ま え が き 大阪大学ラジオアイソトープ総合センターの 2007 年度利用年報をお届けします。 この年報は 2007 年 4 月から 2008 年 3 月までの1年間、センターを利用して行な われた研究の成果を記したものです。吹田本館利用 28 件のうち 24 件の報告、豊 中分館利用 14 件すべての報告から成っています。ここに収録されている当センタ ーを利用した研究が、さらに発展することを願うものであります。 大阪大学には 21 の放射性同位元素等使用施設があり、合計 6,500 名を越す放射 線業務従事者が利用しています。当センターの役割の一つは、学内の放射性同位 元素等使用施設の安全管理と放射線業務従事者に対する教育訓練の実施でありま す。2005 年に放射線業務従事者の被ばく線量、健康診断、教育訓練などを一元的 に管理する「放射線総合管理システム」の運用が開始され、最近、従事者が Web でアクセスすることにより各自の健康診断と教育訓練の日付を確認することがで きるようになりました。当センターには、各種の放射線実験設備と装置を整備し、 各部局の共同利用に供することによって放射線関連の研究を推進するという使命 もあります。本年報に記載されているように、当センターを利用して最先端の基 礎および応用研究が行われております。 大阪大学は「地域に生き世界に伸びる」をモットーに教育・研究に取り組み、 常に発展し続ける大学を目指しています。当センターも学内共同教育研究施設と して研究の推進に寄与することにより大学の発展を支えられるよう、施設を充実 させ円滑な運営を図ってまいりますので、皆様方のご協力をお願いいたします。 2008 年 5 月 大阪大学ラジオアイソトープ総合センター センター長 岩 井 成 憲 目 次 まえがき・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・i 岩井成憲 チェルノブイリ放射能汚染地域の生物における生理的・遺伝的蓄積影響の シミュレーション実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 中島裕夫・斎藤 直・本行忠志・石川智子・藤堂 足立成基・野村大成・梁 剛 治子 低線量・低線量率放射線の人体影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 野村大成・中島裕夫・本行忠志・梁 山口喜朗・斎藤 治子・足立成基 直 植物、微生物に対する放射線の影響に関する研究・・・・・・・・・・・・・・・・7 永瀬裕康 ガラス線量計のアニール特性に関する基礎研究・・・・・・・・・・・・・・・・・8 飯田敏行・佐藤文信・岸 暖也・加田 歩・井原陽平 単一細胞の放射線照射効果に関する研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 飯田敏行・佐藤文信・口丸高弘・青位裕輔 イオンビーム照射における出芽酵母の突然変異誘発に関する基礎的研究・・・・・11 西嶋茂宏・松尾陽一郎、清水喜久雄 陽電子消滅法によるソフトマテリアルの評価・・・・・・・・・・・・・・・・・13 西嶋茂宏・泉 佳伸・秋山庸子・芝原雄司 松尾陽一郎・宮内啓成・誉田義英 鉄中の炭化クロム析出物による陽電子捕獲と水素トラッピング・・・・・・・・・15 白井泰治・荒木秀樹・水野正隆 金 /酸 化 鉄 複 合 ナ ノ 粒 子 へ の ア ミ ノ 酸 吸 着 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 7 清野智史・古賀雄一・山本孝夫 低 温 菌 由 来 RNaseHIの 構 造 -機 能 相 関 と 安 定 性 に 関 す る 研 究 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 8 田所高志・松下恭子・劉 東周・安部有美 宮下聖子・古賀雄一・高野和文・金谷茂則 トチュウにおけるラバートランスフェラーゼ活性測定・・・・・・・・・・・・・19 武野真也・岡澤敦司 アンチコンプトン同時計数法を用いた低バックグラウンド計測・・・・・・・・・20 宮丸広幸 -ⅲ- 工学部未臨界実験室のトリチウム汚染の測定・・・・・・・・・・・・・・・・・21 吉岡潤子 工学研究科RI実験室排水のγ線測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22 吉岡潤子 RNAと タ ン パ ク 質 か ら な る 人 工 自 己 複 製 系 の 速 度 論 的 解 析 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 4 市橋伯一・北 寛士・松浦友亮・柳田勇人・イン ベイウェン TiAl金 属 間 化 合 物 に お け る 拡 散 研 究 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 5 中嶋英雄・仲村龍介 液体シンチレーション廃液の焼却・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 西尾チカ 植物糖ヌクレオチド関連酵素の解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 藤山和仁・梶浦裕之 メスバウアー分光測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28 川瀬雅也・森本正太郎・野村泰弘・池田泰大 黒葛真行・那須三郎・斎藤 直 DNAポリメラーゼの生化学的解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29 清水喜久雄・横山和也・細田洋史・松尾陽一郎 環境放射能測定に関する基礎的検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31 山口喜朗・斎藤 直 二重ベータ核分光による中性微子質量および右巻き相互作用の検証・・・・・・・33 岸本忠史・阪口篤志・小川 泉・早川知克・松岡健次 梅原さおり・岸本康二・平野祥之・伊藤 豪・坪田悠史 望月貴司・遠藤雅明・松田健翔・和田真理子・関 忠聖 放射性核種を用いた物性研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 篠原 厚・高橋成人・佐藤 渉・吉村 崇・二宮和彦・猪飼拓哉 大江一弘・栗林隆宏・坪内僚平・中垣麗子・松田亜弓・矢作 亘 尾本隆志・小森有希子・周防千明・藤沢弘幸 重核・重元素の核化学的研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37 篠原 厚・高橋成人・佐藤 渉・吉村 崇・菊永英寿・二宮和彦 猪飼拓哉・大江一弘・栗林隆宏・坪内遼平・中垣麗子・松田亜弓 矢作 亘・尾本隆志・小森有希子・周防千明・藤沢弘幸 -ⅳ- 大 腸 菌 mRNAエ ン ド リ ボ ヌ ク レ ア ー ゼ の 解 析 岩本 李 ・・・・・・・・・・・・・・・・・40 明・古賀光徳・多田康子・伊藤明日美 嘉欣・日比野愛子・米崎哲朗 植物細胞機能の解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42 藤井聡志・高木慎吾・水野孝一 渦鞭毛藻由来海洋天然物の細胞内分子機構の解明・・・・・・・・・・・・・・・44 此木敬一・玉手理恵・松森信明・大石 徹・村田道雄 Na +/H +交 換 輸 送 タ ン パ ク 質 の 制 御 の 分 子 機 構 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 5 松下昌史・佐野由枝・田中啓雄・三井慶治・金澤 損傷DNAの分子認識に関する研究 岩井成憲・林 浩 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 亮輔・柏木沙予・南條豪宏・藤原芳江 環境中の放射能動態の基礎的検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47 斎藤 直・福本敬夫・川瀬雅也・山口喜朗・森本正太郎 メスバウアー分光測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48 斎藤 直・森本正太郎・川瀬雅也・黒葛真行 野村泰弘・池田泰大・那須三郎・川上隆輝 医 学 部 機 能 系 実 習 (R I )・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5 0 本行忠志・中島裕夫・石川智子 医学系研究科放射線取扱実習・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51 船越 基礎セミナー 洋・高島成二・谷川裕章・小田茂樹 エネルギーの不思議Ⅱ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52 宮丸広幸・基礎セミナー受講生1年生 理学部化学系放射化学学生実習・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53 篠原 厚・高橋成人・佐藤 渉・吉村 崇 大江一弘・栗林隆宏・3年次学生75名 理学部物理学実験”放射線測定”・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54 福田光順・三原基嗣・清水 俊・松宮亮平・西村太樹・石川大貴 基礎工学部電子物理科学科物性物理科学コース3年次物性実験:放射線測定・・・55 美田佳三 基礎セミナー「環境とアイソトープ」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56 斎藤 直 平成19年度共同利用一覧 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57 -ⅴ- チェルノブイリ放射能汚染地域の生物における 生理的・遺伝的蓄積影響のシミュレーション実験 Chernobyl simulation experiment of physiologic, hereditary influence in mice. (医学系研究科1、RI総合センター2)中島裕夫1、斎藤 直2、本行忠志1、石川智子1、藤堂 足立成基1、野村大成1、梁 (Dept. Rad. Biol., Graduate School of Med.1, 剛1、 治子1 Radioisotope Res. Center2) H. Nakajima1, T. Saito2, T. Hongyo1, T. Ishikawa1, T. Todo1, S. Adachi1, T. Nomura1, H. Ryo1. 【目 的】 チェルノブイリ原発事故以来、低レベル放射能汚染地域に生活するヒトへの遺伝的影響が懸念されている が、ヒトにおいて経世代的影響が現れるには数世代の世代交代が必要であり、結果が明らかになるまでには 百年以上の時間経過が必要である。そこで、世代交代の速いマウスに着目して、低レベル放射能汚染環境下 で世代交代を重ねた野生マウスにおいて遺伝的影響の蓄積があるかどうかを検討することを考えた。しかし、 チェルノブイリ汚染地区では、汚染濃度の異なるところが斑状に存在しているために、それぞれのマウスの 生涯被ばく線量の算定が困難なこと、また、放射能汚染のみならず、工業化、経済の低迷などの要因で化学 物質などの環境汚染も進んでおり、現地野生マウスでの研究では、厳密な放射線影響のみを抽出することが 困難であると考えられた。 本研究では、RI施設内で近交系マウスに放射能汚染地マウスの体内と同レベルになるように137Csを長期間 経口的に摂取させることでチェルノブイリ放射能汚染環境を実験室内で再現し、その被ばくによる遺伝的影 響、生理的影響の検出を数世代にわたって試みる。そして、その結果をヒトにおける継世代的影響の短期的 シミュレーション実験として外挿できるかを検討することが目的である。 【実験方法と結果】 我々が 1997 年のチェルノブイリ汚染地域(ベラルーシ共和国、中等度汚染地域)で採取した 4 種のマウス のCs-137 含量は測定の結果、筋肉で 15~71Bq/gの範囲であった(Biological Effects of low dose radiation, 1999 )。そこで、近交系マウスを用いて、この被ばく条件をRI施設内で再現するためには、どれくらいの濃 度の137CsCl水溶液を自由摂水させることで設定量の137Csレベルを筋肉内に定常的に維持できるか基礎的実 験を行った。 C3H/HeJマウスに1KBq/g体重量の137CsCl水溶液を単回経口投与し行った前年度の臓器内半減期の測定 結果より、殆どの臓器では、経口投与後6時間までに137Csの放射活性がピークに達し、その後、減衰してほ ぼ2日で半減するのに対して、筋肉では、遅れて 48 時間後にピークに達し、約 13 日で半減、脳でも 48 時 間後にピークに達し、約4日で半減することがわかった。また、1KBq/g体重量の137CsCl水溶液長期経口摂 取による体内蓄積量の測定では、給水開始後 24 時間で増加速度は異なるものの全ての臓器当たりの137Csの 放射活性が立ち上がり、筋肉がもっとも遅く、給水2週間ほどで全ての臓器内蓄積量が定常状態になる傾向 を示した。その時点での体内蓄積量は、筋肉が最も多く、給水濃度とほぼ同じ濃度であることがわかった。 これらの結果を基に、本年度は、チェルノブイリ放射能汚染環境を実験室内で再現するべく、137CsCl水溶 液の濃度を 10Bq/mlと 100Bq/mlの 2 群に設定し、近交系マウス(A/J)に自由摂水させて、72 日後の臓器 組織内蓄積量を測定した。また、その環境下での交配により出生した新生仔(6 日齢)の臓器内蓄積量も調 べた。 その結果、予想通りに長期給水後でも筋肉内137Cs蓄積量が、臓器中最も多く、10Bq/ml群、100Bq/ml群 で、それぞれ 11.48、112.79Bq/gと給水濃度とほぼ同じ濃度であった(図-1)。 図―1 図―2 近交系マウス(A/J)に交配前より 137CsCl水溶液(100Bq/ml)を給水し、 その環境下で飼育、交配後、出産された 6 日目産仔の臓器内137Cs蓄積量 また、100Bq/ml 給水環境で飼育、交配した近交系マウス(A/J)の出生仔の 6 日齢の臓器内蓄積量では、 親の場合(図-1)とは異なり、最も多かった腎臓でも給水濃度の 3 割程度であり、筋肉内の蓄積量は、他 臓器と大きな差がなかった(図-2)。この結果から、たとえ、受精前、受精後の肺発生、胎仔発生を 100Bq/ml 給水環境で経た産仔でも臓器内蓄積量が、親の臓器内蓄積量と同じにならないことがわかった。 今後はこの条件下で近交系マウス(A/J)を飼育して、世代間の遺伝的、生理的影響の変化を調べる。 【発表論文】 1. 中島裕夫、斎藤 直、梁 治子、野村大成: チェルノブイリ高度、中度放射能汚染地域における動植物体 内の137Csの分布と含量の時間的推移 (Ecological decrease and biological concentration of radionuclides in plants and animals after Chernobyl catastrophe)、KEK Proceedings 2007-5 2. Tresnasari K, Takakuwa T, Ham MF, Rahadiani N, Nakajima H, Aozasa K. Telomere dysfunction and inactivation of the p16(INK4a)/Rb pathway in pyothorax-associated lymphoma. 3. Cancer Sci. 2007 Jul;98(7):978-84. Ham MF, Takakuwa T, Rahadiani N, Tresnasari K, Nakajima H, Aozasa K. Condensin mutations and abnormal chromosomal structures in pyothorax-associated lymphoma. Cancer Sci. 2007 Jul;98(7):1041-7. 4. 野村大成、中島裕夫、本行忠志、梁治子、足立成基、Le Thi Thanh Thuy、岩城紘幸、藤川和男、伊藤哲 夫: ヒト臓器・組織置換マウス等を用いた宇宙放射線の人体および継世代リスクの基礎評価。宇宙利 用シンポジウム、23: 298-301、2007 【口頭発表】 1. 中島裕夫、斎藤 直、梁 治子、野村大成「チェルノブイリ高度、中度放射能汚染地域における動植物体 内の 137 Csの分布と含量の時間的推移」 第 8 回「環境放射能」研究会、2007 年 3 月 22 日~3 月 24 日、高エネルギー加速器研究機構 低線量・低線量率放射線の人体影響 Low dose and low dose rate effects of radiation (医学系研究科・工学研究科)野村大成、 (医学系研究科)中島裕夫、本行忠志、梁 治子、足立成基、 (ラジオアイソトープ総合センター)山口喜朗、斉藤 直 (Grad. Sch. Med. and Eng.) T. Nomura, (Grd. Sch. Med.) H. Nakajima, T. Hongyo, H. Ryo, S. Adachi (Radioisotope Center) Y. Yamaguchi, T. Saito 低線量放射線(<0.2 Gy)の発がんリスクは、比較的高線量域での高線量率、低線量率被曝による線量効果曲線(LQ モデル)により、低減係数(線量率効果係数)を求め、リスク推定に用いてきた。最近の動向をみても、線量・線量 率効果係数(Dose and Dose Rate Effectiveness Factor, DDREF)は白血病で 2、固型腫瘍で 3 を超えることがない とされ、0~2.0 Gy 域では固型腫瘍に対し 1.43、白血病に対し 1.58 と報告されている(UNSCEAR, 1993, 2000)。ま た、中性子線など微量核分裂放射能、例えば、核施設事故、宇宙放射線などの人体影響研究は、社会的にも、科学的 にもきわめて重要でありながら、未知の部分が多い。 大阪大学においては、ヒト臓器・組織の中でも放射線に高い、あるいは、致命的な感受性を示す臓器であり、ヒ トの成長に最も重要な役割をもつ甲状腺組織を、拒絶反応をなくした重度複合免疫不全(severe combined immunodeficient)マウス(SCID マウス)に移植、長期維持することにより、人体組織に及ぼす放射線の影響を定量 的に評価する新たな研究システムを開発し、低線量・低線量率放射線被曝の人体リスクをヒト臓器・組織を用い、正 確に把握する系を確立している。 通常飛行、軌道上あるいは宇宙基地で浴びる宇宙放射線による飛翔体内のヒト被曝の主たる放射線である微量中性子線 の影響をヒト臓器・組織維持 SCID マウスを用い、また、宇宙よりの帰還後を想定し、被曝雄マウスと正常雌マウスとの 交配による次世代への影響の基礎評価を微量物質の有効性・安全性高感度迅速評価のモデルとして、文科省科研費基盤研 究(医学系研究科・放射線基礎医学) 、Space Forum(工学研究科・環境エネルギー工学 盛岡研究室)により継続して行 った。Affymetrix 社製の GeneChip (HG Focus array) を用い、ヒト遺伝子 8,500 個の発現異常を調べたところ、線量依 存性に、機能遺伝子の発現異常は増加の傾向を示している。微量化学物質でも、高感度短時間でヒト遺伝子機能影響調査 が可能であることを示している。 JAXA 評価委員会より、いますぐ打ち上げ可能なプロジェクトとして最高点の評価を受けたが、米、欧州でのマウス搭載 実験の中止に伴い、日本でもマウスを用いた宇宙実験は中止された。Super SCID マウスを多くの研究者が使用できるよ う技術を積極的に普及するよう希望するとのコメントがあった。また、我が国では民間企業が中心となり宇宙実験計画が ある。宇宙実験のため、ヒト甲状腺、肺、骨髄置換 SCID マウスを常備し待機中である。創薬に関連した課題を加え、疾 患モデルマウスを用いた宇宙環境の生体への影響研究の必要性を JAXA に提案した。 発 表 論 文 1. “Chapter 12. Transmissible Genetic Risk Causing Tumours in Mice and Humans. In Male-mediated Developmental Toxicity.” T. Nomura. Eds., D. Anderson and M. H. Brinkworth, pp. 134-148. Royal Society of Chemistry, Cambridge, U.K. (2007). 2. “Distortion of Neutron Field during Mice Irradiation at Kinki University Reactor UTR-KINKI” S. Endo, K. Tanaka, K. Fujikawa, T. Horiguchi, T. Itoh, G. Bengua, T. Nomura and M. Hoshi, Applied Radiat. Isotope, 65, 1037–1040 (2007). 3. “Critical role of RecA and RecF proteins in strand break rejoining and maintenance of fidelity of rejoining following γ-radiation-induced damage to pMTa4 DNA in E. coli” R. N. Sharan, H. Ryo and T. Nomura, Int. F. Radiat. Biol., 83 (2): 89-97 (2007). 4. “Transgenerational effects from exposure to environmental toxic substances” T. Nomura, Mutation Res. Review 2008 (in press), March 28, 2008 On-line Published. 5. “Differential radiation sensitivity to morphological, functional and molecular changes of human thyroid tissues and bone marrow cells maintained in SCID mice” T. Nomura, T. Hongyo, H. Nakajima, L. Y. Li, M. Syaifudin, S. Adachi, H. Ryo, R. Baskar, K. Fukuda, Y. Oka, H. Sugiyama and F. Matsuzuka, Mutation Res., 2008. (in press). 