Feature Story (巻頭言)(PDF:337KB) - 農林水産省

事務系01/2005.3.29のコピー 05.3.30 4:03 PM ページ3
01 Feature Story
INTERVIEW 1
撤廃等のアクセス改善措置を求めてきた。私が「これまで、日本
積んできた。自信を持ってやれば大丈夫だ。」と自らに言い聞か
日本国民の言葉となり、相手国にも強力な説得力を持つものと
平成17年冬、私はあるアジアの国際空港のラウンジにいた。こ
は貴国の主要輸出品である多くの農林水産品について関税撤廃
せることにしている。
なる。
の国には最近4ヵ月間で延べ8回出張に来ているが、そのたびに
に応じる用意があるが、日本にとって重要ないくつかの品目に
このラウンジを利用している。帰国便を待つわずかな時間に出
ついては撤廃に応じられないと何度も説明し、貴国も理解を示
4. 国民の声の代弁者たれ
エピローグ:また次の交渉へ
張の報告をまとめるのに好都合だからだ。キーボードを打つ指
してきたはずなのに、それでは話が違うではないか。今までの
私が口にする言葉は、私一人のものではない。耕種作物、畜
「今回の交渉では、相手が今まで以上に固い姿勢を示してき
が今夜は心なしか震えている。つい数時間前まで交わしていた激
議論は一体何だったのか。」と反論すると、相手は「我々は日本
産物、林産物、水産物、加工食品それぞれの担当部局と事前に綿
ただけに、次の一手を打つ際には国民世論を味方に付ける努力
論の余韻が残っているのだろうか。
の事情を理解しているが、我が国の農林水産業の将来にも責任
密な作戦を練り、それを省内幹部、時には大臣までブリーフし
をすることが一層重要になるであろう。」この言葉で出張報告書
を負っている。その品目の関税撤廃が我が国にとっては極めて
て省の方針とする。次には外務省をはじめとする関係他省庁と
を締めくくったところで、ボーディングのアナウンスが流れた。
重要であり、日本がそれに応じるなら、別の品目で我が国の関
も調整を行い、政府全体の方針として共有する。その過程で留
もうそんな時間か。私は家族へのささやかな土産を手にラウン
日本はフィリピン、マレーシア、タイ、韓国のアジアの4カ国と自由
税を日本に対して撤廃してもよい。日本は農産物の輸出にも力
意すべき点はいくつもある。まずは、日本国民の食生活・自然環
ジを離れた。次回交渉は2週間後、また帰ったら忙しくなる
貿易協定
(FTA)交渉を行っている。貿易のみならず、サービス、投
を入れているではないか。」と切り返してきた。これまで彼とは
境を支えている農林水産業・農林水産業者を守ること。これは
な−−そう思いながら、夜の空港をゲートへと向かった。
資、人の移動といった幅広い分野で相互に自由な経済活動が可能
幾度となく議論し、時には食事を共にしながら家族のことなど
省内担当部局の意見をよく聞くことが重要になるが、時には関
となるようにするものであることから、経済連携協定(EPA)交渉
を語り合ったこともあったが、その時の彼の表情は今までみた
係団体から直接話を伺うこともある。甘い書生論では交渉官は
大臣官房国際部国際調整課地域調整室長
と呼ばれることもある。アジア経済圏は、日本にとって膨大な可能
こともないほど険しかった。相手も必死なのだ。
務まらない。諸外国に比べて生産条件が劣後する日本の農林水
大浦久宜 昭和59年入省
産業が構造改革を進めていくためには、一定の国境措置は不可
Profile
プロローグ:アジア某国の空港にて
1. FTA/EPA交渉とは
性を秘めた市場であり、将来にわたって我が国と血脈を分かち合
う存在でなければならない。他方、相手国からみても、優位性があ
欠なのだ。むろん、上述したとおり、相手国の主張にも耳を傾
る分野では日本はビジネスチャンスを拡大するまたとないターゲ
議論は当然英語で行われる。同時通訳を雇ってくれるほど甘
けなければならない。だが、最も気を遣うのは、何といっても
ットになる。FTA交渉とは、お互いが勝者となる関係を築くために
くはない。幸い私は、若い頃に国際機関に2度、足かけ5年間出
消費者・国民の声である。我々がどんなに正しいと信ずること
何かを譲るかという重要な国益をかけた駆け引きの場であり、そ
向し、国家間の交渉をこなせるだけの語学力を一応は身につけ
であっても、それが国民から支持されなくなったらただの独善
