2.トカマク実験におけるタングステンの輸送および 制御研究の進展

J. Plasma Fusion Res. Vol.87, No.9 (2011)5
77‐590
小特集
核融合プラズマおよびダイバータにおけるタングステン研究の進展と課題
2.トカマク実験におけるタングステンの輸送および
制御研究の進展
朝 倉 伸 幸,仲 野 友 英
日本原子力研究開発機構 核融合研究開発部門
(原稿受付:2
0
1
1年7月1日)
タングステンは ITER のダイバータ対向材として設置され,高温壁の原型炉では第一壁材としても考えられ
ているが,高温の炉心プラズマ実験での経験はまだ豊富とは言えず,そのプラズマ中での制御研究が望まれてい
る.本章では,高温で高閉じ込め性能のトカマク・プラズマ実験(ASDEX-Upgrade,JT-60U,Alcator C-MOD,
TEXTOR)で進められている,タングステン(およびモリブデン)の発生要因,周辺プラズマにおける遮蔽効果,
コアプラズマでの蓄積とその抑制・制御研究,計測と評価方法,さらに実際にタングステン・タイルを設置し理
解が進んだプラズマ材料相互作用研究,について最近の研究成果の概要および課題について紹介する.
Keywords:
High Z impurity, tungsten, accumulation, ITER, tokamak experiment, divertor, RF limiter, spectroscopy, PWI,
sputtering, redeposition
2.
1 概要
とは言えず今後の制御研究が望まれている.
タングステンは,前述のように高温となる核融合炉のプ
本章では,最近のトカマク実験で行われた高 Z 不純物の
ラズマ対向材として最も有力視されている材料であり,
輸送および制御研究の概要を主に解説する.タングステン
ITER の初期運転ではダイバータの一部として,さらに,
のコアプラズマへの輸送や蓄積を制御する際,タングステ
核燃焼プラズマ実験では「フルタングステン・ダイバー
ンの発生位置と発生量の評価,そして周辺プラズマにおけ
タ」への交換が ITER 機構から提案されている.一方,高 Z
る輸送も重要な要因であり,それらの概要についても紹介
材と呼ばれるタングステンあるいはモリブデンをリミター
する.
とするユーリッヒ研究機構(ドイツ)の TEXTOR などで,
また,タングステン材のプラズマ相互作用特性について
高 Z 不純物がコアプラズマに及ぼす悪影響つまり「蓄積
は第3章および文献[1]
(第3章)を,輸送モデルについて
(accumulation)」により,放射損失が増加し中心でのプラ
のは第4章を参照されたい.
ズマ温度の低下や水素燃料の希釈の問題が以前から指摘さ
2.
2 トカマク装置へのタングステン材の設置と
研究の概要
れていた(例えば文献[1‐3]参照).特に,高 Z 不純物イオ
ンの蓄積は,燃料の希釈よりも放射損失の増加に影響し,
燃焼プラズマの運転領域が狭められることになる
[4].一
前節で触れた TEXTOR 実験の以後,2
000年代はガルヒ
般に「蓄積」とは不純物イオン密度が,プラズマ密度分布
ン,マ ッ ク ス プ ラ ン ク 研 究 所(ド イ ツ)の ASDEX-
と比較して,中心部でより強く集中することをいう.ここ
Upgrade(略称 AUG),MIT プラズマ科学核融合センター
では高 Z 不純物密度の評価方法の課題(2.
5節)もあり,
(米国)の Alcator C-MOD(略称 C-MOD)
,日本原子力研究
ITER で考えられているプラズマ中心付近でのタングステ
開発機構の JT‐60U などで,特に高温・高閉じ込め性能プ
ンイオンの電子との密度比(!! !$!!
$")の上限値(5×
ラズマ中での高 Z 不純物の輸送や制御実験が進められてき
10−5 程度)を上まわる時に使用する[5].
た.はじめに,これらのトカマク装置のタングステン対向
近年では,ダイバータを備えたトカマクにおける高閉じ
材の設置場所について簡単に触れる.
込め性能のプラズマ実験でも研究が進められ,対向材の損
AUG("$!1.65 m/## !0.5 m)では,タングステン材の
耗や溶融に伴う主プラズマでの高 Z 不純物の蓄積やその制
ダイバータへの設置は比較的早く(1996年)から開始され
御手法について理解が進んでいる.これは,不純物イオン
た[6].1999年からは図1(a)に示した半閉型ダイバータ形
の発生からコアプラズマでの蓄積に至るまで,以前より精
状でプラズマ熱負荷の低い部分から徐々に炭素タイル(グ
度の高い分光手法などの計測が開発されてきたことにもよ
ラファイトあるいは炭素複合繊維(CFC)
)からタングス
る.しかし,高温の炉心プラズマ実験での経験はまだ豊富
テン被覆炭素タイル(第一壁および内側ダイバータでは厚
2. Progress in Transport and Control Studies of Tungsten in Tokamak Experiments
ASAKURA Nobuyuki and NAKANO Tomohide
authors’ e-mail: [email protected], [email protected]
577
!2011 The Japan Society of Plasma
Science and Nuclear Fusion Research
Journal of Plasma and Fusion Research Vol.87, No.9 September 2011
さ 3−5 μm の物理蒸着層:PVD を,外側ダイバータでは
が,上下のポートから図1(b)に示すような様々な形状の
200 μmの真空プラズマ・スプレーコーティング:VPS)へ
可動リミターを挿入し,タングステンを含めた多種多彩な
の交換が始まり,2
007年からほぼ全対向壁をタングステン
プラズマ・対向材相互作用(損耗,溶融,再堆積など)の
材で覆った実験が開始されている[4,
7].最近でも,過去の
研究が機動的に行われている[8].
実験で堆積した炭素堆積層の除去やダイバータでの高い熱
C-MOD(!#!0.67 m/"" !0.22 m)では,当初よりダイ
負荷に対応できる薄い 10 μm の PVD 被覆を施した炭素複
バータおよび第一壁はモリブデン・タイルで覆われてお
合繊維タイルへの交換が行われた.現在は,ITER のフル
り,モリブデンの高周波アンテナ・リミターから発生した
タングステン・ダイバータ化に向け,タングステン・バル
高 Z 不純物が主に高温プラズマ実験で問題とされていた
ク材を設置したダイバータ部への挿入装置を利用して照射
[9,
10].2005年より 4 mm 厚の板状のタングステン材をト
研究が進められ,さらにタングステン・バルク材への交換
ロイダル方向に重ねたタイルを図2(a)に示す外側ダイ
も計画されている.
バータの一部(トロイダル方向全周)に設置し,タングス
TEXTOR(!#!1.75 m/"!!0.46 m)ではトロイダル方
テン不純物の発生・輸送研究が行われている.
向にリング状の炭素リミター(ALT-II)が設置されている
JT-60U(!#!3.4 m/"" !0.9 m)で は2003年 よ り 厚 さ
図1 (a)
ASDEX-Upgrade(ドイツ,IPP)では,第一壁とダイ
バータをタングステン被覆タイルに徐々に交換.(b)
TEXTOR(ドイツ,ユーリッヒ研究機構)では,多様な構造の可
動リミターを上下より挿入できる.
図2 (a)
Alcator C-MOD(米国,MIT)の内壁はモリブデン・バ
ルクタイル.タングステンタイルを外側ダイバータに設
置.(b)
JT-60U(JAEA)では外側ダイバータに1
2枚のタン
グステン被覆タイルを設置.
578
Special Topic Article
2. Progress in Transport and Control Studies of Tungsten in Tokamak Experiments
N. Asakura and T. Nakano
50 μm のタングステン被覆(VPS)を施したCFCタイルを,
図2(b)に示す外側ダイバータの一部(トロイダル方向に
12枚,1周の 1/21 に相当)に CFC タイルと交換して設置
し,タングステン不純物の発生・輸送および再堆積などの
研究が行われた[11,
12].C-MOD および JT-60U ではダイ
バータの一部にタングステン材を設置しているため,配位
などのプラズマの実験条件やタングステンの発生量が限ら
れるが,運転期間の終了後に分析を行うプラズマ壁相互作
用(PWI)研究には,発生場所が限定されるため実機での形
状やプラズマ分布に関係した多くの情報が提供された.
その他,フラスカティ・プラズマ物理研究(イタリア)
の FTU
[13]実験では,イオンサイクロトロン波(ICRF)入
射中でリミターからのモリブデン発生とプラズマ中の蓄積
が報告されている.また,国内では九州大学の TRIAM-1M
で水冷したモリブデン・リミターを挿入した長時間プラズ
マ放電研究や材料挿入装置によりタングステン材への照射
実験が行われた.
2.
