恨みを共有させる必要がある。
モ交譲ノ精神ヲ以テ之ヲ迎ヘス 曠日弥久徒ニ時局ノ解決
第二の要訣は半殺しにある。必ず、まだ幼いうちに半死
ヲ遷延セシメ陽ニ平和ヲ唱道シ陰ニ海陸ノ軍備ヲ増大シ以
半生まで追い込み、これを怨敵のあるが故と教え込む必要
テ我ヲ屈従セシメムトス
がある。なお、
この段階で誤って殺してしまった場合には、
凡ソ露国カ始ヨリ平和ヲ好愛スルノ誠意ナルモノ毫モ認
これを蠱毒に転用してはならない。そのような弱き命では
ムルニ由ナシ 露国ハ既ニ帝国ノ提議ヲ容レス韓国ノ安全
とうてい目的を達しえないので、つまらぬ動物を用いてし
ハ方ニ危急ニ瀕シ帝国ノ国利ハ将ニ侵迫セラレムトス 事
まったと思い、捨て置く事。
既ニ茲ニ至ル帝国カ平和ノ交渉ニ依リ求メムトシタル将来
第三の要訣は餌付けにある。殺す場合には食を絶つが、
ノ保障ハ今日之ヲ旗鼓ノ間ニ求ムルノ外ナシ
生かす場合には食を与えなければならない。与える食には
朕ハ汝有衆ノ忠実勇武ナルニ倚頼シ速ニ平和ヲ永遠ニ克
五穀と血をもってあて、
調理には必ず、後述する符の裏側に、
復シ以テ帝国ノ光栄ヲ保全セムコトヲ期ス
怨敵の名を書きしたためたもの燃やし、水に溶いたものを
(御名御璽)
用いること。血はできれば人血が望ましいが、食事は毎日
の事であり調達は叶わないだろう。その場合には鶏や豚の
露国開戦
血を代用するのがよい。これは調理後の香り付けであり数
二月一〇日帝国ハ左ノ如シ詔勅ヲ発シ露国二対シ正式二
滴で構わない。血の味を覚え込ませるために用いるので加
宣戦ヲ行ッタ
熱など、調理前に加えてはいけない。この餌を鶏であれば
政府ハ同日第一軍ノ編成ヲ決定黒木為楨陸軍大将ヲ司令
二百日、犬であれば五百日、猫であれば千日、人であれば
官二任命
三千日与える。そうすれば怨敵を前にすると狂ったように
帝都 有川
凶暴になり、必ずこれを殺そうとするようになるであろう。
169
○ TIPS65:弟への手紙
味し、そうすると彼女は「残り」
「独り」になってしまう。
条件:特になし
それが「悲しい」と言っているんだから。
対象:特になし
ああ、どうして、
どうしてあの時気付いてあげられなかっ
目的:
【郁縞皐月】がかつて恋い焦がれていた相手の、【郁
たんだろう……。
縞皐月】への好意を示す
どうして……。
演出:
【TIPS65:弟への手紙】
おとつい、郁縞という家の者が挨拶に見えた。
◎ TIPS68:「将来の夢」郁縞皐月
条件:特になし
本来、祖母が見える心積もりであつたが、折からの寒さ
対象:特になし
で体調芳しからず、名代として孫の皐月さんが見えた。
目的:
【郁縞皐月】の境遇を語る
君が先頃送つてよこした絵葉書の麗人に似た美人であつた。
演出:
作法よろしく、又、言葉明瞭で、故事に通じていた。
【TIPS68:「将来の夢」郁縞皐月】
近頃学校では講孟箚記をやつたか。やつていないと思ふ。
「将来の夢」
女にしてはよく学問をする人のやうだ。
二年二組 郁縞皐月
君、帝都にあつて勉学に努めんは男の恥と知れ。
わたしは、大きくなったらおばあさまのか
追伸 又、紙巻き煙草をたのむ
たきをうちたいです。ほんとうはおばあさま
のお父さまのかたきなんだそうです。でも、
◎ TIPS66:お芝居
もう死んでしまつているので、おばあさまの
条件:特になし
かたきなんです。
対象:特になし
おいしいごはんは死んでしまうともう食べ
目的:
【郁縞皐月】の心情描写
られなくなってざんねんだけど、かたきはう
演出:
たないとだめです。
【TIPS66:お芝居】
おばあさまはほんとうのお父さまでも、お
自分自身に強く強く言い聞かせる。
母さまでもないですが、おばあさまなんです。
これはお芝居。
だからおばあさまのかたきはわたしのかた
はじめて男の人のために作った料理。
きでもあるのです。大せつなおばあさまをこ
これはお芝居。
んなに悲しませるかたきの人は、きっととん
あの人が囁いた言葉。
でもなくわるい人なんだとおもいます。
これはお芝居。
だからわたしはきつとかたきをうちたいで
雨の中、並んで歩いたあの道。
す。
これはお芝居。
○ TIPS69:新聞記事~乙女弁慶神木の下で自
害
二人で行った花坂のお祭り。
これは……。
条件:
「◇新聞」を見た
熱い涙が頬を濡らす。
対象:特になし
それはお芝居……のはずだった。
目的:
【郁縞皐月】が死に至った事件の解説
◎ TIPS67:PC ①の日記 3/29
演出:
条件:特になし
【TIPS69:新聞記事~乙女弁慶神木の下で自害】
対象:特になし
(明治三十七年三月二十八日)
目的:
【郁縞皐月】の揺れる心の演出
昨日二十時三十分頃、駐在所巡査二名が巡回中に不審な
演出:
少女を目撃しこれに事情聴取を行おうとしたところ、突然
【TIPS67:PC ①の日記 3/29】
少女が抜刀しこれに切りつけた。切りつけられた巡査は重
残り雨 独り月夜に 濡れそぼつ 皐月の花の 咲くも悲しき
傷を負いながらも、これを牽制。もう一名の巡査は付近の
郁縞皐月
者に本署へ通報するよう伝えると、自らも抜刀しこれと打
ち合った。少女は二三の刀剣を使い捨てつつ、その場から
いまとなってはこの歌の意味もわかる。
逃走。追跡する巡査と打ち合いつつ花坂神社方面へと向
この歌は、ただ「せっかく咲いたのに雨に濡れてしょぼ
かった。対して通報を受けた警察本署は当直者を中心に廿
くれる皐月の花」という表の意味、歌い手の沈んだ想いを
十三名を動員して神社周辺を包囲。各門から殺到し、少女
あらわしているだけじゃない。
を境内へと追いつめた。警察は少女の反撃に応戦しつつも
皐月さんが、
もう、
この頃から■を狙っていたとしたら?