のために合意に至るまでは両国間で激しい議論が交わされること
ている。農林水産省は、若手職員にその方面での研修機会を与
だ。
「農林水産省は保護農政に走るあまり、
FTA相手国が反発し、
となる。私は某国との交渉で農林水産分野を担当する交渉官だ。
えることに熱心であり、同期入省のほぼ半数は留学や出向等の
交渉の合意を妨げている。」−こう批判されてはすべてが終わり
形で海外修行に出されることとなる。私も慣れてはいるが、交
である。自らの主張が国民に理解されるようマスコミ等を含め
渉テーブルに着席しマイクに向かって話す第一声ではいつも緊
てあらゆる場を通じて説明責任を果たしていくこと、これが相
張する。そのたびに、
「自分はこの一瞬のために長い海外経験を
手国を説得する以上に重要となる。それではじめて私の言葉が
2. 交渉の一コマ
本日の交渉では、相手国は、具体的な品目をあげて関税率の
3 3
3. 語学力:この一瞬のために
昭和59年 4月
昭和61年 5月
昭和63年 7月
平成元年 5月
平成 2年 4月
平成 4年 7月
平成 6年 9月
平成 9年10月
平成11年 8月
平成13年 1月
平成13年 7月
平成15年 4月
平成16年 7月
入省(経済局国際企画課配属)
経済協力開発機構(OECD)派遣
大臣官房調査課畜産蚕糸係長
大臣官房調査課調査調整係長
食品流通局砂糖類課精糖係長
大臣官房企画室企画官
経済協力開発機構(OECD)派遣
大臣官房企画室室長補佐(価格政策班)
経済局金融課課長補佐(長期金融班)
経営局金融調整課課長補佐(長期金融班)
経営局金融調整課課長補佐(組合金融企画班)
経営局金融調整課課長補佐(総務班)
現職
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01 Feature Story
INTERVIEW 2
2001年(平成13年)
9月10日、日本で始めて国産牛にBSE(牛
2. BSE問題に関する調査検討委員会の報告書
定した。この決定を受け、
2003年の通常国会で、食品安全基本法
決定を行っている。BSEに代表される食品リスク管理の仕事は、
海綿状脳症)感染牛が確認された。この事件は、その後、日本の
2002年4月、BSE問題に関する調査検討委員会報告書は、農林
の制定、農林水産省設置法の改正が行われ、
2003年7月1日、食品
国民消費者の健康を守るという点で責任とやりがいのある仕事
食品安全行政のあり方に根底から見直しを迫り、農林水産行政
水産省が日本にBSEの侵入を許したのは、農業者の利益を優先
安全委員会が設置されるとともに、農林水産省にはリスク管理を
だ。また、この仕事は、国民の健康保護と国際貿易推進という要
のあり方も問われることとなった。農林水産省は今、変革の途上
し、消費者の健康保護をないがしろにした事が原因であると指摘
担う「消費・安全局」が新設された。そして、消費・安全局は、農産
請をSPS協定というWTOルールに基づき政策判断を行うという
にある・・・。
した。そして、今後の食品安全行政のあるべき姿として、①消費
物の生産過程におけるリスク管理を担うこととなったのである。
国際的な面も持っている。今後、社会の成熟度が増すにしたがい、
この仕事の重要性は一段と増していくだろう。私の入省時には予
者の健康保護を何よりも優先すること②食品安全には絶対安全
1. BSE感染牛の確認
ということは無いことを前提として、科学的なリスクの評価に基
1986年、英国で初めてBSE感染牛が確認された。当初、この病
づいて、リスクを低減する措置(リスク管理措置)を講じること
体制は整った。しかし、この体制を試すように、新たな試練が
気は人には移らない病気だと考えられていた。しかし、
1
9
9
6年、英
③これらの措置を講じるに当たっては、消費者・国民とリスクに
農林水産省を襲った。2003年12月24日、わが国最大の牛肉輸入
国政府は、BSEに罹患した肉を食することで、変異型クロイツフェ
ついての相互理解を進めるため、対話(リスクコミュニケーショ
相手国の米国でBSE感染牛が確認されたのだ。同日付で米国産
ルト・ヤコブ病
(vCJD)
になる疑いがあると発表した。この発表は、
ン)を行うことの3点を指摘した。
牛肉は全面輸入禁止となった。この後、牛丼騒ぎが起こったこと
する可能性があるとされたからである。各国は直ちにBSE拡大防