口 頭 発 表 1. “Cl/fr mice to investigate molecular and genetic mechanisms of cleft lip and palate in a heritable mouse model. the 2nd Honolulu White Paper meeting” Taisei Nomura , University of Hawaii School of Medicine, Honolulu, HI. March 27 –April 1, 2007 2. “Transgenerational effects from exposure to environmental toxic substances” Taisei Nomura, 5th International Conference of Mutagens in Human Population. Antalya, Turkey, May 20-24, 2007. 3. “Tumors in the offspring by germ cell exposure to radiation and chemicals in mice: possible relationship to induced genetic changes” Taisei Nomura, L. Y. Li, Hiroo Nakajima, Tadashi Hongyo, R. Baskar, Shigeki Adachi, Haruko Ryo. 8th International Symposium on Chromosomal Abberation (Awaji Yumebutai, Awaji, October 4-6, 2007). 4. “Low dose and dose rate effects on radiation mutagenesis, teratogenesis and carcinogenesis” Taisei Nomura, 6th LOWRAD International Conference (Budapest, October 17-20, 2007). 5. “Prevention of Cancer and Malformation by Bioactive Substances in Mice. In: Educational Session, 9th International Conference of Mechanism of Antimutagenesis and Anticarcinogenesis.” Taisei Nomura (Jeju Island, South Korea, December 1-5, 2007). 6. “Urethane (ethyl carbamate)-induced mutagenesis, teratogenesis and carcinogenesis and their modulation. In; Modulation of Genotoxicity and Carcinogenicity (1)”, 9th International Conference of Mechanism of Antimutagenesis and Anticarcinogenesis (Jeju Island, South Korea, December 1-5, 2007). 関 連 資 料 「H2A」にマウス 無重力で医薬研究、12 年から、衛星打ち上げ活用: 日経新聞 2008 年 1 月 27 日 植物、微生物に対する放射線の影響に関する研究 Effect of radiation on plants and microorganisms (薬学研究科)永瀬裕康 (Graduate School of Pharmaceutical Sciences) H. Nagase 微 生 物 に 対 し て 強 い 放 射 線 を 照 射 す る と 殺 菌 作 用 を 持 つ こ と は よ く 知 ら れ て お り 、例 え ば γ 線 滅 菌 な ど に 利 用 さ れ て い る 。し か し 、植 物 や 微 生 物 に 低 レ ベ ル の 放 射 線 を 照 射 し た 場 合 の 影 響は不明の部分が多い。 植 物 や 微 細 藻 類 は 光 合 成 を 行 う た め に 、そ れ に 伴 い 細 胞 内 で 発 生 す る 活 性 酸 素 種 に よ る 酸 化 ス ト レ ス を 受 け る 。こ れ に 対 応 す る た め に 、光 合 成 に よ る 酸 化 ス ト レ ス を 緩 和 す る 仕 組 み を 持 っ て い る 。一 方 、γ 線 を 細 胞 に 照 射 し た 場 合 、水 が 励 起 さ れ て 活 性 酸 素 種 が 生 成 し 、こ れ が 細 胞 に 障 害 を 及 ぼ す こ と が 知 ら れ て い る 。そ こ で 、植 物 や 微 細 藻 類 に γ 線 を 照 射 し た 場 合 に 、酸 化 ス ト レ ス 緩 和 の 仕 組 み が 働 く か ど う か は 興 味 の あ る 課 題 で あ る 。本 研 究 で は 、植 物 や 微 生 物 に 低 レ ベ ル の 放 射 線( γ 線 )を 照 射 し た 場 合 の 影 響 を 検 討 し た 。微 細 藻 類 は 植 物 と 比 べ て 増 殖 が 速 い の で 、 実 験 材 料 と し て 緑 藻 Chlamydomonas reinhardtii を 選 ん だ 。 C. reinhardtii を 24穴 プ レ ー ト に 入 れ 、γ 線 源( 1 3 7 Cs)か ら の 距 離 を 4 段 階 に 変 え て 、γ 線 を 24 hr照 射 し た 。そ の 後 、過 酸 化 水 素 の 濃 度 を 変 え て 添 加 し 、72 hr培 養 を 行 っ た 。ま ず 、過 酸 化 水 素 を 添 加 せ ず に γ 線 源 か ら の 距 離 の 影 響 を 調 べ た が 、C. reinhardtii の 増 殖 は γ 線 を 照 射 し な い 場 合 と 同 様 で あ っ た 。ま た 、過 酸 化 水 素 に 対 す る 生 長 阻 害 試 験 を 行 っ た が 、γ 線 照 射 による影響は見られなかった。今後は、実験条件を変えて検討を行っていく予定である。 発 表 論 文 ・口 頭 発 表 なし ガラス線量計のアニール特性に関する基礎研究 A fundamental study on annealing characteristics of phosphate glass dosimeter 工学研究科 飯田敏行、佐藤文信、岸暖也、加田渉、井原陽平 Graduate School of Engineering, T. Iida, F. Sato, A. Kishi, W. Kada and Y. Ihara 1 はじめに 近年、個人被ばく線量計にはフィルムバッジに代わって、銀活性化燐酸塩ガラスを材料にした蛍光ガラス線量計 などが利用されるようになってきている。工学部・工学研究科においても、現在ではこのタイプの個人被ばく線量 計が主に用いられている。本研究では、この蛍光ガラス線量計の信頼度を評価する目的で、簡便なガラス線量計用 リーダーを製作するとともに、 蛍光ガラス線量計の重要な基礎特性の一つであるアニーリング特性について調べた。 2 実験と結果 蛍光ガラス線量計素子試料には、千代田テクノル社 1800 製の GD-450 を選定した。工学部・工学研究科で個人被 1600 ばく線量計に使用されているものと同じである。蛍光 1400 ス(RPL)励起用に紫外線 LED、RPL 測定に光電子増倍管 を用いて独自に製作した。線量計素子試料のγ線照射 は、産業科学研究所のガンマ線照射施設を利用した。 Light Intensity (a.u.) ガラス線量計用リーダーは、ラジオフォトルミネセン 60 Co:0.25Gy 加熱時間:30 分 1200 1000 800 600 400 GD-450 についてのアニール実験結果の例を図1に示し ている。アニール効果は素子温度に大きく依存したが、 概しては 300℃以上の温度で十分にアニールすること ができた。 200 0 100 150 200 250 300 350 400 Temperture (℃) 図1 アニーリング温度特性 3 まとめ 蛍光ガラス線量計用の簡便なリーダーを製作し、線量計素子 GD-450 のアニーリング特性について調べた。Co- 60γ線を照射した素子試料は、300℃、30 分で十分にアニールできることを確認した。高温長時間のアニーリング は、線量計素子の劣化を早め寿命を短くする。現在は、さらにアニール処理とガラス線量計素子の劣化損傷の関連 について調べている。 発表論文 1. 「ガラス線量計システムの高性能化に関する研究」 岸 暖也、大阪大学大学院工学研究科電気電子情報工学専攻修士論文(2008) 口頭発表 1. 「蛍光ガラス線量計のための簡便なラジオフォトルミネッセンス測定法」 岸 暖也他、第 68 回応用物理学会, 6p-ZC-1(北海道工業大学、2007 年 9 月) . 単一細胞の放射線照射効果に関する研究 Study on Radiation Effects by Single Cell Irradiation 工学研究科 飯田敏行、佐藤文信、口丸高弘、青位裕輔 Graduate School of Engineering, T. Iida, F. Sato, T. Kuchimaru, Y. Aoi 1. はじめに 近年、電離放射線をマイクロオーダーの領域に集束させたマイクロビームを用いて、細胞の様々な放射線 応答を解明する研究が行なわれている[1] 。我々は、テーブルトップサイズの X 線マイクロビーム照射装置 を開発し[2]、神経モデル細胞である PC12 を用いて、神経細胞の放射線効果について調査している。 2. 単一細胞への X 線マイクロビーム照射実験 図 1 はX線マイクロビーム照射実験の概略図である。マイ クロフォーカスX線管(管電圧:~ 50 kV、管電流:~ 1 mA、ター ゲット: Rh)によって生成された、X線はガラスキャピラリに よって、最小ビーム径 10 μm [FWHM](線量率:~0.3 Gy/s)に収 束され、大気中にて、対物レンズ観察下の細胞試料に照射さ れる。また、照射後、放射線効果を解析するために、細胞集 団において照射細胞を特定する必要がある。そこで、我々は、 単一細胞を格納できるマイクロチャンバー(縦横: 50×50 μm、 深さ: 15 μm)を、UVリソグラフィによって、感光性樹脂SU-8 を微細加工することで、アレイ状にカバーガラス上( 18×18 図 1. 単一細胞への X 線マイクロビーム照 射実験の概略図 mm)に作製し、試料細胞の培養に用いた。照射試料細胞であ るPC12 は、照射 24 時間前に、ゼラチンコートしたマイクロチャンバーアレイチップ上に、5.0×105 cell/mL で蒔き、37℃、5%CO2雰囲気下で、10%子牛血清、5%馬血清を加えたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM) を用いて培養した。 3. PC12 細胞におけるマイクロビーム照射効果の解析 PC12 において、X 線の集団照射後、炎症性サイトカインであるインターロイキン 6 (IL6)が産生されるこ とが報告されている[3]。そこで、マイクロチャンバー内で、マイクロビーム照射された細胞を追跡観察し、 免疫抗体染色法によって、IL6 の産生について調査した。図 2 は、照射 24 時間における、6 Gy 照射細胞、非 照射細胞における、追跡観察の様子及び、免疫抗体染色の結果である。照射細胞においては、IL6 の産生に よる強い蛍光が観察された。IL6 は、神経系統の細胞において様々な効果を発動することが知られており、 放出性因子であることから、バイスタンダー効果[4]のような放射線誘起細胞間コミュニケーションにおける 伝達物質となりえるか、今後、調査する予定である。 図 2. (a) 6 Gy 照射細胞、(b) 非照射細胞 のマイクロチャンバー内での追跡観察の様子 4. まとめ 神経モデル細胞である、PC12における、X線マイクロビーム照射効果について調査している。マイクロビ ーム照射後、24時間において炎症性サイトカインであるIL6の産生を確認し、単一細胞照射効果を理解する上 で、重要なデータを得た。 参考文献 [1] K. M. Prise et al.; Lancet Oncol., Vol. 6, pp. 520-528 (2005). [2] T. Kuchimaru et al.; IEEE Trans. Nucl. Sci., Vol. 53, no. 3, pp. 1363-1366 (2006) [3] K. Abeyama et al.; FEBS Lett., Vol. 364, pp. 298-300 (1995) [4] M. V. Sokolov et al.; Oncogene, Vol. 24, pp. 7257-7265 (2005) 発表論文 X-ray microbeam measurement with radiophotoluminescent glass plate for single cell irradiation, F. Sato, T. Kuchimaru, T. Ikeda, K. Shimizu, Y. Kato and T. Iida, Radiat. Measur. (in press) 口頭発表 マ イ ク ロ 細 胞 チ ッ プ を 用 い た 単 一 細 胞 の X線 マ イ ク ロ ビ ー ム 照 射 実 験 (II),青 位 祐 輔 ,口 丸 高 弘 , 佐 藤 文 信 , 加 藤 裕 史 , 飯 田 敏 行 、 30a-NE-11、 第 55回 応 用 物 理 学 関 係 連 合 講 演 会 、 2008年 3月 、 日本大学 イオンビーム照射における出芽酵母の突然変異誘発に関する基礎的研究 Effect of Ion Beam Irradiation of Mutation in S.cerevisiae. (工学研究科)西嶋茂宏、松尾陽一郎 (RI 総合センター)清水喜久雄 (Grad. Sch. Engennering) S.Nishijima, Y.Matsuo (Radioisotope Res. Center) K. Shimizu 研究背景 放射線による致死効果を応用したガン治療や、突然変異を用いた育種技術は大きな進展が見ら れている。その中でも生体へ大きな影響を与えることが予測される重粒子線に注目が集められている。しか し、突然変異誘発のメカニズムはいまだ不明な部分が多い。 これまでの研究から、γ線及び重粒子線による突然変異誘発では、グアニンの酸化型前駆体である 8-oxodG の生成が突然変異誘発に大きく寄与することを報告してきた。主要なプリン塩基の酸化体である 8-オキソグ アニン(8-oxodGTP)はヌクレオチドプールの酸化で生じやすく、8-oxodGTP は50%の確率でアデニン(A) と誤対合を誘発する。そして次の複製時において、アデニンはチミン(T)と相補鎖を形成し、G・C から T・ A のトランスバーション変異を誘発する(Fig.1)。 放射線による突然変異生成プロセスには、DNA 修復機構が大きく関与すると考えられている。そこで本 研究では、 出芽酵母 S.cerevisiae の野性株お よび 8-oxodG の除去修復遺伝子不活性な ogg1 株を用い、重粒子線による突然変異誘発の過 程を修復経路の観点から明らかにすること目 的とした。 Fig.1 8-oxodG により誘発されるトランスバーション突然変異 実験方法 実験資料として、S.cerevisiaeのS288c(RAD +)、および酸化型前駆体 8-oxodGTPの除去活性を失っ たogg1 株を用いた。 原子力研究開発機構 イオン照射研究施設(TIARA)のAVFサイクロトロンを用いて加速 したカーボンイオン粒子(エネルギー:220 MeV,LET:107 keV/μm)を酵母細胞へ照射した。最も突然変 異の頻度が高かった照射条件を用いて突然変異の誘発を行い、URA3 領域(804bp)についてPCR法を用い増幅 させ、変異位置をシーケンス解析によって決定した。また、γ線の照射は大阪大学産業科学研究所のコバル ト 60 線源を用いた。 Fig.2 重粒子線照射による突然変異パターン 結果・考察 重粒子線照射による、最も突然変異が高かっ た吸収線量は、野性株及びogg1 株でともに 100Gyであった。 突然変異頻度はそれぞれ野性株: 1.8×10-5 、ogg1 : 3.8× 10-5 であった。 重粒子線照射による野生株での突然変異のパターンを Fig.2(A)に、ogg1 株での変異パターンを Fig.2(B)に示す。 野性株および ogg1 株ともに塩基置換の頻度が高く、特に ogg1 株では変異のすべてで置換変異であった。また ogg1 株 では G・C から T・A のトランスバーションが 70 %を占め、野 性株の場合と比較して有意な差を示した。これは OGG1 株で は誤挿入された 8-oxodG の除去がなされないためであると考えられる。 Fig.3 に突然変異誘発部位を、Table 1 に野性株及び ogg1 株における重粒子線による突然変異の内容を示 す。重粒子線照射による野性株及び ogg1 株では異なる部位に変異が確認された。重粒子線照射による突然変 異誘発は、DNA への直接的な損傷、ヌクレオチドプールの酸化、そして酸化ヌクレオチドの誤挿入という多 段階的なプロセスによって生成されると考えられる。突然変異率及びシーケンス解析の結果から、重粒子線 照射による突然変異はヌクレオチドプールの酸化及び誤挿入のプロセスが大きく寄与することが示された。 Table 1 重粒子線照射による野性株および ogg1 の変異内容 Fig.3 シーケンス解析による突然変異誘発部位 論文投稿 ・松尾陽一郎,細田洋史,横山和也,古澤佳也,清水喜久雄.重粒子線による突然変異生成の分子機構の解析. 2007 Annual Rep.HIMAC,1,147‐148(2008) ・Y.Matuo,S.Nishijima,Y.Hase,A.Sakamoto,Y. Yokota, I. Narumi,K.Shimizu,Study of molecular mechanism of Carbon ion beam induced mutations in the Saccharomyces cerevisiae,JAEA-Review 2006, 60(2008) 学会発表 ・松尾 陽一郎,西嶋 茂宏,池田稔治,清水喜久雄,重粒子線照射による突然変異と育種技術への応用、放射線 安全管理学会(2007 年 12 月 5 日) ・松尾 陽一郎,西嶋 茂宏,長谷純宏,坂本綾子、田中淳、清水喜久雄,炭素イオンビーム照射による出芽酵母 の突然変異誘発機構の解析、放射線影響学会 (2007 年 11 月 14 日) ・松尾陽一郎、西嶋茂宏、長谷純宏、坂本綾子、鳴海一成、清水喜久雄、カーボンイオンビーム照射における出 芽酵母の突然変異誘発メカニズム、イオンビーム育種研究会 第 4 回大会 (2007 年 7 月 12 日) ・松尾陽一郎、西嶋茂宏、清水喜久雄、長谷純宏、坂本綾子、鳴海一成、重粒子線照射による変異誘発機序とヌ クレオソーム構造の関係、第 2 回 高崎量子応用研究シンポジウム (2007 年 6 月 21 日) 陽電子消滅法によるソフトマテリアルの評価 Evaluation of Soft Material using Positron Annihilation Methods (大学院工学研究科 環境・エネルギー工学専攻)西嶋茂宏,泉佳伸,秋山庸子,芝原雄司, 松尾陽一郎,宮内啓成 (Graduate School of Engineering) Shigehiro NISHIJIMA, Yoshinobu IZUMI, Yoko AKIYAMA, Yuji SHIBAHARA, Youichirou MATSUO and Hironari MIYAUCHI (産業科学研究所)誉田義英 (The Institute of Scientific and Industrial Research) Yoshihide HONDA はじめに 固 体 高 分 子 型 燃 料 電 池 (PEFC)に 用 い ら れ る 高 分 子 電 解 質 膜 に は 、高 い プ ロ ト ン 伝 導 率 が 求 め ら れ て い る 。プ ロ ト ン 伝 導 率 は 官 能 基 の 電 子 状 態 や 空 間 構 造 に 依 存 し て い る と 考 え ら れ る 。陽 電 子 寿 命 測 定 で は 、o-Psの 消 滅 寿 命 か ら 材 料 内 の 空 隙 評 価 を 行 う 事 が で き 、ま た 、そ の 消 滅 γ 線 の ド ッ プ ラ ー 拡 が り か ら 対 消 滅 相 手 電 子 の 運 動 量 が 評 価 で き る た め 、電 解 質 膜 の 性 能 評 価 に 利用できると期待される。 そこで本研究では、親水性官能基密度の異なる炭化水素系高分子 電 解 質 膜 を 用 い 、そ の 自 由 体 積 評 価 お よ び 官 能 基 の 電 子 状 態 評 価 を 、陽 電 子 消 滅 寿 命 測 定 法 お よびドップラー拡がり測定によって行い、プロトン伝導率との相関について調べた。 実験 高 分 子 電 解 質 膜 と し て パ ー フ ル オ ロ 系 電 解 質 膜 の Nafion及 び 、炭 化 水 素 系 の sulfonated-Pol y(ether– ether– ketone) (s-PEEK)を 用 い た 。s-PEEKに つ い て は PEEKを 90℃ で 24 h、減 圧 乾 燥 し た 後 、98 %濃 硫 酸 を 用 い て 反 応 時 間 を 変 化 さ せ ス ル ホ 化 を 行 い 、目 的 物 質 を 得 た 。陽 電 子 測 定 用 に DMFを 用 い た キ ャ ス ト 法 で 製 膜 し た 。ま た 、イ オ ン 交 換 容 量 (IEC) 測 定 を 行 い 、ス ル ホ 基 の 導 入 率 を 求 め 、FTIRに よ り ス ル ホ 基 が 導 入 さ れ て い る こ と を 確 認 し た 。試 料 の 含 水 率 に つ い て は TG-DTA測 定 を 行 い 調 べ た 。陽 電 子 測 定 に は カ プ ト ン フ ィ ル ム で 密 封 さ れ た 46kBq Na-22 を陽電子源として用いた。 結果 s-PEEKの o-Psの 消 滅 寿 命 は 、主 鎖 骨 格 で あ る PEEKの o-Psの 消 滅 寿 命 と 比 較 し て 短 く な っ た が 、 官 能 基 密 度 の 違 い に よ る 差 は 観 測 さ れ な か っ た 。ま た s-PEEKと 同 様 に ス ル ホ 基 を 持 つ Nafionと の 比 較 で は 、 側 鎖 長 の 短 い s-PEEKの 方 が τ 3 が 短 く な っ た 。 