数度にわたって投降を呼びかけたが応じず、二十二時二十
■すことだけが目的、彼女の晴れ舞台だと考えていたと
分頃少女は神木を背に自ら喉を突いて自害した。少女は年
したら? でも、彼女は恋しているんだよ、間違いなく。
の頃十六、七。細身で紬姿であった。逃走中少女は匕首や
だって、歌がそう教えてくれている。「皐月の花が咲く」
小柄を含め少なくとも九本の刀剣を用いた他、取り押さえ
が、狙いを達成して相手を■すことができた時のことを意
ようとした警官の内八名に手傷を負わせる手練れぶりであ
170
り、警察はその身元について情報を求めている。
対象:PC ①
目的:【郁縞皐月】がかつて PC ①の先祖に渡した果たし
○ TIPS70:日記~明治三十七年三月二十九
日 雨
条件:
「◇職質」を見た
対象:PC ①
状を示す
演出:
【TIPS72:果たし状】
果タシ状
目的:【郁縞皐月】が死に至った事件と PC ①家との関係
の説明
PC ①家 当主 宗治様
演出:
【TIPS70:日記~明治三十七年三月二十九日 雨】
養母○○媼ノ悲願果タスベク 又 亡キ貴島清十郎ノ無
昨日、新聞にて乙女弁慶の記事を読んだ。本日その件に
念晴ラスベク 御前試合ノ再戦ヲ申シ入レルモノナリ
て、巡査が聞き込みに訪れた。聞けばかの事件は、乙女弁
来タル明治三十七年三月二十七日 花坂神社境内ニテ決
慶が当家の周囲で不審にも様子を窺っていたことから巡査
着ヲ付ケタク御待チ申シ上ゲ候
が怪しく思い事情聴取に及んだのが、ことのはじまりであ
るという。記事の内容と巡査の語った様子から、その乙女
貴島 皐月
弁慶なる人物が郁縞家の皐月嬢ではないかと思い至る。そ
こで巡査にその話をしたところ、乙女弁慶の持ち物として
一振りの小柄を見せてくれた。その柄に躑躅の彫り物があ
り皐月嬢のものであると知れる。そのことを告げると、巡
査は喜び、当家と郁縞家のことなどの一通りを聞いていっ
■【猫神】TIPS
◎ TIPS73:夢①~鈴~
条件:特になし
た。郁縞家、というよりも皐月嬢とは懇意にしていたこと
対象:特になし
もあり、どうにも腑に落ちない。落ち着かぬ気分で一日を
目的:
【猫神】の生前の様子についてと死に至る過程
演出:
終える。
【TIPS73:夢①~鈴~】
▽ TIPS71:血糊で読めなくなった遺書
首周り何かが触れる感触。
続いて何者かの声が聞こえた。
条件:
「3 月 26 日(木)夜」「☆遺書」
それは、あたしを呼んでいる声。
対象:PC ①
その声に、そっと目を開く。
目的:
【郁縞皐月】の気持ちを明らかにする
見上げた先に、見慣れた主の着物姿。しゃがみ込み、覗
演出:
き込むようにあたしを見ている。
【TIPS71:血糊で読めなくなった遺書】
鼻先に差し出された、主の手のひら。その上には丸い銀
警察の方へ。宗治様を殺害したのはこのわたくし、郁縞
色の鈴が載せられていた。
皐月です。いえ、いきさつを語るのであれば、貴島家とい
「――――、――――――」
うのが正しいのでしょう。今回の一件は貴島家がかつての
主が何事かを言っている。その言葉はわからない。けれ
汚名を雪ぐために挑んだ決闘の果ての結果であり、家と家
ど、わかる。その手の上にあるのは、先ほどまでこの首に
との意地の問題なのです。どうか深く詮索なさらないで下
ついていた鈴。主に居場所を知らせ、この身を飾り、注意
さいまし。
を惹くための枷。それが今、取り払われた。けれど、それ
しかし勘違いしないで頂きたいのは、わたくしは心から
は別れの徴ではない。首周りに残る微かな感触。家族の証
宗治様を愛してもいたのです。本当です。ですが、かと言っ
は、まだこの首にある。この身はまだ、この家の者。され
て決闘を止めるわけにも行きません。そうして生きていく
ど、この身は既に愛玩者にあらず。守られる者にあらず。
事などできはしないのですから。
そう思った途端、躰の芯が熱く震えるのを感じた。未だ
ですからわたくしは、宗治様を殺害し、この度の決闘に
かつてない、昂ぶりだ。かつて遠き日、この家に拾われる
勝って生き残ってしまったのであれば、己が喉笛を掻き
前。路地裏を駆け回る狩猟者であった頃にも感じなかった
切って、宗治様の後を追う事になるのです。宗治様を抱い
昂ぶり。胸の高鳴りが抑えきれず、あたしは思わず声を漏
て果てておりましたなら、それがわたくしの本懐なのです。
わたくしは罪人です。宗治様を欺きもしました。生まれ
らした。
「――? ――――」
変わって添い遂げる事も叶わず、ただこれにて死に別れと
その声をなんと思ったのか。不意に主が手を伸ばす。そ
なるのでありましょう。骸とて共に眠る事など許されよう
して、頭の上に包み込むような暖かい感触。梳るように、
もありませんが、もしわずかでも哀れと思うのであれば、
柔らかくなめらかに、あたしの頭を撫でていく。
一時でも長く、わたくしを宗治様の側に置いてやって下さ
そっと目を閉じて、その温もりを心に刻む。忘れるな。
い。
あたしは、この手を守るために、戦うのだ。この温もりを
守るために、戦うのだ、と。
郁縞皐月
▽ TIPS72:果たし状
条件:
「3 月 27 日(金)朝」【自宅】「☆果たし状」
◎ TIPS74:夢②~月~
条件:特になし
対象:特になし
171
目的:
【猫神】の生前の様子についてと死に至る過程
演出:
【TIPS74:夢②~月~】
追うべきか、
追わざるべきか。迷ったが追うことにした。
追っている間に別口の侵入を許す危険性はあるが、まだ
宵の口だ。家人も起きていれば敢えてねずみに近づくこと
◎ TIPS75:夢③~桜~
条件:特になし
対象:特になし
目的:
【猫神】の生前の様子についてと死に至る過程
演出:
【TIPS75:夢③~桜~】
はないだろう。それよりも、目の前の奴を確実に仕留めて
朝日が、まぶしかった。
おくべきだ。どのみち、一匹たりとも残すわけにはいかな
ずぶ濡れになった躰も、だいぶ乾いてきた。近頃、暖か
い。捨ておけば奴らは増える。そうなる前に、一匹一匹を
くなってきたからだろう。陽の光に温められた躰が、どん
確実に潰していくしかない。決意を固めている間にも、躰
どん重くなっていくのを感じる。昨日はだいぶ無茶をした
は既に動き出している。風を切って、立ち木の間をくぐり、
から、疲れているのだろう。
そこから塀に飛び乗る。
というか、今お日様の下なんか歩いたら、とんでもない
……いた。
姿をしているのが丸見えだ。きっと道行く人は、あたしの
塀の下。塀に寄り添うようして駆け抜けていく、小さな
ことを薄汚い野良猫かなんかだと思うだろう。まったく、
黒い影。といっても、奴らの中では比較的大きい方だ。見
恥ずかしいったらありはしない。
失わぬよう目に力を込めると、最短距離を計り、塀の上を
とはいえ、昨日一晩で、ドブの中にいた奴らはあらかた
駆ける。読み通り、奴は、塀に沿って角を曲がろうとして
片付いた。これで、
あちら側はしばらく大丈夫だろう。
何せ、
いた。
亡骸を集めたら、ドブが 20 歩くらいは堰き止められる量
しめた!