3 タングステンの発生原因と周辺部での輸送
研究
タングステンのコアプラズマへの輸送や蓄積を評価する
際,タングステンの発生位置とその原因,そして周辺プラ
図3
ズマにおける遮蔽効果も重要な要因である.コアプラズマ
における蓄積について述べる前に,タングステンが発生す
る主な原因についてまとめる.以前のトカマク実験では,
TEXTORのNB入射放電における(a)
可動リミターのモリブ
デン表面温度と溶融部付近での原子の放出(Mo I 発光強
度)
.(b)
線平均密度,トロイダルリミターでの水素リサイ
クリング束,全放射損失パワー,Mo XXXI 発光強度[1
4]
.
(1)コアプラズマに近く,熱・粒子負荷が顕著なリミター
からの発生が主な原因であった.一方,近年の高 Z 材ダイ
ms 以内に低下することが多い.しかし,同じ NB 入射放電
バータ実験(図1に示す半閉型ダイバータの AUG および
でもイオン温度の分布と比較して密度分布がピークする場
C-MOD)では,
(2)ICRF 加熱中にアンテナ付近で誘起さ
合には,むしろ蓄積が強まる結果も報告されている.タン
れる電場により水素および不純物イオンが加速,あるいは
グステンのコアプラズマ中での蓄積は,ダイバータあるは
(3)高いエネルギー閉じ込め性能(H モード)の放電では
リミター配位での実験の違いよりも,コアプラズマ内での
ELM(Edge Localized Mode)の発生に伴い高温のプラズ
輸送機構に起因すると思われる.このことは先に述べたレ
マが SOL(Scrape-off Layer)ヘ排出され,磁力線に沿いダ
ビュー[1,
3]でも強調されている.
イバータ板へ,あるいはフィラメントして磁力線を横切り
2.
3.
2 ICRF 加熱で誘起される電場による放出
RF アンテナ保護用のリミターや第一壁へ照射され,損耗
AUG では,トロイダル方向に半周離れた位置にペアの
が増加することが主な要因と報告されている.
ICRF アンテナが隣接し設置され(Ant1 と Ant2 および
2.
3.
1 高熱負荷のリミターからの放出
Ant3 と Ant4)
,それぞれのアンテナの2本のストラップ
高 Z 対向材が閉じ込めプラズマに及ぼす影響の詳しい研
には逆位相 "
!
"#で入射されている[16].図4に入射実験
!
究は,TEXTOR 実験で始められた.図3には NB 加熱中に
の結果を示すが,Ant12(Ant1 と Ant2 の略称)とトロイ
モリブデン・リミター表面(融点 2610℃)が熱負荷 20 MW
ダル方向に120°離れた位置に設置された静電プローブは,
/m2 を受け溶けた実験[14]で,モリブデン発生量(Mo I
入射中は浮遊電位が正に 100 V 程度まで増加する.この静
の発光強度より評価)と中心付近でのイオン発光強度(Mo
電プローブは Ant12 に接地されているため,その入射中に
XXXI)による蓄積の変化を示す.NB 加熱中にリミター表
大きく変化するが,アンテナ表面のプラズマが加熱され一
面の温度が上昇し蒸発が始まり,モリブデン発生量が急に
部の高速の電子が磁力線に沿い損失するためシース電位は
増加するが,コアプラズマでのイオン発光強度はほぼ一定
正に増加すると考えられる.このためイオンは加速されス
を保っている.このことから,発生位置近くでの再堆積が
パッタリング率が増加するが,この分光測定は Ant4 のリ
多いと思われる.
ミター付近であるため,Ant34 入射中でのスパッタリング
一方,開放型ダイバータ時の AUG では外側ダイバータ
率が大きい.この実験でのタングステン密度比は,!" !2
板に設置したタングステン・プレートにレーザーを照射し
×10−5 で蓄積までに至らない.AUG ではコアプラズマ中
蒸発により放出を模擬する「ブローオフ」実験が行われた
のタングステンイオンの 60−90% は,アンテナ・リミター
[3,
15].オーミック加熱放電や ELMy-H モード放電におい
からの放出が原因と報告されている[17].
ても,コアプラズマでのタングステン発光強度は 100−200
ICRF 入射により形成されたシースでは不純物イオンも
579
Journal of Plasma and Fusion Research Vol.87, No.9 September 2011
加速されるため,実効的なスパッタリング率の増加に大き
最大の発生源とされている.ここでは繰り返される実験放
く影響する.炭素(C)
,酸素(O)やボロン(B)
のような軽不
電の間に電子サイクロトロン波(ECRF)入射によりボロ
純物イオンが混入した場合のプラズマ照射によるタングス
ン化処理を行うことができ,トロイダル磁場の強度を変え
テンのスパッタリング率を計算評価した結果を図5に示
ECRF の共鳴層の位置を変化させることにより,局所的な
す.上の実験でのスパッタリング率の増加は軽不純物イオ
ボロン・コーティングが可能である.この際,アンテナ・
ンによる影響であることがわかる.さらに,ガスパフの増
リミター付近から外側バッフル部にわたる範囲をボロン・
加,プラズマとアンテナの間隔の変化,ボロン化による第
コーティングした場合,ICRF 加熱実験中に第一壁に設置
一壁コーティングによる軽不純物の低減効果などの結果を
した静電プローブの浮遊電位が半分程度に低減し,モリブ
比較すると,第一壁コーティングが最もスパッタリング率
デンの放出量や主プラズマでの蓄積量が減少することが観
の低減に寄与することも報告されている.
測されている[18,
19].アンテナ・リミター付近だけでな
C-MOD でも ICRF のアンテナ・リミターが,ダイバータ
く,プラズマが磁力線に沿い直接達する対向壁(外側バッ
や第一壁からのそれと比較して,コアプラズマに蓄積する
フル)までもスパッタリングの増加に影響することも考え
られる.
現在の低温壁のトカマク実験で使用しているボロンやリ
チウムなどの軽元素による第一壁コーティング,さらには
通常のグロー壁洗浄さえも核融合炉では制限されるため,
むしろ高周波アンテナの制御によりシース電位を低減する
検討が行われている.2.
4.
3節で触れる.
2.
3.
3 高温の ELM プラズマ照射による放出
ELM の発生により H モードプラズマのペデスタル領域
の高温プラズマが SOL に排出され,磁力線に沿いダイバー
タ板へ,あるいはフィラメントして磁場を横切り外側(低
磁場側)の第一壁へ照射される(例えば解説[20]参照).ダ
イバータ板からのタングステンの放出量は大きなパルス熱
負荷を受けるため多い.外側ダイバータ板からの Type-I
ELM によるタングステン放出への影響は時間平均したタ
ングステンの放出量#
"$ $に対する ELM により放出された
!"#
&%
)
'
量 の 比 と し て 評 価 さ れ(!$!"# "#
,
"$
!
"$ $
!"$
$
#
!"#
&%
)
'
は ELM 発生時,"$
は ELM 間のタングステンの放
"$
出量),AUG では ELM 間でのプラズマ温度の低下に伴い
43% から 82% へと大きくなる
[21].しかしながら,主プ
ラズマ周辺の第一壁やリミターで発生するタングステンの
方がダイバータ板から発生したそれより1桁小さいにもか
かわらず,コアへ入りやすいことが知られている[21,
22].
例えば,Type-I ELMy-H モード実験でのコアプラズマ中の
図4
AUG での ICRF 入射中(Ant12 と Ant34)における,赤道
面外側壁での浮遊電位とアンテナリミター(Ant4)からの
タングステン放出の変化(ボロン化前の実験)
[1
6]
.
タングステンイオンの約 70% は,高温のフィラメント・プ
ラズマ照射によるアンテナ・リミターからの放出が原因と
報告され問題視されている
[17].
ELM の 発 生 は,一 般 に 不 純 物 の 排 出 に も 寄 与 す る
[22].図6に AUG でのガスパフ量を変化し ELM 周波数
(#
!"#)を制御して,タングステン放出量を比較した実験を
示す[23].周波数が変化してもリミターからの発生量は増
加しないが,ガスパフを少なくし ELM 周波数が低くなる
ほど,コアプラズマへのタングステンイオンの蓄積は増加
する.ELM の周期が長いほど輸送障壁が形成される周辺
部からプラズマ内部までタングステンイオンが輸送される
ことが要因と報告されている.また,AUG では,プラズマ
位置 "(+*を外側のリミターに近づけると発生量と蓄積量が
増加するが,ELM 周波数変化の影響と比較して小さい.
図5
典型的な軽不純物が混入したプラズマによるタングステン
の実効スパッタリング率.上・下の横線は,ボロン・コー
ティング前および・コーティング後にしばらく実験を行っ
た後の測定値に相当[1
7]
.
