ワークスタイルの変化からみたWeb2.0 - Nomura Research Institute

海外便り
ワークスタイルの変化からみたWeb2.0
いまWebをめぐる話題はまさにWeb2.0一色であり、この言葉の使われ方はバブルさながら
である。しかし、その本質を言葉でとらえることは難しい。Web2.0のような意味があいまい
な概念を理解するには、実際に体験してみることもまた重要である。本稿では、Web2.0的ツ
ールを業務のなかで利用することによって生じたワークスタイルの変化の事例を紹介する。
Web2.0はパラダイムシフトなのか
トの記事やメールニュースのほかに、ブログ
(個人の日記風のWebページ)が情報収集先
Web2.0をめぐっては、これをパラダイム
に加わるようになったことがあげられる。ブ
シフトととらえる立場がある一方で、そこに
ログには専門家によるものも多く、そこには
本質的な変化はないのではないかという意見
専門テーマに関する質の高い情報がさまざま
もある。Web2.0がパラダイムシフトかどう
な方面から自然と集まるようになっている。
かは後になってみないとわからない。経済バ
そのようなブログを見れば、大勢の人が寄せ
ブルの真っ只中にいても、それがバブルであ
る情報が専門家によって選別された形で入手
ると感じられないのと同じである。
できるようになっているのである。今日のよ
しかし、Web2.0が叫ばれるようになった
うにインターネットを通じて得られる情報が
ここ数年で、明らかに変わったと実感できる
あまりに増えてくると、ある程度絞られたテ
ことがある。それは、仕事で利用できるツー
ーマであっても、有益な情報を既存の手段で
ルの種類が大きく変わってきたことであり、
網羅的に閲覧することは難しい。その点で、
それがワークスタイルにも影響を及ぼしてい
専門家のブログを情報収集エージェントとし
ることである。
て活用することは、より効率的な情報収集の
Web2.0 的ツールによるワークスタイル
の変化
手段と言える。
②ソーシャルブックマークによる情報の整
理・共有
Web2.0的ツールによってワークスタイル
がどのように変化したか、いくつか例をあげ
や「お気に入り」をインターネット上に登録
てみよう。ここで紹介するのは、米国のシリ
して他のユーザーと共有するサービス)も、
コンバレーを拠点とするNRIパシフィック社
集めた情報を整理する上で重要な役割を果た
で実際に行われていることである。
すようになっている。
①専門家のブログからの情報収集
まず、メディア企業が提供するWebサイ
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ソーシャルブックマーク(「ブックマーク」
ブックマークにはタグを自由に付けること
ができ、本稿の執筆で参考にした文献のブッ
2006年11月号
レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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NRIパシフィック
リサーチャー
作島立樹(さくしまたつき)
専門は米国の技術とサービスに関する調査・研究
クマークも、本誌の略称である「ITSF」や
社内へ情報を発信するツールにはなり得なか
「Web2.0」「Blog」などのタグを付けて整理
った。これに対して社内SNSでは、社員が自
した。こうすることで、参照時にタグを使っ
身の日記欄に業務に関する情報を書きこむこ
てフィルタリングし、執筆に必要な文献リス
とで、社内全体へ情報発信し、それを読んで
トを作成できる。また、1 つのブックマーク
返事を書いてきた誰とでも会話を始めること
に複数のタグを付けてあるため、違うテーマ
ができる。また、あるテーマに関するコミュ
で執筆するような場合にも、別のタグを基に
ニティを作成し、ニュースやアイデアを書き
フィルタリングすれば、同じブックマークか
込んでおけば、コミュニティの参加者間での
ら新たな文献リストを作成できる。これまで
情報共有やディスカッションを行う場にな
は 1 つのブックマークを多面的に整理する方
る。簡単な議題であれば、会議を開かなくて
法がなかったために、テーマごとにフォルダ
も、社内SNSのコミュニティの会話で済ませ
を作ってブックマークを登録し直す必要があ
てしまうことも可能である。社内SNSでの会
ったが、ソーシャルブックマークでは、最初
話をコミュニティ参加者に公開すれば、後で
にタグを適切に付けておきさえすれば後で探
議事録を作成する必要もない。
すのも楽で、再登録をする必要もない。
ソーシャルブックマークのもうひとつの重
体験することで理解するWeb2.0
要な利点は、整理されたブックマークにコメ
新しい用語が氾濫するWeb2.0の世界を言
ントを付けて他人と共有できることである。
葉で理解しようとしても混乱するばかりで、
同僚や顧客から「こんな情報知らないか」と
その実態をとらえることは難しいであろう。
尋ねられたときなどに、ブックマークの公開
しかし、上記のような新しいワークスタイル
は有効な手段となっている。
は、すぐにでも実体験することができる。し
③社内SNSによる情報共有
かも、Web2.0的なツールの多くは無料で提
SNS(ソーシャルネットワーキングサービ
供されている。実際にツールを使ってみれば、
ス/ソーシャルネットワーキングサイト)は、
さまざまな可能性がみえてくるはずである。
知人や友人間で情報共有を行うインターネッ
組織的にWeb2.0を業務にとり入れ、試行
ト上のサービスである。企業内にSNSを開設
錯誤している企業はまだ少ない。メディアが
すれば、社内でも同様の情報共有を行うこと
まき散らす誇大広告に振り回されることな
が可能である。
く、ぜひツールを実際に試してみて、Web2.0
従来の社内ポータルサービスは、会社が社
員へ連絡するためのものであり、社員が広く
がもたらす“何か”を肌で感じてほしいもの
である。
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2006年11月号
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