だ。まったく、あんな数、一体どこから湧いて出たのやら。
そのまま角を蹴って飛び降りると、奴の頭上から躍りか
……ふにゃぁぁぁぁぁあ。
かる。指先を広げ、爪を叩きつけるように、滑りやすいそ
呆れた途端に眠くなった。思わず、大あくびをしてしま
の身体に引っかけるように押し潰す。手応え……なし。読
う。……とりあえず、帰ったら寝よう。まあ、こんな時間
まれた!? 慌てて振り向くと、間一髪、身を翻した奴が、
なら人通りも少ないだろうし、
そも目立ちたくなくて、
こっ
来た道を駆け戻っていくところ。屈辱と苛立ちに思わず、
ちの山道を通っているのだから、あまりみっともない姿を
頭に血が上るが、今はそれどころではない。奥歯を噛みし
晒す心配もないだろう。
め、逃げるその背中に追いすがる。……速い。が、奴とあ
と、思った矢先に、向こうの石段から女の人が上がって
たしとでは歩幅が違う。塀との間に奴を挟むようにして、
くるのが見えた。しかも、衣装からすると、町の人らしい。
慎重に速度を上げていく。
珍しいな。ここに朝いる女の人は、袴を履いた人だけだ
七歩、六歩、五歩……。
と思ってたけど。
同時に、少しずつ躰を塀側に寄せながら、慎重に、慎重
よく見ると、打ち掛けを羽織った年嵩の女の人だ。胸元
に……。
には、あたしよりも若いくらいの牡猫を抱いている。取り
四歩、三歩……二歩。
澄ました感じのそいつは、あたしの方をちょっとだけ見る
目を凝らし、慎重に狙いを定める……。
と、すぐに興味を失ったように目を閉じた。首についた小
……一歩。必殺の間合い。
さな鈴が、チリチリと小さな音を立てている。
躰を滑らせるように伸ばしながら、左腕を袈裟懸けに、
ちょっとだけ、むっとしたが、子供相手に腹を立てても
振り降ろす。力よりも速さ。しなやかに、鞭打つように。
大人げない。そのまま、無視することにする。
肉球に、弾ける手応え。黒く、
小さく、滑らかな躰が、潰れ、
と、女の人は石段から曲がって、
大きな木の方へと向かっ
引き裂かれ、掬い上げられて、落ちた。
ていく。
痙攣しながらも、尚も逃れようと足掻く奴の躰を押さえ
ああ、あの “ さくら ” を見にきたんだ。
つけると、もう一撃。今度は渾身の力で、叩き潰した。尚
思って、あたしもそちらの方を見上げる。とてもとても、
も動く。更なる一撃。まだ動く。即座に一撃。
大きな木。たぶん、この町には、これより大きな木はない
数回叩きつけると、ようやく動かなくなった。念のため、
と思う。その大きな木が、所々に、小さな花をつけていた。
その首筋を咥え、噛み砕きながら吊り上げる。反応はない。
そうか。もうそんな季節か。
今度こそ、間違いなく仕留めたようだ。
そういえば、あたしも、昔、主人に抱かれてここに連れ
……手こずらせてくれた。
てきてもらったことがあったっけ。あの時は、もっとたく
本来なら、主人の前に曝して見せたいところだが、さす
さん人がいて、道の脇にも人が、小屋みたいなのをたくさ
がにそうも行かない。亡骸を、できるだけ目立つところに
ん並べてて、あちこちからおいしそうな匂いをさせてたん
打ち棄てると、屋敷の塀に飛び乗る。侵入を許すほどの時
だ。あまりにもおいしそうなので、声を出したら、主人は
間ではないと思うが、絶対はあり得ない。縁の下から順に、
ちょっと困ったような顔をして、撫でてくれたっけ。この
再度巡回をし直すべきだろう……。
木も、もっと花が咲いてて、大きな木がまるで白い雲の塊
不意に、
みたいに見えたものだった。でも、花もそうだけど、何よ
足下が明るくなり、あたしは思わず顔を上げた。
りもこの木の大きさに驚いたな。……それに、この木の感
屋敷の屋根の上、灰色の雲に覆われた空の隙間。青白い
じにも。この木は、何か不思議な感じがして、見ていると
月が、ただただ静かに浮かんでいた。
ついつい魅入られてしまうのだ。
そんなことを思いながら改めて女の人の方を見ると、案
172
の定、胸元に抱かれた子猫も木に魅入られているようだ。
その感触を思い出して、一瞬、反応が遅れた。でも、間
木の枝を見ながらポカンとしている。
に合った。
はは~ん。初めてだな。
その手が、頭に触れる前に。あたしは、思いっきり毛を
その様子にがおかしくて、思わず頬が緩んだ。
逆立てて、出せる限りの唸り声を上げて、その手を威嚇す
女の人は、
そんな子猫の背中を、
優しく撫でてやっている。
る。
子猫が、気持ちよさそうに、目を閉じて、微かに身じろ
それで、わかってくれた。
ぎするたびに、小さな鈴がまた、チリチリと音を立てた。
主人は、黙って手を退くと。何故だか、あたしに向かっ
…………。
て静かに頭を垂れた。
向き直ると、あたしは止めていた足を動かし、再び家路
これで、いい。
を歩み始める。
忘れるな。あたしはあの手を守るために戦ったんだ。だ
いいさ。そうやって、甘えてればいい。あたしは、アン
から、これでいいんだ。
タとは違う。
あたしの中で、何かが蠢いていた。熱い、蛇のような何
そのまま大きな柱の門をくぐり、石段を降っていく。
かが。胸の奥を這い回るように、蠢く。
あたしは、主人を守るために戦っている。あたしは、可
その塊が、
熱くて。あまりにも熱くて。あたしの中から、
愛がられるだけの、ただの家猫じゃない。
何かがこぼれ落ちそうになって。あたしはぐっと奥歯を噛
みしめた。
あたしは、もう、アンタとは違うんだ。
これで、
いいんだ。これでいいんだ! これで……これで!!
目の下が熱くて、視界が歪んで。喉の奥から何かが溢れ
◎ TIPS76:夢④~そして、終わりに~
出そうになって。
条件:特になし
いいの! あたし、は これで、いいの!
対象:特になし
だめだ。まだ、だめ。ここでは、まだ、だめ。
目的:
【猫神】の生前の様子についてと死に至る過程
そっと、
持ち上げられた蓋が、
箱の上に覆い被さっていく。
演出:
もうすこし、もうすこしだから! せめて、全ての光が、
【TIPS76:夢④~そして、終わりに~】
消える、そのときまで……もうすこし、あとちょっと、だ
わかっていた。あの下女が倒れた時から。この身がもう、
から!
どうしようもなく穢れていることに。
ゴトリ、と音がして、箱の中から一切の光が消えた。
あたしに食事をくれた、あの下女。一心不乱に食べてい
その瞬間、堪えていたものが、溢れ出して。
るあたしを、嬉しそうに眺め、背を撫でるのがあの娘の日
あたしは……。
課だった。
あの娘は、ねずみに触れてはいない。指一本だって触れ
させてはいない。
○ TIPS77:書き置き
条件:特になし
触れたのは、あたしだけ。
対象:PC ①
わかっていた。あの日、鈴を外してもらったあの時から。
目的:神棚におかれている鈴についての情報
もう決して、触れられてはいけないのだと。
だから、どんなに誇らしくても、どんなに哀しくても、
あの日から主人に触れさせたことはない。
演出:
【TIPS77:書き置き】
○○へ
触れたのは、あの娘だけ。
だって、あの娘はあまりに嬉しそうだったから。それに
留守の間、神棚を祀るのをわすれないこと!
食事時だったから、どうしても隙ができた。だから、仕方
ないって思ってた。
→お米と、塩、水については毎朝取り替えること。
その油断が、あの娘を殺した。
お酒と榊については、先週取り替えたので、帰ってく
わかっていた。あの箱が、あたしの前に置かれたときに。
るまで取り替える必要なし。
主人の言葉はわからないけど、その顔が、とても哀しそ
うだったのがわかったから。
→神棚の上に埃が溜まらないように気をつけること。
あたしは、黙ってその箱に入った。きっと、もう出られ
よく絞った布巾で拭いておけば良し。
ることはないとわかっていても。
くれぐれも、埃を吹かないこと!
哀しくなんてない。だって、あたしは自分の役目を果た
宮形の脇の、檜の小箱については鈴が入っています。
したのだから。
これも祀ってあるものなのでどけたりしないこと。
それに、もう奴らは殆ど残っていない。病んだ人々も、
もう殆ど残ってはいない。戦は終わろうとしている。そし
→お供え物を取り替えたら、お参りを忘れないこと。
て……あたしの役目も。
いつも通り、二礼二拍一礼でよし。
主人が蓋を持ち上げて……何を思ったのか、ふと、それ
を足下に戻した。
くれぐれもさぼるべからず!!