フィラメントによるプラズマ照射を低減すると共に,ELM
周波数の増加により,周辺プラズマでのタングステン密度
を低減できると考えられる.
580
Special Topic Article
2. Progress in Transport and Control Studies of Tungsten in Tokamak Experiments
N. Asakura and T. Nakano
置における経験が豊富でなくさらに解明が必要である.こ
こでは,近年の実験で理解が進んだ高 Z 不純物の蓄積研究
とその制御手法についてまとめる.
2.
4.
1 タングステン蓄積発生の条件
現在,タングステンイオンの制御に最も多くの経験をもつ
AUG では,タングステン蓄積が発生しないようにするために
は,ECRF によるプラズマ中心部への加熱とガスパフによる
周辺粒子補給がある程度必要と報告されている[2
1,
2
3,
2
6].
図7には,ELMy-H モードプラズマにおける,ECRF 入射
パワー("$#&%)とガスパフ量を変化させた4例を示す.前
者は中心での電子加熱により急峻な温度分布を,後者は周
辺部での密度の増加により平坦な密度分布を促進する効果
があり,共に新古典輸送モデルにより不純物の蓄積を低減
すると考えられる.また,ECRF 入射により異常拡散が増
加し不純物イオンの外側への輸送が誘起されるモデルも提
案されている[27].ここで,ガスパフ量の違いにもかかわ
らず周辺輸送障壁付近の密度分布は図7のように大きな変
化はなく,むしろ周辺部での ELM 特性(周波数の増加によ
り不純物イオンの排出が促進)に作用すると考えられてい
図6
る.ここで,両者のいず れ か が 不 足 す る と(22274では
AUGではELMy-Hモードプラズマ放電でガスパフを変化し
,ELM 周波数(fELM)に
(1.5×1022 から 1−8×1022 D/s へ)
対するタングステンの蓄積 CW を比較.ガスパフ変化前後
でプラズマ位置 Rout をリミターへ過渡的に近づけている
[2
2]
.
"($#&%=0.7 MW,22276ではガスパフが 4×1021 D/s),電
子密度と不純物イオン密度の分布が放電中に急にピーキン
グし,!) も 1×10−4 を越え,放射損失もプラズマ中心で増
加 す る.ガ ス パ フ 量 が 不 十 分 で 最 も 蓄 積 が 強 い 場 合
(22276)では,周辺輸送障壁に達する加熱パワーが不足し,
2.
4 コアプラズマへのタングステン蓄積と制御
研究
L モードに逆遷移し蓄積エネルギーが低下する.図8にそ
の電子密度分布の時間変化と放射損失分布を示すが,%!
高 Z 不純物イオンのコア・プラズマへの蓄積は,主プラ
2.35 s くらいから急に密度分布のピーキングが進行し,プ
ズマでの密度分布がピークする場合に強まる傾向にあるこ
$"!
!
")でタングステンによる放射損失
ラズマ中心部($#
とが報告されていた[1,
3,
14].特に高 Z 不純物イオンは新
が増加する.放射損失分布のピークは密度分布よりもより
古典輸送による内向きの輸送が強まり,中心付近で放射損
局所的に強まることがわかる.これらの実験結果からタン
失が増加すると共に温度が低下し,熱的不安定性(thermal
グステンの蓄積が発生しないようにするには,特にプラズ
instability)が急速に進行すると考えられる
[24,
25].高 Z
マ中心付近での電子温度と密度分布の制御が重要であるこ
不純物イオンの輸送モデルは第4章で解説する.一方,蓄
とが明らかになってきた.
一方,JT‐60U ではプラズマのトロイダル回転(#')がプ
積が発生する条件やその機構の理解は,まだ多くの実験装
図7 (a)
AUG の H モードプラズマ放電における,ECH 入射パワー(P_ECRH)とガスパフ量を変化した4つの例(PNBI = 5 MW,Ip = 1
MA)
.中心電子温度を 1 keV としたときのタングステン密度比(Cw)
と放射損失パワーの時間変化も示す.2
2
2
7
6では t = 2.38 s か
ら,
2
2
2
7
4では t = 2.45 s からタングステン・イオンの蓄積が始まる.(b)
4放電での電子密度の比較.最も蓄積が強い場合(2
2
2
7
6)は
L モードに逆遷移する[2
3]
.
581
Journal of Plasma and Fusion Research Vol.87, No.9 September 2011
図8
タングステンの蓄積が発生した放電(ELMy-H モード放電:2
2
2
7
6)での(左)赤道面における密度分布の時間変化:t∼2.35 s より
密度分布のピーキングが強まり,t =2.48 s から L モードへと遷移.(右)t =2.55 s において再構成された放射損失分布[2
3]
.
ラズマ電流と反対方向の場合に,タングステンの蓄積が再
現良く観測された[11].一連の実験でストライク点の位置
はタングステン・タイル上 に 固 定 す る た め(図2(b)参
照),外側ダイバータ板が主なタングステン源であるが,
その放出とプラズマ中心での蓄積は そ れ ぞ れ 可 視分光
(W I)と真空紫外分光(W XLVI)から評価している.プラ
ズマのトロイダル回転は,主にプラズマ電流方向(Co 方
向)および反対方向(CTR 方向)に入射できる接線 NB
(加速電圧は約 85 kV)で制御され,垂直
(perp.)NB 入射は
プラズマ中心の加熱に有効である.また,高い加速電圧
(∼330 kV,$%%#$!3 MW)で Co 方向に接線入射する負イ
オン NB(NNB)も設置されている.
垂直 NB に加え CTR 方向 NB のみを &!7 s から入射した
放電(#
'!1.6 MA,!& !3.6 T,$
%#$!15 MW,図9)では,
プラズマ中心付近で CTR 方向のトロイダル回転が 170 km/s
まで増加する.その際,タングステン線輻射強度と軟 X
線 輻 射 分 布 の 変 化 で わ か る よ う に,プ ラ ズ マ 中 心
%"!
!
")で タ ン グス テ ン 蓄 積 が 増 加 し,"( !6−7×
($#
10−4 ま で 達 す る(図10)
[28].一 連 の 実 験 に よ り,CTR
方向のトロイダル回転速度が増加(負の径方向電場が増
加)することと相関することが明らかとなり,第4章で述
べるトロイダル回転に伴う高 Z 不 純 物 の ピ ン チ モデル
(PHZ: inward Pinch of High-Z impurity due to the atomic
process)が提案された[29].また,プラズマに電荷価数
の大きく異なる不純物ガス(クリプトン,アルゴン)を入
射し,CTR 方向に大きなトロイダル回転中での蓄積を比較
図9
した結果,高電荷イオンほど蓄積が大きいことも観測さ
れ,このモデルと矛盾しない.
ところで,タングステンの蓄積発生と先に述べた密度分
布のピーキングとの相関であるが,JT‐60U におけるプラ
JT-60U の ELMy-H モード放電で CTR-NB 入射により,タン
グステンイオンの蓄積が発生した例.(a)
電子密度と NBI
入射パワー.(b)
トロイダル回転速度,(c)
コアでのタング
ステン輻射(W XLVI)と発生強度(W I),(d)
軟 X 線強度分
布,(e)
電子密度と電子温度[1
1]
.
ズマ回転と密度分布のピーキングとの間にも相関があるこ
0.2%V)から発生したタングステンイオンがコアプラズマ
とは別の実験(ストライク点は通常の炭素タイル上に位
中に蓄積する.一方,AUG(トロイダル回転は Co 方向)で
置)から指摘されている
[30].プラズマの CTR 回転が大
蓄積の有無が見 ら れ る 際 の 密 度 分 布 の 差 と 比 較 し て,
きな場合,密度分布はある程度ピーキングし,リップルロ
JT-60U でのプラズマ回転の変化に伴う密度分布の差は小
スにより第一壁材のフェライト・タイル(8%Cr,2%W,
さく,タングステンの蓄積はむしろCTR方向の大きなトロ
582
Special Topic Article
2. Progress in Transport and Control Studies of Tungsten in Tokamak Experiments
N. Asakura and T. Nakano
周波数の増加に作用すると考えられている.このことは,
ELM の発生を早め一回あたりの排出エネルギーを制御す
る目的の「ペースメイキング用ペレット」
(次節参照)の方
が,ガスパフよりも制御性が高いことが示唆されるが,残
念ながら AUG では通常の実験では準備しないということ
である.コアプラズマでの密度分布や不純物イオンの蓄積
の制御に対する周辺プラズマおよび ELM などの過渡現象
が果たす役割の理解が望まれる.