一 方 、 Sパ ラ メ ー タ と 官 能 基 密 度 、 プ ロ ト ン 伝 導 と の 関 係 を 調 べ た 結 果 、 官 能 基 密 度 が 上 が る と プ ロ ト ン 伝 導 度 も 増 大 し 、 Sパ ラ メ ー タ は 減 少 す る と い う 結 果 が 得 ら れ た( 図 1参 照 )。こ れ ら の 結 果 か ら 、側 鎖 の 導 入 に よ り o -Psの 消 滅 部 位 が 変 化 し て お り 、 官 能 基 周 辺 で 消 滅 が 起 き て い る と 考 え ら れ る 。 まとめ PEEK, s-PEEKに 対 し 陽 電 子 寿 命 測 定 を 行 っ た 結 果 、 ス ル ホ 化 す る こ と で τ 3は 減 少 し た が 、 ス ル ホ 化 の 程 度 で 差 は 見 ら れ な か っ た 。 一 方 、 Sパ ラ メ ー タ は ス ル ホ 化 の 程 度 が 進 む と 減 少 す る 傾 向 を 示 し 、ま た 、プ ロ ト ン 伝 導 度 の 測 定 か ら 、プ ロ ト ン 伝 導 度 の 増 大 と と も に Sパ ラ メ ー タ は 減 少 す る こ と が わ か っ た 。 こ れ ら の ことは陽電子がスルホ基近傍で消滅していることを 図1 プロトン伝導度とSパラメータの関係 示唆している。 発表論文 1. "Study on hydrocarbon based electrolyte membrane by using positron annihilation spectrosc opy ", H. Miyauchi, Y. Shibahara, Y. Akiyama, Y. Izumi, Y. Honda, N. Kimura, G. Isoyama, S. Tagawa, a nd S. Nishijima, Transactions of the Materials Research Society of Japan, in press. 2. “Analysis of thermal degradation process of Nafion-117 with age-momentum correlation method”, Y. Shibahara, Y. Akiyama, Y. Izumi, Y. Honda, N. Kimura, S. Tagawa, G. Iso yama, and S. Nishijima, Journal of Polymer Science, Part B, Polymer Physics, 3. “陽電子消滅法を利用した固体高分子形燃料電池電解質膜の精密解析法”, 西嶋茂宏,芝原雄司,ケミカル エンジニヤリング,52(4),43-48, 2007 4. “Study on polymer electrolyte membrane for fuel cells by using AMOC technique”, Y. Honda, Y. Shibah ara, Y.Akiyama, N. Kimura, G. Isoyama, S. Tagawa, S. Takeda, Y. Izumi, and S. Nishijima, Physica Stat us Solidi (C), 4(10), 3735-3738, 2007 口頭発表 1. 「陽電子消滅法を利用した固体高分子形燃料電池電解質膜の構造解析」,芝 原 雄 司 ,宮 内 啓 成 ,秋 山 庸 子 , 泉 佳 伸 , 西 嶋 茂 宏 , 誉 田 義 英 , 木 村 徳 雄 , 田 川 精 一 , 磯 山 悟 郎 , 第 44回 ア イ ソ ト ー プ ・ 放 射 線 研 究 発 表 会 , ( 東 京 , 2007年 7月 ) 2. 「 陽 電 子 消 滅 を 用 い た 高 分 子 電 解 質 膜 の 構 造 解 析 」 , 宮 内 啓 成 、 芝 原 雄 司 、 秋 山 庸 子 、 木 村 徳 雄 、 泉 佳 伸 , 誉 田 義 英 , 磯 山 悟 朗 , 田 川 精 一 , 西 嶋 茂 宏 , 日 本 原 子 力 学 会 2007年 秋 の 大 会 , ( 福 岡 , 20 07年 9月 ) 3. 「 陽 電 子 消 滅 法 に よ る s-PEEKの 研 究 」 , 宮 内 啓 成 , 芝 原 雄 司 , 秋 山 庸 子 , 泉 佳 伸 , 西 嶋 茂 宏 , 誉 田 義 英 , P.K.Pujari, 木 村 徳 雄 ,磯 山 悟 朗 , 田 川 精 一 , 京 都 大 学 原 子 炉 実 験 所 平 成 19年 度 専 門 研 究 会 「 陽 電 子 科 学 と そ の 理 工 学 へ の 応 用 」 , (大 阪 , 2007年 11月 ) 鉄中の炭化クロム析出物による陽電子捕獲と水素トラッピング Positron annihilation study of hydrogen trapping by precipitates in steels (大学院工学研究科)白井泰治、荒木秀樹、水野正隆 (Graduate school of Engineering) Y. Shirai, H. Araki and M. Mizuno はじめに 鋼の遅れ破壊や溶接水素割れの防止には、炭化ニオブ、炭化バナジウム、炭化チタンなどの微細析出物による水 素トラップが有効であると報告されている。本研究では、フェライト鋼中の炭化クロム微細析出物が水素をトラッ プすることを発見したので報告する。また、この炭化クロム微細析出物は、水素だけでなく、陽電子も捕獲したの で、その挙動についても報告する。 実験方法 Fe-24.63mass%Cr-0.004mass%C合金(試料A)およびFe-24.55mass%Cr-0.061mass%C合金(試料B)を、1373K で 1 時間の溶体化処理を施し、水冷した。その後に 823~923Kで 1 時間の時効熱処理を加え、空冷した試料も準 備した。厚さ 2mmの浸漬試験片を採取し、常温の 3%NaCl水溶液+3g/L NH4SCN水溶液中で-1.2V(vs.Ag/AgCl) の定電位で陰極水素チャージを 96 時間行い、拡散性吸蔵水素濃度を昇温脱離法で測定した。陽電子寿命測定は、 線源に 30μCiの22Naを用い、fast-fast timing coincidence systemにより室温で行った。 実験結果 溶体化処理後の陽電子平均寿命は、試料A、Bともに 104 ピコ秒で等しかった。試料Aに時効熱処理を施しても、 陽電子平均寿命は増加しないが、試料Bに時効熱処理を加えると、陽電子平均寿命は大きく増加した。一方、試料 Aは、溶体化処理のままでも、その後に時効熱処理を加えても拡散性水素濃度は小さいが、試料Bに熱処理を加え ると、拡散性水素濃度は高くなった。これらの結果は、時効熱処理によって試料B中でのみ析出した炭化クロム (M7C3)に水素と陽電子がトラップされているためである。このように水素のトラッピングサイトには陽電子も捕 獲される可能性があり、 陽電子をプローブとした研究結果が水素トラッピングサイトの同定などに有効であること が判った。 発表論文 1. “Positron lifetime study on the degradation of LaNi5 and LaNi4.8Sn0.2 during hydrogen absorption-desorption cycling” H. Araki, R. Date, K. Sakaki, M. Mizuno and Y. Shirai, Physica Status Solidi (c), 4, 3510 (2007). 2. “Identification of lattice defects in Cu thin films by positron annihilation spectroscopy” M. Mizuno, T. Kihara, H. Araki, Y. Shirai and T. Onishi, Physica Status Solidi (c), 4, 3550 (2007). 3. “Thermal formation of vacancies in Cu3Sn” I. Shishido, H. Yasueda, M. Mizuno, H. Araki and Y. Shirai, Physica Status Solidi (c), 4, 3563 (2007). 4. “Atomic structure and positron lifetime in the metallic glass Zr55Cu30Ni5Al10” K. Sugita, M. Matsumoto, M. Mizuno, H. Araki and Y. Shirai, Physica Status Solidi (c), 4, 3567 (2007). 5. “Molecular dynamics study of glass-forming ability of Zr-based metallic glasses” K. Sugita, M. Mizuno, H. Araki and Y. Shirai, Materials Transactions, 48, 1336 (2007). 他多数 口頭発表 1.「LaNi5合金の水素吸蔵・放出繰り返しによる性能劣化過程」 荒木秀樹、伊達亮介、榊浩司、水野正隆、白井泰治、第 44 回アイソトープ・放射線研究発表会(東京、2007 年 7 月) 2.「Zr 基バルクアモルファス合金中の自由体積」 杉田一樹、松本昌高、水野正隆、荒木秀樹、白井泰治、日本物理学会 2008 年秋季大会(北海道、2007 年 9 月). 3.「LaNi5における空孔の安定性と水素トラップ能に関する第一原理計算」 水野正隆、荒木秀樹、白井泰治、日本物理学会 2008 年秋季大会(北海道、2007 年 9 月). 4.「水素吸放出繰返により形成された格子欠陥によるLaNi5の劣化」 荒木秀樹、河林毅、水野正隆、白井泰治、日本物理学会 2008 年秋季大会(北海道、2007 年 9 月). 5. 「TiNi 合金のマルテンサイト変態前駆現象の陽電子消滅同時計測ドップラー幅広がり法による観察」 荒木秀樹、山野裕子、勝山仁哉、水野正隆、白井泰治、日本鉄鋼協会第 154 回秋季講演大会(岐阜、2007 年 9 月). 6.「鉄中の炭化クロム析出物による陽電子捕獲と水素トラップ」 荒木秀樹、丸山一樹、水野正隆、白井泰治、大村朋彦、濱田昌彦、小川和博、日本物理学会第 63 回年次大会 (大阪、2008 年 3 月). 7.「遷移金属炭化物の水素トラップ能に関する第一原理計算」 水野正隆、荒木秀樹、白井泰治、日本物理学会第 63 回年次大会(大阪、2008 年 3 月). 8.「リアルタイム組織損傷計測技術の開発と寿命診断技術の確立」 白井泰治、日本鉄鋼協会第 155 回春季講演大会(東京、2008 年 3 月). 9. 「陽電子消滅法を活用した鋼の水素脆化感受性の評価(1)」 大村朋彦、濱田昌彦、小川和博、丸山一樹、薮内惇、荒木秀樹、水野正隆、白井泰治、日本鉄鋼協会第 155 回 春季講演大会(東京、2008 年 3 月). 10.「陽電子消滅法を活用した鋼の水素脆化感受性の評価(2)」 荒木秀樹、水野正隆、白井泰治、大村朋彦、濱田昌彦、小川和博、日本鉄鋼協会第 155 回春季講演大会(東京、 2008 年 3 月). 11.「HDDR 処理を適用した Nd-Fe-B 系合金の DR 過程に伴う組織変化と保磁力」 西内武司、広沢哲、中村昌樹、柿本雅淳、河林毅、荒木秀樹、白井泰治、日本金属学会 2008 年春期大会(東 京、2008 年 3 月). 他多数 金/酸化鉄複合ナノ粒子へのアミノ酸吸着 Adsorption of Amino Acids onto Au/Iron-oxide Composite Nanoparticles (工学研究科)清野智史、古賀雄一、山本孝夫 (Graduate School of Engineering) S. Seino, Y. Koga and T. A. Yamamoto 金/酸化鉄複合ナノ粒子は、金と生体分子を結合させ、そのまま外部磁場により誘導 することができる。この性質を利用して、生体分子の分離・回収を行う磁気ビーズとし ての応用が期待される。実用化のためには、粒子表面に機能性生体分子を固定化する技 術の開発が必須である。金部位に機能性分子を固定化する一つの手段として、粒子表面 で直接アミノ酸の縮合反応を行うことで、粒子表面を種々のペプチドで機能化する手法 を 検 討 し て い る 。 そ の 縮 合 反 応 の 効 率 を 検 討 す る に あ た り 、 RI標 識 し た ア ミ ノ 酸 を 用 い て評価した結果について報告する。 複 合 ナ ノ 粒 子 表 面 に 、 ペ プ チ ド 合 成 の 足 場 と し て Au-S結 合 を 介 し て シ ス テ イ ン を 結 合 さ せ た 。 複 合 ナ ノ 粒 子 1mgあ た り に 約 35nmolの シ ス テ イ ン が 結 合 す る 事 を 確 認 し た 。 シ ス テインを足場としてアラニンの縮合反応を行い、その反応効率を検討した。種々の条件 検 討 の 結 果 、 80%以 上 の 効 率 で 縮 合 反 応 が 進 行 す る 反 応 条 件 を 得 る 事 が で き た 。 図 粒子へのシステインの吸着量 図 粒子表面での縮合反応の効率 低温菌由来 RNase HI の構造-機能相関と安定性に関する研究 Studies on structure-function relationships and stability of a Psychrotrophic RNase HI (工学研究科) 田所高志、松下恭子、劉東周、安部有美、宮下聖子、古賀雄一、高野和文、金谷茂則 (Fac. of Engineering)Tadokoro, Takashi; Matsushita, Kyoko; You, Dong-Ju; Abe, Yumi; Miyashita, Seikoii; Koga, Yuichi; Takano, Kazufumi; Kanaya, Shigenori RNase Hは RNA/DNA の RNA 鎖のみを特異的に切断する酵素で、あらゆる生物種に広く存在して いる。バクテリア由来 RNase H は一次構造の違いにより三つの異なるサブファミリー、RNase HI、 HII、HIII に分類される。Shewanella sp. SIB1 株は 0-20℃で生育する低温菌である。本菌より既に RNase HI、HII 遺伝子がクローニングされ、生化学的諸特性がなされており、それぞれが低活性型、 高活性型の RNase H であると特徴付けられている。本研究では、低温菌 Shewanella sp. SIB1 株より RBD-RNase HI と呼ぶ新たなバクテリア由来 type 1 RNase H をコードする遺伝子をクローニングし、 大腸菌内で大量発現・精製し、生化学的解析を行った。SIB1 RBD-RNase HI は 262 アミノ酸残基から なり、SIB1 RNase HI、大腸菌 RNase HI、human RNase H1 とそれぞれ 26%、17%、32%のアミノ 酸配列相同性を示す。SIB1 RBD-RNase HI は、真核生物由来 type 1 RNase H に共通して見られる配 列と類似した二重鎖 RNA 結合ドメイン(RBD)をその N 末端に持つ。この N 末端ドメインのみを単 独で発現させた蛋白質が RNA/DNA と結合するというゲルシフトアッセイの結果は、このドメインが基 質結合と関与することを示唆する。SIB1 RBD-RNase HI は in vitro、及び in vivo において酵素活性を 示した。酵素活性の至適 pH、二価金属イオン要求性といった性質は SIB1 RNase HI、大腸菌 RNase HI、 human RNase H1 と類似していた。SIB1 RBD-RNase HI の比活性は大腸菌 RNase HI と同程度であ るが、SIB1 RNase HI、human RNase H1 と比べて非常に高かった。また、SIB1 RBD-RNase HI は オリゴ基質に対する切断部位特異性は非常に低かった。SIB1 RBD-RNase HI は大腸菌 RNaseHI より は不安定であるが、human RNase H1 とは同程度の安定性を示した。データベース検索の結果、いく つかのバクテリア、及びアーキアで RBD-RNase HI が分布していた。本研究は、RBD-RNase HI の諸 特性を解析した初めての例である。 発表論文 1.“Structural, Thermodynamic, and Mutational Analyses of a Psychrotrophic RNase HI” T. Tadokoro, D.-J. You, Y. Abe, H. Chon, H. Matsumura, Y. Koga, K. Takano, S. Kanaya, Biochemistry, in press 口頭発表 1.“Thermolabile RNase HI from the mesophilic bacterium Shewanella oneidensis MR-1” T. Tadokoro, D.-J. You, Y. Abe, H. Chon, H. Matsumura, Y. Koga, K. Takano, S. Kanaya, RNase H Meeting (Maryland, U.S.A.、2006 年 9 月) 2.“Structural, Thermodynamic, and Mutational Analyses of a Psychrotrophic RNase HI” T. Tadokoro, D.-J. You, Y. Abe, H. Chon, H. Matsumura, Y. Koga, K. Takano, S. Kanaya, ISASB(大阪、2007 年 3 月). トチュウにおけるラバートランスフェラーゼ活性測定 Measurement of rubber transferase activity in Eucomia ulmoides (工学研究科)武野真也、岡澤敦司 (Grad. Sch. Eng.) S. Takeno and A. Okazawa ト チ ュ ウ ( Eucommia ulmoides) は 中 国 を 原 産 と す る 落 葉 樹 で あ り , そ の 樹 皮 は 古 く か ら 高 血 圧 症 等 の 民 間 治 療 薬 と し て 用 い ら れ て い る .ト チ ュ ウ の 葉 ,樹 皮 ,根 ,果 皮 な ど に は ト ラ ン ス 型 の ポ リ イ ソ プ レ ン ゴ ム が 含 ま れ て い る . 植 物 中 で , ゴ ム な ど の イ ソ プ レ ノ イ ド は MVA 経 路 も し く は MEP 経 路 で 合 成 さ れ て い る . ト チ ュ ウ 中 で は , ゴ ム の 構 成 単 位 で あ る イ ソ プ レ ン が MVA, MEP 両 経 路 に 由 来 す る こ と が 明 ら か に な っ て い る . シ ス の ポ リ イ ソ プ レ ン ゴ ム を 生 産 す る パ ラ ゴ ム ノ キ に お い て は MVA 経 路 に 関 わ る 酵 素 の 遺 伝 子 , HMGS お よ び HMGR の 発 現 量 と ゴ ム 含 有 量 の 間 に 相 関 が 見 ら れ る . 本 研 究 で は , ト チ ュ ウ に お い て も ゴ ム 含 量 と 生 合 成 酵 素 の 活 性 と の 相 関 性 を 検 討 す る こ と を 目 的 と し た .ま た ,ト チュウゴムの含量を簡便に測定する方法についても検討した. ト チ ュ ウ の ラ バ ー ト ラ ン ス フ ェ ラ ー ゼ 活 性 を 測 定 し ,ゴ ム 含 量 と の 相 関 を 検 討 し た が ,既 存 の 方 法 で は 変 動 が 大 き く 解 析 が 出 来 な か っ た .そ こ で ,FT-IR を 用 い た 簡 便 か つ 再 現 性 の 高 い ゴム解析手法の開発を試み,これに成功した. 発表論文 "Quantification of trans-1,4-polyisoprene in Eucommia ulmoides by Fourier transform infrared s pectroscopy and pyrolysis-gas chromatography/mass spectrometry" S. Takeno, T. Bamba, Y. Nakazawa, E. Fukusaki, A. Okazawa and A. Kobayashi, J. Biosci. Bi oeng., 105, 355-9 (2008). アンチコンプトン同時計数法を用いた低バック グラウンド計測 Low background measurement by anti-Compton technique. (大学院工学研究科 電子電気情報工学専攻) 宮丸広幸 (Graduate School of Engineering) Hiroyuki Miyamaru 極微量放射線分析の感度向上を目的としたGe半導体検出器と NaI シンチレーターとを組み合わせ たアンチコンプトン同時計数装置の開発、改良を行っている。これまでの温度ドリフトの問題について は長時間の測定時には避けがたいために、リファレンス信号の間断的な導入とその計測によるスペクト ル補正にてドリフトによるスペクトルの劣化を抑制した。しかしながら測定対象のピークが小さいもの や高いバックグラウンド近傍の微小信号ではエラーが大きくなることがわかった。アンチコンプトン同 時計数装置における外側の NaI シンチレーターの形状が複雑であるために出力パルス信号の波形に歪 みが生じていることがわかった。 非同時計数では NaI シンチレーターからの信号でゲートをかけるがGe検出器に比べて効率の高い NaI では多数のバックグラウンドを計測するため、その信号とのチャンスコインシデンス事象が多く発 生する。特に NaI シンチレーターの波高のディスクリミネーションを低く設定すると非同時計数におけ る優位な信号が埋もれてしまう。現在の検出体系の遮蔽が十分でないために低エネルギーの信号が多く 入ってくるためにディスクリミネーションを高く設定する必要があるが、これが測定下限エネルギーを 決定している。現在は 400keV 程度になっているため、遮蔽をより厳重にすることに加え、パルスシェ イピングの変更やコインシデンスタイム幅の縮小を試みてより低エネルギー測定が可能になるように 改良を行っている。今後は波形分析などデジタル処理を加えてS/Nの向上などを目指す。 工学部未臨界実験室のトリチウム汚染の測定 Measurement of Tritium Surface Contamination; Sub-Critical Laboratory (OKTAVIAN) in Graduate School of Engineering (工学研究科)吉岡潤子 (Graduate School of Engineering) J. Yoshioka 工学部(工学研究科)未臨界実験室では、主に 370GBq のトリチウムターゲットを用い、加速器からの 重水素と DT 反応させることによってできた中性子を用いた実験を行っている。 