そして、そっとその手をのあたしに伸ばす。あたしの頭
の上に。あの暖かい大きな手を。
父、母より
173
猫は他の動物に比べて執念深く、祟りやすいといわれて
○ TIPS78:由来書
いる。動物の祟りは一般的に、動物を殺したり、虐待した
条件:
「◇神棚」を見た
者に降り掛かるという話が多いが、猫については同情した
対象:PC ①
だけで祟られるという俗説が広く流布しており、それに伴
目的:
【猫神】の末路についての情報
い猫に祟られり、憑かれたりしたときのための対処方も
演出:
様々な形で全国に存在している。祟りを恐れて、猫の死骸
【TIPS78:由来書】
への接触を避ける地域も多いが、一般的には、道路の三辻
この鈴は、当家を守りし猫神のものにて末代まで忘るる
或いは四辻に埋めることで、通行人により踏み固められ鎮
ことなく祀るべし。かの猫神、この界隈に流行病が押し寄
護されるといわれている。そのほか、木に吊す、杓子を立
せし時、その身を賭して病の運び手たる鼠の群と戦いたり。
てる、袋に入れて捨てるなど地域ごとに様々な形で祟りを
遂にはその身を病に浸し、病み人の骸屍と共に焼かれども、
よける手段が存在している。
彼の者焼かれてからはその界隈にて病はぴたりと止めり。
我らが今日あるのもこの家の栄えたるも全ては彼の者の利
益にぞあらん。努々忘れることなきことここに固く申し述
べ記すものなり。
○ TIPS81:猫の俗説②
条件:特になし
対象:PC ③(いない場合、PC ②)
目的:
【猫神】の能力と【影】の発生とについての情報
○ TIPS79:選択科目 民俗学Ⅰ
条件:特になし
演出:
【TIPS81:猫の俗説②】
対象:PC ③(いない場合、PC ②)
コード:03-06
目的:神として祀られる過程についての情報
項目:猫 死体
演出:
地域:日本全域
【TIPS79:選択科目 民俗学Ⅰ】
概要:
☆御霊信仰
猫が死体を蘇らせるという俗説は、日本全国に広く流布
無念の亡霊 → 祟り → 祟りを防ぐために祀る
している。猫が死体に近づいたり、舐めたり、跨いだり、
(↑重要 !!)
飛び越えたりすると、死体が動き出すというものだが、い
例:菅原道真 左遷され死んだ無念が大暴れしたと考えら
ずれの場合も死体が動き出すというもので、死から蘇生す
れた。祀られて天神様に。
るというものは存在していない。防止法としては死体の枕
元に刃物を置く、箒を置く、猫を死者の部屋に近づけない、
明治以後は功徳のあったものを祀るパターンも増加 → などが存在し、各地で派生したパターンが存在している。
国家神道 政策として?
動き出した死体については、箒で頭を叩けばもとの状態に
戻るというのが一般的である。また、四国地方では猫が葬
例:東郷平八郎 日露戦争の英雄。軍神として祀られる
列から死体を奪うという話も存在している。
(バースとかもなりうる?)
ただし、
地元で祀られるパターンもあるので一概に国策とも言えな
い?
○ TIPS82:猫の俗説③
条件:特になし
対象:PC ③(いない場合、PC ②)
目的:
【猫神】が焼かれた背景についての情報
例:増田巡査 唐津のコレラ防疫に活躍するが感染して死
去。地元の神社に祀られる。
演出:
【TIPS82:猫の俗説③】
コード:03-11
関連
項目:猫 病気
☆疫神信仰
地域:九州地方、関東地方、北陸地方
病気の神 → 病気を防ぐために祀る
概要:
(↑ 論述、触れておくべき)
猫は病気と関わりが強いという俗説は地域的に見られ
る。猫を抱いて寝ると病気になるという話や、家の軒下で
○ TIPS80:猫の俗説①
猫が死ぬと病人が出るといった話が多く、祟りに関わりが
条件:特になし
あると見られるが、一方で、猫が死ぬことで病人が回復す
対象:PC ③(いない場合、PC ②)
るという俗説も存在している。また、黒猫は黒焼きにする
目的:祟り神としての【猫神】についての情報
ことで薬になるという話も、古くから存在している。
演出:
【TIPS80:猫の俗説①】
コード:03-10
項目:猫 祟り
○ TIPS83: ○ ○ 新 聞 平 成 14 年 6 月 12
日 朝刊 『故事放談』
条件:特になし
地域:日本全域
対象:特になし
概要:
目的:古来から、猫がねずみを捕る目的で飼われていたこ
174
との説明
の場合には、穢れを避ける場合は、“ 人差し指と中指を交
演出:
差させる ”“ 人差し指と中指の間に親指を挟んで握る ” 穢れ
【TIPS83:○○新聞 平成 14 年 6 月 12 日 朝刊 『故事
放談』】
を払う場合には、“ 両手のと親指と人差し指で輪を作って
これを切る ” などの種類がある。いずれも「遮断する」
「切
猫が日本にやってきたのは、奈良時代、仏教の伝来と同
る」ということを意味するものであり、これらのことから
じだったという。そもそもは、貴重な経文などをかじるね
由来はどうであれ「縁切り」としての側面を持つと考えら
ずみを退治するために、インドや中国の寺院で飼われてい
れている。
たものが、日本にも輸入されてきたものであったらしい。
当時は、教典を護るために猫を飼うのは常識だったらしく、
三蔵法師もその旅には猫を連れていたと考えられていると
いうから驚きだ/しかし、輸入当時は狩人だった猫も、そ
○ TIPS85:コラム~接種法誕生 200 年を受
けて~
条件:特になし
の愛らしさは当時から変わらないものであったらしい。平
対象:特になし
安時代には宮中の貴族達のペットとして、それこそ “ 猫か
目的:
【猫神】の【解放】についての情報
わいがり ” されていた様子が伝わっている。当時まだまだ
珍しかった猫は、居なくならないように紐で繋がれ、屋内
演出:
【TIPS85:コラム~接種法誕生 200 年を受けて~】
で大事に大事に取り扱われた。家の中で、物怖じせず座り
Jenner.E が牛痘接種法による、天然痘治療を行ったのは
込んでいる姿を思い浮かべれば、“ 殿上猫 ” と言われたそ
1796 年のことである。後に、Pasteur.L のワクチン発明
の様子も、なるほど頷ける/時には帝の寵愛を受けすぎて
へと繋がるこの研究はしかし、当時全く認められることは
官位を得てしまった猫もいたとか。“ 猫の手も借りたい ”
なかった。免疫という概念が未だ充分でなかった時代、牛
というわけでもあるまいが、複雑怪奇な政治闘争の渦中に
の膿を人体へと注入するというその治療法はあまりにも大
あれば、帝の心を慰めるのも立派な仕事だったということ
胆であり、また、家畜の病気が人間に関係するということ
か。“ 猫に小判 ” を地でいく話だが、取り澄まして座って
は当時の医学的な常識としては認められなかったからであ
いる姿は、どこかの大臣に見えなくもない/江戸時代には
る。しかし、Jenner はその後も自費で研究を続け、無料
遊女の間で可愛がられた猫達。赤い首紐に金の鈴というス
の牛痘接種を行い続けた。やがて、彼の痘種は世界中に広
タイルは、どこに行ったのかがすぐわかるようにと、江戸
がり、天然痘を駆逐していくこととなる。
時代に確立されたファッションだったとか。遊女達の懐に
この逸話に私が感じるのは、先駆者達のリスクへの覚悟
抱かれ、可愛がられるその姿は往年の牙をすっかり抜かれ
の在り方である。あらゆるプロジェクトはトライ・アンド・
てしまったかに見える/ところが、さにあらず。この時代、
エラーの連続であり、いかに明確なヴィジョンを描いてい
しばしば猫の放し飼いを命ずるお触れが姿を現す。都市化
たとしても、
リスクは避けることはできない。重要なのは、
に伴って都市に集まり始めたねずみに、打つ手をなくした
いかにしてそのリスクを受容するかということにある。無
人間が、孫悟空と並ぶ三蔵法師のお供に助けを求めたのだ。
論、リスクを最小限に抑える努力は常に優先されるべき事
効果はてきめん。そのあまりの活躍ぶりに、ねずみに同情
項である。しかし、いかなる手段を講じたところでリスク
する御伽草子まで現れるほどだったというから、余程のも
をなくすことはできない。最小限であれ常にリスクは存在
のだったのだろう/平時にあって乱を忘れず。殿上にあっ
し、プロジェクトを進行する以上、我々はそのリスクの生
ても執着せず、ひとたび野に下ればその腕一つで大立ち回
じさせる結果について責任を負う。そして、プロジェクト
り。天下って腰掛けに丸くなっているどこかの寝粉とは大
の継続の条件は、まさにそこから逃げないことにある。全
違いである。我々人間も、見習わなければなるまい。
てのプロジェクトに成功が約束されているわけではない。