また,少量のガスパフ時やプラズマ回転がCTR方向に速
い場合には,高Z不純物イオンの蓄積が発生しやすいため,
抑制のためにはより大きな ECRF 入射パワーを必要とする
と思われる.RF による加熱・電流駆動が異常輸送および
MHD(鋸状振動)に与える影響とプラズマ粒子や高 Z 不純
物の排出への効果を理解することが重要である.それと共
に,現在,数少ないトカマク装置の実験で観測された制御
手法をより多くの装置やプラズマ条件で確認することが,
図1
0 プラズマ中心でのトロイダル回転速度と(a)
タングステン
蓄積,(b)
q = 1 内の放射損失パワー.中心への ECRFおよび
N-NB 入射時の結果も示す.○は分光計測(W XLVI)から
評価した値[2
8]
.
2.
4.
3 ダイバータおよび第一壁での高 Z 不純物の制御
イダル回転による影響が強いと考えられる.
ELM により SOL へ排出されたフィラメント状のプラズマ
高温の核融合炉での信頼できる制御手法とするために重要
である.
ICRF 加熱中の SOL で加速される不純物イオン,および
さらに,JT‐60U では CTR 方向の大きなトロイダル回転
照射などにより,特定の位置の対向材から高 Z 不純物の発
の場合でも,AUG と同様に ECRF および NNB 入射による
生が増加する一方,そこでの損耗も加速する.高 Z 不純物
中心加熱を行うことにより,タングステンの蓄積をある程
の場合は損耗した位置の近傍に再堆積しやすいが,2.
6.
1
度(!# !1−2×10−4)まで低減できることが図10に示され
節で解説するように長距離の輸送も多いことが明らかと
ている.また,中心加熱は鋸状(sawteeth)振動の周波数
なってきた.放電時間の比較的短い現在のプラズマ実験で
を増加する効果もあり,タングステン蓄積を緩和すること
は,ボロンなどの壁処理により損耗の原因となる低 Z 不純
も観測されている.
物の発生を抑制する対処・処置的方法が有効であるが,核
2.
4.
2 コアプラズマにおける高 Z 不純物の制御
融合炉ではもともとの要因を減らし,長時間運転にわたり
前述の研究結果からコアプラズマにおけるタングステン
抑制することが必要である.
の蓄積の抑制には,プラズマ中心付近での電子温度と密度
AUG では,2.
3.
1節で説明した隣接するトロイダルポー
分布の制御が重要であることがわかる.さらにCTR方向の
トに設置された2ストラップ "
"
%#のアンテナ間の位相を
!
トロイダル回転が能動的に必要な場合には,
より強い制御
270°シフトした場合,最終的に !# が 20% 程度低下したこ
が必要と思われる.特に,RF(ECRF)による中心加熱と
とから[32],4ストラップ "
"
%"
%"
!
!#を持つアンテナをシ
ガスパフによる蓄積の抑制は複数の装置で再現されてい
ミュレーションにより設計した.この設置によりアンテナ
る.ここで,異常輸送を誘起する ECRF 入射は,図11に示
すようにどの装置においてもプラズ マ 中 心 の 狭 い領域
"#!
!
")を加熱する必要があり[7],アルファ粒子によ
(#$
る電子加熱が顕著となる ITER やさらに高密度の原型炉で
有効かどうかを評価することは重要である.また,TEXTOR では 1.7 MW の NB 加熱中にモリブデンイオンが中心
部へ蓄積した放電に ICRF を入射すると,中心加熱により
蓄積を抑制できる結果が報告された[31].その際,鋸状振
動の変化も示唆されている.AUG でも ICRF 入射時に同様
な現象が観測されるが,アンテナ・リミターからのタング
ステン放出が増加するため,蓄積の抑制には主に ECRF
が使用されている.今後,中心部への加熱方法の違いによ
る高 Z 不純物の輸送に及ぼす効果,および蓄積制御機構の
図1
1 AUG における中心付近への ECRF 入射:(a)
トロイダル磁
場および入射ミラーの角度を変え,中心と &= 0.2 a 付近に
入射.(b)
放射損失パワー密度分布:中心入射(t = 4 s)で
はタングステンが蓄積しないが,中心から僅かに外れると
(t = 6 s)蓄積が発生する.
[7]
本質的な解明が望まれる.
ELM の発生よる周辺プラズマからの不純物イオンの排
出効果は大きいとされ,ELMy-H モード・プラズマへのガ
スパフは,密度勾配を低減すると言うより Type-I ELM
583
Journal of Plasma and Fusion Research Vol.87, No.9 September 2011
用リミター付近の電位を低減することが期待される
[16].
れる.
H モ ー ド の 周 辺 輸 送 障 壁 で 発 生 す る Type-I ELM は,
2.
5 高温プラズマにおけるタングステン計測の
進展と課題
ITER ではその排出エネルギー(!&'()を現状のデータ
ベースから予想されるものの約 1/20(プラズマ照射試験に
よる限度は 0.5 MJ/m2 のため,ダイバータ板への熱負荷と
プラズマ中でのタングステンイオンの密度,価数分布,
2
して 0.1 MJ/m 程度)まで低減することが望まれ,主に以
放射パワーなどは,おもに分光学的な手法により決定され
下の2つの方法が提案され設計が進められている.
る[28,
40‐42].スペクトル線の強度からこれらの物理量を
(1)ペレットによる ELM 周波数の制御(Pellet Pacing):
決定する場合には,解析過程で多くの原子データが用いら
ペレット入射を繰り返しELMを発生させ,ELM周波数
れるため,これらの物理量が決定可能であるかはまず第一
3]
("
&'()を増加し,ELM 毎の !&'( を抑制する手法[3
に原子データの有無に依存する.さらに決定可能な場合,
(2)共鳴磁場摂動の印加による制御(RMP 印加):
それらの精度は計測によって発生するスペクトル線強度の
外部磁場コイルを用いて共鳴磁場摂動(Resonant Mag-
不確かさに加えて,原子データの精度に依存する.高電離
netic Perturbation)を印加することで,ペデスタル領
タングステンイオンの原子データに対するニーズは核融合
域にエルゴディック層を形成しプラズマ拡散を増大さ
研究開発以外にはほとんどなかったため,プラズマ分光診
せ,プラズマ圧力勾配を抑制して,ELM が発生する臨
断に必要なタングステンイオンの原子データの整備は遅れ
界値に到達しないようにする手法[34],
ていた.しかし,近年ではタングステンの原子データに対
他にも,プラズマ垂直位置を繰り返し急速に移動させる
する核融合開発でのニーズが牽引役となって,原子物理学
手法[35]や,変調 ECRF をペデスタル部に入射することで
分野の研究者を動かし,データの整備が急速に進められて
ELM 周波数を制御[36]し,!&'( を抑制する試みが行われ
きた.それでもまだ,高電離タングステンイオンの電離・
ている.これらの手法により,コアプラズマへの遮蔽効果
再結合速度係数などの実験データは少数の例外に限られ,
が高くないリミターや第一壁へ照射されるフィラメントの
多くの場合に理論計算によって整備されたものが実験など
エネルギーや伝搬速度も低減される こ と が 期 待 される
による精度の評価を経ないままデータ解析に利用されてい
[37,
38].一方,これらの制御手法が高温で衝突周波数の低
るのが現状である.したがって,使用する原子データの
いプラズマ領域で実現可能か,それぞれの運転シナリオ
セットにより,同じスペクトル線の強度からであっても導
(例 え ば,パ ル ス 運 転 の ITER で は $%##!,原 型 炉 で は
出されたタングステンイオン密度が異なる,などの問題が
$%##"!$)でも有効か,について検討および実証するこ
生じうる.ここでは,タングステンイオン密度などの分光
とが重要である.
学的な測定法とデータ解析に必要となる原子データについ
て概説する.
ITER や原型炉では,積極的にネオン,アルゴンあるい
2.
5.
1 プラズマ中心部でのタングステンイオン密度測定
はクリプトンなどの不純物ガス入射を行い放射損失を増加
し,ダイバータ板への定常的な熱負荷を低減しなければな
図12に示すように,プラズマの中心部を真空紫外分光器
らない.その際,損耗については2.
3.
2節で述べたように低
で観測し,そこでのタングステンイオン密度を決定する場
Z 不純物イオンによるスパッタリング閾値は低下し,実効
合を例として取り上げる.$価のタングステンイオンの準
スパッタリング率は増加する恐れがある.最近の AUG の
位 #か ら #'へ の 遷 移 に よ る ス ペ ク ト ル 線 の 発 光 強 度
報告(窒素とネオンパフ)では,周辺プラズマやダイバー
(ここでは視線上のある局所的な位置での
#& #'%
!