トリチウムはきわめて飛散しやすく、飛散したトリチウムが空気を汚染するだけでなく作業室の床、 壁などに固着する。 さらに、トリチウムから放出されるβ線のエネルギーはきわめて低いため、GM サーベイメータ、ハ ンドフットクロスモニタ、個人被ばく線量計等の一般的な放射線測定器では測定できず、高価なトリチ ウムサーベイメータを使用するか、汚染を確認したい場所をスミアし液体シンチレーションカウンタで の測定に頼るしかなかった。 近年、トリチウムを検出できるイメージングプレート(IP)が開発され、商品化されている。本研究課 題では、表面汚染検査にかかる労力を軽減すること、およびスミアでは測定できない固着性の汚染測定 を目的として IP の使用を検討している。 トリチウム用の IP を未臨界実験室の壁、床、汚染物に一定時間張り付けておいた後、RI センターの イメージングアナライザーでトリチウム汚染の分布を画像化し、汚染の有無、汚染の量や広がりの測定 を試みている。 なお、本年度は計画していた実験は、実施できなかった。 工学研究科 RI 実験室排水のγ線測定 Gamma-ray Monitoring of Weast Water from RI (radioisotope) Laboratory in Graduate School of Engineering (工学研究科)吉岡潤子 (Graduate School of Engineering) J. Yoshioka 1. はじめに 工学研究科RI実験室では、非密封の放射性同位元素として主に59Feを使用している。59Feはβ線を放出する核種であ るので、平成 14 年度まで液体シンチレーションカウンタによる排水中のβ線の計数から59Feの放射能濃度を評価して いた。 しかし、59Feはβ線とともに比較的高いエネルギー(1.099MeV 56.5%、1.292MeV43.2%)のγ線も放出するので、よ り正確に排水中の放射能濃度を評価するためにγ線をカウントすることも必要であると考えた。 そこで、平成 15 年度より、RI センター所有のアロカ社製オートウェルガンマシステム(以下、「γ線計数装置」と する)を用いて、RI 排水中のγ線の測定を行ってきた。 平成 19 年度もγ線計数装置で同様の測定を行ったので、結果を報告する。 2. 測定 試料の調製は、工学研究科RI実験室にて行った。貯留槽から取った排水 5cm3およびバックグラウンドとしての水道 水 5cm3をそのままそれぞれ栄研チューブ 1 号に入れ蓋をしたものを、γ線計数装置にセットし、1 試料(及びバック グラウンド)につき 30 分測定を行った。 測定条件として、59Feに対して、842keV~1517keVのエネルギー範囲にてγ線のカウントを行い、計数効率は 20% とした。測定値は、5 回測定した平均値を採用した。 3. 結果 排水中の放射能測定結果を、表 1 および表 2 に示す。 いずれもバックグラウンドレベルで、科技庁告示(平成 12 年 10 月 23 日)に定められた濃度限度(59Fe; 4.0×10-2 Bq/cm3)を下回っている結果となった。 表 1 排水中放射能濃度測定結果 測定日 H19.6.20 H19.7.20 H19.7.24 H19.10.26 H20.1.18 H20.1.25 バックグラウンド計数率(cpm) 55.04 55.00 55.04 60.78 58.88 59.72 試料計数値(cpm) 55.60 55.74 55.60 60.10 59.02 59.74 正味計数値(cpm) 0.56 0.74 0.56 0 0.14 0.02 9.3×10-3 0.012 9.3×10-3 0 2.3×10-3 3.3×10-4 0.023 0.038 0.023 0 5.8×10-3 8.3×10-4 59Feの放射能濃度(Bq/cm3) 濃度限度に対する割合 表 2 排水中放射能濃度測定結果 (その 2) 測定日 4. 発表論文、口頭発表 なし H20.2.25 バックグラウンド計数率(cpm) 60.20 試料計数値(cpm) 59.76 正味計数値(cpm) 0 59Feの放射能濃度(Bq/cm3) 0 濃度限度に対する割合 0 RNA とタンパク質からなる人工自己複製系の速度論的解析 Kinetic analysis on an artificial RNA-Protein self-replication system. (情報科学研究科)市橋伯一、北寛士、松浦友亮、柳田勇人、イン ベイウェン (Department of Bioinformatic Engineering) Norikazu Ichihashi, Hiroshi Kita, Tomoaki Matsuura, Hayato Yanagida, Bei-Wen Ying 生命システムは、関与する因子の多さと、その相互作用のために複雑な振る舞いを示す。我々は、このような 複雑な生命システムを定量的に理解するためのひとつの方法として、構成的なアプローチが有効だと考えている。 この方法では、生命システムの一部を in vitro でシンプルに再構成し、その振る舞いを定量的に記述することを目 指す。本研究で我々は、生命システムの根幹である遺伝子の複製システムに着目した。遺伝子の複製反応は、まず、 遺伝情報が解読されて複製酵素が発現し、その後、その複製酵素により元の遺伝子が複製されるという自己複製反 応である。このように、遺伝子の自己複製反応には、複製酵素の翻訳と、その酵素による遺伝子の複製という 2 種類の反応が存在し、それらが相互作用することにより複雑な振る舞いを示すと予想される。近年我々は、この遺 伝子の自己複製反応を、 RNA 依存性 RNA 複製酵素である Qβレプリケースをコードした RNA を遺伝情報とし、 無細胞翻訳系(PURE system)を用いて構築した。この自己複製系では、無細胞翻訳系により RNA から Qβレ プリケースが翻訳され、そのレプリケースにより元の RNA が複製される。本研究で我々は、この自己複製システ ムの振る舞いを、カイネティックモデルを用いて定量的に記述することを試みた。 アイソトープは、RNA 合成酵 素の翻訳量の測定、および、RNA 量の測定のために使用した。アイソトープを使うことにより、反応液中に初めか ら含まれているタンパク質や、RNA に隠れることなく、新規に合成されたタンパク質や RNA を測定することが可能 となった。また、感度が高いため、ごくわずかな産物を検出することができた。その結果、この反応システムを記 述するには、複製酵素と翻訳装置が同じ RNA を鋳型として取り合うという相互作用を考慮する必要があった。そ して、その取り合いのために、効率のよい自己複製には翻訳と複製のバランスが重要であることが明らかとなり、 さらに最適な翻訳速度が求まった。このような構成的アプローチにより見出された知見は、生命システムに対する 我々の理解を深めると期待される。 口頭発表 1, RNA とタンパク質からなる人工自己複製系の速度論的解析 市橋 伯一,北 寛士,細田 一史,角南 武志,塚田 幸治,松浦 友亮,四方 哲也 第17回システムバイオロジー研究会 (2007 年 11 月 奈良) 2, RNA とタンパク質からなる人工自己複製系の速度論的解析 市橋 伯一,北 寛士,細田 一史,角南 武志,塚田 幸治,松浦 友亮,四方 哲也 細胞をつくる研究会 0.0 (2007 年 11 月 東京) 3, 遺伝情報の自己複製システムを構成的手法により理解する 市橋 伯一,北 寛士,細田 一史,角南 武志,塚田 幸治,松浦 友亮,四方 哲也 分子生物学会年会 (2007 年 12 月 横浜) TiAl 金属間化合物における拡散研究 Diffusion Study in TiAl Intermetallic compound (産業科学研究所) 中嶋英雄, 仲村龍介 (The Institute of Scientific and Industrial Research) H. Nakajima and R. Nakamura これまで我々のグループでは、高温構造材料として有望な種々の金属間化合物における拡散の研究 を行っている。特にL1 0 型のTiAlは図 1 のような原子配列を有し、結晶方位によって原子の拡散に異方 性が現れることをこれまでに明らかにした。今年度も同材料におけるトレーサー拡散係数の測定を行 い、TiAlにおける原子拡散機構について検討した。 アーク溶解により合金を作製し、フローティングゾーン法によりTiAl単結晶 (Ti 47 Al 53 )を育成した。 背面反射ラウエ法により単結晶の方位を決定し、試料 [001] (c axis) 表面の面法線が[001]方向のものと、それに垂直な方向 を持つものをそれぞれ切り出した。その後、均質化焼 ● Ti atom ○ Al atom 鈍を施し、トレーサーを拡散させる面を研磨した。仕 上げ研磨は 1 μmのダイヤモンド粒子を用いたバフ研 磨によって行った。試料表面をスパッタすることによ り、酸化膜を除去した後、同じチャンバー内で、大気 [100] (a axis) 図1 TiAl の原子配列. 59 に曝すことなく Feを蒸着した。合金組成のずれを防 ぐための処理を施し、1 × 10 -5 Pa 程度の真空中で所定の温度で拡散焼鈍した。焼鈍後の拡散濃度分 布を測定するために、イオンビームスパッタ法により試料をセクショニングした。NaIシンチレーショ ンカウンター (Aloka, ARC-380)を用いて各セクションにおける放射線強度を測定し、トレーサーの濃 度分布を決定した。その際、59 Feの 1.1 および 1.3MeVのγ線強度を測定した。このようにして得られた トレーサーの濃度–距離プロファイルにフィックの第二法則の薄膜拡散源に対する解の式を当てはめ、 トレーサー拡散係数を決定した。 TiAl における Fe のトレーサー拡散係数の温度依存性を求め、我々のグループがこれまでに測定し た Ti, In, Ni のデータと比較した。Fe の拡散係数の値は Ti, In, Ni のものと同程度の大きさであることが 明らかとなった。その異方性については、[001]方向の拡散係数が[001]に垂直な方向のそれよりも大き く、Ti や In とは逆の傾向であることがわかった。また、この温度依存性の傾きから求めた活性化エネ ルギーについては、どちらの方向も 3eV 程度であった。 4 種の元素の拡散データの比較と、計算機シミュレーションの結果から、TiAl 中の Fe は Ti, Al 両方 の位置を占有しながら拡散していくと結論づけられた。 これまでに我々が行った系統的な拡散係数の測定により、L1 0 型の化合物においては、拡散の異方性 を調べることによって、その拡散機構を類推することが可能であることが示された。 発表論文 “TiAl 金属間化合物単結晶における拡散”, 野瀬嘉太郎,寺下直宏,池田輝之,中嶋英雄:まてりあ, 46[9] (2007) 587-593. 液体シンチレーション廃液の焼却 Incineration of Liquid Scintillator Waste 蛋白質研究所 西尾 チカ (Institute for Protein Research) C. Nishio 液体シンチレーション廃液の焼却を下記のとおり行いましたので報告いたします。 焼却期間:平成 19 年 8 月 23 日~9 月 3 日のうち 4 日間 平成 19 年 11 月 20 日~21 日 焼却者:花見 孝行(えのきエンジニアリング) 焼却日 3H の全放射能(Bq) 8 月 23 日 8 月 28 日 8 月 30 日 9 月 3 日 11 月 20 日 11 月 21 日 216000 237600 21600 277200 259200 257600 濃度(Bq/ml) 12 13.2 1.2 15.4 16.2 16.1 焼却量(L) 18 18 18 18 16 16 以上です。 植物糖ヌクレオチド関連酵素の解析 Analysis of enzymes involved in sugar nucleotide metabolism in plants (生物工学国際交流センター)藤山和仁、梶浦裕之 (International Center for Biotechnology) K. Fujiyama, H. Kajiura 植 物 細 胞 に お い て 糖 ヌ ク レ オ チ ド は 、糖 新 生 、細 胞 壁 合 成 、糖 タ ン パ ク 質 糖 鎖 な ど の 重 要 な 構 成 成 分 で あ る 。植 物 細 胞 内 の 糖 ヌ ク レ オ チ ド の 代 謝 を 研 究 す る た め 、Arabidopsis thalianaよ り 、糖 ヌ ク レ オ チ ド 合 成 酵 素 及 び ト ラ ン ス ポ ー タ ー 遺 伝 子 を 単 離 し 、タ バ コ 培 養 細 胞 に て 発 現 させた。 得 ら れ た 形 質 転 換 細 胞 に つ い て 、 RT-PCRに よ り 導 入 し た 遺 伝 子 が 発 現 し て い る こ と を 確 認 し た 。さ ら に 、形 質 転 換 細 胞 よ り 調 製 し た 抽 出 液 に つ い て 抗 体 を 用 い た 解 析 を 行 い 、組 換 え 酵 素が生産されて検出した。 今後、これら形質転換クローンについて、酵素活性等の機能的解析を進める。 発表論文 なし 口頭発表 なし メスバウアー分光測定 Mössbauer Spectroscopic Study of Iron, Tin and Europium Materials (薬学研究科、基礎工学研究科1、RIセンター2) 川瀬雅也、森本正太郎1、野村泰弘2、池田泰大2、黒葛真行2、那須三郎2、斎藤直2 (Grad. Sch. of Pharmaceutical Sciences, Grad. Sch. of Engineering Science, Radioisotope Research Center,) M. Kawase, S. Morimoto, Y. Nomura, Y. Ikeda, M. Kurokuzu, S. Nasu, and T. Saito, 1.はじめに 漢方薬は複数の生薬をが一定の割合で組み合わされて出来ているものであり、その効き目(薬効)には、 同じ種類の生薬を使っていても生薬の品質により違いが出てくる。芍薬を成分とする当帰芍薬散は血虚の改 善に用いられる。つまり、貧血などが対象となる。そのため、薬剤中の鉄の状態が関心の一つとなる。今回、 芍薬(日本で育種された薬用芍薬(和芍)、もしくは、海外で育種された園芸用芍薬(洋芍) )を配合し、そ れ以外の生薬成分が共通の 2 種類の当帰芍薬散を用いた。和芍を含むものの方が、臨床成績がいい傾向にあ ることがすでに報告されおり、鉄の状態が薬効の違いと関係する事が期待されたので、メスバウアー分光に より調べることを目的とした。 2.実験方法 富山大学にて臨床に用いられた当帰芍薬散を試料として用いた。試料中の鉄含有量は ICP-MS(Agilent 7500s)により測定し、鉄の状態解析はメスバウアー効果測定により行った。 3.結果及び考察 用いた試料の主要な生薬成分に違いがないことは、成分分析により確認している。金属成分、特に貧血に 関わる鉄の含有量は、ICP-MS による分析の結果、両者に差がないことがわかった。次に、鉄の状態を解析 のためのメスバウアー効果測定結果は Fig. 1 に示すとおりとなった。b の洋芍は非対称なスペクトル形状を 示しており、鉄の状態に少なくとも 2 種類あることがわかる。これに対して a の和芍は鉄の状態は 1 種類で ある。この状態の違いが薬効の違いの一つの原因と考えられ、その詳細を検討中である。 a b Fig. 1 Mössbauer spectra of wa-shaku (a) and yo-shaku (b) 口頭発表 1. “The improvement of the nonparametric regression method based on the PLS algorithm” R. Nishikiori, K. Okamoto, A. Matsuura, Y. Ochi, S. Morimoto, T. Saito, N. Kawashita, T. Yasunaga, M. Kawase and T. Takagi, 5th Int. Symp. on PLS and Related Methods (Oslo, September 2007). DNA ポリメラーゼの生化学的解析 Biochemical analysis of DNA polymerases (RI 総合センター) 清水喜久雄、 横山和也、 細田洋史、 (工学研究科) 松尾陽一郎 (Radioisotope Res. Center) K. Shimizu, K. Yokoyama, H. Hosoda, (Grad. Sch. Engennering) Y.matuo 目的 電離放射線による生物効果は、DNA に対する直接効果と生体内の水分子の放射分解によって生ずる活性の高 いラジカルによる間接効果によって起きるとされている。このラジカルが存在する条件において DNA 合成 された場合、突然変異が生じることが予測される。そこで本研究では大腸菌ファージベクターM13mp18 の lacZ 遺伝子を一本鎖 DNA(gapped DNA)としたサンプルを用い、長寿命ラジカル化した BSA を加えて gapped DNA の複製を行った場合の突然変異率について検討した。 方法 M13mp18 を保持するプラークを培養し、遠心分離により一本鎖、二本鎖の M13mp18DNA を精製した。こ れにより得られた二本鎖 DNA の lacZ 遺伝子を制限酵素 PuvⅠ・PuvⅡで切断し、M13mp18 の一本鎖 DNA と のアニーリングにより lacZ 遺伝子領域が一本鎖の DNA を調製した。実験は以下の三つの条件で行った。 ・バックグラウンド:二本鎖の M13mp18DNA を形質導入し、変異解析。 ・コントロール:一本鎖の M13mp18DNA を T4 DNA polymerase による gap-filling DNA 合成し、変異解析。 ・ラジカル存在下での DNA 合成:長寿命ラジカル存在下で gap-filling DNA 合成反応させ、変異解析。 長寿命ラジカルとして、γ線を 5 kGy照射したウシ血清アルブミン(BSA:Bovine serum albumin)を添加した。 γ線照射には大阪大学産業科学研究所 コバルト照射施設の60Coを用いた。吸収線量は 5 kGyである。長寿 命有機ラジカル種の検出には、電子スピン共鳴(ESR:Electron Paramagnetic Resonance)を用いた。得られたESR スペクトルをFig.1 に示す。 変異体の選択としては、カラーセレクション法を用い た。lacZ 領域をもつプラークは、β-ガラクトシターゼ活 性によりプラークは青色を示すが、突然変異を誘発する と白色プラークとなる。本研究ではこの性質を用いてそ れぞれの突然変異率を測定した。また、DNA 塩基配列を 解析することで自然発生する突然変異との発生部位およ び種類の相違を調べた。 Fig.1 ガンマ線照射 24 時間後の ESR スペクトル 結果 バックグラウンド(形質導入での変異)は 9.61×10-6であり、コントロール(gap filling DNA合成での変異) では 3.78×10-5であった。T4 DNA polymerase によるgap-filling DNA合成が、約4倍の変異率を上昇させた。 また、長寿命ラジカルが存在する条件でgap-fillingDNA合成を行った場合、変異率は約 39 倍に上昇した。こ れはT4 DNA polymeraseの反応時にラジカルが存在する場合、より突然変異が誘発されることを示している。 その要因としてラジカルによるDNAの損傷、ポリメラーゼ反応への阻害などが考えられる。 DNA 塩基配列を解析した結果、バックグラウンド、コントロール、そしてラジカル存在下での DNA 合成 操作による突然変異では、異なる位置に変異が見られた(Fig.2, Table 2)。これは長寿命ラジカルが存在する事 によりラジカル非存在下とは異なったメカニズムにより突然変異を誘発することを示唆している。 Table 1 突然変異誘発率の比較 Fig.2 シーケンス解析により特定された突然変異誘発部位 Table 2 シーケンス解析により特定された突然変異 Background Position Change +101 A → T + Radical reaction (Amino acid) Numbers Thr → Ser 9 Total 9 Control Position Change (Amino acid) Numbers +155 T → A Phe → Try 3 +314 T → C Val → Ala 2 Total 5 Position +91 +106 +153 +153 +182 +218 +272 +326 Change (Amino acid) Numbers C → T Gln → Stop 20 1 A → G Lys → Glu 2 T → C Pro → Leu Incersion → C 5 C → T Ala → Val 1 1 T → C Leu → Pro 1 G → Deletion G → A Trp → Stop 1 Total 32 学会発表 横山 和也、中濱 泰祐、松尾 陽一郎、清水 喜久雄、日高 雄二、と量子線産物の DNA 合成における効果 の検討、日本放射線影響学会、PBP-221、千葉 幕張メッセ、(2007 年 11 月 14 日) 環境放射能測定に関する基礎的検討 Studies on Environmental Radioactivity Monitoring (ラジオアイソトープ総合センター) 山口 喜朗、斎藤 直 (Radioisotope Res. Center) Y.Yamaguchi, T.Saito 1.はじめに 環境放射能測定では地球上の広範囲に分布した人工放射性同位元素の測定、放射性同位元素の挙動測定 などのほかに放射線施設の作業環境モニタリングなどもその一つである。ラジオアイソトープ総合センタ ー豊中分館では放射線施設の空間線量率測定に電離箱式サーベイメータや環境測定用DIS線量計を利用し ている。また、理学研究科附属原子核実験施設でも電離箱式サーベイメータを空間線量率測定に利用して いるため、これら放射線測定機器の性能を確認するために行った校正の結果について報告する。 2.電離箱式サーベイメータ 電離箱式サーベイメータは構造が簡単でX線やγ線の空間線量率測定ができるため、放射線施設の空間 線量率測定に広く用いられている。測定器内の気体の電離電流を直接測定し線量率を求める構造となって おり、構造上湿気を嫌うため乾燥箱などで保存される。今回、校正を行った電離箱式サーベイメータは豊 中分館所有のアロカ㈱製ICS-311型(2001年7月購入)及び理学研究科附属原子核実験施設所有のアロカ㈱ 製ICS-321型2台(2004年5月及び2007年2月購入)で、すべて放射線施設の空間線量率測定に使用されている サーベイメータである。 