しかし、継続なくして成功はあり得ない。先駆者達の成果
○ TIPS84:えんがちょ
は常に継続の結果であり、彼らは然るべきリスクと対価を
条件:特になし
支払ってそこに立ったということを忘れてはならない。
対象:PC ③(いない場合、PC ②)
それはまさに、痘種の在り方に等しい。まずは受け入れ
目的:
【猫神】の縁切りについての情報
よ。全てはそこからはじまる。
演出:
(■■ ■■ 医薬品会社会長)
【TIPS84:えんがちょ】
穢れに触れたときに、その穢れから身を守るための呪い
の文句。主に関東地方を中心に流布しており、関西では「べ
○ TIPS86:感染症
条件:特になし
べんじょ」
「びびんじょ」
、東北では「えんぎ」といった同
対象:PC ③(いない場合、PC ②)
様の文句が存在する。由来については、「縁を切る」が転
目的:ねずみなどで広がる可能性のある伝染病について
じたとも「閻魔の庁」という呪い文句からとも言われるが、
諸説ありはっきりとした見解はない。昭和 40 年代以後、
演出:
【TIPS86:感染症】
子供達の間でブームとなったが、全国的には同様の文句と
第四類感染症
して「バリヤー」が多く流布している。穢れを移されない
ウエストナイル熱、エキノコックス症、黄熱、オウム病、
ようにあらかじめ防御を張るために使用されるのが一般的
回帰熱、Q 熱、狂犬病、コクシジオイデス症、腎症候性出
だが、穢れそのものを払うために使用される場合もある。
血熱、炭疽、ツツガムシ病、デング熱、日本紅斑熱、日本
この種のまじないは多くの場合動作を伴い、「えんがちょ」
脳炎、ハンタウイルス肺症候群、B ウイルス症候群、ブル
175
セラ熱、発疹チフス、マラリア、ライム病、レジオネラ症、
急性 A 型ウイルス肝炎、急性 E 型ウイルス肝炎、高病原
○ TIPS88:猫の飼い方~食事編~
条件:特になし
性トリ型インフルエンザ、サル痘、ニパウイルス感染症、
対象:特になし
野兎病、リッサウイルス感染症、レプトスピラ症、ボツリ
目的:猫の特徴についての情報を与え【猫神】の正体を推
ヌス症
測させる
演出:
性格:媒介動物の輸入規制、消毒、ねずみ等の駆除、物件
に掛かる措置を講ずることができる感染症
【TIPS88:猫の飼い方~食事編~】
猫の食事の回数は通常 1 日 2 回です。ただし、生後 1
年未満の子猫や妊娠中の猫については、1 度に食べられる
対応・措置:媒介動物の輸入規制、消毒等の対物措置、ね
量が少ないので 1 日 4 回程度に調整する必要があります。
ずみ等の駆除
メニューについては、人間とは必要とされる栄養成分が違
うため、キャットフードを与えるのが無難です。ただ、人
○ TIPS87:『健康と医療』1996 年 11 月号
連載「日本伝染病史⑥~幕末から明治に
かけて~」
間と同じものであっても、味付け等を調整して調理したも
条件:特になし
う。また、キャットフードにも特徴があり、様々な長所・
対象:PC ③(いない場合、PC ②)
短所がありますので、獣医さんなどと相談しながらその猫
目的:
【猫神】の時代背景についての情報
にあった種類、与え方をしてあげるようにしてください。
演出:
猫が 1 日に食べる量については、キャットフードの場
【TIPS87:
『健康と医療』1996 年 11 月号連載「日本伝染病
史⑥~幕末から明治にかけて~」】
のであれば食べさせることも可能ですので、充分に栄養に
配慮したうえでなら、食事を作ってあげるのもよいでしょ
合には製品によって目安の量が表記されていますのでそれ
に従ってください。作ってあげる場合には、猫に応じてと
19 世紀は幕末、明治維新と我が国にとって、近代への
いうことになりますが、大凡猫の頭くらいの量が目安だと
目覚めともいえる激動の時代であったが、それは同時に、
いわれています。また、猫は水を必要としますので、新鮮
新たなる伝染病との出会いの時代でもあった。それまでの
できれいな水を充分に用意し、こまめに代えてあげるよう
日本は鎖国体制をとり、外国との接触が行われる場所を長
にしてください。
崎の出島というごくごく限られた地域に制限すると共に、
輸入品についても、その流通を厳しく制限していた。この
☆猫に食べさせてはいけないもの
ため、外来の急性伝染病が輸入されても、その拡散は制限
猫は基本的に肉食です。しかし、
元来食べているものが、
され急激な流行に至ることはごくごく希であった。
人間の食べている肉とは少し違うため、肉であれば何でも
しかし、幕末を迎え日本が開国へ向かうとともに、その
いいというわけではありません。肉を与えるときは、基本
制限は緩み、外来の急性伝染病が次々と輸入され、国内で
的に生肉は避け加熱することが必要です。生肉だと消化に
爆発的な流行を見せ始める。
悪く、また豚などは寄生虫の心配があります。またトリの
19 世紀初頭から、日本で流行した急性伝染病を見ていく
骨は硬くてよく割れるため、
突き刺さる危険性が高いので、
と、19 世紀初頭は、従来から国内で見られた麻疹、赤痢、
骨も与えないように注意する必要があります。
痘瘡、腸チフスなどが中心であるが、ペリーの来航した
猫は魚が大好物という印象がありますが、青魚は脂肪を
1850 年代から、コレラ、ジフテリア、インフルエンザな
破壊する可能性がありますし、川魚も体調を崩すことがあ
どの外来の急性伝染病が次々と上陸。猛威を振るい始めた。
ります。赤身の魚で加熱したものを与えた方が無難です。
特にコレラの猛威は凄まじく、文政年間に初めて上陸した
肉と同様、骨には注意が必要です。小骨なら問題ありませ
コレラはペリー来航を機に、爆発的に全国へと広まった。
んが、大きな骨は与えないようにしてください。
以後、2 年から 3 年おきに大流行を重ね、その被害は甚大
魚介類では、貝が猫に中毒を起こすことで知られていま
なものであった。あまりの被害状況に、明治 12 年明治天
す。貝類は絶対に避けてください。またイカ、タコ、エビ
皇が直々に「コレラ撲滅に関する勅諭」を発するまでになっ
なども中毒の原因となり、体調を崩す元ですので与えない
たが、決定的な対策はなかなか確立できず、結局、明治
ようにしましょう。
35 年にコレラの予防接種が始まるまで、定期的に、数千
猫の胃は、人間のそれに比べて刺激に弱い傾向にありま
人から数万人規模の犠牲者を出し続けることとなった。加
す。人間用の味付けでは塩分・糖分が多いほか、香辛料な
えて、コレラほどの存在感はなかったものの、従来の伝染
どの刺激物もお腹を壊す原因になります。また、加熱した
病もまた減ったわけでもなく、腸チフスや発疹チフス、赤
ものであっても、タマネギやニラ、ニンニクなどの臭いの
痢なども定期的に流行を繰り返し、被害をもたらし続けて
強い野菜は刺激が強いので与えないようにしてください。
いた。こうした急性伝染病は、ほぼ毎年どこかで流行を起
特にタマネギは中毒を起こす危険性が高く、絶対に避ける
こしており、日本国内においては、どこかで必ず伝染病が
ようにしてください。
猛威を振るっているという状況が半世紀以上続いたのであ
基本的に肉食である猫は、野菜・果物はほとんど必要と
る。そして、1899 年、ヨーロッパ最悪の伝染病とされる、
しません。その関係か、植物の中にも食べると中毒を起こ
ペストが日本に上陸する。
すものがあります。しかし、胃腸のために猫が食物繊維を
ほしがって、草を好んで食べることがあります。道ばたの
草や観葉植物などを囓ってしまうことがありますので、こ
176
れには充分な注意が必要になります。猫が食べると危険な
植物については別表にありますが、基本的に、香草類や球
根類は危険です。猫が草を食べたがったとき用に、安全な
草を見繕っておいて猫に選ばせてあげると良いでしょう。
よく子猫には牛乳というイメージがありますが、猫に
■そのほかの TIPS
▽ TIPS90:宛名がない手紙
条件:
「3 月 27 日(金)朝」
【自宅】
「◇手紙」
とって牛乳は刺激の強すぎる飲み物で、お腹を壊します。
対象:PC ①
猫にミルクを与える場合には、猫用のミルクが市販されて
目的:
【アクロック】からの手紙。
「3 月 27 日(金)夜」
【神
いますので、それを与えるようにしてください。
社】の伏線
演出:
○ TIPS89:芦垣山りんご園
【TIPS90:宛名のない手紙】
条件:特になし
対象:特になし
目的:林檎の効能についての情報を与えることで【猫神】
が好物としている理由を推測させる
演出:
【TIPS89:芦垣山りんご園】
芦垣山りんご園へようこそ!