)$"$
タ・プラズマの低温化とともに ELM 熱負荷も緩和し,低
単位体積あたりの発光強度)は,
電離の不純物イオンによるタングステン・タイルの実効ス
パッタリング率は減少する
[39].AUG では多くの場合,
窒素ガスを入射するため,スパッタリング率よりもタング
ステンと窒素の共堆積(WN)による表面特性の変化の分
析が課題となっている.他のトカマクでも高放射損失の実
験でスパッタリング率が高まる結果は聞かれないが,今後
も高温の ELM プラズマ放出に伴うスパッタリング率の結
果は注目される.
ところで,大きな損耗あるいは溶融はタイルのエッジ部
で発生する.ブロック型タングステン・タイルではタイル
エッジへの熱集中は2−3倍となるため,タイルエッジの
形状や製作・設置精度の影響は大きい.ITER での設置時
の精度は±0.25 mm(5.
3.
2節参照)とされるが,炭素材と
異なり設置後の調整は難しいことから,エッジを隠すため
の段差(0.2−0.4 mm)の調整や設置前のテーパー形状など
図1
2 JT-60U でのタングステンコーティングタイル(W-tile)の
設置場所,真空紫外分光器(VUV spectrometer)および可
視分光器(Visible spectrometer)の視線.
の工学設計と調整手法の改善は重要と思われる.また,磁
力線に沿ったプラズマの照射試験や実験経験も必要と思わ
584
Special Topic Article
2. Progress in Transport and Control Studies of Tungsten in Tokamak Experiments
ンイオン密度を決定することは現実的でない.そこで,上
(& ('%
(& ('%
'#)!$
((
$
"!$
%ph m−3 s−1)
#)!$
(1)
の例のような孤立したスペクトル線の強度からその価数
(ここでは )価とする)のタングステンイオン密度を決定
'
'
N. Asakura and T. Nakano
と表される.ここで,!$
(& (%は準位 (から ( への自
し,それを電離平衡での総タングステンイオン密度に対す
然放射係数,および '#)!$
(%は )価のタングステンイオン
'# で除するこ
る )価のタングステンイオン密度の比 '#)!!
の励起準位 (にある密度である.コロナ平衡が適用可能な
とによって総タングステンイオン密度 '# を導出する場合
場合には,すなわち単位時間あたりの基底準位からの電子
が多い.
電離平衡では,)価と )!!価のタングステンイオン密度
衝突による励起数と励起準位からの自然放射による脱励起
の比は
数が釣り合う場合(核融合プラズマでは,高密度のダイ
バータプラズマ中の軽元素原子・イオンなど例外的な場合
'#$)!!%!!
'#)! "$)!& $)!!%!!
#$)!!%!& )!
を除くと多くの場合に成立する)には,基底準位のタング
と表される.ここで $)!& $)!!%! は )価から )!!価への
ステンイオン密度 '#)! と電子密度 '$により,
#$)!!%!& )! は )!!価から )価へ
の再結合速度係数である.すべての価数 )に対してこの密
電離速度係数,および
#)!$
(& &%
'#)!$
%& (%
'#)!'$""&!$
((
%m−3s−1)
(2)
が成立する.ただし,#)!$
%& (%は
(4)
度比を計算するには,すべての価数に対して電離・再結合
基底準位 %から励
速度係数が必要となるが,実際には総タングステンイオン
起準位 (への励起速度係数であり,電子温度の関数であ
密度に対して占める割合の高い価数およびそれに近い価数
る.(1)式と(2)式の比は
のタングステンイオン密度比が計算できれば十分である.
(& ('%
%& (%
'#)!'$
$
""#)!$
#)!$
実験などによって精度が評価された電離・再結合速度係数
(3)
はごく少数であるため,実際の解析に用いられているのは
'
と表される.ただし,""!$
(& &%とした
!
"&!$
(& (%
FAC[43],Hullac
[44]などの原子コードによって計算さ
(" は励起準位 (からの自然放射の分岐比である).励起速
れたものである.図14には一例として FAC による計算結
度係数 #)!$
%& (%および自然放射係数 !$
(& ('%などの
果を示す.
原子データが利用可能であり,さらにこのスペクトル線が
原子コードによって計算された各種の速度係数の重要性
放射される場所,たとえばプラズマ中心部での電子温度お
が増すなか,種々の原子コードによる計算結果を比較し
よび密度が測定されていれば,(3)式より q 価のタングス
データの精度を向上させようという試みがある.非局所熱
テンイオン密度を決定することができる.例として W45+
平衡コード比較(NLTE)ワークショップと呼ばれる会合
2
2
45+
の密度を
[45]では,10の原子コードで同一条件のもとに特定の物理
決定する場合,(3)式中で "#!であり,図13に示す C 45+
量,たとえば,ある電子密度で電子温度に対するタングス
(4s S1/2-4p P3/2:6.2 nm)の発光強度から W
(4s & "%)への励起速度係数が利用可能である.
テンイオンの電離平衡時の平均価数や価数分布,放射パ
一方,タングステンイオンの総密度 '#("")'#)!)を決
ワーを計算し,比較することが試みられている.その結果
定するには,すべての価数のタングステンイオンの密度が
によると,電子温度2−3 keVではタングステンイオンの価
必要である.電離平衡下では,電子温度を 10 keV 以下とす
数は40価以下となり 4p や 4d 軌道に多くの電子をもつ複雑
るとタングステンイオンの価数はおよそ60価以下であり束
な電子配置となるため,これらの電子配置間の原子データ
縛電子数が多いため,多くの場合に複数のスペクトル線が
を精度良く計算することが困難になり,原子コード間で計
重なって観測され,前述の W45+スペクトル線のように一
算結果の差が大きくなる.また,電子温度∼6 keV ではタ
組の遷移に対応するスペクトル線が孤立するのは例外的で
ングステンイオンの価数は5
0価前後となり 3d 軌道に多く
ある.したがって,測定によりすべての価数のタングステ
の電子をもつ電子配置となるため同様な理由により計算結
図1
3 原子コードFACで計算されたW45+の基底準位4s 2S1/2 から
8]
.
励起準位 4p 2P3/2 への電子衝突による励起速度係数[2
図1
4 原子コード FAC で計算された電離・再結合速度係数より計
算した電離平衡でのタングステンイオンの価数分布[2
8]
.
585
Journal of Plasma and Fusion Research Vol.87, No.9 September 2011
果に差がみられる.一方,この中間の電子温度 4−5 keV
と表される.ただし,視線方向の発光長を #(とした.(5)
では W44+や W45+の密度が相対的に高く,これらのイオン
式と(6)式の比は,(6)式の左辺を #
*& *'%と表記す
%!$
では,Ni 様イオンの電子配置()"$が閉殻構造となる)を
ると
もつ W46+に 4s 電子がそれぞれ2個および1個だけ加わっ
$%!
*& *'%
'& *%
#
!"!$
"$!& !!
%!$
た単純な電子配置であるため,原子コードで精度の高い計
(7)
と表される.右辺の $!& ! および "!$
'& *%をそれぞれ
算が可能になる.FACコードで計算された電離・再結合速
に対する電離平衡下での
$および &と表記すると,右辺は$!
&!と書き直される.こ
密度比は,JT‐60U のプラズマ中心部(4−5 keV)で測定さ
の $!
&! データ(ここでは,電離速度係数 $の電子密度へ
れたそれをよく再現した[28].一方,ADPACK
[4
6]に収
の依存性を無視すると,電子温度の関数である)が利用可
44+
度係数より計算した W
45+
のW
45+
能であれば,
(7)式に従い,$!
&! 値に測定された発光強
に対する密度比は,AUG で測定されたそれを再現せず,論
度#
*& *'%を乗じることによってタングステンの損耗
%!$
文中の表現を借用すると文字どおり“手動で”再結合速度
粒子束を決定することができる.
録された電離・再結合速度係数より計算した W
44+
のW
係数を半分にするなどの方法で計算値を修正し,実験値を
さて,(7)式の右辺のタングステン原子の電離速度係数
再現するなどの手法が採られている[41].核融合プラズマ
$は,理論計算によって系統的に整備され,モデリングに
実験装置以外で高 Z 元素の多価イオンを生成できる装置は
よる $!
[48]も試みられているが,
&! に対するアプローチ
EBIT(電子ビーム・イオントラップ)装置などに限られる
実験では $!
&! 自体を測定することが試みられている.こ
ため,そこでの基礎実験によるデータの生産および精度の
の手法は,W(CO)6 や WF6 などタングステンを含むガスを
評価に期待したい.
既知の流量でプラズマに入射し,この気体に含まれるすべ
2.
5.