3.DIS線量計 DIS線量計はフィンランドのRADOS社が開発した電子線量計で、器壁とフローティングゲートの間で形成 された電離箱と不揮発性メモリ素子で構成されている。放射線が入射すると、器壁材との間で相互作用を 起こした二次電子が器壁内のガスを電離させ不揮発性メモリ素子に電荷が蓄えられ情報として記録され る。専用読み取り装置でこの電圧の変化を読み取ることにより線量を測定する。なお、線量計には高線量 用、中線量用及び低線量用の3種類の電離箱が封入されている。 4.校正条件 校正は吹田本館に設置されているガンマ線照射装置を用いて行った。電離箱式サーベイメータは認定事 業者(所)において国家標準にトレースされた標準器を基準に校正された電離箱式サーベイメータとの置 換法により校正を行った。また、環境用DIS線量計は線源から150cmの距離で32μSv/5分の照射を行った。 5.校正結果 5.1.電離箱式サーベイメータ 表1.電離箱式サーベイメータ校正結果(豊中分館所有、2001年7月購入) 校正レンジ 核種・照射線量 読取値 校正定数 10mSv/h 137 Cs・ 1.55mSv/h 1.50mSv/h 1.03 3mSv/h 137 Cs・ 1.55mSv/h 1.55mSv/h 1.00 1mSv/h 137 Cs・165.4μSv/h 160μSv/h 1.03 300uSv/h 137 Cs・165.4μSv/h 160μSv/h 1.03 100uSv/h 60 Co・ 35.3μSv/h 35μSv/h 1.01 核種・照射線量 読取値 校正定数 137 Cs・165.4μSv/h 160μSv/h 1.03 60 Co・ 35.3μSv/h 35μSv/h 1.01 表1に示すように豊中分館所有の電離箱式サー ベイメータの各レンジにおける校正定数は1.00 ~1.03であった。表2に示す理学研究科附属原子 核実験施設所有(2004年5月購入)のサーベイメ 表2.電離箱式サーベイメータ校正結果 (理学研究科附属原子核実験施設所有、2004年5月購入) 校正レンジ ータの校正定数は1.00~1.02、表3に示す2007 年2月に購入したサーベイメータの校正定数は 1.06~1.08であった。なお、表の照射線量は、 線量当量率へ換算した値を記載した。 核種・照射線量 読取値 校正定数 10mSv/h 137 1.55mSv/h 1.53mSv/h 1.01 1mSv/h 137 Cs・165.4μSv/h 162uSv/h 1.02 10uSv/h 60 Co・ 35.3μSv/h 35.3uSv/h 1.00 Cs・ 表3.電離箱式サーベイメータ校正結果 (理学研究科附属原子核実験施設所有、2007年2月購入) 5.2.環境測定用DIS線量計 校正レンジ 環境用DIS線量計に32μSv/5分の照射を行っ 核種・照射線量 読取値 校正定数 10mSv/h 137 1.55mSv/h 1.44mSv/h 1.08 た時の校正結果を表4に示す。各線量計に3回の 1mSv/h 137 Cs・165.4μSv/h 153uSv/h 1.08 照射を行ったときの平均値に対する校正定数は 10uSv/h 60 Co・ 35.3μSv/h 33.3uSv/h 1.06 Cs・ 1.03~1.13であった。 表4.環境用DIS線量計の校正結果 線量計番号 1回目(μSv) 2回目(μSv) 3回目(μSv) 平均(μSv) 校正定数 20201245 33 29 31 31.0 1.03 20201266 31 28 30 29.7 1.08 20201268 31 28 32 30.3 1.05 20201270 32 29 31 30.7 1.04 20201271 31 29 30 30.0 1.07 20201273 29 28 30 29.0 1.10 20201274 30 30 27 29.0 1.10 20201276 31 31 28 29.3 1.09 20201280 29 29 28 28.7 1.12 20201282 28 29 28 28.3 1.13 20201284 28 31 28 29.0 1.10 20201285 28 29 28 28.3 1.13 29.9 29.2 29.3 29.4 1.09 6.おわりに 今回校正した電離式サーベイメータのうち理学研究科附属原子核実験施設で2007年2月に購入した物の 校正定数が1.06~1.08と購入時の校正基準である±5%にはなかった。この原因は保存状態などが考えら れるが、このサーベイメータにはレンジごとに感度調整用ボリュームがあり±5%への対応が可能である。 他の2台の電離箱式サーベイメータは経年変化も少なく安定したサーベイメータであると言える。 また、環境用DIS線量計の校正定数は1.03~1.13と素子ごとのばらつきが大きいが、昨年校正したとき と同等の性能を有していることから素子ごとの校正定数を求めることにより環境測定への対応が可能で あると考えられる。 今後は学内の放射線施設で使用されている電離箱式サーベイメータを順次校正し経年変化などを比較 して行く予定である。 二重ベータ核分光による中性微子質量および右巻き相互作用の検証 Nuclear and particle physics studied by ultra rare-process nuclear spectroscopy (理学研究科物理学専攻)岸本忠史、阪口篤志、小川泉、早川知克、松岡健次、 梅原さおり、岸本康二、平野祥之、伊藤豪、坪田悠史、望月貴司、 遠藤雅明、松田健翔、和田真理子、 (理学部物理学教室)関忠聖 (Graduate School of Science) T. Kishimoto, A. Sakaguchi, Ogawa, I., T. Hayakawa, K. Matsuoka, S. Umehara, K. Kishimoto, Y. Hirano, G. Ito, Y. Tsubota, T. Mochiduki, M. Endo, K. Matsuda, M. Wada, (Faculty of Science) T. Seki 我々のグループでは、宇宙の物質・反物質の非対称性の謎を解く鍵となりうる中性微子(ニュートリノ) のマヨラナ性を検証するニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊(0νDBD)研究や、未だ正体のわからな い宇宙暗黒物質の探索研究を行っている。これら非常に稀な現象を探索する研究においては、実験装置内部 に含まれる放射性不純物起因のバックグラウンド(BG)の低減は実験上の重要な課題である。そこで、RI センターや大阪大学核物理研究センター大塔コスモ観測所に設置された低BG Ge半導体検出器などを利用し て放射性不純物の含有量の少ない検出器の開発を行っている。ELEGANTSシリーズの成功を受けて、現在は 更に感度を向上させた次世代の検出器であるCANDLESシリーズの開発を行っている。現在はCaF2シンチレ ータ 200 kgを使用したCANDLES IIIを理学研究科付属原子核実験施設に設置しテスト実験を行っているが、 宇宙線による影響を避けるため、平成 20 年度中に東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設の地下実験 室に移設して本格的な 0νDBD実験に備える予定である。 発表論文 1. “Study of 48Ca double beta decay with CANDLES” I. Ogawa, T. Kishimoto et al., Proc. of the International Nuclear Physics Conference (INPC2007), Tokyo Japan 2. “Dark matter search with CaF2 scintillator at Osaka” I. Ogawa et al., Proc. of the Int. Conf. on Topics in Astroparticle and Underground Physics (TAUP2007), Sendai, Japan 3. “ Double beta decay of 48Ca studied by CaF2(Eu) scintillators” S. Umehara, I. Ogawa, T. Kishimoto et al., Proc. of TAUP2007 4. “Study of Double Beta Decay of 48Ca with CANDLES” Y. Hirano, I. Ogawa, T. Kishimoto et al., Proc. of TAUP2007 5. “Study of Design for CANDLES Trigger System” G. Ito, I. Ogawa, T. Kishimoto et al., Proc. of TAUP2007 6. “Study of light guide system for CANDLES” Y. Tsubota, I. Ogawa, T. Kishimoto et al., Proc. of TAUP2007 口頭発表 1. “Study of 48Ca double beta decay by CANDLES “ T. Kishimoto, Int. Workshop on "Double Beta Decay and Neutrinos" (DBD07) (大阪、2007 年 6 月) 2. “Purification of scintillating crystal “ S. Umehara, International Workshop DBD07(大阪、2007 年 6 月) 3. “Status and Future of Dark Matter Search and Double Beta Decay” T. Kishimoto, Supersymmetry in 2010's (札幌、2007 年 6 月) 4. “Study of Double Beta Decay with CANDLES” T. Kishimoto, International Workshop on "Towards a New Basic Science: Depth and Synthesis" (大 阪 2007 年 9 月) 5. 「CANDLES による二重ベータ崩壊の研究(24) -CANDLES III(地上)の現状報告-」 小川泉 他、日本物理学会 2007 年第 62 回年次大会(札幌、2007 年 9 月) 6. 「CANDLES による二重ベータ崩壊の研究(25) -CANDLES Ⅲの基本特性と地上における測定-」 他、日本物理学会 2007 年第 62 回年次大会(札幌、2007 年 9 月) 平野祥之 7. 「CANDLES による二重ベータ崩壊の研究(26) -FADC を用いたデータ収集システム-」 梅原さおり 他、日本物理学会 2007 年第 62 回年次大会(札幌、2007 年 9 月) 8. 「CANDLES による二重ベータ崩壊の研究(27) -FPGA を用いたトリガー回路の研究-」 伊藤豪 他、日本物理学会 2007 年第 62 回年次大会(札幌、2007 年 9 月) 9. 「CANDLES による二重ベータ崩壊の研究(28) -ライトガイドによる集光の改善-」 坪田悠史 10. 他、日本物理学会 2007 年第 62 回年次大会(札幌、2007 年 9 月) “Double beta-decay at Oto laboratory” T. Kishimoto, The 3rd Japanese-German EFES(JSPS)-DFG/GSI workshop on Nuclear Structure and Astrophysics (Faruenchiemsee, Germany, 2007 年 10 月) 11. “Study of 48Ca Double Beta Decay by CANDLES” T. Kishimoto, DUSEL Town Meeting(Washington, USA, 2007 年 11 月) 12. 梅原 13. 「クラウンエーテル樹脂を用いたカルシウム同位体分離」 さおり、第6回同位体科学研究会(名古屋、2008 年 3 月) 「CANDLES による二重ベータ崩壊の研究(29)」 梅原さおり 14. 他、日本物理学会 2007 年第 63 回年次大会(大阪、2008 年 3 月) 「CANDLES による二重ベータ崩壊の研究(30) -FPGA を用いた CANDLES におけるトリガーシ ステムの研究-」 伊藤豪 15. 「CANDLES による二重ベータ崩壊の研究(31) -ライトガイドによる集光の改善 2-」 坪田悠史 16. 他、日本物理学会 2007 年第 63 回年次大会(大阪、2008 年 3 月) 「CANDLES による二重ベータ崩壊の研究(32) -地上における CANDLES Ⅲの測定-」 平野祥之 17. 他、日本物理学会 2007 年第 63 回年次大会(大阪、2008 年 3 月) 他、日本物理学会 2007 年第 63 回年次大会(大阪、2008 年 3 月) 「CANDLES による暗黒物質探索の研究(3) -低エネルギー領域での単光子計測-」 和田真理子 他、日本物理学会 2007 年第 63 回年次大会(大阪、2008 年 3 月) 放射性核種を用いた物性研究 Condensed matter studies with radioactive isotopes (大学院理学研究科)篠原厚、高橋成人、佐藤渉、吉村崇、二宮和彦、猪飼拓哉、大江一弘、栗林隆宏、 坪内僚平、中垣麗子、松田亜弓、矢作亘、尾本隆志、小森有希子、周防千明、藤沢弘幸 (Graduate School of Science) A. Shinohara, N. Takahashi, W. Sato, T. Yoshimura, K. Ninomiya, T. Ikai, K. Ooe, T. Kuribayashi, R. Tsubouchi, R. Nakagaki, A. Matsuda, W. Yahagi, T. Omoto, Y. Komori, C. Suo, and H. Fujisawa 酸化亜鉛(ZnO)は、ウルツ鉱型の構造をもつ内因性の n 型半導体として知られている。極微量の不純 物の存在によって伝導度が変わることも知られており、不純物の導入による物性の制御が興味深い研究対 象 と な っ て い る 。 本 研 究 で は 、 不 純 物 と し て イ ン ジ ウ ム を 添 加 し た ZnO の 物 性 の 変 化 に 着 目 し 、 111 Cd("111In) をプローブとするγ線摂動角相関法で ZnO 中の局所場を観察した。 Fig. 1 に得られた摂動角相関スペクトルを示す。 Fig.1(a)は ZnO 粉末(不純物のドープなし)に、 -0.15 Fig.1(b)は In を 0.5 at.%ドー プし た ZnO 試 料に -0.1 ! ! ( I = 5 /2 )と核外場との電気四重極相互作用を反映 298 K 22 -0.15 をドープしない試料のスペクトルには温度依存性 -0.05 がほとんど観測されないのに対して、In をドープ 0 した試料では振幅に顕著な温度変化が現れた。これ 0.05 度依存性は、111 In 核による軌道電子捕獲後の後遺効 (b) -0.2 -0.1 せずに可逆的に再現されることから、この振幅の温 1000 K 0 していると思われる典型的なスペクトルである。In らのスペクトルが測定時の温度設定の順序に依存 (a) -0.05 Cd("111In) プローブ を導入 して 各温度 で測定 し たスペクトルである。双方ともにプローブ核 973 K 22 111 A G (t) ! -0.2 0 50 298 K 100 150 200 250 300 0 50 100 150 200 250 300 Time (ns) Fig. 1. TDPAC spectra of 111 Cd(111 In) embedded (a) in undoped and (b) in 0.5 at.% In-doped ZnO measured at the temperatures indicated. 果を反映したものであると考えた。 In をドープした試料については、高温程振幅が大きい。これは、より短時間でプローブ原子が基底状態 へ遷移し、原子軌道が速く再配列することを示している。金属のように伝導電子が豊富な物質中では、K 殻電子捕獲およびその後の脱励起によって最外殻軌道に生じた空孔が充填されやすいために、後遺効果が 観測されにくいが、絶縁体中では伝導電子による充填がなされないため、基底状態への緩和には 10 -8 秒以 上もの時間を要することが報告されている。また、ZnO に不純物ドナーとして In がドープされると電気 伝導度が上昇するというバルクの実験結果が報告されている。従って、温度の上昇と共に伝導電子の濃度 が増した結果、後遺効果が弱まる現象が観測されていると考えられる。In がドープされた ZnO の半導体 としての性質を如実に反映した結果である。 一方、In をドープしていない試料と比較すると、明らかにドープした試料のスペクトルに後遺効果が より大きく影響していることが、Fig. 1 のスペクトルの振幅から読み取れる。即ち、In のドープによって 伝導電子濃度は増したものの、軌道電子捕獲後の 111 Cd 原子へのそれらの供給はむしろ滞っていることを 示している。伝導電子がプローブ位置を回避して移動する様子を直接観察した結果と言える。スペクトル の周波数の大きな違いが示すように、この現象には In のドープによる局所的な構造変化が起因している と考えられるが、現在のデータだけでは推論の域を出ない。今後、ドープする元素や濃度を変えて定量的 に考察する予定である。 発表論文 1. “Online time-differential perturbed angular correlation study with an 19 O beam – Residence sites of oxygen atoms in highly oriented pyrolytic graphite” W. Sato, H. Ueno, H. Watanabe, H. Miyoshi, A. Yoshimi, D. Kameda, T. Ito, K. Shimada, J. Kaihara, S. Suda, Y. Kobayashi, A. Shinohara, Y. Ohkubo, and K. Asahi Nucl. Instr. Meth. Phys. Res. B 266, 316 (2008). 2. “Local magnetic field of a perovskite manganite La0.7 Ca0.3 MnO 3 ” W. Sato, N. Ochi, A. Taniguchi, T. Terai, T. Kakeshita, A. Shinohara, and Y. Ohkubo J. Nucl. Radiochem. Sci. 8, 89 (2007). 3. “TDPAC and its application to chemistry” Y. Ohkubo, Y. Murakami, W. Sato, and A. Yokoyama J. Nucl. Radiochem. Sci. 8, 79 (2007). 4. “Time-dependent quadrupole interactions for 140 Ce ions implanted in highly oriented pyrolytic graphite” W. Sato, H. Ueno, A. Taniguchi, Y. Itsuki, Y. Kasamatsu, A. Shinohara, K. Asahi, K. Asai, and Y. Ohkubo J. Radioanal. Nucl. Chem. 272, 665 (2007). 口頭発表 1.「γ線摂動角相関法による酸化亜鉛中の局所場観察(II)」 佐藤渉、齋宮芳紀、篠原厚、大久保嘉高, 2007日本放射化学会年会(静岡、2007年9月). 2.「TD PAC法による酸化亜鉛中の局所場観察」 佐藤渉、齋宮芳紀、薄宏昌、森本正太郎、篠原厚、那須三郎、大久保嘉高 原子核プローブ生成とそれを用いた物性研究 III 3. ”PAC Method with an W. Sato, 19 専門研究会(熊取、2007年11月). O Beam” Workshop on Advance in Physics with ISOL-Based/Fragmentation-Based RI Beams (東京, 2008 年 2 月). 4. ”Development of an online TDPAC Technique and a related study by the probe implantation method” W. Sato, International Workshop on Materials and Life Science Using Nuclear Probes from Heavy-Ion Accelerators (和光, 2008 年 3-4 月). 重核・重元素の核化学的研究 Research for nuclear chemistry of heavy nucleus and heavy elements (大学院理学研究科)篠原厚、高橋成人、佐藤渉、吉村崇、菊永英寿、二宮和彦、猪飼拓哉、大江一弘、栗林隆宏、 坪内僚平、中垣麗子、松田亜弓、矢作亘、尾本隆志、小森有希子、周防千明、藤沢弘幸 (Graduate School of Science) A. Shinohara, N. Takahashi, W. Sato, T. Yoshimura, H. Kikunaga, K. Ninoniya, T. Ikai, K. Ooe, T. Kuribayashi, R. Tsubouchi, R. Nakagaki, A. Matsuda, W. Yahagi, T. Omoto, Y. Komori, C. Suo, H. Fujisawa 研究目的 我々の研究グループでは、原子番号が 101 番以降の重元素と呼ばれる元素の化学的性質を解明するために、基礎 研究及び装置の開発を行っている。重元素は加速器を用いた重イオン核融合によってのみ生成する元素で、生成断 面積が小さく、半減期が短いという性質を持つ。そのため、化学実験を行うことが困難であり、重元素の化学的性 質には不明な部分が多い。また、重元素では相対論効果が化学的性質に影響を与えると予想されており、非常に興 味深い研究対象となっている。 1. 重元素の酸化還元実験のための電極マイクロチップの開発 102 番元素ノーベリウム(No)や 106 番元素シーボーギウム(Sg)の酸化還元反応を行うことを目的とし、マイクロ チップに電極を組み込んだ電極マイクロチップの開発とテスト実験を行った。 電極マイクロチップはフォトリソグ ラフィーとウェットエッチング法を用いて自作した。