今宵 神社までお越しください
○ TIPS91:
『創世記』第三章 第一節から
第五節
条件:特になし
対象:PC ③(いない場合、PC ②)
目的:
【蛇】の役割についての背景情報
りんごは、私たちにとって最も馴染みの深い果物の一つ
です。当園では4つの種類のりんごを、厳正な品質管理の
演出:
【TIPS91:『創世記』第三章 第一節から第五節】
もと真心を込めて栽培し、みなさまにお楽しみいただける
主なる神が創造されたなかで、最も賢い動物は蛇であっ
ようご用意をさせていただいております。
た。蛇は女に尋ねた。
「この庭園のいかなる樹からも果実
を食べてはいけないなどと、神は真にそのようなことを仰
☆びっくり!りんごの歴史?
せになったですか?」
そもそも、りんごは平安時代に中国から持ち込まれたの
女は蛇に答えて言った。
「私たちは、いかなる樹からも
が、日本のりんごの最初だと言われています。当時は「利
果実を食べてよいのです。
宇古宇」と呼ばれ、とても貴重なものだったようです。や
ただ、庭園の中央にある樹を除いては。神は私たちに、
がて明治にヨーロッパから、西洋りんごが輸入され、これ
その樹からは果実を食べてはいけないと仰せになりまし
が広まって今日のりんごとなったのです。
た。触れるだけでもいけないと仰せになりました。もしそ
のようなことをすれば、私たちは死に至ると」
☆凄い!りんごの力?
蛇は言った。
「それは真ではありません。死に至るなど
英国のことわざに
「一日一つのりんごは医者を遠ざける」
ということはない。もしその実を食べたなら、貴女は神の
というのがあるそうですが、ヨーロッパでは昔からりんご
如くものの善悪を知る力を得るでしょう。神はそのことを
には若さと健康を保つ力があると信じられてきました。ギ
知っておられた。だからそのように仰せになったのです」
リシアや北欧では神々が、若さと美容を求めてりんごを
女が見上げると、その樹はとても美しく、その実はとて
争ったというお話まであるそうです。ちょっとおおげさな
も美味しそうに見えた。そして何よりも、知恵を得ること
感じがしますが、しかし、最近の研究では、りんごは高い
がとても魅力的に思えた。女は果実をもぐとそれを口にし
栄養価と豊富な繊維、ビタミンなどを含み、りんごのポリ
た。さらに彼女は共にいた男にもそれを渡し、男もまた、
フェノールには脂肪を抑える力があることがわかっていま
その実を口にした。
す。まさに美容にも健康にも効果があるわけですね。おい
しくて、からだにいいりんご。神々が争ったというのも、
わかる気がしますね。
○ TIPS92:ギルガメッシュ叙事詩第 11 粘
土板
条件:特になし
☆色とりどり!当園のりんご
対象:PC ③(いない場合、PC ②)
当園では、みなさまに馴染みの深い、「紅玉」「つがる」
目的:
【蛇】の特徴についての背景情報
の他、「千秋」
「印度」の4種類のりんごをご用意させてい
ただいております。入場は正門で行わせていただいており
演出:
【TIPS92:ギルガメッシュ叙事詩第 11 粘土板】
ますので、それぞれのりんご園をご自由に行き来していた
ギルガメッシュはこれを聞くと、おもむろに両足に重い
だき、お好きなだけお持ちいただくことができます。
石を結わきつけ、身を翻して海中へと飛び込んだ。
また、当園ではお持ち帰りのほか、配送もいたしておりま
そして海中深くへと身を沈めた彼は、そこで求めていた
すので、電車でお見えになった方にも、ご安心してりんご
魔法の草を目にする。
狩りをお楽しみいただけます。
ギルガメッシュは、草の棘が手を刺すことも厭わず、そ
の草をつかみ取ると、結わいた石を解き放ち、海面へと上
がっていった。
やがて、海面から顔を出したギルガメッシュは、船頭ウ
177
ルシャナビに意気揚々とその戦果を報告する。
「ウルシャナビ! これが魔法の草だ。人はこの草で若返
ることができる! 私はウルクにこれを持ち帰り、我が民
にこの草を食べさせよう。この草こそ、シーブ・イッサヒル・
アメール! そして私もこの草を口にし、若返るのだ!」
「…………」
「なにか?」
変わらず、射抜くように見詰める金色の瞳。
「……いえ」
微かに俯き、咳払い。
かくしてギルガメッシュは帰路へとついた。20 ベール
「……失礼。そちらのトランクには、なにが?」
の後に食事を取り、やがて 30 ベールの後に野営の支度に
「駄犬を一匹」
取りかかった頃。
「…………」
ギルガメッシュは、そこに冷たい泉を見つけ、その泉に
「なにか?」
入って沐浴をはじめた。
「……いえ」
と、その間に。
泉の縁に置かれた草の匂いに、
一匹の蛇が引き寄せられ、
俯き、思わずその手で顔を覆う。
(……ダメだ。これはダメだ)
音もなく忍び寄っていた。
心のなかでため息を吐きながら、厄介事への覚悟を固め
やがて、ギルガメッシュが泉から上がってくると……そ
ると、係官は意を決し顔を上げた。
こには既に草はなく。
目の前には、抉るように見詰める金色の瞳。
ただ、蛇の抜け殻だけが、残されていたのだった。
その瞳を、真っ直ぐにらみ返す。
ギルガメッシュは、崩れるようにその場に座り込むと、
「失礼ですが……」
ただただ泣き続けた。
「なにか?」
「その、ですな……」
◎ TIPS93:空港にて
「なにか?」
条件:特になし
「貴女の……」
対象:PC ③(いない場合、PC ②)
「なにか?」
目的:
【蛇】の人となりについての情報
「…………」
演出:
「なにか?」
【TIPS93:空港にて】
係官は、受け取ったパスポートを開くと、その写真と見
比べるように、目の前の女へ視線を向けた。
真っ直ぐ、金色の、こんじきのひとみが、こちらをみて
いる……まっすぐ、まっすぐ。きんいろ……こはくの……
ひと、ミ……、
東欧系と思われる容貌。白磁を思わせる滑らかな肌と、
「なにか?」
涼しい顔立ちは美女と言ってよい。年の頃は 20 代半ばと
「――ッ!」
いったところか。すらりとした肢体は品のいいスーツに覆
われ、独特のベストと帽子の取り合わせが華を添えている。
気がつくと、鼻先まで女の顔が近づいていた。係官は慌
てて顔を離すと、眩暈を払うかのように頭を振る。
足下には頑丈そうな革張りのトランク。視線を戻すと、透
「……失礼。どうぞ、お通り下さい」
き通った金色の瞳が、揺らぐことなく係官を見つめていた。
「はい。感謝します」
その視線に気後れしたかのように、係官はわずかに身を反
女は、無表情にトランクを持ち上げると、そのままゲー
らすと咳払いをしてみせた。
トをくぐり、ロビーへと向かっていった。
「……失礼。観光ですか? それともお仕事で?」
「両方です」
目を逸らさず、簡潔な答え。
○ TIPS94:死者の国
条件:特になし
係官は、やりにくさを感じながらも、書類へと目を落と
対象:PC ③(いない場合、PC ②)
す。
目的:
【桜の魔法】の構造についての情報
(……仕事のついでに観光ということか……職業はなん
演出:
だ? デザイナーかなにかか?)