2 周辺プラズマでのタングステン分光測定
てのタングステン原子がプラズマ中で W+へと電離すると
SOL やペデスタルの外側など,電子温度が 1 keV 以下の領
いう仮定の基に,そこからの中性タングステンのスペクト
域では30価以下のタングステンイオンが主要であり,4f 軌道
ル線強度に対する入射ガス流量の比を導出し,(7)式の左
に多くの電子をもつ電子配置となるため,非常に多くのス
0
7
辺を直接的に決定するものである
[49].W(6s
S3-6p
ペクトル線が特定の波長帯に集中する.そのため,連続光
7
P4:400.9 nm)に対して,50−100 の値が報告されている
のようなスペクトルが観測され,これは Quasi Continuum
[49,
50].このスペクトル線のほかに W0 のスペクトル線は
や Unresolved Transition Array
(UTA)
と呼ばれ,LHD で
可視域に 429.4 nm,505.3 nm,488.6 nm,および 498.2 nm
は電子温度∼1 keV のプラズマで観測されている
[47].原
などがあるが,前者2本のスペクトル線は低分解能の分光
子コードによる計算によって測定スペクトルの再現が進行
器による測定ではそれぞれ CH/CDおよびW0のほかのスペ
中である.この解析により連続スペクトルの強度からタン
クトル線と重なること,後者2本のスペクトル線は上準位
グステンイオン密度が決定できれば,周辺プラズマでのタ
からのカスケードの効果により
(6)式が成り立たない場合
ングステンイオンの輸送研究へと展開が期待される.
があることが指摘されている
[48].これら理由から W0
2.
5.
3 タングステンの発生量(粒子束)の測定
(400.9 nm)のスペクトル線が損耗粒子束の測定に適する.
タングステンは,ダイバータ板などのタングステン製・
ダイバータ板から放出されたタングステン原子はプラズ
プラズマ対向材から主にプラズマ中の不純物イオンによる
+価と電離が進行する一方
マ中で電離する.1価,2価,,,
スパッタリングによってプラズマ中へ放出される.ここで
で,電離される前にプラズマ流との摩擦力を受けダイバー
は放出されるタングステン原子の粒子束を図12に示す可視
タ板へ押し戻されるなどの影響により,価数が高くなるほ
分光による測定で決定する場合を例として取り上げる.放
ど電離粒子束は減少すると予想される.すなわち,+価のタ
出されたすべてのタングステン原子がプラズマ中で電離す
ングステンイオンの 電 離 粒 子 束 を $%+!& %$+!"%!とすると
%
$%!& %! "$%!& %#! "$%#!& %$! ", , , #$%+!& %$+!"%!
%!& %!
る,すなわち,損耗粒子束 $ が電離粒子束 $
と等
しいと仮定すると,
(m−2s−1)
$% "$%!& %! "$!& !)%!)&#(
という関係が予測される.この例で取り上げたタングステ
ン原子以外に も,特に低電離のタングステンイオンの
(5)
$!
&! データ[51]が系統的に整備されれば,タングステン
が成り立つ.ここで,#(はプラズマ中で %!から %! への
の発生から周辺プラズマへの混入といった輸送研究への貢
電 離 が 生 じ て い る 領 域 の 長 さ で あ り,下 の
(6)式 で
献が期待できる.
!
'
*& *%のスペクトル線が放射されるプラズマの長さ
% $
2.
6 トカマク実験におけるタングステンのプラ
ズマ・壁相互作用研究
と等しいとする.またプラズマ中では,タングステン原子
は電子との衝突により励起され,スペクトル線が放射され
る.このとき,コロナ平衡が成立すると仮定すると,タン
ITER のダイバータ・プラズマ環境では,高い表面温度
グステン原子からのスペクトル線の発光強度は(3)
式と同
が長時間(約400秒)にわたって続くと同時に,多量のイオ
様に,
ン束(およびその積算量であるフルーエンス)が照射され
る.例 え ば,ストライク 点 付 近 の 定 常 的 な 熱 負 荷 が
(ph m−2s−1)
%
*& *'%
#("!"!$
'& *%
)%!)&#(
%!$
10 MW/m2,タイル表面での温度は内側ダイバータで 500
(6)
℃,外側ダイバータで 800−1000℃ 程度(ただし,運転時
586
Special Topic Article
2. Progress in Transport and Control Studies of Tungsten in Tokamak Experiments
N. Asakura and T. Nakano
の容器のベース温度は 100℃),イオンエネルギーは 1−30
ル方向の分布も観測され(図16参照)
,内側ダイバータお
eV 程度で,粒子束のフルーエンス(1放電400秒間の水素
よびドームの外側ウイングへのタングステンの再堆積はタ
25
26
2
同位体イオン束の積算)は 5×10 −5×10 D+T/m と予
ングステン・タイル列の近傍(トロイダル角で 60°以内)
想される[52].その環境下における ITER で使用される対
であることがわかる.
向材(炭素,タングステン,ベリリウム)の特性を明らか
別の実験ではタングステン・タイルと同じトロイダル位
にするPWI研究が,近年国際トカマク物理活動(ITPA)の
置の外側ダイバータに設置したノズルから炭素同位体のメ
主要な課題となり,主に欧州(ロシアも含む),米国,日本
タンガス(13CH4)を入射する実験が行われ,炭素の再堆積
(原子力機構,大阪大学,名古屋大学,九州大学,NIFS
分布が比較された.この場合も内側ストライク点付近や
ドームの外側タイルに炭素同位体(13C)の再堆積層が観測
など)で進展している(第3章を参照)
.
一方,現在のトカマク実験では,ITER でのダイバータ
されたが,トロイダル方向へは 90°離れた位置まで観測さ
環境と比較して高温となる時間は短く,1放電での粒子束
れ,タングステンとは異なり再堆積と損耗(炭素の場合は
フルーエンスも2桁程度低い.また,第一壁やダイバータ
物理および化学スパッタリング)を繰り返し輸送されたこ
板から発生する不純物も異なり,コーティングや放電間の
とがわかる.
壁クリーニングなどの履歴による影響も強く受ける.この
トカマクのダイバータでのタングステンの輸送は,基礎
ような複雑な環境を踏まえながら,実験装置に特有なプラ
実験装置でのプラズマ相互作用よりも多様な作用が働き,
ズマ輸送に伴うタングステン材の特性(損耗,溶融,再堆
低 Z 不純物ほど長距離ではないが,予想以上に離れた場所
積状況や水素同位体の蓄積)を明らかにする事は重要であ
まで輸送されることが明らかとなった.しかし,発生源に
る.本節では,特にトカマク装置での実験で進展したタン
比較的近いトロイダル付近に局在することから,コアプラ
グステン PWI 研究として,
(1)ダイバータにおける損耗と
ズマ内から排出されたと考えるよりも,ELM やディスラ
再堆積分布と,
(2)タングステン対向材への水素同位体の
プションなどの大きなプラズマ熱・粒子束により発生した
蓄積ついて解説する.
タングステン原子が照射された,あるいは定常的に発生し
2.
6.
1 ダイバータにおける損耗と再堆積特性
ダイバータ板から発生した不純物イオンは,磁力線に沿
い高温方向(上流方向)へ熱運動効果(thermal force)を
受けると同時に,ダイバータ方向へプラズマ流による摩擦
力により輸送は支配される.さらに,磁場と電場(あるい
は温度勾配)を横切るドリフトの影響をも受け,再堆積に
至るまでの輸送は複雑となるため実験を経験したタイルの
解析は貴重である.タングステンは,プラズマによる損耗
の閾値は高いが,軽不純物イオンでは比較的低エネルギー
領域(<30 eV)でも損耗することは2.
3.
2節にも触れた.
しかし,一 般 に 高 Z 不 純 物 の イ オ ン 化 距 離 は 短 く(数
mm),低電離イオンのラーマー半径は大きいため発生場
所の近くに容易に再堆積すると考えられていた[53].
JT-60U では,一般に損耗が顕著に観測される外側ダイ
バータの一部にタングステン被覆タイル(図2(a)参照)を
設置し,1年間,実験運転にさらした後,そこから発生し
たタングステンの再堆積分布をポロイダルおよびトロイダ
ル方向 に わ た り 分 析 し た
[12].こ の 期 間 中 に 合 計1
003
図1
5 (a)
JT‐
6
0UダイバータでのP8位置のタイル表面における,
内側ストライク点の時間平均した滞在位置,(b)
タングス
テン堆積量のポロイダル分布.横軸はタイルに沿った位置
[1
2]
.
ショットの実験放電が行われ,多くの場合,外側のストラ
イク点はタングステン被覆タイルよりも低い位置に設置し
た CFC タイル上に,また,内側のストライク点は図15(a)
の !!30−70 mm に位置した.タングステン被覆タイル上
にストライク点を当てた専用実験は2
5ショットであった.