止のための措置を講じた。しかし、その後、フランス、
ドイツなどで
想もつかなかったことだ。このような変革のただ中に身を投じる
意欲ある人が、農林水産省の門を叩くことを願ってやまない。
は記憶に新しいところだろう。米国とは、その後1年以上にわた
各国を震撼させた。通常の食事から、誰でも致死性の病気に感染
5
4. 新たな試練
3. 新しい食品安全行政とそれを担う組織
この新しい食品安全行政のあり方はリスク分析手法といわれ
り牛肉貿易再開を目指した対話が行われているが、未だ決着を
見ていない。この交渉の対応に当たり、農林水産省は、
2001年9
消費・安全局総務課調査官
月10日以来の一連の改革の真価を問われているのである。
渡邊 毅 昭和62年入省
次々とBSE感染牛が確認され、ヨーロッパ各国は混乱に陥った。
るが、金融分野におけるリスク管理手法を食品安全の分野に応用
日本ではBSE感染牛が確認されず、ヨーロッパのBSE騒動はひと
したもので、きわめて新しい考え方だった。2002年6月、食品安
ごととの受け止め方が支配的だったが、20
0
1年9月1
0日、終に日本
全行政に関する関係閣僚会議は、前述の指摘を踏まえ、食品安全
でも国産牛にBSE感染牛が確認され、社会的に大きな混乱が生じ
行政にリスク分析手法を導入すること、リスク評価機関として内
私は、在ドイツ日本国大使館(在職時にドイツでBSE感染牛確
た。後に、BSE問題に関する調査検討委員会報告書で「重大な失
閣府に食品安全委員会を設置すること、農林水産省は食糧庁を
認)
、大臣官房文書課(消費・安全局新設担当)、現職でBSE対策に
政」
と糾弾され、日本の食品安全行政への信頼は地に落ちた。
廃止し、リスク管理部局を産業振興部局から分離すること等を決
関与している。農林水産省は今、国民の信頼確保を肝に銘じ政策
Profile
5. 今後へ向けて
昭和63年
平成10年
平成13年
平成14年
平成16年
4月
5月
7月
4月
7月
入省(農蚕園芸局総務課配属)
在ドイツ日本国大使館一等書記官
農村振興局地域振興課総括補佐
大臣官房文書課課長補佐
現職
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01 Feature Story
INTERVIEW 3
1. 農地制度改革検討室の創設
当者に質問したところ、
「不在村者のデータは、データ収集の問題
があって把握していません。
」
と愕然とする事実が判明した。耕作
しかしながら、農地という地域資源を、現行の農家だけで守っ
により、一般の株式会社が農地のリースを受けて農業経営を行う
放棄をはじめとして不在村農地所有者の問題については、農水省
ていくのも限界である。このため我々は次のような事務局案を
ことができるようになり、株式会社による農業参入の機会が大き
自体も問題として公言してきたはずである。それなのにその実態
作成した。
く開かれた。
は全く把握されていないのである。
平成14年12月に成立した構造改革特別区域法(通称「特区法」
)
特区制度については、制度創設後1年をめどに全国展開の是非
について調査を行うこととされており、株式会社のリース特区に
ついても全国展開の決断が農水省に求められていた。
折から、平成17年4月に食料・農業・農村基本計画の見直しを行
そのため、私たちは、全国各地において意見交換をするととも
に、
不在村農地所有者の農地の管理の実態について調査を行った。
① 株式会社の参入については、耕作放棄地の解消の為の制
度と位置付ける
込んでいるのが現実の姿なのだ。
「このような濡れ手で粟のような仕組みを温存しておいて、農
業政策に国民の信頼を得ることができない。
」私はそう考えた。
そこで、耕作放棄に関する実態の把握、指導・監督体制の強化
のほか、行政の指導等に従わない所有者については最終的に強
制的に賃借権を設定できる「特定利用権制度」を導入するなど、
② 株式会社には、農地の所有権までは認めない。
今まで農地制度の中で軽視されてきた耕作放棄施策の体系化を
集まったアンケート調査を集計したところ予想された結果が明
③ 市町村等と協定を締結し、市町村が株式会社を監督する。
図ることとしたのである。
らかになった。約3割の不在村農地所有者が現に耕作放棄をして
④ 参入区域については、農業経営基盤強化促進法で定める