【TIPS94:死者の国】
そんなことを思いながら、書類の職業欄を探す。
「死者復活の物語だぁ?」
……あった。
「はい。現状において、儀式はその形で動いていると見て
やたら広い職業欄には、左詰めで一言、“ 代理人 ” とだ
け書かれていた。
「……商談かなにか……ですかな?」
間違いないでしょう」
「……できンのかよ? そンなこと」
「理論上は。北欧やキリスト教など、終末神話を持つ神話
「妨害工作です」
のなかには、死者たちが蘇り世界に舞い戻る物語を含むも
「…………」
のがいくつか存在しています。それらを前提に魔法を組め
「なにか?」
真っ直ぐ、突き刺さるように見詰める金色の瞳。
「……いえ」
ちょっとだけ目を逸らし、咳払い。
ば、できないことはないでしょう。しかし……」
「しかし?」
「それらの物語は、いずれも終末神話の最終局面にあらわれる
物語です。その先はいずれも世界の終焉……物語の終わりです」
「……失礼。ご滞在は、いつまでのご予定で?」
「……成功すれば、世界は終わるってか?」
「1 週間です。それ以上は世界が保ちません」
「おそらくは」
178
「チッ! ……面倒くせぇこったなァ、オイ」
「許容するわけにはいきません。……が」
「あ?」
「興味深くはあります。このタイプの魔法は極めて珍しい。
おそらく偶然でしょうが……」
「……まさかとは思うが、お前ェ……!」
「無用な心配です。私の存在には、関わりはありません。
むしろ、心配なのは貴方です」
○ TIPS96:魔犬
条件:特になし
対象:PC ③(いない場合、PC ②)
目的:
【クロード】についての背景情報
演出:
【TIPS96:魔犬】
■魔犬(Monster-Dog)
「あ? 嘗めてンのか? オレが遅れを取るとでも?」
怪物としての犬。犬は太古から人間に飼われていたため
「またぞろ面倒くさくなって、なんでもかんでも丸かじりにし
か、怪物としての犬も猟犬や番犬といった役割を担うこと
て終わらせようとするのではないかと思うと……そろそろ新
が多い。多くの場合、怪物はその野放図な力によって暴れ
しい拘束手段の導入を本気で検討するべきかもしれません」
回り、世界秩序に混乱をもたらすものであるが、魔犬は異
「…………」
界の守り手や神的存在の護衛としてむしろ世界秩序を保持
「どこかで、金剛圏でも通販していないものでしょうか」
する存在である。
とはいえ、
その世界秩序はあくまでも神々
「せめて、グレイプニルにしてくれよ……」
から見たものであり、人間の思惑からは離れるものである
し、また、魔犬自体も基本的には怪物であり、その理不尽
○ TIPS95:『儀式回路』
な力でしばしば人間を圧倒する存在であることに変わりは
条件:特になし
ない。代表的な魔犬としては、北欧神話における冥界の番
対象:PC ③(いない場合、PC ②)
犬兼猟犬のガルム(Garum[142]
)
、ギリシア神話の冥界
目的:
【桜の魔法】の構造についての背景情報
の番犬ケルベロス(Kerberos[211]
)
、ゲーリュオンの番
演出:
犬オルトロス(Orthrus[296]
)
、
ケルトの妖精達の番犬クー
【TIPS95:
『儀式回路』】
シー(Cu Sith[77]
)
、イギリスの悪魔の猟犬ヘルハウン
儀式とは、信仰或いは思想上の理由から行われる、一定
ド(Hell Hound[157]
)などが挙げられる。いずれも凶
の形式を持った諸行動の集積である。それらの行動群はし
暴さにおいて比類ない存在であるが、何者かの命に従うと
ばしばパッケージ化され、一つのグループとして取り扱わ
いう点において、
普通の怪物とは一線を画する存在である。
れる。こうした行動は、多くの場合高度に象徴化されてお
り、一見してその意味を見いだすのが困難なことも少なく
ない。しかし由来を辿った場合、それらはいずれも一つの
物語を形成するために必要と見倣された要素として存在し
ている。というのも、儀式には基本的にその行動の根源と
なる信仰上・思想上の物語が存在しており、それらの物語
を土台とした一つの回答こそが儀式であると見ることがで
きるからだ。例えばそれは、信仰対象や超常存在に対する
アプローチであったり、神話や以前に起こった奇跡的な現
象の再現であったりする。
また、儀式には定期的・反復的に実行されるという特徴が
あり、大凡の場合、儀式がたった一回しか行われないという
ことはない。これは、儀式自体がそれを実行する人々に必要
とされる何らかの目的に結びついていることを示しており、
儀式にはそうした目的に対する、非実際的なアプローチとい
う側面も存在しているからである。太古から行われる通過儀
礼は、共同体の新たなる構成員を信仰対象に紹介することを
企図しているかもしれないし、或いは神話的存在と同じプロ
セスを踏むことで、神話的存在と同じ力を与えることを望ん
でいるのかもしれない。しかしいずれにせよ、それらは何ら
かの目的をもって行われているのである。
だが同時に儀式には一つ、実際的な側面も存在している。
それは、儀式という行為に参加した人々が、儀式を通じて
意識・認識を共有するという側面である。当事者として儀
式に参加する場合、その者は儀式の背景となる物語に影響
を受けていることが前提となるが、儀式は多数の者をして
同時にその物語へ参加させることで、参加した個々人に対
してその物語の確認・補強を行うことができるのである。
言い換えれば、それは共同体という世界のルールを確認す
る作業であり、秩序の共有を図る行為であるともいえる。
179
○ TIPS97:計画書~前半~
○ TIPS98:計画書~後半~
対象:PC ③(いない場合、PC ②)
対象:PC ③(いない場合、PC ②)
目的:
【アクロック】のもくろみについての情報
目的:
【アクロック】のもくろみについての情報
条件:特になし
演出:
【TIPS97:計画書~前半~】
条件:特になし
演出:
【TIPS98:計画書~後半~】
計画書
留意事項
概要:花坂美咲が起動させた桜の魔法を利用して、存在の
①接触の時期:
力を無理なく集めちゃおう大作戦!
対象に接触するときは、必ず時間遡航中に! 他だと邪
魔が入る可能性。魔術師に見つかると厄介。
目的:存在の回収
②システムは説明しない:
対象や魔術師に、こっちの思惑がばれると無駄に邪魔さ
☆ぽいんと♪:
れる可能性あり。秘密。秘密。ビジネスに秘密はつきもの
桜の魔法は成功しない……成功する前に必ず花坂美咲は
♪
介入者か本人に殺される。でも、“ 生命の女神 ” そのもの
③援助者の召喚:
は死なないので、矛盾なく再起動するために、時間は魔法
対象に援助者がいると、相互補助により魔法を解くため
の起動時である 23 日まで戻るはず!これを利用!