分析結果では,主にタングステン被覆タイルのエッジ部分
から損耗が観測され,多くは近傍(タングステン・タイル
から CFC タイルにかけて)に再堆積した.一方,図15
(b)
に示すように 10−20 cm 離れたドームの外側タイル(ウイ
ング)や,さらに 30−40 cm も離れた内側ダイバータ板で
も再堆積が観測された.ここで,内側ダイバータ板でのタ
ングステン堆積層の位置は,外側のタングステン・タイル
図1
6 内側ダイバータおよびドーム外側ウイングにおけるタング
ステンの堆積量(トロイダル方向の分布)
[1
2]
.
からはほぼドームに隠された視野となる.一方,トロイダ
587
Journal of Plasma and Fusion Research Vol.87, No.9 September 2011
たタングステンがプライベート部でイオン化し磁場を横切
ターを炭素からタングステンにした後,内側ダイバータ板
るドリフト運動により輸送された可 能 性 が 考 え られる
の表面や離れた場所では大きく炭素堆積層が減少(1/4−
(4.
2.
5節参照).また,内側ストライク点付近やドームの
1/6 へ)したことから,第一壁の中でもリミターからの損
外側タイルに堆積した総推定量は,分光測定から評価した
耗が内側ダイバータで成長する炭素堆積層の大きな原因で
タングステンの損耗粒子束の積算量の 23% 程度と多く,今
あったことが明らかになった.一方,重水素の蓄積量はダ
後,考えられる輸送機構をシミュレーションすることによ
り定量的に解明されることが期待される.
イバータ板では炭素堆積層ほど大きな減少がな かった
(1/2 程度).その後,外側ダイバータ板をタングステンへ
2.
6.
2 タングステンと炭素とが混在する環境での水素同
変更した際(2007年)に,それまで堆積したボロンや炭素
位体蓄積
堆積層の清掃を行うとともに,ボロンによる壁コーティン
核融合反応に使われるトリチウムは真空容器内への入射
グを1年間行わなかったため重水素の蓄積が 1/8 程度まで
量の一部であり,ダイバータや第一壁での蓄積量を低減す
低減した.このことから AUG ではボロン・コーティング
ることは,安全基準以下での運転やトリチウムの増殖(ブ
による共堆積層が重水素蓄積の主な要因であったと考えら
ランケット)システム設計にとって大きな影響を及ぼす.
れるが,炭素の共堆積層もまだ存在し,むしろその影響が
タングステンの水素同位体の蓄積は,DIII-D では試料導入
現れているとも考えられる.
装置にタングステンやモリブデンを取り付け比較実験[54]
一方,図17を見ると,外側ダイバータではタングステ
を行い,TEXTOR では可動テストリミターに炭素とタン
ン・タイルへの交換後も重水素の蓄積量は同程度である.
グステンを取り付け[55],ITER 実験当初のダイバータ材
残存する炭素による隠れた場所への再堆積も考えられる
である CFC材と比較して,低トリチウム保持特性である結
が,多くは 200 μm の VPS タングステン被膜表面へ照射さ
果が得られていた.
れ,高温のため,被膜層内へ拡散および格子欠陥や粒界へ
2.
2節で紹介したように AUG で対向材を炭素タイルから
のトラップにより蓄積された考えられている.また,VPS
タングステン蒸着炭素タイルへ計画 的 に 交 換 が 進めら
タングステン被膜タイルの水素吸蔵試験では,多結晶タン
れ,2007年にほぼ全部が交換された.その過程において,
グステン・バルク材と比較して,4−6倍程度大きい実験
水素同位体蓄積の原因である炭素,タングステンおよび壁
結果もある[57].
コーティングのため使用しているボロンの影響が明らかに
JT‐60U でも実験で使用された厚さ 50 μm の VPS タング
された.一般のダイバータ・トカマク実験では炭素などの
ステン被膜中の重水素分布の分析が行われ,放電中に照射
軽不純物イオンは,SOL におけるプラズマ流の影響により
され拡散した炭素の深さ分布と相関が強いことが示されて
内側ダイバータへ輸送され[56],ダイバータ板の表面およ
いる[58].図18に示すように,実験放電中の表面温度は高
びその近傍の排気溝やタイル間のギャップなどプラズマ照
温(ベース温度 150℃ から運転時最高 600−1000℃)になる
射から「離れた場所(remote area)
」
(あるいは「隠れた場
ため,表面に照射された炭素が深くまで拡散し,同時に炭
所:shadow area」とも呼ばれる)で堆積する.図17に示す
素原子にトラップされる重水素もほぼ一定の組成比(D/C
ように2004‐2006年の実験期間後の分析により,外側リミ
=0.06−0.08)で観測された.この値は内側ダイバータ・タ
図1
7 (左)
AUG 内側ダイバータおよび第一壁タイル表面における(タイル表面分析による)炭素,ボロン堆積層の密度.
(右)
内側ダイバー
タ,外側ダイバータ,内側ダイバータ下の排気溝部のタイルにおける重水素蓄積量の評価結果(トロイダル対称性と一様な組成比:
D/(C+B) = 0.4 を仮定)
[23,57].
588
Special Topic Article
2. Progress in Transport and Control Studies of Tungsten in Tokamak Experiments
N. Asakura and T. Nakano
布の制御が重要であることが明らかになってきた.蓄積の
抑制手法として,RF による中心加熱,ガスパフによる密度
分布の平坦化(あるいは,それによる ELM 周波数の増加),
また MHD イベント(鋸状振動および ELM)を利用する制
御があり,EC 加熱とガスパフは複数の実験で確認されて
いる.
しかし,高温の炉心プラズマ実験での蓄積の経験と制御
はまだ豊富とは言えない.今後の研究課題としては,大き
な熱流と粒子負荷での実験環境でタングステン蓄積過程の
本質的な理解とそれに対応した制御方法の開発が必要であ
図1
8 JT-60U の VPS タングステン被膜(50 μm)中の炭素および
重水素分布とその組成比の深さ分布.炭素,重水素の分布
は SIMS により,タングステン被覆中の炭素比は XPS を使
用して測定[5
8]
.
る.具体的には,
(1)高温で高密度のコアプラスマで,EC 加熱とガスパフ
以外にも信頼できる制御手法を見いだすこと,
(2)タングステンイオンの蓄積機構と同時に異常輸送など
イルの表面の炭素共堆積層の D/C に近い値を示す(1/2−
による排出機構を理解し,タングステン制御をモデル
1/4 に相当する).これらの結果から,炭素が存在する(あ
化することが期待される.
るいは使用した履歴を持つ)条件下の核融合炉でタングス
(3)さらに高い閉じ込め性能のプラズマ運転シナリオを考
テン材を使用する場合,遠隔操作や酸素ベーキングなどに
える際には,プラズマの定常制御と同時に内部輸送障
より再堆積層を除去する必要が生ずると思われる.今後も
壁内での高 Z 不純物の蓄積制御の経験を得なければな
より多くの装置や異なる実験条件を経験したタイルで水素
同位体の蓄積過程を理解することが重要であると同時に,
らない.
(4)IC 加熱中や ELM プラズマが照射される特定の場所か
実際にダイバータで使用するタングステン・バルク材でも
らの発生を長時間の運転にわたり低減する手法も重要
評価することが必要である.
である.
近年,トカマク実験を経験したタングステン・タイルの
(5)ITER 等の核融合炉の高温プラズマでは,さらに高電
分析により,モノポール・アークが特定の位置で発生し第
離となるタングステンイオンの信頼できる評価をおこ
一壁で損耗が増加する可能性があることが指摘され注目さ
なうために,実験装置や分光較正用施設を利用して,
れている[59,
60].また,ダイバータ模擬装置で広く観測さ
分光ラインと強度の評価データを準備することも必要
れているタングステン表面への水素同位体やヘリウムイオ
である.
ンの蓄積に伴う脆化の進行,さらにはタングステン・タイ
(6)現状のトカマク実験ではディスラプションの緩和や回
ル表面が溶融した際の挙動などの研究(第3章参照)など
避手法はいまだ不十分であり,プラズマ崩壊で放出さ
も実際にトカマク実験での挙動と理解が期待される.
れるプラズマや放射損失によるパルス熱負荷の集中を
低減するとともに,逃走電子の発生を抑制する必要が
2.
7 まとめとタングステン不純物を制御するた
めの課題
ある.現在もタングステン壁での実験報告は少なく本
章でまとめていないが,現状のタングステン対向材ト
第一壁およびダイバータ板すべてをタングステン・タイ
カマクにおける経験とパルス熱負荷の低減手法の開発
ルにした AUG を中心に,JT‐60U,C-MOD および TEX-
は,核融合炉でタングステン材を使用する前に不可欠
TOR で行われた高閉じ込め性能のコアプラズマへのタン
な研究である.本章特集では,第3章でパルス熱負荷
グステンイオンの蓄積や制御研究に関する進展を概説し
に対するタングステン材の挙動について材料照射によ
た.コアプラズマへの主な不純物源としては,ダイバータ
る研究の進展が解説される.
