稲 わ ら ・ 麦 わ ら の 活 用 で 自 給 率 を 上 げ る

特 集●稲わら・麦わらの活用で自給率を上げる
自稲
給わ
率ら
を・
麦
上わ
げら
るの
活
用
で
粗
飼
料
増
産
に
向
け
て
粗飼料増産に向けた
稲わら・麦わらの活用
独立行政法人
農業・食品産業技術総合研究機構
畜産草地研究所 飼料調製給与チーム
上席研究員 吉田 宣夫さん
はじめに
きました。しかし、昭和55年以降、急速に
が現状です。輸入量減に対応するため、17
輸入量が増加し、
ピーク時の年間輸入量
年産の国内産稲わらの収集のために、
国・県、
は26万トン余もありました。海外伝染病
農業団体により相当な努力が払われ、
必要
稲わら利用の古い話をしてみましょう。
を遮断する観点から現在、口蹄疫発生国
量の確保に向けた取組みが行われています。
稲わらはワラ選りを経て、「スグリワラ」と
である大口の中国産稲わらの輸入が止ま
今後は備蓄も含めて、
恒常的な確保システ
「ハカマ」に分別し、「スグリワラ」は叩いて
っています。輸入飼料に頼ることは常に
ムの確立が必要になるでしょう。
このほか、
「叩きワラ」、
ミゴ抜きして「ミゴ」を取ります。
危険と隣り合わせであると言えます。
麦わら、モミガラの資源量も多く、その年
「スグリワラ」は屋根葺き材、風雨よけ、
間推計量は200万t余りあります。麦わらは
ワラ縄などの細工物、寸莎(すさ)として壁
土用に利用し、「ハカマ」は家畜飼料、肥料、
詰め物として利用しました(図1)。昭和
アンモニア処理、尿素処理によって飼料価
1.稲わら、麦わらの資源量と
活用状況
値を改善し、一部地域では肥育牛用に活
用されています。
また、
モミガラもカントリー
30年代まではこのような幅広い活用が日
平成15年出来秋の稲わら生産量を見
エレベータ、
ライスセンターから排出後に
本のいたるところで見られたのです。
ると、
871.4万t余にのぼっています。
しかし、
膨軟処理を行い、飼料として利用する農家
稲わらは肥育牛用、乳牛用飼料として
飼料用101.1万t(11.6%)、敷料用37.0
もあります。
これらを使った飼養試験例は
も貴重な粗飼料源、敷料源であり、収穫後、
万t(4.2%)の畜産利用に対し、焼却その
多く、適切な給与方法によって稲わらの代
水田で乾燥したのち収集し、活用されて
他が全生産量の76.1%を占めているの
替となることが示されています(図2)。
畜牛の良好な生育に欠かせない飼料として、
また
敷料として、
広く活用できる稲わらと、
適切な処置の
もと、
稲わらにも劣らない飼料価値を発揮する麦わら。
図1 稲わらの多様な利用形態(昭和30年代)
ともに有用な資源でありながら我が国での自給率は
ミゴ抜き
低く、必要量の多くを輸入に依存してるいのが現状
効率的な機械作業の推進等、積極的な取組みが行
われています。
稲わら・麦わら自給率の向上に向け、
その生産、
活用の現場は大きく動き始めています。
スグリワラ
屋根葺き材
●風雨よけ
●寸莎(すさ)
●細工物
●
問題に端を発し、
安全・安心な国産稲わら・麦わらの
こうした状況を受けて、全国各地で耕畜連携、
ミゴ
しおり
●結束
●細工物
稲発酵粗飼料
飼料価値・採食性向上
乳用牛
●
です。
しかし一方では、外国産稲わら由来の口蹄疫
需要は、
今までにない高まりを見せています。
図2 水田粗飼料資源の仕向け家畜と技術課題
稲ワラ ワラ選り
●燃料
●飼料
●肥料
●敷ワラ
(使用後、肥料)
ワラ打ち
※
ハカマ
詰め物
敷物
●燃料
●
●
●
●
飼料
肥料
※
叩きワラ
●細工物
※ 使用後、
・燃料[ワラ灰は肥料へ]
・肥料
( )
稲 わ ら
麦 わ ら
モミガラ
黒毛和種
収
集
シ
ス
テ
ム
の
向
上
飼料価値・採食性向上
乳雄肥育
繁殖雌牛
採食性向上
特 集●稲わら・麦わらの活用で自給率を上げる
2.仕向け先を絞って
新技術の活用を
限する方法です。特に、肥育中期(15∼
レージでは、乳酸含量が少なく、pHが高く、
24ヶ月齢)の給与量を低く抑えることに
糸状菌の増殖が認められましたが、「畜
よって、将来の「霜降り肉」の元となる脂
草1号」を添加したロールベールサイレー
稲わらの飼料利用の多くは、お米の収
肪前駆細胞の分化や脂肪細胞への油滴
ジでは乳酸含量が高く、pH値、酪酸及び
穫後、圃場に排出された状態で乾燥し、
の沈着を増やすことにつながるとされて
アンモニア態窒素含量が低下し、従来の
秋∼冬期間に収集したものを肥育牛に
います。最近、同じイネの中でも利用が広
市販菌剤と比べて有意な差が認められ、
給与しています。長い収集期間の中で、稲
がってきた稲発酵粗飼料でも、
ビタミンA
長期貯蔵してもその品質が良質に保持
わらの水分含量は70%程度から10%台
を下げる研究が多く行われ、収穫適期で
されます。今後TMR(完全混合飼料)の素
に乾燥し、紫外線、風雨の影響を受けて
ある黄熟期β-カロテン含量20∼30㎎
材の1つとしても活用が期待されています。
ワラ中のビタミンA含量(β-カロテン)は