のトライ・アンド・エラーが促進されるはず……というか、
諦めにくくなるし。対象に好意を抱いているか協力的な人
方法:
物を巻き込むため召喚するべし! → 手紙を送ろう!
すてっぷ①:
④重要局面に対象を誘導:
魔法の対象となっている人物に、時間遡航時の間隙を利
花坂美咲は対象者の幼馴染み。彼女が殺されるところを
用して接触。そのことを教える。自分が時間を逆行し、魔
目撃すれば、対象のモチベーションも上がるはず! → 法を解かなければ 27 日より先に進めないとわかれば、魔
27 日に手紙を送ろう!
法を解くために行動しようと考えるはず → 記憶の継承
⑤適度に助言:
を望む可能性 → 存在の保存を求める
時間遡航中に、対象にヒントを出そう。対象のモチベー
すてっぷ②:
ションの維持重要! サービス、サービス!
対象の人物が、記憶の継承を望めば契約成立! 対象の
時間を繋げたまま、23 日に対象を送り込む。代わりに 23
☆最重要!!:
日にいるはずだった並行時間上の対象を回収。げっと!
対象に諦められてしまったらそこで終わり。対象が諦め
ない限り、存在の回収は続けられる! 諦めさせないため
☆ぽいんと♪♪:
のサービスを忘れずに!
対象に、目に見える直接的な代償を課さないので、お互
ただし、時間稼ぎはしないこと。無駄に不審を抱かれる
いにとっての儲け話。とってもスマ~ト!!
と厄介。大丈夫、2 回まわればモトはとれる筈!
ビジネスは、さりげない心遣いと誠実さで! お互いの
幸せのために♪
あたしって、天才ですか?(笑)
180
▽ TIPS99:オルフェウスの冥界降り
条件:
「死者の国よりの帰還」「はじまりの時間」
「ならぬ。これは、死者の国と生者の国とが別れしときに決
められた、
この世の摂理。それを曲げることは、
まかり通らぬ」
対象:PC ③(いない場合、PC ②)
目的:最終周「黄泉の国よりの帰還」の目的とクリア条件
青年は、竪琴を奏でます。すると、冥界の人々はみな涙
演出:
を流して聴き惚れてしまいました。やはり心を揺さぶられ
【TIPS99:オルフェウスの冥界降り】
むかしむかしギリシアに、それは大層、竪琴を奏でるの
たハデスは、女房を返すことにしました。おお、なんと優
しき、ハデスの慈悲! ですが、条件がひとつ。
が巧い青年がおりました。青年の名は、オルフェウス。芸
能の神アポロン直々に竪琴の業を伝授された腕前です。青
「ここは死者の国。刹那たりとも振り向く者を容赦はしない」
年が竪琴を弾くと、森の動物たちが集まって耳を傾けたと
さえ、言われておりました。
死者の国から、地上に脱出するまでの間、女房をあとに
付き従わせるが、けして振り返ってはならないと言うので
青年にはエウリュディケという、やはり大層、美しい女
す。女房を帰していただけることに比べれば、なんと破格
房がおりました。ある日、女房は、毒蛇に噛まれ、亡くな
の条件でしょう。青年は、ふたつ返事で承けました。
りました。
そして、帰還の旅がはじまりました。
はじめは上機嫌だっ
た青年も、後ろから付いてきているはずの女房があまりに
女房を亡くした青年は、嘆き、悲しみました。三日三晩
も静かなため、だんだんと不安になってきます。女房の手
泣き濡れ、決意しました。女房を冥界から取り戻そう。そ
を握り、手の温かさは確かに、感じているのに……。もし
して青年は、冥界に降ったのです。
や、ハデスに謀られたのではないか?
青年は、最後の最後、あと一歩で地上にたどり着くところ
カロンという老人は、三途の河の渡し守です。銅銭を受
で、不安に負けて、後ろを振り返ってしまいました。そのと
け取って、死者を冥界に渡していました。これが、三途の
き青年が見たものは、約束を破ったがために再び冥界へと引
河の渡し賃。青年はカロンに、冥界へ渡してくれるように
き戻される、女房の悲しみに満ちた表情だったのです。
頼みました。ですがカロンは、首を横に振るばかり。
めでたし、めでたし。
「あんた、生きているだろ? ここから先は死者の国。生
きている者はぁ渡せない」
「待て。いまの話のどこに、めでてぇ要素があるって言う
カロンは、舟に乗せてくれません。仕方がなしに、青年
「めでたいではないですか。
斯くして、
死者はよみがえらず、
は竪琴を弾きました。カロンは、竪琴の音色の虜となって
世界法則は守られました。世界は、終焉を迎えずにすんだ
ンだ?」
聴き入ってしまい、渡し守の仕事をほったらかしてぼんや
のです。これほどめでたいことが、ほかにありますか?」
りとします。青年はその間に、空いている舟を自分で漕い
「これだから蛇は……不感症の冷血漢め。人情の機微って
で、冥界に渡りました。
奴に、ちったぁ理解を示せ」
「理解はしています。だから人は、冥界降りの神話を作り出し
続いて、地獄の番犬ケルベロスも竪琴の虜とし、次々と
冥界の関門を通り抜けます。
親族殺しのイクシオンは、火炎地獄の刑罰を受けていま
た。でもそれは、決して、成し遂げられてはいけない魔法です」
「つまりそれは、人の身にあまる奇跡。ここは死者の国。
刹那たりとも振り向く者を容赦はしない……か」
した。火炎車にくくり付けられ、未来永劫引きずり回わさ
「ええ。だから人は、死者を悼むために、死者を安らかに
れています。青年が竪琴を奏でると、火炎車は炎を消して
眠らせるために、死者をよみがえらせないために、葬式を
止まりました。
執り行って、きちんと別れを告げるのです」
神々の食物を盗んだタンタロスは、飢餓地獄の刑罰を受
「……お前それ、あいつらに、ちゃンと伝えてないだろ?」
けていました。顎まで満たされた泉につかり、その頭上に
「大丈夫。彼らなら、おのずから悟ります。それに……」
は、みずみずしい果物が実っています。水を飲もうと顎を
「それに?」
下げると水は引き、果物を噛もうと顎を上げると枝が反り
「それになにより、死者の国に彼らが取り込まれることを、
果物が遠ざかります。青年の竪琴の音を聴いたタンタロス
死者たちが望んでいない。死者たちのほうから、別れの挨
は、己の渇きと飢餓とを忘れてしまいました。
神々を謀ったシシュポスは、徒労地獄の刑罰を受けてい
ました。山の頂上まで休みなく岩を転がします。山頂まで
達すると、岩は重さでいつも転がり落ちてしまうのです。
青年が竪琴を奏でると、岩はピタリと止まりました。
拶をすませるでしょう」
「……ところで、エウリュディケを連れ戻せなかったオル
フェウスは、そのあとどうなったンだ?」
「死にました。嘆きのあまり、絶望しか奏でなくなったオ
ルフェウスは、ニンフたちの、歓喜の誘惑を無視したので
す。怒ったニンフたちに、手足を引き裂かれバラバラにさ
そして、ついに青年は、冥王ハデスとその奥方ペルセポネ
のもとにたどり着き、女房エウリュディケを地上に返してほ
しいと願い出ました。もちろんハデスは、
その勅願を断ります。
れ、頭と竪琴とをヘブロス川に投げ込まれました。おそら
くこれも、死者の呪いだったのでしょう」
「なあ……。それって、とっても……」
「大丈夫。私は、彼らを信じています」
181