平成16年11月以降内閣法制局の審査が始まった。農地関係の
うこととされており、リース特区の全国展開を含む農地制度の見
いる。これは全体の耕作放棄率の約8%と比べ非常に高い。また、
市町村の基本構想において定めることとし、構想を策定す
制度は、体系が複雑であり、審査も他の法案より厳しく、通常5∼
直しがその主要な検討課題の一つとして浮かび上がってきた。
残る者も大半は親戚や知人に農地を預けているが、親戚の農家
る約3,000の市町村で区域設定を行い、可能な限り参入
6回で済む審査が20回近くに及んだ。その後、各省庁との協議、
自体が高齢化しており、彼らが亡くなった後にどう農地を管理す
の機会を与える。
自民党農林部会党の与党審査を経て、法案は平成15年2月18日に
このような背景のもと、平成16年3月に農地制度改革検討室が
創設された。当初のメンバーは、私を含む7名の体制であった。
るかは、ほとんどが考えていない。
このような実態を考えると、早急な対応が必要であるのは明ら
2. 農地制度の検討
検討室において、特区制度だけにとらわれず、農地制度全般の
課題について議論を行ったところ、緊急に対処すべき課題は、不
かであった。
「よそ者がいやだとか言っている場合ではない。新
農業者の高齢化は限界まで進んでおり、ここで相続が発生した
場合、多くは不在村農地所有者、すなわち農業経験がほとんどな
い都市住民に相続されることが見込まれる。このように農地所有
このようにしてできた事務局案を、企画部会の委員に説明し、
基本的な枠組みについて、平成16年10月の企画部会の了承を得
本格参入に向けた大きな一歩を踏み出したのである。
なるぞ。
」
リース特区の全国展開に向けた私達の腹は固まった
4.「農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律案」の作成へ
経営局構造改善課課長補佐(農地制度改革検討室)
リース特区の全国展開案を中心に、
「農業経営基盤強化促進法
3. 食料・農業・農村政策審議会企画部会での議論
食料・農業・農村審議会企画部会における議論はまっぷたつに
分かれた。
等の一部を改正する法律案」は作成された。他の主要な見直し事
項としては耕作放棄対策の強化がある。
そもそも、耕作放棄が発生する理由の一つとして、農地の保有
コストが著しく低いことが上げられる。農地には税金が著しく低
非常識を指摘し、全国展開を議論することすら論外という意見だ
いうえ、耕作放棄をしても処分等が行われることはない。一方農
った。これに対し、農業関係団体は、株式会社が自由に農地を取
地を転用すれば、莫大な利益を得ることができるのである。農地
バブル景気の終焉以降、農地面積の減少は、開発に伴う農地転用
得すると言うことに嫌悪感を示した。バブル期に不動産会社など
は本来厳格な審査を経ないと取得できないが、相続については
ではなく、耕作放棄が主要因となっているのである。
が農地を高値で買いあさった経緯を見ており、安易な全国展開
その権利移動規制の枠外にある。本来想定外の相続によって農
は、バブルの再来になるのではという危惧感をぬぐえなかったの
地を取得した者が、キャピタルゲインの獲得を夢見て農地を抱え
であった。
また、農業の発展には、農地を確保することが不可欠であるが、
このため、より細かいデータ分析を行うため、統計情報部の担
今後の農政の流れを変える可能性がある企業の農業経営への
ることができた。
経済界や学者は、そもそも株式会社だけを例外にすることの
が拡散する中で、農地の利用集積が一層困難になることは明らか
閣議決定された。
規参入を進めていかないと数十年後の農村は耕作放棄ばかりに
在村農地所有者と耕作放棄であろうと一致した。
7
である。
杉中 淳 平成2年入省
Profile
平成 2年
平成 3年
平成 4年
平成 5年
平成 6年
平成 8年
平成 9年
平成11年
平成14年
平成15年
平成16年
4月 入省(農蚕局総務課配属)
4月 農蚕園芸局総務課兼経済局国際部国際企画課
4月 通商産業省貿易農水産課総括係長
9月 林野庁林政部企画課
7月 アメリカ留学(コロンビア大学、シラキュース大学留学)
7月 構造改善局総務課法令係長
4月 厚生省精神保健福祉課企画法令係長
9月 林野庁企画課課長補佐
6月 アメリカ留学(ハーバード大学客員研究員)
7月 農村振興局農村政策課課長補佐
3月 現職
8