よりも遮蔽効果の低い主プラズマ周辺のリミターや第一壁
EU では,ITER における DT 実験の模擬として,JET
から,高温の ELM プラズマあるいは ICRF 入射時の軽不純
のダイバータと第一壁材(タングステン,炭素,ベリリウ
物イオンの照射によりタングステンの損耗が増加すること
ム)をより ITER に近づけた ITER-like wall(ILW)と呼ば
が問題視されている.定常運転が行われる核融合炉では,
れる実験キャンペーンが本年より開始されようとしている
壁のコーティングによる対策よりも ELM の低減やアンテ
[61].高温の閉じ込めプラズマにおけるタングステンの制
ナ付近のシース電場の低減が必要となる.
御研究や,AUG では実現できない熱・粒子負荷による総
一方,高 Z イオンのコアプラズマへの蓄積は,必ずしも
合的な運転経験を得ることが期待される.金属対向材やそ
発生量とは比例せず,密度分布のピーキングと共に増加す
のプラズマ相互作用まで含めた総合的な研究は,長期にわ
る傾向が多くの装置で観測されている.また,JT‐60U で
たる積極的な計画が必要である.日本でもこれに相当する
はダイバータ板から発生したタングステンイオンでも,プ
炉心プラズマを持つ JT‐60SA,多彩な計測装置を有し本格
ラズマ内部の負電場あるいは CTR 回転が強い場合に蓄積
的なダイバータ設置を開始した LHD,PWI や材料研究で
が報告されている.タングステンの蓄積を抑制あるいは低
は多くの知識と経験も有する研究機関が協力し,核融合炉
減するには,特にプラズマ中心付近での電子温度と密度分
を考えた研究計画のもとに経験を積むことが重要である.
589
Journal of Plasma and Fusion Research Vol.87, No.9 September 2011
謝
[3
1]R. Koch, et al., Fusion Eng. Des. 26, 103 (1995).
[3
2]Vl.V. Bobkov et al., J. Nucl. Mater. 390-391, 900 (2009).
[3
3]L.R. Baylor et al., Nucl. Fusion 49, 085013 (2009).
[3
4]T.E. Evans et al., Nucl. Fusion 48, 024002 (2008).
[3
5]P.T. Lang et al., Plasma Phys. Control. Fusion 46, L31
(2004).
[3
6]L.D. Horton et al., Plasma Phys. Control. Fusion 46, B511
(2004).
[3
7]A. Herrmann et al., J. Nucl. Mater. 337-339, 697 (2005).
[3
8]A. Kirk et al., J. Phys.: Conference Series 123, 012011
(2008).
[3
9]A. Kallenbach et al., J. Nucl. Mater. in press (2011).
[4
0]K. Asmussen, K.B. Fournier et al., Nucl. Fusion 38, 967
(1998).
[4
1]T. Putterich, R. Neu et al., Plasma Phys. Control. Fusion
50, 085016 (2008).
2]J. Yanagibayashi, T. Nakano, A. Iwamae et al., J. Phys.
[4
B: Atomic Molecul. Opt. Phys. 43, 144013 (2010).
[4
3]M.F. Gu, Astrophys. J. 582, 1241 (2003).
[4
4]Bar-Shalom et al., in: D.R. Schultz, et al., (Ed.), Atomic Processes in Plasmas: 13th APS Topical Conf. (American Institute of Physics, 2002) p. 92.
[4
5]Yu. Ralchenko, Jr. J. Abdallah et al., ATOMIC PROCESSES IN PLASMAS: Proceedings of the 16th International
Conference on Atomic Processes in Plasmas 1161, 242 (2009).
[4
6]D.E. Post, J. Nucl. Mater. 220-222, 143 (1995).
[4
7]C.S. Harte, C. Suzuki, T. Kato et al., J. Phys. B: Atomic
Molecul. Opt. Phys. 43, 205004 (2010).
[4
8]I. Beigman, A. Pospieszczyk et al., Plasma Phys. Control.
Fusion 49, 1833 (2007).
[4
9]S. Brezinsek, J.W. Coenen et al., 13th International Workshop on Plasma-Facing Materials and Components for Fusion
Applications (PFMC-13), Rosenheim, Germany (2011).
[5
0]J. Steinbrink, U. Wenzel et al., Proc. 24th European physics Society Conference on Plasma Physics 21A, 1809
(1997).
[5
1]A. Pospieszczyk, D. Borodin et al., J. Phys. B: Atomic
Molecul. Opt. Phys. 43, 144017 (2010).
[5
2]G. Federici et al., Nucl. Fusion 41, 1967 (2001).
[5
3]Y. Ueda et al., J. Nucl. Mater. 220-222, 240 (1995).
4]W.R. Wampler et al., J. Nucl. Mater. 233-237, 791 (1996).
[5
[5
5]Y. Ueda et al., J. Nucl. Mater. 390-391, 44 (2009).
[5
6]N. Asakura, Plasma Fusion Res. 4, 021-1 (2009).
[5
7]M. Mayer et al., J. Nucl. Mater. 390-391, 538 (2009).
[5
8]M. Fukumoto et al., J. Nucl. Mater. in press (2011).
[5
9]A. Herrmann et al., J. Nucl. Mater. 390-391, 747 (2009).
[6
0]V. Rohde et al., J. Nucl. Mater. in press (2011).
[6
1]S. Brezinsek et al., J. Nucl. Mater. in press (2011).
辞
本章を執筆するにあたり,ASDEX-Upgrade の実験結果
について議論していただいた A. Kallenbach 博士に感謝い
たします.著者(仲野)は日本原子力研究開発機構の久保
博孝博士,核融合科学研究所の鈴木千尋博士,および村上
泉博士よりコメントをいただきましたことを感謝いたします.
参考文献
[1]田辺哲郎,野田信明 他:プラズマ・核融合学会誌 72,
983 (1996).
[2]田辺哲郎:プラズマ・核融合学会誌 77, 97 (2001).
[3]N. Noda et al., J. Nucl. Mater. 241-243, 227 (1997).
[4]R. Neu et al., Fusion Eng. Des. 65, 367 (2003).
[5]A. Kallenbach et al., Plasma Phys. Control. Fusion 47, B
207 (2005).
[6]R. Neu , K. Asmussen, S. Deschka et al., J. Nucl. Mater.
241-243, 678 (1997).
[7]A.C.C. Sips and O. Gruber, ASDEX Upgrade Team,
Plasma Phys. Control. Fusion 50, 124028 (2008).
[8]U. Samm, Fusion Sci. Technol. 47, 73 (2005).
[9]G.M. McCracken et al., Phys. Plasmas 4, 1681 (1997).
[1
0]B. Lipschultz et al., Nucl. Fusion 41, 485 (2001).
[1
1]T. Nakano et al., Nucl. Fusion 49, 115024 (2009).
[1
2]Y. Ueda et al., Nucl. Fusion 49, 065027 (2009).
[1
3]M.J. May et al., Plasma Phys. Control. Fusion 41, 45 (1999).
[1
4]V. Philipps, T. Tanabe, Y. Ueda et al., Nucl. Fusion 34, 1417
(1994).
[1
5]D. Naujoks et al., Nucl. Fusion 36, 671 (1996).
[1
6]Vl.V. Bobkov et al., Nucl. Fusion 50, 035004 (2010).
[1
7]R. Dax et al., J. Nucl. Mater. 363-365, 112 (2007).
[1
8]B. Lipschultz et al., J. Nucl. Mater. 363-365, 1110 (2007).
[1
9]S.J. Wukitch, et al., J. Nucl. Mater. 390-391, 951 (2009).
[2
0]朝倉伸幸,大野哲靖:プラズマ・核融合学会誌 82, 582
(2006).
[2
1]R. Dux et al., J. Nucl. Mater. 390-391, 858 (2009).
[2
2]M. R. Wide et al., Phys. Rev. Lett. 94, 225001 (2005)
[2
3]A. Kallenbach et al., Nucl. Fusion 49, 045007 (2009).
[2
4]M.Z. Tokar et al., Plasma Phys. Control. Fusion, 37, A241
(1995).
[2
5]M.Z. Tokar et al., Nucl. Fusion 37, 1691 (1997).
[2
6]R. Neu et al., Plasma Phys. Control. Fusion, 44, 811 (2002).
[2
7]C Angioni et al., Plasma Phys. Control. Fusion 49, 2027
(2007).
[2
8]T. Nakano and the JT-60 team, J. Nucl. Mater. in press
(2011).
[2
9]K. Hoshino et al., Contrib. Plasma Phys. 50, 386 (2010).
[3
0]H. Takenaga et al., J. Nucl. Mater 390-391, 869 (2009).
590