電極マイクロチップは流路が形成されている流路基板(材 質:PDMS ポリジメチルシロキサン)と、電極が形成されている電極基板(金属を蒸着したスライドガラス)とから できている。作製した流路は直線状であり、幅は 1 mm、長さは 56 mm、深さはおよそ 20 μmである。また作用電 極、対電極は金、参照電極は銀を用い、流路内の作用電極面積は 45 mm × 1 mmである。作製した電極マイクロチ ップを用い、Noの模擬実験として酸化還元電位がよく似ているセリウム(Ce)を用い、トレーサーレベル(使用トレ ーサー139Ce:濃度~10-10 M)での酸化還元効率の測定を行った。この実験では、139Ceを 1 M H2SO4に溶かし、シリ ンジポンプを用いて電極マイクロチップに導入し、1300 mV vs. Ag/Ag+の電位を印加した。その後、溶出してきた 溶液に 5 M HNO3を加え、0.5 M HDEHP-四塩化炭素溶液を加えて溶媒抽出を行い、Ce3+とCe4+を分離した。溶媒抽 出の結果から、流速 5 μL/minで最大 75%の酸化効率が得られることがわかった。重元素を酸化還元した後に溶媒 抽出を行うことを想定すると、現状では最大数十μL/minの流速で実験を行うことが予想され、この流速において定 量的に酸化還元を行うことが必要となるが、より流路幅が広く、流路深さが浅いものを作成することにより達成さ れるものと考えられる。 2. フェルミウムの溶媒抽出実験 重アクチノイドの化学的性質の解明に向け、100 番元素フェルミウム(Fm)の溶媒抽出実験を行った。実験は大阪 大学核物理研究センターAVFサイクロトロンKコースにおいて行った。溶媒抽出にはバッチ法を用い、水相には 0.1 M NH4Cl, HCl溶液 (pH 3.57)を、有機相には 0.1 M HTTA -四塩化炭素溶液を用いた。この実験では、238U(16O,4n)250Fm 反応によって合成した250Fm (半減期 30 分)をHe/KClガスジェット搬送システムにより搬送し、OHPシートに 30 分 間吹き付けを行った。その後、水相 100 μLを用いて核反応生成物を溶かし出し、有機相 100 μLと混合して 20 分間 振とうした。遠心分離により二相を分離した後、各相 80 μLを分取して蒸発乾固を行い、α線の検出を行った。そ の結果、水相側に 8 カウント、有機相側に 36 カウントのα線が観測され、分配比はD = 4.6 ± 1.8 であった。この結 果を重アクチノイドのアメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)、カリホルニウム(Cf)および希土類元素のCe、プロメ チウム(Pm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、イットリウム(Y)を用いて、同様の溶媒 抽出操作で算出した分配比と比較した。重アクチノイドは希土類元素と類似した抽出挙動を示したが、イオン半径 の近い希土類元素よりも大きな分配比を示し、配位子との相互作用にイオン結合以外の寄与の存在が示唆された。 一方Fmの分配比とイオン半径の関係は、同じ重アクチノイドよりもむしろ希土類元素に近い。現状ではFmの分配 比のデータは一条件のみであるため、今後さらに実験を重ねていく必要がある。 3. 液体シンチレーションカウンターのオンライン化に向けた基礎研究 化学操作を経た後の重元素を検出する装置として、液体シンチレーションカウンター(LSC)を導入すること にし、LSC で連続測定するためのシンチレータの条件を探した。また、加速器にて短寿命のジスプロシウム(Dy) のα線放出核種を合成し、LSC で測定することによって、検出されるβ線のバックグラウンドを見積もった。今 後さらに基礎データを収集し、連続測定に適した LSC の設計・製作を行う予定である。 4. キャピラリー電気泳動を用いた重アクチノイドの化学分離挙動 重アクチノイドの錯形成反応についての知見を得るため、キャピラリー電気泳動法を用いて希土類元素、重アク チノイドを相互分離した。溶液導入装置を改良することにより再現性を向上させることに成功した。次に、加速器 を用いた短寿命核種の電気泳動のための、溶液化セルを新しく作製した。これらの装置を用いて、加速器で Dy を 合成し、その電気泳動挙動を調べた。その結果、加速器を用いた実験でも、通常の実験と同様の電気泳動挙動が得 られることが分かった。今後、加速器を用いた短寿命重アクチノイドの生成し、検出に応用していく予定である。 発表論文 1. Development of On-line Solvent Extraction System with Microchips for Heavy Element Chemistry K. Ooe, Y. Tahiro, D. Saika, Y. Kitamoto, K. Matsuo, T. Takabe, T. Kuribayashi, N. Takahashi, T. Yoshimura, W. Sato, K. Takahisa, and A. Shinohara J. Nucl. Radiochem. Sci. 8, 59 (2007). 2. Development of gas-jet transport system coupled to the RIKEN gas-filled recoil ion separator GARIS for superheavy element chemistry H. Haba, D. Kaji, H. Kikunaga, T. Akiyama, N. Sato, K. Morimoto, A. Yoneda, K. Morita, T. Takabe, A. Shinohara J. Nucl. Radiochem. Sci. 8, 55 (2007). 3. Startup of superheavy element chemistry at RIKEN H. Haba, T. Akiyama, D. Kaji, H. Kikunaga, T. Kuribayashi, K. Morimoto, K. Morita, K. Ooe, N. Sato, A. Shinohara T. Takabe Y. Tashiro, A. Toyoshina, A. Yoneda, T. Yoshimura Eur. Phys. J. D 45, 81 (2007). 4. Startup of superheavy element chemistry at RIKEN H. Haba, D. Kaji, H. Kikunaga, N. Sato, T. Akiyama, K. Morimoto, A. Yoneda, K. Morita, T. Takabe Y. Tashiro, Y. Kitamoto, K. Matsuo, D. Saika, K. Ooe, T. Kuribayashi, T. Yoshimura, A. Shinohara, A. Toyoshima AIP Conference Proceedings 891, 45 (2007). 口頭発表 1. 「キャピラリー電気泳動の希土類の相互分離と短寿命核種への適用」 栗林隆宏、大江一弘、尾本隆志、藤沢弘幸、小森有希子、高橋成人、吉村崇、羽場宏光、榎本秀一、三頭聰明、篠 原厚 第 51 回放射化学討論会、静岡 2. 「105 番元素DbのHF/HNO3 混合水溶液中における化学挙動」 笠松良崇、當銘勇人、豊嶋厚史、塚田和明、浅井雅人、石井康雄、西中一郎、佐藤哲也、篠原伸夫、永目諭一郎、 羽場宏光、菊永英寿、秋山和彦、後藤真一、石川剛、工藤久昭、佐藤渉、大江一弘、栗林隆宏、篠原厚、木下哲一、 荒井美和子、横山明彦、阪間稔、Z. Qin、Ch. E. Düllmann 第 51 回放射化学討論会、静岡 3. 「Ba + 16O, La + 16O 系重イオン核融合反応による重元素合成の研究(Ⅱ) 」 荒井美和子、南里朋洋、浅野敦史、木下哲一、大江一弘、高橋成人、斎藤直、横山昭彦 第 51 回放射化学討論会、静岡 4. 「Performance of a gas-filled recoil separator GARIS for hot fusion study」 D. Kaji, H. Haba, H. Kikunaga, K. Morimoto, A. Yoneda, T. Akiyama, K. Ooe, T. Nanri, N. Sato, A. Shinohara, D. Suzuki, T. Takabe, I. Yamazaki, A. Yokoyama, and K. Morita 3rd International Conference TAN07, Switzerland 5. 「Present status and perspectives of superheavy element chemistry at RIKEN」 H. Haba, T. Akiyama, D. Kaji, H. Kikunaga, T. Kuribayashi, K. Morimoto, K. Morita, T. Nanri, K. Ooe, N. Sato, A. Shinohara, D. Suzuki, A. Toyoshima, I. Yamazaki, A. Yokoyama, A. Yoneda, and T. Yoshimura 3rd International Conference TAN07, Switzerland 6. 「Electrochemical oxidation of nobelium」 A. Toyoshima, Y. Kasamatsu, K. Tsukada, A. Kitatsuji, H. Haba, Y. Ishii, H. Toume, M. Asai, K. Akiyama, K. Ooe, W. Sato, A. Shinohara, Y. Nagame 3rd International Conference TAN07, Switzerland 大腸菌 mRNA エンドリボヌクレアーゼの解析 Analysis of mRNA endoribonucleases from Escherichia coli (理学研究科生物科学)岩本明、古賀光徳、多田康子、伊藤明日美、李嘉欣、日比野愛子、米崎哲朗 (Graduate School of Science) A. Iwamoto, M. Koga, Y. Tada, A. Ito, J. Li, A. Hibino, T. Yonesaki 我々が同定した RNase LS の生理機能解析、RNase E や RNase LS の mRNA エンドリボヌクレアーゼ活性を制御 する機構についての知見を深めた。大腸菌において mRNA 分解調節の鍵は、mRNA エンドリボヌクレアーゼの 活性調節である。主要な mRNA エンドヌクレアーゼである RNase E と同様に、私達が発見した RNase LS も構 成的に発現し、多数の mRNA を標的とする。 RNase LSの実体解析 RNase LSは細胞抽出液中で1000 kDaの複合体として存在している。RNase LS活性に必須であるRnlA はウェスタンブロット法を用いても検出できないくらいに発現量が低いために、Hisタグ化RnlAを発現 させる組み換え遺伝子を構築することによってRnlAを検出しやすくまた発現量を高めて解析した。His タグ化RnlAに結合するタンパク質として糖代謝関連のタンパク質6種類を含む12種類のタンパク質 を同定したが、それらの内でトリオースリン酸イソメラーゼ(Tpi)が最も強く結合することを見出した (下記発表論文)。続いて、RNase LS活性におけるTpiAの貢献を明らかにするため、構造遺伝子であ るtpiAの破壊株と野生型でのRNase LS活性を比較した。RNase LS活性の阻害効果を示すT4ファージ のdmd遺伝子が変異すると、T4ファージは野生型大腸菌では増殖不能となるのに対して、tpiA破壊株 では弱いながらも有意な増殖を示した。これと一致して、RNase LSが標的とするT4ファージのsoc mRNAの分解速度はtpiA破壊株で約1/2に低下していた。さらに、細胞抽出液を用いてRNase LS活性を 比較したところ、tpiA破壊株での活性は明らかに低下しており、これに精製したTpiAを加えると顕著な 活性促進が認められた。以上のことから、TpiAはRNase LS活性に必須ではないが、活性の促進に働く 成分であることが明らかとなった。 RNase LSの生理機能解析 昨年度に、RNase LS変異体(rnlA:kan)はストレスに感受性が高いこと、ストレス応答遺伝子の発現に必要 な基本転写因子σSの発現が1/10〜1/20に低下していることを発見した。今年度は、σSの発現低下がストレス 高感受性の原因であるのかどうかを確認するために、高塩濃度感受性に対してσSの欠失変異体(ΔrpoS)と の比較研究を行った。σS欠失変異体も高塩濃度感受性を示したものの、コロニーの大きさはrnlA:kanより大 きいこと、CFUはrnlA:kanが1であるのに対してΔrpoSは約0.1であったこと、から両者の表現型は同じでな いことがわかった。そこで、増殖静止期の細胞死に関わることが示唆されているssnAの効果を調べたところ、 rnlA:kanの高塩濃度感受性はssnAの発現が原因であるが、ΔrpoSの塩濃度感受性には関わらないことが判明 した。従って、rnlA:kanの高塩濃度感受性はσSの発現低下が原因ではなく、恐らくRNase LS活性が消失した ことによる間接的効果による遺伝子発現調節機構の乱れ(後述)が原因であると考えられる。 RNase LS変異体でσSの発現低下をもたらす原因としてCyaAの過剰発現を確認した。また、昨年度に、RNase LS変異体が様々な糖の利用に欠損を示すことを発見し、その原因としてRNase Eの過剰発現を確認した。CyaA の過剰発現は、転写因子であるCrpの過剰発現を誘導するので下流の多くの遺伝子発現を正または負に調節す ることになる。また、RNase Eの過剰発現は多くの遺伝子のmRNAの寿命を短くするので、遺伝子発現レベルの 低下をもたらす。従って、RNase LS変異体では多くの遺伝子について発現の乱れが生じると推測される。 RNase E は翻訳活性の低い mRNA を好むのに対して、RNase LS は翻訳活性の高い mRNA を好む。このように mRNA の翻訳活性に対して異なる振る舞いをする RNase を 2 種類保持することは、大腸菌が生理的条件に応じてこ れらを使い分ける可能性を示唆する。実際、通常は RNase E に比べて弱い活性を示す RNase LS が、T4 ファ ージの感染時には RNase E を凌駕する活性を示すようになる。我々は mRNA エンドリボヌクレアーゼ活性調節 の仕組み解明に迫るため、RNase LS の生理学的意義を深めること、RNase E や LS の活性を調節する因子の同 定、に照準を合わせて解析した。 論文発表 1. Otsuka, Y., Koga, M., Iwamoto, A., and Yonesaki, T. 2007. A role of RnlA in the RNase LS activity from Escherichia coli . Genes Genet. Syst., 82, 291-299. 学会発表 1. 「大腸菌RNase LS変異体におけるCRPタンパク質過剰発現機構の解明」 岩本明、 米崎哲朗 (第九回RNA学会、名古屋、2007年7月) 2. 「T4ファージゲノムTK2領域の機能解析」 多田康子、米崎哲朗 (第九回RNA学会、名古屋、2007年7月) 3. 「大腸菌RNase LSの活性に必須なrnlB遺伝子の解析」 古賀光徳、米崎哲朗 (第九回RNA学会、名古屋、2007年7月) 4. 「大腸菌mRNAの不安定化を誘導するT4ファージ遺伝子の同定と機能解析」 多田康子、米崎哲朗(第30回日本分子生物学会・第80回日本生化学会 合同大会、横浜、2007年12月) 5. 「大腸菌RNase LSによるCRP-cAMP 新規制御機構」 岩本明、米崎哲朗(第30回日本分子生物学会・第80回日本生化学会 合同大会、横浜、2007年12月) 6. 「sigma38を介した大腸菌RNase LSのストレス応答について」 伊藤明日美、岩本明、米崎哲朗(第30回日本分子生物学会・第80回日本生化学会 合同大会、横浜、 2007年12月) 7. 「大腸菌RNase LSにおけるrnlB 遺伝子の役割」 古賀光徳、米崎哲朗(第30回日本分子生物学会・第80回日本生化学会 合同大会、横浜、2007年12月) 植物細胞機能の解析 Analysis of plant cellular functions (理学研究科)藤井聡志 高木慎吾 水野孝一 (Graduate School of Science) S. Fujii, S. Takagi, and K. Mizuno 高等植物のセルロース合成の分子メカニズムはその多くの部分が明らかになっていない。突然変異体の解 析などからセルロース合成酵素の候補遺伝子はいくつか挙げられているが、セルロース合成酵素を同定する には至っていなかった。一方でフリーズフラクチャー法によりロゼットと呼ばれる特徴的な形態を持つ膜蛋 白質複合体が発見されており、それがセルロース合成酵素複合体であると考えられてきた。しかしロゼット は植物組織からの単離が困難な為に、その生化学的解析及び構成蛋白質の同定が進まないでいた。われわれ はアズキ芽生え上胚軸を破砕後、いくつかの精製ステップを経てインタクトなロゼットを含む蛋白質画分を 分離・精製する事に成功した。これによりロゼットの生化学的解析が初めて可能になった。UDP-グルコース はセルロース合成の基質として働くと考えられており、これの放射性同位体である14C-UDP-グルコースをロ ゼット画分に与えてインキュベートした。すると微弱ながらセルロース合成活性が検出された。また、セル ロース繊維を合成しているようなロゼットを電子顕微鏡下で観察する事もできた。 ロゼット画分に含まれる蛋白質を MALDI-TOF MS を用いた PMF (peptide mass fingerprint) 法によって解析 したところ、シュクロースシンテース、アルファチューブリン、ベータチューブリン、アクチンなどが含ま れる事が判明した。シュクロースシンテースはアクチン結合蛋白質であり、セルロース合成酵素の近傍に局 在すると考えられていたが、それを支持する結果が得られたといえる。また、セルロース繊維は表層微小管 と平行に合成される事が知られているが、その制御に関わるメカニズムも謎のままである。チューブリンが ロゼット画分に含まれていたことから、ロゼットと微小管との相互作用に関わる蛋白質も含まれている事が 期待される。事実、今回得られたロゼット画分を用いて、ロゼットがブタ脳由来のチューブリンから重合さ せた微小管と共沈殿する事を明らかにした。PMF 法によってロゼット画分には新規の蛋白質が多く含まれる 事も明らかとなっており、今後はこれらの解析を進めていくことにより、セルロース合成及びその制御に関 わるメカニズムの解明につなげられると期待している。 発表論文 1. "Blue-light-dependent nuclear positioning in Arabidopsis thaliana leaf cells" K. Iwabuchi, T. Sakai and S. Takagi, Plant and Cell Physiology 48, 1291 (2007). 2. "A Novel function of plant histone H1: microtubule nucleation and continuous plus end association" T. Hotta, T. Haraguchi and K. Mizuno, Cell Structure and Function, 32, 79 (2007). 3. "How and why do plant nuclei move in response to light?" K. Iwabuchi and S. Takagi, Plant Signaling and Behavior 3, 266 (2008). 口頭発表 1.「葉緑体脱アンカー反応における植物ビリンの役割」 高木慎吾、特定領域研究第 7 回班会議(岡崎、2007 年 6 月) 2.「シロイヌナズナ緑葉における細胞質運動性光制御に対するフィトクロムの関与」 櫻井(尾里)納美、猪股勝彦、古谷雅樹、高木慎吾、日本植物学会第 71 回大会(野田、2007 年 9 月) 3.「ロゼットの分離及びセルロース合成活性検出の試み」 藤井聡志、特定領域研究第 3 回若手ワークショップ(瀬戸、2007 年 10 月) 4.「タバコ核表面におけるヒストン H1 による放射状微小管の構築機構」 堀田崇、水野孝一、第 5 回さざなみコンファレンス(加東、2007 年 11 月) 5.「高等植物のセルロース合成酵素複合体、ロゼット、の分離・精製」 藤井聡志、水野孝一、第 1 回植物細胞壁研究会(豊中、2007 年 11 月) 6.「葉緑体脱アンカー反応における植物ビリンの役割」 高木慎吾、特定領域研究第 8 回班会議(神戸、2008 年 1 月) 渦鞭毛藻由来海洋天然物の細胞内分子機構の解明 Intracellular molecular mechanism of marine natural products isolated from dinoflagellate species (理学研究科)此木敬一、玉手理恵、松森信明、大石徹、村田道雄 (School of Science) K. Konoki, R. Tamate, N. Matsumori, T. Oishi and M. Murata 海洋性植物プランクトンである渦鞭毛藻が生産する梯 子 状 ポ リ エ ー テ ル 化 合 物 マ イ ト ト キ シ ン ( Maitotoxin, 以 下 、 MTX) は 、 こ れ ま で 知 ら れ て い る 二 次 代 謝 産 物 の 中 で は 最 強 の 毒 性 を 示 す 。こ の 毒 性 は 、MTXが 種 々 の 培 養 細 胞 や 動 物 組 織 に 対 し て 顕 著 な Ca 2 + イ オ ン 流 入 作 用 を 有 す る こ と に 起 因 す る と 考 え ら れ て い る 。 し か し 、 単 離 さ れ て か ら 20 年 以 上 経 っ た 現 在 に お い て も 、MTXの 作 用 標 的 分 子 は 不 明 で あ る 。本 研 究 で は MTXの 4 5 Ca 2 + イ オ ン 流 入 活 性 を 指 標 に し て 、 そ の 流 入 活 性 を 特 異 的 に 阻 害 剤 す る 化 合 物 を 探 索 す る こ と 、さ ら に 、探 索 さ れ た 化 合 物 が 結 合 する受容体構造を同定することを目的とした。 我 々 は ヒ ト 赤 血 球 に 対 す る MTXの 4 5 Ca 2 + イ オ ン 流 入 作 用 が 、 人 工 的 に 合 成 さ れ た 梯 子 状 ポ リ エ ー テ ル 化 合 物 を 共 存 さ せ る こ と に よ っ て 阻 害 さ れ る こ と を 見 出 し た 。