/㎏DMを2∼3日間予乾することで稲わ
これまで生稲わら利用の重要性は理
数10㎎/㎏DM程度から限りなくゼロに
らに近い含量まで下げ、それを給与した
解されていましたが、収集方法の困難さ
近い含量まで下がっていきます(図3)。黒
黒毛和種の増体量や肉質が稲わら給与
とサイレージ適性が低いことから、
ほとん
毛和種肥育では「ビタミンAコントロール
牛と比べて差がないことが分かってきま
ら利用が行われてきましたが、個体乳量
から市販化されています。図5はキヌヒカ
添加を行ったサイレージの発酵品質を示
ど行われてきませんでした。2000年以降
技術」が広く定着しています。
この肥育技
した。しかし、肥育農家には導入素牛の
の増加に伴って、牧乾草と比べて飼料価
リを収穫後、直ちに集草して各種乳酸菌
したものです。乳酸菌「畜草1号」添加に
に機械メーカーの努力によって湿地走行
術 は 、市 場 取 引 価 格 に 影 響 するB M S
高価格などがあって、枝肉販売価格を少
値が低いために敬遠されるようになりま
ナンバー、いわゆる筋肉中への「サシ」の
しでも高めるため、β-カロテン含有量の
した。しかし、乾燥稲わらに比べて、比較
入り方を高めるため、肥育期間を通して
低い稲わらへの強い信頼感があるのも現
的飼料価値の優れた収穫直後の生稲わ
飼料中のビタミンA給与を低レベルに制
実です。
らに目を向ける必要があります。表1は、
図4のように、黒毛和種への生涯給与
コシヒカリの収穫直後の生稲わらに乳酸
量モデルでは稲わらが915㎏必要ですから、
菌「畜草1号」を添加して、
ロールベール
30ヶ月育てるのに約30a分の稲わらが必
サイレージ調製し、家畜を使って消化試
要になります。肉用牛の飼養頭数から試
験を行った結果です。
日本標準飼料成分
算すると、119万t余の給与が必要ですが、
表の乾燥稲わらのTDN含量42.1%/DM
前述の通り国産稲わら利用量の差し引
と比べても5.2%も高くなっています。こ
き分を輸入に頼っているのが現状で、国
の時使用した乳酸菌「畜草1号」は低糖
産資源の一層の利用拡大が求められます。
含量でも良質サイレージに調製できる飼
乳牛向けとして、かつては幅広く稲わ
料イネ、稲わら用乳酸菌です。平成15年
表1 稲わらロールベールサイレージの
消化率と栄養価※
項 目
消化率、
%FM
乾物
有機物
粗タンパク質
粗脂肪
ADF
栄養価、
%DM
TDN
DCP
無添加区
乳酸菌添加区
47.1
54.4
74.6
61.4
46.1
47.6
54.8
75.2
62.4
46.0
46.8
9.5
47.3
9.8
よって、乳酸生成量は新鮮物当たり1.6%、
型の稲わら収集用機械が開発・市販化され、
pH4.0以下の牧草サイレージ並の品質で
これらの収集・調製を耕種農家の皆さん
乳牛の採食性が高いことも特徴の1つです。
が行うことによって、肉用牛のみならず乳
貯蔵8ヶ月後の無処理ロールベールサイ
用牛用粗飼料としての活用が広がること
が期待されます。
おわりに
1)乳酸菌は「畜草1号」を使用した。
FM:原物、
DM:乾物、
TDN:可消化養分総量、
DCP:可消化粗タンパク質
2)徐春城・蔡義民・村井勝・吉田宣夫・山井英喜:
日草誌50別号
※乾物中に粗タンパク質含量が12%となるよう
大豆粕添加
穀物生産に伴って排出される稲わら
などの 繊 維 性 飼 料 資 源 は、年ごとに利
用率が減少してきました。資源循環の視
▲乳酸菌液を噴霧しながら生稲わらを収穫
点からワラ利用をダイナミックに推進し、
畜産サイドの資源である家畜糞堆肥を、
図3 稲わら利用の2つの形態
【乾燥稲わら】
稲刈り
風雨
長い収集期間
梱 包
乾燥化(水分約70%→13%へ)
β-カロテン含量の低下
●専用収集機の登場
肥育牛
●
●
●
●
肥育牛に必須
輸入わらの脱却
【生稲わらサイレージ】
稲刈り
サイレージ調製
●
給与牛
育成牛、乾乳牛
中泌乳牛など
田等を活用して稲発酵粗飼料の生産が
行わ れ、水田地帯で飼料生産の受託組
8
織(コントラクター)が芽生えてきています。
6
有
機
酸
含 1.0
量
(%FM)
配合飼料
5,595㎏
乳用牛
●
6
2.0
4
長期貯蔵
高水分(65∼75%)でサイレージ最適
飼料成分は乾燥稲わらより高い
●稲わらに適した新規乳酸菌の登場
●調製用機械の登場
●TMR素材への期待
●
ていくことが求められています。遊休水
㎏/日
紫外線
できるところから米・麦づくりに活用し
図5 乳酸菌添加稲わらサイレージの発酵品質
図4 和牛肥育における稲わら等の生涯給与量(30ヶ月モデル)
2
0
乾草
525㎏
0
5
5
pH
15
でも、粗飼料自給率を100%にしていく
目標が定められ、稲わら・麦わらの飼料
4
利用を幅広い視点から拡大することが
期待されます。
稲わら
915㎏
10
「新たな食料・農業・農村基本計画」の中
20
25
30 ヶ月
(30ヶ月モデル)
0
無添加
畜草1号
畜草2号
市販菌
3
乳酸 酢酸 酪酸 pH
(吉田・蔡2002)