さ ら に こ の 結 果 の 一 般 性 を 確 か め る た め 、 ラ ッ ト グ リ オ ー マ C6 細 胞 を 用 い て 同 様 の 実 験 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 MTX の 4 5 Ca 2 + イ オ ン 流 入 作 用 が C6 細 胞 に お い て も ヒ ト 赤 血 球 と 同 様 に 合 成 梯 子 状 ポ リ エ ー テ ル 化 合 物 に よ っ て 阻 害 さ れ る こ と を 見 出 し た 。こ れ ら の 結 果 は 、MTXお よ び 合 成 梯 子 状 ポ リ エ ー テ ル が 共 通 に 認 識 す る 受 容 体 が こ れ ら の 細 胞 に 存 在 す る こ と 示 唆 し て い る 。今 後 、こ れ ら の 合 成 梯 子 状 ポ リ エ ー テ ル 化 合 物 は 、MTXの 作 用 標 的 分 子 を 同 定 す る た め の 有 用 な プ ロ ー ブ 分 子 と な ると期待される。 口頭発表 1. 「 梯 子 状 ポ リ エ ー テ ル 結 合 モ チ ー フ の 探 索 研 究 」此 木 敬 一 、長 谷 川 太 志 、鳥 飼 浩 平 、梅 本 詩 織 、 松 森 信 明 、 大 石 徹 、 村 田 道 雄 、 第 8 7 回 日 本 化 学 会 年 会 ( 大 阪 、 2007年 3月 ) 2. 「 マ イ ト ト キ シ ン の WXYZA'B'C'環 部 の 収 束 的 合 成 」 長 谷 川 太 志 、 鳥 飼 浩 平 、 此 木 敬 一 、 村 田 道 雄 、 大 石 徹 、 第 8 7 回 日 本 化 学 会 年 会 ( 大 阪 、 2007年 3月 ) 3.「 フ ァ ー ジ デ ィ ス プ レ ー 法 を 用 い た 梯 子 状 ポ リ エ ー テ ル 分 子 結 合 ペ プ チ ド の 探 索 」此 木 敬 一 、 玉 手 理 恵 、梅 本 詩 織 、毛 利 良 太 、長 谷 川 太 志 、松 森 信 明 、大 石 徹 、村 田 道 雄 、第 8 8 回 日 本 化 学 会 年 会 ( 東 京 、 2008年 3月 ) Na + /H + 交 換 輸 送 タ ン パ ク 質 の 制 御 の 分 子 機 構 Molecular mechanism of Na + /H + exchanger regulation (理学研究科)松下昌史、佐野由枝、田中啓雄、三井慶治、金澤浩 (Grad. Sch. of Sci.) M. Matsushita, Y. Sano, K. Mitsui, and H. Kanazawa 【 は じ め に 】 細 胞 内 の pH、 Na + 、 浸 透 圧 の 制 御 は 、 生 命 維 持 の 基 本 的 要 件 で あ る 。 こ う し た 細 胞 内 の イ オ ン 量 や 浸 透 圧 の 制 御 は 、 形 質 膜 や 細 胞 内 小 胞 膜 に 存 在 す る Na + /H + 交 換 輸 送 タ ン パ ク 質 ( Na + /H + exchanger; NHEと 省 略 ) に よ っ て 主 と し て 行 わ れ て い る 。 ほ 乳 類 細 胞 で は 、 NHEに は 9 つ の ア イ ソ フ ォ ー ム が 知 ら れ て い る 。NHE1か ら NHE5ま で は 形 質 膜 に 存 在 し 、残 り は 細 胞 小 胞 膜 に 存 在 す る 。 こ れ ら の NHE分 子 は い ず れ も 疎 水 的 な 膜 内 在 性 部 分 と 4 0 0 残 基 程 度 の 親 水 的 な 膜 表 在 性 部 分 と か ら な る 特 徴 あ る 構 造 を 有 し て い る 。疎 水 的 な 部 分 は イ オ ン 輸 送 活 性 に 関 わ り 、親 水 的 な 部 分 は 制 御 に 関 わ る も の と 考 え ら れ て い る 。我 々 は 、こ の 親 水 的 な 部 分 と 相 互 作用する分子の存在を想定し探索を行った結果、新規のカルシニューリンB様タンパク質 (CHP)を 同 定 し た 。 こ れ ま で に CHPは NHEの イ オ ン 輸 送 活 性 に 必 須 で あ る こ と を 示 唆 す る 報 告 が な さ れ て い る が 、そ の 詳 細 は 不 明 で あ る 。NHE分 子 に お け る CHPの 役 割 を 解 析 す る 方 法 と し て CHP 欠 失 細 胞 株 を 樹 立 し 、 CHP遺 伝 子 の 発 現 を 人 為 的 に 調 節 す る 系 を 確 立 す る こ と は 有 用 で あ る 。 そ こ で 、 本 研 究 で は 、 CHP1遺 伝 子 の み が 発 現 し て い る ニ ワ ト リ Bリ ン パ 球 細 胞 株 DT40を 用 い て CHP遺 伝 子 欠 失 株 を 作 製 し 、 CHP欠 失 の 及 ぼ す 影 響 を 解 析 し て 、 そ の 機 能 に つ い て 考 察 し た 。 【 結 果 と 考 察 】 細 胞 内 へ の NHE1に 依 存 し た 2 2 Naの 取 り 込 み を 測 定 し 、 NHE1の イ オ ン 輸 送 活 性 と し た 。 そ の 結 果 、 CHP欠 失 細 胞 株 で は 、 NHE1活 性 が 野 生 株 と 比 較 し て ほ ぼ 消 失 し て い る こ と が 確 認 さ れ た 。 ま た 、 形 質 膜 表 面 に お け る NHE1の 発 現 を 調 べ た と こ ろ 、 CHP欠 失 株 に お い て NHE1 は 形 質 膜 に ほ と ん ど 発 現 し て い な い こ と 、 CHP遺 伝 子 の 再 発 現 に よ り 形 質 膜 で の 発 現 が 回 復 す る こ と が 明 ら か に な っ た 。さ ら に 驚 く こ と に 、こ の CHP欠 失 株 で は NHE1の 細 胞 内 の 全 量 が 10%程 度 に 低 下 し て い た 。 こ れ ら の こ と は 、 CHPに よ っ て NHE1の 構 造 が 安 定 化 さ れ る こ と を 示 唆 し て い る 。 CHPに よ る NHE1の 構 造 安 定 化 が な け れ ば 、 NHE1は 恐 ら く ERに お け る 品 質 管 理 機 構 に よ り 分解されるのだろう。 発表論文 1. "Loss of calcineurin homologous protein-1 in chicken B lymphoma DT40 cells destabilizes Na + /H + exchanger isoform-1 protein" M. Matsushita, Y. Sano, S. Yokoyama, T. Takai, H. Inoue, K. Mitsui, K. Todo, H. Ohmori, and H. Kanazawa, Am J Physiol Cell Physiol, 293, C246-C254, (2007) 2. "Na + /H + 交 換 輸 送 蛋 白 質 の 作 動 機 構 と 制 御 : 細 菌 か ら ヒ ト ま で " 昌 史 , 生 化 学 , 79, 569-578, (2007) 金澤 浩、三井慶治、松下 損 傷 DNAの 分 子 認 識 に 関 す る 研 究 Studies on molecular recognition of damaged DNA (基礎工学研究科)岩井成憲、林 亮輔、柏木沙予、南條豪宏、藤原芳江 (Graduate School of Engineering Science) S. Iwai, R. Hayashi, S. Kashiwagi, T. Nanjo, Y. Fujiwara 当 研 究 室 で は 損 傷 を 有 す る DNAに 関 す る 研 究 を 行 っ て い る 。 本 年 度 は 、 ヌ ク レ オ チ ド 除 去 修 復 ( NER) セ ン サ ー の 開 発 の 試 み 、 Alvinella pompejanaの DNAポ リ メ ラ ー ゼ の 機 能 解 析 、 紫 外 線 損 傷 DNAを 認 識 す る 新 規 タ ン パ ク 質 の 探 索 、 の 3 つ の 研 究 を 行 っ た 。 NERセ ン サ ー に つ い て は 、 損 傷 を 有 す る 2 本 鎖 DNAの 誘 導 体 を 作 製 し 、 蛍 光 に よ っ て 細 胞 の DNA修 復 能 を 検 出 す る こ と を 目 指 し た 。 鎖 状 の 2 本 鎖 DNAは 細 胞 に 入 れ た り 細 胞 抽 出 液 と 混ぜたりするとヌクレアーゼによって分解されることが知られているので、まず両末端を非 天 然 型 に 修 飾 す る こ と に よ り 安 定 化 を 図 っ た 。 内 部 の リ ン 酸 ジ エ ス テ ル を 3 2 Pで 標 識 し た 2 本 鎖 を 調 整 し HeLa細 胞 抽 出 液 と 混 合 し て ゲ ル 電 気 泳 動 で 分 析 し た 結 果 、 両 末 端 に メ チ ル フ ォ ス フォネート型のヌクレオチドアナログを並べることによりヌクレアーゼに対する安定性が得 ら れ る こ と が 確 認 さ れ た 。 次 に 、 最 小 の NER基 質 を 探 す た め に 損 傷 を 有 す る 同 様 の DNAの 鎖 長 を 変 え て 反 応 を 行 っ た 結 果 、 末 端 の 修 飾 部 分 を 除 い て 46塩 基 対 の 基 質 で NERの 断 片 が 検 出 された。ただし、この実験は今後、再現性の確認が必要である。 Alvinella pompejanaは 太 平 洋 の 熱 水 噴 出 孔 に 生 息 す る 多 細 胞 生 物 で あ り 、 こ の 生 物 が 持 つ Y フ ァ ミ リ ー DNAポ リ メ ラ ー ゼ に つ い て 米 国 Scripps Research Instituteと 共 同 研 究 を 行 う こ と に な っ た 。 こ の DNAポ リ メ ラ ー ゼ は Yフ ァ ミ リ ー で あ る た め 、 損 傷 乗 越 え 複 製 の 活 性 を も つ こ と が 期待される。今年度は遺伝子を譲り受けて大腸菌の遺伝子組換え実験によりこの酵素を調製 し た が 、 活 性 の 検 出 に 放 射 性 同 位 元 素 を 用 い た 。 す な わ ち 、 損 傷 を 有 す る 鋳 型 DNAに 対 す る 32 P-標 識 プ ラ イ マ ー の 伸 長 を ゲ ル 電 気 泳 動 に よ り 分 析 し た 。 遺 伝 子 の 発 現 お よ び 精 製 途 中 で の タ ン パ ク 質 の バ ン ド を SDS-ゲ ル 電 気 泳 動 に よ り 明 確 に 検 出 す る こ と が で き な か っ た が 、 損 傷 を乗り越える活性は検出された。しかし、大腸菌由来の酵素による乗越え複製の可能性もあ るため、さらに実験が必要である。 以 前 の 実 験 で 、 紫 外 線 損 傷 の 一 つ で あ る (6–4)光 産 物 を 有 す る 2 本 鎖 に 3 2 P-リ ン 酸 を 付 け た プ ロ ー ブ を 用 い る こ と に よ り 、 HeLa 細 胞 中 で こ の DNAに 結 合 す る タ ン パ ク 質 と し て UV-DDBタ ンパク質を検出した。その実験において他にもいくつかの複合体が検出されていたため、こ の 損 傷 DNAを 認 識 す る 他 の タ ン パ ク 質 を 再 度 探 索 す る こ と に し た 。 し か し 、 UV-DDBタ ン パ ク 質 と の 複 合 体 に 近 い 分 子 量 の バ ン ド は 用 い た プ ロ ー ブ が 形 成 可 能 で あ っ た cruciformを 認 識 す る こ と が 明 ら か に な り 、 分 子 量 が 非 常 に 大 き い 複 合 体 に つ い て も (6–4)光 産 物 を 認 識 す る と 断 定 す る こ と は で き な か っ た 。 こ の 損 傷 を 有 す る DNAに は UV-DDBタ ン パ ク 質 が 高 い 親 和 性 で 優 先 的 に 結 合 す る た め 、 こ の よ う な 実 験 を 行 う た め に は UV-DDB活 性 を 持 た な い XPE細 胞 の 抽 出 液を使用することが必要であると考えられる。 環境中の放射能動態の基礎的検討 Radiochemical Study of Radionuclides in the Environment (RIセンター、理学研究科 1、薬学研究科 2、基礎工学研究科 3) 斎藤直、福本敬夫 1、川瀬雅也 2、山口喜朗、森本正太郎 3 (Radioisotope Research Center, Grad. Sch. of Science, Grad. Sch. of Pharmaceutical Sciences, Grad. Sch. of Eng. Science) T. Saito, T. Fukumoto, M. Kawase, Y. Yamaguchi and S. Morimoto トリチウム(3H, t1/2=12.3y)は宇宙線によって絶えず生成されている放射性核種であり、同時に原子炉等で も誘起されて環境に放出されている核種である。さらに、過去の大気圏内核実験によっても大量に環境中に 存在しているが、そのレベルは徐々に低下しつつある。このために、より低レベルの人為的な放出を検出で きることが期待できるが、そのためには、試料のトリチウム濃度を高める必要が出てくる。このために、水 の電解によってトリチウム濃縮を行う方法などが利用されており、われわれも同法を用いる電解濃縮装置を 作製して、試験的な濃縮実験を開始した。装置と実験操作は、文部科学省制定の放射能測定法シリーズ9「ト リチウム分析法」(日本分析センター、2002)に準拠した。現在、海水試料への適用を考えてテスト実験を実 施している段階であるが、塩素イオンの除去が大きな課題となっている。 学内放射線施設の非密封放射性同位元素使用室の作業環境測定(空気中の放射性物質濃度)において、 γ核種が有意に検出された試料を作業環境測定機関から提供を受け、Canberra 社製井戸型ゲルマニウム半 導体検出器で再測定した。フィルター(ガラスフィルターではなく、その背面にセットされた活性炭フィ ルター)に捕集された核種として 133 Xe(t1/2=5.2d)が報告されたので、検出器のエンドキャップ上に置いて 測定したところ81keVγ線[分岐比38%]を検出できた。なお、実効的半減期は18hとなり、これは活性炭 からの 133 Xeの脱着速度によるものと考えられる。その他の有意値試料は、液体シンチレーションカウンタ ー測定による3Hと14Cであったので、吹田本館設置のAloka社製液体シンチレーションカウンターで再測定 を行い、核種の同定とそれぞれの放射能強度を確認した。 発表論文 1.「チェルノブイリ高度、中度放射能汚染地域における動植物体内の 137 Csの分布と含量の時間的推移」 中島裕夫、斎藤直、梁治子、野村大成、KEK Proceedings 2007-16 (2008), pp.113-118. 口頭発表 1.「セミパラチンスク核実験場の土壌中に残存する長寿命放射性核種」 小島貞男、有信哲哉、斎藤直、山本政儀、第51回放射化学討論会(静岡、2007年9月). メスバウアー分光測定 Mössbauer Spectroscopic Study of Iron and Tin Materials (RIセンター、基礎工学研究科1、薬学研究科2) 斎藤直、森本正太郎1、川瀬雅也2、黒葛真行、野村泰弘、池田泰大、那須三郎、川上隆輝 (Radioisotope Research Center, Grad. Sch. of Engineering Science, Grad. Sch. of Pharmaceutical Sciences) T. Saito, S. Morimoto, M. Kawase, M. Kurokuzu, Y. Nomura, Y. Ikeda, S. Nasu, and T. Kawakami 今年度は57Fe、119Snメスバウアー分光による研究を、以下のテーマについて行った: (a)Epidote系鉱物、(b) 鉄化合物-シリカガラスコンポジット、(c)常圧・高圧下のFe-N系化合物、(d)高圧下のFe2O3、(e)高圧下のFe-Ni 合金、(f)含Fe層状Li2MnO3(固体電池電極材料)、(g)Sn固溶-Ni基合金(照射効果)、 (h)価数混合状態を示すFeホ ウ酸塩、(i)磁性強誘電性を示すFe-Gd酸化物。ここでは、Epidote系鉱物の結果について述べる。 1. はじめに Epidote(緑簾石) は組成式Ca2(AlxFe1-x)3Si3O12(OH)、(0 ≤ x ≤ 1)で表され、結晶化学的分類から は頂点共有したSiO4四面体(Si2O7)を有するsoroslicate類に属する。八面体サイトはM1、M2、M3 の3つがあり、 Fe3+ はM3 サイトを優先的に占有することが知られる。Al3+はM1 サイトを優先的に占有するが、0.8 Fe pfu 以上でM1 サイトにもFe が入ることが知られている。また 0.25 ≤ Fe pfu ≤ 0.75 におけるメスバウアー分光に おいて短距離秩序ドメイン構造を持つ複数の相の存在が示唆されている。結晶構造解析では確認されていな いが、この組成範囲におけるメスバウアー分光ではM3 のメスバウアーパラメータ群に近い値成分が 2 つ以上 観測され、一方がM3’サイトと呼ばれている。 2. 実験 岡山県阿哲郡大佐山産と岩手県釜石鉱山産の 2 種類のEpidote について、4K から室温の範囲で 57 Fe メスバウアー分光測定を行った。データ解析はMossWinn (Z. Klencsár) により行なった。FeとAlの組成比 はEPMAを用いて、岡山産が 0.523 Fe pfu、岩手産が 0.974 Fe pfu と決定した。 3. 結果および考察 岡山産epidoteは室温において非対称なメスバウアースペクトルが観測された。これは 0.25 ≤ Fe pfu ≤ 0.75 での報告と一致しており、非対称性はM3 サイトとM3’ サイトとの重なりによって説明 される[1]。一方、岩手産epidote は対称的なメスバウアースペクトルが観測され、M3 サイトとM1 サイトに Fe が存在していると解析される。両方の試料で、10K 以下において、Paesano ら [2] の報告と類似した、非 対称なスペクトルが観測された。これを緩和による常磁性超微細相互作用の影響であると考え、Blume とTjon によるstochastic model[3] を用いて解析し緩和時間を求めた。その結果、岩手産と岡山産でM3 サイトの緩和 時間の温度依存性は同様の傾向となったが、M3’ サイトは異なる温度依存性を示した。またM1 サイトも 緩和によってスペクトルが変化していることが示唆された。 [1] K. T. Fehr and S. Heuss-Assbichler, N. Jb. Miner. Abh. 172, 43–67 (1997). [2] A. Paesano et al., Hyperfine Interactions 16, 841–844 (1983). [3] M. Blume and J. A. Tjon, Phys. Rev. 165, 446–456 (1968). 発表論文 1. 「鉄酸化物-シリカガラス・ナノコンポジットのメスバウアー分光」 野村泰弘、森本正太郎、黒葛真行、川瀬雅也、斎藤直、KURRI-TR-136 (2008), pp.62-66. 2. 「Epidote のメスバウアー分光」 黒葛真行、森本正太郎、野村泰弘、川瀬雅也、山川純次、斎藤直、KURRI-TR-136 (2008), pp.67-70. 口頭発表 1. 「Epidoteの低温57Feメスバウアー分光」 黒葛真行、森本正太郎、野村泰弘、川瀬雅也、山川純次、斎藤直、第 44 回アイソトープ・放射線研究発 表会(東京、2007 年 7 月). 2. 「鉄酸化物-シリカ・コンポジットのメスバウアー分光」 野村泰弘、森本正太郎、黒葛真行、川瀬雅也、斎藤直、第 44 回アイソトープ・放射線研究発表会(東京、 2007 年 7 月). 3. 「スズ含有ソーダライムガラスの白色発光」 山下勝、赤井智子、森本正太郎、壬生攻、日本セラミックス協会(名古屋、2007 年 9 月). 4. 「酸化鉄磁性微粒子内包シングルサイト触媒の開発」 森浩亮、近藤祐一、森本正太郎、山下弘巳、日本金属学会(岐阜、2007 年 9 月). 5. 「Feを含んだLi2MnO3層状酸化物のメスバウアー分光」 森本正太郎、池田泰大、田渕光春、川瀬雅也、斎藤直、第 51 回放射化学討論会(静岡、2007 年 9 月). 6. 「GaFeO3のメスバウアー分光」 中村真一、森本正太郎、斉藤直、川瀬雅也、角田頼彦、日本物理学会(札幌、2007 年 9 月). 7. 「γ'-Fe4Nの高圧下メスバウアー分光測定」 小林裕和、川上隆輝、那須三郎、森本正太郎、斎藤直、高橋昌男、日本物理学会(札幌、2007 年 9 月). 8. 「高圧下におけるCaFeO3の磁性と伝導」 日吉崇明、川上隆輝、森本正太郎、那須三郎、川崎修嗣、高野幹夫、日本物理学会(札幌、2007 年 9 月). 9. 「高圧下におけるSr2/3La1/3FeO3の電気抵抗測定」 平間一貴、川上隆輝、森本正太郎、那須三郎、川崎修嗣、高野幹夫、日本物理学会(札幌、2007 年 9 月). 10. 「Fe-Ni インバー合金における磁気特性の圧力・温度依存性」 羽廣英樹、川上隆輝、森本正太郎、那須三郎、井野博満、日本物理学会(札幌、2007 年 9 月). 11. 「Epidote のメスバウアー分光」 黒葛真行、森本正太郎、野村泰弘、川瀬雅也、山川純次、斎藤直、日本物理学会(札幌、2007 年 9 月). 12. 「Epidote のメスバウアー分光」 黒葛真行、森本正太郎、野村泰弘、川瀬雅也、山川純次、斎藤直、KUR 専門研究会(熊取、2007 年 11 月). 13. 「鉄・シリカガラス・ナノコンポジットのメスバウアー分光」 野村泰弘、森本正太郎、黒葛真行、川瀬雅也、斎藤直、KUR 専門研究会(熊取、2007 年 11 月). 14. 「epidote の低温メスバウアー分光」 黒葛真行、森本正太郎、野村泰弘、川瀬雅也、山川純次、斎藤直、日本物理学会(東大阪、2008 年 3 月). 15. 「Li2MnO3層状酸化物中の高原子価Feのメスバウアー分光」 池田泰大、森本正太郎、田渕光春、川瀬雅也、斎藤直、辰巳国昭、日本物理学会(東大阪、2008 年 3 月). 医学部機能系実習 (RI) Training course of handling radioisotopes for medical students (医学部・放射線基礎医学) (Fac. of Medicine) 本行忠志、中島裕夫、石川智子 T. Hongyo, H. Nakajima, T. Ishikawa 医学部では、3 年次学生を対象に、生理学を中心とした後期機能系実習を行っている。その一環として、放 射線基礎医学担当の、「RI の安全取扱い」と「放射線の生物作用」の 2 実習項目が組み込まれている。9 時 から 17 時までの実習を 2 日間、これを 1 サイクルとして、今年度は、平成 20 年 1 月 8 日から 1 月 24 日まで、 計 6 サイクル行った。学生数は、16~18 名ずつ、計 97 名であった。卒業後、非密封 RI を扱う機会が多いため、 非密封 RI の安全取扱いを主としている。 「RIの安全取扱い」の実習については、まず、基礎編として、RIの物理学的性質を学習させている。32P水 溶液を与え、半減期、測定効率を考慮して適度に希釈させ、測定試料を作らせる。これを使って、1)吸収板 を用いた最大エネルギーの測定、2)距離と計数値の関係、3)計数値の統計的バラツキ、の 3 課題をGMカウ ンターで行う。次に、応用編として、3H、32P、51Crを使った模擬汚染試料による汚染検査の実習を行う。既 知濃度の上記 3 核種をステンレス板に塗りつけて試料とし、スメア濾紙で拭き取り、GMカウンター、ガンマ ーカウンター、液体シンチレーションカウンターで測定し、測定効率、拭き取り効率を理解させるとともに、 核種による測定器の選択、非密封RIの安全取扱い、廃棄物の処理方法、管理区域の意義を学ばせている。 「放射線の生物作用」の実習は、細胞の間期死についてのものである。マウスに X 線を照射し、次の日に 胸腺、脾臓を剔出してそのリンパ球数を数えることにより、照射線量と間期死の関係を理解させる。マウス の実習は医学部動物実験施設で行っている。 医学系研究科放射線取扱実習 Safety Handling of RadioIsotopes for Students (生化学・分子生物学講座)船越洋、(分子血管医学講座)高島成二、(RI管理室)谷川裕章、小田茂樹 (Biochemistry and Molecular Biology)Hiroshi Funakoshi (Molecular Cardiology)Seiji Takashima (Radio Isotope Lab.)H.Tanigawa & S.Oda 本実習は、当学部RI使用施設への立入前教育訓練の一環であり、非密封放射性同位元素の使用経験が全くな い新規登録者を対象としている。実施は通年、春と秋に数日間行われているが平成19年度は計5日間、61人 が受講した。 実習の構成は、RI取扱前の教育訓練としての障害防止法、本学放射線障害予防規程等に準拠した講義、なら びに放射性同位元素等の取扱実習からなり(計4時間)、基本的な取扱と、取扱上での安全の確保を重点に行っ ている。取扱実習に先立つ講義は、「放射性同位元素とは」から始まる基礎的な事項から説き起こし、医学領域 において使用することの多い核種、その崩壊形式、半減期、エネルギー等それぞれの性質を解説した。次にそれ らの核種を使用する上で必要な放射線測定器の動作原理、測定法等について述べ、RIを用いた実際の実験上で 起こりうる汚染、被ばく等に対する予防的な実験操作、対処の方法について説明した。 実習は日に1回行われ、対象者約12名を4グループとし、1グループにつき1名の指導教官がつき、海外留 学生には必要に応じて通訳者を伴い実施した。 実習の内容は「実験器具に汚染の可能性がある、いかに対処すべきか」を主題とし、受講者には未知の核種を 用いて汚染をつくらせ、測定、除去する過程においてRIの安全取扱を学ばせることが目的となっている。具体 的な内容を次に示す。 1. 汚染した器具を想定したプレートを用意し、未知の3核種(3H,32P,51Cr)を10倍に希釈した後、0.1ml 分注し、プレート上に滴下する。 2. GMサーベイ及びシンチサーベイメータを使って核種を同定させ、スミア法によるふき取り試料(プレー ト汚染部位)を作成し各核種に応じた放射線測定器を選択して測定する。 3. 作製した標準試料との比較によって測定器の測定効 率、スミア法のふき取り効率等を求める。 4. 実習終了後、使用器具、机上、床等の汚染検査を行 い、その結果について汚染検査報告書を提出する。 以上の実習過程を通じて各核種に対する、最適なしゃへい材、測定装置、汚染除去法等を習得させ、実習終了 後には機器の測定効率、拭取り効率などを算出し、結果について考察を加え教育訓練のまとめとした。 最後に医学系研究科放射線施設において、施設使用に関する簡単なオリエンテーションを行った。 基礎セミナー エネルギーの不思議 II First-year Seminar, Mysteries of Energy II (大学院工学研究科 電子電気情報工学専攻) 宮丸広幸 基礎セミナー受講生 1年生 (Graduate School of Engineering) Hiroyuki Miyamaru 基礎セミナー受講生を対象としてくらしのなかの放射線を中心に環境放射線や放射線計測の授業を RI セ ンター吹田本館で行った。講義と実験の内容は以下の通りである。 1)放射線の基礎(講義) 2)放射線の利用(講義) 3)密閉標準線源を用いた放射線の透過、減弱測定 (実習) 4)はかるくんを用いた自然放射線の測定(ベータ線測定) (実習) 講義では、プロジェクターを利用して放射線の基礎等の説明を行った。またRIセンター所有の放射線に 関するビデオを利用して受講生の習熟度の向上に努めた。実習では放射線安全協会から貸与された放射線測 定器“はかるくん”を受講生が一人一台利用して屋外での自然放射線の測定や、センター内での遮蔽実験等 を行った。これらの実験と共に、放射線の性質の理解を深めるよう放射線計測の基礎を解説した。さらに自 然放射線の存在や放射線の防護、また医療応用について実験的に学習した。放射線の利用を身近に感じても らえるように講義では受講生に照射施設、実験施設などのセンター内の見学を行い理解を深めた。本実験の 一部はRIセンター所有の各種放射線測定モジュールを利用することで実験が可能となった。本実験にあた り設備、実験器具の破損もなく、放射線取り扱いの不備もなく無事に全日程を消化することができた。放射 線の測定に関する設備が整っているため受講学生が課題に時間をかけて取り組むことができ、放射線の正し い理解の向上に結びついた。 理学部化学系放射化学学生実習 Practica1 Program of Radiochemistry in Chemical Experiments 1 for Chemistry Students (大学院理学研究科化学専攻)篠原厚、高橋成人、佐藤渉、吉村崇、 猪飼拓哉、大江一弘、栗林隆宏 (理学部化学科)3 年次学生 75 名 (Department of Chemistry, Graduate School of Science) A. Shinohara, N. Takahashi, W. Sato, T. Yoshimura, T. Ikai, K. Ooe, T. Kuribayashi (Department of Chemistry, Faculty of Science) 3rd undergraduate students 理学部化学科 3 年次学生対象の必修科目として、化学実験 1(分析化学、放射化学、物理化学)のうち放射化学の実 習を 4 月 19 日から 6 月 7 日までの期間行った。学生は7つの班(3,5 班 12 名、6 班 11 名、1,2,4,7 班 10 名)に分 かれて 2 班ずつ交替で、豊中分館、実習棟講義室、3F の測定実習室と放射化学実習室にて 6 日間の放射化学学生 実習を受けた。実習の具体的な内容を以下に記す。尚、実習に際しては放射線作業従事者の資格を満たすために、 これらのカリキュラムに先立って、2 年生時に 6 時間半の R1 の安全取扱いに関する講習を行った。 第一日:実習棟 2 階の講義室にて学生が実習する課題Ⅰ、Ⅱの実験内容の説明、管理区域への入退出方法、RI 取扱 に関する注意等を受けた後 2 班に分かれて 3 階の実習室へ入り実習を始めた。 第二日目以降: 課題Ⅰ、Ⅱの実習を行った。 第 4 日目には課題の交替を行った。 課題 I の内容:GM 計数管と Ge 検出器を用いた放射線測定 測定実習室にて 2 名 1 組で密封線源を用いて放射線の測定実験を行った。市販の GM 計数管を用いて、計数管のプ ラトー特性、分解時間を調べた。また Sr-90 を用いてβ線の最大エネルギー測定などを行った。Ge 検出器のネル ギー分解能の測定、Ge スペクトロメーターのエネルギー較正を行った。さらに課題として与えられた未知線源に ついてGM計数管を用いたエネルギー吸収法によるβ線のエネルギー測定とGe検出器によるγ線スペクトルの測定 より未知核種の同定を行った。 課題Ⅱの内容:化学分離法とγ線測定法による核種の確認 放射化学実習室にて 2 名 1 組で非密封 RI を用いて化学分離、放射線測定の実験をおこなった。Mn-54 と Cs-137 の 混合溶液から、沈殿法を用いて各アイソトープを分離し、その放射能純度と化学収率を NaI(T1)検出器とマルチチ ャンネルアナライザーを用いたガンマ線スペクトロメトリーによって求めた。 また Mn-54 除去後の溶液からイオン 交換分離で Ba-137m および Cs-137 をそれぞれ分離し、Ba-137m(半減期 2.55 分)の減衰と成長を NaI(T1)検出器で 測定し、得られた減衰、成長のグラフより半減期を求めた。 実習終了後、無機液体、可燃物、難燃物等の放射性廃棄物の処理を行った。実験器具、実験着のモニター、実験室 床面のスミアーテストを行い、汚染がないことを確かめた。 理学部物理学実験”放射線測定” A Practical program of experimental physics for students: "Radiation detection and measurement" (理学研究科物理)福田光順、三原基嗣、清水俊、松宮亮平、西村太樹、石川大貴 (Dept. of Phys., Facl. Sci.) M. Fukuda, M. Mihara, S. Shimizu, R. Matsumiya, D. Nishimura, and D. Ishikawa 平 成 1 9 年 度 理 学 部 物 理 学 科 3 年 生 を 対 象 と し た 、実 験 物 理 学 実 習「 放 射 線 測 定 」が 、豊 中分室実習棟内の物理系実習室にて年度を通して行なわれた。 実習の目的は、以下の通りである。 1. 放 射 線 の 測 定 方 法 、 お よ び 測 定 装 置 に 関 す る 一 般 的 技 術 を 習 得 す る 。 2. 放 射 線 を 測 定 す る こ と に よ っ て 、 放 射 線 が 物 質 内 の 原 子 と 行 な う 相 互 作 用 に 対 す る 理 解 を深める。 3. 放 射 線 の エ ネ ル ギ ー 、 強 度 等 を 測 定 す る こ と に よ り 、 放 射 線 の 種 類 や 性 質 に つ い て 理 解 を深める。 実習は、3種類の実験装置を用いて行なわれ、内容は以下のとおりである。 (1) G M 計 数 管 i) プ ラ ト ー 特 性 の 測 定 ii) ポ ア ソ ン 分 布 の 測 定 iii) 分 解 時 間 の 測 定 iv) γ 線 吸 収 係 数 の 測 定 ( Al, Fe, Pb) v) 永 久 磁 石 に よ る β 線 エ ネ ル ギ ー ス ペ ク ト ル の 測 定 (2) NaI(Tl) シ ン チ レ ー シ ョ ン ・カ ウ ン タ ー i) 137 Cs, 60 Co, 22 Na の パ ル ス ハ イ ト ・ス ペ ク ト ル の 測 定 ii) ス ペ ク ト ル の エ ネ ル ギ ー 較 正 iii) 未 知 試 料 ( 6 5 Zn, 54 Mn, 133 Ba, 152 Eu) の 核 種 の 同 定 及 び 強 度 の 測 定 iv) 鉛 版 に よ り コ ン プ ト ン 散 乱 さ れ た γ 線 の エ ネ ル ギ ー と 角 度 の 関 係 の 測 定 (3) Si 半 導 体 検 出 器 i) 241 Am の α 線 ス ペ ク ト ル の 測 定 ii) バ イ ア ス 電 圧 と パ ル ス ハ イ ト 、 ピ ー ク 幅 の 関 係 の 測 定 iii) Al 薄 膜 内 の エ ネ ル ギ ー 損 失 に よ る 膜 厚 の 測 定 一 回 の 実 験 参 加 者 は 9 〜 1 0 名 で あ り 、通 常 2 名 ず つ が 1 組 と な っ て 、そ れ ぞ れ が 上 記 の 3 テ ー マ を 4 週 間 、延 べ 7 日 間 に わ た り 実 習 し た 。平 成 1 9 年 度 内 に 実 習 を 受 け た 学 生 総 数 は 58名であり、実習の総時間数は約210時間であった。 基礎工学部電子物理科学科物性物理科学コース3年次物性実験:放射線測定 Laboratory Work in Solid State Physics: Radiation Measurement (基礎工学研究科)美田佳三 (Graduate School of Engineering Science) Y. Mita 例 年 通 り 平 成 19年 度 も 基 礎 工 学 部 物 性 物 理 工 学 科 3年 生 を 対 象 と し た 物 性 実 験 の テ ー マ の ひ とつとして「放射線測定」をラジオアイソトープセンター豊中分館において行った。 テ ー マ は( 1)ガ イ ガ ー = ミ ュ ラ ー 管 の 製 作 と 特 性 評 価 と( 2)シ ン チ レ ー シ ョ ン 検 出 器 に よ るガンマ線のエネルギースペクトルと強度測定の二種類に分かれており学生はこれらのうち どちらかを選択するシステムになっている。その実施内容概略は以下の通りである: ( 1) ガ イ ガ ー = ミ ュ ラ ー 管 の 製 作 と 特 性 評 価 まず代表的な放射線検出器であるガ イ ガ ー = ミ ュ ラ ー( GM)管 を 作 成 す る 。構 造 は 単 純 で あ り 金 属 製 の 筒 に 絶 縁 さ れ た タ ン グ ス テ ン ワ イ ヤ ー を 通 し て 銅 箔 の 窓 を 接 着 す れ ば 完 成 で あ る 。こ れ に 約 0.4リ ッ ト ル 毎 分 の 割 合 で Q ガ ス を 流 し 印 加 電 圧 を 上 げ て い く と 1000ボ ル ト を 越 え た あ た り で 急 激 に 放 射 線 の 計 測 が 始 ま る 。そ の 後 は し ば ら く カ ウ ン ト 値 は 電 圧 の 増 加 に 非 常 に 鈍 感 な 領 域( プ ラ ト ー 領 域 )が 続 い た 後 グ ロ ー 放 電 が 起 こ り 計 測 不 能 と な る 。こ の 印 加 電 圧 と カ ウ ン ト 値 の 関 係 を 6 0 Coと 1 3 3 Baの 二 種 類 の 線 源 に つ い て 調 べ GM管 の 動 作 原 理 を 学 習 す る 。 (2)シ ン チ レ ー シ ョ ン 検 出 器 に よ る ガ ン マ 線 の エ ネ ル ギ ー ス ペ ク ト ル と 強 度 測 定 このテーマはさらに二つに分かれる: ・ シンチレーション検出システムで137Cs, 60 Co, 133 Ba, 22 Na, 241 Amの五つおよび88Y, 54 Mn, 57 Coの中からど れかひとつの合計6種類の線源から出るガンマ線のエネルギースペクトルを調べる。観測されたピークの ピクセル位置を物理定数表などで調べたエネルギー値と対応させることにより使用したシンチレーショ ン検出器の校正曲線を作成する。また、現在では上記の線源のうち88Y, 54 Mn, 57 Coからはほとんど放射 線が出ないがその理由について考察する。 ・ 上記の線源のうち適当なものを選びそれから放出されたガンマ線をアルミニウム板を透過させる。アル ミ板の枚数を0から7枚まで変えたときのスペクトルを測定し板の枚数(=厚さ)の増加による減衰の変 化の様子からアルミニウムの放射線吸収計数を求める。ガンマ線のエネルギー値を複数選ぶことにより 吸収計数のエネルギー依存性を知ることができる。その特性が生じる理由を考察する。 基礎セミナー「環境とアイソトープ」 First-year Seminar: Environment and Isotopes (ラジオアイソトープ総合センター)斎藤直 (Radioisotope Research Center) T. Saito 基礎セミナーは学部1年生を主な対象として、少人数のセミナーで受講学生に学問の楽しさを伝えようと するものである。豊中分館を教室として、 「環境とアイソトープ」と題するセミナーを開講したので報告する。 放射線とその線源=ラジオアイソトープ(RI)は、サブアトミック領域への探求の道を開いて現代科学発 展の基礎となった。その放射線と RI の知識は、環境レベルでの諸問題の理解にもいろいろと応用されている。 本セミナーでは、文理系すべての学部1年生を対象として放射線と RI の基礎を学ばせた後、環境放射能と人 類の関わり合いについての現状を理解して、将来についての意見を受講生各人が持てるようになることを目 標としている。現実には、存在量がごく限られている RI の枠を安定同位体まで拡げてアイソトープという捉 え方によって、環境中の元素の存在状態を知ることにした。机上の理解だけでなく、各自が身近な研究テー マを設定し、自身でフィールド調査、アイソトープ(RI および元素)測定および考察を行うことを求めている。 なお、元素測定に用いる誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS Agilent 7500s)は、受講学生が自ら操作 して測定するようにしている。 セミナーはまず放射線等の理解から始めるように、T. Henriksen and H.D. Maillie, “Radiation and Health” (Taylor & Francis, London, 2003)の購読を行った。同書は内容が的確な上に、ノルウェー語からの 英訳が平易で、1年生でもすぐに理解できる。 放射線関係の実習では、まず霧箱で、α線およびβ線の飛跡観察を行った。飛程と散乱の様子が可視化で きるので、α線の Bragg 曲線の様子とβ線の大角度散乱などの特徴を知ることができた。 放射線測定機器としては、α線サーベイメーター(ZnSシンチレーション)、β線サーベイメーター(GM管)、 γ線サーベイメーター(NaIシンチレーション)を用いた。これらのサーベイメーターを用いて、さまざまな身 近にある試料を測定し、放射能が存在することを知った。KCl試薬では40K由来の放射線を検出し、体内に 4kBqの40Kが存在していることを計算した。ランタン用のマントルに含まれるトリウム(系列核種)からはα、 β、γ線のすべての放射線が放出されていることが分かる。222Rnの子孫核種214Pb(t1/2=27m)、214Bi(t1/2=20m) は室内でのダストサンプラーの運転によってフィルター上に捕集された放射能から知ることができ、その実 効的半減期が 40 分程度になることを測定した。グロー管の147Pmからのβ線については、吸収曲線を描くこ とによって最大飛程を決定しそれから最大運動エネルギーを求めた。 元素測定試料では、水試料を ICP-MS で測定した。水道水、イオン交換水、RO 水(超純水)、ミネラル水な どに含まれる多数の元素の濃度を測定した。日常的に飲用して水等は、その純度が気になるところであるが、 大体水道基準を満たしていることが確認できた。Hg 濃度が高い試料は集合住宅の高架水槽の汚れに起因して いると推測できた。さまざまな場所で採取した水試料も測定し、河川水の汚濁がどのような重元素と相関を 持っているかも調べることができた。このように身近な試料を通して環境についての理解もできた。 平成19年度共同利用一覧 吹田本館 共同利 所属部局 利用申請者 研 究 題 目 用者数 医 学 本行 忠志 124 医学部後期機能系実習 〃 中島 裕夫 8 〃 谷川 裕章 103 〃 野村 大成 10 〃 細井 理恵 8 有機廃液の焼却 チェルノブイリ放射能汚染地域の生物における生理的・遺伝的蓄積影響の シミュレーション実験 放射線取扱実習 摂取放射性物質の体内動態のシミュレーションと低線量・低線量率放射線の 生物影響 薬 学 永瀬 裕康 2 植物、微生物に対する放射線の影響に関する研究 工 学 飯田 敏行 6 ガラス線量計のアニール特性に関する基礎研究 5 単一細胞の放射線照射効果に関する研究 3 放射線による出芽酵母の突然変異誘発の解析 7 陽電子消滅法によるソフトマテリアルの評価 〃 〃 〃 西嶋 〃 茂宏 〃 〃 白井 泰治 20 〃 清野 智史 5 〃 古賀 雄一 11 極限環境微生物由来酵素の活性測定 〃 岡澤 敦司 9 天然ゴムの生合成メカニズムの解明 〃 宮丸 広幸 32 〃 〃 〃 吉岡 〃 潤子 〃 陽電子消滅による材料研究 磁性ナノ粒子への生体分子結合性能評価 基礎セミナー「エネルギーの不思議Ⅱ」 2 アンチコンプトン法による低バックグラウンド計測 1 工学研究科未臨界実験室のトリチウム汚染の測定 1 工学研究科RI実験室排水のγ測定 情報科学 松浦 友亮 5 Qβレプリカーゼを用いたRNA複製反応の解析 産 中嶋 英雄 3 金属および金属間化合物における拡散 〃 立松 健司 8 遺伝子発現、リン酸化タンパク質の解析、受容体タンパク質の解析 蛋 白 研 西尾 チカ 1 放射性有機廃液の焼却 生命機能 内山 進 2 RI法によるタンパク質結合定数の測定 交 流 セ 仁平 卓也 26 〃 藤山 和仁 2 放射能標識された糖質をHPLCにより解析する R I セ 斎藤 直 8 メスバウアー分光測定 研 放線菌オートレギュレーターリセプターの研究 〃 清水喜久雄 6 電離及び非電離放射線の微生物に対する影響 〃 山口 2 環境放射能測定に関する基礎的検討 喜朗 平成19年度共同利用一覧 豊中分館 共同利 所属部局 利用申請者 研 究 題 目 用者数 理 学 〃 岸本 忠史 15 二重ベータ核分光法による中性微子質量及び右巻き相互作用の検証 篠原 厚 16 放射性核種を用いた物性研究 重核・重元素の核化学的研究 〃 〃 17 〃 〃 116 化学実験1のうち放射化学の実習 〃 米崎 哲朗 9 大腸菌/T4ファージにおけるmRNA分解と制御 〃 福田 光順 87 物理学実験“放射線測定” 〃 高木 慎吾 12 植物細胞機能の解析 〃 松森 信明 5 渦鞭毛藻由来海洋天然物の細胞内分子機構の解明 〃 三井 慶治 8 イオン輸送性タンパク質とその制御因子の解析 基礎工学 岩井 成憲 7 損傷 DNA の分子認識に関する研究 〃 美田 佳三 62 R I セ 斎藤 直 基礎工学部電子物理科学科物性物理科学コース3年次物性実験 7 環境中の放射能動態の基礎的検討 基礎セミナー「環境とアイソトープ」 〃 〃 7 〃 〃 13 メスバウアー分光測定
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